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第24幕 起てクーガ!吼えろシン!激突の時来たる!!

大陸歴154年。カイ国、サガミ国、そしてスンプー国の3国が相互同盟を締結した。

ジェントークの地は三国の国王と自国のサムライド達を束ねるトップのサムライドが会談。出席したサムライド達はのちの五強と数えられるゲン・カイ、ポー・ジョージィ、マローン・スンプーの3者であった。

この同盟の結果カイ国は、シナノ国を攻め落とすことに成功。サガミ国はバリーイースト地方の反発勢力の平定にあたり、二人はまた五強の戦士ミーシャ・ツルギ率いるエチーゴ国と激突することとなる。


そして、スンプー国は都へ上洛を目指し、迫る目の前の小国を次々と片付けていくのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「いや、久しぶりにゲン殿と顔を合わせたが……実に見事だった」

「はぁ……ゲン殿の事はマローン様がよく口にしますが……」

時は大陸時代。クーガがマローンの部下として教えを受けていた頃であった。

この時代。マローンはイーストオーシャン地方最強のサムライドであり、この世界で誰かに倒されることを当時誰が想像する事ができたのであろうか。

彼はそれほど大陸が誇る有数のサムライドであったのだ、


「この三大同盟はお互いの背中を安全なものとすることで、勢力の拡大をより容易とするもの。実力が拮抗し合うものが争いあっていては、都付近のサムライドに遅れをとってしまう」

「なるほど、マローン様、そのゲン・カイとはどれほどの実力者かと……」

「早い話だが、わしが戦いたくないと思わせる相手だ。最もポーも含め同盟を結んだサムライドは戦うことで得る利益より損害が多いとみたのだ」

のちに大陸の五強として3人とも数えられるサムライドである。実力がほぼ拮抗する彼らが戦う事を避け、手を組むことは一つの手であろう。

「わしの父タツオーマは、現代における我々自律型サムライド開発の第一人者セイジュウロウが生んだサムライドの一人」

「セイジュウロウは……確か科学者から下克上でサガミ国の王となり、ポー・ジョージィも彼の手によるものですね」

「そうだ。わしとポーは従姉弟同士の関係じゃ。あの女は、あの外見からもわしよりも年上じゃし、たかが4年の差じゃがのぅ」

やや老い気味の顔がふっと笑いながら言葉を漏らす。

人で言うならば40代半ばであろうマローンならば、ポーは大凡20代後半、人によれば10代後半と考えても通用してしまう外見なのだ。

「そのセイジュウロウは……我が4代目国王に恩を貸したことをちらつかせながらバリーイースト地方へ手をのばし、いつのまにかあの一族がバリーイーストに一大勢力を築きあげている」

「あの男は実力もさることながら狡猾な男だと言いたいのですね」

セイジュウロウの事で首が縦に動く。最も五経に数えられる彼の様子は、狡猾なことも実力があるからであると、実力を否定しない様子である。


「4代目が後継者争いに巻き込まれて、バリーイーストのサムライドまで巻き込んだ大乱、それをセイジュウロウが鎮圧させたことが大きい。あればかりは王族の足並みがそろわないことに問題があった。

マローンは告げる。現代の国王は6代目であり、セイジュウロウが鎮圧した大乱はヨシタダの後釜として、長男のウジチカか、ヨシタダの従兄弟・ノリミツ。二人の家督争いに家中が真っ二つに分断された事件である。


「恩を売った後にスンプー国から独立したサガミ国だが、国のサムライドとしても、国家としても下克上によるものに関わらず、強固なものとして崩しようがなかった」

「ええ。それは俺も大陸の資料で閲覧しました。国の謀計が通じず、力押しでも攻め落とすことができないと書かれていた事を覚えています」

「そうじゃ。じゃからサガミ国とは和睦をすることにした。最もカイ国との戦いに明け暮れていたこともあるがな」

 マローンが指すのはカイ国である。カイ国はスンプー国同様の大陸時代における名門であった。

 だが、この2国には大きな差があった。

スンプー国は当時どの国家でも日常茶飯事であった王族の後継者争いが存在したことを除けば、地の利、安定した勢力による基盤、上の下には入る技術の高さと名門にふさわしい。

だがカイ国は貧困な土地、各勢力による複合政権故の不安定さからお世辞にも安穏とした国家とは言えなかった。


「このように情けない国であるが、カイ国のサムライド“タイガー・カイ”がまさに国の守護神という強さでな。どういうわけかわしにも倒すことはできなかった」

「俺も承知しています。マローン様のお父上も、兄上も遠征に向かい逆に命を落とした程と」

当時、寂国であったカイ国の指揮官タイガー・カイ率いるサムライド軍団は、強豪であったはずのスンプー国のサムライドを圧倒しかねない器量を持つ。

この脆弱な国家は、彼らによる勢力の巻き返しが行われようとしていた勢いであった。


「実際わしもフラワクラー戦役であいつの力を借りなければ、ケイタンめの大勢力を下してこの地位に座ることはできなかった。たとえサガミ国を一時的に回してもだ」

「……それほど敵に回したくない相手だったのですね」

「うむ。それもあるが……わしはカイ国と同盟を組んで、勝手に滅ぶことを待ったのだ」

「……?」


マローンがとった方法とは相手の自滅を待つ持久戦であった。

彼が眼につけた弱みとは、カイ国は所詮サムライドが変わっただけであり、国家の政治を担う王家が、相変わらず悪政を敷き、惰眠を貪ることに目を付けたのだ。

その上マローン曰く、タイガーは実力はあるが、それゆえに戦うことしか考えず、国を考えない男であった。

国から報酬を頂けば、それだけの活躍を行うが、それは、国の改善に必要とされるような反乱分子を鎮圧することに躊躇わない。国の誇りを蔑にすることを臆しないサムライドであった。


「時を待てば、カイ国は自分から勝手に滅ぶ。だが、ゲン・カイという後継者はわしの考えた予想を覆して、タイガーを倒してしまったのだ」

タイガーを倒したゲンは自分以上の実力を持つ。それ故に三国同盟を結ぶことを選んだのだ。

「やはり、同盟の理由はやはりゲンの動きを止めるためでしょうか?」

「いや、それもあるが……わしはスンプー国を大陸のトップに立たせるために急がなくてはならないのだ」

「急がなくてはならないのですか」

「うむ。カイ国とサガミ国はいつしかエチーゴ国と交えるが、わしには関係のない話。両者が覇権を競い合う間に、わしは都にホーギク様をお連れして都の勅命を手にするのだ」


 マローンは告げる。現在の6代目国王ホーギクを都へ連れることが、彼の使命であったからだ。

 大陸時代、当初都の皇帝が大陸の各国を統治していた。

しかし、4代目皇帝の各国への苛烈な弾圧により暗殺された時から皇帝の権威は揺らいだ。

そして、6代目皇帝の後継者争いに付近の有力国家が結びついた事でオーニンの大乱に発生してしまい、大陸は各国家が争う群雄割拠の時代へと突入した。

 かつまた、スンプー国の王家は皇族の分家キラ国の王族の分家であった。皇族の血が絶えた時にはキラ国の王族、しかしキラ国は既にスンプー国に滅ぼされており、今スンプー国の王族が最も皇族に近い家なのだ。


「勅命で勝つというわけですか」

「そうだ。戦いは力だけではない。ときには頭を、また威光を使って勝つことも一つの戦法だ」

スンプー国の王族を都へ上洛させた時、マローンは天下に覇を唱えることが許される。

この天下統一への近道はゲン、ポーの二人が背中に存在する限り、都へ駒を進めることは容易ではない。

よってマローンはスンプー、カイ、サガミの三国同盟を組み、背中が守られている間に上洛することが勝利への最短ルートと見たのだ。


「わかりました。ですがマローン様、ゲンとかをこの手で倒すことはできるのでしょうか」

「……難しい話だ。仮にそのようなことができるならば、そのものは少なくとも和紙を超えたことになるだろう」

「……」


マローンは言う。ゲン・カイは自分以上の実力者であることを。

しかし、クーガはこの後同盟関係を結んでいたこともあり戦う事はおろか、共に闘う事も、顔を合わせることもなかった。

クーガ自身も彼らと交える機会はないと思わなかった。大陸時代を超えたこの時までは。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……今闘わなくてはならない時か」

現在、クーガは大陸最強とも言って過言ではないゲンと戦で交える時が来ていた。

 西部軍団と東部軍団の挟撃作戦。この三光同盟の秘策に嵌められた戦輝同盟の中心メンバー4人。

シンはVAVAに滅多打ちにされており、サイはマサトに捕われた。そしてミツキはカスガに苦戦を強いられた。

この4人の中で、華々しい活躍があまり見られなかった事から三光同盟から軽視されていたクーガ。しかし、仲間たちの戦いを前に逃げていた自分と決別し、アリカ・ユキムラの師弟コンビを返り討ちにする事が出来た。

