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第28幕 未知への突入

予期せぬ事態だ。


サムライド達を招く男ウキータは都の№2であり、自分の思うがままとなる機会に世界の統一を任せ、人間、サムライドを問わずに皆殺しの男だったからだ・


 男は都の使者である事を建前にサムライドを集め、黄金要塞諸共処刑せんとする。彼にとって至高の宴が開始された瞬間、逃げる者、殺す者の姿が見えた。己を生き永らえる為、己の欲を満たす為、バトルロワイヤルの世界へ彼らは放り込まれたのだ。


「お師匠、危なかったっすね」

「あぁ……」

 ゲン、ユキムラ、四戦士ら東部軍団。脱出に成功した者達だ。脱出に成功し、本拠地へ帰還する行為は、黄金要塞内と比較すれば容易なことであろう。野外では通信が回復する為にライド・マシーンを呼ぶことが出来る。それも脱出が容易となる理由だろう。


「ゲン様、義闘騎士団はどうなったのかしら?」

「大丈夫、なんて例えることは微妙かもしれないけれど、あの者達は脱出すると私は見ているわ」

「敵が助かる事を喜ぶのって変だなー」

 義闘騎士団の面々が助からなければ自分達は困る。義闘騎士団が爆発に巻き込まれて散るのならば、その程度にしか過ぎないからだ。

「俺はカキーザがあの爆発で死ぬ事を許さない。俺の手で叩きのめさないといけないからだ」

「そうだ。東部軍団は義闘騎士団を倒す事のみ。最も敵に生き延びさせるよりも、俺達が危機を乗り越えなければ意味はないがなプラム」

『はぁ~い。なんですかゲン様』

「今回の脱出の件。お前が外部から調査を行わなければ叶わなかった。礼を言おう」

「ありがとうございます~」

 ゲンら東部軍団が一足早く脱出に成功した理由はプラムの存在だ。彼女が外部から常に脱出口の確保を行っていた事にあった。ゲンに感謝の言葉を述べられ、プラムは猫を被るが内心では東部軍団の四人を出し抜く事が出来た事への優越感と、彼らへの侮蔑も含まれているだろう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「やった!ここから脱出すればいいはずだ!」

「ああ、ここからならば!!」


脱出を試みる者は他にも確認された。強固なる扉を溶解させたかのように開いたサークルから5、6人の影が見える。危機を乗り越え後は帰路に就く……はずであった。

「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

だが全員が穴から逃れた途端、空中から飛ぶ両手が全員を握りつぶす。腕からは鮮血が、破片が飛び散った。

彼らの体大半を掴んだ状態で両腕が向かった先は、別の両手。拳の付け根に備えられた取っ手を握る時、禍々しい鎧により人の部分を捨て去り、鬼と化したサムライドである。


「馬鹿め、馬鹿めが! ここから脱出する事が出来ると思うな!!」

男はベアドラーゴ。九州において悪逆非道を歩む虐拳鬼賊のトップだ。彼自身のパワーも相当なものであるが、彼らに従う計6人のサムライドが彼の両腕へ変形合体する事で鉄拳制裁形態として強力な拳を振るい、相手を撲殺するのである。

「ベアドラーゴ様、この出口を塞げば大勢のサムライドを血祭りに上げることができます」

 彼の左腕がひとりでに飛び、人の形と化す。手を開ききったようなアーマーを衣服のように着用する彼女がマナ。ベアドラーゴの右腕同然だ。


「殆どのサムライドが戦いに専念するか脱出のことしか考えていません。その状態でこそ、相手を一人でも多くたたく絶好のチャンスなのです」

「そうかそうか……しかしマナ、よくお前がこの場所を見つけたものだ。誉めてつかわそう」

「はっ。私はベアドラーゴ様が暴れられるお姿を見られるのなら、それで一番です」

 主君を信頼するかのように彼女は再び巨大な手へと姿を変え、ベアドラーゴの手の元に戻る。強大な拳を打ちつけられていき、ベアドラーゴの前に多々のサムライドが屍や残骸と化していた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 黄金要塞の内部ではサクラ、スネーク。北部軍団の二人が志が違うもシンへと迫った。しかし、彼へ襲いかかる脅威は、隣の部屋から突き破られるようにして現れた3匹の猛犬によって過ぎ去る事になった。


「なんだ!この化け者は!!」

「冗談じゃ……きゃあ!!」

 瞬く間に獣が身体をぶつけるようにして前へと進む。巨体の接近で二人は部屋の奥へと弾き飛ばされ、偶然か否か、飛び込んだ先の部屋の戸が閉まる、今シンと獣のみ。どのようにしてそのような戦いへと発展したのか把握出来ないまま口を開きっぱなしだ。

