第3幕 メカラクリ・ヤブサメー出現! 破れ必殺ファング!!
“大陸歴151年4月8日。レッドビーンヒルズ戦争勃発”
エンド国とスンプー国の間に存在するサードリバー国のレッドビーンヒルズ地方。サードリバー国は自国サムライド・ダイラーが戦死して勢力を急速に後退させスンプー国の従属国に落ちていた。そんな中でエンド国が400機の軍団でレッドビーンヒルズへ侵攻。これを迎撃する為にサードリバー国はスンプー国との共同で1000機の大群を進軍させて防衛作戦に入った。
エンド国はとあるサムライドを切り込み隊長として総大将のマローンの首を取ることで2国を衰退させる作戦を取ったが、彼は戦争中に消息を絶ちエンド国は返り討ちにあい、サードリバー国におけるエンド国の勢力はスンプー国の活躍で一掃される事になり、11月にアンジョーイ地方からの勢力を一掃したことでサードリバー国は完全にスンプー国の支配下となった。
この戦争はスンプー国がサードリバー国を完全に支配するステップボードとなった合戦とみなす者も多いと言われている……。
(イーストオーシャンエリアウォーファイルVOL16より、一部文章編集)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「俺に、総大将をやれっていうのか……リーダーも無茶苦茶言うぜ……」
大陸歴151年3月、1機のサムライドは駆けた。名はシンキ・ヨースト。真紅の髪をなびかせながら、己の脚ともいえる相棒・バタフライザーで一直線に急いだ。
「400対1000とこっちが不利な戦い。その命運が俺にあるとはリーダーも俺を買ってくれるもんだな……総大将を仕留めりゃあこっちが勝ちだって言うけど、実際にやれと言われて出来るほど簡単なものじゃないな……」
シンは微かに不安になってしまい、劣勢でのスタートを前に表情が歯がゆい気持ちを浮かべるが首を振った。
「いや、このくらい厳しい戦い、俺にとって最高のステージかもしれないな! 真剣勝負こそ己を強くするってスネークさんも言ってたしな!!」
改めて決意を固めたシンの元にソルディアが迫る。数は計4機。だが今の彼にとってはたかが4機の雑魚など朝飯前のような存在だ。
「ダイヤモンド・クロス!!」
「スピニングブリザード!!」
「グレンバーナー!!」
やや前かがみの姿勢でダイヤモンド・クロスが放たれ、続けて両腕から吹き荒れる赤と白の嵐。2機は頭部を一直線に射抜かれ停止、両端の2機は嵐の中に消えた。彼の攻撃が停止したらシンはホルスターからトライマグナムを抜く。
「てやっ!!」
「そらよっと!!」
ソルディアのガドリング攻撃を、バタフライザーを、己の体を動かしながら軽々と回避してみせるシン。
相手のハチの巣にせんとする攻撃はこちらで倍返しにしてやればいい。ただマグナムをぶっ放すだけでなく、彼は発射させたシェパードを爆発させてその場のソルディアを軽々と吹っ飛ばす。新たな群れも今の勢いを前には大した事ない。そして彼はまた4機とわずかな数で攻め立てるソルディアに向かう。
「へへっ、どうやら俺をそんくらいの量産型で倒せると敵さんは見ているようだな! 戦いに関しちゃ俺は他のサムライドと違うって分からないのかな! ダイヤモンドカッター!!」
今度はダイヤモンドカッターを右手に握るシン。カッターの中心を握って腕を回転させながら宙に円を描く姿は彼のパフォーマンスだろうか。自分は只者ではない、他の者とは違うぞと意味している動きではないか。
「なっ……!?」
だが、目の前に紅い閃光が走った。一瞬の出来事が光となってシンの両頬をよぎる。先ほどまでダイヤモンドカッターを回転させていたシンの瞳には驚きと戸惑いが走り、額に一筋の汗が流れた。
「あんなビーム兵器を使う奴は……うわっ!」
シンの言葉が閃光にかき消される。さすがに無鉄砲のシンも一旦退こうと決めたが、後方にはソルディアが自分を取り囲んで退路を防いでいる事に気付いた。
しかし、その包囲網は決して完全な包囲ではなく、後ろに二つの隙間があり、そこから退却する事も可能かもしれない。
ごくわずかな時間しか隙がないが頃合いを見れば……と思えば、光は一直線に包囲の隙間をめがけて放たれるので逃げ場がないのだ。
「逃げ場がないってことか! まさか、さっきの奴は……」
シンはようやく気付いた。切り込んだ先には自分ではどうしようもない状況に陥っている事を。両側面は前から後ろへ光が襲い、後方からソルディアの銃弾が走る。残された道はひたすら前へ急ぐしかない。急がない限りハチの巣にされてしまうからだ。
先を急ぐ間、彼は先程地中へ放ったシェパードで真後ろのソルディアを破壊し、回り込む事を試みたが、もし後方の敵を駆除しようとすれば、光を放つ主へ背中を見せてしまうため下手したら死ぬ。
決断に悩むシン。その一瞬の躊躇の間に相手は量を活かして包囲網第三の穴を埋め、これにより彼を囲む状況は振り出しに戻った。いやシェパードは放った2発しか装填されていない事を考えると、先ほどの包囲網打破は不可能なので状況は前より悪化した。
「前へ急ぐしかないのかよ……生き地獄だぜ」
シンが考え出した答えは真っ先に相手の元へ急ぎ、そのまま首を取る事である。だが彼の計画は上空に接近しつつある“くの字”型の機体に遮られる事になる。
「そうか、あの4機のソルディアは俺を油断させる為の囮。その間に散らばって小競り合いを続けていたソルディアを俺の後ろでフォーメーションを組んで俺の退路を防いだ。……くっ!!」
前方上空からの熱線がシンの進路を焼き払う。その際後退して難を逃れようとすれば、銃弾が彼の背中を射る。被弾箇所を抑えながら再度前方へ急ぐ彼だが、それを行えば次は上空からの熱線攻撃の餌食になってしまうだろう。
「しかもソルディアがあの光線の巻き添えを食らわない距離感覚を、相手はギリギリまで考えている恐ろしい包囲網だ……だけどあんなにビームを連発してエネルギー切れを起こさない奴がいるなんて!」
シンの本能が恐れを訴えている。相手は自分を四方とも包囲する統率と頭脳を持ち、さらに強力なビーム兵器を備えている強敵だ。こいつにやられてもおかしくないとシンは悟る。自分は現在それだけの実力者を相手に回しているのだと。
「いや、スネークさんが言ってたな。“恐れに呑まれたら負けだ!ってな 死を覚悟で相手を恐れさせろ! こっちのペースに引き込めってな”頼むぜ、ストラングルチェーン!!」
両腕を斜め前方に延ばして放つ兵器はストラングルチェーン。シンの望みを託したワイヤーは勢いよく標的、前方の機体に向かい、己の勝利を賭けたクローががっつりと引っかかる手ごたえを感じた。
「こうなったら力づくで突破口を見つけてやる! ライドクロス!!」
ワイヤーに引っ張られる形で、上空の機体へとシンが引っ張られた。彼の体が宙に舞うと同時にバタフライザーが飛び、6体のパーツへ分散。真紅と白銀のパーツが両肩から胸、両腕、腰、両足に装着されると背中からのヘッドパーツが彼に被さった。
「タイト・コード!!」
被さったヘルメットの両側から首の方へ伸びたコードをシン自らの手で結べばヘルメットが光り、口元にマスクが閉じ、目元をゴーグルが覆う。これにより装着された赤と銀のメカは相手からのピンクの光にさらされても、何事もないかのように上空へ舞い前方から苦しめるアロアードの真上に乗っかった。
「トライ・ウェスターマー合体完了! フェンサーブレード!!」
敵にとっては今のシンは制空権を奪わんとする邪魔者。アロアードが彼の元に急ぐが、両手から展開された一直線の刃が近付くアロアードを一文字に掻っ切てみせる。
「フェンサーギロチン!! でやぁぁぁぁぁっ! てやっ! たぁっ! それっ!!」
腕の円型シールドが刃の部分へとスライドし、完全に刃が上部へスライドされると、取っ手に該当する部分が彼の腕から自然と外れて、シンの両手へ握られる。
