3:吸血鬼はお日様が苦手
「もういいかな? もういいならそろそろ寝ようと思うんだけど」
あくびを噛み殺しながら、エリザが考えこむ僕に聞いてきた。
「うん、また何かあったら次の機会に聞くことにするよ」
「そうか、ならボクは失礼するとしよう」
エリザがやや気怠げに立ち上がった。
彼女は吸血鬼なだけあって夜行性で、日中は眠たくて仕方がないらしい。
こうやって朝食に参加するのも眠気を押してのことだとか。
そうしてまた日が沈む頃に――とは言ってもここじゃ日の昇り降りなんて分からないけど――目を覚まして活動を再開する。
食事がいらない吸血鬼なら睡眠もいらないんじゃないか、といいたいところだけど、必要なのは睡眠自体ではないらしい。
吸血鬼の特性として太陽が苦手なのは迷信ではなく本当のことで、ただ別に日光を浴びたからといって即座に灰になったり燃えがったりはせず、軽い火傷みたいになるとか。
ただ太陽の出ている時間、つまり昼間は物凄く身体が怠くなって動きたくなくなって、ついでに魔力消費量も上がって、でいい所なしなのでやり過ごすために睡眠に入るということだった。
だから僕らで言う体力回復のための睡眠ではなく、体力消費を抑えるための睡眠ということになるんだろう。
この辺りは初日、つまり一昨日の朝に聞いた。
「ふあぁ、おやすみ」
エリザはのっそりとした、しかし自然な動きでベッドに這入った。
僕のベッドに。
「って、なんでそこで寝ようとしてるのさ!」
あまりにもの自然な動きにスルーしてしまいそうになったけど、ここの僕の部屋でそこにあるのはもちろん僕のベッドだ。
「そうです! さっさと御主人様のベッドから出て行きなさい!」
僕に次いでアリシアも声を上げる。
「ん? いや、正直もう限界でね。自分の部屋まで戻るのも億劫なんだ。このままここで寝かせてもらうよ。あぁ、大丈夫。君が寝るまでには起きるから」
「いや、そういう問題じゃなくて!」
自分のベッドで女の子が寝るなんて事を冷静に見過ごせるほど僕は女性慣れしてない。
「もしかして一緒に寝たいのかい? ふむ、嬉しい申し出だけど、今回ばかりは眠気が酷くてね。出来れば次、今夜あたりにしてくれないかい?」
「それも違う!」
しれっと、とんでもないこと言わないで欲しい。
あと、ちょっと心が動いてしまった事にちょっと嫌悪感。
「な、なななな!?」
アリシアなんかはもうまともに言葉が発せないほど驚いて、というか怒っている。
「違うのかい? それは残念だな。じゃあ、何がダメなんだい? もういい加減眠たくて仕方ないんだ。まともに反論がないようなら寝させてもらうよ」
エリザはそう言いつつも、こちらの意見を聞く間もなく寝付いてしまったようで、もうすでに寝息が聞こえ始めていた。
「うわ、本当に寝ちゃったよ。どうしよう?」
誰というわけでもなく聞いてみる。
「もう放っとくしかないやろ」
返事は期待してなかったんだけど、有難いことに狐々乃月が反応してくれた。
「しかし、御主人様のベッドにマーキ……いえ、勝手に他人が寝るのは」
あれ? アリシアさん、いま何言おうとした?
まさかマーキングとかじゃないよね?
「匂い移るんが嫌やったらシーツ変えーや。それでも嫌ならリリスに言ってベッド変えてもらい」
狐々乃月が冷静な意見を述べてくれる。
そっか、リリスに頼めばベッドの交換くらい簡単――それどころか、いまエリザが寝ているベッドをそのまま彼女の部屋に移動させることすら出来るよね。
「ベッドごと変えたいところですが、あの魔女に頼み事とかしたくない、もといそこまでリリスに頼るのは悪いでしょう」
いま隠すつもりのない本音があからさまに晒け出されてたんだけど。
最終的にオブラートに包むつもりなら中身は隠そうよ。
「とりあえず、新しいシーツをご用意いたします。いま使っているものは使用後にその女のハウスに放り込んでおきましょう」
アリシアはそうと決めると、さっきまでとは打って変わり手際よく食事の片付けを済ませてしまった。
「んー、ウチもボチボチ部屋戻ろかな」
「あ、じゃあ僕はイデアのところに訓練に行ってくるよ」
狐々乃月につられて僕も動き出す。
こうして何故か僕の部屋にエリザを残したまま全員退室していった。
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