125:名誉の負傷
狐々乃月からこれまでに会った――エリザとヴォルフは会ってないけど、人?達の事を一通り聞いてみた。
本当に普通の人間はいないんだな、なんてのが最初に抱いた感想だった。
「にしても、ヴォルフだっけ? 凄い強いって話だけど、よく狐々乃月は勝てたよね。聞いた限りでは焔は効きそうにないけど、どうやって勝ったの?」
「大したことはしてへんよ。焔で周りの酸素消費して酸欠にしたっただけや。アイツは肉体的な強さに反比例して頭めっちゃ悪いからな、焔に囲まれてる間も余裕綽々で笑っとったわ。アンタも気ぃつけや。長所に溺れたら、それを突かれてやられることもあんねんで」
「うん、肝に銘じておくよ。それにしても凄いな狐々乃月は。自分にとって不利な相手でも冷静に勝つ方法を考えられるなんて」
僕だったらパニくっちゃいそうだよ。
「別に、普通や」
またもそっぽを向かれてしまった。
でもよく見ると頬にピンク色が混じっていたから、あぁ照れてるのか、と分かった。
狐々乃月は褒められなれてないのか、素直に褒められると照れる傾向があるようだ。
なんか可愛い。
そうやって照れる幼女をニヤニヤしながら見詰めるという、人に見られたら確実に通報されるであろう展開を繰り広げていると、僕らの間にある扉が開いた。
「もう入っていいわよぉ」
顔だけひょっこり出して、リリスが僕らに入室を促した。
了解の返事をしてから、2人で部屋へと入る。
ベッドの上ではアリシアがすぅすぅと大人しい寝息を立てながら眠っていた。
所々に包帯が巻かれ、左腕(翼?)には添え木も当てられていた。
「リリス、アリシアはどうだったの?」
素人判断で命に関わるほどではないだろう、なんて思っていたけれどそれはもちろん希望的観測を多分に含めていたし、どちらかというと動揺してしまいそうな自分を抑えるためにそう考えていた要素が強い。
だから、こうして大怪我の処置後みたいな姿を見ると不安が芽をのぞかせてきた。
「そうねぇ。数十箇所の骨折に裂傷、それと内臓にも大きくダメージを受けていたけれど、命に別状はないわ。この子は普通の人間よりは頑丈に出来てるし、容態が急変するということもないと思うわ。もちろん数日は安静が必要だから、しばらくは私の部屋に泊まってもらうことになるけどね」
「そっか……よかった。ありがとう」
大怪我はしているから一概によかったとは言えないけど、それでも命が助かっているならやっぱりよかったと思う。
「そうねぇ、傷は治るけどぉ、命はさすがの私でも戻せないからねぇ」
「ほっ……」
僕らの会話を無言で聞いていた狐々乃月も安心の息を吐いた。
その手は優しくアリシアの手に添えられている。
本当は手を握ったりしたいんだろうけど、さすがに包帯が隙間なく巻かれた手を握ることは躊躇われたんだ。とそんな風に思う。
リリスに太鼓判を押されて安心した僕はそこでようやく部屋の中にいるもう1人の存在に気が付いた。
「あれ、イデア……」
リリスの横で椅子に座っているイデアを見て、視線が自然と下に向かい――断って言うなら僕は別にイデアの美脚に目が吸い寄せられたわけではなく、いやもちろんイデアの足は相当に綺麗で、なんなら女性として凹凸が少なめのイデアの中で最もエロ……素敵な造形をしているのは足ではないかとも思っているんだけど、常日頃から思っているんだけれども、それはさて置いといて僕はそこでもう1つ驚いた。
「イデア、その足――」
僕の目を惹いた、いや引いた原因であるギプスらしきものを指差して聞いた。
もしかしてイデアも戦闘に巻き込まれて怪我をしたのか、と。
考えてみれば僕とアリシアを迎えに来たメンツの中にイデアはいなかった。
その時の僕はアリシアの怪我とか、明かされた真実のせいで脳内にこれっぽっちも余裕がなかったんだから、仕方がないという見方も出来ると思うというかして欲しい。
「ja。シカシ、巻キ込マレタトイウ表現ハ正シク無イデス。私ハりりす様ヲオ守リスル事ガ責務ナノデスカラ」
巻き込まれたのではなく、自らが災難に見舞われたのだと答えた。
まぁその辺は僕がどうこう言うものでもないし、確かに実際イデアがリリスのボディガードのような事を仕事としているのなら、仕事を全うしようとしたことを巻き込まれたとは言わないだろう。
巻いている渦のむしろ中心にいたのだから。
「幸イ私モ生命ノ危機ニ瀕スル程ノ傷デハ無イデスカラ」
見た感じでは怪我は足の骨折だけみたいだし、素人の判断では確かにそれは大怪我ではあるけれど命どうこうというレベルの問題ではないだろう。
もちろん解放骨折で血管が損傷して失血死してしまうとか、感染症に罹ってしまうとか色々あるとは思うけれど。
「でもぉ、イデアも無茶は禁物よぉ? 全身の筋肉ズタズタになってるんだから」
「え? それってどういうこと? いま結構怖いこと言わなかった?」
「ちょぉっとあってねぇ。まぁ重めの全身筋肉痛だと思ってもらえればいいわぁ。ほらぁ、筋肉痛になると思ったより身体動かないでしょぉ?」
ふぅむ、筋肉痛の辛さは経験から判るものだから記憶のない僕としては想像するしかないのだけれど、それはきっとキツイものなんだろう。
実際には筋肉痛は動けないというほどキツイのは稀だし、イデアの状態がそんなレベルのものじゃないのだけれど、その時の僕には知る由もないことだった。




