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第6幕 轟けドックガーン!独眼竜、奥州に荒れる!! 

 三光同盟は圧倒的な戦闘能力と軍事力で世界各国を黙らせ、畿内・北陸・四国を中心に日本列島を支配下においていることは周知の事実だ。

 だが東海地方より以東の地域、また中国地方、九州地方は大規模な軍団が存在しないこともあり支配力は弱い。実際中国地方ではモーリ・トライアロー率いる陰陽党が一大勢力として中立の形で平和を保っているのだ。

 また陰陽党ほど強大でないにしろ三光同盟の支配に屈せず独自の勢力が日本列島には幾多か存在している。サムライドから必死に抵抗して人間としての尊厳を保つ勢力もあれば、サムライドを用心棒の要領で頼る勢力もいる。またサムライド自身の考えから勢力を支配下に置こうとする者もいる。

 その勢力が弱者に対し穏便ならそれでいいだろう。しかし……弱者に苛烈な組織があることも事実だ……。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 福島の会津若松。廃墟には量産型兵器が作業に勤しむ姿がある。傷ついた都市を鉄の拠点へと変貌させようと動く無機質な塊達。

 彼ら無機質な塊達には有機物のようなぎこちない動きをする者もいた。全身を機械に覆われた彼らの姿。鋼の身体はサムライドに共通する事であるが、姿から人としての側面を持つ彼らよりも機械そのものである。


「ほぅ。会津若松の作業は順調のようですね」

「はい。この大地は鉄機兵団の鉄人都市の拠点となります。ここを中心に東北地方に鉄機兵団の勢力を広げれば鉄機兵団が日本列島を支配することは間違いないでしょう」

「むぅ……」


 機械達の働く姿が映し出されたスクリーン。その目の前には砦と藍色、ピンクと機械の鎧に包まれた二人の姿が見える。

「今の日本の五強に対抗するには速攻で勢力を拡大することにあります。勢力を拡大すればたとえ一人の強敵でも多勢の前に片づける事が出来るからね」

「鉄機兵団鉄の掟“絶対服従、命令遂行”。その心が鉄機兵団に勝利を収める事が出来ます」

「そのとおりです。私の兵力は旧世代サムライド。つまり自律機能がほぼない機械同然です。ですがその何体の機械は指揮官一人の力で動く訳です。つまり私の忠実な手ごまがたくさんあればあるほどより円滑に勢力拡大が可能な訳です」

 トップに立つ男は冷静に感情が感じられないような無機質な言葉でたんたんと自分のプランを伝える。聞く側もまた言葉を淡々と返す。


「それも感情を持たないから。思考能力を持たないから。ただ指揮官の言われた事をやればいいから部下が野心を持つ事もありません」

「そのとおりです。シモーリ、私、鉄機兵団のトップ・アッシナーが信頼を置く存在ですね」

「ありがとうございます」

 2機のロボット、いえサムライドの二人。全身機械で人の面をつかめない外見のアッシナーの前に、シモーリが礼をかわした。


「三光同盟の目的はビーグネイム大陸の復活ですが、私にとってすれば極めてナンセンスな事です。大陸を復活させても所詮有機物、生き物が支配する世界は感情と思考による争いが勃発してしまうだけです」

「生き物は感情を持ちますが、機械は感情を持たないということですね」

「その通りです。機械だけでしたら世界に争いが起こる事はありません。この鉄機兵団は感情を持つ者を全て始末、または感情を排除する改造を施して有能な労働力にする事です」

 無機質な姿に相応するように感情を否定するような言葉を出すアッシナーだが、本人の心には何故か感情性を感じてしまう。自分の野心や理想を貫こうとする故の感情からか。


「私と貴方で非常拠点を占領して完全な奴隷を作り出す。私のような一人のトップに率いられて機械と奴隷が動けば世界は平穏を保てます。ふふ、どうやら私のような選ばれた人間がトップなら専制政治が平和をもたらすはずなのに、生き物は自分のエゴを満たす為に他人をトップに回す事を理解してくれない」

「その意見はごもっともかと思いますが……」

「おっと大丈夫ですよ。シモーリは私の右腕として働いてもらいますから。いくら独裁とはいえ一人だけでは日本を収めても、世界を収める事はできませんからね」

「……」

「おっと失礼。シモーリ、君という前線司令官の頭脳が旧世代サムライドを強力な尖兵へ仕立てあげていますが、一つ芳しくない地があるようですね?」

「芳しくない地ですと……仙台方面ですね」


 シモーリの声とともにスクリーンには二人の姿が映し出される。一人の少年と保護者のような男性の姿のサムライドが量産型兵器を次々と片づけている映像だ。

「その通りです。私達の鉄人都市計画が順調に進んでいますが、一か所だけ遅れますと私の気が晴れないのです」

「申し訳ございません。仙台方面にはリュウ・イダテンとかいう当時最新鋭の第6世代のサムライドがいましていくら私の頭脳で動いても世代の差が大きすぎるのです。あとコジロー・カタクラとかも第5世代と私たちより最新鋭です」

「世代の差ですか? 新しい世代は性能に頼って戦い方がなっていないのですよ。そのくらい貴方にもお分かりでしょう?」

「……」


 アッシナーからシモーリに半分皮肉めいた叱咤の声が届く。黙っていた彼女だが暫くしてから彼女はすくっと立つ。

「その通りです。普通でしたら私の頭脳とあのサムライドの力でどうにかなると思いますがあの二人に関してそうはいかないようです。これは相手が強すぎるのか、私の実力に問題があるかのどちらかです」

「それで? シモーリ、どのような事をするつもりですか?」

「私が直接前線で指揮をとって、いわば探りであの男の強さを確かめるのです。もし私の指揮するサムライドが彼に敗れたら、私が一応現世代サムライドの意地に賭けて彼らを倒すつもりです」

「ほぉっ」

「トップは一人で十分。貴方をトップにするなら私は兵器で捨て駒になるつもりです」

「その言葉随分頼もしいですね……では期待していますよ」

「ははっ」

 シモーリの言葉と共にスクリーンの画面が消えて上部へ収納される。作戦開始は早いに越したことはないと彼女は出口へ急いだ。


「ふふふ……シモーリ、死に急ぐ事は私の野望が読めたのかもしれませんね……そろそろあの女にも引導を渡すプランを立てておきましょう」

 シモーリがいなくなった時にアッシナーからぽつりと述べられる野心に満ちた言葉。彼女は彼の冷酷な野望に気付いたか。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……」

シモーリは駆けた。その先には量産型兵器の群れがあったが既に何処かを破壊されており既に兵器としての機能を停止していた。

「危ない危ない……もう少し時間が切れていたら……」

 ピンクの機体が自然と薄れていき、その姿と反比例のその場所には金色の毛皮が。狐の尻尾のようにフサフサした感じで綺麗に整えられた尻尾が見えた。

「やっぱりあいつはあたしを利用して殺そうとしているようだね!」

 大きい尻尾から足が生えたように見えた。その尻尾が瞬時に後ろへ伸びると存在をアピールするようにピンと伸びた獣耳、腰までの金髪のロングヘアー。漆黒のハイソックスに真紅のブーツ。抹茶色のブレザー。真紅のブーツを除けばその姿は女子高生に近い。


「あたしの尻尾をフルに使えばあんな機械騙すの簡単簡単……」

 その少女は着地した時、衝撃で地面によろけてしまう。そんな彼女を展開された九尾の尻尾がばね代わりに支えられて彼女はスプリングのように体勢を立て直す。


「でも、この尻尾を使ってばかりだと身体が持たないんだよね。あいつの神経をマヒさせたり、幻覚見せたり、こいつの姿に変えたりとまぁ便利な機能には色々リスクが付き物ってことね、さて」

 彼女が指を鳴らすと金色で派手に彩られた細長い球状のバイクが彼女の足元に到着し、ご主人様を待っていたかのように先端の目を赤く点滅させる。

「キューコンロ、あいつを騙せる時間にも限度あるからねいくよ!」

「ホロホロホロ!」

 彼女を乗せたキューコンロが駆けた。その方面は北東。別の非常拠点へ向けて彼女は急がれた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「こいつはこうやって運転すれば大丈夫だから!あんたの腕にかかっているよ!皆の命は」

「僕にですか……こうも簡単に運転する事が出来るのかなぁ……」

「大丈夫よ大丈夫、これを運転してあんた達の仲間を運んだのは……」

「あんた、それはいわないでくれ。いわないでおくれ」

 少女の向かった先、会津若松の非常拠点にはグレーのトレーラーのコンテナへ数多くの民間人が避難を開始している。

 拠点を捨てて逃れる民間人の目には鉄機兵団に所属していると思われる量産兵器の残骸へ向けられた。


「ごめん、あたし酷いこと言ったね。あんた達人間を心のない奴隷に改造を目的に鉄機兵団へ運ぶことは……あんた達と同じ人間だった存在だからね」

 彼女が呟くと民間人には頭を下げて大人しくなる者、また彼女に複雑な感情が向けられていた。

「どうやらあたしも好かれていないみたいね。無理もないよね……」

「す、すみません。確かにあなたは招かれたお客ではありません。しかし……」

 決して喜ばれていない彼女は自嘲するように笑う。そんな彼女に窓ガラスを下げて運転手の若い男が彼女をフォローしようとするが、

「まぁあんたのように理解がある人がいればまだまし。最も私たちはこの世界では憎まれる存在かも……いいえ憎まれる存在だからね」

「……」

「前から言っているけど、あたしは人間の味方のつもりでいる事は信じなくてもいい。ただあたしは……機械の敵。これだけは信じてくれればいいわ」


 運転手の男から背中を向けると、空から緩やかに着地した一本の小刀が彼女の右手に握られる。その柄に細やかに記載された文字や図式を彼女の脳内へ記憶されようとしていた。その速度はまさに刹那だ。

