102:彼女の決意
迷路をクリアするにあたって、アリシアと狐々乃月はリリスの文句を受けて――文句というより正当な抗議ではあるが――普通に進むことにした。
もちろんその過程で行き止まりにその歩みを阻まれることはあったが、彼と違って全ての行き止まりに出遭うということももちろんなかった。
それは単純に彼の引きが悪すぎただけである。
「思ったよりまともな迷路ですね」
リリスの作った迷路だから、どんな趣味の悪いものかと思ったアリシアだが、その造り自体は至極まともなものであることに驚いていた。
ついでに言うと狐々乃月も同じような感想を抱いていた。
「と思ったら扉ですか……なにがあることやら」
突然現れた扉に対し不信感を抱いたが、ここが順路であったなら通らざるを得ないので、警戒しながら扉を開ける。
そっと覗いた先は大きな部屋だった。
彼と同じ、壁登りの障害が行く手を阻む部屋である。
ただ彼と違ったのは壁の角度が垂直以上、おおよそ120度あったことだ。
見上げれば自分のほうに迫ってくるように壁が屹立している。
なお足掛かりのための石はかなり少ない。
2m四方に1つあるくらいのものだ。
「これは、登ればいいんですかね」
しかしアリシアはそんな無理ゲーとも言える障害に対して、動揺した風もない。
「まぁ登ってみれば分かるでしょう」
垂直の壁があった彼と違い、手前に壁が傾いているこの部屋では壁の上にある扉が見えないのだ。
アリシアは首を廻らせて簡単に部屋の構造を把握すると、地面を蹴って跳びあがった。
その跳躍は一足で5mもの高さに達し、そこにある石を蹴って反対側へと飛び移る。
この時点で10mあった壁を越えている。
最後に扉があることを確認したアリシアは、壁を蹴って扉の前へと着地した。
「こんなものを作って何のつもりでしょう?」
アリシアは障害とすら認識されないほどにあっさりとクリアしてしまった。
垂直の壁に苦戦していた彼は形無しである。
アリシアはクリアした障害を振り返りもせず、先へと進む。
「しかし、やっかいなことになりそうですね」
彼女の頭にあったのは、先程リリスから聞かされたエリザの話だ。
リリスに不備を指摘したものの、実際は無理からぬことであるともアリシアは思っていた。
確かにエリザにはリリスの能力は効果が薄い。
それに一箇所にジッとしているのが苦手なエリザのことだから、リリスの報告をいつまでも待ちはしないだろう。
いずれ我慢ができなくなって自分で探り出し、そして遅かれ早かれ彼のことは露見するだろうとは思っていたのだ。
それはリリスとアリシアと狐々乃月の共通認識でもあった。
ただ、彼女たちが思ってた以上にバレるのが早い。
まだ彼が目覚めて3日目である。
経過時間でいうならまだ丸2日程度だ。
いくらなんでも早過ぎる。
予想よりもかなり早い。
早いかもしれないけれど、これはいざという時のことも考えていたほうがいいかもしれない。
まだ大丈夫と高を括って日々を過ごし、その中で不意を突かれてしまっては目も当てられないことになる。
リリスがもちろん対策は立てるだろうが、いや既に立てているかもしれないが、それに頼ってばかりはいられない。
自分や狐々乃月も覚悟はしておかなければ。
いつ、エリザがやってきてもいいように。
いつでも対峙する心構えをしておかなければ、やれられてしまう。
最悪の場合、彼を殺されてしまう。
そう考え、アリシアは気持ちを引き締めた。
「御主人様のことは必ず私が守る」
目を向けるは彼の気配がする方向。
「この命に代えても」




