第29幕 幻のビーグネイム大陸
目を覚ませば、広大な地形が見える。決して他者の手により荒廃した地ではない。自然のままに繁栄を迎え、陰りが見えた状態である。
周囲を見渡した時、ドーム状にへし曲がった壁が遠くに見える。自分たちの記憶が確かならば、あの球状ドームの中には人間達の……遥か故郷、ビーグネイム大陸の民が存在する都市の外壁だ。
だが何故だ。人々の声も、気配もこの世界から感じる事が出来ないのであった。
「おいシン。いい加減に起きろ」
「あ……あぁ……」
身体をゆすられて瞳をあげた時だ。視界の先には浅い関係にすぎなくとも、今は運命共同体として、共に未知なる送り込まれた11人の姿が映る。
彼は記憶を覚醒させる。自分達のいざこざによる挑発が引き金となり、リュウの物質転送装置を発生させてしまった。よって見知らぬ、いや見覚えのある不思議な空間へ彼らは送り込まれてしまったのである。
「なぁ、クーガ。俺たちもしかして」
「あぁ。信じる事が出来ない上、どの国かは把握できないが……ビーグネイム大陸だ」
「マジか……ビーグネイム大陸は天変地異に巻き込まれて深く海の底に沈んだはずじゃないか」
常に自信がありげなシンでさえ、言葉を少々詰まらせる。2万年前と同じ匂いがする大陸だが、長年の時を経ても何故変貌を遂げないのか。彼は気が気でならない。
「シンさんの言うとおりですが……」
「沈んだからって大陸が滅んだとは限らないわね」
「アキちゃん? ビーグネイム大陸の民はね、深海人のように深く海の底で生きることはできないわ」
質問の声にアキはニヤリと笑みを浮かべて余裕の態勢だである。
「いーや、大陸の地下。表面と海面のはざまに非常時用の地下シェルターを。少なくともあたしの国では作られていたわ」
「俺のサツマ国もそうだ。俺たちの国の様に技術最先端国は備えあれば憂いなしだってな」
「コジロー! 俺様の国は遅れてなんかないよな! なっ、なっ!!」
「若。デワ国には地下シェルターの存在を確認する事が出来ています。そのような事でムキにならないでください」
大陸における国々には天災に備えて地下シェルターなどの避難、隔離施設を備えた国々も存在する。デワ国にもシェルターが存在すると知れば、ホッと胸をなでおろしてから相変わらず威張って誇る態度を取る。
「かったるい相手だな先輩……」
「まぁ、十人十色という諺がついこの間までの俺の世界に存在していたものでな。そう考えればたいした問題じゃねぇよ」
シンやリュウ達から少し距離を置いて、突破の3人は日和見のように沈着な態度を取る。彼らの沈着した様子は大陸の中心部から孤立したナインステイツのサムライドならではか。サイにとっては妙に頼もしく彼の姿を感じる。
「お、大人ですね。マーズさん……でしたっけ」
「別にマーズでもいいぜ。俺が第1世代だからって年配扱いしなくてもよ」
「まぁ、先輩は良くも悪くもさっぱりした性格なので……おや」
「あ、うう……」
その時、彼女の足元でうつぶせに倒れたままであったサムライドが意識を取り戻した。橙の兜がトレードマークともいえる彼は、周囲を見回してから自分の置かれた状況を察して、叫んだ。
「そ、それより何で自分がここにいるんですか!!」
「……い、いや、私に言われても」
彼が紛れ込んだ理由など誰も知る訳がない。一応補足説明をすると、彼は宿敵でもいえるモーリ・トライアローを追撃する中で、モーリにより仕掛けられた罠に嵌まってしまい、偶然にもシンとリュウ達の場所へ繋がる通路へ入った。それにより物質転送装置のとばっちりに遭ってしまったのだ。
「あんた、ようやく目が覚めたのね」
「お前は確か……突然割り込んで真っ先にこの世界へ飛ばされた奴ぐらいしかわからないけど」
「自分はディア・カノスケという名前があるんですよ! あんたはたしかシンキ・ヨーストでしたね!!」
「あぁ。って何でお前怒っているんだよ」
「自分は怒ってないです!これが普通です!!」
ディアは一本気すぎる所があるのか、本人が普通のテンションでも周囲からすれば、異性がありすぎるようで、また怒りっぽい印象も与えさせるようである。
「あんたの名前は三光同盟にいたら自然と解るのですよ!!」
「三光同盟だと!?」
「ええ、西部軍団に所属していたサムライドなんですよ自分は……あれ?」
