131:夢のち美女
「ウチは悪ない。乙女の秘密を勝手に覗こうとしたんが悪いんや」
とは狐々乃月の談。
見た目が幼女なので、幼女が乙女って(笑)と思いそうになるけど、そこは中身は立派な大人――いや待て、300歳って大人って言うよりむしろバ……なんでもない。いま狐々乃月が何かを察してすごい形相で睨んできたけど、僕は何も失礼なことは考えてません。
ただ、今でこそ冷静な狐々乃月だけど、怒りに任せて僕をウェルダンな焼き加減にした時は涙目で謝り倒してきていてとても可愛かった。
それはそれは可愛かったのだけど、残念ながら小説なので見せられません。僕の心のアルバムにだけそっと閉まっておく。
ともあれ、一悶着あったものの、僕はオススメの恋愛小説を読み、狐々乃月も読みかけの小説を持って、2人で読書に励んだ。
いつもなら長時間読書を続けていると誰かしらが訪ねてきたりして中断されるのだけど、いまはアリシアもリリスもイデアも動ける状態にないため、結局僕たちは腹の虫が鳴るまで、時間を忘れてひたすら読書に熱中していた。
夕食は狐々乃月が軽く作ってくれて――軽いというのは軽食という意味だ――それを食べて、また読書をして、キリの良い所で部屋に戻った。
1日中ずっと読書をしていたせいで、 身体は固まって動かしづらくなってるし、頭は疲労感たっぷりでボーっとしている。
簡単にストレッチをしてからベッドに潜り込むと、あっという間に眠気がやってきた。
朝一で襲われて戦って、そして自分の正体を知って、様々な事実が明かされて、と午前の間だけで色んな事があったから、かなり疲れている。そのための眠気なんだろうな。
にしても、午後はずっと読書出来てよかったかも。
読んだものがハッピーエンドものの恋愛小説だったからか、変な方向に思考が持って行かれなかったし。
あれは狐々乃月が薦めてくれたものだったから、もしかしたらそういうとこ気を遣ってくれたのかな……優しくしてくれる時は素直じゃない……って、本当に眠気が……もうダメ……明日……起きたら……アリシアの……お見舞……行こ……。
そうして僕の意識は落ちていった。
* * * * * * * * * *
それは多分、夢だったんだと思う。
音を喪った広い世界でただ一人、自分だけが立っていた。
周りにはおびただしい数の死体が山のように積み重ねられていた。
それらは全て目から赤い涙を流しながら息絶えていた。
そして、個人差はあれど頭から細く長い角を生やしていた。
そんな中で、積み上げられた死体を見下すように。
なにもかもが失くなってしまった世界で自分だけが立っていた。
* * * * * * * * * *
頭が、体が重い。
なんか変な夢を見たような気がするけど、ちゃんと覚えてない。
とてつもなく嫌な夢だったことだけは覚えてるけど。
そんな夢を見たせいか体が重い。
なにかが上に伸し掛かってるかのように重い。
というか、実際になにか上に乗ってないか?
前にもこんなことがあったような気がするけど、その時はどうなってたんだっけ?
そう、あの時は確か、
「アリシア?」
ちゃんと思考が働いていれば、大怪我で臥せっている彼女じゃないのは分かったんだけど、その時の僕はあいにく寝起きで頭の回転が悪かった。
「ベッドで違う女性の名前を呼ぶのはタブーだよ」
聞きなれない声がした。
「え?」
驚いて目を開いた僕の目に飛び込んできたのは、金色の髪と碧の眼をした美女だった。