彼の両手に握られたフェンサーギロチンが彼の近辺はおろか、遠く離れた相手にも十分な効果を与え量産型兵器を次々と撃墜していく。
フェンサーギロチン。それはトライ・ウェスターマー形態の両腕には円型シールドとブレードが装備されており、シールドがブレードの先端に移動すると同時に柄が外れて、彼の両手に握られるとシールドからの刃が回転のこぎりのように相手を切り刻む平気だ。
そしてシールド表面のスパイクがミサイルの要領で離れた相手へも攻撃し、シールド部分で相手の攻撃から身を守ることが出来る。この攻防・遠近両用の万能武装が今のシンにとって突破口を切り開くウェポンになる。
「おっと!!」
だが、上空へ光が飛んだ。シンの両側を襲った存在と同じ光だ。これを防ごうとシールドが激しく回転した状態で右手のフェンサーギロチンを盾に使用したが、その威力はまさに壮絶の一言に尽きた。
何故ならシールド部分にぽっかりと穴が空いてシールド部分が吹っ飛ばされてしまったからだ。その際の衝撃波が今も握られた柄から伝わる。まともに受けていたら助かるかどうか……トライ・ウェスターマー形態でも分からないかもしれないだろう。
「やべぇ。せっかくのフェンサーギロチンがもったいねぇ。だが……厄介だな!」
愛用の兵器を破壊され悔しがる表情の一方に相手への脅威もシンは感じた、しかし、制空権を取っていた故に相手の位置を把握することが出来たのだ。これは奇襲のチャンス。接近戦に持ち込めばあのビーム兵器を操る存在もまともに使えないだろう。彼はそう確信して、上空の機体から飛び降りた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「何っ……!?」
光を放った主は驚きが隠せなかった。何故なら相手が、そうシンが空高くこちらの元へ勢いよく飛び降りたからだ。ただ飛び降りただけじゃない。左腕シールドからスパイクが飛ぶ。両手からトライマグナムが火を噴く。脚からは鮫の姿に似たジョーズミサイルが放たれる。とどめに腕のストラングルチェーンが目の前に突き刺さる。
「くっ!!」
彼は右腕からのシールドから銃弾を放ち、トライマグナムの銃弾を撃ち流す。だが、それだけでシンの猛攻を食い止められそうにない。シールドを展開させてひたすら猛攻を凌ぐ事が最善だと思い、ただ攻撃を耐る事を彼は選んだのた。
そして攻勢のシンが決死のダイビングで着地を決めると、煙の中で人影がゆっくり姿を露わにする。相手は2門の砲身を肩に背負い、ライトグリーンのジャケットの下にはグレーの装甲に脚と右腕を包む。そんな彼は先ほどの攻撃から何事もなかったように立ち上がり、戦士の黒き瞳には底知れぬ情熱と覚悟を自分に突き付けているような気がした。
「俺の攻撃を受けてピンピンしてる……なんてやつだ」
「当たり前だ。俺にとってこれくらいの攻撃は耐えて当然。紅蓮の風雲児シンキ・ヨーストよ!!」
「俺の名前を知っているとはな。お隣さんには少々俺の名前も知られたものだ……おっと!」
軽くしゃべるシンの顔を銃弾がかすめた。ギリギリで避けたシンだが彼の銃弾によって発生した風圧が己の頬を切った事は、彼の前に軽い気分でいる事が死だとシンに告げさせた。
「俺はクーガ・ヤスト! 不動の砲撃手として生まれたサードリバーのサムライドだ!!」
「サードリバー……あそこのサムライドは確かだいぶ前に俺が倒したような……」
「そうだ! 俺はお前に破壊されたサムライド・ダイラーの後を継いで生まれた! お前を倒す事が今 俺にとって全てだ!!」
クーガと名乗る男は右手とその銃口をシンに向けて彼への敵意を露わにする、静かかつ怒りを込めた彼の声。彼の背負った物は彼の大柄な身体以上に大きい存在か。
「サードリバーの英雄ダイラーがお前に倒されてからサードリバーは屈辱と忍耐の日々だ! 俺はサードリバーを没落させたお前を倒す! お前を倒してサードリバーの栄光を取り戻す事が俺の宿命だ!!」
「宿命か……だが、国の誇りを賭けたお前の気持ちをわかれといわれてもな……だが、俺だってあいつを倒す使命を国から託された! お前に恨まれようとも俺はあの時負けるわけなんて国の為にも許せないし、死ぬのはごめんだからな!! そーらよ!!」
勢いよく接近するシン。そしてフェンサーギロチンが激しくクーガのシールドにうちつけられた。激しく刃が回転するが、彼の長方形のシールドはびくともしない強度を持っているのだろう。フェンサーギロチンの攻撃を全くびくともしない。
「思った以上に固いな! だが、俺の調べじゃこの辺のサムライドの指揮能力はともかく、1対1の戦いじゃ結構脆い! 装甲が固いけど、その大砲はこんなに近くじゃ使えないしな!!」
「それはどうかな!」
「何っ!?」
「俺の切り札の威力を知れ!! ビッグバーストボンバー!!」
クーガの背中からジョイントが外れる音が聞こえた。両肩の筒が90度外に開くと共に、脚の装甲が自分の両腕へとグローブのように重なる。装甲が装着された鉄の拳を後ろに回すと同時に、銀と白の金槌へと大砲は姿を変え、柄が左手に握られている。
「おわっ!!」
クーガがビッグバーストボンバーを横へ一振り。木殺が押しかかるシンを弾き飛ばす威力を見せる。
「ぐっ!!」
受け身を取るシンに休みなどない。ビッグバーストボンバーの木槌からは大砲の時とほぼ同じ光線が放たれ、彼は慌てて光線の猛威を避けた。
「ハンマーからビームだと!?」
「驚いているようだなシン! 俺が指揮だけが取り柄のサムライドでない事をお前を倒すことで教えてやる!!」
「おわっ! おわわっ!!」
休む間もなくクーガがこちらへ走りながらビッグバーストボンバーを振るう。慌てて後退しながら回避行動を取るシンだが、フェンサーギロチン、ダイヤモンドカッターを両手にして、重量的に差をつけられた鎚を果敢に受け止めながら反撃の機会をうかがおうとしていた。
「さすがだな、俺のビッグバーストボンバーを受け止めるだけの力があるとは、やはりダイラーを下しただけの事はある!」
クーガは微かに笑いながらビッグバーストボンバーを振るう。それに対してシンは焦りを感じていた。 何故ならビッグバーストボンバー自身の質量を活かした打撃攻撃には2本の剣で受け止める事はたやすい。だがそれだけでは済まない。ビッグバーストボンバーがただのハンマーではなく、両面の木殺からのビームがを放つ事でシンを近づけようとしないからだ。
だからシンは相手の打撃攻撃を受け流しながら反撃の機会をうかがう事は出来ても、ビーム攻撃を避ける必要がある。
それなら遠距離攻撃を使えばいいではないか。だが、クーガは自分以上の巨体を誇るビーグバーストボンバーを両手にしているにも関わらず急接近して間合いを詰めながら打撃攻撃を仕掛ける。この連鎖からシンに攻撃を与える隙はないのだ。
「シン、悪いがお前に攻撃の手を与えるつもりはない! 俺はこいつでお前を倒す宿命があるからな!! 俺の巨大筒、そう。ビッグバーストボンバーは俺の責任そのものだからな!」
「俺の責任だと……どういう意味だ!」
「お前には分からないがな! 俺はサードリバー再興の悲願を果たす為に生まれた存在!こいつからのビームは国の敵に風穴を開ける! 俺は国の希望の光として使命を背負っている!!」
「くっ……ん?」
クーガはビッグバーストボンバーを振り回す。国の誇りと再興を賭けた彼の攻撃はどこか悲壮なまでに真剣なものだ。だがシンの視線には意外な存在が入った。それは、彼の背中のバックパックから展開されているケーブルが背後の物体に連結されている事だ。
(そうだあれだ。あんなにビーム兵器を乱発できるのは、あのメカから連射するに十分なエネルギーを供給しているんだ……あのビーム攻撃を塞ぐ事が出来たら、懐に近付く事も簡単だ!)