だが、その先にはゲン・カイ。自分の師匠であるマローンにすら勝てないと言われた最強の男がこの目の前に現れたのだ。


「しかし、例えユキムラが油断をしていたとはいえ、ユキムラを倒した事はマローンの弟子だけはある。娘や息子とは違うわけだ」

「……」

「そしてアリカまで破った。四戦士が破られることを俺は考えてもいなかった」

「ち、違うもん! あれはあたしがちょっと油断しただけで、ついでにユッキーを滅多打ちにするから私もつい!!」

「アリカ。お前は負け知らず。負けから学ぶことも手だ」

「う、うん……わかりましたよゲン様ぁ……」

ユキムラだけではなくアリカを破った。

それは四戦士の一角が崩された瞬間であり、ゲンは敵でありながらクーガに一目を置いている。

アリカは負けを認められないようで、油断で負けたと弁解をしていたり、ゲンに窘められても拗ねている様子だ。

「戦いに油断も何もない……俺は無名のお前を倒す事にも全力を尽くす!」

「その言葉、こちらも同じだ」

「ならば……ライド・クロス!風林火山!!」


ゲンがバック転を決めながら遥か空に飛んだ。真後ろからは4機の影が飛び、全員が霧に包まれる空へ姿を隠した時、一点の光が眩い星として光った。

光点から風が地面へ叩きつけるように巻き起こり、木の葉と砂塵が周囲に飛び交う。もう風に打ちつけられた地面がクーガをも揺らした。


「お師匠が風林火山を使うっす!!」

「ゲン様が風林火山を使う時は……相手を殺すべきと見た時なんだ」

「……マローン様から耳にしたことがある……あの形態がもしや!!」


 この姿をクーガは噂でしか耳にしなかった。

だが、荒れ狂う風の中で荒野に存在することがあり得ないはずの林が靡き、林の奥には一つの火の玉が、そして緑に包まれた遥か巨大な山脈が視界に移る。


「か、風が走る……林が耐える……火が燃える……そして山が聳える!!」

彼により形成された空間にて、赤と白、黒のトリプルカラーのライドアーマーを身に包んだ男がそこにいる。

変貌を遂げた景色をありのままに口にするクーガは、ただこの戦士を直視する事を、彼の眼光に強制されているような気もした。


「そうだ! 人はそれを風林火山と言う!! てやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

火の玉から飛び出た拳が彼を包む火を、まるで布を引っぺがすように掴み、手放された絨毯のような火の塊が風に吹き飛ばされて星と化す。

 火が現実空間から姿を消せば、山も林も一瞬にして消滅し、風も止んだその先には大樹に立つゲンがこちらへ飛び上がる姿を見た。

「来たか!?」


大樹から想い切り飛び上がるゲンをビーグバーストボンバーで弾き飛ばす。クーガはそのつもりでいた。

この落下時の隙を狙う彼の戦法だが、落ち行く存在は彼自身ではなく、強大なドリルを備え、激しく回転させながら飛ぶ彼の右手・山砕進撃であった。


「拳なら……拳だけならばこいつで打ち返すのみ!!!」

 山砕進撃だけならば、このビーグバーストボンバーで打ち返すことができる。戦いのセオリーを信じ巨大な鎚を振るった。

しかし、この拳というボールはまるで鎚というバットをへし折らんかの勢いを持っていたのだ。

「重い! スピードも、パワーも、こいつ自体もケタ違いなのか!?」

それはあまりにも強大であった。激し勢いで放たれる右腕のスピード、先端のドリルが面を食い込もうとするパワー。それらから体全体でビーグバーストボンバーを支えて屈しないように粘る。

もし、自分がハンマーをずらしてしまった時には、ドリルは体へ食い込んでしまう。

スピアーへ変形させても、面から先端へ右腕を突き刺そうとする前にドリルが襲いかかるだろう。

「だが……だがここで俺は負けるわけにはいかん!!」

しかし、クーガじゃもう後へは引けない。例えビーグバーストボンバーという誇りを一度捨てても、心が持つ本当の誇りは折れない。

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

窮地に立たされようとしているクーガが閃いた山砕進撃を退ける方法。

それは、ビーグバーストボンバーを力の限り思い切り振りまわして投げることで、食い込みが始まった右腕ごと遠く彼方へ飛ばすことであった。

一歩足を踏み込んで鎚が右腕の軌道をずらした。鎚が、棒が激しく震えながら右腕が飛ぶ。

「やったか……!?」

 しかし安心はできなかった。拳を飛ばしたと同時に、懐へ入り込んだゲンによる左アッパーが彼を叩き飛ばす。

虎を模した左腕のパーツ“弾掌粉砕拳”に電熱が帯びられ、真上へと突き出た拳が電撃と火炎を一瞬帯びながら、重力に従い落下する彼を再び殴り飛ばす。


「右腕に集中しすぎたようだな」

「いつの間に回り込んでいたのか……次が来る!!」

 クーガが受け身をとり地面へ着地すれば、素早く前へを遮るゲンが、両腕でのラッシュが彼を襲う。

 両肘を曲げて自分の顔面を防御するクーガであるが、両手の虎は徐々に彼を噛みつくような猛打の嵐が止まらない。

「たぁぁぁぁぁぁっ!!」

「出たっス! お師匠の白虎ガドリングブローっす!!」

「ゲン様のパンチは強いし速い! これを耐えられるサムライドはいないよ!!」


 彼の猛打は実に素早く、一発一発に十分な威力があった。並みのサムライドならば、防御しようとする腕が砕かれ、体をも粉砕されてしまうであろう。

 しかしクーガは堪える。キングランダー形態でないにしろ、彼の装甲は並みよりは硬い。無傷ではないが、元からの装甲が攻撃に耐える事が出来るのであろう。

「さすがお師匠っす! 全然相手に攻撃させる隙がないっす!」

「ほんとほんと! でもあのクーガとかけっこう固いね~早くやられちゃえばいいのに」

「!!」

アリカの予想とは裏腹にクーガが立ちながら一向に倒れる気配を見せない。肘で拳を受け流していく中で、彼の視線は猛スピードで繰り出される左手と右手に神経を集中させていた。

「耐えることは大陸時代から俺がしてきたことだ。心でも、この戦場でも俺は折れることは許されない!」

「ほぅ……それがどうしたという」

「俺にはもう見えた! やはりどのようなサムライドにもタイミングというものがある事をな!!」


好機到来だ。

自分へ迫るラッシュの動作には微かな隙がある。その隙はごく僅かなものだが、入り込めば勝機はある。

どちらかの拳が命中する刹那、腕のガードを解き、前へ突き出した腕がゲンの両手首を掴む。

「見切ったっすか!?お師匠の鉄拳を」

「それもそうだけど、あのクーガとか、ゲン様のパンチが出る瞬間に両手首をつかんで動きを止めたの!?」

「これでお前を投げ飛ばすのみだ……!!」


両腕から胸倉をつかみかかり、ぐいと重心を後ろへ動かすことで、クーガの体が後方へ倒れる。

この状況でゲンに巴投げを決めようとする。巨体へかけた自分の足が思い切り相手を蹴りあげる寸前。ゲンの巨体が凭れこもうとした瞬間にクーガの勝算が生まれようとしていた。


「なるほど、娘や息子でも、ユキムラにしろこのような真似はできん。マローンは己自身のノウハウをこいつに教えたようだな」

「何を余裕ぶっている。これで隙をつかせてもらおう」

「ここまでは褒めてやる……しかし!!」

急にゲンの体重が軽くなった。顔をあげた先には、彼の背中に装備されたファンが展開され、回転とともに彼の体が、そちらから前方へ押しかかる。

 この相手を両手で掴むクーガ。

彼の拘束を解放させないために、クーガは固く彼の両手首を掴んだまま、自分の方向へと引っ張ろうとしていた。

だが、彼の予想とは逆に、ゲン前方へと、自分から倒れてしまった。

よって、ゲンが彼の拘束を振りほどいてしまい、彼だけが後ろへ倒れる事態へと発展してしまったのだ。

「押して駄目ならば引いてみろの教えがあり、その反対を考えただけだ」

「しまった……ぐわ!!」

今、右腕の山砕進撃がまたもクーガに風穴を開けんと回転を始めながら迫る。先端のドリルが回転していく中、彼の口が開いた。


「お前の体は並大抵のものではない。俺の攻撃に耐えることができたのは褒めてやる……」

「……俺の数少ない取り柄のだからな」

「だが、これはここまでだ!!」

「ぐ、ぐおおおおおおおおっ!!」

山砕進撃の魔の手が彼の腕へ及んだ。

ビーグローブに身を包んだ両手が山砕進撃を掴むが、特に力を加えてドリルの回転と進撃を防ごうとした右手が力尽きてしまうことは時間の問題だ。


(くそ……ビーグバーストボンバーを使おうとしてもコードをつなぐには場所が遠い。ビーグバーストボンバーを少なくとも背中へ繋ぐ事ができれば)