 今シヤァァァァァァァッとの咆哮と共に口からのつららが彼を目がけた。


「おっと危ない、危ない」

「……?」

だがしかし、シンへ飛ぶつららは何処からかの銃弾により粉砕された。両者が振り向いた瞬間、ライトゴールドの髪を棚引かせ、ライトブルーのボードを背中に装着した戦士の姿を目のあたりにした。

「あんか……俺を助けてくれたのか」

「へへ、俺はマーズ・グイシー。あの目の前の獣と、それを出す奴と戦う馬鹿なサムライドとも言っておこうか」

「マーズ・グイシー……」

それが男の名前だ。スカイブルーのボードを抱えて、ボルティングマグナムは煙をただ流すだけ。不敵な笑みでライフルのトリガーへ指を入れたままライフルの全体をくるくると回す。

「助けた恩を売るわけじゃねぇがボウズ、ちっと俺と手を貸してくれないか?」

「とりあえず同じ目標のあの獣を力合わせて倒せということか。でもよ、何のためにあんたは戦っているんだ」

「俺は別に明かしても困るような内容じゃないから言うぜ。俺はエリート気取りが支配する世界が大嫌いな性格。ただそれだけだぜ」

「じゃあ何がいいんだあんたは」

「普通が一番向いているということかな」

「なるほどね」

マーズが好む事は、世の中の流れは自然に流されるままである。誰かの苛烈な手により、強引に世界を変貌させるやり方は許さないつもりだったのだ。

「俺は自分で言うのもなんだけど、馬鹿だぜマーズさんよ。」

「馬鹿か。エリートよりは幾倍かましだぜ。俺も馬鹿に例えられるかもしれないからな」

 まぁ悪くはないぜと言うかのように顔を向けて、ウスキーへ向けて彼のノブシタックルの先端が飛ぶ。この戦い方を見て、シンもトライマグナムをトライライフルへ合体させて、冷凍弾が届かない距離まで置いて銃身を向ける。


「この世界のために戦う事は奇麗事かもしれない。そうクーガに言われるぜ」

「世界の平和が理想か。それはそいつの悲観的な見方じゃねぇか?」

「俺は平和のために戦う事。それサムライドにおいて当たり前の事だって考えているぜ?」

 平和のために戦おうとする者がここにいた。彼は初対面の相手だが考えで馬が合う所が多い。気が合う相手には初対面とはいえ心を開きやすくなるものだ。そして彼が戦場に飛んだ。


「俺は紅蓮の風雲児ことシンキ・ヨースト! シンとか呼んでくれたらいい!!」

「紅蓮の風雲児って肩書は知らねぇな。ただ俺の故郷ナインエリアは結構大陸から離れているから悪く思わないでくれよ! シン!!」

互いが名を明かした。凍結する獣を掴もうと空中からストラングルチェーンが巻きついて飛ぶ。

「先輩! ご無事ですか」

彼をしたい、追う兄弟が息を切らせながら現地に到着した。彼らが必死な形相を浮かべているに対して、慕われる対象は余裕めいている表情だ。


「わざわざ御苦労さん。俺は心強い味方がそこにいるもんだから大丈夫なんだぜ」

「お? 俺の事か」

「味方ですか? 新入りメンバーは私は聞いていないのですが」

「……かったるい」

シンが期待しても、後ろから二人には面倒な者を扱うかのように見られてしまう。事情も知られなく仲間と呼ばれても実感がないからかもしれない。


「まぁそう言いなさんな。今はそうだな。この世界におけば猫の手も借りたいと言う言葉がよく似合うシチュエーションなんだぜ」

「それはそうだが……かったるい」

「先輩がそういうなら私は否定しません。いそれよりどちら様ですか?」

「俺はシンだ。あとマーズさんよ自分で言うのもなんだけど弱くはないぜ。猫の手どころでは済まないぜ」

「言ってくれるじゃねぇの。ライド・クロス!!」

生意気な言葉は実力に裏打ちされてのもの。ライド・クロスと叫び、背中に装着されたボードが空中でアーマーとして形を変えて彼の両手両足へ装着される。ボーディングフォームだ。