「ストラングルチェェェェェェェン!!」
ヒントを得たシンの行動は早い。両腕のストラングルチェーンを全開で後方へ展開させて、自分の体を急速にそちらの方向に移動させるのである。
「ちっ!」
どんどん離れていくシンに対し、クーガはおそらくビッグバーストボンバーの秘密を見破られたかと確信した。やむを得ず彼は腰のボタンに手を触れて、掃除機のコードのようにケーブルが瞬時に彼の背中に収納され、彼の元に近付きながら木殺からおそらく最後と思われるビームの一撃を放つが、シンは軽々と回避しつつ最前線に近付いた。
「これで厄介なビームは撃てないな!勝負は五分五分、いや俺の方が有利だ!!」
「それはどうかな! ヤスマサ!!」
「ヤスマサだと……なに!?」
次の瞬間、クーガの背中にヤスマサが連結した。ヤスマサ。それは先程シンを前方上空から苦しめた空中に佇む大型爆撃機のような存在だが、クーガと合体するでヤスマサが輝き、同時に木槌からビームが噴いたのだ。
「あぶね……ぐあっ!!」
シンは右へ体をずらして回避しようとした瞬間、彼より右方向からの鉄髄が飛んだ。彼の体が低く宙を浮き、何度も地面へ弾みながら転がってはピタリと動かなかった。
「馬鹿が……ケーブルを離したからビームが出せないと思ったら大間違いだ! 移動拠点・タダカツ、空中拠点・ヤスマサが落ちない限り俺の、そしてこいつエネルギーは尽きない! 紅蓮の風雲児……よく粘ったがここで引導を渡す!!」
勝利への一撃を決めようと、今倒れたシンの前でクーガの手でビッグバーストボンバーが振られようとしていた。
「グレンバーナー&スピニングブリザードッ!!」
「何だと!? くっ……」
その時、あおむけに寝返ったシンの両腕が噴いた。赤と白のトルネードがカーブを描き、両面の木槌に激しく激突。クーガとはいえ上と下からの均等な力が加えられてしまい、自由にビッグバーストボンバーの物理攻撃もビーム攻撃も出来ない状況となった。
「どうだクーガ、このままやればビームは封じる事が出来る! 射出元を絶つより先を絶てばよかったんだな!」
「紅蓮の風雲児め……ここはさすがダイラーを倒しただけはあるということか!」
「さぁてと!」
ストラングルチェーンを地面に引っ掻けてシンがスプリングの要領で起き上がると、当のクーガは戸惑いが見え隠れする。何故ならビッグバーストボンバーの先端からビームを放つ事ができないのだから。
「よくもまぁここまでやってくれたな……ビッグなんちゃらボンバーがないお前なら軽いぜ! マイクロナイファー!!」
シンの両手に展開される鋼の刃。それを掲げてクーガを突き刺さんとばかりに拳は振るわれた。
「させるかぁっ!!」
だが、クーガは、あだ負けを悟ってはいない。マイクロナイファーへ彼の鉄拳が激しく激突。ビッグバーストボンバーを捨てた彼の腕はただでさえ強靭な装甲を持つせいか、十分な破壊力を持つ。ナイファーと拳の激突に激しい火花が散りゆく。
「やるじゃねぇか……ハンマーだけじゃねぇ。こいつに手を抜いたら間違いなく死ぬ!」
「当たり前だ! 俺の拳はビッグバーストボンバー(サードリバーの未来)を握る。国の再興を賭ける土台でもある俺の拳が軟なものだと思ったら大間違いだ!!」
「国の全てがかかっている拳か……恐ろしいぜ、けど面白いぜ!!」
「面白い!? ふざけるな!!」
激しい殴り合いが展開される。シンはクーガの鉄拳を回避し続け、またクーガはシンのマイクロナイファーを己の甲で受け止める。
「俺には! 俺にはな! 国の民を重圧から解放する使命がある! 俺はダイラーの敵を討ってサードリバー国のサムライドとしての実力をこのイーストオーシャン地方に轟かせてサードリバー国を晴れて独立させる!!」
「国の未来か……規模だけじゃあ俺の負けだ! でもな!!」
俊敏なシン、重厚なクーガ。両者の動きがまた対照的だが、もはや両者の拳が奮われる中で両者の感情と心の高まりを共有できる者は彼ら二人のみだ。
「俺の夢はお前に負けられないぜ! 俺はこんなところで死ぬわけにはいかない! 俺はもっと強くなるつもりだ!!」
「強くなる……それだけのお前に俺の夢など」
「まだわからねぇ! でも俺はもっともっと強くなった時お前の夢が理解できるかもしれない!! だから今日の為に、そして明日の為に俺は強くなる夢があるんだ!!」
「……!」
「お前と戦っている今、俺は一歩一歩強くなっている気がするぜ! 俺は死なないし、ひょっとしたらお前を倒すことも出来るかもしれない! それはお前の夢との戦いだ!!」
「強くなるお前の夢か、国を賭けた俺の夢! 規模が違えど夢への想いで勝負か……なら!!」
クーガの表情に一種の喜の感情がよぎる。互いの感情とともに、拳と刃が両者の懐に入った。コンマ段階のスピードが勝敗を分けようとしていた。
「……!!」
シンの後ろに一点の光が。その光は徐々に大きくなり、クーガの目に光が入った。
「させるかぁっ!!」
「なっ!!」
拳を出すと見せかけて、クーガは盾を横に薙ぐ形でシンを弾き飛ばす。思わぬ方向からの攻撃に軽く吹き飛ばされてしまった。
シンが体勢を立て直して後ろに体をひねると、ビーム兵器をまともに食らってしまい、見事なまでに吹き飛ばされ足場のない奈落の先へクーガが叩き落とされてしまった。
「まさか、あいつ……ちくしょう!!」
何を思ったのかシンは急いだ。落ちるクーガにストラングルチェーンを掛けて救いあげようとしたが、
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
足場が煙と共に突如吹っ飛んだ。自分が吹き飛ばされてしまったらチェーンは全然意味がなく、むしろ落ち行くクーガに連鎖する形で転落してしまったのだ。
「ふふ。引っかかったな」
光を放った森に男が率いる一人。彼もまた2門のキャノン砲を持ちながら大笑いをしている。
「まさか紅蓮の風雲児も巻き添えにするとは思わぬ収穫だ!」
「ハラミ様、クーガはおそらく助からないですな!!」
「最もだ。マローン様に目を置かれているからクーガめ。余所者が出しゃばるのはいい度胸だ! 者ども退け! レッドビーンヒルズの勝者はわしらだ!!」
「ははっ!!」
両者の将が一人ずつ戦場を離脱せざるを得なくなった。このレッドビーンヒルズ戦役のその後に関しては冒頭を参照してもらいたい
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「う……」
「気付いたかクーガ。二日間も寝てやがって……」
微かによぎる光は何処か暗く幻想的だ。よくわからない状況はシンの声で打破され、クーガの脳内には先ほどの戦いが脳裏によぎった。
「やれやれ二日間も連絡なしじゃ俺も上から大目玉くらっちまうぜ」
「おい!」
「あぁ? 何だ、俺がせっかくお前を看病とまぁ男らしくない事してやったのに。リボンシュラウドを起動させりゃこのくらいのダメージ何とかなるけど、お前のリボンシュラウドの起動コード知らないしな」
「そういう問題じゃない!」
「あぁ!? じゃあ何なんだよ!!」
「お前はなぜ俺を助けた! 俺はそれを聞きたいだけだ!!」
クーガは納得できない表情を見せて、自分を助けた理由をシンに問う。そんな彼に対しシンは腕を組んで考えるが、
「いや、そこまでは俺も覚えてないんだよなぁ……」
「何だと!? 俺を馬鹿にしているのか! 敵を助ける事に何か理由がある事は当然のはずだ!!」
「いや、怒るなってそんなに……いや、ただあの時おそらくお前の仲間からの攻撃から俺を庇っていたから、それだから俺は助けただけで、いやあの時は俺もどうにかしていたかもしれないけれど」
「それだけでか……」
「まぁ、そうなのかな。いや、お前が俺に火を付けたからな。あんなやられ方するなんて納得いかないからな」
「おかしな奴だ……あと俺を撃った奴ハラミは仲間じゃない。その建前を被った敵だ」
「味方の建前をした敵……お前、他のサムライドにあまりいい目で見られていないな」
「何?」
シンの的を射た発言にクーガは目を丸くする。何故自分の立場を分かっていたのか。初対面の自分の苦しみなど分かるはずはないだろうと思っていただけにだ。
