12:ベッドの上で
「私、初めてなので出来れば優しくして下さいね」
アリシアをベッドに寝かせると、いきなりそんなことをのたまった。
「えぇ!?」
何言ってんの? まだ思考ぶっ飛んだままなの?
「あ、御主人様がご希望であればもちろん乱暴していただいても……」
アリシアは覚悟完了と言わんばかりに強いまなざしでこちらを見ている。
「いやいやいや、なにもしないから!」
急いで否定すると、一転してアリシアはもの凄く残念そうな目をした。
「そうですか……そうですよね。私にはそんな魅力ありませんよね」
この子、感情の振れ幅広いなぁ。
ともかく、もちろんアリシアが悪いわけじゃない。
中身はまだ会ったばかりで分からないが、いや、アリシアからしたら会ったばかりでもないのか。
外見だけなら魅力がないなんてわけがない。
むしろ、さっきから口には出していないが、脳内で外見を褒めてたたえまくっている。
好みのあるなしはともかく、顔立ちもスタイルも整っていて、むしろ非を探すほうが難しい。
良くも悪くも飛びぬけて目立つところがない。
言うなれば、全体的なバランスが優れている。
10段階評価でいうなら、オール8といったところだ。
おそらくいま考えてることをそれなりにオブラートに包んで伝えれば、落ち込んでいる彼女を慰めることもできるだろう。
けれど、当の本人を前にしてそんな事をスラスラと言えるほど、女慣れしていない。
これは昔からなのか、記憶がないからなのかは分からないけど。
でも、落ち込んだ女の子を放っておけるほど薄情ではない性格らしい。
「いや、アリシアが悪いんじゃないよ。ただ、急すぎて驚いてるだけなんだ」
なので、自分に原因があると説明する。事実だしね。
「目を覚ましたら記憶を失っていて、まだ自分の置かれた状況について整理も出来ないから」
そう続けると、アリシアの目に映る哀しみの色が薄れ、次第に反省の色が広がっていく。
アリシアは寝そべっていた上半身を起こすと、頭を下げた。
「そうですね、申し訳御座いませんでした。私ばかりはしゃいでしまって」
あれ、はしゃいでたのか。
「御主人様が目を覚まされたと聞いて、いてもたってもいられず、自分を律することも出来なくなっていたようです」
「そっか」
そっけない返事になってしまったけど、内心すこし嬉しかった。
記憶を失ってしまって、自分という存在も失ってしまったように思ってたけど、こうやって自分を待っていてくれた人がいるというのは、自分を失くしていないような感じがして、嬉しい。
そこで、はたと思いついた。
「そういえば、どれくらい寝てたんだろう?」
自身の感覚ではどれくらいの期間眠りについていたのか分からない。
昨日からかもしれないし、一ヶ月かもしれない。
目覚めてすぐ歩けたから、そこまで長期間ってわけでもないだろうけど。
「御主人様が眠っていらした期間ですか?」
自分では尋ねたつもりはなく、ただの独り言だったのがけど、アリシアは自分に問い尋ねられたのだと思ったようだ。
「うん、分かるかな?」
もしくは教えてもらえるだろうか。さっきみたいに答えを拒否されないだろうか。
「そうですね、それは存じておりますし、お答えできます」
「え、本当に?」
今度も断られると思っていたから、予想外の答えに驚く。
「はい、これは大丈夫なはずですし」
「そか、それはよかった。じゃあ、教えてくれるかな?」
「はい」
アリシアは割となんでもないことのように答えた。
「御主人様が眠ってらしたのは、341日間。おおよそ1年です」