「今はこれ以外ライド・クロスできねぇが……装着する方がましだ」

「1つだけしかって他に何かライド・クロスできるとかいうのか」

「はい。先輩は4機のライド・マシーンとライド・クロスする事が可能なマルチライドクロス戦法を得意としています」

「そういうこと」

 マーズの得意戦法はライド・マシーン4種とライド・クロスする事が可能であり、4変化する能力を持つ。ボーディングフォームはスピード・偵察に長けた形態である。


「愚かな者たちの部下が増える訳ね」

「何だと!?誰だ」

「ここ……」

 だが、休む間もなく、魔獣の右肩にちょこんと水色の少女が現れる。水色の髪にブリーツスカートの少女はリン。マーズからすれば宿敵に当てはまるサムライドだ。


「こんな子供がこの獣を……ってあれライド・マシーンの一種か?」

「子供……」

 案外言われることを気にしているようである。リンもミツキ同様表情から感情が読めないサムライドだが、子供扱いをされることは嫌いなようである。

「違うぜ。あれは魔法による召喚獣だ!」

「召喚獣? 魔法? なんだそのファンタジックすぎる世界はよ」

 シンからすれば、そのような事を解らないものである。大陸の世界においても、この世界からしても機械と機械の死闘であり、魔法が介入する余地はどこにもなかった。それだけに魔法という飛び道具は反則だ。


「やべぇなぁ。こういうのって本人を倒せば何とかなるのかな」

 魔法を使うサムライドと言われてどのように対抗すればいいのかは分からない。こういう場合本人を倒せばいいと、少しでもプラスにシンは考える。

「いい所突くなシン。あいつ、リン・フランシスコを狙っておけば何とかなるぜ!!」

「なるほど、合ってた訳ね。こういう女を手に掛けるのはちょっと気が引けるが」

「私は神ですから。馬鹿とは違います」

 

トライマグナムを両手に飛びあがり、シンは彼女には躊躇しない。多分馬鹿と髪は違うとか言われてしまったゆえだろう。

 しかし、彼女はかすかなに口を動かして前方へ竜巻を生む事で、幾多の銃弾を風の中へと引き込んでは消す。これが彼女の魔法だ。

「シン、リンは風や氷の魔法を使う訳だ。気をつけろ!」

「先輩、4対1でしたら数においては有利。一斉にたたみかけてしまえば倒す事も出来るはず」

「そうはさせん!!」

 数では確かに優位だ。だが、彼女は例え独断行動を取ろうとも、後から従う二人のサムライドが存在している事も事実。半身車椅子の男と、彼に従う紅の甲冑を纏う戦士の姿だ。


「リン様のいられる場所。その場にわしがいる事を忘れてもらっては困るな」

「そして先生のいるところ、この俺がいる事も忘れないでほしい!!」

「おいマーズさん、また誰か現れやがった!!」

「ロードス、ショウ。リンに仕える相手でなぁ……」

「かったるい事に雷、炎の魔法を使うやつだ」

「なんてこった……俺達は魔法使いのパーティと戦えっていうわけか」

 シンは思わず苦言してしまう。相手が氷、炎、雷と三つの属性を司るような魔法使いを相手にしているものだからだろうか。


「何、魔法使いか何だろうとな、強ければ勝てるぜ。そこであきらめちまうのかい?」

「マーズさん、そう言われたら退くなんて言えないものだね!!」

「それでこそ男ってもんよ!!」

 だが、シンは少しの事で怯えを感じる男ではない。マーズが半分挑発するように戦意を促されれば、自ら戦いへと急いでしまうようなサムライドだ。


「マーズさんよ、今はあんたの為に戦うけど、戦いが終われば俺の願い聞いてくれよ!!」

「考えとくぜ」

「それを聞いて安心したぜ……てやぁぁぁぁぁぁっ!!」

「邪魔……」

 トライマグナムを放ちながらシンは勢いよく走りだす。しかしリンの手からは小さな渦巻きが巻き起こり、風が投げ飛ばされるとともに、巨大な竜巻と化してシンを飲み込む。

「おっと後ろががら空きだぜ」

「何……?」

 だがしかし、真っ先に突入を試みたシンはミラージュ・シフトにより生まれた分身である。分身が巻き込まれている隙に本物の彼が宙で回転しながら、リンの元へ銃口を構えた。

「お前が魔法と化を使うならば、こっちは忍術、分身の術だってね!!」

「リン様……若造ごときにさせはせんぞ!!」


 だがロードスの存在をシンは忘れていた。彼の椅子の腕置きからはプラズマが一直線上に放たれ、本物の彼はプラズマに包まれた状態で空中へ押し戻され、天井への激突と共に亀裂が入る。罅は瞬く間に深く、確かなものと化し、岩盤は横からの固定を許さずに地面へと落ちていく。

