128:冴えた能力の使い方
「さっきまでの苦労は一体……」
全然出来なかった人間化がイデアのアドバイスであまりにも簡単に出来てしまったので、喜びよりもなにか釈然としない気持ちになった。
「苦労言うても、うんうん唸ってただけやけどな」
そりゃ確かに身体を酷使したり痛い目にあったりしたわけじゃないけど、それでもやっぱり複雑なのだ。
「まぁちゃんと出来たんだからいいじゃなぁい。これで今のところ解決できる問題は全部すんだわねぇ」
アリシアといであの治療に、僕の鬼化の解除――人間化と言うべきなんだけど、やっぱり人間の姿のほうが僕としては本体でありたいのでそう思っておく。
狐々乃月は別に怪我などはしていないため、報告だけ聞いて終わり。
「じゃあ2人はもう部屋に戻っていいわよぉ」
することがなくなったと、リリスが僕達に退室を促した。
ウチはアリシアの傍にいてたい、と狐々乃月は希望したのだけど今日だけは静かに寝かせたいとのことで却下されてしまい、仕方なく揃って部屋を出た。
2人並んで無言で歩いて行く。
付き添いを断られたせいでちょっと空気が重い。
これは何か言ったほうがいいのかな?
でもこういう時何を話したらいいのか分からない。
笑わせればいいのかな。
「お腹空いたな」
狐々乃月が脈絡もなく突然話しかけてきた。
いや、どっちかというと独り言みたいな口調だ。
「アリシアが作った朝食あるはずやし、それ食べよか」
狐々乃月の目は真っ直ぐ前を見ているけど、その視線は少し朧気だ。
「うん、そうだね。僕の部屋に運んであるのかな?」
「にゃ……いや、まだアリシアの部屋にあると思う」
にゃ、て。いやを噛んだのかな?
狐なのに、にゃって。
それはそれとして、狐々乃月が言うには漬物とか温かくないものは僕の部屋に運んであったけど、僕を探している間に冷めてはいけないとのことで、主菜は自分の部屋に置いてあるとのことだった。
「ご飯入れてあるおひつとか食器はアンタの部屋にあると思うわ。けど、アンタの部屋はウチとヴォルフが戦ったせいでちょっと荒れてるし、ゴハンはウチの部屋で食べよか」
「え、そんなに荒れてるの?」
もしかして寝るとこがピンチ?
「戦いってほどの事はしてへんし、すぐ終わったからそうでもないけど、それでもテーブルは叩き割られたしな」
そうなんだ……リリスに言ったら直して貰えるかなぁ。
僕の部屋の前で一旦別れて、狐々乃月はアリシアの部屋からおかずを取ってきて、僕はおひつや食器を持って狐々乃月の部屋へ向かうこととなった。
一応、一緒にアリシアの部屋に行って運んだりを手伝おうかって提案したんだけど、断りもなく女の子の部屋に入ろうとするんじゃない、と怒られてしまった。
「って、うわ。本当に割れてるよ」
部屋に入ってテーブルのある方へ目を向けると、見事に中心から割られたテーブルが転がっていた。
椅子も壊れて四散しているけど、でもそれ以外は特に目立った破損箇所はなかった。
この10畳位の部屋で2m超の狼男と暴れまわってこの被害は有り得ないくらい少ないよね。
それに家具がほとんど引っ込められてる。
闘いながら家具を仕舞う余裕もあったのか……もしかして狐々乃月って思った以上におっかないのでは。
あんまり怒らせないようにしよう。うん。
食器やおひつの乗せてある台車――最初は洋風デザインのキッチンワゴンだったんだけど、和食がメインになってからは木製の配膳台になっていた。
和食がメインになったのは言わずもがな、僕と狐々乃月がそれを好んだからだ。リリスは美味しければ和洋中にこだわりはないらしい。
必要そうなものは台車に全部乗っているのでかなり楽に運べた。
そういえばこれも庇いながら戦ったのか、狐々乃月。
廊下に出て狐々乃月の部屋に向かっていると、反対側から彼女も歩いてくるのが見えた。
手に持っているのは鍋で、中におかずが入ってるんだろうけど。
「それ便利だね」
「そやろ」
狐々乃月の手は赤々と燃えていて、現在進行形で冷めたおかずを温めていた。
「ウチとしては戦うより、こういうのに能力使うほうが好きやねんけどなぁ」
狐々乃月は少し寂しそうにぼやくと、歩みを緩めず部屋へと入っていった。




