2:モノクロ
「あらん? 目、覚めたみたいね」
扉を開けて入ってきたのは、妙に鼻にかかった声で喋る女性だった。
黒いシャツに黒いタイトスカートと黒いタイツ、さらに黒い白衣。
いや、黒い白衣とか何言ってんだお前と思われるかもしれないが、それ以外適当な言葉が思いつかない。
それはお前の語彙力がないからだろうと言われればそれまでなのだが、ここは諦めて欲しい。
とりあえず、形状は白衣なのだけれど、それが真っ黒に染め上げられていた。
強いて言うなら、黒衣。黒衣という言葉があるのか分からないし、あったとしても目の前のそれを指すのかも定かじゃない。
これが記憶がないことによる語彙不足ならいいのだけど、残念ながら言葉や知識などは喪われてないっぽいのでこれは記憶があるないに関わらず、自身の能力によるものなんだろう。
さて、黒衣の事だけで長くなってしまったけれど、話を戻そう。
彼女は全身に黒い服を纏っていて、なんなら長く下ろされている髪も真っ黒だ。
つや消しでも塗ってあるのか、と思いたくなるほどに黒い。
光を反射せずに吞み込んでしまっているかのように、深い黒だ。
その黒とは対照的に、肌は透き通るように白かった。
服装や髪が黒いからこそ、余計に白く感じた。
陶磁器のようだ、と綺麗な肌を褒める言葉があるが、まさにそれだ。
なんなら、陶磁器だ、と言い切ってしまっていいレベルである。
陶磁器の白い肌に、漆黒の髪、黒一色の服装、そしてその中で異様に目立つのが、真っ赤な唇。
生気のまるで足りてない全身の様相の中、生々しいまでに浮き上がる赤。
白と黒のコーディネートはこの赤い唇を強調させる為なんじゃないかと思わせる程だ。
それまでに主張の激しい赤く艶やかな唇だった。
いい加減外見描写も長くなってきた。
なお、この間時間が停止しているという事はなく、彼女が何か話しているのを完全に無視しているのだ。
話を聞くことなく、外見描写に思考を割いているのだ。
なので、彼女の機嫌は現在進行形で悪くなっている。
それはそうだ。話をしているのに無視をされて機嫌を損ねない女性はいまい。
そしてそれは置いておくとしても、自分自身を知る為にも話は聞かなくてはなるまい。
そう思って、彼女へと向きなおった。