堂々と自分の身分を明かした時、クーガの巨腕がディアを羽織るように絞めあげ、彼に渡されたサイクローのワイヤーが自分の体をあっという間にきつく縛りあげる。
本人は理解していない様子だが、自分へ向ける周囲への目は急に神経質なものと化す。
「お前は敵という事だな……悪いが覚悟したほうがいい」
「おや、どうやら自分は敵とみなされているようですがかね。でも自分はあんた達を敵だと見做してはいませんよ!」
「敵に所属するお前の言う事を信頼できるか!」
冷たい目を向ける者達の中で、クーガが最も圧力をかける姿勢である。三光同盟のサムライドは、同盟の悲願、つまり王国の復活の大義を持とうとも持たなくとも、自分たちの敵として立ちはだかり破壊活動を続ける者であるとみなす。
「言っておきますけどね、自分は大陸の復活とかは考えていませんよ」
「何。なら何のためにお前は戦うつもりだ」
「自分が戦う理由は、自分の主君ハル・フィーサ様を復活させる事と、自分の故郷を滅ぼしたモーリ・トライアローの一族を叩き潰すこと。それだけです!!」
ディアの目的に揺るぎはない。モーリを倒すとの彼の志は、モーリの名を知る者なら関心を持つ事が普通だろう。周囲がちらほらとどよめき出す。
「モーリ・トライアローって確か五強の一人だったよね? ミツキ」
「はい。モーリ・トライアローの事は私もあまり知りませんが」
「まぁ、俺も知らないが聞いたことはあるぜ。西の謀聖だったな」
モーリ・トライアローは大陸西部における最強候補。ディアからすれば、自分の敵が強敵である事に歯がゆさを感じながらも、拳をぐっと握り締めて打ちのめされそうな心をに活を入れて顔を上げる。
「悔しいですが、モーリ・トライアローは五強の一人。ですが、自分がモーリを倒す事は諦めていませんよ!」
「ならお前は三光同盟に入る必要はないではないか」
「自分はただ一番、モーリの拠点に近かったから三光同盟に入ったんですよ! 最もあの坊主がモーリと手を組んでいるから戦おうにも戦えないのですけどね!!」
「だめじゃないの……」
その場で地団駄を踏むディア。彼は入る場所を間違えてしまった事を認めているようで、、過去も今も目的を成し遂げる事が出来ない自分が情けない様子らしい。
「あ、そうだ」
「何かいい案でも思いついたの?シン」
「あぁ。ディアとか言ったっけ。俺達がモーリを倒す手伝いをしたらお前は俺の仲間になるのか?」
「なんですと……!?」
「シン、ちょっとちょっと!!」
モーリの実力をシンは知らないからそのような事を平然といえるのである。しかし、この空気を読まない発言が、意外と功を奏したようで、彼の眼がキラキラと星が入ったように入る。
「ええもちろんですよ! モーリ・トライアローを倒すなら自分はあんたたちの仲間になるつもりですよ!」
「ちょ、ちょっと君!!」
「三光同盟くそくらえです! 自分がモーリさえ倒す事が出来ればあなた達の的にも味方にもなるんですよ!!」
「ということだ。モーリを倒す事を選べば俺たち仲間じゃねぇか!!」
「いや待てシン! どのように考えても……」
「おーい! 君たちもこの世界に巻き込まれたサムライド達なの~?」
ディアの変わり身を突っ込もうとした時、何処からか幼い少女の声が聞こえ、12人が耳を向ける。こちらへ駆けだす少女はパープルカラーのゴズロリチックの衣装と、頭ほどのリボンを頭に飾るあどけない姿。もう一人は自己主張を控えるように山吹色の浴衣に愛色のロングスカート。サムライドとは思えない大人しい外見。シン達と同じ背丈の少女が見える。
「いやぁ。ボク達もねそこの珍竹林が出した光線に巻き込まれちゃってね」
「チンチクリンだと!?おいいきなりなんだてめぇ!!」
「若!自重してくださいよ!!」
「ボクはね、チカ・ヒサタケっていうの。ほらあんたも」
「あ、うん……ヒメコ……ヒメコ・ソカベル」
二人は対照的な関係のようだ。初対面の相手のも関わらず、ずかずかと自分を売り込む様なチカ、また初対面とはいえあまりにも殻にこもりがちなヒメコ。表すなら太陽と月のような二人である。
「二人ともしらねぇなぁ」
「私も知らないかしらねぇ」
「あらら……」
「ねぇディア、あんたセンターエリアのサムライドじゃないかしら。そうならばフォースエリアの事を知っていてもおかしくない気がするけど」
