第2幕 銃声よ!過去を断て!!
『何っ!? スンプー国でそこまでやっただと!』
『まぁね。あそこのサムライドは指揮上手だけど、ただそれだけ。1対1の戦いに持ち込めば俺が負ける 要素が見つからないってわけ! へへ』
兜と鎧に身を纏い、外装によって威厳を得た男に対し、シンは笑いながら軽く返事をする。
その地は先ほどの荒廃した都市とは違い瓦礫などの建築物の残骸が一つたりとも存在しない。そこに多勢の量産型兵器が列を組んで並び、何人かの人影がかすかに見える。
もっと見渡せば、東には外部からの侵入を阻むような鉄の扉と壁が囲み、西を見れば宮殿がそびえたつ。少なくともこの地はついこの間の、または今の日本の姿ではなかった。
『馬鹿者がぁ!』
『!!』
報告を済ませると、男は頭に火がついたように怒号を発し、シンの顔が呆れと怒りがかすかに入り混じる表情になる。
『シンキ・ヨースト、貴様の使命はスンプー国の旧トトエ領の偵察! それなのに、相手のサムライドを 手討ちにするとは……』
『いいじゃねぇか! 俺は任務をこなした! ほらよ、これがお目当ての情報だ!!』
シンにとっては上司からの怒号に納得がいかない。半分怒りながら、自分の左手から一枚のデータカードが取り出し、それをその男に軽く投げるようにして渡す。
『戦場でもサムライドを破壊することはそうそう簡単じゃねぇ! 俺は隠密行動用に開発されたサムライ ド。物見で済むような仕事はもちろん、やれる限りの仕事をこなすのが俺のポリシーなんでね! 相手 が弱けりゃあそれがチャンスってこと!』
少しやけになった感じで威張り散らすシン。だが彼の誇らしげな顔を右からの衝撃が襲いかかり、思わず赤みが走った頬を彼は抑えた。
『黙れシン! 貴様の行動は抜け駆けそのもの! 下手したら我が軍の指揮統制に支障が来るものだ ぞ!』
『それ、俺が手柄を横取りしたような言い方じゃん! みんな仲良く一歩の考えが一人の百歩を許さない ってナンセンスすぎないか、ミマサーカさんよぉ!!』
シンの皮肉にミマサーカと呼ばれた男、そうサムライドの表情がゆがみ、それと同時に周囲で二人を見ていた人、いやサムライド達がぼそぼそと話し始めた。
『俺は諜報・隠密担当だからよぉ。あんたらの軍団にちょっちょと口を出せないけどなぁ、もし俺があん たのポジションなら、部下のやりたいようにやらせて……結果ですべてを決めるけどな!』
『ぐぐぐ……エンド国は貴様のポジションに力を入れているからってなぁ調子に乗るのもほどほどにし ろ!』
『落ち着けミマサーカ殿!』
『離せゴンロック! わしを小馬鹿にするような生意気小僧など……』
『落ち着くのはミマサーカ殿ですよ!』
『そうですよ! シンは確かに生意気ですけど実力は本物ですよ! 彼を処断することは自滅を招きます よ!!』
去ろうとするシンの言葉に対しミマサーカは顔を赤くして、腰の太刀を抜く。この行動にあわてて周囲から何人かのサムライドが取り押さえる。
『ええい、貴様のような自分が完璧だと思っている奴が軍を乱す! 統率する力がないからお前はノーブ ル様に我がサムライド軍団長の座を取られたのだぞ!!』
『何っ!?』
『あぁ貴様は軍団長争いに敗れたうつけだ! ポジションのない貴様の受け皿として今のポジションが与 えられた癖に!!』
『野郎、好き勝手事言いやがって……』
ミマサーカの暴言がシンの歩みを止め、左ホルスターに手を添えて振り向く。その際の彼は、目頭を歪ませ、ぐぐっとミマサーカを睨みつけた。
だが、首を横に振り、グリップを構えた左手を離したその際、彼は瞼を強引に卸して歯を食いしばりながら、嘲笑するミマサーカに後頭部を向けることでシンは耐えた。
『へっ! お前に軍団長が務まるのは100年早いわ!!』
後姿を見せるシンにミマサーカの笑いが飛ぶ。それにつられるようにぎこちない笑みが、数の暴力ともいえる嘲笑になる。目には見えない豪雨を背に受けるように、シンは一人その場を離れる。視界にとらえられない壁がシンを孤立させていた……。
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『ちくしょう……ちくしょう……!』
空に銃声が何度も鳴り響く。一人スクラップの山で、トライマグナムが火を噴く。
『結果が完璧すぎてかえって憎まれる結果ですね。皮肉なものです』
『……ミツキ!』
スクラップが背を任せた壁からミツキが飛び降りて軽く着地を決める。その際彼女は相変わらず無表情のままだ。
『シンさん。あなたは別働隊といえエンド国サムライド軍団の一人。もう少し協調性を……』
早速シンをダメ出しするミツキだが、彼は素っ気なくひたすらトリガーを引き続ける。その際の彼は自分の誇り、志が歪曲されないよう、他人の介入を無視するかのように耳を傾けていない。
『……どうやら無理のようですね』
『まぁな……あんな大したことなく過去の戦歴を威張り散らかす奴に頭を下げてまで協力するもんか!』
半ば諦めのニュアンスを含んだミツキの声を聞くと、シンはようやく耳を傾け、彼女に顔を向ける。
『俺が完璧とかじゃなくて当たり前のことなんだ!! 指揮官を倒せばそれだけ戦いが有利になるだ ろ!? 皆がダメなやつの足並みに合わせてもたついているより、皆が周りを気にしないで全力を出し た方が強くなるんだ!!』
シンがスライドマガジンを戻して、ホルスターにトライマグナムをしまう途端、口からのマシンガンがミツキに放たれる。最も耳を塞いだり、顔を傾けたり、反論したりしない彼女にとって精神的にも肉体的にも痛くも痒くもないようだが。
『それがわからない、いやわかってるからしない奴なんてダメな奴以下なんだ!!』
『新しい方法の普遍化により自分の地位を恐れ、古い威光で新しい方法を否定する……そういうことです ね』
『……よくわからないけどそうだ!!』
『まぁ理解しているかどうかは分かりませんが、確かにシンさんの言っている事には一理あります』
『……』
ミツキの言葉がシンの表情から血気を抜かせる。これで冷静さを取り戻したかのように彼の表情は平常の様子に戻った。
『私が見る限りではあなたのサムライド軍団も磨けば光る原石のようなサムライドがいます。磨く機会が 訪れないからその他大勢に埋もれてしまう。他所のものながら私ももったいないことだと思います』
『だろ? そうだろ? 俺だったらそこらへんに転がりまくってるありったけの原石み~んなダイヤモン ドにしてやるよ! 俺にはその自信があるね!』
(さすがにそんな所にそこまでたくさん原石が転がっているとは思いませんし、原石が全てダイヤモンド だとは限らないですが)
調子を戻したのか、果ては乗っているのかわからないが、そこらへんの小石に指をさしながら自信満々で言い張るシンに対し、ミツキは鉄仮面のような無表情の裏に色々突っ込みたい事を呟く。
『あんな頭の固い奴らに祭り上げられたノーブルはおそらく調子に乗ってお山のてっぺんで威張り腐って る!! まぁ確かに俺は個々の戦いはお得意だが、でかい戦いの指揮には自信ないし、正直認めたくな いけどあいつの方が凄い!』
『はい』
早速自分の説を唱えようとすれば、ミツキから空気を読めない一言が強烈な一撃となってシンをよろけさせる。彼女の放った精神攻撃は確信犯的な行為かまたは天然であろうか。その件については彼女にしか分からないだろう。
『……そこで即答するなよ、自分を下げて相手を持ち上げている所での追い打ちは結構痛いぜ』
『ごめんなさい。ですがこの場合は私が異を唱えるよりも……』
『あぁもう。難しい事言われても分からねぇよ。それはそうとノーブルについて俺が思うにはあいつ以上の指揮 官は何人でもいるはずだ!!』
『確かに。実際他の国々にそのノーブルさんより指揮能力の高いサムライドはちらほらいます。ですが、 そんな方より指揮官に不向きだと自嘲するシンさんは軍団をどうするつもりですか?』
『俺か? へへっ……』
シンは鼻元を軽くこすり空を見上げる。その空は雲ひとつない晴天。彼の表情も憂いも迷いも悔いもない。
『俺がリーダーになったら使えない奴は誰であろうと切り捨てる! そして使える奴は誰でも自由にあの 空へ羽ばたかせる! そうしたらもっと強くなれるし皆を守れるはずなんだ!!』
『なるほど……』
日射しがシンの顔を照らす。まるで彼の心情を代弁しているような姿にミツキは感慨深くぼそっと呟き首をうなずかせる。
『シンさん。指揮能力の有無と未来の軍団に関しての明確なビジョンは関係するとは限らない。これが今 回の件で得た私の答えです』
『……良くわからないけどそれって誉めてるのか?』
『是か否かはあなたに任せます。ただあなたにも解り易く言葉を噛み砕けば、まぁバカでもバカなりに考 えているということでしょう』
『……バカにしているじゃねぇか!』
シンが突っ込むと同時にミツキが軽く後方へジャンプ。軽やかに壁の上に立つ。
『おっと、火に油を注いだら逃げないといけません。ですがシンさん、他所者ながらもあなたの意見はま んざら間違っていないものだと私は思います』
『おっ!?』
下手したら爆発しそうなさっきの状況から一転。軽く賞賛すればシンは表情を思いっきり快晴に変える。コロコロ表情を変える彼へミツキは軽くため息をついてこれからの言葉を発する準備を行う。
『ですがシンさん。新しい考えが理解されるには相応な困難を要するもの。まったく新しい世界でない限 りすんなり理解されるようなものではありません』
『うっ……』
『おっと、私もそろそろ行かないといけないですね。軍団評定開始時刻までそう時間がありませんので』
「ちょ、ちょっとミツキ! 俺にはまだ聞きたい事が……」
壁を越えて帰還しようとするミツキをシンは追う。だが彼女の姿が視界から徐々に消え失せ、それどころか彼を辺り一面が真っ白な光に包まれていき、意識が急速に薄れて闇へと飲み込まれていった。
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「おわっ……ってあれ!?」
目を開けた先にはミツキ、それに先ほど出会った秀一郎と徳剛の顔が映る。
「どうやら目が覚めたようですねシンさん」
「ミツキ! ここは……ここは!?」
「ここは俺の非常拠点。あんたは意識を失ったままその蝶みたいなマシンに運ばれて」
「そこのミツキとかいうサムライドに導かれるように此処まで来てずっと眠っていたんだよ」
「ずっと眠っていた?」
「はい。こんな例ありませんが……おそらくサムライドは長期間の睡眠から目を覚まして間もない時に、 まだ安定していない状態で激戦を交えたことから気を失ってしまったものだと思われます」
「そうなのか?」
「はい。ただしあくまでもこれは私の推論によるもので、正論かどうかはわからないです」
自分にとって不慣れな事態に腕を組みながら考えるシン。ただでさえ分からない事だらけの世界にますます理解の出来ないことが重なり、正直容量が小さい彼の頭脳では理解することが出来るか、他人からしてもどうか激しく不安である。