「青森……弘前の非常拠点を中心にレジスタンス活動をしている勢力が存在するわ。あんた達はその勢力へ合流して武器を取って戦うべきよ」

「武器をとる? と、いうことは私達戦うのですか」

「そうよ。やられっぱなしなのはあたし嫌いだしね!」


 彼女がこれからの事を告げると、この世界においては珍しく横に広い初老の男が彼女へ意見をはさむ。そんな彼の意見も彼女の一言で一蹴されようとする。

「無茶もほどほどにしてください! 我々市民が武器を持って戦ってもこんなサムライドとか相手に闘えば戦火に襲われますし、我々の身体が持たないですよ!」

「そうそう! 何処かの勢力へ服従さえすれば命だけは何とかなるはずだ!」

「そうだ戦いで命が失われるなんてごめんだ! 戦っても勝てる相手じゃないんだ!!」

「サムライドにさえ服従すれば命は助けてくれるんだ!人間の誇りや恥を捨てれば命が助か……」

「馬鹿言ってるんじゃないわ!!」


 その男に釣られるかのように降伏や服従を唱える者達が出てきた。過酷な環境を温床に逃げ腰や弱腰が場の空気を支配しようとしたが、彼女の叫びが周囲への拡散を防いだ。


「あんた命が大事とか寝ぼけたこと言ってんじゃないわよ! 人が生んだ機械を前に心を捨てて機械は服従したら人はもはや人じゃないの! 元の機械より出来そこないの機械になっちゃうのよ! あんた達がそれでよくてもねぇあたしが許せない訳!!」

「出来そこないの機械でもそれが平和なら……」

「あんた! 何もしないでずっと服従しても勝利は得られないのよ! 長い屈辱に耐えるならば……一己の全てを賭けて栄光をもぎ取る事が機械を生んだ人間としての誇りじゃないの!?」

 先程のどこか余裕がある彼女の喋り方が、弱腰の彼らの前には熱い。外見からすると彼女はこの位の熱さが有ってもおかしくない年頃だろう。だが、当の彼女が機械を敵と、サムライドを敵視している瞳には何が写されていたのだろうか。単に少女の姿からは予期できない何かが彼女にこの考えを植え付けさせているようだ。


「まだまだ人は捨てたもんじゃないの……この笹切を案内役として同伴させるからね。行くか行かないかは貴方達が人であるか人でないかに賭けるよ」

「おい、あんたどこへ……」

「あたし? そろそろあたしは鉄機兵団に反旗を翻すつもりよ。アッシナーにはあたしの考えを呼んでいるかどうかわからないけどあたしを何時か切り捨てるつもりだし、欺く事もあたしの体力が持たないからね」

「あんた一人でか……?」

「いーや、あたしが目に付けた一人とおまけを味方につけるつもり。そうすれば鉄機兵団にも……」

 彼女の右手はVサインを作る。その笑みには彼女なりの覚悟と計算済みの余裕が混じり合った笑みを見せている。


「アキ姉ちゃん!」

「こらヒデオ!」

 その時コンテナからまだ低学年ほどの子供が飛び出してきた。彼は彼女……アキの右手を握り返して潤んだ目で顔を挙げる。

「アキ姉ちゃん! 一緒に行かないの!?」

「こらヒデオ! すみません、弟がわがままを」

「いいのよ別に、気にしてないから」

 運転手の男が詫びるがアキは特に気にしていない模様だ。目の前の子供・ヒデオの頭にはゆっくりと手が置かれ、小動物を相手にするようにそっとなでられた。


「ヒデオ? お姉ちゃんはみんなを救わないといけないの。お姉ちゃんには悪の組織からみんなを守るお仕事があるの」

「アキ姉ちゃん……スーパーヒーローみたいな事言って」

「うん、お姉ちゃんはスーパーヒーローみたいな人なの。だからヒデオやみんなを守らないといけないの。この世界から悪い奴らをやっつけないといけないの。そうだ」


 子供を目の前にしたアキからは本来の性格にあった毒やアクが抜け、まるで実の弟を暖かく励ますような言葉を送る。そんな彼女はブレザーのポケットに右手を入れてあるものを取り出す。

「これは?」

「あたしがいない間これをあたしと思えばいいの。これ結構作るの苦労したから大切にね」

 アキのポケットから取り出された物は彼女をデフォルメ化したような人形。その人形はいくつかの縫い跡が目立ち上手いかどうかは微妙かもしれない。しかしこの日の為に合間を見つけて作った人形。姿から本当に上手いかどうかは決める事は出来ない。


「うん!」

「ふふふ……はぁ」

 人形を受け取って喜んだヒデオをそっと微笑んでから後ろを向けば自嘲の意義もあるように溜息をついた。

「やれやれ。スーパーヒーローという存在は強すぎる力故に守るべき存在からも理解されない影の一面も併せ持っているようで……」

「おや、あんた何か言ったかい?」

「いや別に」

 軽く運転手に手を振って否定するとアキの目に向けられたものは幾多もの量産機。その量産機は円盤のように丸くせんべいの様につぶれた金色の機体の群れだ。

「さぁてこいつであいつ等の最終テストといこうじゃないの。独眼龍があたしの目的を果たせるに十分な器かどうかをね」

 一大計画を遂行しようと考える少女アキ。そんな彼女を視界にとらえる人物が崖の上に存在していた事を彼女自身は知らなかっただろう。


「あの子、なかなかいい子じゃない」

「シャーハー! 外見よし中身よしの俺っち好みのローティーンってことだー!!シャバダバダバダーだぜ!!」

 崖の上には紫の長髪を風になびかせる女性とショートの巻き毛の男性がいる。女性は落ち着きの姿勢を保っているのに対し、隣の男性は彼女の周辺をうろついていて落ち着きがない。この男には落ち着きがないのだろうかと思う程に。


「シゲル、少し落ち着いたらどうかしら? 貴方の晴れ舞台はもう近くよ?」

「晴れ舞台? オン・ザ・ステージ? スポットライトってことだよな! だよな! ハレハレルヤーなステージガウガウガオーンだな!!」

「そうよ。あの子の考えは……私の求めていた何かかもしれないの」

「心の隙間を埋めるってやつかー!」

「そうね……」

 男が地面に寝転がり、周辺を転がる。そして彼女は崖から先の様子を眺め続けた。

「関東地方ではこの世界の新しい使命は見つからなかった。この東北地方で今、私達は戦いに意義を見つける事が出来るかも知れない。それに、あの子の考えは……」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 アッシナー率いる鉄機兵団の鉄人都市化計画。唯一計画の進行が芳しくない地点が仙台である。仙台を前には幾多の円盤が飛び、上空には何発かの爆発が起こる。


「てやっ! たぁっ!! そーらよっと!! それよっ!!」

 円盤による空からの猛攻をかわし、耐える者達がいる。額の半月をアピールするかのように黄金の月と対照的な紺と黒の兜と姿。漆黒の鎧を除けば五月人形が似合う程の幼い少年の手には和を模した姿と似付かぬ巨大なライフルが握られていた。


「若、毎回毎回思うのですが……」

「何だコジロー! さっさと言いやがれ!!」

「ひやぁ若は相変わらずですなぁ!」

「だーから早く言いやがれ! 俺様ぶっ飛ばすぞ!!」

 幼い姿から想像つかない程口が悪い彼・リュウの背中を預けた長身の男・コジローはきつい言葉を受ける。青銅の龍ともいえるライドマシーン・ドラグーン・レッダーの真上で円盤の攻撃を凌ぐ。コジローの刀・飛燕が円盤を真っ二つにたたき斬る、先端で貫く、宙を切って発生する衝撃波が円盤を寄せ付けようとしない。


「ひぇぇぇ。若、ここのところ若と拙者は狙われているのではないでしょうか?」

「狙われているだと!?」

「ひぇぇぇ! 拙者に怒らないでくださいよ。これはあくまで拙者の見当でございまして……」

「おもしれぇ!!」

 気性の荒い少年リュウを前にいい大人の分際で彼の顔を見て冷や冷やが隠せない模様だ。それに対し彼は勝利を端から確信していたのか、表情に曇りはない。


「……若?」

「おもしれぇよ! 俺様相手にたかが量産型兵器が勝てると思うんじゃねぇ!!」

 黒光りするリュウの銃口が、銃身が微かに震えた。先端からの紫紺が方円状に広がり何機の円盤を包むと、円盤は外からの何かに握りつぶされたように機体が握りつぶされた形に変わり、耐えきれなくなった機体が上空で粉砕され破片が地面に落ちる。


「このドックガーンの威力舐めるんじゃねぇ! そのドックガーンを使う俺様は第6世代サムライド……つまり最新式の俺様が旧式に負けるわけねぇ!!」

「若! だからといってドックガーンを無暗に使う事はやめてください! ドックガーンはエネルギーの消耗が激しい事は若が一番理解しているでしょう!」

「うるせぇなぁこれくらい大したことねぇよバーカ!」


 コジローに反発しながらリュウは、ドッグガーンのトリガーの真下に存在するダイヤルを親指で回すことで銃身がグリップの真上へと上げる。

 放たれた紫紺の光が一か所に収束し、先端の光を透明の光にコーティングされるように刃の形に固形化される。


「ドック・ラビトン!!」

 真上の円盤へリュウが握るサーベルの刃が刺さる。刺さった円盤は爆発の前に機体が四散へと激しく砕け散った。

「これでいいだろ! これで!!」

「これで……ってそのドック・ラビトンもですねぇただ重力エネルギーを逆に利用する形だけで斬撃兵器にしただけでして……」

「うっせーな! 速く言いやがれボケェ!!」

「要はエネルギーの消耗が……ってそれくらい若が知っているでしょうが!!」

「うるせぇな! 俺はパーっとした戦い方が好きなんでね!! ドラグーンネックス!!」


 両腕に装備された龍の頭と長首を模したパーツが伸展され、鞭のように竜の首が目の前の円盤に叩きつけられ、また竜の頭で円盤をかみ砕いては業火を吐いて進撃を妨げる。

「そらよっと!! ざまぁみろっと!! コジロー! これでいいんだろこれで」

「これでいい……って自分の事でしょう! その程度の事は自分が一番よく知っているかと」

「あぁだこぉだってうるせぇな! ほら、敵はもういないからそれでいいだろ、それで!!」

「若。そりゃあそうですが、拙者は若の目付け役として……おや?」

 敵は去ったかに見えた。しかしコジローの目には銀色の円盤の姿が見えた。そして円盤の影には手足が生え、頭部が展開される目視できる位置まで来た時には敵は既に人の形をしていた兵器群と化した。


