第26幕 陰からの勅命
大陸二万年の眠りを超えた因縁の戦いが巻き起こる。
覇を唱える者は父と弟の敵を取る為に、義を貫く者は力に追われた者の無念を晴らす為に。譲る事が出来ない両者の激突は必然であり、予測以上の激戦が繰り広げられる。
それだけではない。
主君へ自分を託し、戦士団として、たがいの怒りを超えて戦う者、
ナンバー2としてトップを守ろうと戦う者。
そして互いの美学をぶつけあい戦い合い者。
2万年の時を超えた敵味方が争いに区切りをつけない理由は、2万年の時ゆえである。因縁を持つものだからこそ戦う事が出来るのである。
だが戦いは双方の思いだけで行われるものではない。今、第3の考えを持つ者たちが戦場へ介入せんとしていた。
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「グガァァァァァァァァァァァァッ!!」
第三勢力の介入。先陣を一匹の獅子が持つ爪で掻き切る事で始まる。
互いの味方ではない新たな敵は、金と黒の獅子は鋭利な前足で倍サイズの量産型兵器を切り込む。
10倍以上の量産型兵器の無限軌道をを爪で抉り、空中のアロアードを、まるで餌に貪るようにして歯で喰らう。大多数の敵を軽く吹き飛ばし、彼は目の前の肉を食いちぎるかのように、装甲を噛み割る。
「あれは……義闘騎士団の新手か!?」
「いや、義闘騎士団がそのような……俺は見た事あるぜ!!」
「シゲルだ! 眠れる獅子ポーの右腕……電光石火の戦闘狂だ!!」
「ヒャッハァァァァァッ!!」
戦うこと以外に何も考えない。電光石火の獅子シゲル・ジョーに言葉は通用しない。ただ己の体と力、技を言葉代わりにして送るようなものだ。
「邪魔だ邪魔だ! どけどけどけーヒャッハー!!」
「うわっ!!」
「きゃっ!!」
シゲルの介入に、アリカとサタケとの交戦状態が割り込まれてしまう。強烈な獅子の勢いが幼い外見の少女を跳ね飛ばしてしまうが、一方、サタケは何を思ったのか前線へ思い切り飛びこむ。
「あいつがいない! なんなのよあの敵! あたしの立場ないじゃん!!」
立ちあがった彼女の視界へは新米の騎士はいない。何をしでかしたか分からないまま勝手に去っていくシゲルの存在は、不機嫌である彼女をさらに苛立たせるものであるが、彼は何も考えていないはずであろう。
「んもぅー!!」
彼女の地団駄を誰も聞かないのであろう。果たしてサタケはどの場に存在するか。それを把握する事をシゲルは許されているのだが、戦い以外に鈍感の彼が把握する事をしようとはしないだろう。何せ彼は戦いにしか興味がないうえに、特に何の害にもならないと判断したからであろう。
「ひやぁ危ない危ない……あの女ちっこい割に強すぎるぜ……」
サタケの執った行動はシゲルの腹に捕まる事であった。よく馬に体を隠すようにしてしがみつき、相手の攻撃を避ける例があるが、今のサタケは馬を獅子に代えて同じ真似を行うものである。
「何か分からないけど、こいつのおかげで九死に一生を得たわけだな俺」
「アオッアオッ!!」
「何、バントウ? そいつは味方ではない。むしろ敵かもしれないだって!?」
腹に捕まるサタケに、バントウが手足のワイヤーを使いしがみ付く。彼にしか分からないバントウの言葉は、彼よりはるかに良識と常識がある言葉である。
「そ、そりゃあそうかもしれないけど、どさくさにまぎれて戦いから逃れたら大丈夫だってーの」
「アオン!?」
「スタークレストのエネルギーがないからだって……よく分かったね、いや本当」
「アオアオアオ!!」
臆病なサタケにとって、恐れとそれから身を守る本能を力と変えるスタークラフトだが、燃費が決してよろしくない所が最大の欠点であった。相手を攻めようとしても、守ろうとしても。どちらにしろエネルギーが尽きてしまう事が近いのだ。
スタークレフトがないサタケは単なるヘタレに戻ろうとしてしまう。逃げようと考えていたサタケからすれば、シゲルの介入は絶好の機会だ。
「そ、そうだ。ついでに誰かに介入すれば俺のおかげで誰かが助かるかもしれないしな。よし、サイトあたりが……うわっ!!」
しかし現実はサタケへ安易な道を与えさせようとはしてくれない。腹にしがみつくサタケを何者かからの頭痛が襲い、つい手を腹から離してしまったのだ。
「いたたたた頭が、頭が!!」
「もうあのバカ! どうしてこいつが取りついている事を知らないのよ!!」
