12:殴ってもらえた上にツンデレて貰える
などと僕が熱弁を振るっていると狐々乃月が下を向きながらプルプル震えていた。
どうしたのかな? と思って言葉を切って近づいてみると、急に狐々乃月が顔を上げた。
「~~っ」
その顔は茹で上がったタコのように真っ赤で、目には薄っすらと涙が浮かんでいた。
「えっと、狐々乃月?」
不穏な空気を感じ取って恐る恐る声をかけてみる。
「っの、アホーーー!」
狐々乃月の拳が振り上げられ、その真っ赤に燃えた右手が僕の顔面に突き刺さった。
「ばくねつっ」
僕の身体はまるで風に飛ばされる布切れのように軽々ときりもみしながら宙を飛び、そして――落ちた。
幸いというか、僕はいまや立派な人外なので、これくらいじゃ死なない、それどころかその特質上軽い怪我くらいなら数秒で全快する。
この顔面火傷と鼻の骨折とムチ打ちを軽傷と呼んでいいのかは分からないけど。
「あ、ああああアンタはー! 何言うてんの! もう!」
狐々乃月は僕を殴っても怒りが収まらなかったらしく、なおも地団駄を踏んでいる。
僕の無乳演説はお気に召さなかったらしい。
うーん、むしろ褒めちぎったつもりなんだけどなぁ。
でも乙女心は複雑だっていうし、ナイムネを気にしてる人にいくらそれがいいんだって言ってもやっぱり喜んではもらえないよね。
うん、僕の失言だな。
とりあえず謝ろうと立ち上がって狐々乃月の近くへと歩く。
「……で?」
「へ?」
僕が反省しながら傍まで行くと、狐々乃月が何かを促すように声をかけてきた。
なんだろ?
「…………で、ホンマ?」
「ホンマって、何が?」
僕の問い返しに、狐々乃月はとても続きを言いにくそうにしながら顔を上に向けたり下に向けたりしている。
こっちがホンマになんなんだ、だ。
「さっきの……あの…………ねが……」
「ネガ?」
写真?
ここには写真なんてない――そもそもこの病院の中でカメラを見たことがない。
「ちゃうくて! あー、そのー」
んん?
一体なんなのだろう?
「……ちいさ…………って……」
語尾が消えていく、とはこういうのを言うのだろう。
最後の方がもにゅもにゅしていて全然聞き取れない。
「ゴメン、よく聞こえないんだけど」
「~~っ」
なんでやねん! と言わんばかりに狐々乃月が再び地団駄を踏む。
顔を真赤にして地団駄を踏む姿はまさに幼女っぽい。
「だから……むね……」
「むね?」
コクンと首肯される。
ムネ、むね、胸……あぁ、胸か。
「その……ちいさいのがいいって……」
「うん」
「ホンマなん?」
耳まで真っ赤にした美幼女が上目遣いで聞いてきた。
あ、ダメだこれ。
可愛すぎて死ぬ。
「聞いてんの?」
見惚れてボケッとしていた僕に狐々乃月から催促の言葉が投げられる。
「えっと、そりゃもちろん本当だよ」
動揺してたせいか声が少し上擦ってしまった。
けれど狐々乃月はそれには気が付かなかったようで、
「ふ、ふーん。まぁ、どうでもいいねんけどな」
と、そっぽを向いてしまった。
どうでもいいなら何故聞いた。
「ほら、はよ行くで」
そして顔を背けたまま歩き出した。




