第16話「常山の緋燕」
第16話で御座います!
今話で予定していたオリキャラが登場し、一応のメインキャストが出揃いました。
オリキャラの設定があとがきにありますので、興味のある方はご覧ください。
side 藍
洛陽を出発して早幾日、私達は今常山郡に迄差し掛かっていた。
そして今日泊まる予定の村に辿り着いたのだったが。
「藍お姉様…これは…」
「ふ~む、酷いね~。」
「藍、相変わらず軽すぎない?」
「怒ったって何にもならないでしょ?」
言いながらも人が動いているか確認する。
「人はいるみたいだから行ってみようか。」
「はい。」
「藍。」
「ありがと、警戒よろしくね~。」
「うん、任せて。」
「よし、焔耶行こう。」
緑に警戒しながら村に移動して貰い、私と焔耶が村に先行しる。
以前に村に入った瞬間に退却中の賊の皆さんとご対面した時には焦ったからね。完全に無警戒で入ったもんだからマジで焦ったよ。
それからは、場所によって緑か焔耶に一旦後ろに下がって貰いながら村に入るようにしたんです。
かなり荒れてるけど、襲われる危険は低そうだね、緑を呼ぼうか。
「お爺さん、襲われたのは、見て判るんだけど、誰がやったか判る?」
「旅の人か…黒山党じゃよ。」
「黒山党…確か張牛角が率いてるってあの?」
おかしいな、緑の見立てでは、この世界の黒山賊は義賊で弱い者から略奪はしないって聞いたのに。それに党、義賊だから党を名乗ったのかな?
「前はな。」
「今は?」
「張牛角は、病で死んじまったらしい。それを義娘の張燕が継いだらしいんじゃが…」
「お爺さんもおかしいって思ってる?」
「ああ…義娘の張燕も無愛想だが良くできた娘だったからな、しかし近頃姿を見ないし黒山党も少なくなって来たみたいでのぅ…」
「心当たりがあるって所かな?」
「お主ら、腕は立つのか?」
「そこそこね~。」
お爺さんはかなり悩んでいる様だったが、意を決したかの如く切り出した。
「張燕のお嬢ちゃんを助けてやってくれ!!」
side 藍 out
side 張燕
わたしは、『元』黒山党の頭領で張燕。
赤子の時に、おやじ殿に拾って貰ってから黒山党の中で生きてきた。おやじ殿に託された黒山党を守りこの常山の村々も守ると誓って暫く経った頃に異変に気付いた。
村から何時も来る献上品が少なくなっているのだ。
献上品などいらぬと幼少の頃は思ったが、おやじ殿が『献上品を受け取る事で村の連中は守って貰えると安心する、わし等も野郎共の面倒が見れる、県令共が逃げ出した以上、わし等がやるしかない。先立つもんや、食うもんが無いと戦えんじゃろ?だから貰う、そして貰った以上は馬鹿野郎共をぶっ飛ばす、それがわし等黒山党よ!!』
おやじ殿が、言った言葉は子供のわたしには難しかったが、そう言い切ったおやじ殿がわたしには誇らしい物に見えた。
だからおやじ殿が、わたしに黒山党を継いでくれと言われた時に迷いながらも受け継いだ。
あの誇らしいおやじ殿の様になってみたかったから…
献上品が少なくなった村をわたしなりに調べた結果、奇妙な事が判った、『わたしが行かない方面』の村からの物が、少なくなっていたのだ。
まさかと思い、すぐに考えを打ち消す。
おやじ殿に付き従って、若輩のわたしにも従ってくれているのに…
今、わたしが行かない村へ見回りに手下達が向かっている。
そう考えたときには、村に向かって走り出していた。
村に着いた時、手下達が村人を大声で脅している姿を見た時、わたしは吠えた。
「貴様らー!!」
そして脅している手下を、愛用している槍で突き殺し問い質した。
「お前達!一体何をやっている!黒山党が村を襲うとは…恥を知れ!!」
「はっ、何が恥だ、馬鹿娘が!何時まで爺の言う事を後生大事に守って、何で村なんて守らなきゃなんねぇんだよ!賊が欲しいもん奪って何が悪い!」