地面へ落とされた彼の前に一人の少女が起つ。ロングの金髪は腰のスカートの丈まで届き、髪は何処か妖しげな可憐さを纏う。本音を読む事を許されないように混沌と化す紫の瞳に、残忍な笑みを見せる。
彼女を目にした時、戦いへの恐怖感から戦闘本能を呼び覚ますにはふさわしいものである
「何? あたしの顔を知っているようね……まぁあたしはあんたらの結構恨まれているからね」
「……てめぇ! 俺の顔を忘れたと言わせてたまるか!!」
ライド・アーマーのヘルメットを外した時、彼は緑がかかった頭髪を靡かせながら素顔を見せる。狡猾な彼女を前に素顔をさらすことは危険かもしれないが、今のサタケには彼女への復讐を果たさんとする意志で動くものであった。
「あんた……あぁ、生きてたのね?」
「俺が生き延びたのはバントウのおかげだし、俺は新しい力を手にしたんだからね!!」
「うひゃあまいったねあたし……人から恨まれるのは慣れっこだけど、仕留めそこなうのは久しぶりだわ」
「お前にシラカも、ナスも、ムモーもみんな殺された! そいつらの恨みを思い知らせてやる!!」
サタケは一応サムライドとして、また一応戦う理由がちゃんとある。それは大陸時代に全サムライドの粛清を企むアキの巻き添えを仲間が喰らってしまった事にあるのだ。
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「勢いで迫る相手ほど倒しやすい相手はないんだよね~」
ライド・ロールとソー・ベガスを両手に握るサタケの突撃。しかし、彼女にはそのようなワンパターンな勢いでの攻撃方法程倒しやすい相手はないと見なしている。尻尾に身を包んで、姿を瞬時にして無と化す能力が、九尾の力として数えられる消身布である。
「姿が消えた!?」
「こいつで止めを刺してあげるわ……死滅針!!」
誰にも悟られない間に彼女の体が空中で静かに動く。同じ九尾の力による能力・死滅針は、サムライドの人である部分に反応して猛毒を発する彼の力である。
しかし、彼女が持つ矢と化した九尾の内一尾は彼を仕留めんとするが、戦闘用に纏うライド・アーマーには彼女の死滅針はペキリと折れる。
「折れた……そのライド・アーマーを着用しているせいね……!!」
「すげぇ……よし!!」
ソー・ベガスのスイッチを入れれば、彼の握る長棒の先端が光と化してアキの元に飛ぶ。しかし、彼女は単に尻尾の小細工だけで戦うサムライドではなく、既に備えた彼女は実力を備えている。先端の光を空中へ滞空して回避し、背中を向けたまま、一尾がサタケに向けて飛んだ。
「ならこうするしかないかしらね!?」
彼女の尻尾から飛ばされた光は、相手の眼の色を虚ろにさせるものであり、彼の視界からは彼女達の姿が消えてしまい、自分と同年代の外見である3人のサムライドが映った。
「シラカ、ナス、ムモー!お前らどうしてここで!」
「やめろサタケ! アキを攻撃する事が俺達を攻撃させることだ!!」
「……どういうことだ!?」
「俺達はアキに敗れて封印されてしまったんだ! 生かしてもらう代わりに俺達はアキに封印されてしまったんだ!!」
「ええっ!?」
「アキの尻尾には相手を封印する全収壺という能力があってな……」
「相手を吸収する事が出来る能力を持っているんだよ!!」
「死んでいなかったのか……でも、それじゃあどうなるんだよ……」
サタケに迫るかつての仲間たちからの真実。破れた代償として、アキの尻尾の中に彼らは閉じ込められているのだ。一瞬その尻尾を断ちきれば勝機が見えるのではないか。彼らを救う為にもそれを行動に移そうとした。しかし、
「そういう事をやると、生命維持エネルギーの供給が途絶えて俺達死んじまう!!」
「サタケ、お前の気持ちはわかるが俺たちを助けたほしいならアキを救ってくれ!!」
「ええ……それを言ったら俺は」
「それは堪忍してや! 俺、死にたくないよ!!」
サタケにとって予想も出来ない事態である。仲間の敵を討つためにここまで来たサタケだが、彼女はよりによって彼らの生命線ともいえる存在。倒したら死ぬ矛盾した存在を目の前にしているのだ。
「嫌だよ殺されたくないよ!」
「やべぇ……やべぇよ、俺どうするんだ……いてて!!」
なすすべがないと見たサタケであった。しかし、瞬時に彼ら3人の姿が消滅してしまい、元のアキが、やや舌打ちをしたがるような様子で彼をチラッと見る。
「あれ、俺何を見てたんだ。バントウ?」
