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第4幕 起て不動の砲撃手!標的はステルスだ!!

これまでのあらすじ

・守るべきビッグネーム大陸の流民を虐殺した末裔の日本人類への報復と大陸復活のカギを握る下剋錠を手にしようと企む三光同盟に対しシンことシンキ・ヨーストはミツキ・アケチに目覚めさせられる形で、また弟を殺めたことから三光同盟に敵対し日本列島を守るための戦いに身を投じた。たとえそれがどれだけ過酷な道であろうとも……。


前回のあらすじ

・そんな二人はクーガ・ヤストを目覚めさせる。大陸時代にシンへ母国の屈辱を晴らさんと戦うクーガは、とある件で友情が芽生えていたが彼の師でもあったマローン・スンプーをシンが破壊したと知って仲間になることを拒んでしまう。そして三光同盟の放ったメカラクリ・ヤブサメーがシンとミツキを襲うがトライ・ウェスターマー形態にライド・クロスしたシンの手によって勝利を収めた。

・だがもう一人の刺客がクーガを狙っている。急げシン!たとえ刺客が誰であろうとも!!

『お前、どこへ行っていたんだよ!』

『ぐぁ!』


多勢に囲まれて殴られ、蹴られ、叩かれ……打撃による痛みが己を襲う。己の周囲には彼らからの嘲笑と侮辱、嫉妬、憎悪……負の感情しか感じられなかった。


『お前が紅蓮の風雲児を倒しただと!? 笑わせるのもほどほどにしろ!』

『虚偽報告でマローン様のけ機嫌を取るとはな……サードリバーの血が流れているお前はやはり汚いな!』

『な、何だと……』

 1機のサムライドに胸倉を掴まれ、相手には怒りの眼差しを向けながら歯を食いしばる。


『ほぉ……反抗的な態度だな。お前が反抗的な態度を取るとサードリバー国の奴らがどうなるか、分かっているよな?』

『ぐ……』

 一人の男の憎らしい笑みと背後からのどよめき。それを前にクーガはただ黙ることしかできなかった。握った拳を解いて、下に顔を向けるや否や腹を殴られ、白濁の液体が口から漏れる。


『そうだよ! そうだよな!! お前はサードリバーの全てを背負っている存在。ならお前が従属先のおれらに不真面目だと、サードリバーの安全は保障されないぜ!』

『そーそ! 今回は慰み者をサムライド分だけ引きずろうかと思ったけど、ちっとばか減らしてやるよ! ちっとばかな!!』

『おう! 俺もちっとばかりここに溜まっちまってよ! ここに!! げへへへへ……』

 男の下衆な笑いと共にクーガは力なく床へ落とされ、男達のつばが彼へかけられた。


『さて、このくらいにしておくか。マローンの奴にばれたら俺達始末されるしな……』

『マローンの目は節穴かな。ぐはははは……いこうぜいこうぜ』

『そうだな。あざや傷跡が付くと俺たちに不利だからな』

 サムライド達がゆっくり、笑いながら足音が小さくなる。誰もいない事を確信するとクーガは瞼を開けて、視界に入るライトの光に手を当てる。


『……あいつの言うとおりにやってもこれか……ははははは』

 クーガは自嘲するように笑う。自分はこのような仕打ちに耐えてきた。シンキ・ヨーストも似たような境遇ゆえに自分と同じような理不尽な暴力を受けるのだろうか。

 スンプー国のサムライドはマローン一人に全てを支えられていると言っても過言ではなかった。彼の部下の実力はそれなりが精いっぱい。マローンに従っている事は表面だけで実際には悪行三昧。今もサードリバー国の少女が彼らに弄ばれてしまう宿命だろう。

 

 クーガは心からマローンの部下を従う気はない。だがここで立って刃向う事を選んでも多勢の敵に勝つかどうかは自信がない。そして勝ち負けの有無にかかわらず、自国の防衛行動も従属先への敵対行動と歪曲されてしまい、自分の行動で国が更なる過酷な状況に追いやられてしまうだろう。

 自分の真摯な想いを内に秘めても軽率な行動を起こしてはいけない。だから耐える。たとえ自分がどうなろうとも守るべき存在の為に自分は理不尽な存在から耐えるしかないのだと……。それがクーガの宿命なのかもしれない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『でやぁぁぁぁぁぁっ!!』

 大画面の中でクーガにより巨大な鉄髄が振られる。右腕からのレールガンがソルディアを撃つ。遠方からの敵を見るとビッグバーストボンバーを背中に合体させて巨大筒として遠方にいる相手を撃つ。やがて彼が画面の中の相手を消し去ると、スクリーンにスコアが映し出され、真下の機械から煙があがった。


『ふぅ……』

『今回もまずまずだな、クーガ』

『はい……』

 シミュレーターから立ち上がり、頭部のゴーグルを外すクーガの元にマローンが近付く。彼のやや横に広いとはいえその巨体は歴戦の戦士、また五強の一角としての威厳が十分なまでに感じられる。


『クーガよ。相変わらずお前のスコアには驚かされる。さすがわしと同じエッケイの生んだサムライドでもあり、わしの後継者として相応の実力を持っているのぅ……』

『マローン殿……その言葉感謝します』

『うむ。しかしのぅクーガ、今のお前は何処かのぅ……そうじゃな、何か考えがあるようじゃな。自分では撃ち消せないような……』

『……!?』

『そうじゃな。あの時の戦い。物見の情報ではお前は紅蓮の風雲児シンキ・ヨーストと戦っている中崖に転落した。その際お前はシンと交えただろう……』

 マローンの目の前に自分の事はお見通しだったのか。的中な発言がクーガの心を震わせているのだ。


『マローン殿、お見通しだったのですか……』

『うむ……クーガ、お前を見てきたわしだ。実の親のようなわしに分からない者があると思ってはいけないな』

 マローンの発言にクーガは冗談抜きで焦りを感じた。何故なら自分が敵と関わる事は下手したら内応行動として処罰されてしまうからだ。

『マローン殿、全て俺の力不足から起こった事です。ですがマローン殿! サードリバーの皆に罪はありません! ですからサードリバー国の処罰は……』

『何を勘違いしている。クーガ』

『マローン殿?』

 だがクーガの創造とは裏腹にマローンは笑って返してみせた。スンプー国の代表でもある彼は内応疑惑ともいえる行動に対しての意外すぎる反応に思わずクーガは口を開いてしまう。


『クーガよ、わしも昔同じような経験があってのぅ……紅き軍神、難攻不落眠れる獅子をお前は知っているだろう?』

『ゲン・カイとポー・ジョージィ。今は確かスンプー国とは同盟関係……』

『確かに同盟関係じゃが、ゲンとポーは敵同士の頃死力を尽くして戦った。わしは本来ロングレンジ殺法で戦っていたが、あの時は死に物狂いになってこいつで戦った物じゃ』

 マローンは腰からの小刀・海刀を引き抜く。その刃身は白銀の色。血の跡もない純粋なものだが、彼の言葉を聞いた直後のせいで、クーガの目には刀に血糊が付いているかのようにも見えた。


『マローン殿を近距離での戦いに持ち込むとは……さすが五強に数えられているだけはありますね』

『うむ……その時互いを認め合っていた事もあり、サガミ、カイ国とのトライアングル同盟は潤滑に行われた……イーストカーン、コーシンエーツ、シーストオーシャン大陸において最大の勢力圏を築き上げた。それもわしらが戦いを繰り広げたからじゃ……』

『……』

『わしはシンキ・ヨーストと直接交えた事がない。じゃが五強にも盛者必衰の宿命を免れる事は出来ぬ。もし新たなる五強と呼ばれる存在にクーガ、お前とシンが呼ばれる運命ならば、わしはこれを受け入れないといけない……』

『どういうことですか……』

『こういうことじゃ!』

『ぐわっ!!』

 その瞬間、マローンの左手から放たれた一筋の光。その光は部屋の天井を射抜き、上空からは見覚えもない存在が1機転がり落ちた。その刺客は首からは光が刺さった状態で、既に力なく倒れていた。


『これは!?』

『これが答えじゃ。今のわしはお前の気付かない敵の物見を一撃で射落とす事が出来る。それほどの実力が五強にはあることだ。じゃがその五強の力も衰えていく宿命にあり、日に日に次世代のサムライドが時を経る度に力をつけていき、衰えていくわしたちを追い越していくのだ……』

