124:魔眼の鬼
廊下にて、手持ち無沙汰になってしまったのだけれど、だからと言って部屋から離れる気にもならず、僕はとりあえず扉の横で待つことにした。
傷は多かったし出血もあったものの、命に関わるような状態でもなさそうだったから、特にそこについての心配はしてない。
でもやっぱり何となく怪我をした、僕のために怪我をしたアリシアから離れたくなかった。
数分も経たないうちに扉が開かれたかと思うと、狐々乃月が出てきた。
「ウチがおってもしゃーないしな」
理由を尋ねる前に答えられた。
狐々乃月は自分の部屋に戻ったりはせずに、扉の横に、僕とは反対側の壁にもたれ掛かった。
「んで、待ってる間にウチが話したろ思って」
「話すって、なにを?」
「アンタが聞きたい事を、や。さっき色んな事が起こって、聞きたい事よーけあるんちゃうん?」
「確かにいっぱいあるよ」
「それにウチが分かる範囲でなら答えたげるで。何から聞きたいんや?」
聞きたい事、か。
>僕の正体について
ネーレイと呼ばれた女性について
リリスと狐々乃月の方でなにがあったのかについて
アリシアについて
特に聞きたいことはない
これがゲームならこんな感じかな?
まぁ哀しい事にこれは現実なんだけど。
「そうだね、とりあえず僕の事についてかな。アリシアは僕を鬼と呼んだ。角も生えてたしそれは何となく納得できるんだけど、この事について詳しく教えてくれないかな」
「アンタの事についてなぁ。アンタは瞳鬼族言うてな、普段は人間の姿と相違ないものの、いざという時には瞳が金色に輝き頭から角が生える鬼となる、っちゅー種族やな。瞳鬼はその金の瞳に何かしらの能力を持っとった。普通の鬼は怪力とタフな生命力くらいしか取り得ないから、瞳鬼族は鬼種の中でも別格扱いやったな」
「へ、へぇ」
なんか自分が特別な種族だって言われて微妙に浮ついた気分になった。
ちょっとそわそわしちゃう。
「アンタはその瞳に映した過去を再現できるっちゅー、瞳鬼の中でもかなり特殊な能力もちやな」
「そうなんだ? 他にはどんなのがあったの?」
「いや、ウチも数は知らんけど、千里を見通したり、対象を石化させたり、熱光線出すヤツもおったな」
「目から熱光線!?」
その姿を想像して思わず噴出してしまった。
なにそれ超見たい。
「まぁアンタの事はそれくらいやな。あんまり詳しくはウチも知らんしな」
「いや、十分だよありがとう」
僕がお礼を言うと、狐々乃月はそっぽを向いてどーいたしまして、とぶっきらぼうに答えた。
「で、他に聞きたいことあるん?」
「うん、もちろんあるよ。あのネーレイって呼ばれた女の人とか、リリスや狐々乃月の方に行ってたって人たちについて聞きたいんだけど」
「あれは、さっき言うた通りや。それに加えて言うなら、アンタとの面会待ちの中でも過激派でな、記憶を喪った――弱体化したアンタに危害を加える可能性の高かったヤツ等や。ま、可能性も何も実際に危害加えにきたんやけどな」
「な、なんで? 僕が過去に彼らから恨みでも買うような事してたの?」
過去を無理に聞こうとは思わない、とは言ったものの、もしそんな命を狙われるレベルの恨みを買っていたなら知っておきたい。
自分がどんな酷いことを仕出かしたのかを知るのは怖いけど。
「恨み、とはちゃうなぁ。ヴォルフとネーレイに関してはむしろ逆やな。過去のアンタを好き過ぎて、もはや別人になってもうた現在のアンタの存在が許せへん、みたいな」
「それって……」
「迷惑な話やろ? まぁ直接聞いてへんけど、大きくは間違ってへん思うわ」
これは本当にどうしたものか。
「で、エリザやけど」
「うん」
狐々乃月はたっぷりと間を置いてから言い放った。
「分からへん」
ズコー
足ズッコケもかくやという答えであった。
「いや、エリザはホンマにそん時の気分で動くし、考え方もコロコロ変わるから、行動が読めへんねんなぁ。強いて言うなら、自分にとって愉しい事だけしかせーへんって事くらいやな」
それはまた随分と厄介そうな人物評だった。