ビーグバーストボンバーは3タイプに変形が可能な兵器だ。

だがしかし、それでも自分の脳波に応えてこの兵器が手のもとへ独りでに飛行したり、攻撃を仕掛けたりする程器用な使い方はできない。

柄を握るか、コードを繋げるか。どちらかなしでは、ただのでか物に過ぎない。


「そのようなことを考える間に……早くしなければドリルで両手が破壊されてしまう!!」

一瞬、恐怖に自分の感情が飲み込まれることを感じた。

だが、窮地に追い詰められた自分の脳裏へよぎるものは、心に闘志という火を点けたあいつの姿。

あいつが火を消さないから、あいつが鎮まった心に火を与えたから。

火を常に燃やし続ける機会を再度与えられた今、自分から鎮火させることは無碍には出来ない。


「恐れるな俺の心……腕や誇りの結晶など、一度砕けようとも直すことができる。俺の心が折れなければいいだけだ!!」


一度決意したとき、自分を守ろうとしていた己の両手を素早く手放した。死を覚悟したのではない。生きるためだ。


体を右へ横転させた時、山砕進撃のドリルが自分を掠めて地面をえぐった瞬間を見た。

死への覚悟から生への安堵に心が切り替わった時、自分が激しく転がった先のビーグバーストボンバーの柄が見えた。

この腕を、この体を、この誇りを傷つけられても心は折れなかった。今の状況は折れない心だから、誇りを砕かれずに、自分の手に取り戻した瞬間でもあった。


「ドリルをやりやがったか……」

山砕進撃は地面へむなしい進撃を続けた。彼がパーツを分離させた時には既に誇りの結晶が握られた。窮地を脱されたのだ。


「マローン様の教えだ。己の誇りが最後にものを言う。誇りが砕けても、拳に俺の心は折れるわけにはいかない」

「なるほど。俺の山砕進撃を見切ったことから、拳と拳ではお前の有利とみよう。しかし。俺にはこれがあることを忘れるな」

ゲンが次に手にするは猛虎スラッシュ風林火山。彼の軍配が剣と化した必殺武器である。


「そうはさせない。ビーグバーストボンバーがある限り俺はここで負けるわけにはいかない。不動の砲撃手としてだな」

相手の構えに自分も構えなおす。正念場はここにある。ハンマーとソードの戦いにクーガは視線を向ける。

(先ほどの攻撃のせいでこの腕でビーグバーストボンバーを支えることができるか……いや、それを考える暇はないな)

 厳密には、クーガが窮地を切り抜けたとは言えない。

彼の両腕は山砕進撃を少なからず受けてしまい、腕が無傷とは言い難い。

特に右腕は握る行為だけで精一杯で、このまま力任せに振れば、自分の腕が重みに耐えきることが出来ないまま、腕が千切れてしまうだろう。


 ビーグバーストボンバー対猛虎スラッシュ風林火山。武器と武器の争いへ持ち込んでも、クーガが不利には変わりはなかった。

だがこの状況で、クーガの表情はどこか余裕を、いや、逆境だからこそ余裕を持っているように見えた。


「俺が虚勢を張るとは久しぶりだ……俺を熱くさせるのは、あいつの存在。あの馬鹿は、何が遭おうとも心を折らないから羨ましいぜ……」

今頃あの男は何をしているのか。おそらくVAVAと死に物狂いで戦い勝利をおさめるかもしれない。全力で無茶をやる男だからだ。


「あいつはマローン様を倒した、つまり五強の一人を超えた……目の前のゲンも同じ五強だ」

あいつを前に悟った事が一つある。

もし、自分が此処で倒れたならば、自分はシンと互角に渡り合うことはできない。

「シン! 俺はこの場を……この命に代えようとも絶対に譲らない!!」


あの戦いは両者が引き分け。あれからシンは自分を強くしてマローンを打ち破った。

ならば、自分もあいつを倒さなければ、いやせめてこの場を倒れずに持ちこたえるなければ、自分はそこまで。自分が死ぬ事も妥当であろう。


「だからお前も倒れるな!マローン様を超えたお前が倒れることは俺が許さん……!!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「あの野郎……熱くさせるじゃねぇか」


自分を賭けたクーガの叫びは3人の通信機へ伝わっていた。

真っ先に反応するサムライドはやはりシン。特に先ほどの自分への彼なりの激励が、一方的な猛攻をただ受けるだけであった彼に、新たな力を与えることになる。


まず、打ちのめされてもシンは負けを認めなかった。ここで負けを認めれば自分の心が折れた瞬間と彼が考えるから。

しかし、それでも、自分が他人に打ちのめされる事には変わりはない。倒れなければそれでいいのか。やられっぱなしではないだろうか。

一度やられたら何倍にしてもやり返さなければ、彼は気が済まない性格。たとえ相手がどれだけ強くとも、限界を超えてまでやり返せ。それが出来ないなら彼は彼ではないのだ。  

今、彼はフェイスガードの奥で瞳をカッと見開き、眼光を最大限まで上げた。


「ふっふっふ! 心が折れなければ負けないとは言い訳のほかにはならないがな!はーっはっは!!」

「何言ってやがる……」

「ははは! 戦いは所詮力! あの男がゲン様にかなうものとは俺は思わない。あれはただのハッタリだからだ!!」

「何だと……」

相変わらず心にの炎を絶やさずに強がるシン。その彼の心をVAVAは見抜けなかった。今の彼が頭にライドアーマーのフェイスガードを覆っていた事も原因だろう。

見抜けなかった彼の心。今、意地だけで彼は立っていない。あいつが無茶な戦いに挑む。たとえ自分がどうなろうとも覚悟を決めている。

それなのに、あの時の戦いにけりがつかないあいつが戦うのに、自分がやられっぱなし。それは自分の負けだ。マローンを倒したこと云々ではない。

今、あいつが強大な敵に挑んでいる事実がシンの頭に闘争本能を渦巻かせる。


「俺は口だけの男は嫌いだ! 俺は過去にも口だけの男を見てきたからな……!!」

「うるせぇ! お前がいままで見てきた奴とクーガを一緒にするんじゃねぇ!!」

「何……」

「あいつは融通が利かないし、俺のこと馬鹿だと呼ぶし、冗談も通じないし、くそまじめな堅物だし……」

シンとクーガ。二人の性格は水と油である。

しかし、性格が正反対な相手ほど、性格や個性がわかる者はない。シンの言うクーガの像は間違いではないだろう。

ちなみに、他にもシンはクーガをつい最近まで一度負けて戦う気をなくしていたとんでもない臆病者だとか、あいつには隙があるから手数で勝負すれば何とかなるとか、あいつは俺のトライマグナム程器用な武器はないとかまで心で思ったが、戦場で口にするにはあまりにも長すぎるため、心のうちで語ることにした。


「……ついこの前まではな」

 しかし、この一言でクーガのネガティブな面を打ち払う。自分が抱えていた弱いという悩みを告白し、自分の不安を戦いの中で打ち払おうとするクーガの姿に心を動かされたのだ。


「そんなあいつは臆病でもないし、俺が勝てるかどうかわからねぇ。そしてあいつは俺と正反対のやつで……堅物だからこそあいつは譲らないんだ!!」

「お前が勝とうと、あいつが勝とうと関係ないはずだ。お前はどうせ俺に破壊されるのみだからだ」

「それはお前の思い込みだぜ!わかってねぇな!!」

まったく自分には関係ない話をのうのうと口にするシンへ、突っ込みを入れるようにVAVAが口を挟む。

しかし、彼は何かに覚醒したかのように、思い込みに過ぎないと素早く彼の勝算を論破したのだ。


「あいつは絶対お前には勝つ! だから俺にも勝てるかどうかわからねぇ……でもお前には絶対勝てる!!」

「は……ふ、ふざけるな!!」

目の前のVAVAを倒すことに、シンは躍起になっている。A>B、A>CならばB>Cになる式が成立しない事を彼の頭では考えられていないだろう。


「ふざけるな! 貴様のように先ほどまでいたぶられていたお前にどの力がある!!」

「そうでもないぜ! 俺にはこいつがあるからよ」

成り立たない式にVAVAが嘲笑するが、シンには論理で説明できるものではない自信を背負っていた。

彼の自信が、ライドアーマーである。

先ほどまで傷つけられていた自分だが、ダメージはすべて赤と白の鎧のおかげで受け止めることが出来た。VAVAへそれを告げることが反撃開始の第1歩である。


「今の俺はお前と同じ全身鎧に身を包んでいるようなもの。お前の攻撃は……全然聞いていないんだよ!!」

言葉とともに、素早く自分の右腕を投げつけて、後方から飛ばされた左腕が彼の体に連結された。

「ハッタリもほどほどにしろ! これで終わりにしてやるぜ!!」

「今だ……!!」

VAVAの手でヴァルヴァーチャックが振るわれた時、彼の両腕から冷気と熱気が飛びた。コンバッツ・アームから放たれる両腕が、鉄球へ亀裂を与え、決壊させることで無力と化す。

「ヴァルヴァーチャックが折れるとは……!?」

「これくらいは何とか……ここからが本番だ!!」

「ぐおっ!!」

一気に後ろへバック転しながら両腕の炎と吹雪がクロスして!点を貫こうとする。

だが、この攻撃にびくともしないまま彼は突っ走る。両肩の円盤から、仮面から、ミサイルとコレダーと同じ業火を放ちながら追う。

逃げるシン、追うVAVA。最大の違いは攻撃に耐えうるか否かだ。

VAVAの攻撃は決して本気のものではなく、じわじわと痛めつけるだけの攻撃をシンは耐えた。

だが、VAVAは自分を仕留めようとして放った必殺技ブレイズバスターを何発も耐えきっていたのだ。


(このアーマーのおかげでそこそこ持ったけど、あいつの鎧を砕くにはエネルギーを全開にするしかない。堅い相手にはこれが一番効果的なのは分かっているけどな……)

 過去の戦いで強固な相手に対しての対処方法を知ってはいた。しかし、相手は今まで自分が戦った相手より強固であり、またこの作戦が気付かれてしまえば負ける。

 

(そういえば、あいつは痛みを感じないって言ってたな……けど胸のハッチを開いてミサイルを撃つ真似はしてない……)

余裕を持つVAVAの言動と行動へシンは何かを感じた。

外の攻撃に痛みを感じない彼が、何故胸のハッチを開かないのか。もしかしたら……。VAVAの猛攻が自分へ及ぼうとしたときに賭けに乗ることを選ぶ。


(こいつを使うのにエネルギーはいらねぇ! 俺の腕がどうなるかわからねぇが……頼む!!)

