第56話「帰還と振り切れぬ過去と何これ?」
第56話で御座います!
序盤がかなり暗く仕上がっております。
side 藍
さて、幻城の戦いから暫く経ち、漸く薊城に帰ってきた私達を出迎えたのは、小さな2人組のフライングボディアタックだった。
『白蓮!!』
「うわっ、菊香に清凛どうしたんだ!?」
2人共、涙目ですね~。
いよっ二児のお父さん、気分は如何?
って、頭で考えただけなのに睨まれたよ?
「帰りが遅かったから心配したよ~。」
「白蓮、怪我はしてない?」
そう言われて、優しい笑みを2人に見せながら白蓮は言う。
「大丈夫だったよ、それに2人を置いて何処かに行くわけ無いだろう?」
そう言われて2人は笑顔で頷くのでした。
白蓮、お父さんしてるねぇ。
…良いなぁって、駄目だね…時々寂しくなるよ。
今幸せかどうか聞かれたら、間違いなく幸せだって言える。
けど緑と生きていた、昔も間違いなく幸せだった…
唯一手には入らなかったモノがあったけど…
子供が…欲しかったんだよね…
『小夜』との子供が…
「藍…」
そう緑に小声で言われて気付いた。
私って今更だけど、割り切れてないじゃん。
だって、今凄く悲しいんだもん。
流石に、この顔は緑には見られたけど、これ以上誰にも見せたくなかった私は早足でこの場を去った。
途中で誰かに何か言われたけど、頭に入らなかったよ。
悲しすぎて頭の中がぐちゃぐちゃだ。
ちょっと何処かに逃げたいよ…
side 藍 out
side 緑
藍が早足で扉を通り過ぎようとして、焔耶が驚いて藍に呼び掛けていた。
「ら、藍お姉様!?どちらへ!?」
藍はその言葉に答えずに、扉を通り過ぎてその後走り出したようだ。
「藍の奴、一体どうしたんだ?」
「白蓮、すいませんが今のは見なかった事にしてくれませんか?」
「…何かあったのか?」
「…すいませんが、何とも。」
駄目だ、藍の気持ちが凄く良く判る。
あたし達2人の夢見た姿を見せられたら…
二度と叶わない夢なんて見せられたら…
この場になんて居られない。
「すいません、皆もお願いします。見なかった事にして下さい。」
そう言ってあたしは頭を下げた。
「緑姉さんは、藍お姉様が出て行ってしまった理由が判るんですか?」
あたしはそれに答えられず、ただ頭を下げる続けるだけだった。
「緑、今は良いから藍を追いかけてやれ。後で、話せるようになったら聞かせてくれよ?」
白蓮が、あたしの背中越しにそう言ってくれたので、黙って頭を下げたまま頷き、顔を伏せたまま走り出した。
声なんて出せる訳がない。
涙声しか出せないもの…
藍を探して1人、林に出てきた。
多分、藍はこの小川の畔に居るはずだと思ったからだ。
案の定、藍はあたしと一緒にのんびりした、小川の見える木の下で体育座りしていた。
あたしはゆっくりと近づいて隣に座る。
「藍、夢見ちゃったね…」
「ごめん、逃げ出して…私より、緑の方が辛いはずなのに、あの場所にいられなかった…つらすぎるよ…なんで私たちが…」
「ほんとうに…なんであたしたちが…」
2人で、ただ泣いていた。
この世界には、何の関係もない事で、あたし達はただ泣き叫んだ。
後にも先にも、こんなに泣いたのは無いだろう。
「緑、私さぁ、子供は最低3人欲しかったんだ。」
「へえ、あたしは2人だったよ。」
2人で夢だったモノを話し合う…
今更意味すら無いことを…
「そうだったんだ、今更だけどさ、辛いもんだね。」
「うん、多分藍も頭の中が整理出来なかったんだよね?」
「うん、白蓮と菊香に清凛の姿を見たらさ、自分が子供を抱いている姿が見えて、その場に居られなくなったよ…」
誰も悪くないけど、あたし達にとっては悪夢でしかない。
羨ましいし妬ましい…
無い物ねだりなんて、最低じゃない…
もう見ることの叶わないモノを見て急に悲しみが溢れるなんて、結局あたしも藍も過去を捨て切れてないと、まざまざと突きつけられた形だ。
「はぁ、泣いたおかげで多少はすっきりしたかな?」
「そうね…あのね、藍。」
「どうしたの?」
「もし良かったら、養子を取らない?」
あたしの言葉に、藍が笑みを浮かべて返す。
「良いかも知れないね、前向きに考えよう。」
「うん、ありがとう、藍。」
そして、言葉の後に唇を重ね合う。
あたし達の気持ちは変わらない。
けれど欲しい物は多分一生無理かも知れない。
でも、諦めたら何も手に出来ないなら、あたし達は最後まで足掻き続けよう。
あたしの愛しい夫と共に…
side 緑 out
side 藍
はぁ、格好悪いし皆に心配させるし、そこの所どうなんだろうね。
とりあえず、皆に謝ったら、皆何も言わなかったよ。
踏ん切りをつけるって凄く難しい事だって漸く判るとか、何とも言えないよ。
一生判らないよりは、良いけどさ。
菊香ちゃんや清凛君も心配してたし、子供を心配させてどうするんだ、私!!って感じだなぁ…
とりあえずあの約束を果たす為、緑と焔耶を今晩私の部屋に呼んでおいた。
そして、その夜2人が来たんだけど…
「…わたし達には言えないことか?」
「まさか、私達はのけ者と言うことかしらね?」
「藍、2人しか呼ばないって言うのはどうしてなんだろうな?」
「緑と焔耶だけ呼んでおいて、拙者達は駄目とは言わせませんぞ?」
「ごめんなさい、藍姉様!!どうしても聞きたいんです!!」
おぅ、どうしてこうなった。
まさか、言及がなかったのはこの為だったのかぁ!?
「あ~う~その~。」
「藍…。」
緑が心配そうに私を見つめている。
緑にだけは、今夜何をするか伝えてあるんだけど…
流石に、私達2人の事を焔耶以外に言うのはマズいでしょうよ…。
しかし、この状態…
どっちゃにせよ、ヤバいわ。
急に頭の中に声が響き渡る。
《まあ、彼女らも関係者と言えば関係者じゃし致し方なかろう。》
「だ、誰だ!?お姉様?」
焔耶がスワンチカを抜こうとしたので、右手を掴んで首を振る。
「あの~本当に良いんですか?」
《お主等2人も、何時までも隠したままでは辛かろう?》
「し、しかし…」
緑も流石に慌てるが、あの人は気にせず言ってのける。
《まあ、いざとなれば色々いじるだけじゃしな。》
「「こらー!!」」
流石に無責任な言葉に私と緑はツッコミを入れる。
ツッコミを入れた直後、辺りがセピア色に染まり、光があたりを包んだ。
そして…
『さてと、一応自己紹介と行こうかのぅ。我が名はオーディン、北欧方面を司る主神であり、徐公明と満伯寧をこの世に送り込んだ者の1人と言ったところかのぅ。』
私達をこの世界に送り込んだ張本人が、直々に私の部屋に現れたのだった。
side 藍 out
此処で切るとか確信犯ですね~。
だって次話が、長くなりそうなんだも~ん。
可愛く言ってみました。
後悔はしていない!!