「な、なぁ。あんたたちいったい何者なんだ?」
「?」
そこに秀一郎が疑問を持って意見する。彼の眼にはなぞへの興味と疑問、そして恐れと入り混じった感情が、やや恐れをもって接する姿から解った。
「そういえばそうだ、確かに俺も気になるな」
「あぁ。こいつらを助けたからって信頼していないしな」
「他の非常拠点ではサムライドが用心棒になっているところもあるけどなぁ。逆に支配する奴らもいるか ら……」
「ほぉ……」
人々たちの不安の声にミツキは目を閉じながら耳を傾ける。そしてある事を想い彼女は一歩前に踏み出た。
「確かにあなたへ説明をしないといけないですね。あの時は戦いが激しかったので先延ばしにしていまし たが、今はもう延期する理由がないので話しましょう」
人々の要望にこたえるかのようにミツキが目を開ければ、誰が好んだ訳でもないのに暫く静粛が空間を支配する。まるでこれから語られる内容を物語るかのような静けさである。
「……はい。遥か昔にビーグネイムという大陸がこの地球にありました。今から言うならば、そうです ね。大体2万年前ですね……」
ミツキが軽く説明を始めると、一気に人々が動揺したり、どよめき合ったりしている。本人も彼らにトンチンカンで無茶苦茶な内容を行ってしまったのではないかと自覚はしていた模様である。
「あれ、ミツキ。お前の言っている事間違いじゃないよな?」
「いや、間違いじゃないかもしれないけれど証拠がないから……」
「な、何かのSF小説や漫画でよく見た展開だけど……まんざら現実にあるとは」
「そ、そうだ! その話は結構ぶっ飛んでいるよ!」
その事実を知るシンが念のためにミツキに問おうとするが、彼女へ向けられる人々から戸惑いの声がミツキを埋め尽くす。
確かに2万年前の話を、しかも証拠が一つもないお伽噺やファンタジーの一種と勘違いされそうな内容の話をされても信頼を得るかどうかは微妙な所だ。
「確かに物的証拠がないと信頼を得ることは難しいですね。ですがこの件に関しては確固たる信頼を得る 事はほぼ不可能です」
「不、不可能!? どういうことだよ! 俺達ビーグネイム大陸で生まれてきたのは事実だぜ!」
「外野は少し黙ってください」
「なっ! 外野ってどういうことだよ!! 俺、間違ったこと言ってねぇのに!!」
「まぁ落ち着いてください。物的証拠を提示する事も可能ですが、この世界ではビーグネイム大陸の存在 自体がついさっきまで知られていないもの。それで物的証拠を見せても信頼を得られるとは思いませ ん。論より証拠というこの世界の言葉がありますが、論自体がつい先ほど私が提唱したばかりの脆弱な 存在。証拠を見せて理解しろとはこの方々に無茶な話です」
「む……むぅ、良くわからないけど事実を信じてもらえない訳なのか? この人達には」
「仕方ない事です。私たちサムライドとは違い瞬時大局把握能力が人間にはないのですから」
外で納得がいかないシンに色々とミツキが説明することで言いくるめさせる。それからしばらく彼が腕を組んで思考に更けるが、彼女は気にせず話を再開する。
「失礼しました。これからの話を信じるか信じないかは貴方達に任せます」
人々に向けてミツキが会話を再開し断りを入れるが、彼らは留まる事を選んだ。たとえ真実か偽かわからないが、彼らは非常拠点の危機を救った存在で自分達の救世主かもしれない。非凡な能力を持つ彼らの話に耳を傾ける事も悪くないと思ったからか。
「さて、ビーグネイム大陸の国々はこの世界の国家よりも遥かに優れた技術を保有していました。ですが 優れた技術はエゴにより争いの力に利用されてしまう要素。実際にその技術を駆使して、国々は多々の 目的あれど隣国との争いを繰り広げる事になり、大陸は戦火に包まれたのです」
「……何か世界大戦みたいな感じだな……」
「ええ。その意見は非常に的確だと私は思います」
秀一郎の言葉に対し、ミツキは彼女なりに肯定的な返事をする。
「ビーグネイム大陸の争いは最初殆どの国々が戦争は人間の営みと考えていて有人兵器を運用していたも のですが、その国々が有人兵器に匹敵する無人兵器を完成させると一気にその量産型無人兵器が各指揮 官に率いられる形で戦争が行われるようになります。このような例を端的に表せば質より量で、質を求 める非難の声があがりますが、有人兵器と無人兵器の力関係がほぼ互角ですと後者を運用し戦いを人々 は選ぶものです。そうですよね?」
「ええ!?」
「出来る事なら早くお願いします。こうゆっくりと話す時間もないのですから。もし貴方が国を率いる立 場なら同じ能力を持つ有人兵器と無人兵器。どちらを運用して貴方は戦いますか?」
ミツキは暫く歴史を述べると徳剛に返事を求める。唐突な質問に彼が戸惑うが彼女に待ったの言葉は通用しないようで、静かな表情からは答えの催促を促している事が見て取れた。
「急いでください。どちらを選んでも私は怒るつもりはありませんし、ましてこの非常拠点をどうしよう かとも全く考えていません。私が擁するのは話を円滑に行うために必要なスピードなのです」
「ええ、そう言われると特に考えてないけど俺は無人兵器かな。当たり前だけど犠牲は出したくないし な……って俺は間違っていないよな?」
徳剛は何故か腰を抜かしながら、右手を前に振って助命を懇願するような姿勢を取る。
「何故ここまで? この世界では余程私たちは忌み嫌われる存在ですね」
「いや、そのつもりはないけどさ……」
秀一郎と徳剛はミツキの戦いを目にしている。彼らはともかく、まだ彼女がどのような存在か分からない今信じろと言う方が酷だろう。
「おかしいなぁ。ちょっと前ばかりは俺達歓迎される存在だったのになあ……」
(2万年前をちょっとまえと言うとは)
「あれ、どうしたミツキ。俺まずいこと言ったか?」
「いや……(やはり未知の存在に人間は敏感に恐れを出してしまうもの。この恐れを解くために私たちの 存在意義を明白にしないといけませんね)」
覚醒して間もないせいかシンの言動はミツキにとって常識知らずの発言だろう。今後の事を考えつつ彼女は何事もないようなそぶりを見せた。
「このとおり一般の人間なら後者を優先します。その理由は犠牲を出したくないから。いわばローリスク ハイリターンの考えに当てはまります。その無人兵器の方針の極みとして彼らに指揮官に相応しい頭脳 を与えることで、他の兵器を統率し、またさらに圧倒的な戦闘能力を持って敵陣へ斬り込む事も出来 る。いわば司令官と切り込み隊長を併せ持った兵器を開発したくなるものです」
「そ、そう! それがお……」
「だから外野は黙っていてください。ローリスクからノーリスク。戦争から人間の直接介入を切り離す為 に東西南北の科学者たちが考慮を重ねた結果が……」
ミツキの話の内容にピンときたシンが真っ先に説明を担当しようとするが、彼女に口を塞がれてしまう。そしてしばらくの間をおいて彼女は自分を指さすことで、人々に話の答えを無言で伝える。
「あんた……やっぱり」
「まともな人間じゃないなかったのか!」
「はい。機械の身体能力に人の頭脳。私やそこのシンさんのように国が総力を挙げて開発して生まれた存 在。それが”サムライド”と呼称される自律型決戦兵器なのです」
「自律型……決戦兵器」
「よく漫画で見た人造人間とかそんな存在なのか……」
「人造人間かもしれません。私の言っていることからすれば人造人間の性質も当てはまりますが、そうと は言い切れません。そうですね……シンさん。ちょっと来てください」
「んっ?」
ミツキがシンを呼ぶと彼はよくわからない顔でこちらへ向かう。そして、
「はっ!」
「なっ!!」
突然ミツキがキキョウを持って彼の元へ踏み出る。慌てて後方へよけるシンだが、余りにもいきなりだったせいもあり彼の表情から僅かな紅い血が一筋飛び交うところが完全によけきれなかったようだ。
「あぶねぇじゃねぇか! どういうつもりだ!!」
「すみません。ですがこうでもしないと私達サムライドが単に人造人間の類ではないと思いましてね。シ ンさん、腕を外してこっちへ渡してください」
「腕をだと!? おいおいどうするつもりか説明してくれよ!!」
「これはサムライドが人造人間でもある事を証明するためです」
「……イマイチよくわからないけど、えぇいアームパージ!!」
今一つ理解が出来ないが、シンの腕をはずして見せる。腕と肩の連結部にはグレーのメカニズムが見え、血の一滴もない。
「……」
腕が外れた姿を見せると、人々の顔が一変する。彼らは青ざめ、卒倒する者もいればどよめく者もいる。
「何驚いてるんだ……これ俺たちにとっては当たり前なのに」
「……環境が違うのです。それはそうと、この通りサムライドは機械の体の一方、血もたぎる存在。単な る機械でも人でもない存在なのです……」
「機械でもなく……」
「人でもない……」
「そうです。私たちは単なる機械でも人でもありません。サムライドはサムライドとしか括る事が出来ま せん。私も生まれた記憶や誕生の経緯を聞かされていないのでわかりませんが、ただ戦う宿命を背負っ て生を受けた存在なのです。人とほぼ同じ頭脳は人と同じ考えが出来るのですが、圧倒的な戦闘能力 が、国を背負った責任感と戦いに生きる存在意義が私たちにごく普通の生活を許してくれないのです」
サムライドであるミツキの口から告げられる事情は、それ相応なりに深刻かつ悲壮なものでもある、だが、そこは人と機械のあいまいな境界線に位置するサムライド故か、表情からは彼女の真意がつかみとれないだろう。
「俺は好きだぜ? 強い奴と戦うと、生きがいを感じるしね!」
「とまあ私たちはある程度好戦的な傾向に脳を調整されているようですしね。何せ戦うための宿命を背負 った私達ですから一に闘争心、二に闘争心。三、四がなくて後に闘争心なのでしょう」
ミツキがシンを指さしてから、半分自分達の存在を自嘲気味に告げる。闘争本能を操作されて生まれたのが自分たちであるのだが、彼女の平然とした様子を見れば単にそうとは言い切れない部分が、人としての一面を持つ故の奥深さなのか。
「ねぇ戦う理由って何なの~?」
「こらっ! あのような方の心に触れるような質問してはいけないでしょ!!」
そんなシリアスな空気で、まだ幼い子供が質問をする。その保護者らしき人物が彼を窘めるのだが、おそらくよからぬ事を聞いてしまい、自分達が大変な事になってしまうと思ったのか。
だがミツキは全くその気はないようで、それどころか子供に微かに微笑んで説明をする。
「大丈夫です。私にその気は全くありません。戦う宿命とはある者は国の、または自分のエゴを満たす 為、またある者は国の誇りを背負って、そしてある者は国の皆さんを守り抜くため、殆どのサムライド が譲れない想いを賭けて戦う宿命に身を投じているのです……おっと、随分長くなってしまいました ね。後半の件について説明しましょう」
