130:焼き加減はお好みで
朝ご飯――とは言っても襲撃があったせいでかなり時間が後ろにズレてしまい、おそらくほとんど昼前での食事になっていたと思うけど、だからその分いつも以上に食べた。
どうせなので朝昼兼用だ。
いつもはアリシアがしてくれる片付けや皿洗いなどを狐々乃月と共同で済ませて、なお狐々乃月は手慣れた風だったけど僕はあやうくお皿を割るところだった。
洗剤をつけたお皿の滑りやすさを侮ってた。
洗った食器類は狐々乃月がさっと乾かしてしまった。本当に便利だな、アレ。
「んー、終わった終わったー。どうしようか?」
一息つく頃には時間はもうお昼を回っている時間くらいだった。
相変わらず時計はないけど、さすがに20日も同じ生活リズムを刻んでいれば何となく体感で分かる。
「どうしよ言われても、ウチは本読みたいねんけど」
「そっか。じゃあ僕もそうしようかなぁ。そういえば、狐々乃月の部屋って本のラインナップが僕の部屋とは違うんだよね? どんなのがあるの?」
「え? えぇと、推理しょ――」
「あぁ、そういえば恋愛小説ばっかりだっけ?」
「~~っ!」
確か前に聞いたことあるよね。
その時も同じようなやり取りをしたような。
「れ、恋愛小説なんてあらへんわ!」
狐々乃月は何故かここに来てそれを否定した。
いや、前にバレてるし、その反応見たら鈍い僕でも分かるって。
「まぁまぁ、恋愛小説だって立派な文学だよ。どれどれ」
狐々乃月の静止を無視して本棚へと近づく。
「ちょ、勝手に見んといてーな!」
なおも無視。
上から見ていくと、なるほど確かに恋愛小説が多いっぽい。
本当にそれが恋愛小説なのか中身を読んでないから断定はできないのだけど、「恋愛症候群」とか「私の執事様」とか、「恋する乙女は龍をも片手で殺す」ってシリーズはよく分からないけど、まぁそんな感じのタイトルばっかだからまぁ間違いないだろう。
古典からライトノベルまで目白押しだ。
「ちゃ、ちゃうねん。リリスが勝手に持ってくるだけでウチがリクエストしてるわけちゃうねん!」
「はいはい」
何か可愛らしい言い訳が聞こえるけど、それを誰が信じるというのだろう。
まぁ顔を真赤にした幼女が一生懸命に訴えてくる姿を見ると、白でも黒だと言いたくはなるけれども。
「別に恋愛なんて興味ないんやけど、人間の文化の1つとして知ることも大事やん?」
「そうだねぇ」
その言い訳だと、さっきのリリスが勝手に用意してるって言い訳と矛盾するのだけど、いいのだろうか?
かなりテンパってるから気付いてないんだろうな。
やいやい騒ぐ狐々乃月を尻目に、本のタイトルを確認していく。
たまに本当に推理小説や時代小説が混じるけど、9割方は恋愛小説だった。
僕の部屋には恋愛小説はほとんどないから、僕自身が希望しているからミステリの割合が多いため、せっかくだからこの機会に毛色の違う本でも読んでみようかな、と思った。
そして、
「そういえば、この本棚の下の引き出しって何か入ってるの?」
各部屋に備え付けられている本棚は本を差し込む本棚本来のスペースに加え、1番下の段が引き出しになっている。
僕の部屋の引き出しには前はエr……写真集が入ってたんだけど、それはアリシアに全部捨てられたので何もない――なおアリシアは別に写真集とかそういう行為に嫌悪感はなく、ただ単に私を見て欲しいとの理由からの行動だった。
実のところ1冊だけ確保して隠してあるのだけれど、それは今のところバレてない。
リリスにはバレてるんだけど、というか用意したのリリスだけど。
そういうわけで、狐々乃月の部屋の引き出しにも何か入ってるんじゃないかと思ったのだ。
誓って言うけれど、これは別に写真集入ってないかなとか思ったわけじゃない。
まさか女の子の部屋にそんなものがあるとも思ってない。
つまり単純な好奇心だ。
なにがあるのかなー程度の。
だから、そんな反応は予想外だった。
「み、見たアカン!」
「わっちぃ!」
狐々乃月の悲鳴にも似た叫び声とともに、物凄い熱気が僕を襲った。
見ると、狐々乃月の周囲にフ○ンネルよろしく焔の玉が揺らめいていた。
「ちょ、ちょぉっと落ち着こうか狐々乃月さん?」
しかし狐々乃月に僕の言葉が届いてる様子はなかった。
「み、みみみみ」
温度は際限なく上がっていき、もはや空気が肌を焦がすほどだ。
「見るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その時に僕は思った。
危険を感じた際に自動的に鬼化する身体でよかった、と。
じゃなかったら多分消し炭になって死んでいた。




