感傷
ナイツリーダーであるシュタインは不治の病に冒されていた。
その事に取乱し、冷静さを失ったリディだったが、その姿を見たシュタインがとった行動は拒絶するかのようなものだった。
「姉さん……どうして……」
なだめる同僚たちを振り切り、リディはゼノン城の特に見晴らしの良い展望台でただ1人、立てつけられた木製の椅子に座り込んで下を向いていた。シュタインにぶたれた頬に夕日が照りつけて痛む。涼しい風が寂しさを誘う。こんなことは、初めてだった。姉のように慕ってきた彼女があんなにも起こった事は。そして、手を出してきた事も。
頭には、何も浮ばない。
ただ、悲しい気持ちだけが心の中に充満していた。
「……おお、リディ! こんなところにいたのか!」
その声に、リディは振り向く。
そこには、エメラルド色の髭を生やした壮年の軍師風の男がいた。彼は、かつてナイツリーダーを勤めていた者で、名をグラート=オルデファンと言う。このグラートは、リディを見つけるなり、その椅子の横にドシンと座ってリディの肩に手をまわしてきた。
「聞いたぞ? シュタインにこっぴどく言われたんだってな!」
「……はい」
「まあ、あんまり落ち込むなよ?」
「……でも、隊長はもう二度と顔も見たくないって」
「ホンネじゃないさ。ただ、怒らせたのはお前さんにも責任がある。ああ言う場で急に騎士を忘れて子供に戻っちまったら、俺だってぶん殴るからな。いままで、必死に教えてきた事は何だったんだ!? ……って感じでな」
そういって、グラートは拳を突き立てて笑った。
リディはそれを素直に冗談と受け止めきれなかったが、少しは心が落ち着いた気がした。
「ごめんなさい、グラートさん。あんなに取り乱したりして。たしかに、そうですね。僕は、ゼノンの騎士。ここで働く上では私情を挟んではいけない事は分かっていたのに……」
「分かればそれでいいんだ。思いつめる必要はないさ。あいつはそんな引きずる奴じゃないから、すぐに許してくれるだろうよ」
「だといいんですが……」リディは両手の指と指を合わせて無意識に動かしていた。
「グラートさん、隊長が助かる方法って本当にないんでしょうか?」
「ああ」
「そんな……」
「こらこら、真に受けるなって! ジョーダンだよジョーダン! 俺達だってそう簡単にアイツは死なせやしねぇよ。何てったってあいつは国の宝何だからさ」
「じゃあ!」
「そのために、お前を呼びに来たんだ。ちょっとやってもらう仕事ができたから、ひとまず今から王室に向うぞ」
「はい!」
リディの体には再び力が舞い戻った。
そしてすっくと立ち上がると、グラートと共に歩きだした。




