第36話「旅立ちの日。あ、私達じゃないよ?」
第36話で御座います!
ネーミングセンスなんて物は持ち合わせておりません。
黄巾賊との戦い、史実に残る『黄巾の乱』は、私達公孫軍と華琳達曹軍を中心とした官軍によって鎮圧された。
ただ、賊と言ってはいるが、民の怒りが起こした大規模な内乱の為、火種は消えたわけでは決してないのである。
まあ、大規模な内乱なんて中央は認めないけど、地方は大変な目に遭ったから終わった感じは無いね。
戦いが終わったある日、北郷君が皆を呼び出して馬に乗っていた。
『鐙』を付けてね。
思った通りの光景に私は表面上は驚き、内面では苦笑するという器用な事をしている。
隣の緑は、最初に小さく溜め息を吐きその後無表情になった。
緑と白蓮の下へ仕官する際に、決め事を作ったんだけど、その一つにこの世界に無い物を作らないと決めていたんだよね。
勿論、私達の為でもあるけど、一番は世界が壊れる危険のある行為は、してはならないと緑が言っていたからだ。
緑もあまり詳しくないそうだが、未来に作られる物を過去で先に作れば、その時点で歪みの様なモノが出来てしまいかねないからだと言う。
(流石と言うか、相変わらずと言うか、専門外の知識でも覚えてる君は凄いよ。)
そりゃそうだよね、この世界でいずれ作られる物だとしても、作る人が変わった時点で何が起こるか判らないんだから。
だから、私は軍事、緑は政治経済で献策を出すときに、かなり気を使って出している。
そう言うものを考えずに作ったのだろうし、私は仕方ないと思ってる。
彼は純粋に、自分の出来る事をやろうとしてるのが判るからだ。
まあ、隣の緑もそれは判っているけれど、だからと言って未来の知識の危険性を考えずに鐙を作り出した北郷君に憤りを感じているようだ。
私も緑も何時の間にか、未来の知識を持って『いた』この世界の住人になっているからね。
この世界が消えてなくなる何て、考えられなくなっている。
どんな拍子に何が起こるか判らないから、緑はものすごく慎重になっているのにこれだから、緑の怒りは相当な物になっている。
だから私は緑の髪を軽く撫でる。
「藍?」
「とりあえず、私でも見て機嫌直して?」
「余計に腹が立ってきたんだけど?」
「ナンデヤネン。」
「冗談だよ。ありがと、藍。」
「でも、緑の予想が当たった形だねぇ。」
「出来てしまった以上、無理とは思うけど難癖をつけて廃止させてみるわ。」
「あんなの見せられて白蓮が認めるとは思わないけど、仕方ないか。」
「ええ、無理でしょうね。現に、馬の扱いはあれでかなり使い易くなるのは歴史的事実ですもの。」
はぁ、と溜め息を吐く緑を横目に苦笑していると北郷君が私達の前に走ってきた。
「公明さん!伯寧さん!どうでしょうか、これ!」
皆に褒められてたから興奮気味だね。
理解は出来るよ、人に褒められるのって嬉しいからね。
「皆褒めてるみたいだし、見た感じ良さそうだから良いんじゃないかな。」
私にも褒められてやっぱり嬉しそうだね。
「伯寧さんはどうですか?」
「安全性が判りかねますので、その部分を白蓮様に進言致しますが、まあ、藍が言っているので宜しいんじゃないでしょうか。」
笑顔で答えた緑の言葉にガッツポーズしてる北郷君。
結構頑張ったのは事実だろうし、非難なんて出来ないよね。
私達はあくまでこの世界の、徐公明と満伯寧なんだから。
まあ、そんな一幕もあったけど、玄徳ちゃん一行が黄巾の乱で功績があった事を、白蓮が朝廷に進言した事で、めでたく平原の相に任命された為、私達は今、見送りに来たのだった。
白蓮に許可を貰って集めた義勇兵を率いた、玄徳ちゃん一行は皆と思い思いの挨拶をして別れを偲んだ。
私達2人にも挨拶に来て玄徳ちゃんは、「今度はわたしの得意な料理を教えるね♪」と言ってきたし、雲長ちゃんは「今度お会いした時は是非手合わせを!」と言ってきた、翼徳ちゃんは「公明お姉ちゃんの料理が食べられなくなるのは寂しいのだ!」と涙目で言ってくれた、最後に北郷君が「お二人に教えてもらった事は凄く勉強になりました、ありがとうございます!」と頭を下げて礼を言ってきた。
「皆も身体には気をつけてね~。」
「土地が変われば当然人も変わります。努々、周りを見ることを忘れずに。」
そう挨拶をして、旅立ちを見送ったのだが、その矢先に小さな女の子が2人、玄徳ちゃん一行に跪いてついて行ったのだが、緑の耳に遠くながら聞こえた名に声を出さずに驚愕した。
「ど、どうしたの?」
「諸葛孔明にホウ士元ですって…!?」
「誰それ?」
「三国志、蜀軍の最高頭脳の2人よ…。」
「ほへ~凄い2人なんだね?」
「ええ、この国を3分割した人物に、まだ先だけどある大戦の仕掛けの一端を担った人物よ。」
「ふ~ん、まあ、知恵者が彼女達に付いたのは良いことになると良いね。」
「早すぎるのだけれど、今更ね。」
「まあ、この世界変な所あるしね~。」
「そうね、否定はしないわ」
そう言う溜め息を吐く緑の肩を抱き寄せ、頬に口付けをするんだけど、少し背伸びしないと届かないのって悲しいよね。
「無理矢理しなくても良いんじゃないかしら?」
「やってあげたい気分でしたから。」
「ありがと、藍。」
「どう致しまして、緑♪」
そんな事を良いながら私達は、玄徳ちゃん一行が見えなくなるまで見送るのだった。
黄巾の乱があっさり終了して、これまたあっさり玄徳ちゃん一行が平原の相にクラスチェンジ。
幕間書いてる方が楽しいと思い始めている作者です。