「もしお前が孤立しているなら俺も同じだ。リーダーに俺の能力は買われていても、他の奴らから俺は後ろ指を指される異端の存在だからな」
岩の上で寝転んで笑うシン。自虐的な意味もあったかもしれないが彼の笑いは陰湿どころか清々しいほど爽やかな笑いだ。
「俺は隠密・工作の為に単独行動用に生まれたサムライド。紅蓮の風雲児の肩書きも俺のような単独行動を嫌う頭の固い連中には後ろ指を指されて辛いものだったりするものよ。実力がある故に孤立するとかミツキの奴には言われちまう」
「……」
「あ、ミツキはミノ国のサムライドでな。俺の国とミノ国はお隣さんの同盟関係なんだ」
「いや、俺はそんな事を聞いては……」
「単独行動ばっかやってフリーの俺はよくミノ国のサムライドと一緒に任務を行う事も多く、いやそれにミツキやアゲハ、そしてスネークさんとあそこのサムライドと結構気が合うから俺は何時かミノ国に寝返るとか陰口叩かれているみたいで……」
クーガは頼んでも興味もないのにシンの愚痴を聞かされる。だがその愚痴は決して分からない者ではない。仲間や国の為に戦っても理解をなかなか得られない故所に自分との共通点を感じていたからだろうか。
「ほんと、腹が立つもんだぜ。そんなに言うならミノ国に鞍替えしてやろうじゃんと思った事もあったぜ」
「それだったら、何故そうしない? お前がそこまで後ろ指をさされてまで、鞍替えを考えている身で何故歓迎されない母国へ留まる必要がある? やはり国の民を守る宿命がお前をそうさせるのか?」
「それもあるけど、お前程の愛国心は俺にはねぇ。ただ俺をこの世に生んだヒラテマ博士の為だ」
「ヒラテマ博士……聞いた事はあるな」
「まぁ俺を作った博士だからな。有名っちゃ有名だぜ?」
「……お前、自分の知名度が微妙なのに有名はないと思うがな。俺も人のことをいえないがな」
胸を張って生みの親を自慢するシンに対しクーガは突っ込みの言葉を入れた。
「ヒラテマ博士は俺をわかっていられる。何も知らなかった俺に手をやかされても、俺の存在意義を考えてくれているいい人だ。俺がもし裏切ったら博士は責任を取らないといけない。俺は博士の為に紅蓮の風雲児をとしてエンド国のサムライドでないといけない。それが俺だ」
「……」
「とまあ、俺はこんなアイデンティティがある訳で……って俺らしくない話だな」
「いや、お前の話はそう悪くはない……一人の男の為に戦う。強くなるためとはまた違うもう一つのお前の存在意義、俺には理解しきれないが悪くはない……」
「理解しきれない……お前、なにか事情でもあるのかよ」
「あぁ。俺を開発したセッサイ・タイゲーンはスンプー国の人間。俺はサードリバーとスンプーの間で生まれたいわば混血のサムライドだ……」
「混血? ええと、テクノロジーのブレンドでオッケー?」
「混血の意味くらい知れ。それはそうと俺はそんな経緯で生まれた故にスンプーの奴らからはかなり見下されている。だが俺が手を出せばサードリバーの国民が更なる屈辱に耐えないといけないだろう。だから俺は耐えなければいけない。サードリバーを脅威から守り何時か国を再興する為の力を無駄なところで潰したくはない」
「……背負っている者が大きい故に迂闊な真似が出来ない訳か」
「あぁ……」
”あぁ”の一言にはクーガの己ひとりの力ではやりきれない無力が伝わってくる。一人でどうにもならないから屈辱に耐えることで母国を危機から守るしかないのだ。
「しかしなぁ。お前もマローンの奴の部下になっちまったゆえに気の毒だ」
「マローン殿を悪く言う事はやめろ!」
敵ゆえにその手の発言をしてしまうシンにクーガは叫んだ。彼の叫びに一瞬と戸惑ってしまう上に、彼とマローンの本心がシンには今一つ分からない。
「俺にこの力を与えたのはセッサイ殿だけでなくマローン殿にもある。俺のコンセプトは、そしてこの力はあの二人に与えられた力だ」
クーガは拳を握り、ぐっと立ち上がる。
「マローン殿とダイラーは深い関係があった。それゆえにダイラー亡きサードリバー国を他の諸国に取り込まれる事を嫌ったマローン殿は、今エンド国からサードリバー国を支配下において、サードリバー国をバックアップしようとしている事は俺も知っている」
「マローンの奴がそんな事を……いや、国力からしても何とかなるのかなぁあそこの国なら」
「国力云々の問題でない。あの方はサードリバー国の再興を真剣に考えられている。そして俺にサードリバー国を背負って立つサムライドとして戦いのイロハをセッサイと共に教えてくれた……つまらない話をした。これはお前には関係ないかもしれないからな」
「いや、そうでもないぜ……」
シンは笑った。孤独の中で一つの為に戦う彼に共感を覚えたのかもしれないと。そんな彼はともかくクーガの表情も先ほどよりも遥かに明るさが増している。
「やれやれ、お前は不思議な奴だ。だが……俺が帰ってきたら国の奴は俺に冷たく接されるだろうな……」
「何でだ……ってあぁ、そうか」
やや憂いを見せるクーガの表情。その変化の理由はシンにも理解できた。二日間も連絡のない状態。帰ってきたらその件を色々言及されるうえに、下手したら敵との内応疑惑もあるのだから。だがシンは何か思いついたのか、指を軽く鳴らした。
「あぁそうだ。なら二日間俺と戦った結果お前が勝ったという事にしてしまえば大丈夫じゃねぇの?」
「何だと……」
「ほら、お前の背中の傷がだいぶ引いたとはいえ、結構なもの。それが激戦の証拠にもなるんじゃね?」
「そんな事、いや、待て……」
やや無茶苦茶なシンの意見でどうにかなるかと思えないクーガだったが、考えてみれば案外上手くいく事が考えられるからだ。
「そうか。ハラミにつけられた傷もそのような言い訳が聞く。俺が奴に傷つけられたと言っても信頼は得られないだろうし、まずあり得ないが、奴が俺を攻撃したと言ったら、彼の方こそ殺されてしまうはずだからな……シン、そう考えるとは思わなかったな」
「え? 俺、そこまで考えていなかったけど……」
「まぁいい。俺も誇りの為に生き続けなくてはいけない。シン、俺とおまえは仲間として別れを告げる。だが、今度会うのは戦場として、敵としてだ!」
クーガはシンに指をさす。月をバックに改めて宣戦布告をする彼の姿には誇りと意地が見え隠れしていた。
「戦場として、敵としてか……誇りと意地がそうさせるのか……なら俺も負けないぜ。俺にもお前にとってはちっぽけかもしれないが人一倍の誇りと意地はあるからな」
「面白い奴め……では、俺たちはここから本拠地に帰還するまで仲間として別れを告げよう……ナオマサ!」
「わかった……バタフライザー!」
シンとクーガがライドマシーンの名前を呼べば、夜の森林に駆け着いた2機のマシン。両者は2機に登場し真後ろを向きながらそれぞれ正反対の方向に走った。それはマシンのレーダーによるものだろうか、または仲間として別れたも次会うときは敵同士という意味の表れだろうか……
「……シンキ・ヨースト。紅蓮の風雲児。大した奴なのかもしれないな……む」
クーガの目の前を真っ白な光が迫る。広がる光に彼の意識は徐々に薄れて、瞬時に光が闇に変わり、徐々にまた同じ光が視界に差し込んだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「む……」
光が闇へ転じて記憶が沈む。そして闇から光に転じた瞬間、クーガの意識は覚醒することになった。目の前にはシンとミツキの顔が映り込んだ。
「お目覚めですね、クーガさん」
「お前は、俺の記憶が確かならミノ国のサムライド……ミツキ、それにシン!」
「あくまで元ミノ国のサムライドですけれどね、シンさん、この方がクーガ・ヤスト。不動の砲撃手ですね……」
「あぁ。不動の砲撃手クーガ・ヤスト、実力は俺のお墨付きだぜ」
「お墨付き……どういう話だ」
「へへ。それはなクーガ。お前が俺達仲間に加わったら心強い!そういうことだ」
シンは軽く咳払いをして、クーガへびしっと指差しして決める。暫くその場が静寂の空気に包まれたが、
「全くお前の話の筋が分からないが」