『俺が貴方を追い越すとでも……』

『考えによればそうじゃのぅ。最も残念な事はわしとお前が脂の乗り切った時期で戦う事が永久にない事が悔む点だ』


 マローンの瞳には自分の誇りが何時か実力の衰えに比例するかのように崩れ落ちていくことと、クーガの成長に関しての機体及び不安の意が映る。

 この淡々と現実を見たような彼の発言の裏ではクーガ本人も相反する感情のはざまになっている可能性もある。

『この時代はサムライド群雄割拠。国が、科学者たちが次々と国力が傾くほどの予算を投じて高性能サムライド達を作り続ける時代なのだ……わしら五強は性能差で後発のサムライドの引き離される事を己のテクニック、戦いの中に身を置いて磨きに磨いた経験とセンスで埋めないといけないのじゃ……クーガ、お前はまだ駆け出しの第4世代サムライド。サムライドの世代交代が激しいこの時代の中でわしのような第1世代サムライドが生きている事は運がいいからではない。それに見合った実力があるからじゃ……』

『実力……ですか』

 マローンは何も言わずに、屍をひっくり返して顔を露わにする。


『こやつは確かモリシゲとかいうエンド国の第2世代サムライド。たとえ世代の差があれどそれは微々たるもの。最後は結局実力が勝利を生むのだ、だが最も諜報、しかもこの部屋にまで潜入出来得るものは少ない。そうだな……お前と死闘を演じたと言う紅蓮の風雲児なら出来なくもなさそうだがの……』

『……』

『クーガよ、わしがここまでたどり着いた事は幾度もの戦いを切りぬいたから。戦った強敵が最終的にはわしの同志になった。お前も戦いの中で同志と呼べる敵を探してみろ。もしお前が同志に味方してもわしはお前を責めないし、サードリバー国をむやみに脅かす事はしない……ただこれだけは覚えてくれ』

 部下の裏切りに繋がる行動を一から叩く事はなく、自分の経験から、クーガを信頼しているからこそ、そして強い者と競い合う精神からマローンは卑劣な手を取ろうとはしない。裏切りたければ裏切れと器の広さを見せる。


『ただ、仮にそうなればわしとお前の真剣勝負。お前が負けたらそこまでだが、わしに勝った時はお前がわしを越えた事になるのじゃ……わしはサードリバーを再興させる使命を忘れた事はないが、もしクーガ。わしに不服があればお前が反乱を起こそうとも、わし達は過度な暴虐行為は控えるつもりだ……』

『……』

『クーガ、わしの精鋭部隊はわしなしでは機能しない凡庸な存在。だが若いお前は外に目を向けて強敵と呼べる戦友を見つける事も悪くはないかもしれないことじゃ……己を高めるなら、己の信念を貫くなら、例え私を敵に回しても自分の信じた道を進むのだ……』


 許すだけではない。戦場では敵同士となったからには旧恩は無意味な存在。ただ戦うのみだと告げた。この言葉を受けたクーガは彼の器の大きさと心意気に感謝の意と、新たにサムライドとしての心構えを表したかった。

 だが、マローンがこの事に気づいていたかは定かではない。彼の真剣な思いが周りを妬みに駆り立てクーガを苦しめてしまう結果になっていた事を……。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「マローン殿……俺はどうしたらいい……」

 平滑な巨石に仰向けで寝そべっていたクーガが考えた事はただ一つ。自分のこれからの行き先だ。

 永い眠りの間に世界は激しい変貌を遂げて母国はもう既にない。母国を取り戻す為にシンが言った三光同盟のように敵の末裔を殺戮してしまう事は筋違いであり、更なる災厄と復讐と言う名の負の連鎖を生みだしてしまうだけである。 

 母国を復活させるマローンの志を背負いながら不確実かつ急進な方法をクーガは採りたくはない。もっと穏便な方法を探すべきだと考えている。

 シン達の言っている事は間違いではないなら答えは決まったはずだが、クーガは実行に移せないままでいた……シンが好敵手でもあり師匠の敵でもある存在だからだ。


「貴方がいない今の俺は心の柱がない抜け殻の様……そうだ……」


 クーガの視線は荒れ果てた地に向けられる。空から投げ出されたように大地に横たわる一羽の鳥。ただ羽根を鮮血に染め、羽ばたく事を許されないまま地を這って行かねばならない宿命。


”俺は鳥だ。もがれた翼、痛んだ体、破れた心……羽ばたく事の出来ぬ鳥だ……。”


「あら、クーガさん……久しぶりですぅ」

「……!!」

 甘ったるい声と一発の銃声が地を割いた。衝撃に体を起こしたクーガは目を向ける先に二人の人影を見た。微かに見覚えのある人影に彼は厳しい視線を向ける。

「アサヒナー、オカベー。貴様、この世界で生きていたのか……」

「おや、おやクーガさん? 貴様とは随分生意気になりましたですぅ?」

「そやそや! わしらに逆らうと貴様ええ身分になったのぅ!」

「サードリバーの事か……俺の国はこの世界にもうない! 国の為にお前に従う理由はない!!」


 アイドルのステージ衣装らしきコスチュームをフレームで固定した金髪の少女アサヒナーと、彼女の腰巾着のような横に広く縦に小さい男オカベー。マローンの部下であった時代からの縁からか二人はクーガへ嘲笑の表情を披露。彼の静かな怒りを掻き立てるつもりだ。


「あらあら、ほんと随分と生意気になった感じですぅ」

「そやそや! やけどお前を殺すつもりはないんだがや! わしら!」

「殺すつもりはない……どういうことだ?」

 彼らの意外な発言に対しクーガは疑惑の目を見せる。今までの経験から彼らを信頼する事の方が難しいからだ。

「答えは簡単ですぅ。三光同盟東部軍団はマローンが死んじゃったから司令官不在の無法地帯。そこで!」

「わしらが東部軍団のトップに就くんや! ケイの奴はわしらマローンの部下が生きているのにもかかわらず別のところから幹部として引っ張り出そうとするんや!」

「クーガ~今私達はマローンをやっつけたとかいう紅蓮の風雲児とその付きものを倒すつもりでいるのぉ」

「……シンとミツキのことか!!」

「そや! けんどオティカとミウラーナごときにあいつらを倒せるとは思えへんがな! やからわしら3人があいつらを挟撃すればあっさりや! 5人のサムライド、しかも合計1500の兵にあいつら2人が耐えきれるとはおもいまへんな!!」

「……」

「わからないですねぇ……」

 クーガの視線から疑いは解けない。彼の態度を分かっていたのだろうか。アサヒナーが彼の肩にゆっくりと体へ寄せる。


「クーガァ。私は貴方の実力を一応は買っていましたよぉ? マローンが私達以上に貴方を買っていた事は歯がゆいけどそれだけ強い事ですからねぇ?」

「……何を考えている……貴様」

「ねぇ? そうでしょう? ねぇ、ここは昔の事はきれいさっぱり忘れて仲間になりましょうよ。私が司令官に付いたら優遇してあげるからさぁ……あっけなく紅蓮の風雲児とかいうよくわからないサムライドに敗れたへっぽこに媚を使うことはないですよぉ」

 アサヒナーの言葉に特に愛想もなく何一つ変わらぬ顔で聞いていたクーガ。だが、そんな彼女は知らなかった。彼の耳にそっと息を吹きかける自分を弾き飛ばしたまでは。


「何をするつもりですのぉ?」

「アサヒナー……お前のような分かっていない奴に俺は靡くつもりは全くない!」

「なんやて!?」

 弾き飛ばされたところ体勢を立て直した彼女が見た姿は、ただ不動の姿勢を保ち只ならぬ眼光を発するクーガ。風は彼の背中を支えるように吹き、目の前の二人を吹き飛ばそうとしている程荒れる。


「シン、そしてマローン殿……俺にとってはライバル、そして俺の師匠だからだ……今の俺がここまでこられたのは俺がマローン殿に全てを叩き込まれたからだ!」

「それだけか!? そう言ったら俺もマローンに色々しごかれたんや! なのになぜ敵に回るんや!!」

「分かっていないな。マローン殿に鍛えられたなら、マローン殿を侮辱するような女の元で戦うことはないはずだ!」

 オカベーの主君を侮辱をクーガは返した。この時クーガの瞳には徐々に光が戻る。許せぬ存在を目に燃える怒りや憎しみなどの負の眼光ではない。

 徐々にクーガの瞳の輝きは澄み切った光へ。濁りからもがき苦しみながらも光は輝きを増していく。主君を想う気持ちからだろうか。


「マローン殿……今なら貴方の言った言葉が分かる気がします」

「何の話なのぉ? 分からないのぉ!」

「貴様たちには分かるわけがない。好敵手と呼べる戦友が己を強くする。それがマローン殿の言葉だ」

 アサヒナー、オカベーへクーガの言葉が牙をむき始める。中途半端なポジションに甘んじて本物の実力を持つ師の薫陶を受けた自分を馬鹿にするような二人には分からないだろう。

