第32幕 中国地方の激戦! 戦輝連合6人対ハッター1人!!
「たぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
一方ディアとクーガの一騎打ちは、クーガの圧倒的なパワーが優勢へ持ち込んだ。彼のビッグバーストオンバーにジェラフスピアーの先端がへし折れ、宙を回りながら地面へ深くささる。
「お、折れた!?どういうことかさっぱり理解できないですよ!!」
「折れたことに変わりはない。お前がそれまでなのだ」
「こ、こうなったら……」
ディアのスピードはクーガを凌ぐ。巨体を誇る彼は一撃一撃が強大なものであり、ディアは無意識に彼の得意とするバトルスタイルへ持ち込んでしまっていたのだ。それに気付いたか否かは分からないが彼は本気のスピードを放ち、クーガは彼を見失ってしまう。
「ジャンキング・ボーンとジェラフパライザーの合わせ技でバラバラにしますよ!!」
「ぐ……」
腹の隠し角がクーガを挟み込み、角の電撃がディアへ炸裂する。電磁エネルギーと物理エネルギーによる攻撃が彼の表情に苦みを走らせる。
「これでクラッシュです!!」
止めの角が突き刺さろうとした瞬間。クーガの心臓を目がけた攻撃へ彼は勝利を確信した。しかし彼は寸でのところで強固な兜を両手で押さえ、力を加えて兜を引き抜きディアを真後ろへ張り飛ばす。
「どうやら、俺の体は無駄に頑丈な作りじゃない訳だ」
「く、砕けないんですって……自分にはモーリ・トライアローを倒す必要がありますのに!!」
「この世界で過去に縛られて戦うことは許されない。余計な感情になり得る」
「薄っぺらい過去しか持たないからそんな事が兵器で言えるんですよ!!」
過去を背負って生きるディア。彼を構成する大部分の過去の指摘は彼の心を大きく抉る。世界の変貌を遂げても過去を捨てないディアは、自分の過去が余りにも大きいから捨てられないと告げて、正当性を得ようとする。最もクーガはそのようないい訳を聞こうともしないが。
「こうなったら……ライド・チェンジ!!」
ディアの体が腰を折り目に畳まれ、両手が突き出され両足が展開される。パーツの展開、変形によりもう一つの姿同然の突撃形態“ゲッサンダー”へ変貌する、
「ブラッディ・アイショック!!」
「聞かん! 貴様は……」
戦車の外見に反してディアは素早い。朱の光線を放ちながら駆ける。ちょこまかと無限軌道を突っ走る彼へ重厚なクーガの移動がおぼつかない。
「自分はこっちの形態の方が強いかもしれないですねぇ……」
「自惚れもほどほどにしろ!」
「へへへ、クーガさん。貴方のように装甲が厚いサムライドにはスピードで難があるものですよね」
苛立ちを見せるクーガへディアの気が快い。簡易住宅地が群がる街並みを疾走するディアを目にすれば、彼がしばらくの間をおいて余裕の表情を作る。
「甘いなディア、お前は戦いから逃げているようなものだ」
「な、なんですと!?」
しかしクーガの心に余裕は持ちあわされたままである。自分に一方的な攻撃を加え続けることは彼からすれば軟弱者の行動にすぎない訳である。
「はっきりと言おう。俺はお前の攻撃を何発食らおうとも倒れない自信がある。お前が弱いからだ」
「ま、また弱いと言いましたね貴方!?」
「ああ。つまらない過去にこだわるお前の攻撃、それを回避する事ですら弱い行動ではないかと思うほどだ」
クーガの指摘は続く。視線はゲッサンダーの先端に存在する強大かつ鋭利なドリルへ向けられる。
「おまぁ、前にとって戦車形態など無用の長物、どうせ俺の攻撃を受けた場合一撃でやられてしまうものだな」
「さっきから言いたい事を言ってくれますね!!」
無限軌道が走った。重厚なキャタピラが音を立てながら前進を開始する。じりじりと相手を狙って動き始める。
「このリベンジャードリルで風穴を開けてあげますよ! 自分は間違っていない事を証明しますよ!!」
ドリルが右回転を始めた。回転する鋭利な先端はクーガをとらえ、無限軌道が走る。
「そうはさせるか。これで足場はもらった!!」
「ななっ!?」
しかしこのタイミングを見計らいクーガは思い切り飛んだ。ドリルを切り抜け着地した足場はゲッサンダーの真上。本来なら彼を狙うはずの砲門は強固な拳に掴まれて握りつぶされた。
「ディア、お前は本当に過去以外何も見えていないサムライドだな」
クーガの考えはディアを挑発させて死角である真上に陣取る事である。戦車姿の彼は訪問を占領されては、自分の上にはりつくクーガを攻撃する事が出来ない。自分の存在意義を馬鹿にされて熱くなったディアが気付いた時は既に遅かったのだ。
「ブラック殿、戦いに感情は危険だという教えは間違いではないようだ」
「そんな奴の教えなんて自分には関係ないです! この戦いはまだどっちが勝つか解らないですよ!!」