「まだいやがったか!所詮旧式サムライドの分際で!!」

「若! 旧世代サムライドとはいえ油断しないように! ですよ!! 旧式と我々の違いは思考能力がないだけでして戦闘能力は大差がないのですから!!」

「それなら俺様の圧勝じゃねぇか! バカが!!」

「人の話は最後まで聞いてください若! 旧式サムライドは指揮官の命令で動くのです! その命令が確かなら十分手ごわい相手です!!」

「うっせぇなぁ!大丈夫……のわぁっ!!」

 リュウは大丈夫……ではないようである。真上の旧式サムライドの右手から放たれるビームライフルが地上を失踪するドラグーン・レッダーを襲う。空からの敵に地上で挑む事は難易度の高い事だ。


「ちっ!」

「やめてくださいこのような相手のドックガーンを……いや、このような相手だからこそドックガーンを使う必要が……はて?」

「ならこれ使うぜ!」

「いややめてください! それもっと危険ですから!!」

 リュウが右目に手を触れた。彼の右目は漆黒の眼帯が覆っており、本人の少し誇らしげかつうれしげな様子からでは、右目に何かを隠し持っている可能性がある。最もそれを知っているからこそコジローが反対しているのだが。


「あわわわわ……それやったら若も拙者も……若!」

「あぁん? 何だコジローまだ俺様に用があるのか!?」

「ありますよ! たかが旧式にそんな大げさなもの使わないと若は勝てないのですか!?」

「!!」

 先程からリュウの強気な態度にコジローは立場がなかった。だがその言葉にリュウは敏感に反応したところを彼は見逃さなかった。


「えーとですね若! 本来強いサムライドはですね、そう簡単に奥の手を使わないものです! 切り札を最後までとっておくことが最強のイロハなんですよ! ほら、必殺技は最後に使えという例えがあるじゃないですか!!」

「ぬ……」

「若? あとですねー単に武器を使うだけでは華がないですよ! 若には最新鋭のサムライドとして強力な武器が……ドラグーン・マルチブル・フォーメーションがあるじゃないですか!」

「ドラグーン・マルチブル・フォーメーション……へへ」


 コジローの言葉からリュウの苛立ちが急速に解け、本来の勢いの上にどこか微笑ましい表情が横顔に映る。

「しょうがねぇやつだコジロー! そんなに俺様のフォーメーションが見たいって訳か!!」

「は、はい!」

「へへっ俺様のような最新鋭に最新鋭の武器が、フォーメーションを使う事が許されるってわけだ! よくみとけよっ!! ドラグーン・ガーター!!」

リュウの足場付近に搭載された菱形のシールドをマシンから思いっきり引っぺがすように右手へ握る。

ドラグーン・ガーターのサイズは彼の半分以上の高さを誇り、幅では己の身体を隠すほどの巨大な楯。その菱形を己の上半身へ持っていくことで真上のビームを受け止めた。


「若! 大丈夫ですか!!」

「うっせー! 旧式に最新鋭がやられる訳ねーよバーカ!!」

 一斉のビーム攻撃へ身が後ろへよろけてしまったリュウをコジローが支えた。だがそのような気配りを本人は感謝どころか鬱陶しいものだろうか。本人にとっては最新鋭の意地もあるのかもしれない。

「それよりマルチブルフォーメーションガーターでいくぜ!! ドラグーン・ブーメラン!!」

 リュウの腕に装着されたダイヤが激しく回転して円型の軌道を描く。ダイヤが旧式サムライド編隊へブーメランのように回転しながら飛行した後、彼の両腕には漆黒の弦が握られている。


「俺様のドラグーン・ボーガンで……バーンだっ!!」

 握られた弦の弦輪が甲の上に置かれた龍の口にくわえられるように合体。展開するリュウの首に手放した弓の弦が合体して再度元の位置へパーツが移動を終える。弓と一体化した腕がリュウのドラグーン・ボーガンと化す。そして拳が赤く閃光を放ち、その閃光が矢となって何発も標的へ放たれるのだ。

 上空ではドラグーン・ブーメランが旧型サムライドを翻弄し、また展開された刃が相手を切り裂くのみ。機体を切り裂く刃を避けても、機体を貫く矢が。矢を避けても刃に切り裂かれてしまう。

「そらよっと!! あいよっと!!ざまぁねぇな!!」

 何発もの矢が旧型サムライドの接近を許さない。地上からの何発も放たれる矢を軽やかな軌道でブーメランがリュウの元へ帰還運動を開始した。


「相手が近づかない……いや近づけねぇな!!」

 ブーメランの帰還を待たずにリュウは飛んだ。空中でブーメランを受け取るからか。それは違う。ブーメランは彼の背中すれすれに飛び、ブーメランの裏面が背中に接続された。

 背中に接続されるとともに、ブーメランの回転がピタリと止まる。ボーガンを放つ事をやめた。そして止まったブーメランのパーツは左右に両腕に向かって分離、移動を開始した。


「近づけねぇから俺様が近付いてやるぜ! 有りがたく思いな!!」

 ブーメランとボーガンが一体化し、彼の手元に握られる。相手へ向けられた先端にはブーメランの刃。鋭利な武器を旧型サムライドに向けて空中の相手へ向かった。

「さすが最新鋭の兵器だけはあります……若の兵器は一つの兵器に多機能性をつぎ込んだものばかり。マルチブル・フォーメーションは若の兵器の多機能性を活かした必殺戦法です!!」

上空でのリュウの戦いを地上から眺めるコジロー。マルチブル・フォーメーションを駆使するリュウの姿は彼にもどこか誇らしげに見える。

「ドラグーン・ガーターを分離させてドラグーン・ボーガンとドラグーン・ブーメランとして使用するだけでも強力ですが……」

「でやぁぁぁぁぁぁっ!!」

 天からの声がコジローの耳にも届く。敵の懐に接近したリュウの両腕は完全な凶器。鋭利な刃が相手を抉り、挟み、一つを幾多へと切り裂く。

「別の形に合体させて誕生するナックルパーツ・ドラグーン・スパイカー、そしてガーターのブースターの力を借りて敵陣へ切り込む方法は若の得意戦法の一つ!!」

「フィニーッシュ!!」

 そして最後の1機への強烈なストレートが機体を貫く結果となる。リュウのフィニッシュパンチが決まった時には既に他の旧型サムライドは1機もいなかった。


「どーだコジロー! ざまぁねぇぜ!!」

「さすがです若! このようにしっかり戦えば……」

「これで俺様が弱いとか言うのか!? コジロー、さっきの事で……」

「ええっ!?若、あれはですねその……」

「コジロー、俺様を馬鹿にした罪は大きいぜ? そーだな」

「あわわわわ……若、相手を許すこともまた強さの証で……」

 コジローにとっては一難去ってまた一難だろう。目の前の相手を片づけても、自分の主君の不興を買ってしまったようだ。戒めの言葉を理解する主君だったら話は別だが、リュウはまだその域に達していないだろう。


「はいはい。そこまでそこまで!」

「何だ!?」

「だ、誰ですか!?」

 そんな二人にどこからか聞こえる少女の声。存在が分からない彼女の声からリュウとコジローの注意はそちらへ移った。辺り一面を見回す彼らだが該当する姿は見当たらなかった。


「ここよここ! あたしはここよ!!」

 さらに大きくなった声の方向へ二人は顔を向けた。その位置は付近の木の枝にちょこんと座った狐の耳と九尾の少女。アキ・モガーミィしか割り出せる候補がいない。

「な、何ですか貴方は!!」

「まぁ落ち着いて落ち着いて、あたしに話す時間をあたえてっと……」

 アキの両手が狐の耳を抑える。抑えられた耳は説明できない原理で彼女の頭髪に沈み、金髪のロングが茶髪のツインテールへと変わり、彼女の尻尾は一尾に収縮された。

 そのままアキが地面へすたっと着地すれば、コジローは彼女に備えるかのように飛燕の柄を握る。


「ちょっと待って待って。あたしあんた達の敵じゃないから」

「て、敵でない?」

「ケラケラケラケラケラ!」

 ツインテールが特徴的な一見女子高生同然の姿をしたアキと彼女の後ろからひょっこり顔を出したリスのようなロボットペット。

 そのリスは不敵に笑みを絶やさない彼女と対照的に笑い声を抑えないがなんとなく二人ともリュウとコジローを見下している様子にはかわらない。

「そうそう。あたしアキ・モガーミィ。そしてこの子はリスのサイジュ」

「ケラケラケラ!」

「そしてあんた達は独眼竜こと”リュウ・イダテン”にえーと……とりあえずそのおまえのコジロー・カタクラ」

「おまけとは……自分でもその程度と考えてはいたもののおまけ呼ばわりされては……」

「何か言った?」

「いえ、拙者や若を知っているとはそなたもなかなか。あと拙者にも忠義一筋という肩書きが……」

「あ、そう。あたしチェックしていないサムライドの肩書きまで気にしてないから」

「チェックしてないって……そ、そりゃあ拙者は戦闘能力に関してはそれまで……」

「ケラケラケラケラ!!」

 アキの言葉にコジローが思わず地面へ手をつけてしまう。戦闘能力に自信がないにしても、言われたら言われたで厳しいようである。

 サイジュが彼を嘲笑している一方、そんな彼女は彼が落ち込んでいる事は全く気にもかけず、また一人茫然としているリュウに近付く。


「な、何だ貴様は! 俺様は今この馬鹿をなぁ……」

「まぁまぁ待って待って独眼竜ちゃん」

「独眼竜ちゃんだと!? 俺様をちゃん付け呼ばわりするとは貴様ぁ俺を子ども扱いするならドックガーンの餌食にでも……」

「あぁもう! あんた最強のつもりでいるの!?」

「なっ……!? 俺は最新第6世代! 祖国を救うために全てを俺に注ぎ込まれて、人間どもが俺を神のように崇めている俺が最強で何がおかしい!!」

「全くおかしいわよ! 呆れちゃうわ!!」

 背中のドックガーンに手をかけるリュウにアキは言葉で上手く彼の殺意を削いで、彼女が自負する言葉での勝負に2人の張り合いは持ち込まれた。

 ドックガーンを握ったまま当の本人はドックガーンを彼女へ向けず、トリガーも引かなかった。


「リュウ? 世界にはまだまだサムライドがいるのよ! あんた達がいる東北地方はねぇ、この世界の一つにしか過ぎないの! 他の世界ではあんた以上のサムライドがいるのよ!!」