「はっ?」
彼の返答に一つの風が白けるように吹いた。
「おい、ミツキどういうことだ!?」
(いきなり覚醒した方がこれまでの戦いを理解しろと言う方が無茶でしょう……)
「おいクーガ! お前、そこまで馬鹿じゃないだろ! お前が俺の仲間にならないと俺達の戦いは負けなんだ!!」
「いや、お前の話がな、色々と……」
「そうだ! サムライドの瞬時大局把握能力があればなんとかなるよな、ほら!」
「愛知県岡崎市康生町561番地……時は西暦2060年6月14日午後16時7分36秒……。ビーグネイム大陸と違う匂いがするが……それを知ってもお前の話は分からないな」
「ええっ!? ええっ!? お前瞬時大局把握能力正常かよ?」
「……」
シンのトンチンカンな発言に対し、クーガは軽く頭をおさえ、ミツキは完全に呆れか憐みのまなざしを送る。これ以上彼に任せたら、余計に話が厄介になる。
「ここは私が説明したほうがいいでしょう。この方に説明しろという方が無理に等しいのですから」
状況を把握しきれないクーガに戸惑うシンをよそにミツキはため息をつきながら説明を開始。これまでの事情を簡単に説明した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ビーグネイム大陸の民はここにいる人類の遠い先祖たちに滅ぼされて、この世界で蘇った三光同盟とかいうサムライド軍団がこの世界の人類へ復讐を開始している訳か……」
「そうです。それで私は三光同盟に対抗する為の勢力を作るために、シンさんを目覚めて、この愛知県を拠点に三光同盟へ抵抗活動を開始しているのです」
「そう! 今は勢力安定のために愛知、静岡。マローン・スンプーがやられた東部戦線の旧領を手にしている中でお前が近くで眠っている事を知った! そしてお前を目覚めさせたって訳だ!」
「なるほど……シン、お前たちはその為に俺を目覚めさせて!?」
二人の説明に事情を理解したクーガ……のはずだが、彼の脳裏に引っかかるキーワードがあったのか表情を思い切り変えた。
「あ、ミツキがお前のコード知ってたみたいだから何とかなった訳で……」
「お前、さっきマローン・スンプーが破壊されたという話をしたか!?」
「マローン・スンプー……あぁ俺があいつを下した! あれはすごい戦いで下手したら死ぬところだった…けど、あいつを倒して俺達の行き先快調。この調子でお前を仲間にすれば鬼に金棒……!?」
何食わぬ顔で自分の活躍を軽く自慢するシンはクーガに手を差し伸べる。だが、その手は彼に激しく突っぱねられる結末に終わった。
「クーガさん……?」
自分のしでかした事がよくわからないシン。そんな彼を横目にしながら殆ど変化のない表情で立ったままのミツキにクーガが話しかける。
「シン……それにミツキとかいったな。お前の考えは俺も間違いではないと考えている。守るべき存在を滅ぼした敵の遠い子孫を襲おうが、その大陸の民は帰ってこないからな。むしろそれは復讐じゃない。ただの虐殺だ」
「ええ。クーガさんの意見には一理ありますし、私もほぼ同意です。でしたら同じ考えを持つ貴方が仲間にならない理由は何でしょうか」
「……それは簡単だ。シン、お前がマローン殿、つまり俺の師に値する人物を討ったからだ!!」
「そ、それだけ……!?」
理由を告げるとすぐにクーガは背を向ける。背を向けた彼の背中は微かに震え、やりきれない怒りとむなしさが感じられた。
「確かにお前からすれば”それだけ”かもしれないな! だが、俺はこの世に生まれてから眠りにつくまでずっとマローン度の元で己を鍛えてきた。マローン殿を失った俺は心の柱を失ったようなものだ……」
「クーガさん……一応説明を入れますが、シンさんとマローンが戦う事になった原因は私とマローンの部下が遭遇したことがきっかけで、私を襲うサムライドをシンさんが倒した流れでマローンを倒してしまったことで……」
「それでもマローン殿はもういない。あの方がいない俺は……それもマローン殿の組織に敵対することなど……」
ミツキの説得もクーガ本人は聞く耳を持たない。ただ指を鳴らす音に呼応するかのように、バイク型ライドマシーン・ナオマサが彼の元に向かった。
「クーガ! お前が考えていることが俺と同じなら考えてくれ! 俺以上の装甲にパワー、そしてあの時俺を苦しめたテクニック! お前は俺たちにとって必要なサムライドなんだ!」
「やめろ!」
思わずクーガの前に膝を突こうとするシンだが、彼の一喝が彼を止める。
「俺とお前はライバルであり友ではない! それにお前はマローン殿の敵だ!」
「確かに俺はマローンを倒した! 俺とあいつの考えが違うからだ! でも俺とお前の考えが同じなら俺はお前を敵に回したくない!」
「師の敵は俺の敵だ……!!」
「そんな事をして何になるっていうんだ! 俺を倒してもクーガ、お前が望んでいる事は何も叶わない! 過去の為じゃない、今から、またこれからの事を考えないといけないんだ!!」
「……そ、そのようなことなど俺にはできない!」
クーガの口は徐々に鈍くなり、言葉もたびたび積っている。自分の志が師匠への恩が妨げる。今のクーガにはどちら側の行動も取れないまま縛られているのだ。
「そうか……あぁそうかよ!」
ミツキを挟んで二人は背を向け合う。シンは叫んだ。彼にクーガの心情が理解していたかいないかは分からないが叫んだ。
「……」
「お前がそこまで分からず屋とは思わなかったぜ! 過去を振り返ったって未来への手掛かりが見つかるはずがないのによ! お前がそこまで過去にこだわるなら一生こだわってろ!!」
「ちょっと、シンさん!?」
「ミツキは黙っていてくれ! これは俺とクーガの問題だ!!」
シンが後ろを振り向いている間に、バイクの駆動音が聞こえては遠ざかっていく。その音が完全に消滅したときに振りむけば、クーガの姿はもうどこにもいないのだ。
「シンさん、どうするのですか。このままでは……」
ミツキの前にシンはただ無言のまま彼女に何も言うなとの意を込めて、手を真横に振った。そして彼の真剣な表情を前に彼女の反対する言葉は瞬時に消え失せ、表情も微々たる変化だがいつものように余裕がある表情へ戻った。
「何か考えがあるのでしょうか……それともシンさんはクーガさんの事を信じているのでしょうか。今の私が何を言ってもあの方の心の傷は消えません。ここはシンさんを信じるしかないでしょう……おや?」
その時ミツキが振り向いた。振り向いた先にはソルディアの群れが目に見えた。
「あら、どうやら敵の来襲ですね」
「こんな時にかよ!!」
振り向けばソルディアの数は3ケタを超える。こちらのソルディアとは5倍砲度の物量的な差がつけられているようだ。
「シンさん。どうやら三光同盟の攻撃なのは確かですね。私が残りの兵力を動かしていますが……」
「それまでは俺達が戦えってことだよな!!」
「はい」
「と言うと思ったぜ……けどやるっきゃないな! 紅蓮の風雲児と呼ばれたからにゃあ逃げたりできねぇ!!」
今、シンの手が右腕のホルスターへ向けられ、背中を合わせるミツキが後方へ飛んだ。
「カムクワート! ライドクロス!!」
華麗なフォームでジャンプする彼女の後方にはカムクワートが飛んで背中へ接合された。それと同時にカムクワートの裏側からは8本のケーブルが展開されて8つの種からは光りの芽を標的へ伸ばした。
「シード・オフェクション……これから逃げられる雑魚はいませんよ」
ミツキの言葉はあながち間違いではない。標的へ伸びゆく芽はソルディアの頭部を支柱代わりに正面へ蔓を伸ばしていき、頭部を貫かれたソルディアの活動は、蔓に養分を吸い取られたかのようにその場で動きを停止する。
養分を吸いつくしても蔓は芽を伸ばす限界をしらない。つぼみをつけて花が咲けば成長は停止するだろうが、彼女のまいた種は彼女の思惑通りに花を咲かせようとはしないのである。
「どうです。オールレンジ追尾ビーム兵器の威力は」
「すげぇな……お前がこのような技を使うなんて」
「それは非常事態だからです。この兵器を使うのエネルギーを相当使いますからサービスですよ」
「いや、戦いにサービスも何もないと思うがな……」
