第46話「手紙の行方」
第46話で御座います!
題名通り、藍の手紙の行方です。
side 劉景升
私の名前は劉表、字は景升と言う。
阿呆の袁本初が、洛陽にいる董仲穎を攻めるから力を貸せと言う、阿呆丸出しの手紙を寄越して来たので、使いには後で返事を返すと言って追い返した。
皇帝の居る洛陽を誰かに難癖をつければ、攻められるとでも思ったのかねぇ?
阿呆が、少なくともそんな事を私が許すとでも思っているのかねぇ。
どちらにせよ五月蝿い塵が脇を飛び回っているからねぇ、動くに動けんかったが、ある奴から手紙が届いて動かざるを得なくなったんだよ。
河東の青剣からの手紙…
徐家の女になったと聞いた時には驚いたもんだ、あの無表情で無愛想な奴を嫁に貰う物好きが居たなんてねぇ。
余談なんだが、鷹が鷲を生んだと風の噂に聞いていたが、公孫家に徐公明なる奴が居ると聞き得物に剣使っていると知った時に、コイツは青(「ちん」久しぶりの登場だが藍の母親の真名)の娘だと理解した。
まあ、それとは別なんだが、あの青剣が手紙を書いて寄越した時に、その手紙の中にもう一つ手紙が入っていたんだよ。
吃驚繋がりで吃驚したよ、娘の為にあの青剣がわざわざ私に手紙を書き、娘の手紙と一緒に手紙を送ってくるなんてねぇ。
手紙の中身にも驚かされた。
曰く、皇帝陛下と皇子を救うために、力を貸してほしいと、この私に言ってきたんだよ?
当然、私は即答したかったのだが、何分先が見えない献策は見えるようになるまで、待つ主義なんで手紙を書いて、公明に送り返したのさ。
皇帝陛下と皇子を無事に保護できたら考えてやるってねぇ。
そしたらどうだい、見事に私の条件に答えやがったんだよ。
公明の名前の下に官職名付きで、しかも劉弁陛下の印も押してある書状が届いたのさ。
仕方ないねぇ、本来なら私が動かないといけないんだが、黄猿と莫迦な小娘共が居るから動けないんだよねぇ。
「仰せにより只今罷り越しました、梅香様。」
「ああ、よく来てくれた、息災か?紫苑。」
「…ええ、何とか。」
「相変わらず暗いな…まあ、私も旦那を亡くした時はそうだったがねぇ。」
「…どの様な御用件でしょうか?」
「単刀直入に言うが、今すぐに幽州に行ってきてくれ。」
「は?」
「聞こえなかったか?お前らしくもないぞ?」
「い、いえ、聞こえてはいましたが、何故幽州へ?」
「今、漢王朝が危機的状況に陥ってるのは、判ってるな?」
「はい、判っております。」
「ならこれは聞いてるか?袁本初が、洛陽を攻めようとしたんだが、攻める大義名分にあげた董仲穎が幽州へ逃げたって話は?」
「噂程度ですが、しかしそれだけでは、行く理由にならないかと…」
「ああ、普通なら見捨てる。私らには関係ないからな。ただ、逃げるときに土産を持って幽州へ行ったみたいでな。」
「土産?」
「劉弁と劉協に玉璽だ。」
「!!!!」
「意味は判ったよな?」
「陛下達の安全の確認と把握に勤めつつ、もし保護者が陛下達を利用しようとする痴れ者なら、救出すると言った所でしょうか?」
「まあな、しかしそこはあんまり心配してなかったりするんだよなぁ。」
「何故ですか?」
「お前、青を覚えてるか?」
「ええ、戦場で共に戦った戦友ですもの。」
「その青の娘が、幽州に居るんだよ。」
「っ!?本当ですか?」
「ああ、青からの手紙にそう書いてある。」
そう言って青からの手紙と公明からの手紙を紫苑に渡す。
紫苑は手紙を見ながら、久しぶりに笑みを浮かべた。
「どう思うね?」
「会ってみたいですね。」
「頼めるか?私も行きたいが、この状況じゃなぁ。」
「判りました、梅香様の現状も説明しておきます。」
「頼む。後な、紫苑。」
「はい?」
「この旅で少しは吹っ切れると良いな。」
「ありがとうございます、梅香様。」
そう言って文官が渡した書状を手に退出する紫苑の後ろ姿を私は眺める。
やれやれ、願わくば彼奴にとって公明との出会いが、良い出会いになれば、これに越したことはないな。
side 劉景升 out
side 桔梗
ある日、初めて青から手紙が来たんじゃが青の手紙の内容自体は、同封されている手紙に色よい返事を頼む類の内容だった。
中には二通手紙が入っており、両方見知った字だったので、差出人はすぐに割れたわい。
一通目は、焔耶じゃった。
此処を旅立って長い事会って居らんかったが、藍と共に北の最前線である幽州に行っておるとはのぅ。
そして、藍に焔耶を任せて良かったと改めて思う事になったわ。
まず文章の端々に知性が見えるようになった。
此処におった時より深く学ぶ機会に恵まれたようじゃ。
やはり旅は良いのう。
次に、藍との惚気が書いてある。
正直な気分は複雑じゃが、焔耶が決めた事じゃし藍は器量もあるから大丈夫じゃろう。
こんなに自分は幸せだなどと惚気られては文句も言えん。
辛い場所に居ながらこういった手紙が書けると言うことは、焔耶は充実しておるのじゃろう。
どんな面構えになったか見たいもんじゃのう。
そして青の言うておった件の二通目、藍の手紙を見た時に衝撃が走った。
まさか、こう来るとは思わんかったが、急がねばならん!