「アオアオアオ!!」
「ちっ、あたしの変心灯がばれてしまったわね!」
バントウによりアキの尻尾からサタケは解放された。これも彼女の九尾の力として数えられる能力・変心灯。相手へ向けて尻尾からのライトを浴びさせる事で幻覚を見させることが可能な兵器である。
「よくも俺を騙しやがったな! 今度こそ許さねぇぞ!!」
「予想を狂わせてくれるじゃないの……あの邪魔な犬っころを倒さないとあたし結構手こずるようだね!!」
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「へへへ! 俺様をそう簡単に捕まえられると思ったら大間違いだぜ!!」
第三勢力はシゲルだけではない。彼らの内新米でもあるリュウも戦場を翻弄するように駆けるサムライドであった。
彼はいわば駆けだしだが、秘めた実力はそれなりに優秀。そして自己主張の激しさは最強顔負けのもの。ドック・ガーンとジゴクダッパーの二大ビームガンの光をソルディアへ貫かせて戦いをかき乱していき、そんな彼を剣術を披露しながら追う者も。
「若、ちょっと待ってくださいよ! !突っ込む事はほどほどにしてくださいよ!!」
「あのシゲルの野郎だって突っ込んだんだ! それを考えりゃあ俺様が突撃しても何も問題はねぇじゃねぇか!!」
「あのですね……シゲル殿はあれでも大陸時代からのベテランなんですよ!」
コジローの言うとおりである。シゲルはポーが誕生して間もないころから彼女の右腕として機能したサムライドであった。大陸で五強として数えられるポーであるが、彼女が最も優れる力はO-DAWAフィールドによる絶対ともいえる防御能力の高さであり、攻撃を重視した戦いではゲンやミーシャに劣る点もある。
そんな彼女の武を担うサムライドがシゲル。戦闘に特化した彼の戦いはポーを補いあまるに相応しい能力である。
「若、大変申し訳ありませんがシゲル殿を侮辱する事は失礼ですし、拙者もそうですが私たちはまだまだ新兵のようなものです! ここは自重を!!」
「うっせー! 自重してたらあいつに馬鹿にされるだけだ! ここでゲンとかミーシャとか倒せば俺様はあいつより強いんだ!!」
「おっと、お師匠を倒させるわけにはいかないっすよ!!」
コジローの換言にリュウは聞く耳を持たない。その時、付近の戦線で自分と同様かき乱さんとしていた者がひょいと飛んで姿を見せる。
「あぁん! 誰だてめぇ!?」
「おいらはユキムラ・ナダ! お師匠ことゲン様の一番弟子っすよ!!」
「ちっ、ゲンじゃねぇのかよ! まぁよりによってこの独眼竜ことリュウを見てしまうなんて、哀れな奴だぜ!!」
「独眼竜……んー、お師匠からも、みんなからもそんな肩書聞いた事無いっすよ?」
「わ、若!」
知らないような事を言われてしまい、リュウが珍しくずっこける。フォローするコジローを横目に、ユキムラには特に関係ないことのようでキョトンとした表情で、六文槍を地面に突き刺して立ちながら首を横にかしげたままだ。
「な、なななななななろう……この俺様を知らないだと」
「若、お気を確かに。落ち着いてください!!」
リュウが知らない事は最も、コジローもおおよそ把握はしていないと思われる為説明をしておかなくてはならない。
ビーグネイム大陸においてイース・トーザ地方は、群雄割拠の大陸の中で小勢力同士の小競り合いであり、突出した勢力が現れる事はなかった。
ゲンにとっても東北方面にはミーシャら義闘騎士団、ポーらチーム厳龍を相手にするのみで、その先の勢力と戦う事はありえなかったのだ。
「知らないならとにかく、俺様が叩きのめすのみだ!!」
「言うっすね! 誰かは知らないっすけど痛い目見せるっすよ!!」
「だから誰か知らないとか……ふざけるんじゃねぇ!!」
「あぁ若自重を……」
ジゴクダッパーをジゴク・ライシスへ変形させ、ビームサーベルがユキムラの懐をつかんとする。しかしユキムラは小柄な体を活かして攻撃を避ける。その間に登場する兵器は六文刃がジゴクダッパーに打ち据える。ビームによる刃がつばぜり合いを続けようとするが、刃の面積においては六文刃が圧倒的に有利であり、刃を形成するビームの出力も後者に分があった。
「俺様のジゴク・ライシスがパワー負けしているってのか!?」
「へへへ!お師匠からもらった六文槍はビームサーベルにも対抗できるように作ってあるっすよ!!」
「にゃろう……馬鹿にするなよ!!」
