101:招かれざる客
「さぁて、彼はスタートしたみたいねぇ」
病院の1室、誰も知らないくらい部屋でリリスはモニターを見ながら呟いた。
彼が懸念していた通り、迷路を彷徨う彼らの行動は逐一チェックされていた。
リリスはマイクを片手に、空いた手で何やらスイッチを操作しながら語りかけた。
「ちょぉっといいかしらぁ」
その放送が聞こえたのはアリシアと狐々乃月だけだった。
彼には何も聞こえず、そして気付かずに迷路を散策している。
「なんや?」
狐々乃月がやや生返事ながらも問い返した。
アリシアは返事こそしなかったものの、反応がある以上は耳を傾けてはいるはずだ。
「この迷路の主目的よぉ」
「暇つぶしちゃうかったん?」
確かに穴に落とされる前はそう言っていた。
アリシアも狐々乃月も疑いなくそう思っていた。
「違うわよぉ失礼ねぇ。私が暇つぶしの為だけにこんな大掛かりなもの用意するわけないじゃなぁい」
「いや、アンタやったらやるやろ」
台詞にかぶせるくらいの素早さで狐々乃月のツッコミが入った。
「確かにやるわねぇ」
リリスもあっさりと認めてしまう。
自分が楽しむためなら労力を厭わない暇人。それがリリスだった。
中には手間が掛かりすぎて、楽しさに見合わないものまで用意することもあった。
というか今がまさにそうだ。
いくら自身の領域内を自由に操作出来るからといっても、ここまで大掛かりな迷路を作るのは楽ではない。
簡単に大変さを説明すると、頭の中で齟齬や矛盾が出ないような正確な設計図をイメージしないといけないのだ。
それもかなりハッキリと。
リリスのイメージがそのままの形となるため、こんな感じ程度の想像力では何も変化が起きないのだ。あるいはめちゃくちゃになるか。
普通の人なら自分の家の間取りでさえハッキリとした形にイメージするのも難しいものだ。
「で、なんなんですかその目的っていうのは」
探索を続けながらアリシアが続きを促す。
「それがねぇ、彼が目を覚ましたことがエリザにバレちゃったかもしれないのよねぇ」
「はぁ!?」
「それ、ホンマに言うてんの?」
リリスの言葉に2人が驚きの声を上げる。
それもそのはず。
「エリザたちにはまだ当分話さないって決めたじゃないですか。何やってたんですか」
アリシアが声を荒げてリリスを責める。
「さすがに私から話したりぃ、他の口から漏れるようなことはしてないわよぉ」
「なんや、つまりエリザが自分で嗅ぎつけたってことなん?」
「そういうことになるわねぇ」
「あと、かもしれへんって言うたな。てことはまだバレてへん可能性もあるってことか?」
「まだハッキリと彼の姿を見たわけじゃないのよねぇ。でもぉ、楽観的思考は危ないと思うのよねぇ」
「そうやな。アレは賢しい上に勘も鋭いしな。リリスが気に掛かるってくらいなら、もうバレとるやろ」
「何でそんなことになったんですか?」
「彼女の特性上、領域内でも行動の全てを把握することが出来ないのよねぇ。それで、おそらく偶然なんだろうけれど、探知不可状態のエリザと彼が鉢合わせかけたのよねぇ。幸いあの状態だと彼女も知覚能力が極端に落ちるからぁ」
「なんてこと……」
「まぁ一大事なんは理解した。んで、それがなんで迷路に繋がったんや?」
まだ最初の説明がされてない。
「とりあえず時間稼ぎねぇ。エリザが彼の居場所を特定する前にぃ、調査中は部屋から、というかフロアから追い出したかったのよぉ。もし何か聞かれたら口で何とかいいくるめるけどねぇ」
「御主人様を部屋から追い出した理由は分かりましたけど、迷路である理由は?」
「え?」
「え?」
どうやら特に無いらしい。
「とにかくそういうわけだからぁ、時間稼ぎに付き合ってねぇ」
ごまかすようにそれだけ言ってリリスは放送を切った。




