116:銀狼と白狐
厄介なヤツがきた。
「ちっ、ハズレかよ」
部屋にウチ以外がいないことを確認すると、ヴォルフは忌々しげに呟いた。
「なんや、勝手に人の部屋に入ってきといて随分な言いようやな」
どうせアイツを探してんのやろと思うけど、素直に推察の材料は与えへん。
「兄貴はドコだ? リリーんトコか? エルシーんトコか?」
ヴォルフは人を愛称で呼ぶ。リリーはリリス、エルシーはアリシアや。
その距離感のなさがウチは苦手やった。
「アイツやったらまだ1人病室で寝てんちゃうか」
どうせアリシアのとこにおるやろけどな。
もちろん教えるわけなんかない。
コイツのオツムなら上手く言いくるめば信じるやろ。
「はっ、騙されるかよ。兄貴の目が覚めてるってコトは分かってんだ。しかも記憶を喪ってるそうじゃねぇか」
「……記憶? なんのことや?」
あっぶな!
何でコイツそんなこと知ってんねんな。
って、十中八九誰かに教えてもろたんやろな。
それが誰かというと、エリザが真っ先に候補として上がってくる。
頭が回って、コイツを焚きつけられて、アイツの事情を知ることが出来て、強引に行動に移せる程の能力持ちとなればエリザくらいのもんや。
「はっ、しらばっくれても無駄だぜ! ネタは上がってんだ」
「アンタ、エリザの言葉信じたんか?」
「あぁ? なんでエリザって知ってんだ?」
「それはいまアンタが教えてくれたわ」
カマをかけたらいとも簡単に引っ掛かってくれた。
「はぁ? 俺はそんなこと一言も教えてねーぞ?」
そして当の本人はそれにも気付いてへん。
相変わらず残念なオツムやな。
ついでにもう1つ確認しとこか。
「ウチは何でもお見通しや。エリザがアンタの他にも連れてきてるんもな」
「なんでネーレイのことまで知ってんだよ、てめぇ」
はい、教えてくれておおきに。
にしてもネーレイか。
いらんヤツ連れてきおってからに。
ヴォルフの口ぶりやと襲撃はエリザとネーレイとコイツの3人っぽいな。
それと、ヴォルフが口にした「ハズレ」の意味。
これはおそらく手分けしてアイツを探してるってことやろな。
戦力的に考えるなら、リリスにはエリザ、アリシアにはネーレイで、ウチにコイツいうわけか。
残念ながらかなり有効な配置やな。
全員が全員、相性が悪い。
さすがエリザ、嫌な攻め方してくれるわ。
「リリスはなんとかなるにしても、アリシアは辛いな」
助けに行った方がええやろか?
でも、それには目の前のコイツが邪魔やな。
「何でオメェが俺らのコト知ってんのか分かんねーけどよ。とりあえず、会ったからには俺はテメェをぶっ倒さなけりゃいけねーんだよ。オラ、かかってこいや」
ヴォルフがちょいちょいと手で招く。
誰が行くかっちゅーねん。
けど、アリシアの所に行きたいんはホンマやからなぁ。
適当に隙ついて出て行くか?
いや、それで追っかけてこられたら面倒やな。
まぁネーレイなら瞬殺出来るし、その後は2対1やから楽か?
「オイ! 無視すんじゃねーよ!」
いい気分で手招きしていたヴォルフは、知らんぷりに腹が立ったらしく、ウチの目の前のテーブルを思い切り叩いた。
その衝撃でテーブルが砕けた。
「あ……」
テーブルが砕けたことで、当然その上に乗っていた漬物も床に落ちて、そしてぶちまけられた。
「なにボーっとしてんだよ! こっち見やがれ!」
こっち見ろ? あぁ見たろやないか。
ウチはヴルフを瞳の真ん中に映した。
「アリシアの漬物になんてことしてくれんねん!」
瞬間、ヴォルフの全身が炎に包まれた。
ヴォルフは2mはある巨漢だけに、その身体を覆う火柱も相当な大きさになった。
咄嗟に出したとはいえ、この炎の温度は2000度はある。
普通の生き物やったらまず生きてられへん。
普通の生き物やったら。
「テメェ、いきなり何すんだよ」
ヴォルフは普通の生き物やない。
特に何かされたわけでもなく、ウチの炎は簡単に霧散した。
炎の中から姿を現したソイツは全身が銀色に輝いていた。
尖った耳に、裂けたような大きな口、鋭い牙と爪、そして全身を覆う体毛。
一言で表すなら、銀色の狼男の姿をしていた。
そしてその身体のどこにも怪我を負った様子はない。
「火傷の1つもしーや。可愛げないわー」
「あぁ? 知るかよ。俺に傷をつけたけりゃ素手でかかってこいや」
2mを超える狼男に、150cmもない小さな女の子のウチが素手で掛かっていっても勝てるわけがない。
身長差は50cm以上やけど、体格は倍じゃすまへん。
けど、不本意ながらもウチはその提案通り素手で立ち向かうしかなかった。
「ホンマ鬱陶しい体質やで」
狼男の長い歴史の中でも2人しか存在しなかった奇跡。
ヴォルフの銀毛は破魔の証。
全ての不浄を払う、神秘の光。
「全特殊攻撃無効とか、ゲームのラスボスかっちゅーねん」
ヴォルフの銀毛はありとあらゆる異能を打ち消す。
しかも、狼男だから単純な腕力や敏捷性、耐久値もバカ高い。
欠点は頭が悪いことくらい。
まぁ、それが救いようがないくらいの欠点でもあるんやけど。
方や、ウチは焔には絶対の自信があるけど、身体能力はボチボチくらいや。
正直、まともにやって勝てるきはせん。
「さぁて、少しは楽しませてくれよ」
ヴォルフがその獰猛な牙を見せ付けるように笑う。
コイツは相手が幼女やからって手心を加えるような真似は絶対せーへん。
あぁもう、ホンマに厄介や。




