105:日本と西欧
クイズ対決は、最初の問題でハンデは消化され、しかもポイントまでこちらに入るという波乱の幕開けとなった。
「さすが御主人様! ご慧眼に感服いたします!」
そして自分が答えたかのように喜ぶアリシア。
いや、勝負なんだから悔しがろうよ。
「くっ」
狐々乃月は平たい胸に手を当てて悔しそうに唸っている。
それにしても、もしかして2人はクイズとか苦手なんだろうか?
運動は常人では及びも付かないほどに秀でているけど。
でも、それじゃまるで脳き……いいや、考えちゃダメだ。
とりあえず、これなら勝ち目がありそうだ。
運動では勝てないけど、クイズなら!
「デハ続イテ第二問」
3人が一斉に静かになる。
「随筆・枕草子ノ冒頭ニ出テクル『春は曙』ト同ジ様ニ続ク、『夏秋冬』其々ノヨイ時間ハ何カ?」
え、ちょっといきなり問題の趣向変わってない?
枕草子って言われても、作者しか分からないし、なんなら知ってるのは春は曙が限界だ。
そんな風に悩んでいるのを尻目に、左からボタンを押す音が聞こえる。
左は狐々乃月だ。
「夏は夜、秋は夕暮れ、冬は早朝」
「正解デス。狐々乃月ニ10P入リマス」
狐々乃月はさも常識のようにスラスラと答えた。
「なんや、人を変な目で見て」
驚きの視線に気付いたのか、狐々乃月が怪訝な顔つきで苦情を漏らしてくる。
「いや、さすが長生きしてるだけあるなぁ、と」
「アホか、こんなん常識やろ。あと、長生き言うてもさすがに枕草子が書かれた時代は生まれてへんからな」
「枕草子って書かれたのいつだっけ?」
「平安やからもう1000年前やな。ウチが生まれたんは江戸や」
「そっか、そんなになんだ」
「まぁ自分、前からこういうのには興味なかったしな」
300歳ってもの凄い長生きなんだけど、1000年はさすがにケタが違ったか。
「モウ宜シイデスカ? 第三問ニ移リマス」
雑談はここで終わり、再び問題文に耳を傾ける。
「今カラ読ミ上ゲル英文ヲ日本語ニ約シナサイ」
え、英語!?
「Who killed CockRobin? I'said the Sparrow」
ふーきるくっくろびん……あとなんだっけ?
ある程度は聞き取れたけど、全部は覚えきれない。
簡単な単語ばっかりみたいだったけど。
そうやって悩んでいるときに今度は右からボタンを押す音が聞こえた。
左が狐々乃月だったんだから、右は当然アリシアだ。
「誰が駒鳥を殺した? 私だとスズメは言った」
「正解デス。ありしあニ10P入リマス」
アリシアも正解を答えたものの、特になんでもない顔をしていた。
「アリシアって英語出来るんだ?」
その問いに対してアリシアは不思議そうな顔で答えた。
「はい。元々は英語圏の生まれですから」
「え、そうなの?」
「ええ」
こっくりと頷く。
でも考えてみれば、アリシアは栗色の髪はともかく、瞳は綺麗な緑色をしている。
顔つきも日本人っぽくはない。
どう見ても西洋の人間の特徴を備えている。
「日本語上手だし、てっきり日本人かと思ってたよ」
「日本語は後になって頑張って覚えたんですよ。でも、御主人様に違和感無く聞き取っていただけてたなら頑張った甲斐がありました」
アリシアは嬉しそうに微笑んだ。
ぐっ、可愛い。
また不意打ちか!
これだからアリシアは油断ならないんだぜ!
「けど、緑の目した日本人はおらんやろ」
アリシアの笑顔にやられている後ろから狐々乃月が茶々を入れてくる。
「いや、白髪赤眼の日本妖怪にそれは言われたくないよ」
「それもそやな」
何が面白かったのか、狐々乃月はかんらかんらと愉快げに笑った。