「貴様ら、おやじ殿の誇りを汚すな!!」
そう言い『元』手下達を殺していく、後数人になった時、矢が掠ってしまった。
矢を撃った者を殺した時、目の前が揺れ身体が震える。
毒か、だが残すわけには…
残りの手下を殺し震える身体を抑えつけねぐらに戻ろうとしたが、意識を失った。
気が付くと、わたしは、小さい頃見た事のある部屋で寝かされていた。
此処は長老の屋敷だったはず、何故横に…
「ぐ…」
自分が何をしていたか思い出し飛び起きようとしたが、身体に痛みが走った。
「おお、張燕。目が覚めたか?」
「長老。」
起き上がって謝ろうとしたが、長老は手でそれを制した。
「お前に使われた毒はかなり強い、暫くは動けん。」
「長老、すまなかった。」
「何を謝る、お前はワシ等を助けてくれた。流石は張牛角の娘じゃ。」
やめてくれ、わたしはそんな事を言われる資格は無い。
「その様な顔をするな、牛角が残した娘は、確かに張牛角の娘だったのだ。今は眠ると良い。」
そう言い、長老は部屋を出て行った。
少し眠り、未だに震える身体を引きずり、村を出た。
長老が言ってくれた、張牛角の娘『張燕』としてケジメをつけるために。
わたしは裏切り者達を探し出し殺し続けた…
そして、今、わたしの目の前にはわたしの『家』だったねぐらがある。
これで最後だ…後は、逝くのみ!!
side 張燕 out
side 緑
お爺さんに教えて貰った、黒山賊のねぐらに3人で急ぐ。
ねぐらの前に槍を振り回す長身の人が居る。
「おお~、賊がぶっ飛んでるね~。」
「藍お姉様。」
焔耶が藍の能天気な台詞に苦笑しているが、すぐさま顔を切り替える。流石は、魏文長ね。
「緑姉さん、このまま突っ込んでも大丈夫なのか?」
「焔耶、私には聞いてくれないの?」
藍が瞳を潤ませて焔耶を見る。
焔耶は途端に慌てるが、此処でボケに乗ると時間がなくなるので2人に指示を出す。
「藍、焔耶。左右に散って周りの林の制圧を頼める?」
「確かに私達だと、張燕ちゃんの邪魔になるもんね。」
「あたしは木々が多い場所だと戦いにくいし、張燕は救援が来るとは思ってないから剣の2人だともしかしたら、賊と一緒やられるかもしれないわ。」
「お茶する時間無さそうだしね~♪」
「そうね、出されるモノにも期待できないし。」
「お姉様達の胆力には呆れます。」
「酷い?!こんな焔耶に誰がした!?」
「「お前だ(お姉様です)!!」」
「冗談をほざく藍は置いといて、油断はしないでね?」
「判ってる。焔耶、弓持ってる奴優先で一気に崩す、行くよ!!」
「はい!!」
「2人共死なないで…」
あたしのそんな呟きが林に吹く風にかき消された。
2人と別れてあたしは1人、張燕に近寄りつつ、あたしの愛弓「イチイバル」で矢を乱射する。
適当に狙っても、当たれば当たった箇所が吹き飛ぶのだからこの弓は恐ろしい。
その上、イチイバルを持っていると怪我の治りが早くなるのだが、これは体力にも関係するらしい。
あたしは2人と違って文官寄りだから体力が3人の中で1番低いのだけど、あまり疲れないのだ。
おかげで、走りながら弓を引き絞り、撃ち放ってもあまり疲れないから、この状態で矢を乱射出来るし会話も出来るのだ。
「あなたが張燕さん?」
「何者だ?貴様ら。」
「貴様ら?」
「林に明らかに違う気配が2つある。お前の仲間ではないのか?」
「問答したいけど時間が惜しいから、答えるわ。その2人はあたしの仲間よ、そして麓の村の長老様にあなたの事を頼まれた。」
「そうか、だが必要無い。早く消えろ。」
「約束は果たすものでしょ?」
「…知らんぞ。」
「後ろは任せて、必ず守り通すから。」
「…」
何も告げずに張燕が駆ける。
後ろへの警戒がない、任された以上は答えるのが心意気ってモノだよね?