「強がりな事を言っても無駄だ。俺はどちらにしろお前を始末するつもりでいたからな」
「そ、そんな……自分は間違ってない! 間違ってなーい!!」
真上が蹂躙される。我を失ったように自分の行いを正当化する事を叫びながら、進軍するディアは重量級の彼を乗せたまま崖先へと急ぐ。
「こいつ、まさか俺ごと道連れにするつもりか!!」
「自分は間違ってない! 間違ってない!!」
ディアは本気だ。このままでは自分が落下してしまうだろう。ビッグバーストボンバーを何発もぶちこんで彼を停止させようとするが、強固な兜に覆われた頭を壊すことは不可能。崖先前に飛び降りる。
『ディア君、君が勝手に死なれると僕が困るんだけどなぁ』
「だ、誰っすか!!」
『いやぁ、君に死なれては困るサムライドでね、君にとって大切な人をかくまっている』
「大切なサムライド……まさか!!」
崖先から落ちゆくゲッサンダーに一人の男が呼びかける。彼の言う大切な人は誰の事か。声が凛とした女性へと変わった時、彼は目を丸くすることになる。
『ディア、あなたは無事生きていたのね』
「そ、その声は……ハル・フィーサ様!?しかし何故!!」
ハル・フィーサ。
ディアにとって彼女は主君のような存在。生意気な彼が唯一慕う対象のサムライドである。彼女からは頭だけは守りなさいと言われ、崖上からのクーガを向けてディアは首を抑えた。
「これで貴様の最期だ」
「させませんよ!!」
巨大筒の赤き閃光がディアの鎧を貫通した。力ない腕で彼の首は自らの手で引き抜かれ、頭を遠くへ投げてディアの体が爆破四散する。
しかしディアのロングキャノンは足場を撃ち抜き、巨体の彼はなすすべもなく落ちていく。
「これでやったか……ディアを倒す事が出来たのか俺は」
ディアの頭が投げ捨てられた事をクーガは知らない。ただ彼を倒す事が出来たと思いたいが、疑問も抱えてしまう。
「大丈夫!?」
海原へ落ちようとする彼へ群青のライドマシーンが浮き上がり彼を捕える。そのライドマシーンは小型駆逐艦を模した姿であるが、聞こえる声は舌足らずな幼い声だ。
「誰だお前は。敵か」
「ううん違うよ! タカナお姉ちゃんの敵を討ってくれてありがとう!お兄ちゃん!!」
「お兄ちゃんだと……?」
道の相手へ警戒心を張る彼だが、彼女のお兄ちゃんと呼ばれ硬派な彼も調子が狂い始める。
「うん、あ、ジュジュはジュジュ・ハヤカワっていうの。パパンはモーリ・トライアロー!」
「は、はぁ……つまりモーリの娘ということか」
「そうだよ! お兄ちゃんはクーガ・ヤスト。たしかブラックさんとかが言ってたよね」
「ブラック殿が、ということは……!」
モーリの娘が動き、ブラックが関係する。ブラックの交渉が成功した事であり戦輝連合にとって反撃開始の狼煙である。
「それよりお兄ちゃん! 西部軍団がこっちへ攻めかかっているの!」
「ということはつまり、俺の力が必要か。解った」
「正解! でもお兄ちゃんはここに隠れてほしいの。ライドアウト!!」
「俺が傷ついて……いや、海面に偽装して砲台の役割を果たす訳か」
「はい正解正解!」
「さすがモーリの娘。いやちょっと待て」
「どうしたのお兄ちゃん?」
「あのバ……いやシンとかいう俺の仲間がメッシュの聞いたサムライドと戦っているがまさか」
「……シンさんはあの馬鹿とかブラックさんが言っていたけど、多分お姉ちゃんの方に問題があるね」
「お姉ちゃん……ならそいつを止めないとまずいでは」
「大丈夫!お姉ちゃんの扱い方には私慣れているから!!」
「わかった、俺はこの場でやり過ごすが、」
「うん……あ!!」
「そういえばクーガさんって第4世代なんだよね?」
「ああ、しかしそれがどのような問題なのか」
「ごめんジュジュからすればクーガさんは弟君になる訳ね」
「……」
「ごめんごめん、まぁお姉ちゃんに任せて弟君はそこでやり過ごしてちょうだいな!!」
「……世代はそんなに大事なのか?」
ジュジュが相手を年上か年下か決める事は世代によるものが大きい。ちょこんとしたかわいらしい外見からジュジュは妹系のサムライド他ならないが、彼女からすれば
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「へへ。紅蓮の風雲児とやらも大した事ねぇようだな」
シンは岸壁にめり込んだ。彼女の腕には自分を超越するパワーが宿る。身体を動かすことが不可能へと追い込まれる痛みが癒えない。
「これでゆっくりあの世へ行かせてやる。大人しくしてなよ
右手にギンジョウが握られた。親指で起動スイッチが入った瞬間、先端が展開し電撃を帯びる。一回深呼吸を済ませて思い切り彼女が走りだした瞬間だ。
「おっと、大人しく待ってくれねぇかな!!」
彼女の進路を極太の柄が遮る。