「自分が狙うのはモーリ・トライアローのみ!そのモーリに関係があるサムライドしか興味はありません!!」
「んもぅ~僕たちの事をキリッと言い捨てないでよ……」
ディアはキリッとして言い放つが、ここで説明をしなくてはなるまい。
フォースエリアは大陸において最も最小規模の小島として存在する大陸だ。この大陸には特に目立たないサムライドしか存在していない事が現実であり、他地方のサムライドからは「鳥無き島」との下のような評価をされている所だ。
「まぁまぁ、とにかくこの世界へ来たからには仲間なんじゃねぇの」
そこでシンが待ったをかける。彼らが何者かである以前に手を組むことが彼にとって良い方法だと見たから彼は立った。
「シン!」
「考えてみろクーガ。ここが何処か分からない世界なあ、早く俺達は元の世界へ帰らないと意味がないはずだ」
「シンの言うとおりだよ!」
「かったるいけれどそうなるのかなぁ……」
シンの意見に従う者が増えていく。彼には天性のけん引力があるのだろうか。その牽引力を秘める彼はチカ達の元へ臆せずに近づく。
「まぁ虎穴同舟とかいうじゃねぇか。敵か味方か分からなくても今は脱出を考える駅だぜ」
「シンさん、呉越同舟です」
「……細かい事言うなよ、こんな時に」
「へへへ、そう来てくれるとボクも嬉しいね!」
「う、うん……」
「まぁ自分も、ここから脱出しないとモーリ・トライアローを倒せないです。やむを得ないです」
「そうそう。それで大丈夫だってぇ」
「いや、待てシン」
「え……なんだよクーガ、折角話が終わりそうだっていうのに」
クーガがあと少しの所で意見を出す。彼の両目からはシンのような安易な事で解決する方法を良しとしない姿勢が表れており、3人へ向ける目も何処か懐疑的なまなざしである。
「お前はどこのだれか分からない者を信じるつもりか」
「そりゃあこの世界なら敵も味方もねぇはずだぞ!!」
「それはそうかもしれないが、場所が変われば敵、最悪その場で裏切る事もあり得る」
「……」
現実主義者からの指摘。その指摘も案外分かる話なのでシンの言葉が詰まる。一瞬頼りにした彼の後ろ、そこには口をふぐのように膨らます少女と、そんな彼女の後ろに隠れるヒメコが見える。
「んもぅ!ボクそんなにせこい訳じゃないよ!!」
「チ、チカちゃん」
「口は災いのもとではないが、よくしゃべる奴ほど信用出来ないものでな」
「むむむ!」
手足をじたばたさせて、まるで駄々っ子のように地面を転がるチカだが、クーガは知ったかのような態度で貫き通す。彼の姿勢は良くも悪くも私情を捨ててクールに徹する男の姿であり、彼の胆力に関心を寄せる者達も見える。
「ほぉ、結構厳しいもんだね」
「まぁあのクーガとか、やはり鋭いかもしれないわね」
「クーガさんは良くも悪くも厳格なサムライドですから……」
特にアキは興味を彼女なりに持ち始めているようだ。名前と立場を簡単に明かしただけの12人の中で、クーガの存在感が示され始めている。
「まぁ、俺様ほどじゃないけどな!!」
「わ、若!」
「ちょっとあんた、どう考えてもクーガよりお馬鹿なのにどうするつもりなの?」
ところが、彼への関心が集まる事。それを面白いとは思わない者がいるようだ。ドックガーンとジゴク・ライシスの小銃を両手に握る彼が、クーガの前に遮りチカとヒメコへ銃を向ける。
「お前の出る幕ではない……」
「いや、クーガとかいったな! おまえの方法じゃあ生ぬるいんだぜ!」
笑いながら二人へ銃口を突き付ける姿は、リュウが相手をねじ伏せる欲望に駆られているからでもある。筒が付きつけられるにつれヒメコの表情が恐慌へと駆られていき、リュウには野望が込み上がっていく。
「答えは簡単だぜ!俺がこの女たちを殺せばなんてことはないはずだ!!」
「そこまでは極端だ、やめろ!!」
「ごもっともですぞ、若!ここは御自重を!!」
「うっせぇ……疑いを感じたならまず殺すのみなんだよ!!」
「……」
トリガーへ指が引かれるせつな、顔を前へ下げたヒメコの髪がライトピンクと化して、急速にニードルのように尖りだした。頭を上げた瞬間、瞳にはいくつもの螺旋が巻かれた。
「シャァァァァァァァァァァッ!!」
「おわ……」