「俺様以上のサムライドだと!? 誰だそいつは!!」

「きゃあっ!! あんたどこ触ってるのよ!!」

 アキの胸倉を低い背丈であるにも関わらずリュウはジャンプして掴みかかる。そんな彼を引っぺがそうとする彼女だが、彼は手を離さないようである。

「言えよ! 俺様より最強がいるなら言えよ!! おいこらぁ!!」

「落ち着いて落ち着いてって! 紅き軍神ゲン・カイ、蒼き戦神ミーシャ・ツルギ、難攻不落眠れる獅子のポー・ジョージィ!! あんた達の近くには五強の三人がいるのよ!!」

「そいつらどうせ俺様と同じ最新鋭の第6世代だから最強へ挙げてるだけだろ! どっちにしろ最強が俺様なのは間違いじゃねぇ!!」

「あのねぇ……」

「若、落ち着いてください!!」

 リュウの怒りはアキに向けられている模様。彼の俺様至上主義の行きすぎにさすがのアキもお手上げのような展開だが、そこでコジローは慌てて彼女から主君を引っぺがすように引き離した。


「離せ! 離せコジロー!! でないとお前もドックガーンで潰してやる!!」

「さっきから若は何回ドックガーンばっか言っていますが! ドックガーンはですねぇ、そりゃあ最初に開発された上に強力な兵器ですから若が使いたがる気持ちはわかりますが、若のエネルギー消耗が激しいから使用は控えるべき兵器なのですよ!」

「……あんた、今言うべき事間違えているんじゃない?」

 アキの突っ込みは最もだ。このような状況で筋違いなお説教をする彼はある意味馬鹿か、それほどリュウを思っているのか。答えは後者にしなければコジローの立場がないので後者の理由とここは考えておこう。


「離せコジロー! 俺に口出しするとお前でも潰すぞ!!」

「潰したかったら潰して結構です! ただし拙者の話を聞いてからにしてください!」

 両手で拘束されてじたばたするリュウに対し、コジローは己の危機を顧みずに説教を続けようとする。彼の姿勢から取れる我が身を捨てて主君を諫める意志を考えれば、先程の説教は後者の理由が正解だろう。


「若、確かに若は最新鋭の技術で生み出された第6世代サムライド! ですがねぇ単に世代の性能差でサムライド同士の戦いは勝てるものじゃないのですよ!!」

「何?」

「そりゃ当り前ですよ! 世代で勝敗が決まったらビーグネイム大陸の世代競争がどれだけ激しい事になるか……あの方が言われた3人の方は第1、2世代ですよ!!」

「うそ……だろ?」


この事実にリュウの目が小さくなり、ポカーンとした様子で開いた口がふさがろうとしない。そんな主君の余りにも情けなく珍しい顔をみたコジローはしばらく言葉を失ったが、

「まさか若、世代だけで何とかなると思っていませんでした?」

「う、うるせぇ! どうせ最新鋭が旧式に負ける事なんてばかばかしい話なんだよ!!」

「若、そこはやはり自分の間違いはしっかり認めましょうよ!!」

「……はぁ、やれやれ」


 リュウとコジローのやり取りを一人あきれた様子で微妙な表情を見せたアキ。彼女は半分呆れて一歩一歩近づいた。

「まぁその事は深く言及しないとして、リュウ? それでもあんたが最強なの」

「当たり前だろバーカ!!」

「若! やはりここは自重して……」

「まぁそれならというかさぁ……もう、それならそれで皆やっつちゃわない?」

「何っ!?」

「何ですと!?」


 アキが小悪魔のような表情でリュウの耳元へそっとささやく。その内容はコジローのような常識人にとってはとんでもない話であるが、血気盛んな彼の心を鷲掴みにしてしまっただろう。彼は真っ先に彼女の方へ己の瞳をキラキラ輝かせながら顔を向けた。

「随分乗り気そうだね。いやーよかったよかった。まぁ実はあたしね、サムライドをね……その、まぁゴートゥヘルしちゃお♪かな」

「!!」

 コジローの身が震えた。アキの右手がサムダウンし、表情は白い歯をにやりと浮かべて瞳は半開きの彼女は、可愛らしい乙女の姿とは釣り合わないほどの残酷な本性を隠し持っているのではないかと思ったのだ。

「あたしに代わってさ、独眼竜のあんたにサムライドをやっつけてほしいの。あんたが最強なら簡単な事でしょ?」

「う……」

「わ、若!」

 

アキからの頼みにリュウは一旦言葉を絶った。勢いだけで突っ走り最強を豪語する彼ですら、彼女の奥から滲み出ている腹黒いオーラを受けて肝が縮みあがるような思いを抱いているのだろうか。


「おもしれえ! おもしれえじゃねぇか!!」

「若!!」

 それは違った。顔を俯いて言葉を断ったリュウは心のうちにたまった要求を鬱憤を晴らす機会とおもったのか、アキの野望に肩を貸すつもりなのだ。

「ふふっ。乗ってくれる様子だね」

「俺様は最新鋭かつ最強のサムライドだ! 昔っからの旧世代が5強とか呼ばれているなら、俺がそいつらをぶっ潰せばいいはずだ!!」

「そうそう。最強なら最強を実証しないといけないよね。ま、さっき私が仕向けたサムライド軍団を軽く倒したあんたは確かに実力あるしね」

「さっき私が仕向けたですと? つまりここのところ私たちを襲わせていた原因はそなたですか!?」

「まぁね。いろいろ事情があってあたしもあんた達を敵の立場でテストしないといけなかった訳。まぁあんた達がこうして生きているのはあんた達の実力がそれなりにあったからと思っといていいわ」

「あわわわわ……」

「ケラケラケラケラ!」

 アキのあっけらかんとした感じと正反対のおっかない答えにコジローは腰を抜かしたように地面へ座りこんだ。震える彼にサイジュが嘲笑をふっかけているが、本人は気付いているかいないか程怯えていたようである。


「そんじゃ、あたしのチームの切り込みはあんたで。あんたを味方につけたら楽だわ~最強さんが味方だしね」

「へっ! 最強上等だってーの!」

「ひぇぇぇぇ。若は最強の言葉でおだてられる事が弱いですからなぁ……あの女の元で若が戦うなら拙者もそれに従わないといけない訳で……ですが、あの女は拙者と若を利用しているとしか……」

「それもそうだぜ」

「!?」

 アキにおだてられてノリノリのリュウを離れた場所から不安に思うコジロー。その背後からまた違う者の声が聞こえた。その声は3人以外の者の声であり、声質には落ち着きの中で憎悪に駆られる衝動が爆発寸前の声だ。


「あら? どうやら新手のサムライドかしら」

「とぼけても無駄だ謀略の女狐!!」

「グルルルルル……」

 3人を見渡す事が出来る高さの崖に1人と1匹の姿が見えた。このコンビががけから飛び降りて着地すれば、グレーのコートを羽織った少年と彼の元に寄りそうブルーの犬、犬の姿をしたマシンが3人の視界にはいった。


「あの~そなたは一体どちらさまで……」

「サタケ・タスケ! 戦場のトップトレーナーとでもいっておこうか」

「戦場のトップトレーナー?」

「おい、コジロー、トレーナーって何だ?」

「…………」

 トップトレーナーとの今一つピンとこない肩書きと、主君のトンチンカンな返答へ何とも言えない顔を見せるコジロー。そんな顔を主君に見せる事は出来ず後ろを振り向く事は彼なりの配慮だろうか。


「おい、俺まさか何かまずいことを……じゃねぇ!」

 何か気に障る事を言ってしまったのかと思わず先程の突っ張った様子から本性と思えるオドオドとした感の小市民的な姿を晒してしまったサタケ。彼は両頬を叩いて気を取り直すが、そんな彼の繕いをアキはあざ笑うような表情で見ていた。

「それよりも謀略の女狐! 俺達バリーイースト義勇団の仲間達をやりやがって……」

「バリーイースト……あぁ、弱小サムライド集団の群れね。群れのくせに人に迷惑をかけちゃあ義勇団として名折れな気がするけどね」

「迷惑だと!? 俺達義勇団が惰眠をむさぼる高官や貴族を懲らしめて難民に救いの手を差し伸べる俺達は義勇団として……」

「苦しむ人間を救うために同胞の人間を苦しめてもいいというの? あんた」


 本来の敵であるアキへ怒りを露わにして言葉で攻め立てるサタケに対して彼女の態度は相変わらず飄々としており、どこか楽天的にも見える。だが、彼女がそのような態度を取ることが出来るのは揺るぎない自分の行いの正当性と自信からだろう。彼の敵になった負い目を巻き返すだけのアドバンテージが彼女の口からは放たれようとしていた。


「大体ねあんた達は難民を救うために戦いを挑んでいると美談を語るように言っているけどねぇ、あんた達が人間を苦しめている見方だってあるのよ!」

「俺が人間を苦しめている!? ど、どういうことだ!!」

「あたし達はサムライド。その圧倒的な力は人を救う一方で人を恐怖に陥れる諸刃の存在。そんな不安定の存在が平和を守るなんてばかばかしいわ!」

「それだったらお前は……」

 サタケの理想を踏みにじるアキの言葉。そして彼女の右腕には自分へめがけて飛んだ笹切が握られた。その際の刃は彼女の首寸でのところで止められた。


「あたし達のような異能の存在が死に絶えればそれで平和なのよ……あんたにはわかる?」

「おわっ!」

 アキの手に握られた笹切をサタケの足元へ投げつける。当の本人の表情には並大抵の程度でない意志が見られる事が彼はうすうすと感じてしまった。

「でもあたしは死ぬ気はないね。あたしのようなサムライドがいないとあたしのような考えを成し遂げる奴らがいないしね!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「あわわ……若、どうすればいいのでしょうか」