「それもそうですね。ならシンさん。私はこの場を動いて無駄にエネルギーを使いたくないので前の敵を片づけちゃってください」
「それはもちろんだってーの!!」
シンのトライマグナムがホルスターから引き抜かれた。三倍のサイズはあるソルディア1機に対し彼は何故か一歩も動じないまま銃を構えて突っ立っている。
「今だ!!」
シンによりトリガーが何度も引かれ、空へ銃声が鳴り響いた。目の前のソルディアはキャタピラと本体の付け根から移動を停止。一つ目が光っている限り稼働をしているはしているのだが、移動手段を奪ってしまえば脅威は半減する。
「これで頂点に登ってやるとするか! ストラングルチェーン!!」
シンは次にストラングルチェーンをソルディアの首へ先端を引っかける。ソルディアの群は1機の故障機を回避するようになだらかなカーブを描いて彼を攻撃しようと両腕のマシンガンを放つ。
だが、シンがこれを回避しようと故障した機体へ近づき、キャタピラをよじ登ればふしぎなことに攻撃を停止してしまったのだ。
「そうか。あの機体を完全に動作停止に追い込んでいないから……味方を巻き添えにして攻撃を続けることが出来ないタイプだな!」
何となくシンが割り出した根拠だが、周りのソルディアが左右に動きながら標的の動向を伺い、やがて後方へ移動を開始した。この時こそ絶好の機会。ストラングルチェーンの力を借りて故障したソルディアの頭部へよじ登れば、その機体は腕を真上に上げて彼を振り払おうとするがあまり効果がない。
「うっとうしいなぁ……ダイヤモンド・クロスっと!」
腕を動かしてじたばたするソルディアが足場としては鬱陶しいと思ったので、シンは背中からのクナイ二本で相手の両腕を突き刺す。その箇所からは火花と煙が巻き起こり腕をぐったりと下に伸ばしたまま無駄な抵抗をやめた。
「さーてこいつを久しぶりに使うぜ! バタフライザー、トライストレートバレルだ!!」
トライストレートバレル。それはシンのシューティング・アームに搭載された計5個のオプションパーツ以外に、様々な事態に備えて用意されたEXウェポンの一つ。平常時にはバタフライザーへ格納されているが、彼の要請一つでEXウェポンは彼の元へ射出される。
「よし!」
トライストレートバレルがシンの右手に握られた。外見はただのトライバレル同様のバレルだが、トリガーを引かれれば相違点が一発で分かるのであろう。シンはソルディアの頭部に身を隠して、一列の体制で進軍するソルディアへ標的を定める。
「標的はあいつだ! いけぇ!!」
弾が放たれた。だがトリガーを一握りで放たれる弾は五発。綺麗に列を作って飛ぶ弾はソルディアの頭部を貫くどころか、一列になった何機ものソルディアの頭部を貫通させる偉業を成し遂げたのだ。最初に放った銃弾の貫通穴を二発目は1ミリのズレもなく穴を広げないで綺麗に穴を通過させる。
トライストレートバレルは通常のトライバレルと違い、バレル内に5発の弾を装填されており、トリガーを引く動きと連動して瞬時に5発が一斉に放たれる兵器なのである。
「よし! 調子がいいぜ!! 次はトライリボルバーランチャーだ!!」
続いてドラム缶型の兵器がバタフライザーから射出された。それに右手首を折って内部に搭載されたトライボンバーを取り出し、トライリボルバーランチャーと連結させながら時計回りにボンバーを回転させる。その動作が終わればその兵器をすぐさまポケットにしまい、シンのトライマグナムは先程のソルディアのこめかみへ突きつけられ引き金が引かれた。
「こいつはもう用済み! こいつで目の前の敵を片づけてやろうじゃん!!」
その言葉と共にベルトのバックルが回され、黄色のボタンが押されると自分のすぐ近くで爆発が起こりその地点を通過しようとしていたソルディアが爆風によって吹き飛ばされた。
これはやはりシェパードを既に地中へ潜行させていたことにあるが、シンの狙い目はソルディアをこれで片づけることではない。それは機体の残骸が飛び散る光景に何かを見出したことが答えだ。
「てやぁっ!!」
シンは飛ぶ。飛んだ先には残骸が飛び散っており、小さな残骸を足場にしてすぐさま飛びあがり、またその前により高い位置に舞う残骸へ強烈な踏み込みを決めるとともに通常のジャンプより遥かに高くシンは舞った。
天空に舞う今のシンは鳥より高く宙に舞い、先程まで自分の倍以上だったソルディアが豆粒にしか見えないほど高く宙に浮かんでいる。
だが、滞空時間は人であろうとサムライドであろうと限られている。限られた滞空時間の中で彼の行動は手際が良かった。折られた右手首から取り出されたトライサンダーを装着し、トライリボルバーランチャーをポケットから取り出してトライマグナムの先端へ取り付けた。
「こいつでいっちょ決めてやるよ! 拡散式でな!!」
急降下していく中で真下の豆粒が徐々に大きな存在へなっていくことをシンの目は逃さない。急速で落下して、風を肌で感じながら引き金は引かれると幾多もの爆発が地上で発生した。
シンに引かれた引き金と共に先端のランチャーが回転しながら真下の敵へと放たれる。トライリボルバーランチャーはトライボンバーに搭載された弾薬全てが映されており、リボルバーの回転式弾倉のような先端が激しく回転しながら1発1発を放ち、無軌道に地上のソルディアを追い払わんと個々が別々の軌道を描いて放たれては、敵を1機1機と仕留めていく。
「ざまぁ! おや……」
急降下していく中で先ほどと同じタイプの豆粒が少し離れた浜辺で陣を取っている事をシンは見逃さなかった。陣さえ破壊して指揮官を倒せばこの危機は去るだろう。そして、考えが決まったシンの行動は速い事も忘れてはいけない。
「カモン! バタフライザー!!」
着地体制を取るシンを受け止めるかのように相棒ともいえるライドマシーンがシンの真下に駆け付けた。車上で着地を決めた彼の目標は一つ。敵の本拠地だ。
「さぁーて! 雑魚は片づけたんだ!! それにどっちみち援軍が来るし善は急げだ!!」
考えたら即実行に移すシンのバイタリティーは人並み外れたスキルである。最も良い意味か悪い意味かは表裏一体で難しい所であるが。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さーて、ここまで何もないのが不思議だが……順調には変わりはないな!!」
バタフライザーに搭乗して現場へ急ぐシン。彼がこのような事を言っている通り特に敵襲もトラップもないのだが、こういう所で安心しているとやはり不安である。
「おわっ!!」
そこに一本の矢踏みが飛んでは地面へ突き刺さる。よりによって自分の進路の直前に刺さった矢をかわさんと、バタフライザーを右へ傾けて直進を続けようとした。
「こんな所にトラップ置きやがって……ってあれ?」
不思議なことに目の前のソルディアは何も動こうとはぜずに自分へかかってこいと量産型兵器のくせに生意気なことを心に伝えようとしている事をシンは直感的に感じた。
「にゃろう……俺に攻撃してこいってことか! ならやってやろうじゃねぇか!!」
その喧嘩腰の言葉に違いなく両手にトライマグナムを手にしたシン。だがソルディアの後方、青い海原から鮫らしき鰭が、顔が会場から姿を現した所が視界に入った。
「なんだあの化け物?見たことない生き物……」
『なはははは! バーカ!生き物じゃなく私のメカラクリだに!!』
「その声はシックス!ダメシックスだ!!」
『なー!?』
海上からは鮫の顔が浮かび上がり、その上部のカプセルからは黒アフロの冴えない中年男が立ち上がった。そう、すでにご存じだと思われるが北部軍団の使いっぱしりであるシックス・ホーンのお出ましである。そんな冴えない男に関してシンは顔覚えのようである。
『私はダメダメダメ親父じゃないんだに!! シックス・ホーンは王宮護衛の弓道士! 弓の腕は』
「仮によくても、それ以外がダメシックスだ!!」
『ろろろーっ!!』
シンの酷い言葉にシックスは操縦席上でずっこけて見せる。だがずっこけてばかりでもいられないので力なく、よれよれと立ち上がる彼はビシッと自分に指を刺して、、