「うわぁっ!!」

「きゃっ!!」

「リン様!!」

一気に岩盤が落下していく。岩盤が地上へ移る中で、中央で先頭を繰り広げた3人は瞬く間に地面を消す。

「シン、大丈夫か?」

 彼はここで消えたのか。いや、大重量に押しつぶされる直前、マーズが駆け付けてこれを救出した事で彼の危機は免れたのである。顔をあげれば崩れ落ちた部屋の先にリン達の姿は一人も見当たらなかった。

「あいつら落盤に巻き込まれて死んだのか?」

「いーや、そうじゃねぇぜ。多分魔法を使ってテレポートしやがったんだ。やれやれ……」

 宿敵との戦いは、彼女達の魔法によるものか。特に要塞内部の大落盤が原因、第三者の介入同然に戦闘は幕を閉じてしまった。

 宿敵を倒す必要が亡くなったこの要塞。彼らは脱出を目指さなくてはならなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「カキーザとか言いまして……貴方のような品のない方に私は遣られる訳にはいきませんのよ!!」

「貧と化の関係じゃねぇ!ココとバシータを返しやがれ!!」

 一方、召喚獣に弾き飛ばされる形で別の部屋へ放り出されたサクラだが、彼女の先には一人のサムライドが待ち構える。

カキーザ・カーゲイ。義闘騎士団の№2であり、彼女に遊び半分の形で部下の命を奪われた因縁もある男だ。


「しかし適当に動いてみれば収穫があるってもんだぜ。なぁサクラさんよ!!」

「気安く近づかないでくださいまし?」

 サクラの両手からは無色の波動が放たれる。彼女の両手から放つ重力、それが翔将波だ。並みのサムライドであれば重力波により、圧縮されてしまうことが結果だろう。

「ココとバシータを壊した重力波か……ええい、負けたと思えばそれまでだ! 意地でも切り込んでやる!!」

 しかし、カキーザには意地があった。彼はライド・アーマーを着用していた事もあったが、VAVAとの決着が付いていない状況で敗れることが許せない。自分の意地が自分を支えているようなものなのだ。


「な、なんですって……きゃあ!!」

 今ヴィルヴェルヴヴェントが彼女の顔を掠め、思い切り地面へと叩きつけさせた。両腕の先端には鋭利なドリルが唸りを上げ続ける。

「……見たかココ、バシータ。俺は重力を振り切ってやった!このヴィルヴェルヴェントでな!!」

「重力はで押し殺すことは不可能……ライド・アーマーの力かしら」

「小細工はここまでだ。手目ぇの体、風通しを良くしてやるぜ……!?」

 カキーザが余裕を持っていたはずだった。

だが、突然か。両手のドリルが一刀両断にスパッと落とされ、強大な圧力に耐えた兵器の両先端。断面が晒される。

「ヴィルヴェルヴィント、限界まで来ていたかもしれないが、想定外だ!!」

「貴方のような方にサクラ様をやらせる訳にはいきません!!」

 カキーザが目を向けた先、ウェイトレスのように清潔感と機能性を重視しつつも、そこから生まれる美しさに包まれた少女の姿を見た。


「ト、トリィ……!?」

 サクラへ一途に従う少女が、絶望のあまり姿を消したはずの少女が再び現れた瞬間であった。

「お久しぶりです。サクラ様、あのとき……私の非力さが原因で屈辱を味あわせてしまいました」

「トリィ、あなた、貴方いったいどのようにして……」

「事情は後で説明します。それより、九死に一生を得て、新たによみがえった私が貴方に負ける訳にはいかないのです」

 サクラの為にならトリィは何事も投げ捨てて戦う覚悟が出来ている。そんな彼女が義闘騎士団の荒くれに立ち向かおうとしている。

 小娘に見くびられることは望みたくはない。カキーザの両手からは彼女を包む様なチェーンを飛ばす。パンツァーアイゼンだ。何も気づいていないのか。彼女はパンツァーアイゼンの鎖へ引き込まれようとしている。だが


「ぐはっ!!」

 彼女の肩に備えられたパーツ。箸のように鋭利なショルダーパーツがカキーザの元へ振り落とされた。両肩からの箸が彼の肩を一直線へと切り裂き、素早く握ったスプーンの腹が彼を叩き飛ばした。