「貴様たちのような奴らがいる堕落しきった集団に加わるくらいなら、俺はシンに手を貸した方がマシだ! それは俺がサードリバーを救えるほどの実力まで鍛えたマローン殿の願いに応えられるからだ!!」

「仲間にならないつもりやら……ならぁっ!!」


 クーガの元に突撃を試みようとしたオカベーが瞬時に灰と化した。両肩の巨大筒が光を放つ。それは相反する感情というに捕われた鳥が飛翔したかのように眩しい真紅の光だ。


「許してくださいマローン殿。俺は信念を貫く為に、貴方の部下、組織を敵に回します。この世界で羽ばたく為には目の前の堕落をこの手で消し去らなければいけません……そう俺は考えます!!」

「どうやら、わからないならここで貴方を倒す必要がありますねぇ」

 アサヒナーが指を鳴らすと、ソルディアが前面に一列の壁として相手を阻むように接近を開始する。だがクーガは何か勝算があるのか平然とした表情を見せる。ただその表情の奥には若干の焦りも見え隠れする……。


「実戦で1,2回しか使っていないが……タダツグ・ライドアーップ!!」

 クーガもまた指を弾いた。彼の前の地面には亀裂が入り、僅かな罅がその地面を一つに割る。地を割りソルディアからクーガを守るように姿を見せるは黒と青の巨体。それがタダツグなる装甲車である。


『その声はクーガ様! 何故か長い間眠っていた気がするポコ……』

 タダツグ内部には一匹の狸の姿を模したクーガの半分以下の背丈のロボットが存在する。そのロボットが握るものは操縦席のレバーである。

「マサノブ、再会の言葉は後回しだ! フルグ・ランダーで行く!!」

『了解だポコ! セパレート・タダカツだポコン!』

「ライドクロス! てやぁっ!!」


 巨大なる装甲車から聞こえるマサノブと名の狸の声と共に機体のコンテナが外れた。コンテナの射出の頃合いを見計らって高く飛ぶクーガと共に黒と青の光が天で重なり合った。

「これだ……これで決めさせてもらう!!」

 今、巨大な影が地面へ急降下。ソルディアからの銃弾攻撃をも跳ね返す影は光と共に青銅の姿を見せ、巨体はソルディアを踏み台にするどころか、そのまま押しつぶしてしまう程の重量を持つ。

 フルグ・ランダー形態。タダカツを身にまとったクーガはソルディアと同サイズである。


「フルグ・ランダー形態……まさかこのような形で見るとは思いませんでしたぁ。ですがここにいるのは500、貴方は1ですよぉ? この数量的な差を覆せるのかしらぁ!」

 ソルディアが急速に接近する。だがクーガは不動の姿勢を保ちながら背中のグリップを握った。

「ビームチャクラムフレイル!!」

 クーガの引き抜いたグリップの先はワイヤーに結ばれた回転のこぎりを彷彿させるカッターが備えられている。ワイヤーから先全てを光が包む兵器はその手の武器としては重量感を感じられない。   

 だが、その兵器は巨体による怪力を得たクーガが振り回すことで凶器と化す。一度振り回してみれば光輪がソルディアを首から上を軽く切断していく。


「まだ終わる訳にはいかない! マグナプラズマ、ビーグランチャー……性に合わないが血路を開く事が勝利への糸口だ!」 

 空いたクーガの左手で握られる長距離攻撃を想定されたロングライフル・マグナプラズマを握る。また彼の腰から下に装備されたキャノン砲・ビーグランチャーが180度真上に展開し、肩の巨大筒がビーグランチャーと連結されて砲身そのものが彼の両肩の上に乗るように前へと倒れた。


「全力で行かせてもらう!!」

 敵の群れを切り開かんとクーガは駆けた。銃口の黄色の光が、両肩からのガドリングが、そして右手で回すワイヤーとギロチンが前方の敵を消し去り、ただ一直線に敵陣へ進撃を開始する。

 左右後方からの攻撃は考えてもいなかった。何故ならフルグ・ランダー形態の重装甲がクーガの自信の表れでもあるからだ。銃弾をも弾き飛ばしてソルディアの槍も通じない。ただ正面へと突入することが彼の答えでもある。目の前の壁は切られ、射抜かれ、貫かれるだけだ。


「フルグ・ランダー形態……おそろしいですぅ。でーすーが」

 なのだが、当のアサヒナーは余裕を持っている。フレーム背後のブースターを点火させて、突破されていく壁を自分から突破していく。

「死ぬ気か? このフルグ・ランダー、貴様のような並のサムライドごときに突破される程脆くはない!」

「それはどうかしらぁ♪ ただ固いだけだということ思い知らせますわぁ」

「何っ……!?」


 クーガは一瞬目を疑った。自分の量目はひょっとして錯覚を起こしているのだろうか。だが外部フレームが発光すると同時に中身、つまりアサヒナーごとフレームは消えた。目の前の標的が消えてしまっては流石に彼も戸惑いが隠せない。

「ぐあっ!!」

 背中に襲うⅩ状の痛み。振り向けば真後ろにアサヒナーがいるのでマグナライフルを放つが、直撃の一寸前の再び彼女が消滅してしまう。

「どこだ……くっ」

 クーガに一斉に浴びせられるソルディアの攻撃。巨体の編隊に埋もれる中でビームで自分を襲う。ごく稀に見える強力な攻撃がクーガを確かに痛めつけているのだ。


「どうですかぁ? 私のダンブレードアールガンならどうにか貴方にダメージを与える事が出来ていそうですねぇ? 私の電送転移システムが貴方を倒せる証拠なのですよぉ?」

「電送転移システム!?」

「そうよぉ。消える私を前に貴方はいつか死ぬわぁ……さぁて反撃開始よぉ?」

「ちっ……」


 アサヒナーと共に一斉に総攻撃が開始される刹那、最前列の何機か瞬時に破壊される。彼女が頭を上げた先には何本かのビットが存在している

「おや?」

「やはりクーガさんが襲われていましたね……」

「あぁ。こっちはどうにか片づけいたけどな!」

 クーガ包囲網を一方から崩さんと現れるソルディアの群れ。前方を仕切る人影はシンとミツキの他にいなかった。この場においてクーガが信じてもいい数少ないサムライドであろう。


「へへ、さっきはどうにでもなれて言ったも、お前が三光同盟に殺されることを考えるとな……まだ決着付けていないし」

「シン……お前、それだけでどうしてここまで……」

「何か言ったか! 俺達は今戦わないといけねぇ! 話は後だ!!」

「……あぁ! なんでもない」

 思わぬ二人の到着にマスクの中でクーガは微かな笑みを浮かべようとした。

 なんでもない。その短い一言には心の拠り所がないクーガの安堵が込められているに違いない。一度自分が拒んだ相手であっても、シンの言葉には裏表がない。その裏表のなさがまだ復活して間もないシンへ信頼を寄せることが出来る理由ではないだろうか。

 今のシンはクーガにとって熱砂をもがきながら遥か先の出口を探す彼にとって回生の水そのものだ。


「へへ、こういう実戦で俺強いからね! クーガ、俺も見たことない姿を披露してるってーのにこのままじゃだらしねぇ!!」

「まぁクーガさんは1対500でここまで善戦する事はさすがシンさんの好敵手といっておきましょう。無茶もまた勇気の一つ。あ、私は褒めていますよ」

「けなされているのか、褒められているのか分からないな……だが気をつけろ! こいつは少し厄介だ!」

「厄介? こんな女なに手こずる俺じゃないと思うけどね! とぉっ!!」

「シンさん……やれやれ。私も全力で援護に回らないといけないようですね。行きますよ!」


 バタフライザーを足代わりにシンはクーガの背後へ飛び込み、互いの背中を隣接させる。古来の戦い方かもしれないが、互いの背中を任せる相棒がいると絶望的な数量の差もある程度縮める事が出来るものである。

