9:超妖怪級の引き篭もり
「んで、どこ行くん?」
廊下を歩き出してすぐに狐々乃月が尋ねてきた。
微妙にごねたけど、そこはやっぱり頼み事を断るのが苦手な狐々乃月。
結果的に僕の散歩、もとい探検に付いてきてくれた。
「どこって言われても、特にそういうのはないなぁ」
そもそも、その「どこ」を探すための探索活動なのだから、明確な目的地なんてない。
「女性のエスコートって点から見たら最悪やな。即行で帰られても文句言えへんで」
「そういわれても、どこに何があるのか――それどころか、何かがあるのかすら知らないんだから仕方ないじゃないか」
「ま、それは確かにそやな」
あっさりと引き下がられた。
もしかして、とりあえず文句を言いたいだけだったんだろうか?
狐々乃月って、確かに頼み事はあまり断らないんだけど、最初はまず断るところから始まるんだよな。
なんというか、最初から素直に応対してくれればいいのになぁ、と思う。
「逆に聞くけど、狐々乃月は何があるのか知ってるの?」
「ウチか? うーん、ウチもあんまり詳しくはないんよなぁ。部屋にいればリリスが本を補充してくれるし、食べ物はアリシアが作ってくれるしで、積極的に探索したことないからなぁ」
あぁ、そういえばそういう人だっけか。
「なんやの、その目は」
僕のジト目に気がついたのか、狐々乃月が抗議の目を向けてきた。
「いや、狐々乃月って結構引き篭もり気質だよね。なんか、可能なら部屋の外に1歩も出たくないとか考えてそうなくらいには」
さすがは山中に200年引き篭もっていただけはある。
「引き篭もりって、そんな事は……いや、まぁないとはいえへんかもしれなくもないけど」
すっごい言葉を濁したなぁ。
もう濁しすぎて底が見えなくなるくらいだ。
「ウチは引き篭もりっていうか、インドア派なんやって」
往生際が悪すぎる。
「でも自分で引き篭もってたとかそんな事言ってたじゃないか」
「そうやけど。ほら、他人に言われんのと自分で言うのってちゃうやん?」
「あー、まぁ確かにねぇ」
ツッコミを入れたいところだけど、その気持ちは分からないでもないから反論は引っ込めておこう。
「とりあえず、僕も狐々乃月もこの先に何があるかは知らないって事だよね?」
「そやな。そういう事になるな」
「ずっと進んだら、前にエリザがいた所とかに着くのかな?」
「それはないんちゃうかな。多分、あーゆう手合は会わせへんように道を繋げてすらないはずやし」
「そっか。確かにリリスだと自由自在だもんね、その辺」
なんなら今すぐにでも僕と狐々乃月を分断することだって出来るだろう。
「やから、何があるかは分からへんけど、少なくとも危険はないんちゃうかな」
「それなら安心かな」
「まぁ、リリスの安全の基準がどこまでかは知らんけどな。もしかしたら、死なへんだけで、かなり痛い目に遭ったりとか」
「って、怖いこと言わないでよ!」
あながち否定しきれないから本気でやめて欲しい。
「そんなこと言ったら、一緒に来てる狐々乃月だって危ないじゃないか」
「今のアンタが死なん程度の状況で、ウチが危険な目に遭うわけないやろ。ウチが後悔するレベルの危険やったら、アンタはまず死ぬ」
意趣返しのつもりで言ったのに、さらに恐ろしい内容で反論されてしまった。
しかし、僕はまだ負けないっ。
「でもほら、命の危険はないけど、ただひたすら狐々乃月が嫌がるだけの場所があるかもしれないよ?」
「例えば?」
「え、えーと……服が溶けるとか?」
これなら僕よりも狐々乃月のほうが恥ずかしがる、はず。
「そうなったら、アンタの目を焼くだけや」
結局、さらに怖い答えが返ってきただけだった。
もう言い返すの止めよ。