キッカはともかく、救われたシンは目を見開いた。自分の5倍以上の長さを誇る強大な槍を支えながら回転させるサムライドは彼の記憶では一人しかいない。
彼、自分より長い赤髪を束ねた戦士はKG。以前一度顔を合わせた切りの兄と呼ぶサムライドである。
「兄さん!? どうしてこんなところに兄さんがいるんだ……」
「簡単だ、俺はお前に勝ってもらわないと困るんでな。兄として、この世界を守る要としてな」
「おいお前! シンとあたいの問題だ!そう簡単に手を出してもらっちゃあ困るよ!!」
「うるせぇな!」
吠えるキッカが一言で沈黙を要された。彼の朱槍が彼女の喉を突いた体制のまま兄は弟の元を向く。
「おいシン! 兄が折角お前の戦いを観に来たんだ!! ここでおまえはやられるというのか?」
「兄さん」
「ほぉ。シンの兄貴ってわけか。甘いもんだぜ」
シンとKGの関係を知り彼女は憐みの意味を込めた笑いを浮かべる。一騎打ちを邪魔されて面白くなかったからか、ふてくされている様子である。
「戦いはなぁやるかやられるか。特に一対一での戦いにはな誰も助けてくれないんだよ」
「分かってねぇ癖に偉そうなこと言うな!!」
「わ、分かってねぇだと!?」
キッカは気付いてもいない。思い込みの激しい性格かシンの立場を理解していなかったのである。彼は彼女を仲間にしないといけない為、迂闊に手が出せなかったのである。
「シンの目的はお前達よりでけぇ。そんな目的背負った奴が負ける事は許されねぇんだよ!!」
「あの野郎が、ディアに味方する奴に、あたいが負けるとでもいうのか!?」
「分かってない奴だぜ。その通りであり、簡単に言わせてもらえば俺はシンに勝ってもらわなければならないんだよ!!」
キッカは未だシンを理解しようとしない。それだけあって彼女は歯ぎしりして、握りこぶしを作りながら歯がゆさに震えあがっている。彼女の怒りを見ないKGの視線は、シンが岩盤から抜け出そうと動いている。
「当たり前だ……兄さん」
岩盤から土砂が飛び散り、彼の体が遂に地上へと足を着かせる。
「兄さん、あなたがいる前で俺は負けないぜ! 目の前のあいつも今はやるかやられるかだ……!!」
「やっと本気になったようだな! だが、今はそれでいい!!」
10倍ほどの長槍を担いだ状態でKGが飛んだ。崖上に立つ彼は朱槍を地面へ突き刺し丸腰となることで争いへの介入をしない意味を表明する。
「ようやくその気になったけどな、あたいのターボミサイルアームに敵う奴がいるかな!!」
走り出す彼へ彼女の腕が炸裂する。ターボミサイルアーム。ガドリングランチャーと化した両手からミサイルを撃ち尽くす中・遠距離専用のアームだ。臆せずに向う彼に弾薬の雨嵐が襲う。幾多も発生する爆発が地上を包み、彼の影は朱の炎から消え去った。
「姿形もなくなった訳か! もらったぜ!!」
「そう簡単にやられる訳にゃいかないんでね!!」
「なにを!!」
彼女の足元からドリルを宿す戦車が出現した。両足からのドリルは彼女を弾き飛ばすほどの勢いだ。握られたリンジローでドリルの威力を受け流す事で直撃を免れただけが幸いだ。
「面白い事やってくれるじゃねぇか。お前も変形できるとはな」
立ち上がるキッカの目の前で、ドリルの戦車がトライ・ウェスターマー形態のシンと化す。
「俺はただでさえダメージを受けているし、真っ向勝負でお前に敵うかはわからねぇ」
「なるほどな。一対一だけどな。これは喧嘩、いややるかやられるかだ! 何をやっても上等という訳か……」
一対一は喧嘩上等の何でもありな戦いである事をキッカは承知していた。彼女の元に銃弾が飛び交い、至近距離でのトライマグナムによる銃撃があり、彼女は包囲されたと察する。
「そういう訳か。てめぇ、二人で一人を攻めるのもなんでもありか!!」
「二人だと!?」
シンは戸惑った。戦いには何でもありだと考える彼であるが、他人の力を借りて一人を倒す程落ちぶれてなどいないからだ。
「ちょっと待て! いくらなんでも俺はそこまで汚い手を使うのは……」
質量が自分に襲いかかる。巨大な球は彼を後ろへのけぞらせ、すかさずにチェーンが自分の首を固定した状態で崖へと再び叩きつける。
「へへ、小細工を明かすには相手を馬鹿にするのも手なんでね」
「騙しも戦いのい……」
口を開けて言葉を紡ごうとする時間を与える事が出来ず、鉄球が度々襲いかかる。彼女の両腕のパーツはゴッツラーアームとツイストクレーン。前者の相手を砕く為の鉄球、後者の相手を絞めあげる為のクレーンは共にパワフルな彼女にふさわしいものである。
「悪いな。お前はこうやって倒した方がいいと思うからよ!!」
キッカは右腕の先端へ用意された鉄球を相手へぶつける事をやめない。鉄球は物体と衝突するたびに、崖へ亀裂を加え続ける。
(やべぇ。一発の威力がただ事じゃない。このまま食らっていれば俺の意識がもたねぇ)