『こんな私に誰がした!』
「しらねーよ」
と自虐発言を決めるがシンの厳しい一言にならにた打ちのめされてしまうのだった。
「大陸歴160年! ノラミャーオ攻略戦で2500の兵を率いて1100の敵に大敗!」
『ノラミャー!!』
「大陸歴168年! カンノンジー戦争で俺に敗北!!」
『ろろろ……ってあの時お前の軍は私の軍の5倍で戦ってるから勝って当たり前だに!!』
「俺はついこの間マローン・スンプーの軍隊を十分の一の兵力でやっつけた! 兵力の差とかそんなのいい訳にならねーよ!」
『ろろ……じゃあ私が逆の立場ならさすがのお前も』
「それはない! 何故なら今度も、そして今回もお前を倒す自信が俺にある!!」
『ろろろろろろろ……』
と、まあシンに何度も言い返されてしまいシックスは操縦席上で泡を吹きながら卒倒したが、この場で彼が卒倒してしまえば話が進まないのか再び90度前に起き上がり、どこから聞こえるシャキーンの効果音と共に復活を決める。
『ろろろろろそうだに! そうだに!! 私はダメサムライドだに!! しかーし、このメカラクリの圧倒的なパワーにお前はたおされるのだ!!』
「メカラクリ……はは~ん、いわば巨大メカだな。ロボットがロボットを操縦してロボットを倒そうとするなんて滑稽な話だぜ」
『うるさいだに! メカはロマンだに!! メカの優れた部分は私の短所を補えるんだに!!』
「お前……メカだろ」
『だまるんだに! うつけサムライド!! このメカラクリ・ヤブサメーでコテンパンにやっつけるんだに! やるだに!!』
シックスの合図と共に操縦席のフロントガラスが閉じた。また前のソルディアの目が青く光り、キャタピラからは小さなキャタピラが長方形のブロックになるように射出されていき、ある程度の大きさになると最後尾のソルディアが両腕のアンカーでそのヤブサメーとやらの海中のメカをキャタピラの上へ引っ張り出してきた。
「で……でけぇ!!」
「でかいだけじゃないんだによ!!」
ヤブサメーの大きく開いた口から両腕がキャタピラ前部に用意された弓を握った。そして喉から手が出るのことわざ通り、口の中央から下の様に勢いよく飛び出た三番目の手に握られた矢が弓を通して射出されてきた。
「これがさっきの矢か! 無茶苦茶なメカにも程があるぜ」
「それだけじゃないんだに!! 右手にショータイムだに!!」
右を振り向けば、何体かのソルディアが本拠地へ合流するかのように進軍をしているのである。おそらく援軍を送って追い詰めるつもりではないだろうかとシンは考えたが、
『シンさん、違いますこちらは援軍です』
「ミツキ? お前もう片付けたのか」
『はい、こちらの方はもう片付けてしまいましたので、援軍と合流して本陣を制圧すればいいと思います』
「なるほど……やい、ダメシックス! お前の読みは外れたようだな!!」
『ろろろ……それじゃないだによ! ショータイムだに!!』
その時、援軍に駆け付けたソルディアが両手で捕まれた。圧倒的な力でソルディアの抵抗を許さずに自分の口奥へ引っ張り込み、喉から手が出るかのごとき三番目の手が獲物を固定しながらその口が思いっきり閉じ、獲物が噛み砕かれるかのような金属音が口から聞こえた。
「量産型兵器を食べた!?」
「食っただけじゃないんだに! くたばるんだに!!」
「ええっ!!」
ヤブサメーの何かを含んだ口からは素早く金属らしき何かを弾代わりに吹きだしてきたのだ。おそらく先程のソルディアの残骸だろう。残骸とはいえ元々の質量と、射出スピードからは当たったら相当な威力だとシンは見た。
「あぶね……ってあうち!!」
だから一つの残骸を軽く身をひねって回避するシンだが、彼はたかが一発を回避しただけにすぎない。残りの残骸弾が迫っている事を知らなかった彼は残骸の雨へ押しつぶされるように埋もれてしまった。
「やっただに! 念には念を入れて生き埋めのシンを下敷きにするんだに!!」
コクピット内のシックスがレバーを引くとヤブサメーが走る。そのヤブサメーを食い止めようとミツキの仕向けたソルディア達が懸命に立ち向かおうとするが、キャタピラから放たれる幾多もの銃弾、キャタピラ前部の弓攻撃、とどめに口内に引き込まれてしまえば噛み砕かれて、残骸弾が吐き出される。ヤブサメーはメカラクリと呼ばれるだけはあるのか単にソルディア以上の腕はあるようである。
「随分武装なメカが出てしまいましたね」
「そ、そんなこと言うなら助けてくれ……」
ミツキの手で引っ張られ残骸からシンが引っ張り出される。引き出されたシンは胸を抑えながら何度か咳き込んでしまった。
「にゃろう、これでどうだ!!」
トライマグナムが火を吹くが、その装甲は銃弾を軽く跳ね返す強固なものだ。何発撃っても無駄なのだがシンは撃つ事をやめない。しかし、そのような悪あがきをしているその間に口からの残骸弾が何発も飛んできた。
「えぇいや!!」
また下敷きにされるのはこりごりだと。シンはトライマグナムを残骸弾へ撃つと、その残骸弾は動きを止め、後発の残骸弾が激突して相殺される形で地上へ落ちた。
そして最後の一発が彼の目前に迫ればダイヤモンド・クロスを手元でカッターに合体させて、何処かの野球選手おなじみの一本足打法よろしくのフォームでジャストミートを決めた。
「なな!!」
はじき返された残骸弾は獲物を用意しようとソルディアを食らおうとしていたヤブサメーへ飛ぶ。だが、ヤブサメーは素早く手を口の中へ収納させて口にチャックをするかのように固く閉じて、強固な体の装甲で残骸弾を跳ね返す。
「ちっ! 本当に固い装甲だな……こうなったら!」
「いや、ちょっと待ってくださいシンさん」
「何だ! 折角のブレイズバスターの出番なんだ!」
右手をブレイズバスターへ変形合体させようとしたシンにミツキから待ったが入る。どうやら一つの秘策があるからであろうか。
「良く考えてください。残骸弾がヤブサメーの口元へ飛んできた途端にヤブサメーは口を閉じて装甲で弾き飛ばしました」
「そりゃあそうだ! 装甲が固いから装甲で弾き飛ばすのは当たり前じゃんか!」
「ですから外部の装甲が固いことを活かして防御に出たことは、裏を返せば内部の装甲が案外もろかったりするのではないでしょうか?」
「内部が……」
「はい。内部には案外メインとなる精密なメカが内蔵されているはずです。そういう精密なパーツがあるメカは脆い所がある者です」
「なるほど……ブレイズバスターも内部でとどめを刺した方が効果ありだな」
「その通りです。シンさん、あなたの虎穴に入らずんば虎児を得ずの諺を信じるべきです」
「なるほどねぇ……」
ニヤッと口を微笑ませてシンは立ち上がる。そして両手を上げて大声で叫んだ。
「ライドクロス!! バタフライザー!!」
シンと、バタフライザーは激しい勢いで飛びあがり、晴天の空には激しい閃光が。日本晴れの空に落雷が走ったように稲光が天に輝く。
「ろろろ!! その姿はトライ・ウェスターマー……けんどそれだけならヤブサメーが負ける理由はないんだに」
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
自信満々のシックス&ヤブサメーに対し、シンの右手にはダイヤモンドカッターが握られ、空中から落下する際の風を感じながらシンは相手へ特攻を駆けるかのように落ちる。
ヤブサメーの放つ矢をカッターでなぎ倒しつつ、彼が狙うはヤブサメーの口内だ。
「ヤブサメーは負けないんだに!! 噛み砕いてやるんだに!!」
落ちてくるシンを両手が地上へ引きずり込み、第三の手が口内へ放り込もうとした時だ。
「フェンサーブレード!!」
両腕の回転カッターが口内で第三の手を引きちぎり、自由になったシンは閉ざされようとしている出入り口に向けてダイヤモンドカッターを向ける。
「でやぁぁぁぁっ!!」
そして、ダイヤモンドカッターがヤブサメーの口内をまるでつっかえ棒の代わりにするかのように縦に突き刺した。自分の背丈ほどのダイヤモンドカッターが無事な限り当のシンは噛み砕かれる危機はない。だが、
バキッ
「折れた! しかもまた新たな手が!」