リュウの背中からドック・ガーンが抜かれる。ダイヤルを右へ回す事で先端を収束させる事でエネルギーによる斬撃兵器・ドック・ラビトンと化すのである。
「あわっ!?」
ドック・ラビトンの先端が六文刃を突こうとする事で、反撃は開始される。ドック・ラビトンはビームによる斬撃兵器ではない。貫通させる時の反重力でビームを放つ先端を分裂・消滅させる事が可能である。
発動された反重力でユキムラが真上へ吹き飛ばされ。無防備の対滞空態が続く。だがユキムラの両足から長身の砲門が露出する。灼弾砲の連射は自分を守る為の相手へのけん制だ。
「おいら、槍裁きだけがとりえじゃないっすからね!!」
「弾薬の勢いが早いぜ……」
ドラグーンフェンサーシールドで灼弾砲の攻撃に耐える。一進一退の攻防戦を見守る者はコジローである。
「あのユキムラという者、実力では若と五分五分。若がこれを聞いたら怒るかもしれませんが……」
「でやぁぁぁぁっ!!」
「そうはさせるかぁ!畜生!!」
「……なるほど」
二人の戦いを眺めるにつれて、コジローは両者とも無意識かもしれないが、リュウがユキムラに押されているのではないかと察した。
ドック・ガーン、ジゴクダッパーとコジローの武器は威力が高いが、エネルギーの消耗が大きい。この強力な攻撃も回避され続けていては、ただ自分の首を絞めるものである。
逆にユキムラの、六文槍を中心とした戦いは、単純に物理的攻撃を行う事もあり、エネルギーの消耗は少ない方。動き回る事は彼にとっては当たり前のことである。
「死ねぇ!!」
しかしジゴク・ライシスが六文槍の柄を奇麗に切り捨てた。劣勢のリュウが、土壇場で一転攻勢と化す瞬間であった。
「おいらの槍が……」
「どうだ!ジゴク・ライシス舐めるんじゃねぇぞ!!」
「おっとそうはさせないもんね!!」
「なにっ!?」
ジゴク・ライシスが止めを刺そうと突きだされた瞬間だ。どこからか飛んできた少女の鉄拳が彼を顔からふっ飛ばしてみせる。
顔から落ちたリュウが見た先には、深紅のスカートを靡かせ、紅白の猫耳をピクピクと反応させる者の姿が映った。
「アリカ姉ちゃん!!」
「サタケとかを追ってきたらユッキーのピンチ!これをアリカちゃんが放っておけるわけがないでしょう!!」
「にゃろう新手か……どっちにしろ俺様が倒してやらぁ!!」
「若、無理をしてはいけないでしょう!!」
「うるせぇ! あいつ、よくもしゃしゃり出やがって!許せねぇ!!」
「……」
止めようとするコジローだが、勢いづいたリュウを止める事は難しいと判断したか、何も言わなくなった。
しかしコジローには何か別の考えも存在していたようだ。彼の向けた先はユキムラとアリカであった。
「ユッキー、こんな奴2人で倒せば大丈夫じゃん!」
「そうっすねアリカ姉ちゃん!」
「あたし、すっごい不機嫌だからさっさと片付けるわよ!!」
「……」
アリカとユキムラ。師弟コンビの言動を前にコジローの様子は変貌した。彼を纏う緑色の光と共に、振袖を瞬時にして脱ぎ捨て、赤と青のヘルメットをはめ込んだ。
「コジローお前! またキャラが変わったけどどうするつもりだ!!」
「若、戦いを止めるわけがないだろ……相手が2対1に持ち込んだからには、俺が介入することに問題はないぜ」
コジローはリュウを守る為には、パイルフォームへと姿を変える。この時の彼は剣から打撃技を操る者と化し、言葉づかいも性格も荒々しいものへと変貌するのである
「おいお前! 1対1の喧嘩に介入するんじゃねぇボケがぁっ!!」
「何よ! ユッキーはゲン様から託された大切な存在なのよ!!」
「大切だからって子供のように保護者がかまってばかりでいい……そんな事思ったら大間違いだぜ!!」
ユキムラに対して、親のように過保護なアリカを真っ先にコジローは批判する。その時の彼に弱腰な面はなく。戦いに生きる硬派として魂を燃やすのである。
戦いには1対1。または数が揃わなければならないと考える理論を持ち、彼曰くユキムラ及びリュウ。子供同士の喧嘩に自分達大人は入らない。手を出す時は相手が先に介入をした時であると。
「親じゃないもん!師匠のようなものだもん!!」
「それだって同じだ! それより若、思い切りあのユキムラとかをやっちまえ! 俺がこいつを食い止める!!」
「……あぁよ!!」
豪胆なパイルフォームを目にすると、自然とリュウは安心してしまうものである。頼れる相棒と化した彼。その彼が得意とする電撃を帯びる手刀サンダーカッターが、アリカのグローブを斬りつける。
