17:みんな
とは言っても、教えてくれないだろうことは予想していたから、そんなにショックを受けたわけじゃなかった。
ふーんやっぱり、くらいのものだ。
リリスは全然教えてくれそうになかったし、アリシアにしてもさっきから記憶のことについてはあまり教えてくれない。
これで楽観的な予測を立てろと言うほうが無理な話だ。
この病院内の事情を知らない人なら口止めとかされてない可能性はあるけれど、そもそも無関係な人は教えてくれる名前すら知らないだろうし。
こうなると、やはりリリスの言うとおり自分で名前を考えるか、あるいはカルテかなにかを盗み見ることか、その辺りが名前を得るために有効な方法だろう。
一応、自分で考えてみつつ、機会があればカルテのことも気にしてみよう。
あと、念のためアリシアから何か情報を引き出せないか、少し話してみるか。
「そっか、教えてはくれないか」
残念そうな表情を作ってみる。
するとそれが割と効果的だったのか、アリシアはひるんだ様子を見せた。
「す、済みません、そのように決まっていますので」
顔を合わせないようにか、アリシアは横を向いてから答えた。
「決まっている、か。さっきもそう言ってたよね?」
廊下で過去のことについて聞いたときも、答えられない理由についてそう言っていたはずだ。
知らない、話さない、じゃなくて話せない。
「はい、そうですね」
「なら、その決まりを作ったのは誰なのかは教えてくれるのかな?」
「え、誰かですか?」
質問が予想外だったのか、アリシアは少し驚いた表情を見せた。
「うん、決まっているんなら、決めた人がいるんでしょ? それは誰なのかなーって」
教えてもらえるとは思ってない、ヒントが得られれば御の字だ。
「それは――」
「それは?」
「みんな、です」
「え?」
今度はこちらが予想外の言葉に驚く。
「みんなで決めました。誰と言うでもなく、みんなで」
みんな。
皆。
見んな。違う。
みんな、ということは多人数で決めたのか。
1人や2人ではみんなとは言わないだろう。
3……4人は微妙か? 5人以上?
「みんなって言うのは?」
「御主人様が入院された時、この病院にいた人たちです」
「それは、どういった人たちなの?」
「御主人様が記憶を失う以前に、御主人様に関わった方々です」
過去を知るであろう人々。
それは――目の前に垂らされた蜘蛛の糸のように、細いながらも確かな希望に見えた。