 そして、包囲された彼らに割って入るかのように囲むソルディアによる外部の円はミツキが指揮するソルディアによって互いが衝突しあう事で包囲網の意義がなくなる。

 シンの得意の指揮官一直線の戦法のお膳立てが始まろうとしていた。


「クーガ、その姿はなんだ! 俺が戦ったときは見せなかった奴だよな!」

「あの時はまだ完成していなかったからな……フルグ・ランダー。拠点完全防衛重装甲形態。最も今は拠点防衛どころか拠点攻撃に使っているようなものだがな!」

「フルグ・ランダーか……面白ぇ! トライ・ウェスターマーといい勝負だ!」

「どうするシン! お前はライドクロスするのか?」

「いーや! さっきの鮫と戦ってバタフライザーは疲れているから……お前に託すぜ!!」

 仲間として戦うライバル同士。軽い会話を済ませるとシンは一直線に進む。それが彼が今、真っ先にすべき事なのだから。


「クーガさん。私達はさっきの戦いから休んでいないのですよ。ですから地上は貴方に任せますよ」

「あぁ。お前に関しては情報がない故に信じきれないが……奴の花道、切り開いてやるぜ。ただ、アサヒナーは厄介だということは忘れるな」

「了解です……」

 クーガの言葉に軽く首を頷かせて空高く舞うミツキ。彼ら3人をサッカーのポジションに例えるとゴールを決めるストライカーはシンキ・ヨースト。二人は彼をアシストするミッドフィルダーといえるだろう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 バタフライザーが駆ける。低空高速飛行を常とする機体に悪路による移動障害は皆無。ただソルディアの小競り合いの中、機体の動きの中で生じる変動が激しい隙間をひょいひょいと潜り抜ける姿は執拗なディフェンスを軽くカットするトップストライカーだろう。


「そら! そらよっ! 邪魔だぜ!! こいつさえあれば何とかなるもんだぜ!!」

 トライマグナムは相手の頭部を射抜く。変動の激しい足場と標的を正確に射抜くシンの銃さばきは紅蓮の風雲児の肩書きに恥じない。

 だが、シンは決してトライマグナムを無駄に使うような真似はしない。トライマグナムを多用する際の理由は多大な敵から己の身を守るためと、目標と直接対決に挑む時。愛用の武器はいざという時に取っておく事が彼のセオリーだ。


 真上で爆発が起こり、落ち行く破片を軽く避けるバタフライザー。真上を向いてみればミツキのシード・オフェクションが猛威を奮っている。天を舞う彼女は今カムクワートをバックに装備し、先端に備えられた12基のビットは。地上すれすれで駆けるシンを狙うアロアードを軽く射抜いていた。


 そして、背後を振り向けばクーガの巨体。マグナプラズマライフルによる咆哮ともいえる熾烈なロングレンジ攻撃を繰り広げながら、ビームチャクラムフレイルを奮う。もうすでに彼から放射線状の一定区間は彼の領域だ。


「シンさん。貴方よそ見している暇がありますか? 貴方のやり方が無駄に兵力を費やさない方法なのですから」

「そうだシン。今の俺はお前に全てを託しているようなものだ……ゴールまでのルートは切り開いてやるから、しっかりシュートを決めろ!」

「任せとけって! トップストライカー上等だぜ!!」


 今の彼が無駄にトライマグナムを使わず、周囲を気にせずに目標へ突っ走る事が出来る。だが彼が自由に動く事の出来る理由は、二人が彼の為に、そして己の為に役目を果たしている。彼らが自分の役割を果たしているから、自分は有利に戦いを運ぶ。切り込み隊長一人だけでは無力だ。周囲の協力があってこそ自分は任務を果たす事が出来るのだ。

「へへっ、俺は紅蓮の風雲児! あいつらが頑張っているのに俺が大将を討ちとれなかったら俺の肩書きが泣くぜ!!」

 だから、だからこそ自分はこの戦いでアサヒナーを射抜いて報いなければいけないのだ。決意を新たに、シンは己の両頬を思いっきり叩いた。


「さぁていくぜ! おわっ!!」

 だが、そんなシンの決意をよそに、ソルディアの群れから一筋の光が走り、彼の頬をかすめるように飛んだ。右頬が熱い。尋常でない攻撃と彼の本能が訴える。


「どうですぅ? さっきから話す機会がなかったのですがぁ、私の居場所を探して攻撃することは無理に近い話ですよぉ~」

「どういう話だ!!」

「いやシン! あいつの言っている事は間違いじゃない! あいつは消える! 攻撃を加えようとしたらすぐに姿が消える!!」

「消える……ってええっ!? 消えるサムライドって俺、見た事ないぜ! 冗談だろ!?」

「冗談じゃない! シン、お前の目で奴を確かめろ!」

 その言葉と同時にクーガの背中・ビーグランチャーが外れ、巨大筒同様ハンマー形態へ瞬時に姿を変えて彼の手に握られた。そして、


「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 激しいフルスイング行為と同時にハンマーはクーガの両手から飛ぶ。鎚による攻撃力をメインに置いたハンマーが、ブーメランのように横回転の状態でシンに迫る。

「避けろシン!!」

「ええっ!? おわっ!!」

振り向けば迫るクーガのハンマー。慌てて身をかがめてハンマーの犠牲になる事を逃れたシン。もし瞬時の判断が遅れていた場合、彼は味方の攻撃に散る事になっていただろう。回避した瞬間に頭上へ走る風邪か余程生きる心地がしなかったに違いない。


「あのハンマーは……ビッグバーストボンバー!?」

「いや、ビッグバーストボンバーとは違う! ビッグバーンブレイカー! 名前とサイズだけの違いでない事がお前にも分かるはずだ」


 自信満々なクーガの口調は決して虚言や誇張ではない。ブーメランと化したハンマーの両面の鎚からガドリングが唸る。楯に回転する発射口を前に前面のソルディアがハチの巣にされ、物量的威力が朽ちたソルディアを粉砕。先ほどまでソルディアづくしの前面があっという間に残骸の群れになり果ててしまった程の威力なのだ。


「ビッグバーンブレイカー、このようなとんでもない兵器がまだまだあるものですね……」

「あぁ……あの頃完成してたら、間違いなく俺やられていたぜ」

「そんな関係ない話は後にしろ。これであいつはソルディアの隙間に隠れて消えながら攻撃する事は出来ない……シン、目の前をよく見ろ」

 ビッグバーンブレイカーがクーガの手に戻ると、彼の目は激しく立ちこめる煙に向けられる。


「あらあら、こんなに破壊しちゃってもったいないですぅ。そこの突っ走るだけのおバカちゃんが理解するように特別にお披露しちゃうですぅ」

「おバカちゃんって……俺の事だよな!? ちょっと待て!!」

「おい! 今はそんな事で怒る場合か!!」

(シンさんごめんなさい。そこの敵さんの意見には少し同意します)

 煙からゆっくり姿を見せようとしているアサヒナーの言葉にカッとなるシンと当たり前のことを突っ込むクーガ、そんな二人をよそにミツキは裏の気持ちがばれないように無表情を貫く。

 そんな中でアサヒナーが姿を見せた。アイドル衣装の彼女が無機質なフレームに身を包まれていく。このようなややトリッキーな姿はシンの目には奇異に映っているのか、思わず軽く吹き出してしまい


「ぷっ……」

「おいシン! こいつは見た目云々以前に厄介な相手には変わりない! もう少し慎重になれ!!」

「あんなブロックを積み立てたようなフレーム女に俺は負ける気はないってーの! 行くぜトライマグナム!!」

「おい! 人の話を聞け!!」

 口元に手を添えて笑いをこらえながら放つシンのトライマグナムが閃光を放ち弾が飛ぶ。だが……

「消えたっ!?」

「ほら見ろ! お前、少しは人の話をまともに聞いて行動しろ!!」

 目の前でアサヒナーのフレームが白く発光してすぐさま視界から消える。目の前で消えた彼女に驚きを隠せないシンに対して、クーガは半分呆れた感じで突っ込みの意を込めて彼を窘める。


「しかし、本当に消えるサムライドがいるとは……はっ!!」

「おわっ!!」

 ミツキに考える時間は与えられない。気づけばビームが彼女を射抜くように放たれ、彼女とシンが間一髪のところで犠牲になる事を免れる。その際勢いが余ってしまいバタフライザーから身を飛び出してしまったシンの瞳には後方を取ったアサヒナーの姿が見える。

「何時の間に後ろ……ちくしょう!」

「無駄ですぅ! 無駄無駄無駄ですぅ!!」


 懲りずにトライマグナムを放つシンをあざ笑うようにアサヒナーは消えては現れ消えては現れ。攻撃の際には姿を見せるも、瞬時に姿を消してしまう彼女に今の自分達にはなす術が見つからない。