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「そんなビーグネイム大陸ですが、天変地異が私たちの大陸を襲いました。優れた技術でもどうしようも ない規模でしたので、なす術もなく各国々は私達サムライド達を連れて避難を始めました。そこに選ん だ新大陸が、ちょうどこちらに接近していた日本大陸です」
「日本大陸!」
「何でそのような所を選んだ!?」
「はい。ここからは私は眠らされていたので覚えがないのですが、この日本列島を新天地として再び各国 が戦いを続ける場に選んだと聞いた……いえ、説があります」
日本列島の件に関してミツキは少しごまかしを入れて説明を続ける。やや危うい誤魔化しようだが、シンも秀一郎を始めとする聴衆も聞いていなかったのか特に追及される事はないような様子だ。
「本来ならば私たちと脱出に成功した人々により、日本大陸に新国家を形成されるはずでしたが……ビー グネイムの民は滅びました」
「ええっ? いや確かにこの大陸はビーグネイムじゃないけど、滅びたまでは……」
「……」
ミツキの言葉に対しシンは思わず驚いてしまう。それに対し彼女はややうつむいた表情をしている。
「シンさん、それに皆さん。これは一説ですがビーグネイムの民は……いいですか、この話は貴方達にと って刺激が強いと思われます。子供たちを下がらせる事を進めておきます」
「早くしてくれよミツキ! そういう訳か気になるし!!」
「いえ、頼みますから外野は本当に少し黙っていてください」
ショッキングな内容に落ち着きが取れないシンだが、ミツキはまだ話さない。何せまだ何も事情を知らない幼い子供たちがそこにいるのだから。彼らに話すのにはきつく、残酷な内容だから。それで断りを入れる所は彼女の人としての良心なのかもしれない。
「では話す事にしましょう。これを話す事は少々胸が痛みますが、貴方達が狙われる理由の一つですか ら」
そして、子供たちがその場から離れるとミツキの口は開いた。鉄のような無感覚な表情からはこれからの暗雲を予感するような禍々しい雰囲気が漂う。彼らはそれを察知したかのような硬い表情しかない。
「ビーグネイムの民はまだ何も知らない原住民。つまりあなたたち日本人のルーツになったソロニスト人 によって虐殺されてしまいました……」
「……!!」
一瞬にして、非常拠点へ静粛を現すような風が流れた。だがミツキの懐から日記帳らしき書類を取り出し、そのページを開くと雑誌からセピア色の映像が流れ、まだ語り継がれていた粗末な衣装の男たちに石鏃で貫かれ、石斧で脳天から叩き割られる姿。冷酷な映像に人々の目は必ず避けられる。
「ひでぇ……ミツキ、これ……」
「ええシンさん。これがある限りその説が正しいのではないかと思います。皆さん、これはビーグネイム の民が書き記したホログラムメモ。信じるか否かは貴方達に任せますが……ここに子供を連れてこなく て正解でした」
「あぁ酷いな……しかし、あんた達を作った人間が何故こうも簡単に」
「いや有りうるかも知れないぞ」
ビーグネイムの民が無残にも虐殺される姿に秀一郎は戸惑いながらも疑問を感じた。またそれとは別に徳剛には想うところがある。
「縄文人の祖先ともいえるソロニスト。あのソロニストは皆が必死に生きる為に天才を始めとする幾多の 困難に己の力で切り開いた。それに対しミツキの聞いた話だとビーグネイム人はその優れた英知が帰っ て怠惰させてしまう結果を作った……」
「なかなか鋭いところを突きますね貴方」
徳剛の的を射た発言に彼女なりにミツキは褒めた。そして彼女は聴衆へ顔を向けている。
「優れた英知を持つ非力な存在は、無知ですが強力な存在に淘汰されてしまうもの。ビーグネイムの民は 新たなる国家の建立、発展を経た際戦の機会を得ずに彼らに滅ぼされ、これによりその時まで一時封印 されてきた私たちサムライドは二万年という長い年月を眠る事になりました」
この言葉と共にホログラムメモはたたまれ、懐へ再びしまわれる。だが彼女の言葉はまだ悲惨な物語の入り口にすぎない。動揺する人々をよそにミツキは淡々と続きを口にしようとしたが、
「おい、ちょっとあんた!!」
「どこ行くんだい!!」
シンは駆けた。何も言わないで真後ろを見せながら何処かへ消えた。市民が止めようとするのも彼には通じていない模様だ。
(さすがのシンさんでもこれは堪えましたか……)
ミツキはシンを気遣うように彼に憂いのニュアンスを込めた表情を見せたが、すぐさまいつもの表情に戻る。
「さて、それから二万年の時が流れ貴方達が巻き込まれた戦火の中で私たちは目覚めました。ですがこの ビーグネイムの民に訪れた悲劇を知っている者は私のほかにいるようです……」
再び発せられたミツキの言葉に人々の恐れは再び込みあがる結果になった。自分達に覚えはないがその先祖たちがやらかした負の事件から繋がる行動が思い浮かぶ。
「思い浮かぶ人も少なくないようですね。この日本を襲ったサムライド達の動機にはおそらく、貴方達を 始めとする日本人のご先祖が、サムライドにとって守るべき民を根絶やしにしてしまったこと。それに よる彼らへの報復が原因となっている者も多いでしょう」
「そんな! でも俺たちは全く覚えが……」
「覚えがなくても同胞や仲間を殺した者の血を引く者に報復する者も貴方達の同胞には少なくないでしょ う」
「……」
秀一郎の反発に対しミツキの返答が彼らを再び黙らせる結果になる。この際彼らは自分の先祖が残した負の遺産に対して彼らを呪うと同時に現状に頭を痛めている。
(最もそれはあくまでも一つの理由で、彼らサムライドの行動には色々想う所があるものです。さすがに それに関しては当の本人達に直接聞かないと真意が分からないのですが……)
動揺する人々を相変わらず冷静に見渡すミツキだが、腰の通信機に異変を感じたのか、そそくさと近辺の簡易住居に隠れた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「突然のご連絡、何か事情があるのでしょうかトダカ様、ユーサイ様」
『悪いなミツキ! お前の方はいい切り出しじゃないか』
『ふふっ。ミツキ、最初に紅蓮の風雲児を味方につけたのはセオリーというべきね』
民家の奥から通じると思われる坂へミツキは音を立てずに下り、左腰に取り付けられた無線機と思わしき機械を耳に付ける。
彼女の口から出たトダカ、ユーサイ。彼らは天で戦況を眺めているような立場。そんな彼女たちとミツキは結びついている人物であろう。
「現在、尾張の非常拠点にソルディア計1979機を配備。これを分散させれば少なくともこの愛知県を 起点にして勢力の拡大は容易なものと思われます」
『1979機か……随分と大群だな。これくらいあれば一県位を拠点にする事は容易だ』
「はい。これに関しては大群を無視して総大将でもあるマローンを粉砕したシンの活躍が大きいと思いま す。指揮系統が途絶えたソルディアは修復さえ行えば簡単にこちらの手ゴマにする事も出来ますから」
『もっともなことですね。兵力を犠牲にせずに総大将を射止めて軍を瓦解させる事は兵法の一つ。ですが それを実際にやれとなると難しいものです』
『それをやらかしたのが紅蓮の風雲児シンキ・ヨーストということだな』
「はい。この勢いに乗じて私としては東南の方向に進軍して愛知を自勢力下に置き、静岡へ進軍するつも りです」
『静岡か……東部軍団の勢力下だな』
『そうね。ですがマローンが戦死した東部軍団に見る者なし。シンがいれば東部軍団旧領を支配すること が出来るでしょう。ただ……』
ユーサイの口から順調な切り出しからの好調な展開が期待されるが、“ただ”の2文字からそう一筋縄で物語は展開されないものである。
『そうだな。お前に託した反三光同盟勢力の形成。だが相手は余りにも強大だ』
『三光同盟。瞬く間に日本列島に壊滅的打撃を叩き込み、各地の支配を開始。勢力は近畿地方と四国地方 のほぼ全域』
『それに岐阜、滋賀、石川、富山、福井……ミツキ、日本列島の地理的情報は大丈夫だな?』
「はい。地理的な見解では北西に敵のみ。このままではひとたまりもない事は私にもわかります」
『そうだ。お前の使命は三光同盟に対抗しうる勢力圏を形成する事にある。お前が目につけるべき場所は 東北、関東、甲信越……』
『三光同盟の勢力下をはさむ形で中国地方と九州地方が勢力下に屈していない事も忘れないようにね~』
先輩格のトダカ、ユーサイからは、日本列島の情勢を告げられる。この状況からすると東部がまだ敵とは限らない事がミツキにとっては救いだろう。
『あたしらが調べ上げた所、東北、関東、甲信越は特に目的もなくサムライド達が小競り合いを繰り返し ているが、その中で新潟に位置するミーシャ率いる義闘騎士団の存在と山梨が彼女のライバル・ゲンが 支配している事がポイントだ』
『眠る龍と鳳凰の雛のたとえのように彼ら二人を味方につければ天下はとったという中国の教えがありま すが……彼ら二人を味方につける事は困難。一方を回せば一方は敵だと考えるべきね』
「ミーシャさんかゲンさん……どちらにしても敵にはまわしたくない存在ですね」
『それはもっともだがおそらく難しいだろう。だがどっちかを味方に回して安心するのは馬鹿が考えるこ とだ』
「むぅ……」
どうやら東の勢力も簡単に自分の味方にできるほど一筋縄ではない。まずミーシャとゲンは実力が見事に拮抗している関係。どちらかを選べとなるとミツキも少々悩んでいる模様である。
『そのとおりです。関東、東北地方の勢力圏をこちらの陣営に引き込まなくては一方を幹部な気に潰す事 が出来ない』
「そうだ。どちらも敵に回したら勢力拡大に支障が発生する。その勢力を味方に引き入れれば、どちらか 一方を包囲して叩きつぶす事も出来る!」
「そうそう、関東地方では五強の一角ポー・ジョージィがやはり最強の筆頭。フリーのポーを仲間に引き 込むことも忘れないようにね~。ポーはサムライド屈指の防御力を誇る事もあるけど、ゲン、ミーシャ と互角の戦いを繰り広げた事も大きいよね~。互角の戦いを繰り広げったって事は相手を知っているよ うなものだからね……」
「ポー・ジョージィ。名前しか聞いていないのですがトダカ様とユーサイ様が言うからには強い存在です よね多分」
『そう考えるべきだ。昔のお前がいた場所にポーの勢力が余り届いていないが、あいつを甘く見ると即返 り討ち。難攻不落眠れる獅子と呼ばれた事はある』
『そうそう、勢力圏を挟む勢力だけど五強の一角モーリ・トライアローの率いる陰陽党が中国地方全域の 平穏を保っている事を忘れてはいけないですよ。あの方もう年だけど自勢力への侵入者を全て追い払っ ている。その中には三光同盟の者も含まれていますよ』
『あれだけの勢力圏は三光同盟に次ぐ大勢力。他勢力との介入を拒む存在だがこっちに引き込めば格段に 勢力圏の差が縮まる』
