18:薄氷の上
「そ、その人たちはいまもこの病院の中にいるの?」
「はい、増えはしましたが、減ってはいません。用事で外出される方はいらっしゃいますが、基本的にここを拠点にしていらっしゃいます」
「その人たちには会えるの? 会えるなら会わせてくれないか!?」
焦っていた。
平気なフリをしていたけど、さすがに不安は強かった。
記憶がないんだから、当然じゃないかと思う。
自分が誰で、ここは何処で、何故いるのか。
何一つ分からない。
自分がない。
自分がいない。
立つ場所も定かじゃない。
目を覚まして、そして保護されているみたいだから、ここにこうしているけれど、それが果たして正しいことなのかも分からない。
もしかして、こうしていること自体マズイことなんじゃないか。
リリスを、アリシアを無条件に信用してしまっていいのか。
そんなことすら頭を過ぎる。
それならば、過去を知る人たちがいるということも信用できる言葉なのか、ということもある。
しかし、目の前にぶら下げられた糸を理性で無視してしまうほどには。いまの自分の足元は確りしていなかった。
支離滅裂な思考ではあるけれど、それが冷静に判断できる精神状態ではなかった。
そもそも、そんな落ち着いた心理状態なら、支離滅裂な思考などしないんだから。
ともかく、その糸に、情報に、アリシアに縋りつくように問い尋ねた。
いや、その時の様子からして問い質したの方が合っているかもしれないけれど。
「御主人様、落ち着いて下さい」
そんな混乱を知ってか知らないでか、アリシアはいつの間にかベッドから立ち上がり、視線を合わせて目を見つめ合わせていた。
「いや、落ち着いてる、落ち着いているさ! だから、早く、会わせて――」
明らかに落ち着いてなかった。どうみても混乱の只中だ。もちろん、その時自分では気付いていなかった。
「御主人様!」
それを一喝するように、アリシアは強く強く呼びかけてきた。
あまり大きな声とは思えなかったけど、その声は鼓膜を震わせ、脳まで直接響き渡るような強さを持っていた。
「え?」
そして、まるで冷水でもかけられたかのように、頭の中が冷めていく。
心なしか肌寒い気もするし、髪の毛から服から水が滴ってる気も……
「って、これ本当に水かけられてる!」
混乱から立ち直ると、何故かびしょびしょでした。