「これが限度だ! ライティング・サンダー!!」


背中のバックパックがとっておきの手だ。

トライマグナム、ブレイズバスターに続く第三の力ライティング・サンダー。自分のエネルギーにかかわらず、1度だけ絶大な威力を発揮する切り札である。

だが、代償に腕の破壊は免れない。下手したら本体にまで感電して死ぬかもしれない。

初めて使用のした時は、偶然が重なったこともあり自分は死を免れた。

しかし幸運は二度味方するとは限らない。だが、それが何だ。幸運以前に倒すべき相手がいるのならば、使うことを躊躇うわけがない。


「サンダーフィニッシュ!!」

「何だと……ぐ、ぐあああああああ!!」

先端を、急激な温度差に襲われた個所へ突いたとき、鎧はあまりにも脆く、内部を貫く。

外から中は強固だが、逆はあまりにも脆い。それは自分の鎧を砕くものがこの世に存在しないと思い込んでいたからではないだろうか。

落雷が先端をつき、彼の内部に感電した瞬間VAVAが絶句した。だが、

「ぐああああ!!」

同時に自分をコレダー、ファイヤー、マシンガンが至近距離から迫る。紅白の鎧がオレンジ色に包まれ、VAVAもろとも金色に発光しだした瞬間だ。

腕がいかれた。

しかし、そのような被害は今、どうでもよかった。本体が無事なことだけが今のシンにとって幸いなのた。

「俺の鎧を砕いたとは……だが、俺はここで死ぬわけにはいかない!ゲン様のためにも貴様をここで殺してやるのみ!!」

「ならば、こっちもだ!!」

右手を添えてライティング・サンダーを突きつけた左手を抜き取った。だらんと下がる左手。

再度裁きの雷を落とすことは不可能だ。厳密には雷を生かさなくてはならない状況におかれ、彼は危険を伴うが、鎧を砕いたからこそ出来る方法に全てを賭けた。


「ぐああああああ!!」

「外は固く、中は脆い……今のお前は弱点丸出しだ!!」

シンが選んだ手段。それは内臓ともいえる彼の内部機械を生きている右手で握りつぶす事であった。

彼の内部構造など分からない。しかし内臓を破壊されて無事なはずはない。右手が動く限り、マイクロナイファーで内部を切り裂き、内部をつぶす荒業に得たのだ。


「貴様……これほど近くで攻撃を受けても死なないのか!!」

「俺にはまだこいつが無事なのもあるけど、俺の心はまだ折れないから大丈夫なんだよ!!」

「心だと!?」

「ああ! この世界の言葉で“負けたと思うまで人間は負けない“ってあるけどなぁ……サムライドだって、負けたと思わなきゃ負けないんだよ!!」

「そ、そこは……貴様、本気かぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「本気か何か知らないがこれで倒せるなら……っ!」


 その時、シンがえぐった先はストームが搭載された彼の胸、いわば火薬庫だ。

火薬庫を破壊する事が、激しくスパークする二人を大規模な爆裂により遠方へ吹き飛ばし、地面へ叩きつける結果につながったのだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「どうだ! 全力で無茶をやれば何とかなるんだよ……!!」

倒れた荒野で先に意識を取り戻した者はシンだ。

彼の言う通り、全力で無茶をした結果がこの勝利を掴んだが、両腕は粉々に砕け散り、身を守るライドアーマーもめっきのように剥がれ落ちる。

ただ残された腕を右につなげ、ストラングルチェーンを応用して立ち上がる。視線は握るのはライティング・サンダーに向けられる。


「こいつのエネルギーはまだ放電されていない。サイを助けるなら今のうちだ!」

VAVAはピクリとも動かない。だが彼の事よりも、連絡を絶ったサイが気がかりでならず、通信機を彼の元に回した。

「おいサイ……俺はVAVAとかを倒したぞ……」

『シン……通信機での会話は繋がるんだ……よかったぁ』

「通信機での会話……?どういうことだ」

「そ、それは……」


連絡が取れたサイから事情が説明された。

彼は今、ライレーンの罠に嵌められ自分は防音かつ真空状態の空間に閉じ込められた事を。そしてそれは中ではどうやっても砕くことが出来ず、自分は酸欠に陥って死に至るという事だ。


『シン、ごめん僕のスピードがあの敵より劣っていたせいで……』

「馬鹿……今はそれを言っている場合じゃねぇ! 俺がなんとかしてや……」

『ど、どうしたのシン!?』

 彼の体が静かに、うつ伏せになって倒れた。先ほどの戦いは辛勝であり、自分に残った傷も甚大な被害。立つ事がやっとであったが、そのやっとも限界へと達していたのだ。

「やべぇな……俺、ここで倒れたら意味はないじゃないか……バタフライザー」


バタフライザーを呼び、倒れた彼の体が、底部からのアームによって上部へ乗る。

装甲が破壊されたことで、搭載されたパーツがバタフライザーから露出されたが、無傷のエネルギーパックに目が行った。

「まだ補充のエネルギーが残っていたのは不幸中の幸いだな。エネルギーさえ持てばなんとかならぁ……結構痛いけどな」

破損個所を抑えながらシンは立つ。だが彼は休む事は許されない。自分はたかが一人の敵を倒したに過ぎないのだ。ここで休むことは誰かに言われなくとも、自分が認めないのだ。

「俺がここで苦しんでいる間にクーガはゲンと戦っているし、サイは苦しんでいるんだ!自分だけ休むなんて真似できねぇ!!」

 

友が苦しみながら耐え、勝てる見込みがないにもかかわらず戦うことを止めない。この状況で自分だけ戦いを終わらせていいものか。いやよくないであろう。

全力で疾走するバタフライザーにはまだ疲れ、敗北、安堵の色はなかった。彼は気づかないが、一人の男が自分を見ていたことを知らない。


「シン……お前は友のためにお前は体を張って戦い、そして勝ちやがった……俺がこういうのもなんだが大した奴じゃねぇかよ!!」

男は赤褐色の長髪をたなびかせ、自分と何処か似た容貌を持つシンを陰から見守る。またその彼の勝利と、死を覚悟する行動に喜びと誇りを感じ取っていたようである。


「けどよ、それで満足しないでお前はまだまだ戦うつもりでいる……苦しんでいる友がそこにいるから、戦う友がそこにいるからとは大したもんじゃねぇか……ん?」

この男が北からの音に振り向けば、第男二人が率いる量産型兵器が迫る。

二人は彼よりも強大な男。サムライドでも屈指の巨体ともいえるカブトムシとクワガタのような頭。西部軍団モミーノとアクエーモンである。


「同志! あいつらを倒すこと簡単だったな!!」

「あぁ! 俺たちの出番がないほどだったぜ!!」

 彼らはその他雑魚の露払いを行っていたが、やや地味、または筋肉バカかもしれないが、パワーはアリカとナイトと互角の男。彼らは決して弱くはなく、この場にいる時点こそ答えだ。

「しかし同志、四戦士はもう二人やられたとか聞いたぜ」

「あぁVAVAですら結局ボロボロにやられたそうだな」

「まぁそういうな同志。VAVAはシンをほぼ瀕死状態に追いやったじゃねぇか。片腕もライドアーマーもないとか言ってるぜ」

「その通りだな。俺たち二人ならシンを倒すことも簡単じゃねぇか!!」

「「同志! いつものことだが、二人で戦えばシンを倒すことも簡単だ!!」」

 パワー自慢の二人が、一斉に一人を叩こうとしては立場がない。そのうえエネルギーを補給しても中破しているシンならば、一人でも倒すことができるであろう。

 あくまで確実な勝利と考えるべきか。獅子が兎を狩るときも全力を尽くすと考えた方がいいだろう。それが彼らのためにもなるからだ。


「同志、あれがシンじゃないか!?」

「馬鹿野郎、シンはここにいねぇよゴラァ!!」

「そういうことか! お前も戦輝連合のサムライドか!?なら同志、」

「おぅ! その通りだ」

 シンを倒そうとする彼ら二人の部隊は、たった一人で多数へ立ち向かうこの男を始末する事を優先とした。指を鳴らしながら、剛腕を鬼たちは振るおうとする。


「やれやれ、弱い相手はどこにいるとかってな!?」

「何だと! 同志あれやるぞ!!」

「おおっ! 電撃落とし行くぞ!!」

男の挑発に乗せられる二人の鬼。ミーノの体が、アクエーモンの角によって担ぎあげられ、自分と同体重のサムライドを首の力で支えながらアクエーモンの上半身が激しく回る。

 そして今、巨体が一直線に、一本角へ全てを賭けるように飛んだ。


「攻め方は豪快。いいねぇ~しかしなぁ!」

 だが彼はあまりにも余裕であった。指を鳴らしながら軽く手を下へ延ばすと、地面から自然と隆起するように、あまりにも、あまりにもまるで如意棒のように伸びきった棒がひとりでに宙へ浮いた。

