117:間違った眷族の作り方
「いくら不死身って言っても、欠損部位を再生させるのには時間かかるよね」
どうやらエリザは本当に私の四肢をもぐつもりのようだ。
いくら再生するとは言っても痛いものは痛い。
さすがに勘弁して欲しい。
「おこと……わり……よ」
石柱でエリザの腕を狙うと、彼女は霧化でいとも簡単にそれを避け、すぐに実体化して今度は私の腕を掴んで地面に組み伏した。
「ぐっ」
ついでにとばかりに右手の腕を折られる。
「抵抗は無意味だと、なんで分からないかな」
仰向けに倒れる私を押さえつけ、エリザが唇が触れ合わんばかりに顔を近づけて嘆息した。
「達磨にされるって言われて大人しくしてるほどマゾじゃないのよ、私は」
「じゃあ少しはMっ気あるのかな?」
「あったとしても貴女に虐められて悦びはしないわね」
「そうかい? それは残念だ」
本当に残念そうな顔をされてしまった。
「ところでエリザ。貴女どうやって彼が目を覚ましたことを知ったの?」
「ん? それは彼が目を覚ましていることを認めるってことでいいのかい?」
「いいわ。今更隠しても仕方ないもの」
「ふむ、あっさり認められると何だか拍子抜けしてしまうね。まぁ拷問の手間が省けたと思えばいいのかな」
恐ろしいことをあっさりと言ってくれるわね、コイツ。
「で、私の質問には答えてくれないのかしら?」
「あぁ、答えるよ。別に隠すつもりもないからね」
エリザは私の真正面にあった顔をずらし、首筋に唇を当てた。
くすぐったいから止めて欲しい。
「君は、ボクが彼の血を吸っていたと聞いたら驚くかい?」
「なっ!?」
それは驚くに決まっている。
吸血鬼に血を吸われるという事は、隷属するという事。
「そんな事は有り得ないわ。彼は誰の支配化にもなかった」
彼が寝ている間にさんざ調べたのだ。間違いない。
「うん、確かに彼はボクの支配下にない」
「なら、どういうこと?」
「うん、実は恥ずかしい話、ボクは1度死に掛けてね。その時、彼がボクを助けるためにその血を与えてくれたのさ」
そういうことか。
吸血鬼に血を吸われても支配されない方法はいくつかある。
その1つが、生命力が著しく低下している吸血鬼に血を与えた場合だ。
吸血鬼が血を吸う相手を従わせるには、血を吸うという儀式と共に相手に自分の魔力を流す必要がある。
瀕死の吸血鬼には他人を隷属させる余力がない。
そんなのに魔力を回してたら、助かる命も助からないからだ。
「その顔は察したって顔だね。君は頭がいいから余計な説明をしなくて助かるよ。まぁそういうことで彼はボクの支配を受けていない。けれど、血を貰ったのは事実だ。ボクの身体には彼の血が残っている。その血が教えてくれたのさ、彼の目覚めをね」
「なるほど。それは誤算だったわ。彼からそんな話を聞いたこともなかったもの。にしても、貴女でも死に掛けることなんてあるのね」
「それはあるさ。ボクは死ににくいだけで、君みたいに死の概念から外れた存在じゃない」
「そうじゃないわ。貴女をそこまで追い詰められる存在がいたのねってこと。もしかして、彼かしら?」
「そうさ。ボクは彼に殺されかけて、彼に助けられたんだ」
「そう、それなら納得だわ」
彼ならエリザを倒すことは可能だろうし、倒した相手についての余計なことも他人には話さないだろう。
「それで、彼が目を覚ましたことを知り得た理由は分かったけど。何でこんなことしたのかしら?」
「それは言っただろう? 愛おしい男性の姿を見たいんだって」
「……それ本気だったの?」
「失礼だな。ボクは彼を愛している。そればかりは本当だよ。神に誓ってもいい」
「吸血鬼に神に誓われても説得力はないわ」
「分かっているよ。言ってみただけだ」
まぁそのくらい本当のことだって言いたいんだろうけど。
「でも、いいの? ネーレイが行ってるんでしょう? 彼は記憶を喪っているわ。いまの彼はネーレイですら手に余るわよ。ネーレイの性格上殺されてしまうかもしれない」
「うん、そうだね。でもいいさ。やられてしまっても、殺されはしないよ。彼は不死ではないけど、ネーレイ程度じゃどう頑張ってもボクが行くまでに殺せはしないよ」
それについては同意だ。
ネーレイがいくら頑張ったところで彼を死に追いやることは短時間では出来ない。
与えるダメージと再生速度が同じくらいになるだろうから。
それに、アレもあるもの。
「おや? いま悪い顔しなかったかい?」
「あら顔に出てしまったかしら?」
「隠すつもりすらなかったように思えたけど、何を考えたか教えてはくれないかな?」
「そうね……。1つは貴女の見積もりの甘さよ」
アレについては話せないから、他の事で誤魔化そう。
「どういうことだい?」
「狐ちゃんにヴォルフを当てたみたいだけど」
「うん。妖術特化の彼女に、妖魔術完全無効化の彼を当てるのは当然だろう?」
「そうね。でも、それは狐ちゃんを甘く見すぎだわ」
「なんだって? ……その顔、どうやら負け惜しみではないようだね」
「それともう1つ」
「まだあるのかい?」
「ええ」
「それも教えてくれるかい?」
「いいわ。もう1つはね……」
私はあの子がそこまで来ているのを確認し、そして呼ぶ。
「イデア!」
「ja!」
私の部屋に隠れていたイデアが飛び出してきて、エリザへと飛び掛った。