らせん状の瞳が白と黒、交互に発行した瞬間にライトピンクの悪魔の鎌が素早く振るわれる。刀からの衝撃はにドッグガーンとジゴク・ライシスが折れて飛び、彼の体も斜め一文字に切りつけられ、地面へ倒れた。
「わ、若!?どういうことでしょうか!!」
「……ポーさん、真っ先に逃げないとあたし達死ぬわよ」
「え……!?」
「そうね~リュウちゃんにはいいお灸になるかもしれませんが」
「アオーン!」
アキが突然言い出した物騒な内容にコジローは理解が出来ない。だがヒメコはリュウと同じ匂いがする者達、つまりチーム厳龍の面々に標準を定めたのだ得る。
「大変だ……!!」
「お、おいサイ!!」
空中から大鎌で切りかかるヒメコに対して、同じ翼をもつ者の拳が止めに入る。サイクローが鎌の刃と衝突しあい激しい火花を飛ばした時、両者が空高く舞う。天使のようにけがれない翼を持つサイに対して、悪魔のような禍々しく黒ずんだ羽をもつヒメコが容赦ない追撃を行う。この急速なスピードでの接近にサイの心は焦り始めていた。
「ボクの重力軽減装置による飛行に追いつくなんて……一体何者なんだ!!」
「しゃああああああああああああ」
「ほら見ろシン、お前のぬるい配慮が原因で大ピンチじゃないか」
「そんなこと言ったって、あいつがあぁなるなんて全然知らなかったもん……」
両者の激突を地上で見つめる者はただ戦いの流れをポカンとしたい感情もこめて見つめる。一方ミツキだけは思い出したかのような感情があり、口を静かに開く。
「シンさん、あの姿を見てヒメコさんとやらが何者か思い出しました」
「何!?お前知っていたのかよ!!」
「ヒメコ・ソカベルはトサ国の第3世代サムライドとシンさんと同じ世代ですが単身での戦闘能力は、シンさんを上回っているのです」
「シンを上回るだと!?」
「えぇ……同じ世代では俺が負けるはずはないと考えていたけど……マジかよ」
シンは目が点になった様子で少し呆然としてしまう。自分の戦闘力においては結構地震があっただけに、同世代で抜かされているときっぱり言われてしまう事は今までなかった事だ。
「はい。私が知る所ではヒメコさんは二重人格ですからね」
「二重人格? よく二次元の世界で見るような……」
「そうだ。俺の勘かもしれないが、何かのスイッチで人格が変わると、感情をすべて捨て去り、戦いだけのバーサーカーになる事か」
彼女はこくっと首を縦に振る。フォースエリアのサムライドはあまり記憶にないと付け加えて、他人に関係なしにミツキはサイとヒメコの空中での激突を眺めるのみであった。
「へへ~まぁ、その女の言うとおりかな。ボクを殺すとか考えない方がいいかもね」
「ち……お前とヒメコにどのような関係がある」
迫害される立場であったチカの一転攻勢。彼女はいかにも憎たらしいような小悪魔じみた笑みを浮かべて、自分を大切に扱えと言わないばかりの表情で近づいていく。
「へっへー。ボクはね、ヒメコを止める能力を持っているんだよ?」
「止めてほしい?」
「若が危ないのでここは是非止めてください!!」
「確かに、こいつに暴れ回れると俺達まで危ないからよ」
「……分かった。貴様たちを殺す事はやめよう」
周囲からの圧力もあり、クーガ自身もこの状況を解決するやり方を見つからない。だから彼女の言うとおりにして首を縦に振る事を選ぶ。
「これは絶対だからね?」
ニタッとした笑みを浮かべてヒメコの手が叩かれた。彼女の鳴らした音がヒメコの目から狂気を取り除き、空中から勢いよくふわりと落ちて地面に倒れていく。
倒れた彼女は元の静かな少女と化し、先ほどまでの狂気は全く感じられそうにはない。
「ヒメコとやらが元に戻った!」
「そうね。ま、僕たちを敵に回すとこうなるから注意した方がいいね」
「なるほど……ヒメコはもう動けないのか」
「うん、一度使うと暫く眠ったままだし、私はスイッチをオフにする事ぐらいしか出来ないものだからな」
彼女は狡賢い割に、詰めが甘い所がある。ミツキからの目配せもあり大人しく従わざるを得なかったクーガはやけに自信を持った表情を見せる。
「戦いがない限りチカは戦えないというのなら……お前たちを俺が拘束するのみだ」
「ええ!?」
自分がしてやられたとはチカは思いもしなかっただろう。とにかくクーガの口車に乗ってしまい、ネタをばらしてしまった事が運のつきともいえよう。