「にゃろう……やってくれるじゃねぇか!!」

「これ以上サクラ様に傷をつけると……本気だしますよ」

「ちくしょう……言ってくれるじゃねぇか!!」

 カキーザが戦いにおいて戸惑ったり、恐れをなしたりすることはない。だがトリィも同じ姿勢である所は意外なものだ。激戦をトップで切り込んだ男に対し、一人の少女は武勲がなくとも退く気配を見せないのである。


「サクラ君!」

「ウ、ウキータさん!?どのような事がありましたの?」

その時、通路の壁を一回転させながらウキータの姿がサクラの後ろに現れ、そっと息を吹きかけるように口から言葉を出す。

「いや、三光同盟の皆が既にこの黄金要塞から脱出をしている。それなのに何をやっているのかい」

「三光同盟の……ケイ様がということは私も早く逃げなさいと言う事ですわね」

「その通りだよ。僕は君を死なせたくはない。早く逃げるんだ」

「あのカキーザとやらは許せませんが、ウキータさんが言うことならば。トリィ!」

「サクラ様、私は早くこのカキーザ様を!!」

「……んもぅ!」


 トリィはカキーザとの戦いに没頭してしまい、サクラと共に動く任務を忘れかけていかもしれない。この状態ではサクラを逃がす事が出来ない為、今後の行動に差し支える。ウキータが指をはじいた時、天井の壁を突き破り紅翔魔が飛んだ。


「鷹だ……あの鷹が何故!!」

カキーザにとっては二度目だ。東日本における場所でも紅翔魔が暴れた挙句、宿敵同士と戦う余裕は失われた。

 しかし、直接戦うことは今までになかった。瞬く間に紅翔魔が自分の両肩関節を掴んだまま上空へ飛ぶ。これにより時間を稼いだ隙に二人はウキータに従われる形で要塞から逃れる事を選ぶ。


「ぐわっ!!」

 そして、天からカキーザが地面にたたき落とされた時、戦うべき相手の姿は見られなくなり、その場にはミーシャら義闘騎士団がようやく到着をした瞬間であった。


「カキーザ、お前……」

「ちくしょうミーシャ。三光同盟とか訳が分からない相手ばかりだぜ」

「……!」

「カキーザがそんなこと言うなんて余程のことなんだな……」

 地面へ衝突した後のカキーザだが、珍しい程に慎重な姿勢を見せた。彼は自分が進める限り全力で突き進むタイプの男だ。しかし、自分一人の手ではどうしようもないと思った瞬間、彼の冷静さというスイッチが入る。

 彼が突っ張っている間はどうにか物事は片付くようなものであるが、今のような態度になれば現状では勝てないという意味だ。

「ノン!カキーザ、僕たちは今までこのやり方で勝ち進んできたじゃないか」

「いやナオ。カキーザがそのように事を考えるのは重大なことかもしれん……」

「そうなんだと思うんだな。ミーシャ様。おいら達は倍以上の敵と戦ってきたんだけど、相手も同等の実力者。今まで圧倒的に押されていないことが奇跡なんだな」

「むぅ……」


№2の冷静かつ慎重な意見。ミーシャが己の信念、思考を転換させるきっかけだったかもしれない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「しかし、都の№2が俺達を皆殺しにするとはとんだ権力の濫用だ!!」

