115:露曝
ろばく
骨の砕ける音と感触が脚を介して伝わってくる。
ハッキリとした手応え。
「ちっ」
けれど、それは私の求めていた手応えじゃなかった。
ネーレイは顔面を狙った蹴りを自分の手で防御していた。
格闘の心得のないネーレイは威力を殺すといった芸当が出来ないせいで腕は折れたけど、意識はハッキリと持っている。
つまりは仕留め損ねたのだった。
「でも、好機には違いない! 一気に行くよ」
ガードしたまま吹っ飛ばされたネーレイを追う。
このまま壁に激突して体勢を崩しているところを連続攻撃で倒しきる!
「……舐めないでって言ったわ」
「なっ!?」
ネーレイは壁まで飛んでいかなかった。
巨大な水球をクッションとして利用したからだ。
でも、そんなのをいつの間に……あっ!
「さっき水壁が防御にこなかったのは――」
「……そう、防御できなかったんじゃない。しなかったのよ。こうして低脳女の隙を作るためにね」
追撃を仕掛けるべく前のめりになっている私に十全の防御を取ることは出来ない。
苦し紛れに放った音波は水球の表面を揺らして終わった。
「……死ね」
水球から次々と高圧で水が発射され、無防備な私の身体へと直撃した。
「きゃぁぁぁぁあ!」
コンクリートにすら穴を開ける威力の水鉄砲に私の身体は軋みをあげる。
何十回もその攻撃は続き、球の水量が最後の1回分になると、今度はそれで私の足を掴んで振り回し始めた。
「……ふふふ、あははははは!」
私の身体はおもちゃみたいに上下左右に振られ、地面に壁に天井に叩きつけられた。
「アリシアーーーーー!」
遠くで御主人様の声が聞こえる。
それが切っ掛けとなったのか、私の身体は今まで以上に大きく振りかぶられた。
「……止めよ」
最大の速度で触手が振られた。
けれど、それは不発に終わった。
別に誰が何をしたわけでもなく、度重なる攻撃でボロボロになっていた私のブーツがすっぽ抜けただけだったんだけど。
私の身体は宙を舞った。
どっちにしろこの状態で硬い地面に落ちると無事じゃすまないな、と思いながらも私の身体は油を差し忘れた機械のように動きが鈍い。
さらに頭から落ちるオマケつきっぽい。
目を閉じて落下の痛みに備える。
「っとおりゃあぁぁぁぁ!」
けれど、私の身体は柔らかい何かに受け止められた。
想像していた痛みは襲ってこなかった。
「アリシア、しっかり! アリシア!」
少し遅れて、御主人様に受け止めてもらったんだと気付いた。
目を開けると、泣きそうな顔の御主人様の顔が見えた。
あぁ、そんな心配そうな顔をなさらないで下さい。
「御主人様……私は大丈夫ですよ」
「アリシア……」
実は全然大丈夫じゃないんだけど、そう言うわけにもいかない。
私の返事を聞いて御主人様はほっとされたようだった。
そして、私の身体が御主人様に優しく抱きかかえられる。
身体は痛むけど、こんな役得があるならよかったかな、とか思ってしまった。
けれど、私を心配そうに見る御主人様の顔が途中で驚きに変わった。
どうされたのかなと思って御主人様の視線を追うと、原因が分かってしまった。
御主人様の視線は私の体の一部に注がれていた。
さっきの衝撃で裂かれ破れてしまったメイド服。
そのせいで露わになってしまった私の身体。
私がどうしても御主人様に見られたくなかったもの。
必死に隠そうとしていたもの。
それが、いま御主人様の目の前に晒されていた。
私の足。
それは誰がどう見ても、人間の足じゃなかった。
化物の、足だった。
本当は前話と合わせて1話の予定だったのですが、長くなったので分割しました。