「クーガ、どういうことだ!!さっきと言っている事が違うじゃないか!!」
「そうだぜ。ここは筋を通した方がいいんじゃないの?」
「要は頭の使いようだ。また相手が隙を見せた方が悪い」
シン達が納得いかない様子を見せるが、戦いに筋を通す事が重要か否かはクーガにとってはその場の状況によるものである。彼のやり方は反発もあるが、その一方で上手く考えたと喜びを表す者も少なくはなかった。どちらにしろ、チカ達正体が分からない者達は監視下として置く事が決まったのである。
「とにかく、このドームに入る必要があるぜ。何か入れば情報を掴むことができるはずだしよ」
「そうですな……ななっ!!」
「どうしたんだ、コジローさんよ」
「このドームですが……多分私のデワ国の領土内です」
「何だって!?」
コジロー自身も信じられない模様だ。この場所が見覚えのある場所である事は、ますます故郷が存在するはずの大陸へ帰還してしまったのではないか。故郷に対する感情は多々あれど、共通する事は大陸へ帰還する事の疑問である。
「俺様の故郷へ帰ってきた訳か!付いているぜ!!」
「いや、だったら何故人の気配がないんだ。俺にはそこのところよく分からないな」
「さて、そのような事を言われましても拙者にもその……」
「まぁまぁ皆さん。この謎を解明できるサムライドはこの中にはいない。それは確かですよ。ね、クーガちゃん」
「そこで何で俺に振る必要がある……」
「まぁまぁ。さてて、とにかく入るぞ!!」
入り口前で立ち往生をしながら、ドーム内部への謎を考える面々だが、シンは動いた。考えても先が見えそうにない展開であり、ならば扉をあける事が大事と考えたのだ。
とりあえずシンが手を当てた途端、扉はひとりでに開いた。そこが故郷のエンド国でないにも関わらずにだ。ますますこの世界が大陸とは何かが違う気が強まりながら14人のサムライド達が足を踏み入れた時だ。
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「人々の姿が全くありませんな……」
全員が足を踏み入れて目を向けた瞬間、その場に人々の姿が見当たらなかった。ただ都市や設備が用意されている周囲は人々がいないときには一瞬にして廃墟同然の勝ちとなるものであるとみた。
「な、なんてこった! 俺様がいない間にこの街を征服した誰かがいるってことだな!!」
「いや、それは違う気がしますが……」
「かったるい……!?」
「兄さん……先輩、あれはまさか!!」
廃墟の様な無人都市には、真紅の巨艦が塔をへし折り地面を少し浮かぶ。
「マタイチロー、マタジローじゃねぇか。どうしてこの国にあるんだよ!」
「マタイチロー?マタジロー? おいマーズさん、そのマタなんとかって一体何なんだ」
「そいつらか、俺のライドマシーンというより戦闘要塞と言っておくぜ」
規模はクーガが駆るタダカツをも収容が可能なサイズかもしれない。それほど強大なライドマシーンを彼は所有し、目覚めた世界で探し続けたのである。
「あんたら、こんなサムライド一人で大掛かりなライドマシーンを持っているのか!」
「俺らナインステイツの大陸では結構普通だったりするんだぜ」
「ナインステイツは技術の小島でしたからね。貴方達がナインステイツを知らな過ぎた事もあります」
「そりゃあそうだけど……」
サイが首をかしげる。腕を組みながら考える彼には大陸の地理による問題が阿多。
「どうしましたか、サイさん?」
「今気付いたけど、このデワ国とナインステイツは日本でいえば東北地方と九州のようなもの、そんな離れた国のマシンが何故こんな所にあるんだい!?」
「あっ!!」
サイの意見に周囲が答えを見つけたようにアッとした表情を浮かべる。
「ますます謎が深まってしまいましたぞ、ポー殿!」
「そう言われても思いつく答えがないもので……」
「やはり、この大陸はビーグネイムではないということか」
「その通りだ」
疑問を肯定する力強い返事を聞いた時、14人のサムライドが向いた方角は同じであった。
「おやおや、私たち以外にもこのパラレルワールドへやってきた者がいたのでしょうか」