「そうは言っている暇はないわ!早く出口に通じるところを探す必要があるんだから!!」

 そして、クーガを含めたチーム厳龍の面々もまた黄金要塞からの脱出を試みる。だが厳龍側ではリュウとコジローがはぐれた状態のまま。なので、二人を探す事も使命であった。


「私のO-DAWAシールドでは結構防ぎきれないところがありますからね」

「シャッシャッシャッシャ!!」

「ったく……あ、見えたわ!」

 アキが察知した出口。それは未だに戦い続けるサムライドが居座るように存在するせいで、まともに出口をこじ開けることが出来ないような地点だ。

「おらおらおらー!!」

「でやぁぁぁぁぁ!!」

「いた……」

 それだけでない。リュウのドックガーンが、コジローの覚醒状態で放つ鉄拳。用は二人が戦いの中心部として存在していた事である。


「よし、なら一撃加えてやるか」

 一斉にサムライドを消し去ってしまえばいい。クーガが誇る巨大筒が展開され、サムライドの群れを狙う。

「まぁクーガちゃん! リュウちゃんごと攻撃に巻き込むつもりな!?」

「この多勢の敵を撃ち落とすチャンスだ! 俺にはリュウやコジローとやらは赤の他人だ!!」

「なら、それでいいんじゃない?」

 仲間を巻き添えに活路を切り開く事をアキは良しとするタイプだ。彼女曰く、二人がこの程度の攻撃にくたばるならそれまでということである。

「結構冷酷だなお前」

「まぁね。あたしは仲間が一人消えてもたかが一人としか考えていないから大丈夫なのよ」

「それならば、それでよい。俺には所詮関係がない相手だからな」

「あんたも結構ドライね」

「お前のような冷血に、冷めた俺も……案外やりやすいものだな!!」


 巨大筒の深紅の光があらゆるサムライドを吹き飛ばし、または消し去る。そして光が飛び去った瞬間はサムライドの影は全く見つからないものだった。


「これで思いっきり消滅ということかしらねー」

「おいごらぁ!!」

 辺り一面ががらんどうとなった筈。しかしどすの利いた声がアキに向かって吐きつけられ、言われた方の彼女は真上を向いた。


「い、いったい何しやがるんだコラ!!」

「おい、若を巻き込んで砲撃するとはいい度胸じゃねぇか!!」

「あら、あんた生きてたの。少しはやるじゃないの」

 リュウとコジローは巨大筒の光が及ばない天井にぶら下がっていた為に危機を逃れることができた。だが助かったからといえ、味方を巻き添えにする攻撃方法は問題であろう。納得がいかないリュウに代弁するように、コジローがクーガの襟元を掴んだ。

「そのような問題じゃねぇ! おいお前、あんな威力のビーム兵器を、しかも俺達を巻き込んで使うなんてどういうことだ!!」

「仕方がないだろう。俺たちは早く黄金要塞からの脱出口を確保しなくてはならないからな」

「そうよ。このクーガとかの行動はあたしが認めたから仕方ないわ」

「まぁ二人とも無事でしたら大丈夫ですよね」

「ザマァミローイ!!」

「……」

 しかし、周囲は助かったから大丈夫だという雰囲気である。クーガという男も当てはまるかもしれないが、チーム厳龍のサムライド達は何処か煮て食えない者ばかり。青臭い事を言って反発するようなことはあまり意味がないと見てコジローも諦めるように首を一度フル。

「なるほど、皆がそういう上に俺たちも無事ならばあえて何も言わないでおこう。そうだ……」

 とにかく忘れた方がいいだろう。コジローは自分のエネルギーを防ぐためもあり、覚醒の姿を平常時、礼儀正しい従者としての姿へと変えた。

「拙者はコジロー・カタクラ。第6世代サムライドリュウ・イダテンこと若のお目付け役で同行している身でございまする」

「へへへ! 俺様がそのリュウ・イダテンなんだけどな!!」

「知らないな」

「あだっ!!」

 待っていましたと言わんばかりにリュウは名乗りを上げる。だが大陸時代全く接点がない二人のうえ、名前を轟かせた訳ではない。クーガが知らない事も無理はないはずなのだが、

「てめぇ! 俺様の事を知らないなんてどういう神経してるんだゴラァ!!」

「若勘弁してください! 彼は多分他所のサムライドですから!!」

「何仲間割れしているのよ!!」

 リュウからすれば自分は誰にも知られていて当たり前の姿勢である。そんな彼をコジローが抑え、アキが突っ込みを入れた。


「……とにかく俺は他の3人を探す必要がある」

「あぁ、そうねあんたにも一応馬鹿を探す使命があったと言ってたわね」

「まぁその通りだ。俺の仲間に合わせる必要があると言うことだ」

「でもあたし逃げ道を探す必要があるからね~。さっさとしなさいよ、あたしたちあんたらの仲間に付き合うほど余裕じゃないんだから……」

「クーガ!!」

 クーガも残り3人を探そうとした時だ。早速2人が現れ、一人は空を舞う金髪、もう一人は考えが読めない青髪だ。

「サイ、それにミツキ。お前たちよく俺の場所が把握できたな」

「僕のサーチャーを少しだけでも調整すればこの場所を把握する事が出来たんだよ。でもね、結構強力な電磁妨害がなされているから注意した方がいいね」

「はい。おそらく、仲間との連絡方法を断つことで、戸惑いながら脱出する姿を眺めることをウキータとかは喜ばれているのではないでしょうか」


一人取り残されたサイだったが、彼の頭部に備えられたアンテナは並みの通信機以上の精度を誇る。混雑した状況の中で移動は困難だったものの、彼の元へ辿り着く行為は決して厳しい訳ではなかった。