「ふへ~。」
「藍お姉様、気を抜きすぎでは?」
「焔耶が守ってくれるでしょ?」
「は、はい!藍お姉様はワタシがお守り致します!!」
藍が何時もの茶目っ気を出して焔耶をからかっているが、藍が警戒を解くと言う事は少なくとも今は大丈夫なのだろう。
向こうは2人に任せてこっちはこっちの事をしよう。
「お疲れ様。」
そう言いながら、手拭いと水筒を差し出すが、座っている張燕は受け取らない。
「構うな。」
「疲れたでしょう?なら休まないと。」
「必要無い。」
「…死ぬ気?」
「ケジメをつけないといけない。」
「死ぬ事がケジメになるの?」
「わたしが不甲斐ないばかりに黒山党はおかしくなり、村人は苦しみ、手下達も…死んだ。」
この人は多分…
「おやじ殿や長老達に合わせる顔が無い。」
そう言う張燕をあたしは抱きしめた。
「許してあげる。」
「何をしている。」
「あなたがどれだけ自分を許せなくても、あたしはあなたを許してあげる。」
「わたしは許しなど欲しいと思っていない。」
「許してあげる。」
「…わたしは。」
「許してあげる。」
「…」
そして、あたしは抱きしめた張燕の背中を撫で続けた。
「すまん。」
「すっきりした?」
「さっきよりな。」
少しは冷静になれたみたいね。
じゃあ、少し話してみようかな?
「これからどうするの?」
「判らん。だが、黒山党は無くなったが、わたしは常山を守らなければならない。」
「父様の為に?」
「判らん。槍を振るう意味が判らなくなったが、村を守らなければ。」
「藍、お願いがあるんだけど。」
「うん?どうしたの~?」
「彼女、一緒に連れて行っても良い?」
「何を言っている。」
少し殺気が出てる怒ったかな?
「今あなたが此処に残ると間違いなく長老様達の迷惑になるからよ。」
「何故そう言える。」
「常山の領主が動き出したのよ。」
「何だと?」
「彼らは、黒山党を利用していた。」
「ば、馬鹿な!?」
「本当よ、調べはついてるし。」
「何故わたし達を利用する?」
「賊退治を勝手にやってくれる賊って便利だと思わない?」
「き、貴様!!」
そう言い張燕は、あたしの眉間間近に穂先を突き付ける。
血が流れ落ちるが構わず話し掛ける。
「槍を突き付ける相手が違うとおもうけど?」
「ぐぅ…」
「黒山党が常山辺りの賊を平らげた時も黒山党は巨大な存在だった。けど、敵がいなくなった以上、土地を領主は取り戻したかった。それ故に、黒山党の強欲な者を釣り上げて分裂させ…」
「最後にわたしの首を献上すれば、手柄は領主の物、か…」
「ふざけた事を…」
焔耶も卑怯な手だと感じて憤ってるね。使える手だし、あたしは仲間を守る為なら躊躇しないけどね。
「ところがね、張燕に焔耶。彼らは手柄を得る事はなかったりするのよね。」
「「何だと!?」」
「どっかの誰かさんがね、領主が帝への献上品をねこばばしたってバラしたの、当然領主は知らないって言うけど現実に献上品が無いから首がすってんころりん、欲深いって怖いね~、緑?」
「上級官吏には、丁度良い生け贄だったでしょうね。」
「本当は上級官吏が盗んだのですか?」
「欲深いって怖いね~、緑?」
「怖いね~、藍?」
「「ね~。」」
焔耶と張燕の頭にデカい水滴が見えるが、気のせいでしょうね。
「領主の件は判ったが、わたしは黒山党の頭領だった女だ。」
「張牛角には張燕って娘が居るけど今は出て行って居ないらしいわよ?」
「な、何だと!?」
「張牛角が村の長老様達に娘の事をって頼んでたみたいね。領主にはバレたけどもう居ない上に証拠も証人も居ないし。」
「おやじ殿…」
「あなたの父様のおかげで、仕掛けはスッゴい楽だったわ。後はあなた次第よ。」
あれから麓の村に戻り長老に挨拶した後、足早に常山を後にした、手は回したが、長居して良い事は余り無いのだから。