現れた物は腰まで伸びた黒髪に、右半分を銀の鉄仮面で覆う。その彼の隣にはやや前のめりに腰を傾けた中老の男性。二人を知る者はいないように見えるが、一人だけは反応が違う。
「あ、あなたは! トードさん!!」
「おや、誰かと思いましたらサイ君じゃありませんか」
「お久しぶりです! 貴方にまた会える日が来ないかと大陸時代から思ったものですから……」
「サイ、この爺さん知り合いなのか」
「シン、爺さん呼ばわりは少し失礼だよ。この方はね……」
「私はトード・タカトというものでして、サムライドのくせに戦う事よりメカを作ることが大好きな者で、そのうえ一つの場所に留まれない流れ者です」
トードについてサイが説明をする。彼はサムライドでありながらメカニックでもあり、キタオミ国の独立戦争において多大な貢献をした者でもあるので、サイは彼に敬意を持っているのだ。
「僕のキタオミ国はトードさんがメカとか設計してくれてたから助かったんだ」
「いえいえ。サイ君の国が私を理解してくれる国だったからそこにいただけでしたよ私は」
「ほぉ。早速思い出を振り返るのか」
「貴方も、そのこのトード殿のお知り合いでしょうか」
もう一人が口を開く。尋ねられる声に目を閉じて、どこか冷たい印象の微笑みを見せてから顔を上げる。
「ふっ、ブラックハーフとでも言っておこうか」
「ブラックハーフ……」
「ミツキ、やはりお前は知っているのか」
「大陸歴164年にミノ国へクーデターを起こして……敗れ去った方です」
「勝ったんじゃないのかよ……」
「なら、全然大したことねーじゃん。変な仮面付けてよ」
「お前達よりは頭がいいと考えているつもりだが」
「「な、何だと!」」
「若!!」
馬鹿にすれば、あっさり返されシンとリュウがあっという間に感情的になる。コジローが収拾をかけるが、クーガは半分呆れを隠せない模様であり、同じ単細胞としても、制御役の態度は違うものである。
「何、あの頃の私はもう死んだ。今の私は軍学を極めた者とでも言っておこう」
「ミツキ、この男の言っている事って本当かよ。ただ偉そうに威張っているようにしか聞こえないけど」
「俺はなんとなくだが……間違いではない気がする」
「何でなのクーガ? 初めて会うサムライドなのに」
「俺がこの男をまだ知らないからかもしれないが、並みはずれた自信をこの男の口から感じる」
「言葉だけかよ……なら、俺だってそんくらいの事は言えるぜ」
「お前では信用できない」
「あら……」
クーガが彼を信頼する理由は言葉によるものが大きい。初対面の相手には外見と、口からの言葉しか信頼を得る手掛かりがないが、どちらも堂々と振る舞う彼には、言動がハッタリには感じられないのだ。
これがシンの場合なら彼の性格や内面を把握している事もあり、堂々と言う事も信頼する事が出来ない者である。
「そこのでかいお前、私を買うとは見る目があるな……」
「ブラックさんとやら、話を割って悪いが、前から気になることだから言わせてもらうぜ」
「この世界が一体どこが何処だか分からない。だな」
「御名答。まぁまずこのくらいは当然だよな」
マーズが代表して意見するこの疑問は、どの者たちも同じ考えであろう。トードが丸眼鏡を軽く上げるしぐさをしてこちら側を向いた。
「そうですね。あくまで私達の仮説ですがこの世界はパラレルワールドなのです」
「パラレルワールド……!?」
パラレルワールド、いわば疑似世界の存在に者たちは震えた。しかし、長年もこの世界で過ごしたと思われるブラック、トードは半ば諦めたように動じていない模様だ。
「そうだ、私とトードは大陸沈没の際の脱出も別々。偶然近くの軌道を通っていた脱出者達の放った力が、俺達をこの世界に巻き込む原因だ」
「この貴方さんが言います。つまりマタイチロー、マタジローというライドマシーンもですね。私と同じ、近くの人の力で異世界へ引き寄せられたのだと思うのですよ」
「なるほど、じゃああんたらは俺の近くの起動を通っていた訳か」
「そのとおりだ。しかし、私でも何故この世界へワープされたかは分からない」
「だよなぁ……この謎が分かれば苦労する事はないんだがなぁ……おや」
「先輩、どうした……かったるい何かがあったのか」
「いや、コジローとかいう奴が何時の間にいないぜ」
彼らが気付いた時にコジローの姿はない。同じ国のものでありリュウと比較すれば遥かに良識と知識がある者だけに、この謎を解き明かす何かがある人物だと思ったからだ。