 今の時点でなす術がないなら、勝つために何とかして方法を考えなくてはならない。その時何かひらめきを感じたシンは指を鳴らして微かに笑う。

「トライサンダー、トライバレル、トライマグナムEXオプション№7!! トライサプレッサー!!」

 シンの腕から放たれたトライバレルとトライサンダー。そしてバタフライザーから飛ぶトライマグナムの筒状オプションパーツ。先端にトライバレル、減音器・トライラプレッサーが連結。トライサンダーをグリップにドッキングさせると同時に、排除されたリモートを装着。その完成されたトライライフルをシンは何故か地面へ放り棄てた。


「シン! お前のトライマグナムを捨てるなんて馬鹿か!?」

「まぁ落ち着けクーガ。俺にとっておきの秘策がある訳よ! これであいつを仕留める事も簡単だぜ!!」

「どんな秘策だ……」

(シンさんはお世辞にも賢いと言えないですが、こういう土壇場での発想と閃き……そう戦闘センスに関しては結構天才的なセンスですからね)

 シンの考える秘策を他人に分かれと言う方が酷だ。残党のソルディアを相手にする二人だが、頭を抱えたい気持ちを抑えるクーガに対しミツキは相変わらず無表情。そして地面にストラングルチェーンのクローを刺した。


「さて、後はあの女の攻撃を待つだけだ!」

 クローを突き刺して地面へ落ち着きを取り戻すシン。その際の彼の表情にはどこかしら余裕の一種が見える。


「ふふふ~ん! おバカちゃんの秘策をわーたーしが崩しちゃいますぅ!」

「やっと来たな!!」

 背中からアサヒナーの声が聞こえた。今こそ振り向いて足元の近くに用意したトライマグナムを掴んで攻撃に出ようとしたが……時間がなかった。

 アサヒナーはビームガンではない。アールブレードを両手にしてこちらへ急接近を試みるのだ。この姿に思わず目を丸くしてしまったシンだが、すぐさまストラングルチェーンを伸ばした。彼女から逃れるようにだ。


「ぐっ!」

「クーガさん!」

「あらら~よりによってクーガなのねぇ!」

 シンが思いっきり飛び、遥か後ろへ回り込む形で回避を決めてしまったので、アサヒナーの標的は自然とクーガへ定まる。彼女のアールブレードを両手の装甲で食い止める彼。反撃を開始すれば、また姿を消すだろう。攻撃を受けるだけしかできないが、攻撃の雨にはこの装甲もいつか危ういだろう。

 しかし当のシンの姿を視界にとらえると、自然と安心できるものだった。背後の彼は微かに笑いながら銃口を彼女へ向けているのだ。

 ミツキは既に分かっていたかもしれないが、クーガはシンの考えが理解できた。トライマグナムを捨てて地面に座り込んだのは相手に攻撃を誘うため、そしてお留守の場所から攻撃をしてきた時にストラングルチェーンの力を借りて敢えて目標から離脱し、背後から狙撃する形でアサヒナーを撃つ。サプレッサーの影響で銃声は幾多か遮断される。自分を相手にしている彼女も背後から行われた静かな攻撃に気づくことはないだろうと。


 そして彼のトリガーが引かれた……。

「ってええ!?」

「何っ!? 危ない!!」

 なのだが、シンの目論みは瞬時に倒壊してしまう。なるべく自分の存在を殺しての背後からの狙撃を分かっていたのだろうか。当のアサヒナーがまたもや背景に消えたのだ。そして飛ぶ銃弾をクーガは腕の装甲で受け止めて事なきことを得たが振り出しに戻ってしまったことには変わりはない。

「電送転移システム舐めるなですぅ!」

「おわっ!!」

 そしてまたアサヒナーの放つビームの嵐をただ回避し続けるシン達がその場にいるのである。


「ちくしょう! 結構うまくいったつもりだったが……トライサプレッサー使うの久しぶりだけに惜しいな! トライマグナムEXオプション……えーと」

「シンさん、それは無謀です」

 作戦が破られてもまた新たに作戦を思いつくが、今度ばかりの作戦は無謀だったのか口から告げられる前にミツキに待ったが入った。しかし彼女の声からは何か自信にある案があるという表れかもしれない。


「何でだよ! こいつなら殺傷力抜群なのによ!!」

「それは私達を巻きこむ物騒な存在なので自粛してください。それより、トライマグナムだけでアサヒナーを倒す事が不可能です」

「倒すことが不可能? ミツキとかいったが何故そんな事が分かる」

「ええ。シンさん、クーガさん、トライマグナムでアサヒナーを倒す事は無理だと私が考た理由はシンさんの攻撃のおかげです」

「俺のおかげ? あの攻撃から何かヒントを得たのか?」

「はい、消える相手にはいくらなんでも機密を塞ぎきれない事なので、ここは直接説明する事はやめます。どうすればいいかは貴方達で考えてください」

「ええ? いくらなんでもそりゃないぜ!!」

「「……」」

 ミツキからの言葉に理解して首をうなづかせたクーガだが、シンは納得がいかない。真顔でそりゃないと言う彼に対し両者は何とも言えない視線と表情を露骨に彼へ突きつけた。


「シンさん、相手は視界からもレーダーからも探すことが出来ないサムライドなのですよ。この場全てにあの女がいるようなものですよ」

「そうだ……だから作戦の内容を伝える事もできない。腰の通信でメッセージを送る方法も。相手が消えるなら全然機密性を保てないからな」

「あ……そうか」

「ええ……」

 ミツキがこれもまたどうしようもないような何とも言えない顔で返事をすれば、クーガが彼女の後ろ肩をたたく。

「なぁ……これで本当に大丈夫なのか、あいつ」

「ここは信じなければ話が進みませんので、シンさんに対する足りない信用は貴方が補完してください」

 不安が漂うクーガにミツキがきりっとした表情で“気にするな“のニュアンスの言葉を送り、表情をシンの方へ向ける。


「さて、シンさん、自分の手を変えるだけて相手を倒す事は無理です。ですが貴方は相手に精神的なゆさぶりを相手にかける事が出来ます。貴方が相手に揺さぶりをかけた時に私は敵の脅威を一時的に絶つ方法を使うので、能力と精神を低下させた一時的なタイミングで仕留める方法こそ私の考えた勝因です」

「……!!」

 ミツキの説明に、シンは軽く手を叩いた。何となくだが彼女の言葉の意味が理解できた気がした。その“気がした“の内容が作戦の成否がかかっている。


「ミツキ……それでシンが何をやればいいか分かるのか?」

「クーガ! お前俺の事を信頼してないのかよ!」

「さっきまでの件で色々と疑うところがあるからな」

「はい。念のために聞きますがシンさん、貴方にとって相手に精神的プレッシャーをかける事が出来る最大の兵器は知っているはずだと思います。あ、威力直接でプレッシャーを与える事はなしですよ」

「そこまで言って分からない方がおかしいだろ! 分かってるぜ!! 奴が出てきたところ勝負だ!!」

(シンさん頼みますよ。シンさんの攻撃からあの方のフレームが接近するエネルギーに反応してあの方を消すことが分かりました。精密な兵器だと分かりましたが……精密な兵器は敏感すぎる弱点があるものですかあら。)

 ミツキの目にはとにかく彼女の言っている事が分かったようなそぶりを見せるシンが見える。すぐさま彼はベルトのバックルを左右に回しながら何かを調整し始めた。


「何かいい方法があるとか言っていますがぁどんな方法なんですかぁ?」

「来たっ……!!」

 その瞬間、シンの目にフレームが実体化するアサヒナーの姿が映る。それからフレームが具体化する瞬間、彼女の上下左右それぞれ360度の視界に異変が訪れていた事を知らないまま。


「さ~て、攻撃はぁ最大のぉ……っておバカちゃんがいっぱい!?」

「かかりましたね……(いけます! ミラージュシフトで大量の分身に戸惑っていればフレグランスが使えます!!)」 


 ミツキの言っている事は間違いではない。ワープしたアサヒナーの周囲にシンが何人も存在する。その複数もの彼から、彼を踏み台にするようにミツキが彼女に飛びかかる。そして腰から手に握られたブラシのような先端を持つ銃から幾多もの粒子が放たれた。