「何だコジロー! 俺様はどっちを敵に回しても勝てる自信はあるぜ!!」

「いや、若そういう問題じゃないですよ!!」

 アキの胸の内を知らされ思わず身が震えてしまうコジロー。それに対し当のリュウは彼らしいと言えばいいのか、自信過剰な事を考えているのだ。

「おいそこの二人! この女狐に利用されたらお前たちも死ぬぞ!!とりあえず悪いことは言わないからあの女を倒せ!!」

「何だと!?」

「こ、これは俺の忠告だぞ! 俺の言う通りにしないとあんたら痛い目をみるぞ!!」

「若! ここは筋からしたら拙者はこのサタケとかに助太刀をすべきではないでしょうか……」

「リュウ! あんたが独眼竜で最強ならば弱い奴に助太刀する必要はないのよ! ここであいつを倒してあたしに少しでも最強を証明してみなさいよ!!」

「最強!!」

「なわっ!!」


 サタケはリュウへ説得を試み、コジローを落としそうなところまではたどりつけたものの、リュウを引き付けるアキの一言があっさりと答えを決めさせた。結果は両腕のビュートがサタケを弾き飛ばしたのだ。


「若!! ちょ、ちょっとあの方はいい方ですよ!! そのような方を敵に回すと罰が……」

「うっせーなコジロー! 俺様はなぁ弱い奴の味方になるつもりはねぇよ!!」

「若!(あぁ若は最も強い相手だろうか弱い相手だろうか仲間になる考えがないようなのですが……一人で何でも出来ればそりゃあ苦労はしませんが)」

「へへっ。話が分かるサムライドっていいよね」

 答えは一つ。目の前の相手を弾き飛ばすことがリュウの答えなのだ。そんな彼が予想通りに事を運んだ事にアキは瞳を細めて喜びを露わす。


「分からず屋め……俺は正しい事をしているのによ!」

「強くなきゃ正しいも何もあるか!! 俺様が勝ちゃあ全ては正しい訳よ!!」

「そうそう! あんたは好き勝手暴れ回りたいならあたしの元につけばいいのよ!」

「ア、アキ殿……」

「さぁーて、あんたが忠誠を尽くす独眼竜の実力をとくと拝見といこうじゃない。素早く倒してもらわないとあたしも困るけどね!」


「ちぃっ! ライドロール!!」

「グルルル……」

 荒野において、何も関係ないはずのリュウとサタケの対決は避けられないものとなった。サタケにとっては何も関係のない者でも、仲間の敵の代理として立ちはだかるなら武器を持たなくてはいけない。

 サタケの右手はベルトのバックルを握り、一本の棒・ライドロールが引き抜かれる。また彼の相棒でもあるライドマシーン・バントウも前足で何度も地面を蹴り敵意を表明する。


「そんなに長くたって俺様が勝てなかったら意味はないんだよ! ジゴク・ライシス!!」

 リュウの背中から取られたライフル。彼はトリガーの真下のダイヤルを調節することで銃はドックガーンと同じ変形を見せる。グリップの真上から一直線に延ばされ、銃口から紅いビーム状の刃が禍々しい輝きを放つ。

「ただの剣なんてビーム剣の前にくたばっちまえばいいんだよ!!」

「でやぁぁぁぁぁっ!!」

 両者が一直線に相手をめがけて駆ける。ビーム剣を実体剣で受け止める事は不可能に近い。何故なら、実体の側がよほど強固でない限りビームに焼き斬られてしまうからだ。リュウにはその知識があったから上記のようなセリフを口にして正面から向かっている。

 だが、当たり前の知識で相手が自ら不利だと分かってそのような突撃を行うか。戦士たるものは用心を怠ってはならない。最初から不利な条件で捨て鉢のように突撃する相手などそういないのだから。


「何っ!?」

 そして互いが切りあえる距離へ縮まった瞬間。リュウにとって予期せぬ事態が発生した。不利な状況を打破するサタケの作戦を見抜けなかった彼に驚きが走る。

 リュウは驚きから答えを察知するまでの冷静さを取り戻す事が出来ず、彼の項頭部への激しい衝撃が己の身体を目の前の地面へ飛ばされる結果になった。


「俺だって曲がりなりにもサムライドだぜ!」

 地面にたたきつけられたリュウの後ろでサタケが体勢を元に戻す。彼の一撃の答えをリュウはまだ分からない。

 ここで状況を説明しなくてはならない。あのとき、互いが激しく接触しあう寸前サタケはライドロールの先端を地面へ突き刺した。

 長さだけではリュウのジゴク・ライシスより上のライドロールを棒高跳びの要領で高く付きあげて、鉄棒のようにライドロールを握りながら己の身体を回転させて、リュウの後頭部へ蹴りを放った。つまり、この戦いでサタケは相手に対し不利な武装を彼の裏を掻く道具として使用したのだ。


「ちくしょう……のわっ!!」

 不意を突かれた状態から立ち上がるリュウには休みもなく蒼き犬が狼のように彼の首元に噛みつき。鋭利な爪で頭部の兜を引きはがそうとしている。

「離しやがれ! 犬の分際で俺様に刃向いやがって!!」

「グルルルルルル……」

 首元をかまれて力が出ないのかリュウの腕力ではバントウを引き離す事が出来ない。それと反比例して彼の首を噛み切らんとバントウの牙の力が強まっていく。


「どうだ独眼龍さんよ! 最新鋭の様だが頭はからっぽのようだったな!!」

「畜生! まだ、まだ勝負はこれからだ!! 旧式のくせに俺様に勝つとか馬鹿なこと考えてんじゃねぇぞ!!」

「往生際が悪いぜ! 大人しく降参すれば俺だって鬼じゃないし、お前に特別恨みを持ってないから許してやってもいいぜ! 俺の目的はどうせそこの女だからな……」

 サタケに目を向けられた女はアキ一人しかいない。彼女は半分苛立っているのか足を何度も踏み、腕を組んでいる模様だ。


「何よ! あれだけ最強最強と言っておいて……ダメじゃないの!!」

「アキ殿、若が苦戦を強いられているのは部外者が若の……」

「本当に弱いんだから言っているんじゃない!!」

「あう……」

 アキの一言でコジローは反発の勢いを沈めてしまう。サタケはバントウ憎み疲れて動けないリュウの元へ足を近づける。ライドロールの先端を鋭利な槍へと変えて。


「お、おいお前! ここは大人しく降伏したほうが身のためだぞ! これだけはマジだぞ!!」

「うっせー!! 俺様はまだ負けちゃいねぇ!! こいつの頭をへし折ってお前をえぐってやるよ!!」

「ぬ……なら仕方ない……よな!ほ、本当に後悔するなよ! 死んでから俺を恨んでも困るからな!!」

「俺様はこんなところで死ぬかバーカ!!」

 サタケが本来根は真面目なのか、お人よしなのか。またはリュウがアキに利用されていると思ったからか。

 折角の好機を得てもここで躊躇してしまうのは性格的には高印象だが、戦士としては彼の質が問われてしまうだろう。


「俺だって好きでお前を倒すつもりはないけどここでやらねぇとやられるからな!!」

「ちくしょう……」

「あれを使わせる訳には拙者としては……ええい、こうなったら仕方ありません!!」

 だが戦況が変わることはなかった。絶体絶命のリュウは己の眼帯に手を掛けようとしている。その光景を見たコジローが取った手段は一つだ。


「飛燕天空投法! そして……パイル・フォームで行きますよ!!」

「パイル・フォーム!?何なのあんた、何するつもりなの!」

「決まってるぜ……若をこのままほっておくにはいかないからな!!」

「……!!」

 コジローの飛燕がサタケに向かって投げ飛ばされると同時に、彼の体から発せられた白い煙が己を包みこむ。

 アキも想定していない思わぬ展開に驚きが隠せない。そして、煙の中からの先ほどとは全く違うドスの聞いた声は自然と彼女の身体が震えてしまう程の威力があった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「さらばだ独眼竜! 恨むなら自分の選択をうら……!!」

 サタケのライドロールがリュウの胸を突き刺そうとした瞬間だ。こちらへ迫る激しい回転音を察知し、飛んできた剣……そう、コジローの飛燕を弾き飛ばした。

「なにも……」

「サンダァァァァァカットッ!!」

「ぬわぁっ!!」

 コジローの刀をサタケが弾き飛ばした瞬間、激しい衝撃が己の頬を抉る。その勢いで宙で何回転かして荒れ果てた大地に己の身体を激突させる。


「コジロー!! 俺様はまだ助けを」

「若を死なせては俺の立場はねぇ! それより若が俺の助けを求めなくて十分なら力を見せな!!」

「野郎言いたい事言いやがって……てやっ!!」

「キャウ!!」

 渾身の力を振り絞って右足でバントウの腹を蹴り飛ばす。そして蹴り飛ばされて宙を舞うバントウを羽織絞めにする形で止めたのがコジローだ。

 彼の髪が風になびくが前髪の下の瞳は見開き、切れ長の目を、上半身の羽織に隠された紅白のアーマーを装着したような精強な上半身を彼らに晒した姿がパイル・フォームだ。


「ちくしょうあんたまで俺の敵か!!」

「悪く思うなよ! 確かに若が選んだあの女は腹に何か抱えているおっかない女だ! だがなぁ、俺は若の目付け役! 若を諫める事はともかく、若の危険をこの命に代えても救わねぇといけねぇんだよ!!」

「ほ、保護者きどりか……子供の喧嘩でピンチになった我が子に大人が加勢するようなものじゃねぇか……はははは」

 思わぬ助っ人の登場に地面にたたきつけられたサタケはまだ腰が上がりきらない。だが、ここで自分が倒される訳にはいかないので屁理屈で彼らのプライドを刺激して、意地が好機を逃す事を彼は内心に乗り続けたが、


「あぁ!? 過保護な親と俺を一緒にするんじゃねぇドアホ!!」

「「ええっ!?」」

 先程の言葉づかいから騒動が付かないコジローの野蛮な返答がサタケどころか主君であり、その姿を何度か目にしていたリュウをも震えさせる。人が変わったかのようなリュウをアキは好奇の目を向けている。