「このパラレルワールドはですね、多分何者かが何かの為に用意した世界でして、私が知る限りでね」
「人々もサムライドも、心を持つ存在が見当たらない空間だ」
「何かの実験用でしょうか、トードさん」
「サイくん、その見方は私も同じ見解だけどね、何故実験する必要があるかまでは分からないのです……わわ!」
「何があったの!? ちょっと!!」
「いや、すみません、ひょっとしたらと思いましたが……やはりありました」
「なぁ、コジローさんよ、それは何なんだ」
「・・・・・・面目ありません。物質転送装置です」
謎に思い当るところがあったコジローは、デワ国に存在する研究所へ急いだ。彼の手で卵形の物質転送装置は地面から展開され、すべての答えを告げる鍵が存在する。
「この装置は俺様の物質転送装置の源。これがある限り俺は異世界へ自由にワープ出来る訳だ!」
「……」
だが彼がカミングアウトしたこの秘密は、周囲を呆然とさせ、何とも言えない空気がつつむ事態は言うまでもない。物質転送装置の起動装置を展開させて降りたコジローだが。
「デワ国の物質転送装置ですが……まさか本当にあったとは」
「なるほど、物質転送装置はこの子供に反応するということなのか」
「俺様をガキ扱いする……ふがふが」
「えーと、すみません話を続けてくださいブラック殿、トード殿」
瞬間ポッドのように沸騰するリュウを、まるで保護者のように羽織絞めの状態にする。一人が異様に騒ぐ状態で話が続く。
「コジローさん、リュウ君はどのようにして物質転送装置の機能を発動するのでしょうか。ご説明を」
「はい、若は右目の眼帯に物質転送装置を隠し持っています。眼帯が外れた時がスイッチを起動するわけです」
「なるほど、ならそのような眼帯が外れた場合はありましたかな?」
「え、えーとそう言われてみれば、一度ですね子供が若の眼帯を外された事で一時ワームホールが発動してしまったような。すぐ止めたんですけどね」
「……それだ」
「例えほんの少しの間でもですか?」
「……」
物質転送装置の謎は漸く全てが繋がる結果になった。うっかりで起動した物質転送装置がブラック、トードの先人を、突破の秘密兵器を、そして今この場に存在する14人のサムライド達を巻き込んだのだ。
「リュウ! てめぇのせいじゃねぇか!!」
「その通りですよ! 貴方のうっかりのせいで先輩が苦労したじゃないですか!!」
「かったるい!!」
「うるせぇ! そんなこと俺には覚えがねぇ!!」
「わ、若……若が悪い訳ではないのですがね、今回はそのーですね……」
今回の騒動は運がなかったとしか言いようがない。彼の身に覚えのない事であり、不可抗力もあったが、この場の全員が被害に巻き込まれてしまえば仕方がないだろう。
「まぁ待て。ここで見つかったから俺はいいとしておくぜ」
「先輩!?」
「マーズ殿! いいのですか!!」
しかし仲間揉めの状況は、団結なしに解決への糸口が見つからない状況では御法度とマーズは分かっていた。リュウにより二度も被害を被ったにもかかわらず、許容の心を持つとして軽く深呼吸して吹っ切れてみせる。
良くも悪くも拘らない彼であり、この点での拘りのなさは大人であることの現れだろう。
「あぁ。ひょっとしたら今よりも捜索に手間取る場合もあったかもしれないからな。深くは考えないぜ」
「あ、ありがとうございます!!」
「まぁ先輩がそう言うなら……」
「今は無駄に力を使いたくないしね。仕方ないとするわ」
「なるほど……でもちょっと質問いいかな?」
ほぼ全員が納得した様子だが、一人新しく生まれた疑問を抱いて手を上げる。サイだ、軽やかに大空を舞い、電光石火の戦いを見せる彼は、アキやミツキ程ではないにしろ、頭も勢いよくキレる所がある。なので、やや老いた親しい知恵袋へ答えを求める。
「この世界がパラレルワールドだけど、転送装置が仮にパラレルと本物の世界で発動した場合だけど……どうなるのかな」
「そうか。二つの世界でも転送装置が起動した場合、二つの世界へと送り込まれる先が別れてしまう場合もある」
「そう言われてみれば……ですが、拙者が引き込まれる感じとしては、私達が踏みとどまろうとする以外では引き寄せられる方向は一方でしたぞ」