「これがあんたの仲間? 馬鹿と言うにはちょっとばかりかわいそうな気もしなくはないけど」

「ク、クーガ。僕馬鹿なの?」

「勘違いするな。あの馬鹿を指した事だが、その馬鹿が全然見つかる気配がないという事だ」

「なーんだ、むしろあんたなんか、あたしの考えを口にしたくない感じだからね」

 サイとミツキ。アキからすればそれなりに利発な方と考えられるようだ。特にミツキは戦輝連合の頭脳である事もあり、目をかけ始めており、ミツキも自分が注目されている事に気付いた。

「自分で言うのもなんですが、貴方見る目があるようですね」

「ふーん……じゃあさ、あたしの考え読める?」

「クーガさんとゲンを倒す事で利益が一致して手を組んで、あとは隙をついてクーガさん達を始末するとの考えではないかと思います」

「……へー」

 彼女の顔はあくまで芝居の範囲か本音か分からない微妙な加減で焦り顔を作る。アキの考えである。


「ですが私は別にかまいませんよ。力を得るのには何かの代償や悪条件はつきものですから」

「ミツキ!? 利用して僕達を殺そうとする相手と手を組むなんて正気なのかい!?」

「はい。要は自分が利用されないように相手を手なずける事が大事ではないでしょうか」

「という事か……最もこの女も信頼できるかどうかといわれれば微妙だがな」

 クーガが提案した彼女達との同盟をミツキは気付いたか否か。しかしミツキも、アキも互いの同盟において利益を得られるだけ得て、後は切り捨てる考えのようである。


「クーガ!こんな所に居たのか!!」

「シン! まさかとは思ったがお前までここに来るとは!!」

 だが休む間もなく最後の仲間がやってきた。そう彼がアキへクーガが告げた馬鹿のことであろう。その馬鹿は3人のニューフェイスを連れているようである。


「へぇ、これがシン、お前の仲間というわけか。随分多いんだな」

「そうかってあれ? 俺の知らない間に仲間が増えているってことなのかな?」

 シンですら戸惑うのには無理はない。彼の知らないサムライドが5人。クーガとの様子からすればいつの間にか仲間と化していることであり、またクーガからすればシンと共に行動する3人は未知の存在となる。


「あれ、シン君も仲間を連れてきたの?」

「あぁ。九州南部とかで戦っているマーズ・グイシー。そして彼の後輩イシン、リュウハクだ」

「九州って……結構遠いんですね」

「まぁそう言いなさんな。仲間は増やしておいても増やされてもそういう問題じゃないぜ」

「……」

「ごめんなさい。先輩は良くも悪くも大雑把なところがあるようなので」

「そ、そう」

 マーズは良くも悪くも適当な所が目立つ男。慎重なサイからすれば少々空回りさせられてしまう所もある。そんな二人の間をフォローする者がイシンであった。


「まぁ、これだけ集えば、ゲンへ対抗する事が出来るんじゃないかな俺達」

「九州を拠点とする者は機能するか分からないが、チーム厳龍と組むことができたからあながち間違いではないな」

 シンの言う事も今回は理解が出来る。五強の一人を味方につけた瞬間であり、同じ五強には五強をぶつければいいとも感じたからだ。

「さて、後は脱出して今後の戦いを考えま……」

「いや、まだ俺様は納得いかないぜ!!」

 そんな時シン達へ待ったをかけるサムライドがいた。リュウだ。逃げる事を望まない俺様至上のサムライドだからか。コジローも戸惑う事から、彼が考える理由は分からないようである。


「わ、若どういう事ですか!!」

「お前のレーダーに敵っぽいサムライド達が反応しているじゃねーか! これを放っておけとか言うのか!?」

「わ、若! 自重してください、まだ近くに敵がいましても危険極まりません!!」

「うっせー!引っこんでろ!!」

「そ、それは……」

 リュウが戦う理由は近くに敵がいるからである。とにかく全てのサムライドを従えさせる、暴走族のトップのような考えがリュウにはあるのだ。こればかりはシンですら呆れた顔を隠せない。またクーガにとってはシン以上の怖いもの知らず、また猪突猛進がいる事実を実感させられる瞬間でもあった。


「あのなぁ、今ここで脱出しないと俺達お陀仏。死ぬのは勘弁だぜ」

「シンさん……あなたにしては結構いい事言いましたね」

「あなたにしては……どういうことなの」

「いえ、褒め言葉ですが」

 さすがにシンですらまともな事を言う。ミツキからすればまずあり得ないことのようであるようで、会話の間に少々の空白が生まれている程だ。


「俺様は絶対死なねぇ! この要塞において最強だって事を証明してやるんだ!!」

「最強ってあのなぁ……」

「とにかくお前達よりは俺様が強い! いい気になるんじゃねぇ!!」

「な、何だと!!」

 珍しく落ち着いた対応を取っていたシンでは有るが、リュウに挑発されてしまうと頭に血が上ってしまう。そこはやはり本来のシンらしいといえばらしいが、ここで短気を起こしてはならなかった。