「俺は若とあんたの戦いに介入するつもりはねぇ!!ただ若が卑劣な手でやられる事が許せなかっただけなんだよ!!」

「お、俺が卑劣!?お、俺とバントウは生まれたときからの相棒で、それにな……」

「若! さっさとこんな中途半端なサムライドをやっちまいな! この犬っころは俺が止めておくからよ!」

 バントウの首根っこを絞めたままコジローの目はリュウへ向けられた。向けられた従者への瞳に答えようとリュウは目を閉じて再度彼へやや照れ隠しに顔を向けた。


「コジロー……余計な事しやがって、だが今はサタケ、貴様を倒すぜ!!」

「ちょ、ちょっと待って! 俺、茨城から来て……こうなったらどうにでもなれやぁぁぁぁぁっ!!」

「たぁぁぁぁぁっ!!」

 納得がいかないサタケだが、再度ジゴク・ライシスを片手にリュウが近付く。もう一度ライドロールを彼は握る。そんな様子を離れた場所で見つめるアキだが、彼女の右腕に笹切が集結を開始している。


「どうやら面白くなって来たようね。ふふ……折角だからちょっとサービスっと」

 右腕には小刀の刃と柄が分裂を開始し、柄がアキの袖の中へ次々と入っていき、刃は一つの長円へ集結を開始した。刃が一つの長円として完成を終えた途端、彼女の右腕からコードが射出され、先端の吸盤が刃の群れに接続された。

「これで完了っと後は計算通りっと!!」

 アキの右手に合体されたシールドから銀の光が放たれる。光はとある崖先へめがけて放たれた。そことは別の場所で再度リュウとサタケの一騎打ちが展開されていた。


「ライドロール! 回転落とし!!」

(これでもう一度蹴り飛ばして地獄車で止めを刺してやる! 俺が俺だけでも大丈夫だって見せてやるよ!!)

 サタケが笑いながらライドロールの先端をまた地面へ突き刺す。彼の行動には自信があったのか。再度ライドロールを棒高跳びの要領で天に高く伸ばして彼が回転を開始した。


「馬鹿野郎! 同じ手を俺様が食うと思ったら大間違いだ!!」

 しかし単純なリュウにも一応学習能力があった。最も相手を過信して敢えて同じ切り口で攻撃を開始したサタケはミスを犯したも同然なのだが。

「ライドロールが……のわっ!!」

 答えは簡単だ。無暗に切りかからないで地面にライドロールを突き刺した瞬間に、リュウは踏みとどまりジゴク・ライシスをビームガン状のジゴクダッパーへ変形させる。

 その変形させたジゴクダッパーからのビームがライドロールの先端を放ち根元からライドロールをへし折って見せた。

 土台が崩れて地面へ落下してしまうサタケに向けて、再度ジゴクダッパーが火を噴き、彼の身体が貫かれるとともに遥か遠方へ弾き飛ばされてしまう。


「やべぇ……俺このまま死んだらあいつらに合わせる顔がねぇ……あぁこういう時バントウがいるから俺は危機を切り抜けてきただけあって……」

 胸を貫かれて宙へ投げ飛ばされる中で弱音を吐くサタケ。だが目の先に地面が見えた事が唯一のありがたみかもしれない。

 地面へ足を置けばひょっとしたら反撃の機会はある。可能性は限りなく低いがここで大人しく死ぬよりは希望があるはずだ。


「よっと!」

 深手を負った状態で崖の上で体勢を立て直したサタケ。反撃のチャンスはあったかどうかはわからない。

 だが、彼にとっては非情かもしれないが、銀色の光線が彼の前方に走り、彼の地形そのものが地形から切り離されてしまったのだ。

「え……うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 宙で切り離された足場は重力に従ってサタケは崖から先へ堕ちてしまう、落ちていく足場と共にサタケは落下してしまうのだ。余韻も残ることなく。


「グオオオオオオッ!!」

「何っ!?」

 崖へ落下するサタケを、まるで飼い主を追う愛犬のようにバントウはコジローの拘束から離れ、彼を追うように崖へ向かって走り出し、助かりそうもない先へ躊躇せずに飛び降りる事を選んだ。


「あいつ助かりそうにないあの男を……機械の犬なれどあっぱれな忠誠心だぜ」

「負けた奴の事はどうでもいい! それよりどうだコジロー、俺の力すげぇだろ!!」

「あぁ若! さっきの戦法は若にしては見事たぜ!! それよりこの姿でいると結構俺は疲れるからな、パイル……」

「どうやらそういう訳にもいかないようだね! ほら!!」


 アキに言われるまま2人が真上を向けば既に何機もの円盤と、従来の量産型兵器ソルディア、アロアードの群が彼らを襲わんと近づく。これらの量産兵器軍団の先頭には彼女にとって見覚えのある人物が写された。


「いやあ、まさか君が私より先に反旗を翻そうとしていたとは考えてもいませんでした。ですがさっさと貴方を倒せば鉄人都市計画に何の支障もありませんよ」

「ちっ……あのヘタレに付き合っていたせいで先手を越されたって感じね」

「おいアキ、あいつらお前を目の敵にしているようだが?」

 アキへ対峙する人物は自分が仮初の姿をして接近していたアッシナーだ。事情を知らないコジローが彼女に訪ねた時に彼女の決意は固まった。


「まぁね! あたし達3人が生き残るにはこいつらを倒さないといけない訳! じゃああんた達の最終テストと行こうじゃん!!」

「上等! 俺様を甘く見るんじゃねぇ!! ライド・オン!!」

「やれやれ……だがあの女はともかく、あいつ等の仲間になっても先が思いやられる気がするし、なによりここで若を死なせたら俺の面目が危ないからな!!」

 勢いよくドラグーン・レッダーを足場にするようにリュウが飛び乗り、マシンは素早く飛ぶ。そんな彼を追いかけるのはコジローだ。


「ドラグーン・バンカー! でやぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ドラグーン・レッダーの尻尾が切り離されたパーツはリュウの右腕と一体化することでパイルバンカーであるドラグーン・バンカーとして運用される。

 回転するバンカーの先端が電磁エネルギーで射出されて相手を貫き、先端へ搭載された火薬弾が自動で相手の懐へ放たれることで、標的が木っ端みじんに砕け散る兵器である。


「!!」

 それだけではない。ドラグーン・バンカーは単なるパイルバンカーで終わらない武装である。握られたグリップが折れ曲がることで銃型のフォルムへ姿を変え、先端と本体の接合面から幾つもの小型ミサイルを放つ。これにより遠方、及び上空の相手に対しても効果がある兵器と化すのだ。

「ちっ! おいコジローこいつの弾が切れた!!」

「弾が切れただと?」

 だが、リュウが計画的な戦いをするかといえば答えは簡単。ノーだ。とにかく武器をぶっ放す主義の彼に持久戦の文字などない。

 その言葉を耳にしたコジローは、ソルディアを殴り倒し、戦いに乗っている顔が半分呆れを見せる。


「ほらみろ若、こういう武器は限りがあるんだよ! だから計画的に使えってなぁ」

「うっせー! この形態でも説教は聞きたくねぇ!!それより俺様はドックガーンを使う!!」

「ドックガーン!? 本当なら反対すべきだが若、こういう数での不利にはドックガーンを使ってもらった方が俺にとってもありがたいかもな!!」

「いいんだな! なら使わせてもらうぜ!!」

「仕方ねぇな。それより若、やるならパーっとやれよ!」

「わーってる!!」

 リュウの行動は既に開始されていた。もう片手に持ったドックガーンを弾薬のないドラグーン・バンカーの後方へ接続。それによって2機の兵器は1機のバズーカへ姿を変える。


「ドラグーン・バズーカグラビトン! パーっとぶちかましてやるぜ!!」

 リュウによりトリガーは引かれた。単体のドックガーン以上の口径の紫の光が前方へ広がる。前方へ広がる光に呑まれた兵器の表面が歪む。缶がプレスで押しつぶされるように高速で圧縮される兵器達が一斉に爆発を起こす。彼から放たれる光はもはやブラックホールそのものだ。


「どうだコジロー……おわっ!」

 よろける体でドラグーン・バズーカの引き金を引くが、先端から光すら放つ事が出来ない。光と言えばせいぜい砲身の先端が点滅しているぐらいだ。

「若、どうやらエネルギー切れのようだな!」

「う、うっせー! 今は調子が悪いだけで……なぁっ!!」

 リュウの真上にアロアードが迫った。一人を狙う幾多の敵を前に、彼は無力。今の彼は鳥たちにとって絶好の餌でもあるのだ。

 だが危機は逃れた。宙に舞う幾多の小刀から放たれたビームが次々とアロアードを撃墜していったのだ。

「やれやれ! こんなところで倒れたらあんた独眼龍の名折れよ!!」

「う、うっせー! お前に助けてもらえといったつもりはねぇ!!」

 リュウが振り向く先にはキューコンロに乗るアキの姿が見えた。彼女の両腕から放たれた多数の小刀・笹切が彼女の愛用兵器だ。


「まさかお前のような女に助けられるとはな!」

「まぁあんた達を失う訳にもあたしとしては危ういからね! まぁここは仲間よ、仲間!!」

「どうやら今はそうしたほうがいいかもな! だが若を傷物にしたときは覚悟しとけよ!!」

「どうやらあたしに関してはいろいろ用心されてるようね。ま、無理ないかもねこればかりは!!」

 アキの右そでに収納される幾多の笹切。その際にまた柄と刃が分離しあうが、今度は刃が収納されるに対し、柄が一直線に棒状の武器へと姿を変えた。


「そうそう。あたしは昔サーベルプリンセスって呼ばれていたんだよね。はいこれ豆知識」

 役に立つかどうかは微妙な一言を付け加えアキが愛用する棒状の武器の両端に笹切が合体する。これにより笹切のバリエーションである棒形兵器・力石が完成した。


「さて久々に切り込み役やってやろうじゃないの……2万年飛んで10年ぶりにね!!」

 アキを乗せたキューコンロが駆けた。彼女の手に握られた力石がソルディアの顔を抉るように付きあげたり、脚部を払ったりして片づけて見せる。

 次に、力石を地面へ突き刺して棒高跳びのように飛び、アロアードを足場に力石を抜き取ることで空中の相手に攻撃をかける。少女の姿から想像もつかないアキのパワフルさである。

