21:閑話休題
「それで、何の話してたんだっけぇ? あぁ、貴方の治療計画だったわねぇ」
話が右往左往したせいで、大事な主題を忘れるところだった。
記憶喪失を治すことを忘れるとか冗談にしても笑えない。
「そうだ……そうです、それを聞かせてください」
つい敬語を忘れてしまっていた。というか、さっきまで普通に忘れてたような? ツッコミとかのノリのせいで気が回らなかったのか。
いまは話が落ち着いたから訂正できたけど。
「あぁん、別にそのままでいいわよぉ? 私もあんまり敬語とか得意じゃないしぃ」
それは助かる、けどいま喘ぎ声みたいなの出さなかった?
さっきからアリシアといいリリスといい、こっちをやたら誘惑するのはやめてくれないだろうか。興奮するじゃないか!
じゃない、落ち着け。
「うん、分かった。じゃあ、そうさせてもらうよ」
昂ぶりを抑えつつ、平静を装う。
なんで起きて早々こんな気を使っているんだろう? 混乱したのはこの気苦労が影響してるといっても許されるんじゃないだろうか?
え、誰にって? さぁ、誰だろう? 神様?
「立ち話もなんだしぃ、座りなさいな」
ベッドを指差し、座るよう促してくる。
そういえばさっきから3人で立って話してたな。やや滑稽な絵になってたかも。
ここで座って文字通り腰を落ち着けるのもいいんだけど、一つ気がかりがある。
「でも、リリスとアリシアは?」
そう、この部屋には椅子がない。ベッドしかない。
3人でベッドに腰掛けてもいいが、それはそれでかなりシュールな絵面になるだろう。
「大丈夫よぉ」
リリスは本当になんでもないように言うと、そこにあった椅子に座った。
「え?」
そこに椅子なんてあったっけ? 最初、そしてさっき部屋を見回したとき、椅子なんてなかったはずだ。見落としたのか? いや、でもこんな何もない部屋で見落とすだろうか?
「あ、リリスちゃんはお茶でも淹れてきてくれなぁい?」
リリスはもの凄く嫌そうな顔をした後、複雑な顔に切替り、
「御主人様のお茶なら喜んで淹れさせていただきます」
そういって部屋を出て行った。
「あの子もやっかいな性格してるわよねぇ」
リリスの溜め息交じりの発言に、お前が言うな、と全力でツッコミたかったけど、アリシアがやっかいな性格をしていることの同意の気持ちが強く、思わず頷いてしまった。
「でも、悪い子じゃない」
さらに続いて反射的にその台詞が口から出た。
「……多分」
なんか照れくさかったから、誤魔化すように言葉を足してしまった。
「そうね、それは知っているわ」
リリスはそれに反応することなく、ただ頷いていた。
仲が悪そうだったから、それには少し驚いたけれど。
「なぁに? 私があの子を肯定するのが意外?」
「少し」
「まぁねぇ、私達の会話を聞いてたらそう思うわよねぇ。あの子、間違いなく私のこと嫌いでしょうしぃ」
でも、とリリスは一呼吸いれると、
「私はあの子は嫌いじゃないのよねぇ。むしろ好きだわぁ」
嘘でもなんでもなく、優しい目を部屋の外に向けながら呟いた。
「それ、本人に言わないの?」
「んー、言っても嫌がられるだけでしょうからねぇ。それに、あの子の気持ちも分からないでもないもの」
「それは、なんで嫌われてるか知ってるってこと?」
「そうねぇ、直接問いただしたわけじゃないけどぉ、思い当たることはあるわねぇ」
「じゃあ、改善とか出来ないの?」
「出来れば苦労しないんだけどねぇ、残念ながらいまのままじゃ無理ねぇ」
リリスはそう言うと同時に、何故か非難めいた目を向けてきた。
「な、なにさ?」
その目に対して聞いてみたけど、
「ふふ、なんでもないわよぉ。誰かさんには分からないでしょうからねぇ」
笑ってそう答えただけだった。




