100:迷路のKY攻略法
時間はちょっと戻って3人が迷路に投げ入れられた頃。
彼と同じように、アリシアと狐々乃月もそれぞれが迷路のスタート地点に立っていた。
もちろん無様に転がることなく、アリシアは柔らかく、狐々乃月は軽やかに降り立った。
そして間をおかずに放送が流れた。
「ぴんぽんぱんぽーん」
抑揚の無い、それでいて妙に発声のいいこの声はイデアだろう。
2人はすぐに判断した。
「まいくてすまいくてす。ja、問題有リマセン」
やっぱり。
彼女は真面目すぎる気性ゆえにリリスの命令を疑問も持たずにこなす。
それが時に滑稽ですらあるのだけれど、当の本人は真面目にしているつもりなので気付いている様子は無い。
だからこそ、
「進め前へぇ!」
「目指セ出口!」
「「超巨大迷路ヘクセンケーフィヒ!」」
とかいうわけの分からない掛け声もしてしまうのだ。
ノリノリのリリスとのギャップで余計におかしく聞こえる。
「超巨大迷路?」
それだけ聞いてアリシアの頭に思い浮かんだのは1つだった。
おそらく御主人様も同じようにこの迷路に放り込まれているはず。
そして困っていることだろう。
ならば私がすぐにでも馳せ参じてお助けしなければ。
要は愛しの御主人様のことだけだった。
だからこそ、彼女は手っ取り早い方法を実行した。
「ルールは簡単よぉ。とりあえずぅ、その迷路を頑張ってクリアしてねぇ
」
リリスの言葉を聞くまでも無く、アリシアはすぐ横の壁を触り感触を確かめると、その大きなブーツで壁を蹴った。
壁はもろくも崩れ去り、余裕で人が通れるほどの大穴が開いた。
なおこの壁の強度は一般的な学校の校舎の壁くらいはある。
「ちょっとちょっとぉ、アリシアちゃん何してるのよぉ。いきなり壁壊さないでよねぇ」
アリシアの暴挙に驚いたリリスが急いで止めに入る。
「だって御主人様の所へ行かねばなりませんから。わざわざ繋がってるかどうかも分からない通路を歩くよりは断然早いでしょう」
アリシアはもちろんいたって真面目である。
迷路の進み方としては真面目の対極の方法だったけれど。
「だってもなにもないわよぉ。迷路をそんな方法でクリアしようとしないでちょおだいな。というか、なんで方向分かるのぉ?」
これはアリシアが蹴り砕いた壁の方角が、彼のいる方角と違わなかったからだ。
「こっちから御主人様の気配がしました」
「え? あぁ、そう」
忠犬も真っ青になりそうな理由だった。
さらに今度は狐々乃月のほうで問題が発生した。
「ほら行ってきー」
狐々乃月は5匹の焔で象られた子狐を喚び出して、それぞれを迷路の向こうへと進ませた。
つまりは偵察させたのだ。
知能も何もない1つの命令だけを実行する程度のものだけれど、迷路ではそれは非常に役に立つ。
先へ行かなくてもどっちへ曲がれば行き止まりか、を把握できるのだから。
「ってぇ、狐ちゃんも止めなさい。それはさすがにズルイわよぉ」
もちろんリリスは即時中止を求めた。
そんな地図を持つような真似をされては迷路の意味が無い。
壁を壊したり偵察を送ったりと、迷路攻略の正道から離れる2人にリリスは大きな溜め息を漏らした。
「壁、壊せなくなってますね」
リリスの言葉を無視してアリシアは更に壁を蹴り壊そうと試みたものの、今度は簡単に蹴り壊せなくなっていた。
壁が何十もの層になって威力を分散させ、1発で蹴り壊せないようになったのだ。
しかも、蹴り足を戻している間に再生する。
簡単に壊せないと判断したアリシアは次なる手段の行使を試みる。
「あぁ! アリシアちゃんそれはダメよぉ! それやったらもう迷路の意味自体なくなっちゃうじゃない!」
しかし、何をするか感づいたリリスが咄嗟にその行動を止める。
「ちっ」
邪魔をされたアリシアは隠すことなく舌打ちをした。
こんなメイド嫌だ。
「もうどうして貴女たちは真面目にしようとしないのよぉ」
リリスの悲鳴が迷路に弱々しく響いた。