トダカ、ユーサイから語られるマローンを除く残り五強の4人。それぞれが拮抗し得る力を持ち、早期に一人でも仲間に引きこめば圧倒的に有利になる力を秘めたサムライド達であることは確かだ。
『最後に九州だけど……正直よくわからないサムライドしかいないわ~。あの頃もあまり縁がなかった し』
『パラノーマルビリーバーことリン・フランシスコと暴れ熊ことベアドラーゴの2大勢力が南端の司令官マ ーズ・グイシーの勢力を相手に戦いを繰り広げている場所が場所だけに今のところはノーマークでも結 構だろう』
「は、はぁ……」
『このうち二つの勢力を仲間に引き込めば三光同盟と五分五分の対抗勢力が完成する。それを形成するの がお前の任務だ』
『そう。たくさんの小さい”1”を一つの”1”にまとめるには余りにも長い道のり。それぞれ
の”1”を二つの大きい”1”にして互いを競わせる事が均衡を保つ事も可能でたった一つの戦いで一 つの”1”で天下統一ということなのです』
『大きい”1”による平穏……ですね』
『そうだ。大きい”1”が最も平和的な勢力の均衡を生む。そのために努力することがお前の使命だ』
「了解……」
『じゃあ、そろそろ通信を……あ、いけない!』
ミツキとの通信が終わろうとしていたが、ユーサイは何かを思い出すかのように口調が変わった。
「まだ、何かがありますかか? できることならそろそろ通信を終えたほうが機密的にも……」
『いや、下剋錠についてだが、まだ誰にも言っていないよな』
「当然です。ここで暴露すれば私の身に危険が生じます」
『分かっているようでよかったわ~。三光同盟が大陸復古も可能な力を持つ下剋錠。それを捜索する事も 戦いの一因だもんね~』
『はい。勢力を均衡した時に私の覚悟は既に決まっています。私が消えれば戦いの理由が消滅する。彼ら の最終目標が消滅したときは、三光同盟は人類への報復する理由がなくなり自然と安泰になるでしょ う……』
ミツキが自分の宿命を淡々と告げる。いつか消える宿命を背負った彼女だが、彼女の顔はほとんど変化しない。宿命をあえて受け入れているか、必死で鉄の顔を保っているかは本人しかわからない。
『お前が決意を貫くなら何も言わない。戦乱の密使として二分の大勢力を作り上げる”天下二分の計 画”を遂行して消える事がお前の宿命でもあり』
『私達の宿命でもあります。私達が求められる時代は群雄割拠のみ……』
「はい……心得ています」
『というわけだ。また何か伝えることあったらこっちから連絡するぜ』
『バイバイ~頑張ってね~』
トダカ、ユーサイからの連絡が切れ、ミツキは天へ顔を上げる。彼女は何を想ったのか。役目を終えた自分は消えないといけないという哀しい定めが何時か出会うからか……。
「いえ、まだその時までは早いですね。まだ私の使命はスタート地点に過ぎないのだから……シンさん」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……」
あれから、シンは一人、大石の上に仰向けに寝転んで空を眺める。その空は先ほどまでの青空に分厚い雲がかかっており、本来の彼の気質に曇りを指していたかのように見える。
「ビーグネイム大陸、ビーグネイム大陸の皆はここにいる人達に殺されたのか……いや、2万年前の話 だ。あの人達に罪はないんだ。1、2年はともかく2万年も時がたてば覚えていなくて当然だ」
シンが考える事は先ほどのミツキの言葉。守るべき存在が彼らの遥か遠い御先祖に殺戮された事である。彼にしては珍しく深く真剣に考えるが、それだけ重要なことである。
「いや、よく考えてみろ。あいつの言っていた話から考えたら、あのままビーグネイムの皆が国を再興し ていたら多分俺達はまた戦わなければいけない。あの古い体制の元でだ……そう考えると俺は解放され たのか、へへっ」
一瞬シンの口元がやや緩み、安堵の表情が浮かぶ。このどこかに救いを得た表情からは自分を昔の束縛から解放しているような気が少しでもした。たとえ守るべき故郷、帰る場所を失ったとしてもだ。
「いや、俺はサムライド……国の為に戦う事なしで生きていく事など出来ない宿命。国を守り、皆の幸せ を守る事が俺の戦う理由の一つ。その皆を守るために戦いに勝つ。だから俺はあの時……」
「ねぇ、お兄ちゃん何ぼーっとしてるの?」
「ん?」
「ねぇお兄ちゃん、あのお姉ちゃんが言ってたサムライドなんだよね」
シンが一人考えていた所に一人の子供が彼の袖を掴んで話しかけてきた。彼女はサムライドの背負った宿命や存在意義をおそらく分かっていないが、まだ5,6才ぐらいの子供にわかれと言う方が酷な話である。
「あのなぁ……俺はなぁ」
「お兄ちゃん魚捕るの手伝ってよ。私達が魚を取らないとみんなの夕御飯がそろわないの」
「夕ご飯……?」
シンの視線は子供の指さした方向へ向けられる。指された先の川辺には子供達が川に直接足を入れてその魚を取る事に必死だ。
彼らがまだ幼いのにもかかわらず、自然に立ち向かい明日を生きていこうとする彼らの姿は、シンにとって何かを植え付けているような気がした。
「よし、考える事は性に合わないしな。これで気がまぎれるかどうかわからないけど」
そしてシンはすくっと立ち上がり、川辺の方に向かう。
「あ、サムライドの兄ちゃん!」
「この人、魚捕るの手伝ってくれるの?」
「うん! すごい人登場~この人なら魚をたっくさん取ってくれるよ!」
「ちょっと……」
彼女がシンに過度な期待を抱いているようで、当の本人は少々戸惑い気味である。
「あのなぁ……まぁいいや」
水面に目を向けると自分の足元を泳ごうとする存在をシンは目視した。その存在は自分の足元を通過して遥か下流へ泳いで行こうとしている。だが、
「よっと……って柔らかい!」
シンが身体を真後ろに捻じるように魚を掴みとると、その柔らかさに多少驚きを見せる。その間隔は彼がいつも手にするトライマグナムを始めとする武器の数々とは比べ物にならないほど柔らかい存在だ。
「おおっ! お兄ちゃんすごい!」
「さっすが~サムライド!」
「へっ……へへ、いやぁ。まぁこんな事簡単簡単! 楽勝だぜ!!」
子供たちに褒められて、シンは多少大人げないが彼らの前に爽やかな笑いを見せる。そんな彼の元には赤と青のペアルックを来た兄弟がやってくる。
「こういう川で動く生き物を捕まえればいいんだよな俺?」
「そうそう! それが魚なんだよ」
「俺と兄ちゃん、いや皆はこうやって夕食の準備を手伝う事が仕事なんだ」
「へぇ~それが夕食ねぇ」
「サムライドのお兄ちゃん、食事した事ないの?」
「あ……まぁな……」
子供たちがきょとんとするがシンには意味が分からない。
ただ子供たちにとっても当たり前のような常識は過去の遺産でもあるサムライドにとっては当たり前の話ではない。この事を彼の小さい頭が理解できたかどうかは分からないが、とりあえず子供たちの前で後頭部を掻きながら舌を出して笑って見せた。
「まぁ俺の世界の人間たちも何か食わないと生きていけないらしいし、俺が夕食の手伝いをすれば皆が助 かるってことなのかな」
「そうそう!」
「サムライドのお兄ちゃん頼むよ!!」
「よし分かった。チェーンジ・コンバッツアーム! セットオン!」
気を良くしたシンは右腕を外して地面へ放ると、同時にどこからか別の右腕が射出される。右腕は自然と右肩と連結し、調子を確かめる為に彼は腕を多少動かす。
「おぉ! サムライドの兄ちゃんすげぇ!!」
「サムライドのお兄ちゃんって腕を交換する事が出来るんだ!」
「まぁな。全てのサムライドがそうとは限らないし、他に色々あるけど、俺は腕を交換することなど朝飯 前!!」
シンの右腕がメタリックブルーの光沢が輝くパーツへチェンジ。そのまま彼が右手を水面に向けると、彼の指先が赤く光ると同時に彼の脳内に幾多の情報が流れ込む。瞳に数々のデータがよぎる。
「これで分かったぜ……ストラングルチェーン!!」
そしてシンの右腕からチェーンが放たれた。先端のクローが勢いよく海面を滑るように走り、液体に浸らせた爪が二匹の魚を突きあげて、原型を潰さないように勢いを抑えて上部の爪が標的を挟み込む。
ワイヤーは子供達がおそらく魚を取るために用意しておいたバケツへ機動を向けてクローがはねて抵抗する標的を脱出させない程度の力で固定したままバケツの中に放り込む。合間に左腕のチェーンが標的を捜索、捕獲を行い、自由になった右腕のチェーンがまた標的を探す。
「す、すげぇ……あんな便利な釣り竿なかったよ」
「さすがサムライドの兄ちゃんだ、おいバケツだよ! バケツ」
「うん! 早くしないと一杯になっちゃうよ。ってこの川に魚がいなくなっちゃうような……」
子供たちの共通する感情は驚きの感情である。兄弟を始めとする子供達が慌ててバケツを用意するが、何個ものバケツ全てが魚がいっぱいになってしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うひゃあ。すごいなぁ! こんだけあったら食事に困らないよ!」
「ありがとう、サムライドのお兄ちゃん!」
「凄い味方がやってきた感じだねぇ」
シンの元に何人かの子供達が囲むようにして帰路を急ぐ。子供たちに囲まれて褒められることは大陸時代でもあったはあった。だがそれは自分が見せる戦いの強さに惹かれているのであって、戦闘面以外で自分に惹かれる者達の存在は彼にとって新鮮に感じ、自然と表情がに焼ける。
「俺が味方って……それはそうとお前達こんな魚をいつも手で取ってるのか?」
「うんそうだよ! そうしないと夕飯作れないし!」
「でもこれだけじゃないんだよ。壊れた家を直さないといけないし、薪を取って風呂を焚かないといけな いし、洗濯もしないといけないし……」
「へぇ……えーと、この世界では家事に当てはまることで……大陸の皆も生きる為に頑張って来たから」
子供たちの姿を見て、シンがこめかみに手を当てて考えると、自分の脳に埋め込まれた記憶を引き出して、大陸時代と現代の人々を照らし合わせる。その内容は過去も今も関係なかった。
「お前達、どうしてそこまで……」
「そこまで? そりゃだって生活しないといけないもん」
「そうそう! お父さんが言ってたよ。今は皆と力を合わせて頑張らないといけないんだ。生活も戦い も」
「私もここで生活したいから一緒に頑張るもん」
「やっぱり……」
けがれない瞳で無意識のうちに語られる子供たちの決意。過去を振り返る中でシン達にとって守るべき存在と彼らはほぼ同類だと気付いたようだ。
「そうか……そうだよな」
「サムライドのお兄ちゃん、何か言った?」
「いや何でもないさ。何でも。なははははは」
子供に問われてとっさに本心を隠すシンは彼らの前で笑って自分の元気をアピールする。
(俺たちサムライドは敵対国という存在を前に懸命に生きようとする皆の明日を守って来た。この今も三 光同盟からこいつらは懸命に生きようとしているんだ。遠い御先祖がビーグネイムの皆を虐 殺しているかもしれないけれど……それでも、それでもだ!!)