「個々はひとまずってあれぇ? 何か様子が変ですぅ……」

 ミツキの思惑は見事に当たった。撤退を試みようとするアサヒナーとフレームと体の間に幾多もの火花が飛び散り、やや狼狽する彼女の姿からは電送転移システムに何かの異変が感じられるとミツキは見た。

「これで上手くいきます。シンさん」

「あぁ! 行くぜブレイズバスター!!」

 シンの右腕とトライマグナムがすぐさまブレイズバスターへ変形合体を遂げる。この勢いで反撃に乗じる彼はこのまま標的を射ようとするが、


「これで何とかなるですぅ!」

「何……」

 しかし先ほどまで起こった火花が自然と消滅してしまい、アサヒナーの体は瞬時に異変のないものになった。腕や足を軽く動かしてシステムの異常がないかを確かめている。

 そして、実際に彼女の体が先ほどより緩やかだが、自然と消滅していく。このままでは自分達の作戦が切り崩されようとしていた。


「まずいですね……先程の戦いでエネルギーを少し無駄に……」

「ストラングルチェェェェェェンッ!!」

 作戦の破綻が脳裏によぎったミツキだが、シンの放ったストラングルチェーンが消えようとするアサヒナーの両腕に巻きつき、クローとワイヤー放たれる電流が彼女の消滅を食い止める。そしてワイヤーを急速に集束させて彼は彼女の背中に密着する形になって。


「な、なにをするんですかぁ! このおバカちゃん!!」

「クーガ! 俺にかまわずにこのブロックフレーム女に止めをさせ!!」

「何だと! お前は俺が止めを刺せと言うのか!?」

「あぁ! 俺が止めを刺したいけどな、この状況からだとお前にストライカーのポジション渡してやるよ!!」

「いや、それならお前はどうなるんだ!!」


 クーガの考えではビーグランチャーでアサヒナーを貫くつもりだったが、その手で攻撃してしまえば彼女に密接した状態のシンをも貫いてしまう結果となってしまう。彼の捨て身の行動がクーガに止めを刺す事を躊躇わせている。

「馬鹿野郎! 俺にはまだとっておきの秘策がある! だからお前は俺ごと撃て!」

「俺ごと撃て!?」

「シンさん! 自殺行為のつもりですか!?」

「だから秘策があるんだって! 早く撃て! 俺はこいつを止めるだけでエネルギー使っちまうから!!」

「しかしな……」

「いや、クーガさん、こういう土壇場の戦いでシンさんは何か考えがある人です。あの方、馬鹿は馬鹿でも単なる馬鹿ではありませんから」

 クーガの目の前には黄色に発光するシンとアサヒナーの姿が。そして彼には二人もろとも止めを刺すような無茶な使命を託されている。

”できるのか? 自分にそのような事は出来るのか?”クーガの心中は答えを出せないでいた。


「おバカちゃんはやっぱりおバカちゃんですね。自分の分身をたくさん出して私を戸惑わせ、その隙にあの女の特殊な銃で電送転移システムを一時麻痺させた事は見事ですがぁ、おバカちゃんは分身を作るのにエネルギーを消耗してしまっているのですぅ! 電撃で電送転移システムを鈍らせるにも限度があるですぅ!」

「う……」

「私を倒せるかもしれませんがぁ、自分も死んでしまったは元も子もないですよぉ! でもこのままいったらエネルギーが切れてしまい返り討ちなんですけどねぇ!」

「……」

 アサヒナーの告げる事はあり得る事である。戸惑うクーガを前にシンが反撃のチャンスも失われてしまうだろう。だが彼の表情は何かの自信に支えられているのか、激戦の中でも笑みは絶やさなかった。


「クーガ、俺はこの女ごと死ぬつもりはないぜ!!」

「何っ……!」

「俺はこんなところで死ぬつもりはない! 生きる事に関しての希望と意地は人一倍あるもんでね!! 死と隣り合わせでこそ、俺は生きている感覚を実感する……激戦を生きて帰るように、俺は今回も勝って生きてやる! もちろんその方法もある!!」

「あるのか……それは!!」

「秘策は最後まで取っておくべきだ! 俺は馬鹿かもしれないけどなぁ、ここは俺を信じてくれ!!」

「……!」

 感電により金色に発光するシンの目は光る。彼の真剣な瞳にクーガは一旦目を閉じてから開いた。


「負け惜しみもいいところですぅ! どうせおバカちゃんは私にやられるか、相討ちになるだけですぅ!!」

「負け惜しみじゃないぜ! どうだクーガ! お前が俺を撃つか、俺がお前の攻撃から逃れるかの賭けといこうじゃねぇか!!」

 シンは微笑んだ。それはクーガの両肩に備えられたビーグランチャー中央部分へ光が急速に集束される。ラストスパートをかけるように光は速く、そして大きく。後は攻撃が放たれるだけ。シンが生きるか死ぬかは別だ。


「行くぞ! ビーグランチャー・メガグレイン。こいつで死ぬか否かはお前次第だ!!」

「あぁ! 死ぬ気で挑んでも俺は死なないね!!」


 今、黄金の大口径光が飛んだ。光は螺旋状に繋がり、一直線へ軌道を向けて飛んだ。アサヒナーの体越しにシンへも迫る光。抵抗できない彼女は動けないが、それ身を持って彼女を止める彼にも変わりがないのである。目の前の光を避けなければ自分の勝利はないのだから。


「おしまいですぅ! 私のついでにおバカちゃんもおしまいですぅ!!」

「おしまいじゃねぇ。俺をおバカちゃんと散々呼ぶけど、ブレイズバスター(切り札)にはこんな使い方もあるぜ!!」

「なっ……なんですとぉ!?」


 シンの右腕が斜め上へと火を噴いた。そしてワイヤーが一気に伸展され、射出時の反動により火を噴く正反対の方向。左下の方向に彼の体が叩き落とされていく。メガグレインの光が一直線に彼女を飲み込んだときは、既に彼の体は光から外れる場所に存在していた。


 光が消えた時にアサヒナーはもういない。そして、当のシンは地面へ叩き落とされてしまう。光の中でストラングルチェーンが消滅してしまったからかもしれないが、彼に受け身を取る余裕もなかったのだろう。

「シン!!」

「シンさん!!」


 フルグ・ランダー形態から飛び出したクーガとミツキが地面にたたき落とされたシンの元に駆けつける。だが彼はぶつけた頭を抱えているだけで、特に大した被害はないように見えた。


「シンさん……やはり大したものというべきでしょうか」

「へへへ……両腕のストラングルチェーンを失うだけで済んだぜ。何この位ならリボンシュラウドですぐに復元するからまぁミッションコンプリート! いててて……」

 地面へ叩きつけられたシンは頭を抱えながらもⅤサインを見せる。そんな彼の並はずれたバイタリティーを前にクーガは瞳を閉じて、後ろを向く。


「シン。お前は馬鹿だ。だが、馬鹿もあそこまでいけば大した奴と言えるかもしれないな……」

「シンさんはそんなサムライドです。天才的な馬鹿は小奇麗な常識を覆してしまう存在です」

「……俺は天才的、いや桁外れの馬鹿に心惹かれてしまった訳か……」

 ミツキの言葉に目を瞑りながらクーガは笑う。彼の笑みには久しぶりに喜の感情が込められていたように見えた。

「痛てて……」

「シン、お前散々無茶しやがって」

「うるせぇ。あの時に味方の裏切りから俺を守ってくれたじゃねぇか。その恩返しのようなものだよ!」

「無茶苦茶な恩返しだな……でも何だ……その」

 頭を軽く掻きながら、地面に寝そべるシンへ言葉を開く。その言葉には無茶をするシンへの呆れや、感謝の気持ちもある笑いにも見える。


「何だクーガ、早く言ってくれよ。俺、鮫とかブロック女と戦って疲れてるんだからよ」

「……大した奴だ! それだけだ!! それに疲れているなら休め!」

「へへ……当たり前だってーの……お休みぃ」

 不器用に褒めるクーガの顔を見てニヤリと笑い、シンの顔はやや右にぐったりと傾く。他人から見たら力尽きたかに見えるが、彼の鼾からそれはないだろう。


「やれやれ、それよりクーガさん、貴方は付いていくつもりですか> そこのところを詳しく……」

「俺の答えは決まっている。この地で蘇り堕落したまま終わるより、俺は再起してやる……強さを極めて、マローン殿の期待に恥じないサムライドになるためにな……」

 ミツキに背を向けるとクーガは真下の生き物が目に入る。先ほどの鳥だ。傷ついても、命が尽きようとしても、彼は羽ばたこうとしている。この大空を羽ばたこうとしているのだ。傷ついても懸命に生きようとする存在が目の前にいる。この世界では今、己は傷だらけでも生きる為に存在しているのだ。