「お前の拳より、俺の手刀の方が切れ味いいようだな……」
「まだわからないもんね!」
「アリカ姉ちゃん!!」
「うん!」
六文手と化した六文槍を操るユキムラ。巨大な手と化した先端がアリカを包むように握り、ユキムラにより、アリカごと振り回される六文手はまさに巨大なハンマーである。
「六文手必殺……スピニングライナー投法いくっすよー! アリカ姉ちゃん!!」
「あいよ!!」
六文手を活かしたアリカとの合体技。スピニングライナー投法は、ユキムラと同程度のアリカを六文手で握り、その状態で六文手を振り回し、目標へ向けてアリカを放ち、六文槍をも投げ飛ばす姉弟同士の合体技である。
勢い相手を投げ飛ばすユキムラ、飛ばされた勢いを殺さずに相手へ猛烈な一撃を叩きこむアリカ。両者のパワーが可能とする合体技である。
「「おわっ!!」」
今両者が、アリカと六文手の前に弾き飛ばされてしまい、受け身をとる事も許されなかった。二人が誇る自慢のパワーがさく裂した瞬間でもあった。
「どう!? あたしたち甘えてなんかないもんねー」
「二人で一つの戦う事、2対1も戦いだもんにー!!」
「俺へのあてつけにも見えるじゃねぇか……なぁ、若」
「畜生……!!」
自分が持たないパワーを前に、この状態で戦う事に不安を刺した。彼が触れる先は眼帯により覆われた右手である。眼帯を引っぺがそうとする彼の行動は、性格が変わろうとも危険である事を察するには変わりなかった。
「若やめろ! 右目を使ったらいけねぇ!!」
「けどよぉ! 俺様このままじゃあ……」
「そんな物騒な兵器に頼らなくても、若はまだ死なないはずだ! とにかくやってやれ!!」
「あ、ああ……わーったよ!!」
「それでいいぜ……俺も破れるわけにはいかないか……!?」
コジローもリュウが立つ姿に刺激されるかのように立ちあがる。しかし、目の前にはアリカだけではない。彼女の親友ともいえるカスガの存在も捉えてしまったのだ。
「カスガっち! 戦いはどうしたの!?」
「第三勢力が介入したせいで、サイトとかいう者との戦いどころじゃなくなったわ。数で優位に立って相手を片づける方がいいと考えたのよ」
「やれやれ……2対1ときやがったぜ。俺は案外頑丈なんだけどな」
新たな敵の出現に、やや諦めた感じともとれる苦言を漏らす。しかし彼がこのような場で敗北する事は許されない。自分の為でもあり、主君であるリュウの為でもあるからだ。
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「サタケ・タスケ!」
「な、何……」
その一方、反撃に出ようとしたサタケだが、アキにより動きを止められてしまう。原因は何か。答えは彼女の九尾の力“呼名混”によるものである。呼名混とは、尻尾が変形したメガホンで相手の名前を呼び、反応した相手の動きを止める事が出来る特殊な力を秘めた尻尾である。
「か、体が動かない!!」
「アオアオアオ!!」
バントウがサタケの周りを駆けまわるが、賢い相棒でも説明が出来ない能力を秘めた兵器への対抗方法が見つからない。残念ながら何もする事が出来ない。せめてサタケを守ろうとアキの前に立ちはだかるのみである。
「これで、あいつらの動きを止めて仕留めたんだよね。そうそう」
「あいつら……俺も同じ最期を遂げると言うのか」
「そういうことね……」
笑いながら笹切が取り出された。彼女が握る小刀が手から離れ、投げ飛ばされた時がサタケの最期ともいえよう。
「アキ・モガーミィ!!」
「ん……!?」
その瞬間であった。後ろからの叫びにアキがかすかに反応してしまった事が、自分にとって大きな誤算であった。
もし彼女が呼名混を解除していたらこのような事態には発生しなかっただろう。
メガホンの口元部に届いてしまった名前がたとえ他人が口にしたものであっても、自分の名前が呼ばれた場合でも、効果は発動してしまう事を頭に入れていなかった事が運の尽きであった。
「まさかこんな事が……」
「ダメ元で言ってみたけど上手く行くもんだな!!」
「サイト!」
窮地を救う者は、自分をなんだかんだとフォローしてきたチームの母役。サイトの存在である。彼はファイナルリーバーのビームでその他の尻尾を次々と破壊していき、呼名混をも砕いて見せる。
「よ、よくもあたしの尻尾を……!!」