本心を隠してシンは何事もなかったように明るく振る舞う。だが、先ほどと同じ作った笑顔も、先ほどまでの表情と比べると質が違う。今の表情は前よりも幾分か自然に笑顔が作られていた。
「そうそう、サムライドの兄ちゃん。折角だしさ、皆が夕飯を作っている間に歓迎会開こうよ!」
「歓迎会……?」
シンは良く分からない歓迎会の理由を抱いてキョトンとした表情で首をかしげる。だが当の兄弟は彼の腕を引っ張って早く帰る事を催促している。
「サッカー対決だよ! サムライドのお兄ちゃんと僕たちサッカーチームの試合でお兄ちゃんがどれだけ 凄いか見てみたいんだ!」
「サッカー? はて……」
サッカーとの単語は大陸時代に存在していなかったのだろう。瞬間大局把握装置の効果があっても、単語の意味を知らなければよくわからない意味の単語を一つ知っただけにすぎないのだ。
「サッカーってボールをけって相手のゴールにいれるスポーツなの。足しか使っちゃだめなスポーツなの よ」
「なるほど……足でボールを蹴って、ゴールという所にボールを入れればいいスポーツと」
一人の少女によって、シンの脳にはサッカーという現代の単語が内容と共に記憶された。彼は軽く指を鳴らして理解を子供たちに示すしぐさをした。
「そうそう。そこの隆君と力君はこの非常拠点で一番サッカーが上手な兄弟なの」
「へぇ~兄弟……!?」
兄弟。何気ない会話からの一単語がシンの脳に深く引っかかった。兄弟、兄弟、兄弟……。その単語と意味が自分の脳から仮眠を取っていた記憶を呼び覚まし、彼を憂鬱の二文字へと叩き落とそうとし出した。
「兄弟同士はなんだかんだと仲が良くて息の合ったプレイをするとか父ちゃんが言ってたんだよな~」
「いいよな~兄弟って」
「……」
二人の兄弟は仲良しで羨ましがられる要素だと子供たちは言うが、シンにとっては何故か心地よい意味にはならない。それどころか、彼が思い出したくもない厄介な存在しか頭に思い浮かばないのだ。
「兄弟……」
ぼそっと呟いてシンが空を見上げれば、黒い影が上空をよぎる所を見た。鳥かと考えていたが、空に聞こえる微かな機械音から確信を持って叫んだ。
「伏せろ!!」
「ええ!?」
「な、なんでお兄ちゃん!!」
「いいから伏せろ、または隠れろ! でないと殺されるぞ!!」
事情が分からずに戸惑う子供達だが、今のシンに説明する余裕はなかった。そして本人が身を転がせると橙に光る光弾が彼を追うかのように地面へ撃ち込まれた。
「トライマグナムオプション! パーツ1、3!!」
地面を転がる中でシンは己の左腕からパーツを引っ張り出して、即座にトライマグナムに連結させる。そして襲いかかる上空の存在に向き合った状態で彼のトライライフルが放たれる。
何度も上空に銃声が鳴った。空を見れば既に敵はいない。爆破して四散したか墜落したかだ。だが後者の存在にシンは気付いた。墜落していく機体の先には彼の言いつけを守って地面に伏せた子供達がいるのだ。
「やべっ弾がねぇ!! こいつで壊せるかどうかわからないが……!!」
先ほどの撃墜において弾を使いつくした事に気付いた。少しでもマグナムの合体時間を短縮するために、トライボンバーの合体を省略していた。
トライボンバーを連結させる及び、ノーマルマガジンを装填する事も考えられたが、無力の子供に迫る危機とその時間を考えると装填時間が無駄だと思ったのだ。たとえその時間がごく微々たるものでもだ。
「ダイヤモンド・クロス!」
シンは両肩からのクナイを手にして、墜落する機体へ投げつける。次に別のダイヤモンド・クロスを連結させたダイヤモンド・カッターを片手に彼は飛んだ。
先に放ったダイヤモンド・クロスが特に脆いと思われる機体箇所を貫通した事により、塊が2、3に千切れるように砕かれる。その頃には既にシンが機体前に到着し、ダイヤモンド・カッターをバットのように振るって機体の一片を地面へ、川辺へと人気のない場所へ飛ばし、着地して子供たちに降り注ぐように落ちる残骸に対して、ダイヤモンド・カッターを頭上で振り回すことで残骸を微塵に化した。
「何とかなったか……もういいぞ、大丈夫か!」
「ううっ……怖かったよ! 怖かったよ!」
「危ないところだったよ! サムライドのお兄ちゃん!!」
襲撃が終わったと同時にシンから子供達を気遣う言葉をかける。起き上った子供たちは一気に恐れの感情を噴出させて頼れる兄のような男の元に泣きついてきたので、彼は自然と彼らの背中をさすり恐怖を紛らわせる。
「あの野郎……下手したら大惨事だったのによ!!」
微かな機械音にシンの怒りの矛先が向けられた。標的は討ち漏らしたことで生を得て、危機から逃れようと退散する先ほどの機体だ。
「皆離れてくれ! スピニングブリザード!!」
「……」
シンが放つ只ならぬ殺気を感づいて一斉にはなれる子供達。そして天に掲げられた右腕からは白の渦が巻き起こり、標的を逃がすことなく瞬時に凍結させた。
「ストラングルチェーン!!」
標的が凍結させて沈黙した事を確認したシンは、すぐに右手の甲からクローが放たれ、機体を掴みとる。そのままゆっくり落ちていく機体に彼は右手を機体に突き刺す。
このコンバッツアームの手を敵へ貫く事はシンにとって相手、倒すべき存在を知る為の行為である。
「まさか……ここから南東にあいつがいるってわけか……」
思わぬ敵の存在に心が動くシンだが、それよりも、何も知らない子供たちを巻き込んだ敵への怒りがシンの心を包む。その負の感情を消すには、子供たちを恐れされる大元を消し去り、恐怖に包みこまれてしまった子供達の心を少しでも晴らさないといけない気がした。
「カモン・バタフライザー! ラーイド・オン!!」
シンの叫びと同時に北東の方角からバタフライザーが迫り、彼が乗り込み南西の方格へ駆けた。
「……ノーブル・ユーキ! お前がそうするのなら、俺はやるぞ!!」
シンは急いだ。ノーブル・ユーキという名の許せない存在が自分の進路にいるのだから。同じ懸命に生きている存在をないがしろにする事が許せない存在だからだ。
「サムライドの兄ちゃん……」
「サムライドのお兄ちゃん頑張って! 悪い奴をやっつけてよ!!」
そして敵を討つ力がない子供達は、頼りのシンへ精一杯の声援を送る。そんな彼らの期待にこたえることが自分の使命である。シンは振り向いて叫んだ。
「ああ! 絶対俺は帰ってくる!!夕食前に間に合うようにな!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
シンを乗せてバタフライザーが急いだ。卑劣な手を使い、また自分と関係があるノーブル・ユーキの元へ真っ先に向かう。急ぐ未知の先には何故か脅威に値する敵どころか敵対する存在が1機たりともいなかった。
「ノーブル・ユーキ……あいつと俺は同じ宿命を背負って生まれた身だが、あの兄弟と違って俺達は最後 まで分かり合えそうにないってことか……」
『おっとなかなかまともな事を言うね』
「!!」
頭上からの声がシンの元に届いた。彼の頭上にはブルーとグレーのツーカラーに塗られた蠍の姿が存在し。不気味な存在に覚えがある彼は真っ先にトライライフルの銃口を天へ向けた。
『ふふ、相変わらず短気な性格なんだね。兄さん』
「ノーブル、やっぱりな、その声からわかっていたけどやっぱりお前か!!」
マシンからの声は意外な存在だった。シンを兄さんと呼ぶ声の主に対し彼は激しい怒りを静かな言葉に乗せた。
『そうだよ。二万年ぶりの再会になるのかな。でも兄さんと再会して喜ぶつもりは僕にはないよ。むしろ 兄さんを虐げたい気分で僕の胸はいっぱいなんだ……でもね、兄さん。今攻撃しない方が利口だと思う よ』
「何っ! どういうつもりだ……」
『そうだねぇ兄さん、もしこのデュエル・トゥーラウドを攻撃したら僕が占領した非常拠点に2,3人か 犠牲者が出るからね』
「どこの非常拠点だ!!」
『ふふふ。兄さんが向かっている先。名古屋の西地方かな? もうすぐ目の前に兄さんの非常拠点が見え るよ』
ノーブルの言うとおり、目の前はアロアードが一か所に陣取っているのだ。もし真上のデュエル・トゥーラウドを迎撃したら、その民衆が犠牲になってしまう可能性があるとシンにも分かり、トライマグナムを下ろす。
『兄さんにしては物分かりがいいね。安心してよその名古屋西部の非常拠点に着くまで、僕は攻撃をする つもりないからね……』
ノーブルからの意外な言葉にシンは首をかしげた。あのときの怒りから冷静になって考えるが、どう考えても単機で突っ走るシンは絶好の標的。これで攻撃をしない事など、それなりの指揮官である弟にとってはチャンスを逃すようなものだ。
『その気になれば僕も兄さんを倒す事が出来る。でも、ここは兄さんの得意方法。そう1対1の真剣勝負 でいこうじゃないか。ひょっとしたら僕はお取り込み中のところ兄さんを呼んだかもしれないし、ちょ っとしたサービスだよ。どうせ僕が勝つしね……』
「お前が勝つだと!? 冗談もほどほどにしやがれ!!」
『冗談だなんて……兄さん、僕は本気だよ?』
ノーブルの声にドスが入る。その自信満々の言葉を残してデュエル・トゥーラウドは先へ飛んだ。目の前に見える決闘の場所。それまでの道はまるで嵐の前の静けさに相応しい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「こ、これは……!!」
非常拠点に突入するや否やシンはバタフライザーから降りて倒れた人影を抱えこむ。だが、動かない者は彼が目をそむけたくなるほど悲惨な光景だ。
「まさか……いや、俺はさっき絶対手を出さなかった……でも!」
果てた彼を抱えながらシンが周りに目を向けると、まだ幼い子供が兄らしき人物の陰に隠れ、その母も憎悪と畏怖、忌み嫌うニュアンスが込められた表情を見せつける。この母の態度は他の人々にも共通するもので、恨まれる事をした覚えのないシンの心をじりじりと追い詰める。
「いてっ!!」
シンの頬に小石がぶつかった。振り向いて見れば先程の子供と同じ年の少年だが、自分を無邪気に慕う子供たちに対して子供は底知れぬ怒りを向けているのだ。
「水をちょうだい……痛いよぉ……」
怒る子供の下で黒く焼けただれた子供の姿がシンの視界に入ってしまった。全身の8割を火傷した子供は水を求め、口の下には赤と黒の液体がただただ流れ続けている。
大の大人でもこの様な光景を目にしたら目をそむける、いやそれだけではなく嘔吐感が込みあがってくるものだろう。
「……」
瀕死の少年から目をそむけることをシンは選ばなかった。それどころか悲惨な少年の姿を凝視し、胸の内から込みあがる怒りの炎を更に燃やし闘争心へ変える。
それがシンがサムライドであることの証明でもあるかのように、彼は瞳に炎を燃やす事を選んだのだ。
『ふふ。兄さん。そこの獣は僕が始末しただけだから。大人しくすれば手は出さないと言っても言う事を 聞かないなんて愚かだよね~』
「ノーブル!!」
シンの振り向いた先には肩まで垂らした青白い長髪を靡かせ、藍色のベストジャケットを羽織った弟”ノーブル”がいた。彼と同じ年に見えるノーブルは端麗な顔を笑みに浸らせる。
「お前って奴は……この人たちはなぁ懸命に生きてるはずだ! 俺達エンド国の皆のように生きている! それなのに……」
「ははは。何綺麗事を言っているんだい兄さん? そんな兄さんだって守るべき人はエンド国に限ってい たじゃないか。兄さんの理想主義には相変わらず呆れさせるよ」
「理想主義なんかじゃない! 俺たちサムライドは人を殺める事を許さないように良心がインプットされ てるはずだ! 俺は敵の国の人達へ危害を加えるつもりなんてない! 俺達の戦いは皆の、大陸の平和 を守る為の戦いだってことくらい分からないのか!?」