「答えは出たな」
クーガの推論と、コジローの証言。この二つが一体と為れば、ブラックの脳内による方程式が答えを割り出す。
「大陸への道はもはや塞がれてしまったものだ……」
「「!!」」
答えが割り出された時、全く実感が出来ないまま呆然としたもの、メッセージに秘められた答えを把握した者、相変わらずいつものままの三者に分かれる。
「あれ、みんな何真剣な表情になっている訳? それだけヤバい事なのか?」
「シン……大陸への道が起動しない事は、物質転送装置が破壊され、その装置を修復る人々も存在しない……」
「シンさん、人々亡き都市は廃墟同然です」
シンにも理解が可能となった。物質転送装置が存在しない元の世界には、守るべき人々は存在しない事である。それは、彼らにとって戦う意義を見失う程の突き付けられた事実であった。
「私のヒタチ国はもう滅ぼされてしまったのね……」
「ポーさん……まぁ、あたしからすればトキノがいない大陸なんて滅びても……」
「アウアウアウ……」
「マドカ……ふふ。こんな時に限ってあいつの事を思い出してしまうものだぜ」
「キタオミ国のみんなは独立する事が出来たのかな……いや、独立しても結局……なのかな」
「許せ……るはずはないよな」
あくまでも仮定である。だが大陸の人々や、彼らの健在を示唆する物や人が存在しないこの世界だ。終止符が打たれそうにもない戦いに、不安定な根拠による希望が揺らぐことは難儀ではない。
「無理はありません。殆どの方が国の事を想っているのですから」
「……お前たちはずいぶん悠長だな」
「まぁね~過ぎ去った事は過ぎ去ったからね」
「自分がモーリ・トライアローへ復讐をする事には変わりないですから!!」
「……」
大陸の崩壊に、守るべき存在、思い出の土地が消え失せた悲劇に、戦士としての心構えで抑えながら、身体が倒れる事を逃れる。悲しみへ耐える者たちから、楽天的に構える後発の3人、相変わらず冷静沈着なミツキへは何か突き刺さろうとするような眼差しを向ける。
「皆さん。お言葉ですが冷静になって考えてください」
「ミツキ殿! この状況で落ち着けとは少し不謹慎かもしれませんぞ!!」
「いえ、三光同盟の目的を考えてください」
チカ、ヒメコ、ディアのように悲しみへ暮れる事を知らない者たちとミツキは同じであるか。いや、何かを答えを出して全員を導く事において、彼女達とは違う事、また頭脳派としての本領である。
彼女が提起した三光同盟の活動目的。これを知った時に頭が切れる者たちは、自分達が戦うべき相手の優位に立った事を知らされる。
「そうか。あいつらは大陸を復活させる為に日本列島の人々に戦いを挑んでいる」
「その戦いの先には何も得るものはないっていう訳ね」
「大変だ……あの三光同盟は、何も目的がないまま戦い続けている訳だ」
「その通りです。今三光同盟は破壊だけの軍団と化しています。ですから、今存在する命を守る為に私達は改めて戦わないといけない訳です」
「……」
「サイさん、悲しみに暮れる暇はありません。私達の戦うべき目的が定まりましたから」
故郷の独立への悲願が砕かれ、彼らの中では最も沈む様子のサイヘ、ミツキは戦いへ赴く必要性を説く。彼も決して一つの悲しみに打ちのめされるサムライドではなく、心の中で過去を断ち切り、決別し切った表情を見せる。
「シン、この戦いはこの世界の人々を守るべき戦いなんだ! 過去の事を引きずっちゃだめさ!!」
「あぁ! 俺達は尚更負ける事を許されない訳だ!! 三光同盟をこの戦輝連合が絶対倒して見せる!!」
「なるほど……どうやらお前達には戦わないといけない理由があるようだな」
サイとシンの決意に象徴されるように、少なくとも11人の心が団結へと運ばれようとしていた時だ。彼らの団結を呼びかけるきっかけでもあるブラックが一歩近づき、何故か手を伸ばす。
この彼の微妙な心変わりが、馬鹿にされていたシンからすればあまり良い印象ではなく、表情は少し歪んだようにも見える。
「あぁ。お前らのようにぬくぬくとその世界で生きていた奴らには分からないけどな!」
「ほぉ、言ってくれる。この私が共に戦いに出ようと言うのに」
「そんなこと……なんだって!?」
14人のサムライド達へ新たなる参入者が現れようとしていた。
続く