「お前想像以上にやるじゃねぇか!」

「まぁね。あたしこう見えてもデワ国の切り込み隊長だったからね。久しぶりにこうするのも悪くはないかもね……ふふふ」

 不敵に笑いながらアキは力石を薙刀の用に回しながらアッシナーの角からの電流を弾き飛ばす。力石は金色の光沢を弾きながら回転を止めない。


「ぬぬぬ……こんなところで私は死ぬわけにはいかないのですよ!」

「そんなことあたしが知った事じゃないわ。あんたの鉄人都市計画はあたしにとって許せない事だからね!!」

 アキが力石を握って空中のアッシナーへ飛び込もうとした。これでこいつを仕留めることが出来る。彼女が考えた瞬間だ。


「おい止め刺すんじゃねぇ! 俺様がそいつをバラバラにするんだ!!」

「ええ!?」

「行きますよ!超衝撃ストーム!!」

「くっ……」

 アッシナーの胸から放たれた朱の光がアキの進撃を止める。地面へ放たれた光が地面を切り刻むことで彼女の進路を止めているのだ。

「ちょっとあんた! ドックガーン使えるエネルギーないし、ドラグーン・バンカーの弾はないっていうのにどうするつもりよ!!」

「うっせー! ならドラグーン・ビッグバーン使っちまえばいい話だろ!!」

「ドラグーン・ビッグバーン!?」

「若、アレ使うつもりなのか!!」

「うっせー! 俺様がこいつ倒して最強名乗ってやるんだよ!!」

 文句を言うリュウはドラグーン・ガーターのボーガンパーツを切り離し、ドックガーン、ジゴクダッパーをガーター下部のブースターの接続部分へ連結する。


「ちょっと! ジゴクダッパーは分からないけどドッグガーン討てないじゃなかったっけ!?」

「確かにな。俺達のエネルギー兵器は本体に内蔵、本体にコード接続によるエネルギー供給の形で放たれる事が基本。コード接続なしでの携行兵器も存在しているが、若の兵器に威力が匹敵する携行兵器はない! だが」

 アキの疑問に対してコジローが口を開く。3機の武装が合体したドッグガーン・ビッグバーンのトリガーレバーを起動状態のまま標的にロックをかけている。


「ドラグーン・ガーターの下部ブースターが答えだ!」

「いっけぇぇぇぇぇっ! ドラグーン・ビッグバーン!!」

 そしてドラグーン・ビッグバーンがリュウの手から離れ、腰のボタンにスイッチを入れる。

 答えは両サイドの銃口から紅と黒の光を放ち光の輪が回転する本体と共に残された量産型兵器を一斉に破壊、圧縮を行われる。圧倒的なドラグーン・ビッグバーンの威力を前にアキの瞳が見開いた。


「あのブースターはドラグーン・ブーメランを飛ばすだけじゃねぇ。リュウを飛ばすほどのエネルギーがある。そのエネルギーはジゴクダッパーとドッグガーンを射出に必要なエネルギーが1,2回ほどならある!」

「そんなエネルギーがあんなサイズのブースターにある訳なの!?」

「そのとおりだ。若が最新式のサムライドなのは事実だからな!」

「な、なんと……」

「へへっ!」

 そして目の前で無様に破壊される量産型兵器の群をアッシナーは信じきれなかったのだろう。機械の鉄仮面だがおそらく内心は驚愕の2文字だろう。

 それに対しリュウはドラグーン・ビッグバーンを片手に機嫌のよい表情を見せている。


「ええい! こんな奴らに私の理想を壊される訳にはいかないのです! ライド・チェンジ!!」

 ライド・チェンジの言葉と共にアッシナーの身体が楕円の円盤へと姿を変える。その円盤を守るように回転ノコギリの刃が展開され、ギロチンのようにリュウ達の元に迫った。

「あの形態はスパイカースピン! アッシナーの奴本気出して来たようね!」

「あれが本気……回転のこぎりに俺の拳が通じるかどうか……若のドラグーン・ビッグバーンでブースターのエネルギーは……若! ブースターの調子は!!」

「あぁ!? ブースターはまだ飛べるだけなら何とかなる!」

 スパイカースピンの猛攻を回避しながらコジローはリュウへ通信を送る。リュウは半分不機嫌そうな返事を送った。


「それなら若、ブースターをこちらへ渡してくれ。それがないと俺は飛べないからな」

「ブースターをお前に渡すのか!?そいつは俺様のなぁ」

「若! とりあえず今はあぁこう言っている暇はないぜ! それより若に止めを刺させるにはこれが一番。ドラグーン・バンカーもまだ打撃攻撃として使えるからな」

「ドラグーン・バンカーだと? コジロー、あれをやるつもりだな!」

「あぁそうだ! それでやるわけだ」

 リュウの返事が妙に明るくなる事がコジローには分かる。そんなコジローの考えが単細胞の彼にも読めたのか、彼の手から放たれたブースターを受け取るや否や、背中へ接続しコジローは飛んだ。


「ちょっと! いや、あいつは何か考えているようなら……あいつ等の考えを採用しないとここはあたしもヤバいかもね!!」

 リュウとコジローの行動を見たアキは彼の危険を感じた。彼らはどっちにしろ全身刃であるスパイカースピン状態のアッシナーへ向かっている事には変わりはない。


「仕方ないね! 尻尾の力使ってあげるから感謝しなさいね!!」

 その言葉と共に彼女は自分の頭に両手を置く。その両手が触れた部分には先ほどの耳がぴょこりと現れ、頭髪が二つの抑制から放たれ金髪のロングヘアーへと色と形を変えていく。

さらにリスのように丸まった尻尾が巨大化して9尾へ分離。左端の尻尾を手にすれば尻尾はメガホンへ形を変えて己の身体から尻尾が外れた。


「こいつの力凄く疲れるけど……仕方ないね!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「どうやら私の理想の捨石になりたいようですね!」

「それはどうかな……ただギロチンのような奴にも死角はあるもんだぜ」

「私のような完璧なサムライドに死角などありませんっ!!」

 空中ではコジローとアッシナーの衝突は間近だ。だが己の拳でぶつかろうとする彼に対し、アッシナーは全身を凶器と化しており衝突してからの勝利は目に見えているはずなのだ。


『アッシナー!!』

「何ですか……ってええ!?」

「チャンスだ! でやあぁぁぁぁぁっ!!」

 ところが地上からの声へ返事をした途端アッシナーの回転がピタリと止まってしまった。空中で固定されたアッシナーの事情は分からない。だがこれを逃したら勝ち目がない。コジローは全速力で接近し、機体を捕らえる事を選んだのだ。

「ど、どういうことなのです!? 私の身体が思い通りに……」

「よく分からねぇがそれがお前の運命という事だぜ! 若!!俺が位置を決めるから、止めは任せたぜ!」

「当たり前だ! 俺様が止めをし損じる馬鹿な事なんてねぇ!!」

「それなら……でやぁぁぁぁぁっ! サンダークラッシュで極限にいっちまいな!!」

「ぐがあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 アッシナーにまたがり、己の両腕と右足で彼をコジローが固定した黄色い閃光と共に上空から急降下する両者。そして、アッシナーの目下にはドラグーン・バンカーの先端を向けたリュウがいるのだ。

「ま、まさかこんな奴らに私の鉄人都市計画が……」

「うるさいぜあんた! それよりも合体真拳!」

「電光落破!!」

「ぐ、ぐおっ……!!」

 今、鉄人に引導が渡された。コジローの力で急速に落下するアッシナーをリュウのドラグーン・バンカーが貫いたのだ。己が貫かれないよう間一髪アッシナーから離脱して、コジローが地上で体勢を立て直した頃にはバンカーに貫かれたアッシナーは爆発とともに姿を散らしていた。


「へっ!ざまぁみろってことだな!!」

「ふぅ……やったか」

 勝利を見届けたコジローの下半身から、パーツが起き上がり先程の彼が着用していた羽織が形成され、再び見開いた瞳が平常のネコ目に戻る。


「しかし若、拙者には気になる事が一つあります、実はあのときアッシナーという者の動きが……」

「それは簡単。あたしの力よ!」

「アキ殿!?」

 そんな二人の元に、ツインテールのアキが、ゆっくりこちらの方へ近づいてくる。その表情は少し不機嫌さがうかがえるのだが。

「ったく、あたしの尻尾の力を甘く見てもらったら困るよ! もっともあたしに無駄な力遣わせるなんて独眼竜が最強とは笑わせてくれるわね!!」

「何だとっ! 俺様が最強なのが分からないのか!!」

「若! 落ち着いてください!!これ以上若が動けば若の身体が持ちませんし拙者もこれ以上は勘弁です!!」

「は、離せコジローぶっ飛ばすぞ!!」

 アキに侮辱されて今に飛び出さんとするリュウをコジローが抑える。そして彼はコジローに縛られて暴れ続けるが、やはり先程の戦いでエネルギーを消耗しているのかどこか疲れが見える。