尻尾が失われる事は、アキにとって最大の弱点でもあり、屈辱であった。彼女は1本の尻尾を9尾に増やし、数々の超兵器を駆使し、本人が抑えている力を全開させるのだが。尻尾が砕けた時に彼女の力が失われてしまうのである。
「どうやら予想通りなんだな……」
「サイト、お前アキを倒す方法が分かっていたのか!?」
「お前の敵であるアキの事でおいらは色々研究をしていたんだな……お前の想いを無駄にしたくない為においらなりに考えた弱点が当たっていたんだな」
サイトの心遣いにサタケは思わず震えた。時々厳しく当たる時もあるが、サイトは冴えない自分の面倒を見て、また力になろうと支援を絶やさなかった。今も彼のおかげで、アキとの戦いに力を注ぐ事が出来るのだ。
「ちょうどいいところに敵が二人。ま、あたしにとっちゃあ大したことないんだけどね」
「それは分からないんだな! サタケはお前を倒す為に一応修行してきたんだな!!」
「一応ってちょっと……」
「それがどうか知らないけど、どうせあたしの頭には勝てないわ!」
「頭だけでどうにかなる問題じゃないんだな!!」
「そ、そのとおりだ!!」
サイトへ圧倒されかけるが、サタケは再び戦意を持ちアキへ向かおうとする。元のツインテールに戻った彼女であるが、彼女は相変わらず何処か斜に構えて沈着の態度を執る。
「サタケ、実際おいら達は2対1で優位に戦う事が出来るんだな!」
「じゃあ絶好のチャンスという事だ……けど、実際に1対1じゃないのかよ?」
「一騎打ちを乱す奴には1対1もないんだな!!」
「そうなのね……」
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「ガァァァァァァァァァ!!」
シゲルが切り込んだ先には、ポー・ジョージィ。東部軍団のゲン、義闘騎士団のミーシャに対し、チーム厳竜が擁する五強の一角が彼女だ。
「ポー・ジョージィ……」
「これは私たちの戦い。第三者が介入する必要はない!!」
「そういう訳にはいきませんわ。サムライドを全滅させることが私の使命ですから」
彼女の接近に、獣と化したゲンも、ミーシャもある程度の警戒を要した。穏やかな物腰と外見に反して、彼女には動かす事が出来ない何かが宿っているようにも見えるのだ。
「この世界を守る為ならそれが一番だとアキちゃんが言っていてね。私もまんざら間違いではないと思うのよ」
「貴様! 義を知らない者が……」
「力や義でこの世界を守る事が出来ないから。私は言っているのよ」
「そんなことはない……!!」
「ポー。貴様は敵としても味方としても現れ……何を考えているのだ」
3人においてポーが最も現実味を持つ考えを持つというのではないだろうか。力を求める事で支配を選ぶゲン、義により世界を統治しようとするミーシャ、争いの元を断ちきり平和を選ぶポー。彼ら3人は五強という立場もあるのか、考えが一致する事がないようにも見えた。
「何を考えているのかと言われても。私は大陸を守る為に同盟先の相手を変えただけにすぎませんわ」
「そうか……」
「悪く思わないでください。一応私も五強の一角でしてね……簡単にやられるわけにはいきませんのよ?」
「ちっ!日和見が……!!」
ミーシャにはゲンよりもポーの方が憎らしげに思えたのだろう。ディーゴス・シェンロンが誇る銀の爪が突出し、長身の身が拘束をせんとせまる。だがしかし、相手は2機。拘束せんとする動きを上へ飛び、下へ駆けて回避する事も容易である。
「大きければいいもんじゃありませんよ。シゲル」
「アイアイサー! ひゃっはっはっはっはーひゃっはっはっは!!」
「くっ……獣か!?」
シゲルは獣である。その上ライドマシーン・サラマンダーとライド・クロスする事により、獅子であるカワゴ・シャーレオンの姿としてサバンナであろうが、スラムタウンであろうが、駆け廻る事に躊躇しない姿でもある。
「ふふふ。シゲルちゃんは考える事は苦手だけど、なかなか強いのよ? サガミ国の武の象徴ですしね」
「しゃーっしゃっしゃっしゃ!!」
「ちっ、ちょこまかと動き回りおって!!」
ミーシャは苦戦を強いられていた。同じ獣として獰猛でありながら、重厚な龍に対して敏速な獅子が優位に立つことは簡単であった。また彼が同じ野生の魂ともいえる火力に引けを取らないからだ。
「さて、ミーシャはシゲルに任せるとして……ゲン久しぶりね」
「……ポー、お前はミーシャではなく俺に自らの手で戦うつもりか?」
