7:鳥か獣か
「今日は御主人様のお部屋はちょっと害虫が居着いていて使えませんので、昼食はココノツの部屋で摂ることになります」
「へ? 害虫?」
まさか黒くて早いアレか!?
いや、でも今までこの建物の中で虫なんて見たことないし――なんなら僕ら以外の生き物を見たことがない。
それなのにまさか僕の部屋で発生するなんて……そこまで不衛生にしていたつもりはないんだけど、むしろ事あるごとにアリシアが片付けを行うので不衛生にしようがない。
「あの……確かに私の伝え方が悪かったとは思いますが、本当に虫がいるわけではないですよ」
「え、そうなの?」
「はい、ただの比喩表現ですから。私にとってはあながち比喩でもないですけど」
比喩?
すると何か他の何かがいるってことなのかな――って、そういえば確かに僕の部屋にいつもはいない人が1人いたな。
もうここで誰もが察していると思うけど――そう、金髪碧眼の退廃系吸血鬼のエリザだ。
けど、害虫はさすがに酷いんじゃないだろうか。
「申し訳御座いませんでした」
アリシアが素直に頭を下げる。
「害虫だと分かりにくかったですね。コウモリなのですから、次からは害獣と表現することにしましょう」
「そっち!?」
どうやら謝っている事は思ったのと違うことに対してだった。
まぁでも、アリシアはどうも嫌いな相手に対しては慇懃無礼というか、口さがないからなぁ。
狐々乃月に対しては仲がいいこともあって、悪意のこもった表現はあんまり使わないけど、他の人にはボキャブラリーのある限りの悪態をつくからなぁ。
でも、イデアに対してはあんまりそういうことを言った覚えがないな。
「イデアは、私にメイドとしての技術や所作を教えてくれましたし、それになにより余計なことは基本的にしないので」
「あ、そうなんだ? つまりメイドとしての先生みたいなものなの?」
「そうですね。私のメイドスキルはおおよそ彼女から受け継いだものです」
へぇ、それは初耳だったな。
じゃあ、普段は作ってる所見たことないけど、料理とかもイデアはこなせるんだろうか。
「はい、一通りのことは全て出来るはずです。少なくとも私にできることは彼女も出来ると考えて間違いないです」
そうなのか。
ここのメイドは2人共スキル高いんだなぁ。
「ただ、イデアがどこでどうやってそれらの技術を学んだのかは分からないんです。前にも言いましたが、彼女とは病院で初めて会いましたから」
ここのいるのはほとんどが僕の関係者だとリリスから聞いた覚えがある。
ならイデアも僕の関係者なんだろうか?
でも、イデアはいつも無表情なせいか、僕に対してなんの感情も抱いてないように見える。
アリシアは分かりやす過ぎるくらいだし、狐々乃月とエリザも僕を通して過去を思い出したりすることも多いように見受けられる。比較的そういった感情をみせないリリスでも、やっぱり僕の過去に対して思うところがあるのは分かる。
けどイデアはそういったものが全くない。
となると、やっぱりイデアは僕の過去には関係のない人物なんだろうか?
「そういえば、イデアって人間なのかな?」
「と言いますと?」
「うん、僕は鬼だしアリシアは鳥人族だし、他に会った人たちもみんな人間ではないでしょ? じゃあやっぱりイデアも何かしらの人外なのかなぁ、と」
「うーん、どうでしょう。確かに御主人様のお知り合いは人外の方も多かったですが、だからと言って普通の人間がいなかったかと言われれば、そんなことないですからね。それに、イデアが異能を発揮したとかは見たことが無いですし」
「そうなると、やっぱり普通の人間?」
「そう考えたほうが無難だとは思いますね」
「そっか」
まぁ別に人だろうと違うかろうと、何か変わるでもないし気にしなくていいかな。
それに、僕の関係者って決まってるわけでもないしね。
なんて、思考停止に近い結論を出してこの話題を終わりにする。
「ところで、今日の昼食は何かな?」
「はい、本日はですね――」
興味はすでに昼食へと移っていた。
そして、そんな僕らの後姿を一組の瞳がジッと見詰めていた。