儂はこの火急の知らせを持って成都に走った。
劉璋も流石にこれは決断せねばならんからのう。
成都に着いて内門に行くとかなり慌ただしかった。
「一体どうしたのじゃ?」
「おお、厳顔様。お呼びしようと探しておりました。季玉様がお待ちです。」
「なっ!?相判った。」
努めて冷静に返したかったが、劉璋が儂を探しておったと?
あやつ、どういうつもりじゃ?
玉座にたどり着いた儂は、多少乱れた衣服を正し拝礼する。
「厳顔、罷り越しましてございます。」
「桔梗~良く来てくれたよ~。」
「一体どうしたのじゃ?儂を探しておったようじゃが…」
「うん、実はね~今幽州で~大変な事が~起こってるみたいなんだ~。」
「知っておったか。」
「まあ~ね~、理解したのは~ついさっき何だけど~。」
「で、桜香はどうするんじゃ?」
「確か~桔梗の弟子が~幽州に居たよね~?」
「儂を使者に立てるのは理解した。」
「益州州牧の~劉季玉は~皇帝陛下に~忠誠を~誓います~って言ってきて~。」
「良いんじゃな?」
「良いも何も~皇帝見捨てたら~僕らの意味って~何なの~って思わない~?」
「ふはははは、相変わらずじゃのう。後はその悪ふざけを止めれば完璧じゃな。」
「悪ふざけじゃ~無いんだよ~これでもね~。」
桜香がゆっくりした動きで、文官に指示を出し儂に書状を渡した。
「お願いね~菊香ちゃんと~清凛君に宜しく~後~幽州は寒いって聞くから~2人に~風邪引かない様にって~。」
「判ったちゃんと伝えておく、行ってくるぞ。」
「気をつけて~、行ってらっしゃ~い。」
こうして儂は急ぎ幽州へ旅立った。
ふふふ、世の中と言う奴は本当に判らんのう。
焔耶や藍に会うて酒を飲む姿を夢想しながら馬を走らせていった。
side 桔梗 out
一応、劉表と劉樟の設定です。
(いるんやろか…。)
姓 劉 名 表
字 景升
真名 梅香
史実では、霊帝死後、王叡の後任として荊州に赴き配下の蔡瑁・カイ越・カイ良らと図って不穏分子を鎮圧し、荊州北部を支配下におさめる事に成功した。
後、反董卓にも参加したが、その後は孫文台や曹孟徳と戦う。
この物語では、少々ガラの悪いお姉さま。(決して作者が脅されたわけではない。)『言いたいことがあったらはっきりお言いよ?by.梅香』
荊州を治める際の豪族討伐戦で、紫苑と共に戦った当時の青と出会い、感謝を述べた際に真名を交換した経緯がある。
尚、紫苑や青だけでなく2人の繋がりで、桔梗とも仲が良いようで飲み友らしい。
何処の話でも内政チートを言われるが、荊州北部の統一が異常に早かったので、やっぱりこの物語でもチートだったようだ。
今回、この物語の展開が早いため紫苑の喪が明けて少し経った辺りになっている為、落ち込んでいる紫苑の気が紛れればと思っているようだ。
容姿 某黒い潟で登場した2人組の運び屋の女性。
彼女の口癖「ですだよ」は言わないけどね。
姓 劉 名 樟
字 李玉
真名 桜香
史実では、優柔不断と考えの甘さに加え、野心的な部下が居たため益州州牧の地位を引きずりおろされた。
この物語では、間延びした話し方と態度の為、やっぱり野心的な部下に見放されているが、忠臣達はその態度をブラフである事を見抜いている。
と言うか忠臣である、王累・黄権・劉巴・劉循・張任・厳顔には自分を釣り餌にして益州を治める様に言い渡していたりする。
桜香本人は、頭の回転が早いのだが、人を見る目が無い為、計算通りに事が進まないと言う悲しい現実がある。
一部彼女の言葉遣いや態度にも問題があるのだが、当の本人が変えられなかったと諦めた為、現在の様な方法を採るに至った。
容姿 桃色髪をおかっぱにした糸目の女の子。
体格は中肉中背の断崖絶壁で、体型を隠す為にぶかぶかの漢服を着ている。
『僕だって~女の子だから~そう言うこと~言わないで欲しいな~。by.桜香』
こんな感じですが、2人とももう出ないかも…