「そうね~あなたとは決着が着いていないからかしら?」
「な、何だと!?」
ミーシャは自分が相手にされていないというポーの態度に憤る。義を、また騎士道を誇りとする者が、敵からスルーされてしまう事は、彼女の誇りを傷つけること同然である。
「悔しいけどあなたを相手に回した時は、しまったとあの時思った程よ」
ポーは心惜しげに言うこの意味をで説明をしなくてはならない。
ポーとゲン。二人は国同士が同盟を締結していた事もあり戦友でもある。
しかし、大陸歴168年スンプー国付近の小国であり、カイ国と同盟を締結したスルガ国で皇帝崩御がきっかけで混乱が発生。
時の4代目皇帝・イズチヨがスルガ国皇帝・リュオの伯父だったせいか、スルガ国の保護を選んだ為、ポーとゲンは対立する関係に突入してしまったのである。この敵対関係の影響で、ポーのサガミ国はバリーイースト地方の統一を成し遂げる事が出来なかった。
「ミーシャとは以前戦って私が破っていますから……大したことないんですよ」
「あれで破ったと貴様は言うのか……」
「何、結果が全てですよ?」
「……」
かつて、ミーシャは、サガミ国によって滅ぼされた国々の残党勢力を率いてバリーイースト地方への侵略を開始した事がある。しかし、サガミ国の強固な防壁の前に彼らの足並みは乱れ屈辱を味わう結果になってしまったのだ。
「敗れた相手はそれだけ未熟な証。サムライドに負けることは許されませんからね」
「そういうお前はどうだと言うのだ……」
「一応、私は負け知らず。私が先陣を切った戦いでは意外と負けた覚えはありません」
「ミマセパース山岳戦ではお前の姿はなかったからな……お前と戦う事は初めてになる訳か」
ミマセパース山岳戦とは、敵対関係と化したカイ国とサガミ国同士の戦争である。戦いは両者引き分けの形で痛み分けとなったが、この戦いにおいてポーが指揮を執る姿も、先陣を切る姿を見なかった事をゲンは覚えていたのだ。
「つまり、お前が直接戦う時、お前は勝つと言うのか」
「そうしないと、私が負けてしまいますからね。ゲン、あなたとは戦う機会がありませんでしたからここで決着を……」
「なるほど……しかし」
「あら……?」
その時、ポーが予期せぬ出来事へ直面する瞬間であった。カインスト・ティガーの顔が外れ、射出される顔面から影が、影の前にO-DAWAフィールドが展開された時、ドームは一瞬にして障害物の追突という形で砕け飛び、彼女の体が空を舞い、地面を何度かバウンドして転がる。
「……O-DAWAフィールドを破るなんて……想像以上でしたね」
「一つだけ言おう。俺の敵はミーシャ・ツルギだ。俺を狂わせたミーシャに対してお前は取るに足らない相手だ。」
「ほぅ……」
ゲ偶然か、あくまで確信か。ゲンの圧倒に刺激されたかのように、シゲルを前に苦戦を強いられるミーシャが龍の姿を解く。
スピードにはスピードを。腹から展開された彼女が奮う飛翔門剣が、目の前の獅子を十字に切り裂き、後ろでは獅子がもがき苦しみだす。
「ポー、お前に私は負けたと言うが、あくまで軍の足並みが遭わない事が原因で兵を退いた。お前に直接敗れたわけではない」
「……シゲルを倒すなんて、その気になれば私を倒せるかもしれないというシゲルを……」
「お前の右腕とはいえ、他の者に任せて破る事が出来るほど私は弱くはない。そしてお前がシゲルと同程度ならば、私がお前を倒すという自信もある」
「……」
この瞬間、ポーは感じる事になる。ゲンとミーシャの実力は既に自分を凌駕せんとするものであると、また二人の間には因縁より深い関係が存在しており、自分が介入する事は許されないと言う事である。
「!!」
「何っ……!!」
だが、戦いは予期せぬ所に区切りを打たれることになる。上下、そして左右周辺において、自分たちの区別もなく攻撃を加えんとする者が現れたからだ。
『これ以上の争いはやめてもらいたいわ』
「何者だ……貴様!」
ゲン、ミーシャ、ポーが振り向こうとした時、真上から深紅の鳥が緩やかに降り立ち、地中からは蒼穹の狼が表土を割り、禍々しい顔面を晒す。2機の中央には、黄金と黒金の装甲に覆われる戦士が立った・
『俺達は都の使者とでも言っておこうか』
『そう。僕たちは……この世界に生き延びるサムライドを集結させる役割を持っているものでね』
「サムライドを全機集わせるだと……」
「都の使者ということは、都の権力を握る者がいると言うのね……」