「こいつ……真紅ストレートはやべぇぜぇ!!」

「えええええ! ぶぐぉわ!!」

「な、何だこいつ!なぁっ!!」

その気になれば湖の直径以上の長さをもつ長槍、真紅ストレートは想像を絶する武器だ。

飛び上がるアクエーモンを上から叩き、投げ飛ばしたばかりのモミーノを横からなぎ倒す。量産型兵器が一瞬にして残骸と化したのは真紅ストレートによるものである。


「ちくしょう! こいつ何なんだ!! 」

「射撃攻撃じゃないくせに! リーチがやべぇ!!」

「あぁんリーチだと? 槍だからってリーチがあっちゃ悪いのかよ!!」

槍は打撃を与える武装としてはリーチが長いことが多い。

しかし、彼の槍はそこんじょの拳銃でも届かない標的を軽く仕留めてしまう。槍と言ってしまうのには問題がある程リーチが長いのだ。

アウトレンジから攻撃をすれば何とかなる問題ではないのだ。


「それよりお前は誰だ!!」

「俺か? 俺は満を喫して生まれても、路線違いで後から出てきた弟に立場を奪われた情けねぇ兄とでも言っておくぜ!」

「弟に立場を奪われた兄!?」

「あぁ。お前たちに負けるわけにはいかないぜ!!」

「や、やべぇよ同志……」

男の回転が止まらない。天を貫くかのようなやりが地面の敵を地獄の底へたたき落とすかのように回される。

敵に対して地獄を見せる男は何者か。地面に地獄を与える男は、天へ助けるべき存在に救いの手を差し伸べるかのように通信機へ叫ぶ。


「シン! ダチを救うならば内と外から同時にエネルギーをぶつけてみろ!! 電気と電気をぶつけるんだ!!」

「……!!」

「俺が誰かはお前が生き延びろ!! 俺を追い越したお前ならば臆する事無く戦う事ができるはずだ!!」

「だ、誰だ……いや違う!!」

 天へ叫ぶ大音量はシンの魂を震えさせる。彼の叫びが既に旅立った通信機から聞く。

しかし、何故彼は自分への通信を知っているのか。

 そして何故サイを救う方法を知っているのか、止めに彼に自分が超えられたと称される理由は何故か。

 

 だが頭に渦巻く何故の嵐から答えを見出すには時間がかかる。今は謎を忘却してサイを、クーガを救い生き延びるのみである。

だから彼は立った。今まで感じた事もない何故の込み上がりを、彼の闘志で抑え込みながら。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「シンさん、クーガさん……壁を乗り越えたようですね」

 同じ猛攻に傷つき始めていたミツキに、二人の白星はありがたい知らせではあった。 

しかし、自分がカスガにより窮地へ追いやられてしまったことは変わらない。あくまで彼女は、仲間の勝利より、自分の苦境という現実を見ていた模様である。

「……人は人、こっちはこっちよ」

「そうですか、ですがそうかもしれませんね」

(……VAVAが、アリカが破られるなんて……私はそれ相応の強敵と戦っている証拠かしら)

互いはポーカーフェースのように余裕を構える。

カスガの内なる心は仲間の敗北に心を揺らされたが、不慮の事態にも不動の精神は崩しては負けなのだ。

「ですが、クーガとかシンとかはおそらく死ぬ気で戦ったのね。戦いには死ぬ覚悟で相手を殺す事も大事だからよ」

 カスガが現実を理解させる自分への確認は、ミツキへのあてつけでもある。

殺す事も出来ないで、死ぬか生きるかの戦いに勝てるはずがない。自分は殺めるつもりでいるならば彼女を倒す事は容易なことだ。

二人は頭脳戦に適したサムライドだ。

しかし、ミツキになく、カスガにあるものが彼女自身の勇敢さでもある。任務のためになら静かな性格の中で全力を燃やすことができる。

それに反して、ミツキは今でも一歩引いた立場で、シン達の味方となっているだけだ。

距離を置こうとする彼女の言動は、自分の心をシン達へ開いていないようにも見え、3人が知らない事実を握る。


「殺せばいいのに、あなたは殺すことができない。もったいないね」

「やれやれ、私もやりづらい相手と戦っていることになりますね」

「一応フォローするけれど、あなたもやりづらい相手に入るわ。あなたの頭ではアリカも、ナイトも、おそらくVAVAも勝てるかどうかわからないし……そのような戦いにニナを渡せないわ」

同じ冷静沈着であって、カスガにあってミツキにないもの。それは勇敢さだけではなく、想う人がいることだ。

別地区で量産型兵器の梅雨払いを行うニナは、カスガにとって彼女の弟子として見守り、時には自分が守らなくてはならない存在である。実の娘のような彼女だからか、カスガはニナへの心遣いを忘れる事はなかった。

「またニナさんのですか……よほどニナさんの事を考えているようですね」

「そうよ……悪い?」

「さて……私はどのように動いたらいいのでしょうか。二人はお互いを想っているのですからね。心も、運命も……」

「言ってくれるわね」


フォーレ・アサルトを手の内に変形させて、二刀流へ切り替えるカスガに、ミツキはゼラニウムブレードで耐えようとする。

剣と剣との打ち合いに、ミツキは圧倒的に不利な状況へ置かれた。なぜか。それはどこに仕掛けられたかわからない時限爆弾の存在。いたずらに時を過ぎれば、彼女を殺さない限り爆弾は爆発の危機を背負っている。


「ふ、ふふふ……」

そして、向こうで爆発が聞こえた時、突如ミツキの口から笑い声が聞こえた。

気のせいかゼラニウムブレードの振り方も荒っぽく変わる。顔を俯かせて、ただやみくもに剣を振る彼女には……掟を破ることと街を破壊することの板挟みになってしまったのか。

「ふふふふふ……!ひゃはははははは!!」

「どうやら……耐えられなかったようね」

「そうですかねぇ……私も殺す事が出来ないもんですからねぇ!!」

 殺せば済む事も済めない。最短の攻略法を使えないミツキはもがき苦しまなくてはならなかった。彼女の半ば狂乱した笑いと、ただ闇雲に暴れる姿がそのあらわれだ。

「……どういうことなの」

「あなたは、頭もいいし、勇猛で、仲間想い……ですがそれで板挟みにならないんですかなぁ!?」

「分からないわ……」

「……ほら、たとえば仲間の危機には、仲間を切り捨てるか、仲間をかばうかのどちらかですよね」

「ええ。大半はどちらかになるわね」

 半分発狂しながらミツキが笑う。そんな状態での問いに理解する事が出来ないように見えたが、例を持ち上げられたときに話が通じた。


「でしょ? でしょ? 前者の場合仲間想いとは言えないけど、後者の場合頭が良いと は言わない。だから両立ができないということかしらねぇ」

「私も板挟みになるときがくるという意味なのかしら?」

「違います。私はあなたと戦うことを……しません」

ミツキの決断は自分を守る事であった。狂乱する中でも自分へ与えられた掟を守らなくてはならない彼女に対し、カスガはふっと微笑んだ。


「町を捨てることに選んだようね……しかしよほど私を殺せない何かがあるのね」

「そうでしょうか?」

しかしその時、ミツキの言動がぴたりと平常の冷静なものへと戻り、俯いた顔をあげればいつもの無表情だ。


「よく考えれば時限爆弾はニナさんを倒すことを選んでも大丈夫でしたね」

「……あなたがそのような事をすることは好き勝手だけど、時限爆弾を爆発させることも私はできるのよ」

「時限爆弾を止めるには一つ二つの犠牲は止むをえません。それに私ならニナを倒すことができるとあなたは言ったも同然ではないですか」


ニナにも起爆装置が仕込んでいる事をミツキが知っている事は計算外だったようだ。

殺せない彼女が殺すことはできるのか。しかし、普通に戦うだけでも、その戦いが原因で彼女が死ぬ可能性も存在することだ。

作戦に穴が見えたか……ニナの起爆装置をミツキが知るう事実が、彼女の計画に亀裂を入れ始めた。

「私には場所くらい把握していますから。あとはニナを仕留めるのみです」

「……それはさせないわ!!」

「えい」


 ニナの場所へ向かう為に振り向こうとするミツキを止めようとした時、カスガを想像jから絶する事態に襲われた。

 ゼラニウムブレードがニナを貫いた事だ。


「な、何を……」

「危ない危ない……自分を捨てる事も時には大事ですね。カスガを始末しないと勝てませんからね」

「深く考えすぎたのかしら……でも急所から外れているようね……」

 彼女の心臓から少し左にずれた胸へゼラニウムブレードの刃が貫かれた。

 まだ自分は無事。わずかながらカスガに、ミツキの行動が芝居だと思わせる所もあった。

しかし、ミツキはいつも以上の力で彼女を押し倒し、眼光で相手を威圧させた。

「な、何のつもりなの……」

「さて、私には相手のサムライドを殺してはいけないルールがありますが……殺さなければいいだけの話です」

「どういうこと……いたっ!!」

キキョウがカスガの両肩、両膝を狙う。彼女のビームが関節部へ放たれる時に今まで聞いたこともない悲鳴を上げだしたのだ。

「脳と心臓さえ無事でしたら、私はどれだけ攻撃を加えても大丈夫です……勘違いしていましたか?」

「その手を離して……」

「嫌です」

彼女の腹に力を入れた足を乗せ、左手にキキョウ、右手にゼラニウムブレード。貫通された箇所をゆっくりと刃を心の中心を切り刻んでいき、キキョウが手始めに両腕の関節を焼き切っていく。