打ちのめされ続ける中でシンが考えた事。答えは鉄球を粉砕して自分を脱出させる事である。しかし身体に力が入らないのか、彼の体は徐々に芯を失ってしまったかのように萎え果てていく。
「大人しくなったようだな。こいつならお前のヘルメットをかちわる自信もあるんでね」
キッカは確信した。次の一撃で彼を再起不能、あわよくば粉砕する事が出来る。それゆえに彼女はゴッツラーアームを一旦真後ろへ振る。
「これで……とどめだ!!」
「なら……アームパージ!!」
左腕が狭間から抜け出した瞬間、拳を彼女の目の前に向ける。キッカか、いやゴッツラーアームへ向けてロケットパンチの要領で射出させたのだ。
最も彼女は全然動じる様子ではない。飛ばされた腕は鉄の球と衝突して、亀裂が入って最終的には砕け散った。彼の腕自体で鉄球を粉砕させることは出来ないのである。
「グレンバーナー、スピニングブリザード!!」
腕と鉄球が激突した間に新たな左腕が装着された。左手で右手を引きずりだすようにして、亮手を相手へ突き付ける。グレンバーナーとスピニングブリザードの交互の攻撃が鉄球へ唸る。
「効かないようだぜ。お前がそのような攻撃をしても、どっちにしろあたいのゴッツラーアームがお前を倒すんだぜ!!」
「それは……わからないぜ!!」
業火と吹雪が交互に鉄球へ照射させることで、球体へ罅が入る。罅が全面に広がった時に噴射を止めた。
「マイクロナイファーで砕いてやらぁ!!」
鉄球が最前線に迫った時、シンが両手を突き出す。両手先端のマイクロナイファーで亀裂に止めを刺すように突き付ければ、幾多化の破片が飛ぶ。だが彼の両腕には傷一つつかない。
「お次はドリルシュート!」
自由になった両手で上半身を抜け出し、右足からはドリルが飛んでチェーンを引きちぎる。そして腕で崖を抑えつけながら下半身を抜け出させた。崖から彼が脱出した瞬間である。
「やるじゃねぇか……」
死と隣り合わせの状況にて逆転の活路を見出し、それを成し遂げる。弟の逆転劇にKGの口元は微笑むように動いた。
「おもしれぇ。土壇場になって逆転するってのも戦いだ!」
彼女は内心驚愕の感情が押し寄せる気分だった。しかし、それと同時に彼が強敵と見て戦闘屋の血が騒いだのだろう。瞳は以前よりも活気と闘志を燃やしているかのようだ。
「けどお前をそのまま勝たせるほどあたいは甘くねぜぇ!!」
粉砕された両手を捨て、ターボミサイルアームを左腕に備える。再度彼女のミサイルはやみくもに突撃を試みるシンを狙う。彼が幻か否かは彼女にはどうでもよい。ただ目の前の敵を意地でも倒す気迫が全てであった。
だがシンは本物だろう。トライマグナムでミサイルを撃ち落とし、また銃口で叩き落とす行動は確かな手並みと共に、意地が込められている。本物そのものなのだ。
「一気に来てもな、撃ち落とせばなんとかなら。それならやりたい放題やるならこれだ」
だがやられ放題のままではいかなかった。撃ち落としだけでは凌げないと彼はある事を念じた瞬間、キッカが左肩を抑えながら体勢が崩れた。超能力か奇跡かはわからない。しかし目の前の事態をシンは分かっていた模様である。
「トライライフルを隠していたのを気付いていなかったようだな」
トライライフルである。付加した物体を操るトライリモートがトライライフルと合体した時、トライライフルは彼の脳波により遠隔操作刺されるシステムである。シンはキッカとの決闘に備えトライライフルを忍ばせ、不意を突く役割を果たしていたのだ。
左腕が負傷した瞬間にダイヤモンドカッターへ持ち替え、全速力で彼女に斬りかかろうとする。しかしリンジローがすぱりとシンが握った剣の柄を真っ二つへ切り落とす。
「まだあたいにはこいつがある、簡単に負ける訳にはいかねぇ!!」
「ダイヤモンドカッターが駄目なら……今の俺にはやっぱりトライマグナムが一番だ!!」
「拳銃か何か知らないけどよ、どうせこいつで叩き斬ってやる!!」
キッカからすれば、トライマグナムの銃口を切り落としさせすれば無力化するだろうとリンジローを振り落とす。
「てやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「はぁっ!!」
その時、トライマグナムがリンジローの刃へ食い込んだ。マグナムの先端にはオプションパーツの一つトライナックルが備えられている。銃による格闘戦を想定されたパーツのおかげで、単にリンジローで真っ二つに切り落とされる例がないのだ。
だが、相手はリンジローを既に使いなれている。女でありながらパワーはシン以上のレベルだろう。着実に鍔迫り合いは彼女の優位へと立っている。
「相手の手に合わせるやり方もだめか……」
