陰る希望
場所はゼノン王国。
騎士たちは、不可避となった戦を覚悟していた……
「しっかし、大変なことになったでやんすね!」
木製の椅子に足をクロスさせて偉そうに腰かけ、僧侶のレンダが言った。
机を挟んで対面して座る剣士のリディと戦士のファリアは、そんな行儀の悪い彼女の様子に呆れたような表情を浮かべる。
「いつもの事だけど、聖職者とは思えない態度と言葉遣いだな」レイルは、小さくため息を付ながら言った。
「ふん、悪かったでやんすね! オイラだって好きでこんな職業選んだわけじゃないでやんす! 後方支援なんて地味な仕事やるより、前線でドンパチやる方が良いでやんす! おまいらが羨ましいでやんす」
「まあ、確かにレンダはそっちのほうが向いてるかも……でも、別に羨ましがることじゃないだろ? 相手の兵力は相当数だって言うじゃないか。後方支援の方が生き延びられる確率は高いよ」
「オイラ達だけ生き延びたって、しょうがないでやんす。戦いの中でバサッと美しい花のように散った方がずーっと騎士らしいし素敵でやんす!」
「そういう馬鹿なこと言ってると、また隊長に怒られるぞ?」
「いいでやんす。もう、慣れたでやんす! シュタイン隊長はおやさしいから、怒られもドウってことないでやんすよ」
「まったく……ファリア、このアンポンタンに何か言うことはないかい?」
無口なファリアは、リディに振られても無言を徹した。
まるで、馬鹿にかける言葉は持ち合わせていないとでも言っているように。
「……ふん! それで、話を戻すけど、この戦はどっちが有利なんでやんすかね?」
「わからないよ」
「かーっ! それじゃあ、討論にならないでやんす!」
「だって、情報がまだきちんと整理できてないんだからさ。10万って話もあれば、100万って言う話もある感じだし」
「はっきりいって、この国は情報伝達能力が低すぎでやんす! 戦っていうのは情報戦でもあるんでやんすよ?」
「仕方がないよ……世界が大きく変わってしまったから、交通網も混乱してるんだ。それにガレルバイン王国は常に厳戒態勢で海上や陸路を封鎖しているから、入ることも難しい。密偵も出したみたいだけど、捕まってしまったのか帰って来てないらしいじゃないか。とにかく、情報収集が難しい状態なんだ」
「でも、このまま戦いが始まったらヤバいでやんすよ? はぁー、こんな事ならオイラがガレルバインに乗り込んでバカスカやりたいところでやんす」
レンダが悪態をついていると、後ろのドアが勢いよく開いた。
そして、涼しい風が、この第三騎士隊の兵舎内に吹き付ける。
「リディ! 大変だ!」
入って来たのは魔術師のソレルだった。
フードのついた、この季節には少々暑そうなローブを着た彼は、わずかに汗を垂らしながら荒い息でリディの方を見る。その真剣な眼差しに、リディはただ事ではない問題が起こったのだと察知した。
「何があったんだい? ガレルバインが動いたのか?」
「ちがう。もっと、大きな問題だよ!」
「えっ……それは……」
「シュタイン隊長が、血を吐いて倒れたんだ! 」
「なんだって……!?」
リディの体に、突き抜けるような悪寒が走った。そして全身が震えだす。
そして、彼はソレルから何も聞かずに兵舎から飛び出した。
ゼノン王国の希望である「ナイツリーダー」、そして彼にとって唯一の家族と呼べる存在に突然訪れた危機であった。