「まぁ鉄機兵団のボスを倒せたのはあんた達の実力もあった訳。しかし、あんたがあんな切り札を残していたとはねぇ」

「切り札? それはもしかしたらパイル・フォームのことですかアキ殿」

「そう!! さっきのあんたと全く違う姿の事よ!!」

「あぁあれですか! あれは若にもしもの事があった際の姿ですよ。あの姿ですと私が私じゃないような戦いになってしまうのですよね」

「……あぁ、確かにあれはあんたじゃないわ。一見の身でもあぁ言わざるを得ないわ」

 どこか不服なアキの返事を受け、コジローは頭を掻きながら笑って説明をするが、そんな彼に何とも言えない表情を彼女は向けた。

「いやぁ、その姿で戦うのも色々疲れまして、それにその姿で戦ってばかりいたら若の為になりませんからな」

「そう。まあそれはいいわ。あんたが独眼竜のおまけという発言は撤回して……鉄機兵団の本拠へ殴りこみに行くわよ!」

「殴り込み……?」

 そしてアキは新たな目標を提示する。リュウとコジローの実力から彼らを仲間に加えたら、ボスを失った鉄機兵団を破ることなど簡単だと思ったからだ。

「おもしれえ!それで俺様の実力を見せれるならどんとこいだぜ!!」

「若、まだエネルギーに関しては……拙者が寝ずに番をしますから若はエネルギーの回復を……」


「あら? 休む必要はないし、殴りこむ必要もないですよ」

「「「!!」」」

 その時だ。彼ら3人の後ろに、瓦礫の世界から現れた2人の人物が映った。


「どうやら私の姿を見るのは初めてかもしれませんね皆さん。私も貴方達イーストーザ地方のサムライドは噂しか聞いた事がなくこうして会える事は初めてです」

「シャッハー! ニューフェイスニューフェイスニューフェイスだヤッハー!!」

「あ、あ、あ……」

 丁寧な態度の彼女と、それに反する程テンションが高い隣の彼。そんな3人が近付くにつれアキの表情には驚きから畏怖へと感情が変化していくことを、本人が最も感じたに違いない。


「また新しい敵か! なら俺様がぶっ飛ばしてやる!」

「あ! 若。何するんですか!!」

 コジローの拘束から放たれリュウが単身で飛び出してきた。彼はやはり弾丸のように、鉄砲玉のように素早く敵意をむき出しにして襲いかかる……はずだが、

「ぶあはっ!!」

 敵意を向けられたポーは全く逃げる事はなかった。その理由は彼女の周辺の膜にリュウが思いっきり弾き飛ばされたからだ。吹き飛ばされるとともに地面に顔をすりつけながら彼は後方まで飛ばされてしまった。


「若!? よくわかりませんがな、何があったのですか!!」

「分からねぇけど! とりあえず貴様ぁぁぁぁっ!!」

「この馬鹿!!」

「のはっ!!」

 再度、リュウの猪突猛進の精神による突撃が始まろうとした途端、アキのグーが彼を地面へ鎮めた。


「すみません、ポーさん! この馬鹿が貴方に迷惑をかけてしまいまして! あたしには貴方へ敵対するつもりなんて全然ないですから!! ありませんから!!」

「ポー……!? ま、まさかあの方がポー・ジョージィ殿ですか!?」

「そうよ馬鹿! この方がバリーイーストエリア最強のサムライドで、五強の一角の人!またの名を難攻不落、眠れる獅子の人よ!!」

「や、ややややっぱり! その方がそうですと、先程若を弾き飛ばした力が難攻不落と言われたビーグネイム大陸界最強のエネルギーバリアOーDAWAフィールド!」

 反抗しようとするリュウを一発で沈めたアキは彼の非常識な行動をひたすら詫びる。そのとことん従順な彼女の姿は先ほどの狡猾な考えを持つ人物と同じとは思えない。これは目の前の人物が五強の一角ポー・ジョージイだからか。


「あらあら……やはり貴方達イーストーザ地方のサムライドにも私の事は知られているようですね」

「それはそうですよポー殿、貴方の武勇伝はイーストーザどころか、ビーグネイム大陸に轟いている程ですよ」

「そうかしら? 確かにカワゴーシ戦争で私も大人げない事したけど、他の戦いではただ紅き軍神や華麗なる戦略家と争っただけで彼らを倒せなかったのですよ?」

「いえいえいえ! それが武勇伝ですよ! ポー殿、私がこのような事を発言するのも気が引けますが、もう少し誇っていいですよ!!」

「そうかしら?」

「そうですよっ!!」

 コジローに言われてポーは軽く舌を出しながら頭を掻く。この少しとぼけた感じの仕草では彼女が五強の一角なのかは難しいところだ。


「それはそうと、私達がここに来た理由は簡単。アキちゃん、私達貴方達の仲間になろうと思う所なの」

「仲間に……ってええ!? ポーさんたちあたし達の仲間!?」

「正解~その証拠に鉄機兵団はこの二人の手で」

「フルボッコボコボコ! 勝った勝ったでイヤッハーだぜ!!」

「ええっ……」

 ポーからの発言にアキはいくつかの笹切を自分の元へ集めた。これらからそろったデータの答えが彼女の言うとおり鉄機兵団が沈黙していた訳である。たった2人に何百もの機体は、いくつかの拠点は片づけられてしまったのである。


「さすが五強の一角ということでしょうか……」

「ふふ。でもあたしよりシゲルのお陰もあるかもね」

「イヤッハー!!」

 コジローに称えられたポーはシゲルと呼ばれた犬のような男を担ぎあげる。そんな彼は体中を犬のように弾ませながら弾けっぷりを見せている。


「な、なんですか……この犬の様な殿方」

「ごめんなさいね。このシゲル・ジョーは私の右腕だけどちょっと野生すぎる所が玉にきずという所ね。電光石火のバーサーカーの肩書きは伊達じゃないということかしら?」

「ガウガウガウガオーン!!」

「はぁ……(いや、これ野生すぎにも程があるような)」

 コジローの思う事は最もだ。目の前で飛んだり跳ねたりしている男を野生と呼ばずに何と呼ぶのやらである。


「おいコジロー! 俺様がこいつを倒すにはどうしたらいい!」

「そうですねって若……ってそれは違うでしょうが!! 目が覚めて早々何と言う事を!」

「うっせー! 俺様が最強を証明するにはそいつをってのわわ!」

 先程のダメージから立ち上がったリュウが口を開けば早々にとんでもない発言が飛ぶ。そんな彼をシゲルはひょいとつまみあげてみせた。


「な、何するんだおい!!」

「コンビる事も悪くないんじゃない~おチビちゃんよ!」

「おチビちゃんだと……おチビちゃんおチビちゃんおチビちゃんおチビちゃんだとぐぉらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「やるのか!? やるのかやるのかやるのか!? やるのなら上等じゃっはぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ちょ、ちょっと二人とも会って早々喧嘩沙汰は駄目絶対ですよ!!」

 リュウとシゲルの衝突をコジローが必死に仲裁しようとする。そんな男3人を無視するかのようにアキとポーの間で話が進もうとしていた。


「アキちゃん、私の目覚めた関東地方は既に人一人もいない状況で私達はこの世界で生きる目的を探っていた所なの。そんな中ここまで来て貴方の考えに私の戦う意義が見つかると思ってね……」

「あたしの考えに……ですか?」

「そうよ。ただ、あなたはサムライドを皆殺しにしなければ平和が来ないと思っている。その皆殺しの対象にはおそらくあのリュウちゃんやコジローさん、そして私たちも含まれているでしょうね」

「……!!」

 表面では馴れ馴れしいポーは決して単純な女性ではない。アキにオダワランサーを突きつけて笑顔のまま口にする言葉にはアキの本意を知っているからこそ言える内容だ。


「私を仲間にするなら、私やシゲルはともかくリュウちゃんやコジローさんを勝手に殺めない事。貴方が夢を果たすには一人だけじゃ不可能なのよ」

「ふ、不可能……あたしの夢を貴方にどうこう言われる理由は……」

「アキちゃん? 一人でどれだけ努力してもダメな事はダメなの。それを理解せず私を殺そうというなら、私も本性を発揮しないといけませんからね……」

「本性……?」

「そう、ここでは言えないけどもう一つの私は……おっかないですよ? この姿でいる事は今なら間に合うような意味ですからね」

 相変わらずポーは笑顔を造る。だが、その笑顔から口にして放たれる物騒な内容がアキに安易な考えをさせない最大の力となった。今の彼女に刃向うような事をすればリスクが甚大だとアキは本能で答えを出している。


「わ、わかったわよ! あたしでも五強の貴方を敵に回したら勝つ自信がないわ!!」

「ふふふ……そこまで強いと私は思わないけど、同志は殺める為にいる存在じゃないとだけは言おうかしら」

「……(あたしの信義。それは使う価値のない奴を始末し、使う価値のある奴を利用する、そして使い切れない奴に従うのみよ……だからこれは間違いじゃない! 間違いなんかじゃない!!)」

 ポーへの臣従はアキにとって間違いではない。彼女は野望を貫く為に臣従する事を選んだ。それを彼女は屈辱とは思わない。元々敵うはずのない相手へぶつかって散るような無謀な考えを遂行して散るような事は考えていないのだから。


「ということで、仲間になったから仲良くしましょうね! みなさん」

「ってええ!? ちょ、ちょっとポーさん!!」

 だが、ここからはさすがのアキでも計算外だろう。外見は立派な大人であるポーはスキンシップと言うばかりにまだ女子高生程度の外見のアキにじゃれついてきた。彼女の勢いにアキは押し倒されてしまったようである。


「どうやらアキちゃんは頭に全てが回ってしまったようね……惜しいわ」

「そ、そんなことどうでもいいじゃないですか!」

「勿体ないわ。この年頃でこのボディラインは。もっと前から……」

「いっとくけどサムライドは成長しないわよ! こんな身体に関してはあたしを生んだ人に聞いてよ!!」


「にゃろー! 離しやがれコジロー!! 貴様の首ぶっちぎってこいつで突き刺すぞゴラァ!!」

「物騒なこと言わないでください若! あとそなたも落ち着いて! 大人げないですよ!!」

「ガウガウガウガウガオーン!!」

 東北の地では二人の一方的なスキンシップと、もう二人の大人げない争いを仲介する一人の姿。そんな彼らを上空で見守る人影の存在を誰もが知らないだろう。


「ふふ、群雄割拠の東北に一チーム王手♪というところかしらねぇ……まだかけだしのチームだけど、五強のポー・ジョージィが率いるチームなら勢力拡大は妥当なところ……他の五強に阻まれない限り彼女達の勢力があの子たちの壁になる事は確かの様ですわ……ただ、一人の息の根を止めなかった事が気がかりですけどね……」


 ユーサイは一部始終の結果を呟くとともに姿を消す。彼女達が群雄割拠の世界を統一するだけの勢いはあるはずだ。

だが、彼女達……アキが一人を倒さなかった事が後に東日本を舞台に大勢力同士の激突が展開される事となるのはまだ誰も知らない……



続く


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


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