5:体力テスト(人外用)
「デハ、マズ鬼化シテカラノ身体能力ガドレ位ナノカ確認シマショウ。サァ、鬼化シテ下サイ」
あれから何度か鬼になってみたり、強制的に鬼になったり――つまりは危険を感じたせいなんだけど、とりあえずそのお蔭で鬼化自体は苦なく出来るようになった。
逆に人間に戻るのもお手のものだ。
まぁ元々そういう種族なんだから、慣れたら簡単なのは当たり前なんだろうけど。
「うん、なったけど、これでどうすればいいの?」
「トリアエズ、向コウノ端マデ行ッテ戻ッテ来テ下サイ」
イデアが部屋の奥を指さす。
「え、向こうって……」
けれど、その向こうを見て僕は愕然とする。
「見えないんだけど」
「ja」
反対側の壁が遠すぎて全く見えない。
鬼化をすると視力も極端に上がるので、常人の何倍もの距離が見渡せるはずなんだけど、それでも見えない。
「えっと、どれくらい距離があるの?」
「ソンナ事ハ行ケバ分カリマス。全力デ走ッテ下サイ」
「全力で!? ほ、ほんとに?」
「ゴチャゴチャ煩イデスネ。サッサト行キナサイ」
どうやら本気のようだ。
うぅ、行くしかないか。
もしかしたら思ったより遠くないかもしれないしね。
それにいくら広いって言っても室内であることには代わりはないんだし、そこまで滅茶苦茶な距離ってわけでもないよね。
* * * * * * * * * *
そんな風に考えていた時期が私にもありました。
「遠っ!」
もうかれこれ10分は走り続けているが一向に反対側の壁が見える気配がない。
鬼化している上に全力で走っているから、10分と言えど相当な距離を進んでいるはずなのに。
まだ鬼化のお陰でまだ体力には余裕がある。
10分もの間全力疾走しても息すら切れないって凄いな。
それに、幸い足元には親切にも真っ直ぐラインが引かれていて、方向を見失うということもない。
正直、この何もないだだっ広い白い空間に目印も何もなかったら、間違いなく方向感覚を失ってしまう。
雪山とかでおこるホワイトアウトと同じようなものだ。
僕はとにかくそのラインを頼りに走り続けていた。
そうして僕がイデアのもとに戻れたのは1時間後の事だった。
「どん……だけ……広い……のさ」
盛大に息を切らしながら僕は誰にでもなく、なんならリリスへと文句を零していた。
「フム、六十kmを六十分デスカ。マァマァデスネ」
どうやら片道30kmもあったらしい。
この施設どんだけ広いのさ。
「nein。単純ナ直線距離デハ三十kmモ有リマセン」
「え、でも……往復60km……なら、片道……30kmじゃないの?」
「其レハ真ッ直グ走ッタラノ場合デス。目印ニ引イテアルらいんハ直線デハ無ク微妙ニ曲ガッテイルノデス」
つまりは騙されていたらしい。
真っ白な中で、唯一頼りになっていたはずの目印にまんまと騙されて、結構左右にジグザグ走っていたという。
目に見えて曲がってたらわかるけど、徐々に徐々に曲げられたら分からないって。
「ソレデハ、次ハ反応速度ノ確認デスネ」
イデアはそう言うと、壁に取り付けられたコンソールを操作する。
すると、床から何か機械のようなものが迫り上がってきた。
見た感じピッチングマシンみたいだ。
「デハ、飛ンデ来ルぼーるヲ全テ避ケテ下サイ」
もう1つボタンが押されると、その機会から猛スピードでボールが飛んできた。
「うわぁ!」
なんとか回避に成功する。
「ドンドン行キマスヨ」
そしてその台詞通り、ボールが次々飛んできた。
どうやら、訓練開始前の僕の予感は当たっていたみたいだ。
当たらなくていいのに……。




