119:狐々乃月先生の授業
「やっと大人しくなったわ」
ウチは倒れて動かなくなったヴォルフを見下ろしながら溜め息をついた。
最初はさっさと片付けるつもりやったのに、コイツが思いのほか粘ったせいで時間が掛かってしまったからだ。
ちなみに死んではいない。
いまは気を失ってるだけで、命に多分別状はない。
「にしても、やっぱウチって弱そうに見られるんかなぁ?」
ヴォルフ自体はかなり強いけど、ウチのことをよく知ってるリリスか前のアイツならヴォルフを当ててくることはなかったと思う。
いくらヴォルフがウチの妖術を無効化するいうても、戦いっていうのはそれだけで勝敗が決まるもんやない。
ウチとしては、勝敗を決める1番の決め手は頭の回転やと思ってる。
それに関してはヴォルフは最弱や。
力任せに突進することしか考えてへん。
「ま、せやから助かったってのもあるけど」
ヴォルフの頭の切れるやつやったらここまで楽勝とはいかへんかったやろし。
「さて、ボチボチ行こかな。アリシアも困ってるやろし」
と、ウチがヴォルフを置いて歩き去ろうとした時、声がかけられた。
「……待ちやがれ」
見てみると、ヴォルフがもう意識を取り戻していた。
「なんや、えらい気付くん早いな」
「てめぇ、何しやがった」
どうもコイツはウチになにされたか分かってへんらしい。
それもそうか。
コイツからしたらいきなり意識が遠のいて、気付いたら倒れてたって認識やろし。
「んー、なんやと思う? 当てたら正解って言ってあげんで」
「ふざけんじゃねぇ」
ヴォルフは怒鳴って立ち上がろうとしたものの、実際はその声は掠れていて身体もほとんど動かせてない。
「けど、教えることにウチのメリットないしなぁ」
むしろデメリットしかない。
もしまた戦うことになった時、教えてしまっていたら同じ手が使えへんくなる。
「いいから教えやがれ」
ウチのそんな考えはおかまいなしに、ヴォルフは吠えてくる。
それを見てウチは、まんま負け犬の遠吠えやん。
なんてことを考えてしまってちょっと笑えてしまった。
「あー、何かええもん見せてもらったなぁ。ええよ、お礼に教えてあげるわ」
「何言ってやがんだテメェ?」
ヴォルフからしたら急に意見を変えられてわけが分からんやろうけど、それもウチには関係ない。
「なんやの、聞きたくないん?」
「んなわけねぇだろ、教えやがれ」
「しゃーないなぁ。教えたるわ」
ウチはコホンと咳払いを1つすると、学校の先生を意識して教え始めた。
「アンタはいま酸素欠乏症になってんねん」
「さんそ……? あぁ?」
あ、コイツ酸素欠乏症も知らんのか。
「エリザやネーレイと違うて、ウチやアンタみたいな存在は、生物としてかなり高位な存在やけど、あくまで生物の枠を超えてへん存在や。そういうヤツは、生物の常識がそのまま当てはまる場合がある」
「何言ってやがる?」
「まぁ聞き。簡単に言うと、ウチもアンタも呼吸が出来ひんかったら死ぬ。そして、その吸った空気中の酸素濃度が極端に低かったら意識を失う。さっき効かへんのに、ずっとアンタの周りを焔で囲んでたやろ? そのせいでアンタの周りの酸素が燃焼されて、酸素濃度が低下、それを吸ったアンタは酸素が足りなくて倒れたんや」
説明したものの、サッパリ分からんって顔したヴォルフがウチを見上げてた。
アカン、アホに教えんのめっちゃ大変やん。
「まぁ、つまりはウチの焔の海に溺れたんや」
なに言ってるんやろ、ウチ。
「溺れた……?」
ほら、ヴォルフも余計分からんって顔してるやん。
「あぁ、もう後は自分で勉強し!」
そして放り投げることにした。
「しばらく経ったら起き上がれるようなるわ。ウチはもう行くしな」
そしてウチは勝ったはずやのに、妙な無力感を味わったまま退室するはめになった。
化学は苦手なのですが、大丈夫ですよね?
間違ってたらどなたかご指摘お願いします。