『その通りだ。都のナンバー2として、時の将軍に代わり政権を握るサムライドの使い。それが黒獣士、紅翔魔、蒼烈鬼だ』
「ライドマシーンの分際で……」
『ライドマシーンの分際というけど、私たちは影として将軍に弓弾く者を次々と始末してきたわ』
『あの方の影としてね。ふふふ……』
目の前の3機はライドマシーンでありながら意志を持つ、その上まともに言葉をしゃべる。そのようなライドマシーンを3機備えるサムライドが、この大陸に存在する。
しかも、大陸時代から都の権力を掌握し続けたサムライドを彼らは認知していなかったのだ。
『あの方から、都の代表としての勅命は私闘を禁じ、岡山に存在する黄金要塞へ集結せよという事だ』
『この勅命は全国各地のサムライドへ私たちが伝達している。この勅命に背いた時には私たちと、王号上の全力を挙げて根こそぎ滅ぼすのみ』
『今こそ決断の時と言おうかな……賢明な判断を期待しているよ』
彼ら3機。蒼烈鬼は地中へと消え、黒獣士は紅翔魔と共に天へと登る。
「都の権威を牛耳った者……」
「影の実力者の到来という事か……」
「一度競い合わず……黄金要塞で事が済むまで一時休戦という事にしようかしら……」
その後、3人の決断により東日本の決戦は収束を迎える。ゲンは絶大な力を秘める男の存在を、ミーシャは自分が嫌うタイプの男への静かな憎悪を、ポーは二人が存在する限り、勝ち目はないと判断した結果故のものであった……。
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黄金要塞。岡山の地。戦禍からまぬがれた大自然。緑と黄色の表土に覆い隠された黄金の要塞である。
岡山は中国地方において中立という二文字で平穏を保つ陰陽党から同盟を組む非情拠点の集合体が支配勢力である。いわば人々の手で保たれる地だったが、決して彼らはサムライドと手を組む事を良しとしない不思議な人々の集いであった。あくまで陰陽党とは支配下や属国なのではない。同盟関係に過ぎないのだ。
『東日本の3勢力は私たちの勅命が効いたようです。ウキータ様』
「ごくろう」
黄金要塞に存在する煌びやかな間において、黒獣士、紅翔魔、蒼烈鬼の3機が膝を突くような姿勢で、王にふさわしいような椅子へ腰をかける者へ報告を行う。
王の座に居座る男は天然の金髪を弄り、優美な笑みを浮かべる。彼がウキータ。3機が従う者、つまりサムライドであり、都の権力を握ったサムライドである。
「しかし、サムライド全員へ勅命を送りつけるとは、思い切った事をしましたな。ウキータ様」
「思いきらないとこういう事は出来ないのだよ君。私の野望を成し遂げる為には。虎穴に入らずんば虎児を得ずだっけ?」
「あながち間違いではありません。最も備えあれば憂いなしもありましたけどね」
「そうだ。この一大作戦は準備あってこそなんだよ。私が表舞台で理想を成し遂げる為にもね」
「ウキータ様の目的とすると……?」
「私は大陸復活も興味ないし、この世界を守るなんて奇麗ごとも言うつもりはない。やはり……ただ私は神として君臨したいからなんだよ」
この男ウキータはケイ達のような考えも、シン達のような考えも持たない。最もこの世界を守ろうとする考えはシン達に近いかもしれないが、この世界を支配するような考えは彼らが持つはずはないだろう。
「神として君臨ですか?」
「サムライドの中には人類を虐殺しようとする馬鹿な事を考える集団がいる者でね。その中で私が人々の平和を守る事で、この地方の神として崇められているのだよ」
「善政を施し、希望を与えてこそ神としての最低条件。もっともこれは第1段階だけどね」
「はい。恐怖や不安におののく人々に住処を、食料を。大陸が誇る最大級の環境を惜しみなく提供してこそですな」
「私は大陸から重用されていたけれど、大陸に義理は感じないものでね。ふふふ」
ウキータはモニターの映るサムライド達の姿を目にして楽しみを抱いていた。彼らが近付くにつれ、自分の目的が遂行されようとしているからだ。
「私の存在をより広い世界へ知らしめ、私はこの世界の神として崇められていく。いけばいく程、私が本性を現した時の人々のうろたえが面白いのだよ」
穏やかかつ端正な顔の裏には、人々に崇拝され、また彼らの期待をぶち壊すことへの楽しみに充ち溢れていた。実権を握り続けた狂気の男は、着々と世界の表舞台へ立つ為に爪を研いでいたのであった。
続く