逆手に握ったグリップが放された。拳銃が地面に落ちた瞬間、それを落とすか砕こうとしたキッカの体勢が前のめりとなって崩れた。彼女が素早く立ち直った時右頬に強烈な一撃が飛び、瞬く間に彼女はシンに覆いかぶさるようにしてトライマグナムを突きつける。
「……」
「へへ、きつい一撃にはよ、魂が感じられるもんだな」
キッカの様子が変わった。彼女は鬼気迫る表情でシンをにらみつけたが、八方塞がりと気付いた時、強気な言葉には一種の諦めが宿っていた。
「観念しろよ……ここでお前を逃したら俺はもう!」
「シン、あたいの負けだ。好き勝手やれ!!」
「何!?」
「あたいは負けた!! お前がライドアーマーを装着していても傷ついていたらあたいと五分五分。泣き言や言い訳はしねぇ!!」
キッカの心変わりか。そのような心境による言葉を発した理由は彼女にしか分からないものであり、揺るぎがないものである。
「世の中やるかやられるかだ。実力勝負の世界で負けたならあたいは何もいわねぇ!!」
その言葉と共に両手からリンジローとギンジョウを捨て去り、自分の両手のパーツを射出して無抵抗を現す。
「お姉ちゃん!」
「シン!!」
「おっと、手出しは無用だぜ」
「あ、あんたは……」
「あぁ!? お姉ちゃん何するつもりなの!!」
崖上にクーガとジュジュは目の前の光景に震えた。心変わりの理由が分からないままキッカは付近へ落とされていたリンジローを掴み、自分の胸元へ突き付けたのだ。まるで自決しようとのばかりだ。
妹としてジュジュは焦った。しかしKGにはシンが彼女の腕を掴んで留まらせた光景は当然の結末と見て表情を変えない。
「KGさん。貴方は確かシンの兄だと……」
「あぁ。けど俺はまだお前達と共にいる事を許されてないもんでな」
KGには最初から結末が分かっていたのではないだろうか。クーガからすれば彼の行動は怪しい。兄であり、一級品の実力を持つ彼ならば仲間へ加わるべきだと考えていたからかもしれない。
「あと、あいつは次に何をするかもう分かっているはずだから、また見守らせておくぜ」
「何!? KGさん、貴方はどこへ行くつもりだ!!」
「俺はまだこの世界の為に動かなくてはならねぇんだ。ただシンの実力を見極めておきたかったってことさ」
指笛を吹けば馬型ライドマシーン“赤闘馬”が駆け付ける。騎乗しては崖から飛び降り朱槍を地面から引っこ抜いて両手で持ち上げたまま何れかと姿を消した。
「クーガ君! あれ見て!!」
クーガへ一瞬の間も与える事を許されない。上空には朱のアロアード編隊が迫りつつある。おそらく西部軍団の送り込んだ編隊だろう。巨大筒を上空の標的へと定める。
「なるほど、ジュジュ達がクーガ君と手を組んだから、もう始末するつもりなんだね」
「その通りだ。いくぞ!!」
クーガに応えるようにジュジュが飛ぼうとした時。上空へ一人の影が飛び、握られたバトンが兵器を粉々に叩いて地面へ落とす。
第一線を片付けた時、戦闘機のフォルムを併せ持つ彼が姿を見せる。ブラック・ハーフ、軍師であったはずの男が最前線で相手をなぎ倒したのだ。
「ブラック殿!」
「シン、手荒なやり方だが今はよくやったと言っておこう」
「へっ……あんたに誉められるとは思いもしなかったぜ」
ケチを付ける事しか言わないブラックから誉められると、シンは自然と機嫌をよくする。
「今はそれどころではない。早く目の前の敵を片付けろ」
「はいはい、アーマーがやられただけで俺はまだ動けるぜ。キッカ!」
ブラックからの命令は戦えとのこと。最も彼は傷ついても戦う事を拒まない男なので全然命令に困る所はない。良く分からない光景に動かないキッカへ手を伸ばす。
「なんだシン。早く殺すなら殺しやがれ!」
「違うキッカ! 今はそれどころじゃねぇ!!」
「例え、お前はディアと手を組んでもなぁ、あたいは負けたから何も言わないぜ」
「違うよお姉ちゃん!!」
自決を止められても彼女は誤解をしたままである。シンの説得で彼女が動かない。その状況でクーガとキッカが飛び降りた。
「キッカとか言ったな。ディアは俺が仕留めた。これが証拠だ」
「……」
クーガの手にディアの残骸が担がれている。頭部だけは欠損した状態だが、撃ち抜かれたボディはディアの者には変わりない。見開いた目でボディを凝視する彼女は、事実を飲み込もうとしている。
「すまない。頭はどこにも見つからなかった。ただディアは俺達からしても倒すべき相手だったのは事実だ」
「そうなの! ディアはクーガ君達の名前をかたって暴れていたの!」
「……」
「お姉ちゃん! 分からず屋なのも程々に」
キッカは立った。シンへ厳しい視線を突きつけて、暫くして強気な笑いを浮かべて手を伸ばす。
「どちらにしろ敗者は勝者の言う事を聞く者なのさ。例えあたいが敗者でもだ」
「どうやらキッカ、分かってくれたってわけだな!」
「シン、俺は一度死んだつもりだ。その命を助けられたなら、報いてやるぜ」