「さて、あなたには勇敢さや大切な部下がいるようですが、私にもあなたにはないものがありまして」

 一転攻勢である。彼女の無表情にも微かな変化がある。瞳にはカスガを逃がさない意志と、自分を手こずらせた事への恨みを突き付けるようである。


「私は時に自分を殺して、いわば敵を欺くにはまず味方からも躊躇いませんし、私は少なくとも……あなたより残忍です」

「ひぃ……!!」

 腕一本を切った時にカスガの意識が飛んだ。腕をやられた事よりも、ミツキという淡々としたサムライドの裏には彼女が全てを感じ切る事が出来ない、いわば壮大なバックボーンが存在していたからだ。

「結構脆いものですね。天才は想定外程弱いからでしょうか」

 何時もの表情で、フレグランス・スプレーガンを破損個所へ吹きかける。意識を失ったこともあり彼女がしばらくの眠りにつくまではあっけないものであった。


「心臓ギリギリを貫く事は私の十八番。もっとも相手のサムライドの心臓位置もそれぞれ微妙に違うもので結構慎重にやらないといけないのですがね……」

 心臓の間近を貫く事がトリィとの戦いでも見せたミツキの特技である。

相手を殺してはいけないという掟は、戦いでは意外と大した事がない。それ以外の事をするならば大丈夫であり、それ以外の事が可能な実力を持つのなら尚更だ。


「それにしてもカスガさんの心臓には起爆装置なんてありませんでした……おそらく」

それよりも起爆装置が見つからない事が、ミツキにとっては一つの謎だ。軽くあごに手を当てて考えた答えが次の答えだ。


「一つ、起爆装置はただのハッタリ、二つ、起爆装置は別の個所にあった、三つ、カスガを守る方法……」

「か、カスガさん……!?」

答えが出されようとする前に、彼女の愛弟子ニナが到着した。片腕を捥がれ、ゼラニウムブレードを突き刺された師匠の前に弟子の心が震え、そしてミツキの脳内で答えが一つとなった。


「……残念ながら、殺させてもらいました」

「な、何ですって!?」

「トップを倒すことも一つの戦術です。幸い私も殺人鬼ではありませんので寸止めにしていますが、破壊箇所からあなたの内臓をもぎ取れば亡きものにすることも可能です」

ミツキが後ろを向けば、カスガをひょいっと持ち上げてみせた。


「さて、カスガさんと、時限爆弾の解除。どちらにしましょうか?」

「そ、そんな……卑怯です!」

「卑怯も何もありません。人質を取ることも立派な戦術ですから……「時限爆弾の場所を教えてください?」

 ニナが震える。その中で取った行動は、背中を向けてボディカバーを展開し、振り向いて心臓に取り付けられた起爆装置らしき正方形の物体を彼女へ見せる。

「……こ、これが時限爆弾の起爆装置よ……」

「ほぅ……様子から嘘は言っていないようですね」


 ミツキにはニナの心が読めるようであった。理由はカスガがニナの身を案じる言動が多かった事、次に目の前のカスガは本当に殺されてしまう、ニナにそう考えさせるかのように、ミツキの眼力と、目の前で無抵抗と化したカスガであった。


「……だ、だから早くカスガさんを!!」

「誰が人質を取ったくせに、自分の要求を満たす前に、相手の要求を果たす馬鹿な真似をしますか?」

「く……!!」

 ニナの手で、手のひらに収まる起爆装置が握りつぶされた。煙を立てた起爆装置を目にしてからミツキは、カスガをぽいっと掌から放り投げるようにカスガの体を右へと投げ捨てた。


「カスガさん……!!」

 カスガの元へ、絶体絶命の師匠を助けようとニナが動いた瞬間だ。素早く両手に握ったキキョウが彼女を何発も射抜く。心臓の周りが貫かれた瞬間、ミツキが前かがみになって入り込み、フレグランス・スプレーガンが破損個所へ霧を吐いた。

「……師弟コンビ沈黙。自分を殺してまで、卑劣な手を使ってまで相手に戦えるかどうかですね」

「心を殺してか……言ってくれるじゃねぇか」

「あなたが……」

 ミツキの元に一人のサムライドが立つ。その男は赤褐色の髪を風に吹かせるサムライドである。振り向けばミツキにも面識があったのか、特に驚きやリアクションも存在しなかった。


「あなたの存在を私は、開発班から流出した設計図で知ってはいました」

「へへ……ミツキよ、相変わらずあいつの為に心を殺すようだな!!」

「言いますが、シンさんはアゲハを倒されてから戦いに生きるサムライドですから、色恋沙汰は関係ありませんから……」

「か~っ突っ張るなぁ~俺は一応なぁ……」

 男は能天気な笑いを浮かべる。その男が誰であるかをミツキは知ってはいたようだが……。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「はぁ……みんなどうなのかしら? サイちゃんが降服してしまえばそれでいいのになぁ」

「……」

 VAVA、カスガがシンとミツキにより凄惨な敗北を喫した。残りはマサトであるが、彼は本来のお気楽な性格そのもの。閉じ込められたサイが時を経れば死へ至るものであり、また自分も特になにをすべきか見つからなかったからである。


「しかし、もったいないわぁ……あぁん、ライレーンたらこのイノセンススティッカーを壊す方法を教えてくれてもいいのに!!」

「教えてもらおうがなかろうが! 要は壊せばいいだけの話だ!!」

「ま、まぁ!!」

「シン!!」

 戦友の危機を救うためにも、シンは立った。今の彼は、不安の渦を抑えながら、彼を救う唯一の方法を信じて戦う事であった。


「ま、まぁVAVAは!? VAVAはどうしたのかしら!!」

「あいつは俺がやった! サイ、急いでプラズマフィストでバリアーを殴るんだ!!」

「ええ!?」

「ふふふ~先ほどサイちゃんがそれをやっていたけど、逆にエネルギー内に電撃が走って大変な事になったわよ~」

「……」

 サイが先ほどの失敗から首を横に振ろうとした。し


「今はそれしかないんだ! サイ、頼む俺を信じてくれ!!」

「……!!」

「何が何だか知らないけどそうはさせないわよ!」

「今だ……!!」

 マサトが此方へ迫ろうとした時、サイは戦友の危機を感じ取った。自分の身を守るより戦友の危機を救おうと考えるサイは、なにも迷わずにサイ・クローを振りかざそうとした時、彼は戦いへの新たな希望を得る瞬間だ。


「いけ! ライティング・サンダーシュート!!」

「なんですって!?」

 ライティング・サンダーシュート。ライティング・サンダーの先端から放つ光明が、彼の拳と衝突をしようとしている。

今、バリアーの膜が、外から、そして内からの力が激突しあう事で、激しい煙とともにバリアーがガラスのように破れて飛びちり、破片が光と化して消滅し、地上に巻き起こる雲からは金の翼をもつ者が、鳥籠から解放され天空へ飛び立つ鳥のように舞った。


「なるほど! 内と外とのエネルギーをぶつけあうことでバリアーを破ったんだね!!」

「あぁ……!!」

「そうなっちゃったのね~ふふふ。サイちゃんが無事なのはうれしいような複雑なような!!」

「……させないよそれは!!」

 半ば笑いながら、ビルズ・ランサーを突き付けて飛ぶマサトから新を守るように、サイ・クローが彼を止める。解き放たれた天駆ける拳闘士は、自分の拳に誇りを持ち、戦友の存在に闘志を持つ。完全復活の彼は風林火山の四戦士にも一歩たりとも引かなかった。


「シン!ここは僕が食い止めるから早くクーガのもとに急ぐんだ!!」

「何!? 大丈夫なのかサイ!!」

「たかが風林火山の一人に二人も必要ないよ!それよりクーガは今頃その四戦士のトップと戦っているんだよね?」

「あ、あぁ……けど、お前は大丈夫なのか!!」

「大丈夫だ!」

 