 ”痛んだ体に苦難を受けて、昇る明日へ舞ってやる。羽ばたけなくても俺は俺。それでも俺は生きてやる……。”


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「東部軍団はもう壊滅同然とみた。マローン亡き東部軍団に目を見張る要素はない」

「まぁそうなったんやか。せやけどシンとかゆう反乱分子をどつくつもりでっか?」

 その頃、三光同盟においてケイは東部軍団を切り離す方針に固めた。スクリーン越しのガンジーの発言にケイは目を閉じながら笑って見せる。


「今は放し飼いにしておけばいい。強大な計画の為に一時の恥は忍ぶつもりだ」

「強大な計画? ケイはん、どうゆう計画かわいら知りまへんけど? どうするつもりかわいに聞かせてくれまへんか?」

「それもそうだな……西部軍団は現状維持。北部軍団と南部軍団による一大作戦だがいいだろう」

「兄上!」

「ケイ様!?」

 ケイは静かに笑いながら指を弾く。すると中央からは巨大な四面スクリーンが下りてきて映像が映る。


「まず私は新生東部軍団を形成する。これによりあの反乱分子を挟撃する準備が整う。それには南部軍団の力を借りる」

「兄上! 僕の力を借りるのですか!!」

 スクリーンに映し出された日本地図では山梨、長野が赤く光る。そして岐阜が青く光り旧東部軍団の本領を挟撃する形に整う。そしてケイの発言に対し、カズマは心を躍らせた。

「あぁ東部軍団に五強の一角を引き寄せる。その候補は既に決まった。恩を売り、相手の心を利用することで東部軍団を形成する……」

「五強の一角を引き寄せる考えは最もやな~。その候補も大体見当が付くんやが、どちらさんを味方に引き入れまっせ?」

「それは近いうちに起こるはずの戦いの勝者だ。どちらか一方へ加担して勝利を収め、その勢いで東部軍団として反乱分子を叩く! そこでだ……」

 ケイの言葉と共にスクリーンの画面は二人のサムライドに切り替わる。


「紅き風林火山ゲン・カイか蒼き戦神ミーシャ・ツルギ。どちらかに加担して甲信越を勢力圏に置く。その為に南部軍団を出動させるつもりでいる!」

「僕をですか! しかし、兄上。そのような者を仲間にする事なんて僕には……」

 カズマは歯がゆい表情を見せる。何故かは簡単である。兄上を今まで支えた弟は外部からの仲間を信頼していないのだから。新たな仲間に対して嫌悪する事も無理はない。


「カズマ、マローンを継ぐ存在は彼に相応する実力者でないと意味はない。お前の想いは理解しているが、時にそれが負の方向へ傾く事を忘れるな」

「兄上……失礼しました」

「分かればいい。そしてだ、南部軍団を総動員し、ヒララ、それにあの三人組には捜索活動を行わせる」

「ええ? ヒララも、ヒララも出動するの!?」

「わいもか!? わいも出番が回ってくるのですか!!」

「ミー達も買われたものですねぇ!! イエーイ!」

「いえーい♪」

 ケイからの意外な出撃命令に三人組とヒララが子供のようにはしゃぐ。最もヒララは姿から子供同然だから仕方が

ないものの、他の3人が喜ぶ姿は妙だ。


「兄上! このような役立たずも一緒ですか!?」

「むー! 役立たずじゃないもん!!」

「そーだそーだ!!」

「ミー達合身巨神チームを舐めちゃあかんでーす!!」

「……役立たずとは酷い言い様だな。この4人には近辺に眠ると言われている彼らの部下を覚醒させてこちらの陣営に引き込む事を優位に運ぶのだ」

 カズマの役立たず発言に部下から一斉のブーイング。なのだが、、ケイは特に動揺する事もなく話を続ける。


「そしてケイ。お前には合戦で先陣に切り込んでもらう。この私とな」

「この私……兄上!? まさか兄上も出陣するのですか!!」

「ケイはん!? 正気でっか!?」

「そ、その通りですわ! ケイ様が手を汚す事はありませんわ!!」

 自分の出陣発言を信じられないのか、一斉に3宿聖からは戸惑いの声が上がりだした。


「私は正気だ。迎える相手は五強の一角。どちらを加えるにしろ、私が舐められる訳にはいかないのでな……己の力を完膚なきまでに見せつける事が実力者に対する私の礼儀。久しぶりに天王不辱を使う時が来た」

 ケイの言葉には彼なりの威厳と自信が現れる。そして何処か久々の戦場に身を通さんとする事に静かな闘志を燃やしている。

「それにより三光同盟は留守になる。よって総帥代理には西部軍団に任せようと私は思う」

「西部軍団……てなことはわいでっか!?」

「そうだ。お前に留守を任せる。従来の西日本の反乱分子の管制はともかく、留守中を破られないように頼むぞ、ガンジー」

「は、はははは……」


 ケイから指揮の代理を託された西部軍団。その責任者でもあるガンジーは目を点にしながら、体中汗だくで震えっぱなし。余程荷が重かったのだろうか。

「おや教主が遂に指揮官とは。出番がないと思えば世の中捨てたものじゃないねぇ」

「ザイガー、ガンジー様をからかう事はやめろ。ガンジー様、この光栄な任務、我々西武軍団の栄光に賭けて果たしましょう!」

「そ、そや! 了解や!! 命に代えても果たしまっせーわいの任務!!」

「うむ。ガンジーに後方は託すとしてだ、サクラ!」

「はい! どのような用件でございますかケイ様!!」


 そしてケイは北部軍団へ話を振る。自分へ話を振られて、いつもとは違う従順な態度を見せるサクラだが、

「東部軍団との挟撃にはスネーク・サイドを行かせるつもりだ」

「何っ!?」

「ケイ様!? どのようなことですか!」

 ケイの意外な発言からサクラの目が点になり、とりあえずその場にいたスネークの関心がカアレの方へ向いた。


「スネーク・サイド。カズマからお前の打倒シンへの執念は聞いている。そのくすぶった炎をここで点火させたいと私は考えている」

「俺の炎を燃やす訳か……ケイ、貴様も分かる男だな」

「スネーク! なんですのその態度は!! ケイ様に無礼を働くつもりですか!!」

「よい! サクラ、お前は大人しく待機していろ。お前が手に入れたという秘密兵器を温存しておきたいものだからな……」

「秘密兵器……あの子のことですわね」

「うむ……」


 ケイの口調からサクラは本心を知ったのだろうか、自然と笑みを見せ、先程までの怒りがいつの間にか吹っ飛んでいた。

「そうだ。お前の秘密兵器は切り札だ……そして、スネーク。万一お前が突破された場合、三光同盟はそれなりの犠牲を伴う事になる。責任は重大だ」

「任せておけ! この俺スネーク・サイド、あの男に引導を渡す姿勢でいる!!」

「うむ……」

「……」

 スネークの自信にありふれた言葉にケイは目をつむり、会議の幕を下ろす。それぞれに与えられた使命を果たそうとする中で、一人納得のいかない表情をうつむいて隠す者がいた……。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 場は福井。福井の空に浮かぶピンクの花は北部軍団移動拠点・ブロッサムだ。サクラの花びらのように華やかな姿で天を舞うその姿は、荒廃の激しい世界において浮世離れしている存在かもしれない。

 北陸地方を支配下に置く要の全貌は無機質な通路で埋め尽くされていると思えばそうではない。とある扉の先を少数の者以外が知らないからそう思われるのである。


 扉の先にピンクと金、白の通路が見える。少女マンガのようなメルヘンチックなデコレーションで飾られた通路と扉は戦いの中では明らかに場違いである。


「ふぅ。ケイ様の秘密兵器、ケイ様の秘密兵器♪」

 部屋の奥に用意されたプライベードの浴室。綺麗に畳まれた衣装と、かごに入れられた外部のメカパーツ。浴室の中に見える二つの影は生まれたままの生身なのだ。最も体内に武器を隠し持つようなサムライドかもしれないが。


「サクラ様……」

「なんですのトリィ?」

「い、いえ……」

 浴室にはサクラとトリィの姿が、縦ロールが解かれブロンドを湿気に浸すサクラはシャワーのコックをきゅっとひねり、放射状に流れるお湯を止めた。

 白い肌を伝い落ちていく水滴が裸身を奮わせるとともに下へ堕ちる。コスチュームから解放された胸にはマスクメロンが二房、体の動きと共に振るえ、蜂のようにくびれたお腹から腰までのラインが美しい曲線を描く。