旅程が予想以上に狂った為に補給の為に南下している。
大きな街が南に有るからだ。
昼頃に村を出た為に今は夜、『4人』で火を囲んでいる。
「足早に村を離れる羽目になって悪いわね。」
「構わん、お前達には借りが出来た。」
「貸し借りは無しって事で~♪」
「そう言い訳にはイカン。」
「藍お姉様が良いと言っているのだぞ!」
「それとこれとは別だ。」
「きっさっまー!!」
「はいはい、どうどう。」
藍が焔耶や張燕と話をしている。
張燕がなかなか入って来ないので苦労してるみたいだ。
不意に張燕と目が合ったが直ぐに反らされた。
何だろう?と思っていると藍が自己紹介を始めた。
「バタバタしてたから忘れてた、ごめんね?私は、姓は徐、名は晃、字は公明、真名は藍だよ、よろしくね♪」
「あたしは、姓は満、名は寵、字は伯寧、真名は緑です。よろしくお願いしますね。」
「むぅ、ワタシは、姓は魏、名は延、字は文長、真名は焔耶だ。」
「…わたしは、姓は張、名は燕、字と真名は無い。」
「「「…」」」
沈黙が降りる。
藍が顔を青ざめさせている。
藍、それは流石に失礼よ?
「藍、焔耶。」
「な、何?」
「どうしたんだ、緑姉さん?」
動揺している藍をいじりたいが我慢する。
「あなた達の名前貸してね?」
「良いよ~♪」
「はぁ、構いませんが。」
藍は意図に気付いてくれたようだ。
「張燕。」
「何だ。」
「字と真名、付けてあげる。」
「いらん。」
「何故?」
「これ以上借りは作りたくない。」
「命と心を預ける相手に貸し借り何て無いわよ?」
「…」
沈黙は肯定と取るわよ?
「うーん、そうね。」
藍と焔耶に名前を借りたから…
うん、字はあたしと藍から、真名は焔耶と史実の人から…
「字はあたしと藍の字から一字ずつ取って伯明、真名はあなたの緋色の髪と焔耶から焔を貰って緋焔どうかしら?」
「張伯明…緋焔か…」
「気に入ってくれた?」
「わたしの真名は緋焔…お前達の真名を預かって構わんか?」
「「「もちろん」」」
そう言うと緋焔は薄く笑ったのだが、あたしと目が合うと直ぐにそらしてしまう。
あたし何かしたかな?
まあ、気にしないでおこう。
これから、この世界を4人で生きて行くんだから。
side 緑 out
緋焔の設定で御座います!
姓 張 名 燕 字 伯明
真名 緋焔
常山の山で捨てられていた所を張牛角に拾われ、実の娘の様に育てられる。
名前を示す物が無かったが、空を翔る燕が緋焔を入れた籠の上を通り過ぎたのを見た張牛角が、張燕と名付けた。
実直な性格をしていた為、張牛角が病で死亡する間際、張牛角本人に黒山党を託されるが、仲間の裏切りにより大切にしていた思い出や張牛角の誇りを汚されたと感じた彼女は、かつての手下達を殺し自分も責任を取ろうとした時に緑の手助けを受けた。
その後、緑に心を解きほぐされ、領主の悪巧みを潰してくれた借りもあるとして、藍達(主に緑)について行く事にした。
容姿 ぶっちゃけナンバーズのⅢ、緋色髪のトーレ姉さん。
そこにヘルム部分が無い、身体にフィットしたプレートアーマー(中世の全身鎧)を着込んでフード付きの外套をその上に着ている。
(イメージしたらゼスト・グランガイツなトーレ姉さんになってた。)
武器 無銘の大槍
単なるデッカイ直槍で、緋焔は基本通り敵を突くより叩き潰す事に重きを置いている為、槍自体が半端じゃなく重い。
(日本の度量衡調べ・1斤=600g.50斤=30kg
漢代の度量衡調べ・1斤=約223g.約135斤=約30kg・史実の関羽殿の青龍偃月刀は80斤=約18kg)
関羽殿の青龍偃月刀より重くなりますが、彼女はガチのパワー型なので関羽殿の速度に負けてしまいます。
長身のクールビューティもぐっときますね。