「おいお前! 最強はお前だと言うけど、少なくとも俺の方が弱いなんて考えた事はないぞ!!」

「待てシン、お前にしては先ほどまでいい対応をな……」

「やるのか独眼竜の俺様と!!」

「その言葉そっくりそのまま返してやらぁ! クーガ、これは俺とリュウとかの問題だ!!」

「いや、お前とこいつだけの問題では……」

「その通りですぞ若! 今は戦うよりも逃げる事を最優先とすべきではないかと思っています」

クーガとコジローがシンクロし合うように、私闘を禁じようとする。


「止めるなクーガ! この分からず屋を俺が叩きなおしてやる!!」

「止めるんじゃねぇ! 俺様が最強だってこの世界に証明させてやらぁ!!」

「……これがあんたの言うあの馬鹿の事ね」

「正解だ……」

 しかしこの二人は血の気が多いサムライド同士。互いに触発して怒りの炎を燃やすような関係である。

「!?」


 真っ先に攻撃を仕掛けた者はシンだ。彼のトライマグナムがリュウの右目を掠め、黒の物体が足元に落ちた。

「とりあえずちょっとばかし驚かしてやったぜ……あれ?」

「シ、シン殿!!」

 シンは威嚇のつもりであった。だが右目の眼帯が外れたリュウは突然体を大きく震えさせ、不敵な笑いを浮かべている。彼を知るコジローの様子は、もはや精神を安定させることが不可能な様子だ。


「ね、ねぇ。リュウ君とかって一体眼帯の下に何があるの?」

「そういえばあたしも聞いてないわね。この際だから説明しなさいよ」

「そ、それはですね……」

「シャアアアアアアアアアアッ!!」

 コジローへサイとアキが詰め寄った時、リュウの右目からは漆黒のエネルギーが一直線に放たれる。天井へぶつかったエネルギーは、天井に激しい渦を作り始め、黒の空間は何かを巻き込み始めようとしており、この場に存在したサムライド達の体が震えた。


「ちょ、ちょっと! どういうことなのよコジロー!」

「若の右目はデワ国最新の物質転送装置が搭載されているんです!!」

「ぶ、物質転送装置!? 何でそんなものが……」

「あらゆる物質を好き放題ワープさせるつもりでしたが、開発にとん挫して眼帯で未完成の状態を隠していたのですよ!!」

「そ、そのような物騒な兵器を隠すな!!」

 他のサムライド達が狼狽する事は無理もない。リュウの眼帯の下に眠る物質転送装置が発動して、この場にいる者が全員巻き込まれようとしているのである。

「のわっー!!」

「だ、誰だあんた!!」

「おかしいです! 自分は確かのモーリ・トライアローを追いかけてここまで来たはずです! それなのにどういう事なんですか!!」


天井から突然姿を見せたサムライドが一人渦の中に飲まれて消えた。訳のわからない何者かに心を揺るがされた時、何人かが渦の中に飲み込まれていき、シンが吸い込まれることも時間の問題である。


「どうやら大人しく巻き込まれた方が何とかなりそうですね」

「ミツキ、どういう事なんだい!?」

 その時ミツキは意外な事を言い出した。彼女曰く押してもだめなら引いてみろの要領であり、強力なエネルギーに対して、無駄に飛んだり耐えたりして抵抗するよりも、そのまま流される方が被害は少ないと考えたのだ。


「そんな、このまま流されて大丈夫なのかい!?」

「少なくとも大人しく黙って待つよりはよしとしましょう。このままでは爆発に巻き込まれて助かりませんからですね」

「なるほど。どちらにしろワープすればどこかへは行けるし、敵陣へ突入すれば殴りこむのみだ」

「おぅ、シン。それも悪くはねぇな!!」

「お前たちはどれだけ余裕なんだ」

「かったるい……」

 何処にも知らない空間へと飲み込まれていく。だがシンは八方ふさがりの状態で何処かへ飛ぶことが勝機へのきっかけではないかと見た。


 そして、彼ら全員が漆黒に飲み込まれた直後黄金の要塞が跡形もなく吹き飛ぶのであった。


続く


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