だが、自分の8倍ほどの機体のパワーはシンとはケタ違いである。たった一本の支えは開閉運動の前に見事にぺきっとおられてしまったのである。さらに真後ろから新たな第三の手が迫ってきた。
まずトライマグナムを何発も連射してシンは迫る手を沈黙させたが、口は閉じようとしている。そこで取った行動は背中から再びダイヤモンドカッターを取り出して縦に突き刺した。ただの時間稼ぎにしか見えないが、シンの取った行動はそれだけではない。
「てやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「あたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「せいやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
シンが取った行動はいわば三本の矢だ。一本の矢は簡単に折られてしまうが、三本の矢は簡単に折れないとのかの有名な西国の戦国大名の教えであるが、今のシンの行動はまさにそれである。
とにかく、己の背中からダイヤモンド・クロスを引き抜いてはカッターに合体させてそれをつっかえ棒として縦に奥。
一本をつっかえさせたらまた背中から抜いて、一本につなげて、口へつっかえさせる。そして抜いて、繋げて、突きたて、抜いて、繋げて、突きたての繰り返しである。このやや奇抜かつ滑稽な行動についてここで詳しく説明をしなくてはならない。
シンが操るダイヤモンド・クロスはクナイとしても合体させて薙刀としても使用できる兵器であるがそれだけではない。背中に装備されたバックパック内部に常に幾多のスペアーを搭載しており、仮に一本破壊された際は一定時間でバックパック内部で一本生産される仕組みとなっている。
今のシンの行動でダイヤモンド・クロスは、背中内部のスペアー全てをヤブサメーの口の動きを止める為に使用されたのだ。
「よし! これだけつっかえさせたら……大丈夫だ!!」
目の前の口内には10本ほどのダイヤモンドカッターが突き刺さっておりさすがの口も塞ぐことが出来ない様である。
「こいつを全部使っちまったけど……フェンサーギロチン使えば何とかならぁ!! たぁぁぁぁぁぁ っ!!」
フェンサーギロチンを両手にシンは走った。内部メカを容赦ない勢いで引き裂き、叩き斬る。そしてスパイクをミサイルとして、両足からのミサイルが手の届かない場所へ攻撃を加える。内部はやはり脆くシンの攻撃が各所へ爆発を引き起こす。
『ななな!! シンの奴が内部になぐりこんでいるるんだに!! こうなったらメカラクリからイタメカ に変形だに!!』
内部モニターでのシンの物騒な行動を前にシックスは慌てて黒のレバーを引いた。そのレバーを引くとヤブサメーの外部では新たな変化が見られた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「何ですか……」
シックスがコクピットでレバーを引いた時、ミツキは信じられない光景を目のあたりにした。
ヤブサメーの外皮が向けるかのように外部装甲が皮のように向けて上部へ飛んだ。皮の中からは一回り小さいヤブサメーからはまた皮が向けるように装甲が飛び、そこからまた現れた一回り小さい機体がまた皮が外される。
脱皮の様に外れる装甲が続く一方、キャタピラからは何本かのシャフトが空中で一本の長い棒となり、蛇のように一列に合体した外部装甲をつなげるかのようにシャフトが外部装甲を繋いでいく。
「うわっ!!」
そんな変形シーンの合間でシンがごみを捨てられるように機体内から排出されて、地面へバウンドして受け身を取った。
「いてて……何があったんだよ……」
「シンさん、あれです。あのメカが変形したのではないでしょうか」
「変形……ってうわわ」
蛇と化したヤブサメーの巨体に感心する時間などなかった。ヤブサメーはその長い身体を活かして自分たち二人を絞めつけようとしたのだ。
「なるほど。蛇だけに縛りプレイが得意ようですね」
「何だよその縛りプレイって……ちくしょう、抜けねぇ」
「何をそんなに焦っているのですかシンさん」
「焦るも何も……そりゃ当り前だろう!!」
焦るシンに対しミツキは全くと言っていいほど落ち着きを保っている。その要因は絞めつけている箇所にあった。
「シンさんは見ていなかったのでわかりませんが、あのメカはいわば重ねていた皮を一つにつなげたような存在。皮を上から重ねていけば硬くても、つなげたらその装甲は一枚皮のようなものです」
「なるほど……じゃあ」
ミツキからのヒントから思いついたシンの方法は、フェンサーギロチンで自分を絞めつけている箇所の皮をナイフで切り裂かんとばかりに切り込みを入れる方法である。ミツキの言うとおり皮は先程より随分装甲が落ちており、簡単に切り裂く事が出来てしまった。
「ん? 何か変な感覚が……」
「それです。先ほどの様子ではこの蛇メカは連結された一本のシャフトで身体を保っているのではないでしょうか。私の推測ではそのシャフトを真っ二つに切れば倒せます。あくまで推測ですが」
「推測が確かかどうか知らなくても、まぁいいや! やっちまうぜ!!」
今一本の棒がギロチンによって真っ二つに引き裂いた。すると先程まで二人を絞めつけていた蛇は力なく地面へ二つになって倒れだした。
『ろろろ……なんということだに!!』
「内部の弱点だけでなく外部に弱点を自分から作ってしまうなんて墓穴を掘りましたね」
「さぁて、今度こそダメシックスを倒してやる!」
身体の自由が戻ったシンはようやくトライマグナムをトライバレル、トライサンダーと合体させて、スコープとボンバーをジャケットのポケットへ入れこむ。空っぽになった左腕へ左手首を折ることでトライマグナムをセットして構えた。
「いけぇ! ブレイズバスター!!」
『ろろろ……こんな所で私が負けるわけにはいかないだに! ロッカクルーザー!!』
真紅の光が地面へ倒れたヤブサメーへ放たれると同時に、上部からは黒い人影が空中へ脱出しようとする姿がシンの目に入った。直撃を受けてヤブサメーが爆破四散してもシックスは既に空中へ逃げ延びていた。
「おのれ……逃げやがって!」
『うるさいだに! どっちにしろお前らを倒そうとする刺客がもう一人いるんだに!!』
「何……!!」
ブレイズバスターを情けなく逃げようとするシックスへ放とうとするシンだが、彼の言葉に攻撃の手が鈍る。そんなシンに対しミツキが彼に手を添えた。
「シンさん。本当かどうかは分かりませんが、もし本当だったらここで無暗にエネルギーを使うべきではありません」
「……」
「本当なら備えあれば憂いなし、偽りにしろあのような能力に疑問符がつくようなサムライドは私の計算では、何時でも倒すことが出来ると考えています」
「なるほど!」
シンは指を鳴らしてブレイズバスター状態の左腕を解いてシックスを見逃すことを選んだ。シックス本人には聞こえたか聞こえていないかは分からないが、どちらにしても彼にとっては気の毒な話だろう。
「それよりもう一人の刺客がいるとは。あのクーガさんは大丈夫でしょうか」
「……」
シックスのあの言葉は真か偽かは分からない。だがもし刺客がクーガを狙っているのならば……あの男は現実をまだ理解していないのかもしれない。仮に自分が助けても自分を敵とみなす男なのかもしれない。だがこのままその刺客をのさばらせていいのだろうか。やはり三光同盟に対抗する男であるのならば、このまま黙って見ている訳にはいかないだろう。
「!!」
シンは駆けた。彼を動かす理由はクーガが気がかりな為か、または三光同盟を許さない為か。急ぐシンの運命は、そして一人去るクーガの安否は、シックスが言い残したもう一人の刺客とは……!!
続く
次回予告
「戻らない過去を信じた先には何があった。師の教えは現実を前に挫折の時を迎えるのか? だがクーガ、お前への教えは形を変えて貫かれる場合もある。味方に敵を見出したならば、お前は敵に味方を見出すのだ!」
次回機神旋風サムライド、「起て不動の砲撃主!標的はステルスだ!!」
見えない標的を破る時は今だ!ライド・オン!!