10:過去の手掛かり
今この子なんて言った?
やはり、私の事は覚えていない。
そう言った。
それはつまり、記憶を失う前からの知り合いという事じゃないのか。
「君は過去に会ったことがあるのか?」
アリシアはその問いに力強く頷いた。
「はい、私はずっと昔から御主人様と共におりました」
ずっと、共に!?
「え、もしかしてこれは突然のことじゃなくて、昔っからアリシアとは主従関係だったってこと?」
にわかに沸いた記憶の手がかりを見つけ、必死にそれに手を伸ばす。
しかし、アリシアは悲しそうに顔を横に振ると、
「申し訳御座いません。それはお答えできません」
「え……ど、どうして?」
予想外の答えに愕然とする。
「それもお答えできません。私がいまお答えできるのは、私は御主人様とは以前からの知り合いだった、ということだけです」
「どういうこと? それに、いまって?」
いま答えられないなら、後ならいいのか?
「それが、決まりだからです」
「決まりってなんの?」
「それも、お答えできません」
その突き放すような返事の連続に、一瞬カッとなりそうになったけど、アリシアの表情を見てその怒りは一気に冷めた。
後悔なのか、憐憫なのか、悲哀なのか、何処からくる感情か分からないけど、凄く辛そうな表情をしていた。
それは、決して個人的な感情ではなく、感情をも抑えないといけない決意の元、答えないのだと分からされてしまった。
「本当に、申し訳御座いません。もし納得できないと仰るならば、この命を差し出してでもお詫びいたしましょう」
命よりも大事な決意。どれだけの悲壮な決断なのだろうか。
「いや、いいよ。こっちこそ無理に聞いてゴメンね」
怒りなんて、とっくになくなっている。
気にしなくていいよ、と小さく震えるアリシアの肩に触れる。
こんな華奢な肩にどんなものを背負っているのか。
「だから、命を差し出すなんて言わないでね」
出来るだけ明るく言ってみた。すると、少しは安心させてあげられたのか、震えはゆっくりと収まっていった。
「御主人様……」
安心して涙腺が緩んだのか、アリシアの目が滲んできている。
いやぁ、よかったよかった。やっぱり女の子には落ち込んだりして欲しくないもんね。
などと、安心していたのもつかの間だった。
2014/4/24 誤字修正




