22:裸の付き合い
「御主人様!」
急な大声に驚いて声のしたほうを見てみると、アリシアが不機嫌な顔つきで入り口に立っていた。
「アリシア? どうしたのさ、そんな大声出して」
「いえ、何でもありません!」
いや、絶対なんかあるだろ。見るからに怒ってるじゃないか。
というか、異様に早い帰りだけど、もうお茶淹れ終わったのかな?
「そんなことより、タオルをお持ちしましたので、お体をお拭き下さい」
「あ……」
そういえば、さっきリリスに水を掛けられたんだった。
すっかり忘れてたな。
視線を落とすと、水を含んだ服のせいで、ベッドのシーツまで濡れていた。
「それでは失礼します」
アリシアは言うや否や、その濡れた服に手を掛けて、一気に脱がしてきた。
あまりの早業に反応が遅れ、上着をそっくり持っていかれてしまう。
「って、何するのさ!」
「? 濡れた服を脱がせて、お体をお拭きしようと思っているのですが」
何か間違ったことをしたでしょうか? と利きたそうな顔で見てくる。
「いや、タオルさえ貰えれば身体くらい自分で拭くから!」
「そんなわけには参りません。御主人様は私の仕事を取るつもりですか。御主人様に尽くせないメイドがどれほど無様かご存知ですか!」
何故か強気に迫ってくるアリシアだけど、女の子に服を脱がされるとかかなり恥ずかしいので勘弁して欲しい。
「でも、下まで濡れてるからさすがに自分で拭くって。だからむしろ手伝いって言うより、部屋から出てってくれたほうが助かるんだけど」
必死に自分でするアピールをしても、アリシアどころか、リリスまで動く気配がない。
そこでリリスから衝撃の一言が放たれた。
「あらぁ、別に気にしなくていいのよぉ。貴方の裸なんて、今まで散々見たのだから」
瞬間、世界が凍りついた。
いや、もちろん実際に凍ったわけではなく。脳が情報の処理を仕切れずオーバーヒートしただけなのだけど。
数秒遅れて思考を取り戻す。
え、今なんていった?
貴方の裸を散々見た。って言った?
え、それはつまりどういうことだ?
もちろんリリスに裸を見せた記憶はない。と言うか、起きてからそんな経ってないんだから、ずっと裸を晒していても散々見たなんて表現にはならない。
そもそもそんな事実もない。そんな倒錯した性癖を自覚してない。
じゃあ、どういうことか。
もしかして記憶を失う前にそういう関係だったとか?
裸を見ることが普通みたいな。
それはつまりは単純に言ってしまえば、恋人とかっだのか? あるいは夫婦。
え、マジで?
記憶を失う以前はあの両胸にたわわに実った神の御物を空き放題に出来る権利を有していたと言うのだろうか?
くそっ、なんで記憶を失ってしまっているんだ、この駄脳は!
他はいいからそこだけでも記憶を復活させてくれないだろうか?
その為なら、今なら悪魔にでも魂を売るのに!
いや、まぁ待て、冷静に考えろ。
夫婦や恋人だったら、まず1番にそれを言うだろ。
『私は貴方の恋人(妻)です』って。
それがなかったという事は、もしかしてそういう関係じゃない?
じゃあ、何で?
そういえばさっきからアリシアが何も言ってこないな。
さっきまでならリリスのそういう言動に噛み付いたりもしそうなんだけど。
はっ! もしかして!
恋人とかじゃなくて、ただれた肉体関係があったとか!?
リリスとアリシアを弄んでたみたいな。
だから2人とも裸は見慣れてるし、アリシアはリリスを嫌っているとか。
もしそうだったら、めちゃくちゃ最低じゃないか、それ。
うわー、もしかして記憶を失う以前はクズ野郎だったのか?
記憶を取り戻すのが急に怖くなってきたぞ。
「あの、さっきから面白いくらいに顔色を白黒させて何か考えてらっしゃるみたいですけれど、裸を見たって言うのは、単純に寝たきりの御主人様の身体を拭いたりしてただけですよ?」
すっかり思考の深みに入っていたところを、アリシアが冷静な一言で引っ張りあげてくれた。