 そんな彼女を目にすれば男は理性を失うだろう。ひょっとしたら同性でも理性が危うくなる可能性もある美貌を彼女は持っている。湯船に身を縮ませながら浸かるトリィは彼女から目をそらす。髪をアップにまとめたトリィもおそ らく彼女に勝るとも劣らない美を持っているだろう。だが、生まれ持った立場が、彼女に尽くす性格がトリィを必要以上に謙虚にさせている。


「あの子を覚醒前にこちらの手に渡せたのは正解ですわ~ミランとトリィ、そしてあの子を加えれば私が薄汚い戦場に出る必要がなくなりますからね……トリィあの子に負けてはいけませんわよ?」

「それは承知です。ですがサクラ様、貴方は優れた力を持っているはずです。宿聖に就いたお方は前線でも実力を発揮しなくてはいけないと私は思いますが……」

 そんなサクラが自分と同じ湯船につかると、トリィは恐れながらも進言する。内容はトリィなりの彼女への諫言でもある。だが、


「ふふふ。動かずにして勝つこそ大将の鏡という言葉がありますのよ?」

「しかしですね、私にはあの男達が信じられません。ここはぜひサクラ様が直々に動いて統率を取るべきではないでしょうか……」

「私に動けと? 非効率かつ面倒なことを嫌う私が嫌う事はご存じでしょう? トリィ」

「きゃあ!!」

 口元をにやりと動かすサクラは軽く笑いながらトリィの急所ともいえるボタンを押す。ボタンを押された側にとっては何度経験しても耐えきれない嬌声が飛ぶ。


「な、何をするのですか! サクラ様」

「私の考えが分からない貴方に……オ・シ・オ・キ」

「そ、そんな……お、恐れ多いお言葉ですがミランは絶対裏があります。あそこまでサクラ様を褒めちぎる事には何か裏があってならないのですが……」

「ふふ……ミランは私の北部軍団の忠実なエース。トリィは元々私の執事の類で生まれた存在ですからね。戦いにおいて差が生じる事は仕方がない事ですのよ♪」

「い、いえサクラ様! 私はそのような事でひがんでいるのではありません!」

「トリィったら意地っ張りな所がありますのねぇ。大丈夫ですのよ、私は身の周りで役に立っている貴方を見捨てるおつもりはありませんから」

「い、いえ! 私は……私は、ひゃあっ!!」


 トリィなりの必死の戒めもサクラは全く理解しようとしない。天然なのか計算なのかは当の自分にも分っているのだろうか。だがトリィの意識が飛んでしまう程の刺激が襲った。


「こんな事をやって貴方を弄ぶ事も出来ますしね……」

「サクラ様、やめてください……今ここで貴方に弄ばれてしまえば、私としては」

「強がらないで。ゆっくり楽になればいいですわ……何、私の方も貴方に遊ばせてあげてもいいのですわ」

「そ、そんな事! 恐れ多くてぇ……ふわぁっ!! やめてくださいサクラ様ぁ!」


 トリィは飛んだ。飛びゆく意識の中で自分の不甲斐なさを責めたくもなった。しかし今、彼女に弄ばれている現実を何処か好んで受け入れていた。だが、今は一気にこみあげてくる波に己の意識を乗せて楽になりたい気持ちが自分を支配していた……。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「トリーティア・シグマ。もとはといえばサクラ様の雑用をこなす単なる使用人サムライド。そのようなカスが無理して戦いに出ても足を引っ張るだけ。凡人は凡人に過ぎず、俺のような天才が天才でありことに変わりはない……っと」


 浴室前で男が腕を組む。ミラン・ヨドハシ。自称北部軍団ナンバー2に君臨する男である。

「そうだ。北部の切り込み隊長は俺だ……ケイの奴め!」

 ケイへの不満を通路の壁に叩く事で散らすミラン。その理由はスネーク・サイドが次の前線ポジションに選ばれてしまっ空であろう。だが、その事をひがむと同時にとある考えが彼の脳裏によぎった。

「今回のスネーク・サイドは俺の見当では敗北を喫する宿命だ! ここで破れたら、スネークには内応疑惑を俺が持ち上げてケイの奴に処刑させてしまえばいい!! あいつがいるから北部軍団は統率がとれない訳だ!!」

「それって、自分にも責任があるんじゃないかな?」

「何だとっ!?」


 野望を燃やすミランに口をはさむ者が一人。向かいの扉から姿を現した少年は白を基調としたコスチュームに金のクリアパーツを装着した姿。まるでギリシャ神話のような外見と、サクラに匹敵するような美しい金髪を持つ。

「ほぉ……お前が秘密兵器か! たかが操り人形のくせにサクラ様のナンバー2が務まるとは思うな!!」

「おや、随分と酷い言いぐされ様。ふふふ。僕は君に刃向うつもりはないし、同じ仲間としてサクラ様の為にやっていこうじゃないか?」

「……!!」


 軽く挨拶をすませる彼だが、すぐさまミランの首元に自分の相棒ともいえる鉤爪を突きつける。その素早さの前にミランの表情に微かな恐怖がよぎる。

「自慢じゃないけど僕、この場で君を始末する自信があるよ。僕に失礼な事をしたら……どうなるかわかるよね?」

「ぐ……」

「ふふ、ミラン。桜さまの為に共に戦おうじゃないか。じゃあね」

 少年はゆっくりと通路を後にする。その余裕全開の態度と自分が完全に相手にしてもらえていない事に侮辱の意を感じ、ミランは強く拳を握った。


「あれが北部軍団の秘密兵器……オミ国第4世代サムライド“サイ・ナ・ガマーサ”。厄介な奴だがこの手で俺が砕いてやる!! 最もハナから俺がぶっ殺すつもりだと考えていたがな!!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 戦いが終わった地に巨体が駆ける。何体かのソルディアを率いてタダツグが地を駆けるのだ。

「いやぁ貴方がミツキ・アケチさんでございますポコね。お初になるポコ」

「はい。貴方がクーガさんのお目付け役でしょうか?」

「そうといえばそうなるポコ。クーガ様と私マサノブはツーカーの関係なんだポコ!」

 ミツキの隣でマサノブはハンドルを管制用のコントロールパネルを操縦しながら次の地へ急ぐ。彼らは三光同盟へ反逆している身。素早い行動を取らねば彼らの勝機はないに等しい。


「クーガさんを仲間にする事がここまでいい結果を生むとは思いませんでした。東部軍団旧領制圧もこれのおかげで随分早く済みそうですね」

「そうだポコ! 私はともかくクーガ様が仲間に加われば十分強力なんだポコ!! あの大砲に敵うサムライドはいないんだポコ!!」

 長円形の小柄なロボット・マサノブはクーガを軽く自慢しながらタダツグを駆る。今多勢のソルディアを率いて東部軍団の旧領制圧が開始された。


「どうやらミツキの奴またいいサムライドを仲間に加えたようだな」

「そうですねぇ。早くも一端の軍団という感じで出だし順調ですね~」

 そんな彼らの進軍を真上で眺める存在が二人。ミツキにこのような口調で接する相手はトダカとユーサイの二人に絞られる。


「でも徐々に各地のサムライドも独自の勢力圏を作っている事も事実」

「そうですねぇ東北でも九州でも徐々に単なる小競り合いから勢力同士の争いへ発展しますからねぇ……」

「あぁ。群れないサムライドは勢力の前に消え失せるのみ。勢力同士の戦いがもう日本列島を支配しているからな……ミツキ、お前はまだここで死ぬべきじゃねぇ。それだけは忘れるな……」


 彼らの、いやサムライド達の運命をただ傍観するトダカとユーサイ。そして快調な滑り出しを切った彼らの進撃が続くが、三光同盟側は彼らを亡き者にせんと一大計画が徐々に練られていることもまた事実だ・

 嵐の前の静けさを過ぎて反りかかる嵐に立ち向かう事は出来るのか……。それはその時まで分からない事である……。


続く

次回予告

「時はサムライド群雄割拠。九州の地に理想と欲望がのしかかり、現実への激突の日は近い。マーズよ、お前は現実を守る事が自分の欲望でもあり、理想でもあるのか。それがお前の幸せなのか?」

次回機神旋風サムライド、「南端に集う戦士達」

高望みしない事も一つの理想だ!ライド・オン!!

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