「なら兄さん、皆の平和を守るために隣国を襲うのかい? 国は誇りを賭けて戦っているんだ。皆の平和 を守ることとかいう理想は国の威信を背負った現実の前に無力なんだ。分からないのかい?」
冷静さを保ちながらノーブルは指を鳴らすと、無機質な機械音と共にデュエル・トゥーラウドが足元に到着する。
「僕は知っている。大陸の皆がこの薄汚い獣の先祖に皆殺しにされた事をね。だから僕は大陸復活の悲願 をかなえる為に三光同盟へ加盟して大陸を復活させる。そしてまさか僕の相手に兄さんが来るとは思わ なかった。スネークの命で僕は兄さんと戦うんだ」
「スネーク……スネーク・サイドのことか! あいつに手を貸したのかノーブル!!」
「ふふふ。兄さんにとってスネークは師匠でもあり仇敵。そんなスネークの味方になるのは僕にとって当 然だよ……真の敵を倒す為には過去の敵の助けも僕は借りるよ」
「お前は利用されているだけだ! 仮に大陸が復活してもお前だとあいつに呑まれるままだ!!」
「戯言はここまでだよ兄さん。僕の言う事を聞いてくれない兄さんを殺せばエンド国のサムライドで僕に 刃向う存在がなくなって皆が僕についていく。皆をまとめてこそ戦いに生き残れるんだ!」
「それは違う! 本当に強い奴は俺のような奴を見事に操って見せる! 俺を操れないお前なんてそこが 知れているぜ!!」
「うるさい! 兄さんはそうやって僕を……ライドクロス!!」
「なっ……!?」
次の瞬間、ノーブルの行動に、シンは目を丸くした、いやせざるを得なかった。ライドクロス。
ノーブルの元へデュエル・トゥーラルドが5体のパーツに分散。肩に、脚に細い体と対照的な重厚の言葉がふさわしいパーツが接合し、背中のバックパックを覆うようにアーマーが上半身を覆い、蠍の尻尾そのもののテールパーツが後ろから姿を現して地面へ着地した。
「まさか! デュエル・トゥーラウドはライドクロスには対応していなかったはず……」
「確かに。でも復活した僕の為にデュエル・トゥーラウドはライドクロス仕様に三光同盟の手で改造され た。このライド・アーマー”ミロ・スコルピオス”が兄さんを倒す為に僕に与えられた力なんだ」
「ミロ・スコルピオス!!」
目の前の弟が不敵に笑った。巨大な蠍を一身に被ったような姿、メタリックブルーを基調に金色がアクセントになった弟の姿は、高貴かつ禍々しい雰囲気が漂っており、彼の不敵な笑みがささやかだが未知の恐怖が兄の心を少し震わせた。「あれが俺の弟なのか……」と
。
「今までの僕だと1対1では兄さんに敵わないし、僕からしてもつまらないしね……そうだ、兄さん。兄 さんもライドクロスしてよ」
「ライドクロス……」
「とぼけないでよ兄さん。兄さんのバタフライザーはライドクロスしてライド・アーマー”トライ・ウェ スターマー”になる事くらい僕は知っているんだよ。重装甲の兄さんの事も僕だって知っているよ。僕 の攻撃に耐えられる程でないと僕のミロ・スコルピオスに不釣り合いだと思うからね」
「……」
ノーブルの催促への返事を、シンは暫く口を閉じて真下を見つめた。だが瞬時に顔をあげて彼にトラ イマグナムを向けた。
「それは嫌だ! お断りだ!!」
シンのトライマグナムが噴いた。地表が弾き飛ばされると同時にノーブルは飛んだ。
「兄さん、兄さんは確かに切り込み隊長として相応しい戦闘能力がある事くらい僕は知っているよ。でも 今の僕はね、トライ・ウェスターマーの兄さん相手でも五分五分にやってける自身があると思うんだ。 それなのに!!」
ノーブルから微かな微笑みが消えて、腰から抜かれたマグナムから青い閃光が一直線に軌道を描いて何発が飛ぶ。
「兄さんはトライ・フルバレッターで僕に挑んでくれない! 兄さんは僕を甘く見ているんだ! 兄さん だからって……先に生まれた兄さんだから弟の僕を子供扱いするんだ!!」
弟の叫びに込められた心の闇が青い軌道に乗せられる。これを軽々とよけるバタフライザーだが、そのルートを塞ぐように白のクナイが地面に突き刺さった。
「うるせぇ! お前みたいなつまらない妬みで生きようとする皆を摘み取るような奴にトライ・ウェスタ ーマーを使ったらバタフライザーが泣くぜ!! それっダイヤモンド・クロスだ!!」
脳波でバタフライザーの軌道を変え、機体上部をステップボードにしてシンは飛ぶ。ダイヤモンド・クロスが前方へまっさかさまに落下する真の背中から射出された。
だが、ノーブルの左手から放たれた白のクナイが三方に合体し、結合点から三方に伸びた柄を握って彼の腕と共にそれは回転しながらダイヤモンド・クロスを弾き飛ばした。
「このダブルマグナムは兄さんと違ってビーム兵器も撃てる、ダイヤモンド・トライアングラーは兄さん より1本多く同時に射出する事が出来る! 兄さんのトライマグナムやダイヤモンド・クロスより強い んだ! でもねっ!!」
「うわっ!」
ストラングルチェーンを地面へ突きつけてめり込ませながら、落下する中で体勢を立て直し、シンはトライマグナムを構えて反撃に転じようとした。
しかし、握ったはずのトライマグナムは弾き飛ばされた。彼の一直線先のノーブルが握るダブルマグナムの下部に装着された小型マルチランチャーの銃口からは煙が靡いている。
「でもこの僕の武器だって兄さんの武器を強化しただけなんだ! 僕は兄さんがベースになって生まれた 存在! 僕は兄さんの弟という建前で生まれたバージョンアップさせただけのクローン、コピーなん だ!!」
「……」
「僕のようなコピーはオリジナルを越えないと本当のオリジナルにならないんだ!! 僕はエンド国のサ ムライド軍団長になっても、兄さんは従ってくれない! 他の皆が従っても兄さんがいる限り僕はコピ ーなんだ! 兄さんが従わないから僕は兄さんを殺すんだ! 僕がオリジナルだと証明する為に ね!!」
ノーブルの怒りはダブルマグナムに乗せられ、光が、銃弾が、自分の目の前で逃げることしかできないシンを追い詰める。自分の目の前で逃げる事しかできない彼が自分のオリジナルなんて……弟の怒りとアイデンティティはどんどん煮えたぎる。
だがその時、弟の背中に衝撃が走った。後ろを振り向くとトライリモートが装備されたトライマグナムが独りでに彼へ攻撃を行っていた。
「うわっ!!」
ノーブルが怯んだ隙に、ストラングルチェーンがノーブルの腕に組み付きワイヤーを伝っての電撃がノーブルに走った。
「馬鹿な考えはやめろ! オリジナルもコピーだろうが強い弱い関係ない!! お前の嫉妬はお前の能力 が俺に及ばないだけにすぎないんだ!!」
「ま、まだそんな事を言って……!!」
「お前が実力者なら、俺を使いこなすことだってできたはず! 俺を不満にさせない命令を送ってたはず だし、俺達のエンド国が小国に収まる事はなかったはずだ!!」
「兄さんはそう言って僕が非力だっていうんだね!?」
「あぁ! 偉そうに言わせてもらうがな、俺を強化して生まれた後発なら、俺と互角かそれ以上の能力を 持っているはず! それなのにお前が俺に大きく引き離されているのはお前の心がけがなっていないか らだ!!」
「兄さん! 兄さんの心がけ……だと!?」
「ノーブル! お前は軍団長と名ばかりにお前は何かやった!? 俺の記憶では軍団長としてまともな事 をやっていなかったはずだ! お前がもう少し、そうだ軍団長として振舞えていたら大陸前のエンド国 の未来は変わっていたはずだ!」
シンは目の前の弟に、兄である己の存在に嫉妬し、兄を倒すことでしか己の存在を証明できない弟に、兄として高圧電流と共に忠告を下す。
「俺は特殊任務遂行の為に開発され、お前に軍団長の座を奪われた後もずっと……そうだな、30年以上 も偵察、諜報、潜入活動を続けていたんだ。なぁノーブル、俺はたった1機で敵地に潜入してきた。俺 のミスもあるかもしれないけど大勢の敵に襲われた事もあった……どうして俺がここまで生きているか 分かるか?」
「……」
ノーブルの反論がピタリとやんだ。シンの言葉は兄としての忠告のようであり、大陸時代、史を隣り合わせにして生き延びてきたからこそ聞こえる重みだ。
「一人で窮地を切り開かないといけない境遇に何度も置いた俺が生き残るには……俺は実戦に参加してそ の実戦に強くなる事を選んだ。実戦に参加して死ぬかもしれない予測不可能な戦いの中で俺を鍛えるこ とでな! 仲間同士馴れ合いの訓練が、模擬戦もどき……そんな甘ったれた方法で実戦に強くなる訳が ないしな、軍団長さんよ?」
「ぐっ!」
「どうやら図星だったようだな。僕はしっかり訓練を重ねているとか、言い訳するつもりだったんだな」
半分呆れた表情でシンは自分にとってはナンセンスな弟の理論を否定するしぐさを見せる。それだけの自信が兄にはあるのだ。
「基礎と基本で土台を固めて、模擬戦から応用力を学べば強くなっていくとか頭の固い奴はほざくし、俺 もそうだと思っていた時期があった。しかし、死に物狂いになって強くなる方法を手探りで見つけてい くしかないとあいつは俺に教えた! 戦場の大蛇ことスネーク・サイドがな!!」
シンは先ほどノーブルが自分に見せた不敵な表情を返す。それは先ほどまで言いたい放題言ってきた弟に対しての兄としての仕返しなのかもしれない。
「ぼ、僕から見た兄さんは命令を聞かず仕事以外色んな所でぶらぶらしていた存在……」
「メリハリだよメリハリ。俺は明日死ぬかもしれない戦いに勝って強くなるために命をかける! そして ノルマを達成したら次の仕事が来るまで好きにする! メリハリがつかないでだらだらさぼり、だらだ ら仕事しかしてないお前達と一緒、いやそれ以下とみなされたらこまるからね!」
「う、嘘だ……」
「それにな、俺はエンド国から隠密で他国へ潜入したり、同盟国の援軍で出撃したりして知ったんだ。戦 上手だと思い込んで威張っていた井の中の蛙の俺に教えてくれたんだよ。世界は広くて、俺以上の者が たくさんいるってな」
完全におびえる弟に対し兄は優位に立った。シンはただのうつけではないと知る者はマローン・スンプーを討ち取った時点で知れ渡っているが、自分が最も自覚していたようだ。
「広い世界で俺にない強い部分を持っている相手に出会えば、その強さに触れれば俺は色んな所でどんど ん強くなっていく気がするんだ。どんどん強くなれる無限の可能性で突っ走っていけば俺はもっと強 く、もっと多くの人を守る事ができるってな……やべぇ、思わずわくわくしちまったぜ」
弟への説教のつもりがいつの間にか兄は自分の考えに酔いかけていた。それに気づいて顔を横に振るが、当のシンが自分の考えに絶対的な自信を持っている事に変わりはない。
「全く新しいこの世界だって俺を強くするフィールド。ついさっき俺は子供たちからまだ知らないことを 教えてもらったんだ。俺をもっともっと高みへ導いてくれる相手がいるこの世界をお前のような頭の古 い奴に壊されたくはないんだよ!!」
シンは堂々とノーブルに指を刺した。堂々としたふるまいを見せる兄が自分に従わなかったのか。それは兄が強くなる信念を持って死に物狂いで生き延び、独学で鍛え抜いてきたからだ。
だが、見下していた兄の真の姿を知る事はオリジナルとコピーの自分に大きく差をつけられてしまうもの。オリジナルである兄を抜く事が自分の存在意義だったが、どんどん遠ざかっていく目標を前に弟は狼狽の声しか上がらなかった。
「色々揉まれてもっともっと高く飛べる。そう考えただけで強くなれる。どうだ、何も変わらない奴らに 命令を送ることより俺は面白いとおもうがな」
と、自分の考えを延々と述べ続けるシンだが、彼は気付いていなかった。目の前の弟の背中から漆黒の砲身がそそり立っていた事をだ。
「ノーブル、俺よりちょっと有利な状態でスタートしたお前なら心を入れ替えて死ぬ気で強さを求めれば まだ強くなれる。これは兄として最後の忠告……」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「何っ! うわっ!!」