キッカの右腕にドリルパーツが装着された。西の方角へ向けた右腕が回転を続けて、ドリルからは電撃が繰り出される。標的のソルディア編隊が電撃に巻き込まれて微塵に吹き飛ぶ。
「フレキシブルドリルアーム必殺超電磁ストーム。まだまだあたいには隠し玉があってね」
「隠し玉とは心強いぜ。よし!!」
「へへ!クーガ君。盛り上がってきたね」
「ああ……ブラック殿は上空のアロアードを頼む! 俺はここから援護する!!」
キッカの一撃が3人の士気を向上させる。彼らの勢いで西部軍団を退ける事も不可能ではない。彼らへ適切な命令を送る事は指揮官として当然の役割だ。
「クーガ!? どうしたんだお前、ブラックに命令するなんて」
しかしクーガがリーダーであっても、今の戦輝連合ではブラックがリーダー面をしている模様。その彼に命令を送る事はシンには想像できない所があった模様である。最もブラックからすれば当然のように命令を受け入れて飛行を続ける。
「ふっ、クーガは指揮官としての器があると見込んでいる。軍師でも指揮官の指揮には従うものだ」
第二波へ彼のバトンが振るわれる。リボルティング・バトンと名付けられた銀色のバトンは、指揮を執る為のアイテムだけではなく、先端からマシンガンを放ち、伸縮自在の必殺武器である。ライドマシーン・パワードリーゼとライドクロスする事により空中を自在に舞うブラックからすれば、同じ空で戦うアロアードは敵にもならない模様で、バトンで軽々と叩き潰す。
「ジュジュ、お前はあいつらと一緒に地上のソルディアを片付けてほしい」
「クーガ君? ついさっき会ったばかりのジュジュにも命令するなんて……」
ジュジュへ命令を下すクーガに対し、彼女自身はどこか不審な感じを抱かせる陰がかかった態度を見せる。このままでよいのか。クーガ自身自分の行動に不安を感じたが、杞憂に終わった。彼女が屈託のない笑みを浮かべたからだ。
「さっすが指揮官だね! クーガ君」
「どのような意味だ……」
「リーダーに決まったなら他人のような相手にも命令するものなんだってね。だったらそれでいいじゃん!」
ジュジュは姉の後を追おうとする。頭部がボディへ引っ込むとともに、先端がスクリューと化して竜巻を巻き上げる。彼女のまま竜巻を回転させて、風の流れに自分を乗せる事で、キッカの元へ到着する。
「へへ。お姉ちゃんここからはジュジュが暴れさせてもらうよ!!」
「けっ、お前はあたいほどタフじゃねぇから頭だけ動かしていればいいのによ」
「むージュジュ子供じゃないもん!」
進むソルディアを相手にリンジローを振り回すキッカと、スキャラーナで突くジュジュ。双子の戦果は五分五分であるが、妹の戦いっぷりを目にして姉は微妙な心境を秘めながら戦う。
「やれやれ。ジュジュがこいつらを片付けちまったらよ! あたいの出番がないじゃねぇか!!」
キッカからすれば自分が暴れまわる事に意味があるようである。妹が頼れる事はうれしい事だが、少々退屈な事でもあるのだ。
そんな彼女の付近へ巨弾が落下した。抜群の身のこなしで軽やかに飛んで避ける事で量産型兵器の巻き添えを喰らう事を逃れた。
「まだ後ろにいやがるか。なら」
「違うよお姉ちゃん! あれ量産型兵器なんかじゃない!」
ジュジュの言うとおり、後方から現れた相手は量産型兵器などではない。ダークグリーンの軍服に身を纏う中老の男性。ハッター・ノンである。
「おめぇは……西部軍団の刺客確かハッターとか言ってたな」
「はっはっは。そうなのですよ。そうなのですよね!!」
だが彼の様子がおかしい。何時も飄々としておりポーカーフェイスを保つ彼だが、今の彼は何故か狂気じみた笑いを浮かべながら、ミサイルランチャーとハンドバズーカを両手へしながら爆撃をかましているのである。
「アクエーモンもモミーノもお前らにやられるとは思いもしませんでしたよ!!」
「あの二人がやられたって!? まさかチカの奴か」
シンはチカによりアクエーモンとモミーノらが粉砕された事を知らない。またハッターも犯人までは知らず、ただ屈指のパワーを誇る強豪コンビが破壊された事が、ハッターの精神の支えを粉砕してしまったのである。
「チカの奴、もしそうだったらあいつ……おわっ!」
「おしゃべりはここまでにしてくれませんかねぇ」
ミサイルランチャーをぶちかまして威嚇するハッターは、2機のライドマシーンを招いた。強豪コンビのライドマシーン・ビートローサーとスタッガーウィンである。
「ダブルライドクロス! エクスランス!!」
ハッターは意外な言葉を口にして飛びあがった。赤と青に彩られたカブトムシとクワガタを模したライドマシーンが上下に包みこまれるように合体して、目の前にはややひょろひょろした男性のはずが、ライド・
クロスを終えてエクスランス形態と化した彼は機械の鎧で一回りも二回りも強大に見えた。
