20:ヤブ医者疑惑
「どうしたの?」
高鳴る胸を誤魔化すように問い尋ねると、
「なんでもありません。ただ、少し可笑しかっただけです」
その柔らかい笑みのままそう答えた。
なにかくすぐったい空気が流れているようで、居心地の悪さと良さを同時に感じていた。
「私の事忘れてなぁい?」
しかし、リリスがわざとらしく2人の間に入ってきたことによって、その空気は霧散してしまった。
「わ、忘れてないですよ?」
なんだか照れくさくて、とっさに否定の言葉で返すが、隣ではアリシアが隠すつもりのない程の音で舌打ちをしていた。
「ええ、忘れてました済みません。というか、まだいらしたんですか? もう出て行っていただいて結構ですよ?」
なんなら喧嘩を売っている。舌打ちってレベルじゃ済まなかった。
「言うわねぇ小娘」
微妙に刺々しい雰囲気を醸すリリス。そのナリで小娘とか言うの似合いすぎるので止めて欲しい。
「そうですね、お年寄りからしたら私はまだまだ小娘ですね。ご年配の方は労わらないといけませんよね」
しかしアリシアは負けじと毒を返す。というか、アリシアが一方的に毒を吐いてる気もするけど。
「はぁ、もういいわぁ。いま貴女と言い争いをする気はないしぃ。それより貴方の事よ」
アリシアはそういうとリリスに向いていた身体をこちらへ向けた。
「不安にさせてしまったのは私のミスよ、ゴメンなさいねぇ。それでなんだけどぉ、せっかくだから貴方の治療計画でも話しておこうかと思うのよぉ。そうすれば少しは不安も軽くなるでしょお?」
確かに先の予定が分かるのはありがたい。過去も未来も真っ暗なのよりは、半透明くらいでも未来が見えるほうがどう考えても気が楽だ。
「最初、貴方が目覚めたときはねぇ、存外平気そうだったからついねぇ」
目覚めたときにハッキリと混乱していればリリスも対応してくれたのだろうけど、あいにくその時は混乱すら許されないほどに、何も分かっていなかっただけだ。
それが、落ち着いているのだと判断されてしまったのだろう。
「とんだ藪医者ですね」
この罵倒はもちろんアリシアだ。
「そうねぇ、医者は本業じゃないからねぇ。ただ知識があるってだけだもの」
いま聞き捨てならない言葉が聞こえたような?
え、医者じゃないの? じゃあ何それ、その格好コスプレとかなの?
「医者って言ってなかったっけ?」
確認する為に聞いてみると、リリスはやっちゃった☆みたいな顔をして、すぐに表情を取り繕い、
「えーとぉ、本当は医者よぉ? 今のはちょっとした冗談よぉ」
と、可愛くもない可愛こぶった仕草でごまかした。
「いやいやいや、さすがにそれで誤魔化されないからね! え、本当に医者じゃないの!? やばい! 不安ぶり返してきた!」
根本を揺るがす真実の暴露に再び慌てふためく。
「もぉ、アリシアちゃんが余計なこと言うからぁ」
「他人のせいにしないでください。貴女が自分で口を滑らしたんでしょう? もう忘れたんですか? ボケるには早いですよ? いえ、遅いって言った方がいいですか?」
相変わらずアリシアの毒は絶好調だ。
「はぁ、いいわ。ちょっと聞きなさいな」
アリシアにまともな意見を聞くのを諦めたリリスがは大きく溜め息をつくと、姿勢をただして目を合わせてきた。
「確かに私は医者が本業じゃないんだけどねぇ、医者が出来るくらいは知識もあるし資格もあるのよぉ。だから、別に医者っていうのが嘘ってわけじゃあないのよぉ」
「え、そうなの?」
医者の資格はある。その言葉に落ち着きを取り戻す。
「それに関しては本当よぉ。なんなら医師免許見てみるぅ?」
ふーむ、そこまで言うなら本当のことなんだろう。
「いや、そこまではいいよ。本当っぽいし」
「そ? 信用してもらえてよかったわぁ」
ここで初めてリリスは本当に感情を感じさせる笑みを浮かべたのだった。