自分の考えが音を立てて崩壊していく事に激こうして、ノーブルはシンへ火を噴いた。金と銀の電流が直撃すると、同時に感電と共に見えない力に押し返されたかのように兄はストラングルチェーンごと吹き飛ばされ、近くの簡易住宅に激突してクッションにもならない瓦礫の上に倒れ込む。
「いてぇ……あんなの見たことねぇ!」
「ふふふっ! そうだよ、そうだよ兄さん!!」
ノーブルは笑った。だが先ほどの余裕から葛藤を振り切り、バーサーカーのように感情に身を任せて大笑いする姿は兄にある事をよぎらせる。目の前にいるサムライドはもはや弟じゃない。俺を執拗に狙う敵ではないかと。
「僕に与えられたこのシルヴァーゲイボルグは兄さんになくて僕にあるアドバンテージ!この電磁砲を食 らえばまともなサムライドは動かなくなるはずだけど、まだ息があるところはさすが兄さんってことか な!!」
「シルヴァーゲイボルグ……確かにトライ・ウェスターマーでないときついな、けど俺は負けないぜ! お前のような弟に負けたら俺の立場がないからな!」
「弟に抜かされたら立場がないってことかい兄さん!? ならこれで見せてあげるよ、僕と兄さんが愚兄 賢弟であることをね!!」
「何っ……!!」
弟は体をひねりながら高く舞った。両手を上に延ばすと同時に肩のシールドが上部へスライドし、その先端から計6基のダイヤモンド・トライアングラーがハサミを形成しその中心から針が、脚部のパーツが合体して一本の巨大な針が展開され、回転速度に比例する勢いで弟の姿が目視できなくなり、ハサミと針のみが目に見える。
「サソリ……サソリだ!!」
「死ぬんだ兄さん! このターニングアンターレスは僕の、僕オリジナルの必殺技!! 兄さんでも対抗 手段はないはずだよ!!」
「ちっ!!」
目の前に迫るサソリに対しバタフライザーは逃げる。その中でシンのトライマグナムが火を吹くが、激しい回転の渦が銃弾を跳ね返し、先端のハサミが彼に刃を向ける。
「ぐわぁぁっ!!」
シンは身を屈めた。だがノーブルのハサミが彼の左腕を挟み込んで、鋼の腕をスパッと切り落としたのだ。その切断面からは火花が散り、慌てて切断されたシューティングアームを投げ捨てた。
「ふふふ……どうだい兄さん! このハサミのキレ味を甘く見たようだね! 次はその針で兄さんの胸を 刺して殺すよ!!」
「やばい! コンバッツアームセットイン!! おわわっ!」
シンが左腕を装着する前に、弟の針が目の前に迫る。腕を軽く切り落とすハサミの威力に並ぶだろう。
「何っ!?」
その時、地面から爆発が起こり、黒煙が彼を包む。それと同時に視界を遮られたノーブルは軌道を乱してしまい、その禍々しい針を地面へと突き刺してしまう。
この秘密はシンの右腕がベルトのバックルを回しながらボタンを押した事にある。ダイヤモンド・クロスで反撃に移る際、シンはバタフライザーの上部をジャンプ台のように利用して飛んだ。その時バタフライザーのシェパード発射装置を押しており、有事に備えて敢えて爆発させていなかったのだ。
「あぶねぇあぶねぇ……判断が遅れてたら本当に弟に貫かれる所だった……」
ノーブルの目の前でのシンは、左腕が装着されていた。だが彼にとっては助かったと言えるのに程通い状況だ。何故なら煙を割ってノーブルがこちらに突撃しているからだ。
「小細工はほどほどにしてもらうよ兄さん! 針で突き刺せなかったのは残念だけど、このハサミで砕け 散ればいいんだ!!」
「にゃろう……グレンバーナー! スピニングブリザード!!」
しかし大人しくノーブルの攻撃を受けて死ぬようなシンではない。両腕から放たれた火炎の渦と猛吹雪が二門のハサミを襲う。両腕の渦により、彼は後退を続けながらスコーピオン攻撃 をギリギリのところで食い止めている。
「兄さん、往生際が悪いよ!」
シンの素早い動きで両手をクロスさせたりほどいたりして両腕のハサミは高熱と低熱。極端な温度差に晒されていく。二つのエネルギーによって兄弟の間に赤と白の壁が作られることで兄は年貢の納め時をじりじりと引きのばしていた。
「しぶといね兄さん……でももうこれまでだよ!」
「ぐ……」
思うように止めが刺すことへ移行しないことへ苛立ちだけからの言葉ではない。ノーブルの言葉は微かに弱まる竜巻と吹雪からだ。
弟を止める為に放たれているグレンバーナーとスピニングブリザードによりシンのエネルギーは僅かな残量しかない。このままエネルギーが尽きたら自分は死ぬ。だが今、弟を倒す事は可能だろうか。この作戦に失敗しても死しかない。
(やばいな。でも、俺は今までこういう危機に陥っても助かって来たんだ。たとえこの腕を、この脚をや られても、四股が消滅しても俺はここまで生き延びてきたんだ! もっと高く俺は飛びたいから だ!!)
シンの口元が微かに揺れる。それは勝利を確信した彼の笑みなのか、または……そう、彼の笑みはどこか一抹の不安、諦めが感じられる。決して明るさだけではない。
「でやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「なっ……!!」
その時、両者の動きがピタリと止まった!!
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グレンバーナーとスピニングブリザードを切るとすぐにシンの両腕からはストラングルチェーンが展開され、迫るハサミを掴みこんだ。
掴まれたハサミは先ほどシンの右腕を切り落としたとは思えないほど、脆く簡単に砕け散った。はさみを失い、一瞬戸惑ったノーブルは、針でとどめを刺そうとしたのか、脚の針が180度動きシンを刺そうとした。
だが、シンの両手からのマイクロナイファーが展開される方が圧倒的に速く、弟は兄の胸を貫く前に、兄に自分の脳天を貫かれた。
「なっ……ななな……」
「ターニングアンターレス……必殺毒針戦法破れたり!!」
「に……にいさん?」
「お前のハサミをこの両手で受け止める事は無理だってわかっていた。俺の腕は換装出来る代償に強度が もろいからな……こいつでの力押しは無理だということは自分が一番知ってる。実際に戦って経験した からな」
血が顔を濡らすノーブルは力なくシンに問う。何故自分を破ったのかを……自分は兄さんを越える自信はあった。彼の言葉からはやりきれない気持が漂うが、兄はうつむきながら、まるで弟を目視しないように語りだした。
「だから俺はシェパードを爆発させてその隙に両手コンバッツアームで勝負に出た。グレンバーナーとス ピニングブリザードを交互に浴びせてハサミの強度を出来るだけ脆くする事を選んだ。もし脆くなった らさっきみたいにハサミを両手で食い止める事ができるかもしれないと思ったからな。それが思い通り に行ったのは幸運そのもの……もしチェーンが破壊されたら俺は死んでたからな……」
「兄さん、ま、まさか死を覚悟して一か八かだったのかい!?」
「当たり前だ。死と隣り合わせの状況、危険を承知で作戦を遂行する事などしょっちゅう……直接敵を相 手に戦ったことのないお前には分からないかもしれないけどよ、お前を下す事が出来たのは今までの戦 いで鍛えられた俺がここにいた。ただそれだけだ!」
シンが自分の考えを主張すると同時にマイクロナイファーが自動で収納され、彼の血糊が収納されると同時に関節から飛び散り、地面に飛沫が付き、同時にノーブルが力なく落ちた。
「ノーブル、俺はこの世界で懸命に生きる皆を殺す事なんてとてもできない……みんなあの頃のビーグネ イムの皆と一緒だし、まだ俺が持っていない強くなる何かを持っているからな」
「そ、そう言って兄さんは……綺麗事を……」
この期に及んでもノーブルはシンを憎んでいるかのような目を向ける。未だに自分を憎む弟の無様な姿を兄は見たくなかった。最期まで理解することがない弟に無常、虚しさ、そんな弟を仕留めた自分にも申し訳なさがいっぱいだった。
「まだ分からない……よな」
シンが首を向ければ意外にも憂いの表情を見せ、力ない姿勢で弟へ振り向く。その悲しげな瞳と半分微笑んだ口には今までシンが見せたことのない感情が包み込まれていた。
「お前はずっと俺を妬んでいるんだ。分かり合えないなら叩くしかない。ここにいる皆を苦しめるお前を 倒す事は、ここにいる皆の気持でもあり、俺の意志なんだ……皆を苦しめるお前を俺は許せなかっ た!」
「兄さんはそれでもサムライドなの……大陸を復活させたくないの……」
「それだからって、関係のない人を巻き添えにする事は筋違いだ。ノーブル。お前は多分助からない。だ から最期は大人しく眠ってくれ。それがな、俺がお前より先に生まれた兄とて送る最後の言葉だ……」
「にいさん……ははははは、さすが兄さんだ。僕の負けだ」
「!?」
その時、シンは信じられない言葉を聞いた。ノーブルが死ぬ間際になって自分の考えを認めてくれたのだ。先程は無情に倒してしまった兄だが、弟の突然の一言が兄を動揺へ追い込んだ。
「僕は兄さんがずっと嫌いだった……憎かった……でも、でも僕はそんな兄さんがうらやましかったん だ……」
「うらやましかった……!?」
「うん……僕は国の期待を背負って兄さんを強化するコンセプトで生まれたコピーで、国の操り人形だっ たんだ。国を背負った僕は好き勝手振舞う事が出来ないけど、兄さんは好き勝手やってきた」
「……」
「そんな兄さんに僕はなりたかったんだ……」
弟の遺す言葉は兄を突き刺した。弟は期待を背負って優等生ぶらざるを得なかった……ある意味自分の存在が弟を苦しめ続けていた。憧れていた自分になれないから弟は自分を憎んで心に抱えた苦しみを他の感情へと転化させて、自我の崩壊を避けようとしていたのではないだろうか……。
「ノーブル……もしお前ともっと早く分かりあえていたらな……こんなことをお前がするはずもなかった し、俺がお前を倒す事もなかったのにな……」
「そうだね……ごめん兄さん、僕はコピーゆえに不出来な弟だったのかもしれないね」
「……」
ノーブルの言葉にシンはただ黙って後ろを見せて去ることを選んだ。その目元には涙が流されていた事を彼は知っていただろうか。人でないサムライドが涙を流すことは、兵器でもない事も現していた。
「……」
彼の目の前には先ほどの子供が、自分に憎悪を向けた子供が駆け付けてくる。その子供が見せる憂いの感情は何か。重傷を負った子供の敵を討ったはずなのに子供は喜びを見せないのだ。
「なぁ、あの子は……」
「あれは……僕の兄ちゃん……」
「!?」
その時、シンの心を二つの感情が襲い掛かった。一つは彼もまた兄弟であった事。そしてもう一つは……目視したくはなかった。しかし彼は目のあたりにしてしまったのである。弟が射抜かれて力なく倒れて出した姿だ。
「お、おいしっかりしろ! な、何故だ……!!」
射抜かれた額にシンは激しく動揺した。その光の放たれた先を見れば、うつ伏せに倒れた人物がダブルマグナムを手にしていたのである。
「し、しまった……!!」
「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ぐあぁぁっ!!」
遂にシンのトライマグナムが火を噴いた。マグナムの銃弾を額に受けて銃を落とすノーブルに怒りをぶつけようとしたが、それよりも目の前の被害者の事だった。
「お、おい……! 目を開けろ! おい!!」
「痛い……痛いよぅ……兄ちゃん」
「おい……おい……!」
額を貫かれた弟を何度も揺すりながらシンは叫ぶ。だが現実は残酷だった。子供はすぐに魂を奪われ兄の元へ還ってしまった。こればかりは自分でも助かりそうにない。