 サイは繊細であるが、守るべき者を守る意思は強固なものへと瞳はもつ意志を変える。今はその瞬間である。


「僕は絶対負けないからさ! 僕もシンより心では負けないとは思っていないよ!!」

「……!!」

「ぼろぼろのシンがここまで来たし、クーガは今頃死ぬ気でゲンと戦っているんだ!ミツキだって一人で必死に戦っている中で僕だけが誰かの助けを借りるわけにはいかないよ!!」

「そうか……やれやれみんな心が負けてないぜ!!」


 ここにも心が折れない戦友がいた。今折れない心で戦う戦士が全力を放ってマサトを食い止める。彼が勝つかどうかは分からない。

けれど、折れない心を持つ戦士が自分へ持つ期待と信頼を裏切る事は、彼を死なせる事よりも罪だと思ったからだ。


「サイ! こいつはお前に任せるから……俺も全力で急ぐのみだ!!」

「あ、あぁん! ちょっと!!」

「デルタートル! トライアングルフィールド!!」

バタフライザーで再び駆けるシンをマサトは逃がそうとはしなかった。しかし、サイは素早く飛んで、周囲の三点へデルタートルを飛ばし、三角形状のピラミッドを形成し始めた。


「な、なんですって!?」

「あのライレーンとかに先を越されたから使えなかったけど……僕にはこれがあるんでね!!」

「なるほどやられたらやり返すわけね」

「シンに倒れてほしくないからね! 僕は!!」


 トライアングルフィールドの中で、サイとマサト。空中と地上にて超音速のスピードが激突しようとする。面が風による衝撃で震えがあがる。サイの拳と、マサトの槍がぶつかり合っては離れるの繰り返しだ。

 

「急ぐんだシン! 僕の事よりも君が先にクーガの元に辿り着けなかったら意味はないんだ!!」


サイは胸の底から叫ぶ。この叫びの裏には自分よりも戦友であるシンを考える何時もの彼が、天駆ける拳闘士がその場に確かに存在したのだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ふふふ……やるな」

「あぁ……あぁ……」

猛虎スラッシュ風林火山とビーグバーストボンバーによる1対1の戦いは続いた。ゲンの圧倒的な実力に対し、クーガは実力差を心に秘めた意地と誇り、あいつの事でへし折る事もなく健闘を続けた。


「最も俺にはまだもう1形態ライド・クロスする力があるが、どちらにしろまだ俺は戦うことができるからな」

「……(キングランダー形態になれないことが大きい。俺がまだ丈夫ならば戦うことのだが……)」


戦いの中でこの話を聞いた時、クーガの心に焦りが生まれた。例えゲンを自分が追い詰めても、あと1形態ライド・クロスが用意されているからだ。

 ライド・クロスなしでライド・クロスの相手にクーガは十分戦っている。だが相手がさらなる高みへ行っても、自分は高みへ登る事が出来ない。

 ユキムラを油断させるとはいえ、キングランダー形態を敢えて破壊されてしまう行動を取った事は間違いだったのか。


「さて、折角ならば風林火山猛虎斬撃でいかせてもらおう」

「お師匠!」

「遂にいくかもしれないね! これ!!」

 猛虎スラッシュ風林火山が必殺の構えを取る。クーガに年貢の収め時が迫ろうとしていたのか。


(まだだ。俺はまだ負けるわけにはいかない。俺がここで倒れたらそこまでだ……)

 一瞬、クーガは覚悟を悟ったが、心のうちで自分はまだ折れない事を自分へ唱えた。弱音を吐けば敗北の瞬間だからだ。


「さらばだ……俺の拳を耐えたところだけはまだよいとしよう!!」

「!!」

「……させるかぁ!!」


 その時、深紅の光が地面へはじけ飛んだ。ギリギリの合間で両者を吹き飛ばし、回転しながら、彼は紅蓮の髪を風に揺らしながら、地面へと立つ。

「させないっすよ!!」

「邪魔だぁっ!!」

「おわっ!!」

「ユッキー!!」

 またブレイズバスターの光がユキムラを跳ね飛ばす。彼が飛んだ瞬間に彼を想うアリカが駆けようとした時だ。


「アリカさんといいましたね……」

 駆けるアリカの足元に落とされた者は、サムライドの腕と足。だがその両腕と両足は自分にとってあまりにも親しいサムライドであった。

 それだけに関節部に血のような、油のような液体が付着したパーツには、彼女の足の動きが止まってもおかしくはない事だ。


「あ、あんたこれ……!!」

「カスガさんとニナさんは私が仕留めました。ですがカスガさんは私にとってはあまりにもしぶといサムライドでしたので……ついついね」

「!!」

 ミツキの読みが当たった。カスガのような頭脳派は自分と同じタイプゆえに相手へにしたくはない。

 しかし、自分と反対の武闘派ほど騙すことは簡単で、特に情を刺激する方法は何よりも効果的であるようだ。


「さて、蛮勇という属性を持つ相手ほど戦いやすい相手はいませんね」

「……蛮勇なんかじゃないもん!!」

「これでイーブンになりそうですね……」

 アリカは飛んだ。崖の上へ立つミツキの元へ、彼女は自分が犯人ですと宣伝するように、相手を招き、アリカを巧みに引きつけていく。


「ミツキ……さすがだぜ」

 ミツキの頭脳はシンやクーガ、サイにもない取り柄だ。あと一歩のところでゲンと交えようとした瞬間に、彼女まで入り込んだら倒れてしまうだろう。

 それだけにアリカという敵のカードが主戦場から消えた事が救いであった。この場へ切り込んだ所へ、お膳立てされた戦場に辿り着いたのだ。


「……クーガ、ここまで耐えるなんてお前はすげぇぜ」

「お世辞もほどほどにしろ……お前同等の実力ならば俺を倒しているはずだ」

「馬鹿野郎……戦いにルールも何もねぇ。2対1でも勝てばいいだけだ!」

「何を馬鹿な事を……」

「クーガ、俺は仲間のピンチを見過ごす事が大嫌いなんだよ!!」

 ライバルとして、シンとは互角以上の実力でありたい。それ故に持ち前の性格あいまってクーガも、シンも意地を張ってしまう。


「2対1でか……まぁよい、無名なお前たち2人を束にしても戦うことができるはずだ」

「「……!?」」

「お前たち2人でも、3人でも、4人でもかなわないとでも言っておこうか」

 その時、クーガとシンのいがみ合いを吹き飛ばすかのようなゲンの挑発が二人の意識を向けた。

「どうせ俺は大したことはないかもしれないが」

「……言いたいこといってくれるじゃねぇか」

「確かにな」

 この時、いがみ合う二人の心が一つの目標へと道を変えた。クーガからすれば、ジブンとシンはまだ大差がないと言うような事であり、彼の葛藤を解かしたが、それが尚更ゲンを倒させる意志に化けた。

 意地を見せてやる。五強の一角だろうが、実力、運、相性、どれかが相手に勝れば、勝機を得る望みだってある。


「クーガ、意地を張っている暇はねぇ……あいつを倒すぜ!!」

「あぁ……俺があいつを倒してからどっちが勝つか競うのみだ!!」

「いくぞブレイズバスター!!」

「巨大筒だ!!」

彼の右手と、クーガの両肩から三本の光が混じり合い、光により地が煙を帯び、周囲の物体を吹き飛ばしながらスピードを落とさない。

 今ゲンは正面から光とぶつかり合い、体が光にのまれたように見えた。

だが、飲み込んだような光から一歩一歩現れた影は全く傷を負わないもの。表情からは自分たちの攻撃が通用しないものであると言わんばかりに。


「びくともしない……さすがか!」

「やべぇ……俺……」

「どうした……」

「エネルギーがもうねぇんだよ……」

 無理はなかった。エネルギーパックの補充を行おうとも、VAVAとの戦いでシンが受けた傷は壮絶なものであり、ブレイズバスターを間もなく三連発してしまえば、彼は切り札を使う事が許されないのだ。

「だから、お前は全力で無茶をするから……」

「仕方ねぇ……うっ!!」

 彼はよろよろと後ろへ下がった時だ。燃え尽きようとしていた彼には三角形状の刃が貫かれた。


「シン!?」

「やべ……エネルギーがないから後ろ注意するの忘れた」

 痛みに耐えながら後ろを見た時点で、誇らしげに笑う少年が六文槍を変形させた六文刃で自分を貫いた姿だ。


「よくもさっきは邪魔とか言ったっすね! おいら足手まといではないっす!! これが証拠っすよ……」

「まずい……こんな奴に俺はやられるつもりなのか!!」

 

一瞬、焦りが死への恐怖を駆り立てようとしていた。しかし、自分を知る者の存在が、自分が全力で無茶をするサムライドであった事を振り返り、ホルスターへ収納されたトライマグナムへ目は行った。


「シン、待っていろ俺は……」

「大丈夫だぜ。そらよっと……」

「!!」


 だが、いややはりと言うべきか。この状況においてシンは無謀な行動に出た。

微かなエネルギーで握られたトライマグナムが、彼自身の左胸を射抜いてしまったのだ。あけすけなユキムラでも、自分を殺めようとする行動は想像を絶する方法であり、貫いた槍が思わず手から離れた。