「私は表に出るの嫌いなんですけどねぇ。ただもう後がありませんから」
「なにごちゃごちゃ言ってやがる! どきやがれ!!」
キッカはただリンジローと触れ気しうるドリルアームで攻撃に出るのみだった。だがハッターは腕に握られた刃リノケロスブレイドでドリルが断たれ、リンジローの刃では断つことが出来ないほど強靭な平気なのだ。
「させませんよ」
「ぐはっ……!!」
休む間もなく片手に装着された“ファウスト・パイルバンカー“が彼女に胸を突いて先端の射出と共に吹き飛ばされてしまう。
「ちくしょう! 腕がもう少しまともだったらなぁ!!」
「強がりはほどほどにしたらどうですかねぇ」
今のハッターには後へ引きさがる余裕もなく、エクスランス形態による強力な兵装で最後の大勝負に持ち込む覚悟なのだ。彼曰く字運のライドアーマーは圧倒的な性能を持っている。戦いが一方的になってしまう程だ。
「そんなライドアーマーで前線に出て戦うより、指揮を取ってどうやって戦うか考えた方が私には面白いのですよ」
「何だって!?」
ハッターらしからぬ言葉である。彼は自分が前線に出ると勝ってしまうようなものだと敢えて指揮に徹していたと言うのだ。この男についてシン達はほぼ他人なので過去派知らない。だが自分を苦戦に追いやったキッカをあっさり吹き飛ばす彼女はただ者ではないだろう。本能がそう実感せざるを得なかった。
「この勝負は私の晴れ舞台ですから。思い切りいきますよ」
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「うわぁ! まだこんなにいるの!?」
「うるせぇ! 雑魚はどっちにしろ片付けりゃあいいだけ!!」
「そういう訳にはいかないよ!ジュジュの計算だとこれ倒されちゃうよ」
ハッター達との激戦が開始された。だが、それとは別に新手の量産型部隊が自分達を狙っているのだ。5人で戦いに挑むシン達でも数を前に苦戦を強いられてしまう。
「その心配はない」
「!!」
しかしブラックだけは危機に陥った状況を感じてはいない。
彼の確信はすぐに実現した。何処からとも各飛ぶ大口径のビームが量産型兵器を飲み込み、戦場を瞬く間に均衡、シン達のやや優勢な状況へと持ち込んでしまったからだ。
「量産型兵器が一瞬にして!!」
「パパン!!」
「ハッター・ノンよお前の目論見は甘かったのう」
ハッターを見下すようにモーリ・トライアローが立ち上がる。バイクを模したようなライドマシーンからは先ほどのビームが放たれたのであろう。先端部分が熱を帯びたままである。
「わしに出会った際お前はわしが何かを隠しているといくつかは見抜いていたも、これだけは知らなかったようじゃのう」
「ほぉ……しかし何故モーリ殿がいきなり……」
「タカナの分までわしは戦わなくてはならない。分かってはいたがその気にさせる何かが今まで見つからなかったのだ」
ハッターの額に一筋の汗が流れた。モーリ・トライアローが裏切ろうとも戦意がなければ特に恐れる事はないと確信していた。
「モーリ・トライアロー率いる陰陽党、これより戦輝連合側に加勢する。ガンジー殿に伝えてくれ」
しかし加勢と戦闘への参加表明が終わったモーリは、無力化された過去の力からおそるべき強敵とハッターの見解が変わった。彼を相手に立ち向かうことは可能か。ただでさえ精神が不安定となりつつあるハッターなど関係ないように、その彼はキッカの元へ着く。
「親父……久々に動くってわけかよ」
「大志を抱き、わしを必要とする者がいるならば、この老いぼれ大志の成就に助力してから燃え尽きたいものじゃ」
親子が僅かな残存部隊を瞬時に片付ける。残りはハッターだけである。
「ふふふ。量産型兵器はやられようとも私はまだ無傷ですよ!!」
「おっと、親父からすればあんたは小物だぜ!」
動揺を必死に抑えながら平静を保つハッターへキッカが喧嘩を売る。この時ブラックは戦輝連合による完全勝利の糸口をつかむ瞬間を見つ叫んだ。
「シン! お前は切り込み隊長だ!! 思いっきり決めてやれ!!」
「何!?」
シンが指名された。残りの一人、ボスを切り込み隊長である自分が片付けることで戦輝連合は勝利を周囲へアピールする事が可能とみたのだ。
「そんな事言ってもらえるとは思わなかったけど、任されたならやってやるぜ!!」
「おっと、あたいにまかせといて! ライドクロス! ライドサイドライダー!!」
突っ走るシンへキッカがフォローに入る。ライドマシーンと合体した瞬間、彼女は突き出した両手がロングキャノン砲と化した戦車形態“ライドサイドライダー”へ変形を完了したのだ。
「戦車形態。俺と同じってわけか!!」
「離れているならあたいで引き受けてやる! けど止めはシン、頼んだぜ!」
「OK! 乗らせてもらうぜ!!」
「シンとキッカに止めは任せた! 他の物は全員残存部隊を片付けろ!!」