突然の事態に背中が震える中、シンは地面に落したトライマグナムを掴んで立った。一歩一歩の方角はノーブルの亡骸。だが、
「ちくしょう!!」
トライマグナムが何発も放たれ、亡骸に風穴が空いたが、それでも怒りが収まらずトリガーから手を放す事をやめなかった。
「シンさん、名古屋の非常拠点をほぼ先ほどの三光同盟から占領する事に……」
そこにようやく到着したミツキ。だが彼女でさえ目を点にしてしまう事態が既に展開されていた。
「お前がなぁ……お前が俺のコピーとか嫉妬していなかったらこんな戦いはなかったんだ!なのにお前は ぁ、お前はなぁ……」
トライマグナムによる雨はやまない。既に力を持たぬ者だが今のシンに許す理由が見つからない。戦いに巻き込まれた犠牲者は自分がどうやっても還ってこない。だからその現況を作った彼へ怒りを向ける事しか、彼の気は晴れない。
「シンさん! 何をやっているのですか!」
「離せミツキ! 止めるならお前でも撃つぞ!!」
周囲の人々が恐れとしか思えない表情を浮かべる中、シンの怒りは収まりを知らない。さすがにまずいと思ったのかミツキ自身が彼を止めようとするが、彼は彼女を地下粗づくで振りほどいてもなお撃ち続ける。
「ミツキ……俺はついさっき弟をこの手でやっちまった!!」
「弟……まさか、ノーブルさんをですか……」
「あぁ……スネーク・サイド! ノーブルは奴と組んで俺を狙ってきた……戦場の大蛇とだ!」
「戦場の大蛇ですか……」
銃を話さないシンの言葉。スネークの名前を聞くとミツキはやや怒りが強まったニュアンスを言葉に乗せる。
「あぁ! こいつの敵と俺はいつか戦わないといけないんだ……」
シンのこいつとはトライマグナムを指す。スネーク・サイド。戦いの中でシンは決着をつけるべき相手と戦う時がいつか来るのではないか。その不安をシンは顔を振ってよぎり既にハチの巣となり惨めな弟へ顔を向けた。
「こいつを……弟を撃った俺はもうエンド国のサムライドじゃない! 今までの俺はもう、この世界には いないんだ!!」
「シンさん……」
「ここまでやってしまったら俺はスネーク・サイド、いや三光同盟と戦う宿命を背負っているんだ!例え躓 こうとも、傷つこうとも俺は戦わないといけないんだ!! 俺が目を向けないといけない事は今までの 事じゃない! これからの事なんだ!!」
「……」
「だからここで俺は過去に捕われる存在……たった一人の弟をここで跡形もなく消す! これはこの世界 で懸命に生きる皆の為にもっと強くなって戦いぬくと決めた俺の怒りなんだ!!」
今、トライマグナムの銃声は目の前の弟に集約された過去という束縛を撃ち抜き、己を飛翔させる存在だった。
長期戦においても充分対応している程の銃弾を使い切った頃、弟は既に原型をとどめていなかった……もう兄の心の一片に住みつくことはない……。
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『やはり、ノーブル・ユーキは破れた! 当然の話だがな!!』
「当然の話とはな……でもシンのデータをある程度は得た。ただね……」
とある小部屋のスクリーンにスネークが映る。返答するカズマはスペードのえを蝋燭の火にあぶるように近づけ、やがて飛び火して瞬く間に四角を舐めるように焼き尽くした。
「ノーブル・ユーキはスペードの3はおろか、このカードに及ばない要らない存在だ!僕もあの戦いを見て いたけれど、もっといい戦いが出来たはずだ……いや、弟が兄に刃向う事が愚かなことかも知れなかっ たけどね……」
『甘いわカズマ! シンキ・ヨーストの実力は紅蓮の風雲児に恥じない! 俺のミノ国はまだ無名のあいつが絶対脅威になると思って俺を洗脳した……いや、俺もそれに乗った』
「そうか、スネークは洗脳に乗ったとか言っていたね。でも国の操り人形になる事を好むなんて随分変わ っているね」
『変わっているか……確かにそうかもしれないな』
スネークから告げられる自主的に洗脳を受けた発言。普通のサムライドではやるべきことではないと思うカズマは彼にその事情を聴く。
『俺の記憶は既に洗脳されているものかもしれないからな……俺を生み、洗脳させたシンクロー博士やそ の他もろもろが俺の記憶をねつ造しているかもしれない。だがな……サムライドは戦いに勝ってこそ存 在意義がある。お前も分かるはずだ』
「最もな事だね。でも……言うだけと行う事は全く違う。それを敢えて行うスネークの気持ち。僕にも少 し分からなくはないね……」
『そうか。国を背負った俺が負ける事はサムライドとして恥を晒す。もしシンが敵に回って破れたら俺は どうすればいい。洗脳されているせいで記憶があいまいかもしれないが、俺はシンがまだ駆け出しの頃 同盟国の縁であいつに戦いのイロハを叩き込んだ。あいつは俺を追い越すと思ったのかもしれない。そ こでだ。あいつの国と敵対するとはいいとして、とても認めたくないが師弟関係のあいつと戦えと言わ れたらお前はどうする?』
「どうするって……師弟関係となれば厳しい者があるね」
『そうだ。俺はあいつを倒す為に心のどこかに潜む情けを捨てねばならなかった。たとえ敵対する者が親 しみのある者だとしても勝たねばならぬ! それがサムライドの宿命、そして、あいつを倒す為に洗脳 された俺はシンを倒さなねば存在意義がない!』
「……」
カズマは何も言わなかった。スネークがシンを倒す事にこだわる理由に何か不思議な共感があったからなのかもしれないのだ。
「スネーク。僕にもわかるよ……僕は兄上のお役にたつ事は存在意義だからね……背負っている存在があ るからこそ強さを求めないといけないんだ……」
『そうだ。すまん、お前につまらない事を言ってしまったな』
「いやスネーク。僕にとってはそう……つまらない事でもなかったよ。背負う存在、力と頭脳……僕は君 と一緒に戦いたい存在だからね」
『随分と買いかぶられたものだな。だが俺はシンと近いうちに戦う場所に位置する北部軍団は地理的に魅 力がある。それに俺はシンを倒す事はともかく、お前の兄に協力する気はそこまでないからな!』
「なっ……」
『まぁシンの味方になる事は俺の存在を否定するようなもの! それだけと言っておこう!!』
スネークは不敵な笑いを残してスクリーンを消した。彼の何やら意味ありげな言葉に対しカズマは怒る よりも半分笑みを浮かべた。
「惜しいね。僕にもスネークのような人物が配下にほしい……今のまま南部軍団は僕以外まともなサムラ イドがいないしね……」
カズマはゆっくり通路を歩き、薄暗い夜空にただ黄色に輝く障子越しの人影に顔を向けた。取っ手に手を触れようとするが、すぐさまその手を引っ込める。
「兄上はあの方を想われている。それだけ僕達の故郷アワ国を愛しているんだ。故郷を、民を愛し、敵対 する存在に臆せず戦う兄上こそ、僕が敬愛する兄上だ」
カズマは障子の取っ手を放し、一歩下がる形で彼は手を合わせて祈る姿勢をとる。誰もいない場所でただ敬意と誠意を障子越しに兄に見せるカズマの姿を彼は知るか……
「兄上は絶望からの国の再興から今もずっと苦労の連続……。僕が兄上にとって十分貢献しているかわか らない、でも兄を全力で支える事が弟として当然の事……僕が現代に生き延びたたった一人の弟なんだ からね……」
カズマは一人歩く。夜の様に暗い通路を一歩一歩重みを込めて歩いていくのみだ。
「弟が兄にとって最大の支え。僕はあんな尻軽女や似非坊主に追い越される訳にはいかないんだ!!」
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「そうか、あんた達行くのか……」
戦いが終わり、再度非常拠点の軍備編成を済ませたミツキは去ることを選んだ。異端の存在とはいえ自分達を救ってくれた彼女が去ることを秀一郎と徳剛は少し残念に思っているようである。
「はい。今回の名古屋の非常拠点を制圧する中で今回の悲劇が起ったのです。早急な拠点確保・防衛が今 後において重要なものではないかと思います……方向はもちろん南。当たり前ですが三光同盟東部軍団 旧領です」
「とうなると愛知県の半分と静岡は必須となるな」
「ええ……この場所にとどまっても私にとって得られるものは少ないので、ごめんなさい。ですが、偶然 とはいえ貴方達に出会えなかったらシンさんを復活させる事も、マローンを粉砕する事もなかったでし ょう」
「まぁそうなのかな……でもあんたのおかげでここの守りは固められたし」
「あんたからもらったこれであんた達とは連絡が取れるしな」
「ええ。この通信機の存在は今の日本にとっては貴重です。私達が手に入れた最初の拠点を簡単失いたく はないですから」
それからミツキはゆっくり秀一郎、徳剛を始めとする何人かの人々に別れを告げていた。その一方でシンは子供たちにかまっている。
「サムライドの兄ちゃん! 俺たち兄弟チームワークも抜群なんだよ!!」
「そうそう! サムライドのお兄ちゃんでも僕たち兄弟を相手に勝つとは限らないよ! 兄弟だからね」
「へぇ~兄弟だからか……」
兄弟という言葉の響きは本当に仲睦まじく互いを助け合うような絆がある兄弟が口にしてこそ、いい響きに聞こえるものである。
あれからシンは先ほどの兄弟の約束を守り、簡易的なサッカーフィールドで身にサッカーに向かっていたが、兄弟の言葉から引っ張り出されるのは弟・ノーブル・ユーキのこと。兄を追い越す事が自分の証明と自分をひたすら恨んできた弟は、最後まで分かち合う事も出来ずに死別し、弟の存在も絆も今から未来に羽ばたくために邪魔な枷としてシンは捨てた。
だがあの兄弟は多分自分達のようにいがみ合う事はない。そうシンは考えてきた。何故なら彼らは今日を懸命に生きている立派な血が通う人間なのだから……そんな彼らを守る事がこの世界で目覚めた自分の宿命なのだから……。
「さぁて! 兄弟の実力がどれほどのものかお手並み拝見といこうか!」
兄弟の負の面を知らない彼らに悲しみを見せる訳にはいかない。精いっぱい作った笑顔でシンはボールを蹴り飛ばした。
「よし! じゃあ俺からボールを取ってみろ! 手加減はしないぞ!」
「上等だ! サムライドの兄ちゃんだからって負けたりしないぞ!」
「そうだ! 兄ちゃん頑張るぞ!!」
「よーし! いっけー!!」
やや汚れたサッカーボールを蹴り飛ばすシン。このボールを追おうとする兄弟と、彼らの元に他の子供たちも駆け寄り質素で殺風景な非常拠点からは珍しく微笑ましくなる声があがる。
(兄弟か……俺にとっては思い出したくない存在だけど、この世界には心が通じ合い力を合わせることが 出来る兄弟がいるんだ。いや兄弟じゃなくても力を合わせて困難に立ち向かう人達がたくさんいるん だ……俺は皆のバイタリティーを見習って、そんな皆をこの世界で守らないといけないんだ!)
兄弟の絆。自分に存在しなかった概念がシンの頭に刻まれることで、この世界の人々のたくましさと彼らを守る決意を得て更なる高みの階段を上った。そんな子供たちでにぎわう拠点から少し離れた地点でミツキは少し口元を緩ませて微笑ましい表情を浮かべ、シンと子供たちのの試合を見守っていた。
「シンさん……人々が懸命に今日を生きようとしている事は本当かも知れませんね……私達が守るべき存 在には少し節が合う気がします……私達が訪れる事は最期になるかもしれないこの場所において、この 触れ合いはシンさんにとっていい思い出になるのかもしれませんね……」
続く
次回予告
「友が選ぶのは戻らない過去か、わからない未来か? 好敵手か、師の敵か……相反する感情に挟まれた友はお前をどう見なす? シンよ、お前は友を振り捨てるのか、それとも友へ手を伸ばすのか?」
次回機神旋風サムライド、「メカラクリ・ヤブサメー出現!破れ必殺ファング!!」
強敵を破る時は今だ!ライド・オン!!