「どうだ……これこそ胃に穴が開く。八方塞で俺はどうしようもないぜ……」

 トライマグナムのトリガーは何発も引かれた。諦めを見せたかのように銃弾が左胸を撃ち、やがては、風が体を通ってしまったかのように、穴が開いた。


「クーガ……後はダイヤモンド・カッターでさっぱり俺を殺れよ」

「何だと……!?」

 シンの背中からは、彼へ向けたダイヤモンド・クロスが飛び、クーガの手で薙刀上の兵器ダイヤモンド・カッターと化す

 だが、そこまでの状況を把握する事が出来ても、何故シンが自分を殺せと言いだすかが分からなかった。彼は死ぬ間際で狂気に走ったのか。全力で無茶を信条とするシンとはいえ、今回の行動はあまりにも度が過ぎているような気がしてならないのだ。

「お師匠、どういうつもりっすか……これ?」

「あの男は戦友の手で自分の命を断たせるつもりか……この世界において切腹と介錯を意味する行為だ」

「お師匠……」

「黙って見てやれ。だがクーガはマローンの愛弟子だけはあった。それだけは言っておこう……」

 ゲンも戦士の誇りを心の内には秘めていたのか。シンの死に場所を用意する事は考えていた模様だ。ゲンに言われユキムラも手を出さない。

 この状況にシンとクーガは戦士の誇りを貫くのか、ダイヤモンド・カッターをシンの胸へと向けた。全ては整った。機を見てかシンの口元が緩んだ。


「クーガ、最後に一言言わせてもらうぜ……分かってくれよ」

「何だ……」

「俺は死んでも生きるつもりだぜ。だから頼むぜ?」

「「……!!」」

「どういうことっすかお師匠?」

 その時、ゲンはシンの言葉に隠された意味を把握してしまった。もしかすれば……ユキムラが師匠である彼へ疑問の表情を見せている。クーガが起こす行動からは危険しか感じられない。


「……ま、まずい」

『ゲン様~東部軍団の長野でミーシャ率いる義闘騎士団が動き出しましたわよ~』

「……このような時期に! 逃げろユキムラ!!」

「え、ええ!? どういうことっすか……」


 ゲンが気付いた時には、義闘騎士団の進撃というよりによってあってはならない状況を告げるプラムせいで、彼は行動が鈍ってしまったのだ。

 このシンの死んでも生きる。その言葉を信じてクーガが取った行動は万に一つのずれがあったとしても危うい事になった。

 彼はダイヤモンド・カッターをシンに突き刺すよう投げつけた。ためらう事をなく力いっぱい一直線に投げた。

 標的はシンの胸だが……左胸、穴であった。

「俺の言葉分かってくれるじゃねぇか……」


 シンの体に開いた穴はダイヤモンド・カッターを通過した。そして、障害物に触れる事がないゆえにスピードが削られなかったダイヤモンド・カッターが、穴の先に存在したユキムラの胸に突き刺さってしまったのだ。

「どうだ……全力で無茶出来ない相手に簡単に殺される俺だと思ったか!!」

「シ、シン! お前は最初から」

「あぁ……死ぬかもしれねぇけどこいつしかな……のわぅ!!」

 後方からの勢いでシンが弾き飛ばされた。振り向けばゲンが彼を押しのけてユキムラを抱えた。

「お師匠……深くっす」

「言うな。今は無名の輩を蹴散らすより、ミーシャとの因縁をつけるのみだ! 命拾いしたなシン、クーガ!!」

だが、ゲンは自分を倒す事など、どうでもよかった。ダイヤモンド・カッターの突き刺さったままのユキムラを逃がす為にシンを弾き飛ばした。

そして、風林火山形態を解き、コーフェストが北東へと疾走を開始していた。クーガの巨大筒による追撃を行おうとしても、コーフェストのスピードが、ゲンのテクニックの前には一発たりとも掠る事無く姿は瞬く間に失せるのみだった。


「どういうことなんだだ……」

「分からない。だが相手に何かの事情があったのだろう。俺達には幸運のほかならない」

「あぁ……そうなんだよな。もう俺動けないもん」

 クーガの言うとおり、この戦いは幸運により生き延びたのだ。もし義闘騎士団の襲撃が存在しなかった場合、彼ら2人はユキムラを倒す事で関の山だっただろう。


「どうやら片付いたようですね……」

 ゲンの撤退は風林火山こと東部軍団の退却同然である。ミツキとサイが自分たちと比較して深手を負わずに帰還した事が証拠であろう。

「ミツキ、サイ! お前も無事だったのか!!」

「無事も何も。ゲンの撤退で皆さんが顔の色を変えたように撤退をしていきました」

「うん。マサトとかは僕のフィールドバリヤーを破ってVAVAとかを助けに行っちゃったからね……」

「そうだ!」

 4人の頭上からは、シンの聞きおぼえがある声を聞いた。声の主が崖上に立ち、真下の自分たちへ野生のような闘志を両目にたぎらせる。どことなくシンとよく似た男である。


「よくここまで来たといったおくぜシン!」

「その声はあの時俺にヒントをくれた……いったい何なんだあんたは!!」

 窮地を救われた男でもあり、彼の中では一応感謝と礼儀の感情もあった。だが全く自分に覚えがないのに、この男が通信機のダイヤルを把握している事から疑問も募らせていたのだ。


「知りたいか?」

 男からの問いかけに対しシンは惜しむことなく、首を縦に振った。真実を知りたい彼の両目に曇りがない。

確信を得た彼は一度深呼吸してから、両頬をパチンとたたいて自分にも喝を入れる。


「俺はKG・ゼン。とりあえず言える事は、お前は俺に立場がなくなっただめな兄とでも言っておくぜ」

「……!?」

「シンの兄だと!?」

「本当なのかいミツキ!?」

「……」

 

男KG・ゼンはシンの兄である。信じられない話だが、出会った事のない男が通信機の周波数を知っている事が何処か一度会ったような気がしないでもないのだ。

またシンと同様驚きを示したサイ、ミツキとサイへ顔を向けた所、彼女はKGから事情を聞いたのか、それよりも彼女はこの件を最初から知っていたかのように顔色を変えることがなく、コクリと首を下げるだけであった。


「さすがお前は俺の立場、エンド国のサムライドという称号を奪っただけはある。愚兄賢弟はまさにこのことといっておくぜ」

「ま、待ってくれ……待ってくれよ!!」

「俺にはやらなくてはならないことがあるからな! このKG・ゼンにいつ逢う日が来るかわからないが縁があったらその時はその時だ!!」


シンが追おうとしても、損傷が大きいゆえにもう満足に歩く事が出来ない。

目の前の兄は引きとめようとする弟とは、再見を信じているように、微かな笑みを浮かべながら、橙の鎧で固められたライド・ホースともいえるライド・マシーンへ騎乗して、鞭を打ちつけながら何処かへと駆けて消えるだけであった。


「僕に姉さんがいたように、シンには兄さんがいたということか……」

「あの男の強さが本物ならば……敵に回したくはない」

「はい。あのKGさんは裏切るようなまねはしないと思いますが……どちらにしろ今回の戦いで相当な痛手を被りました」


 サイとクーガは弟であるシン自身も知らないという兄KGの登場が、彼ほどでないにしろ衝撃であった。

 だがミツキは兄弟の出会いよりも、今後へ一抹の不安を抱く。一応自分たちは生き延びたが、相手はあくまで事情により退いただけ。自分たち以外のサムライドや量産型兵器は、戦いにおいて悉く敗れ去り、戦力の著しい低下は否めない事であった。


「この世界でいえば、ミッドウェー海戦で辛勝した日本のようなものです」

「辛うじて勝利したが先が思いやられることだな」

「はい」

「それより……シンの事なら」

 今後自分たちがどのように四方の三光同盟へ立ち向かうことか。ミツキですら軽く頭を押さえる。

 それよりも、サイはシンが不安で仕方がなかった。今彼は満身創痍の体を四つん這いの状況で、顔を下に向けて震えたままなのだ。



「KG・ゼン……あんたは本当に俺の兄さんなのか!兄さんなら、何で兄さんは俺から姿を消さないと言うんだ!!」

兄の存在もある。だが自分も知らされていなかった生き別れの兄ならば、何故2万年以上の時を超えた出会いを自分から終えて立ち去ってしまうのか。

兄は一体どのような使命を背負っているのか、また本当に兄が実の兄であるのか。紅蓮の風雲児シンは今、未曾有の衝撃に心を大きく震わされていたのである。


「あんたが本当なら帰ってきてくれ! 兄さん、兄さん……にいさぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


 弟は天へ叫ぶ。何時出会うか分からない兄との再会を求める声を天は受け入れ、事がかなう日は来るのだろうか。だが兄と弟の再会は……時が進まない事には実現はしない。

 

何時帰るか分からない兄を求めて、シンは待つこと以外に叫ぶ事しか方法がなかったのだ。


続く


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