シンとキッカが突撃に入った。この頃合いを見計らったようにハッターはじりじりと後方へ引きさがっていく。
「待て!待ちやがれ!!」
「にゃろう何故逃げる必要があるんだ」
「ふふふ。私は急がないといけませんからねぇ」
ハッターには絶対裏がある。しかしシン達には勝利する事が必要と見たのだ。元々猪突猛進の二人には急ぐことしか考えない。その答えが生まれようとしていた。
「にゃろう。キッカ全速力で行けるか?」
「あぁ。死ぬ気であいつを倒すつもりならあたいもそのつもりだ!!」
「いくぜ。俺にはまだこれが残っているからよ! てやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
シンが取った荒業とは想像を絶するものだった。先端から放たれたミサイルランチャーをストラングル・チェーンで全て絡め取ってみせる。そして幾多のミサイルの噴射を利用して彼はハッターへ飛びかかったのだ。
「なんという無茶な事を。ですが!!」
「何だって!?」
何故かハッターは近づく。胸から展開された二本の角マイティ・シザーボーンに彼は拘束され身動きを取る事ができないのだ。
「これで動けませんよ……このまま処刑上へ持っていく事も良いでしょう」
「ちくしょう! 離しやがれ!! このこのっ」
両手は自由になっている。彼のパワーでマイティ・シザーボーンをへし折り脱出しようとするが、角はあまりにも強力に締め付けているのだ。だが両手が自由になれば攻撃を仕掛ける事が可能かもしれない。
「おっと……むやみに動きますと、この角で貴方を突き刺しますよ?」
目の前には自由な第三の角が展開されている。この状況で彼に脱出する行為は許されるのだろうか。
「にゃろう……」
「言っておきますけど後ろにボタンはないですし、この装甲は簡単に傷つきませんよ」
「それはどうかな!?」
ハッターの両眼が見開いた。無防備な両手に何故かトライライフルが握られていたからだ。キッカの不意を突く役目としてトライライフルにはトライリモートを装着させていた。それにより、彼の脳波でトライライフルは自分の手元にまで到着したのだ。
「ななな!そんな馬鹿な事があるのですか!!」
「へへトライマグナム残しておいて助かったぜ」
形勢逆転か。トライマグナムは右手に装着されてブレイズバスターへ変形を遂げる。右手首のグリップを握った状態で先端は彼の顔面に突きつけられた。
「や、やや!? 私を撃つつもりですか!?」
「あぁ。多分頭は弱いと思うからね」
「よ、よしなさい! 私を撃つとどうなるか……どうなるか!!」
おそらく命乞いだったに違いない。しかしハッターへ止めの手を鈍らせる余地はなく、始末しなければ自分がやられる運命にあった。顔面を射抜いた途端に拘束が緩やかなものになり、素早く飛んだ瞬間に彼が頭から爆破四散するのであった。
「……これで止めを刺した! さっさと帰るぜ!!」
ハッターの死は西部軍団の最前線が滅んだと同じ事である。これで中国地方の戦いに一段落がついたとシンは思うのだが、これから先の事態にまだ気づいていなかったのである。
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「へへ。これで陰陽党と西部軍団は赤の他人、敵同士だ」
「やれやれ。相変わらず無茶しやがる」
「お姉ちゃんと一緒な訳だね。シン君は」
「おいジュジュ! あたいをどんな目で見ていやがる」
ひょんな事から勃発した戦いに一段落が着いた。事情を知ったキッカがシンへ敵対する理由は何もなく、彼のファイトを素直に称賛するように手を伸ばす。シンもまた彼女を心強い存在と思い握手に応える。
「あら~みんなもう戦い終わったの?」
「チカ! お前今までどこに行っていた!」
「あの二人を始末したからちょっと一休みにね。へへ」
「一休みしろとはいてない」
「その後どうしろとも言っていないじゃん」
そして足止めのつもりで囮役を命じられたチカが今頃になって引き返した。彼女が一応赤鬼と青鬼のコンビを片付けたのだが、ブラックとクーガからの態度に変化はない。このお気楽な態度が二人からすれば怪しいものだったのだ。
「まぁこれで一件落着じゃねぇか」
「いや、一件落着ではない」
戦勝した状況で流れる不穏なムード。シンが互いを仲裁するのだが、モーリはミツキを連れて新たな問題を持ちだしたのだ。そして何故かミツキが顔を下へ向けたままなのだ。
「おい親父。あたいはこれで満足しているけどよ、どういう事なんだ?」
「それはのぅ……」
「答えは簡単。ミツキ・アケチは何者かが送り込んだスパイだった事だ」
「……!!」
嘘か真実かは分からない。ただ屈指の頭脳を誇る彼が自信を持って告げた言葉が連合に新たな動乱を招こうとしていた事である。
続く