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第23幕 絶体絶命!戦輝連合対風林火山!!

「そやか……やはり、サクラはんは失敗してもうたか」

「はい。あの女は強くなろうとも、自意識過剰な性格が変わらなければ負けるものなのです」

 ガンジーにはハッターからの報告に半分わかってはいながらも、言葉には残念の二文字がよぎる。

 擁護するが、サクラは一応彼女なりに粘った。

 口だけでしか能がなかったころと比べれば、重力を駆使した彼女の戦いはそれなりにシンを追い詰めた。しかし敗れたのだ。

「やはり、力におぼれてももうたか、例え力を手にしても独断行動は命取りや」

「その通りでございます。綿密な作戦を練ってこそ勝機は来るものです」

「そや」

 そやの二文字こそ、ガンジーの意志である。何事も慎重に、独断行動を許さず、足並みをそろえた慎重な戦法こそ勝利への秘策であると考えているのだ。


「ま、とにかくサクラはんの失態はわいがケイ様に取りなしておく」

「ほぅ。サクラ様は同じ組織であっても、政敵の様な者です。それでもやるのですか?」

「そげな考えやからあかへんのや」

 手と首を軽く横に振りながら、ハッターの疑問へ答えを出すた、

「ええぇか。北部、東部とかでそういう足の引っ張り合いをしていた大義はなせへん、またカズマはんに続いてサクラはんまで亡き者にされたら、この同盟はお終いやでぇ」

 サクラやカズマとは対照的の考えである。他者の尻拭いをすることに渋々だが、それでも、ほおっておくことよりも、自分がやらねばならないらしいと、止むを得ない気持ちの方が強い。

「とにかくや、わいはケイはんの夢に期待しとるんや。この同盟を潰される訳にはいかへんのや」

「なるほど……教主様、今回の作戦ですが」

「ライレーン、言ってみぃや」

 もう一方の扉からライレーンの姿が現れる。西部軍団のナンバー2である彼女は今回の作戦を担っており、教主であるガンジーに確認をとる行動は最もであろう。

「モミーノとアクエーモンに勢力内をかき乱させます。この2人を餌にしておびき寄せれば少なくとも一人は動きます」

「一人とはあいつの事やな……」

 該当するあいつとは、多分この作品の主人公であろう。標的である4人の内主人公を指す1人は、間違いなく執拗な挑発を受ければ動いてしまうだろう。

「左様。そこで1人か2人おびき寄せられた所で、敵中突破に成功した東部軍団の2人で挟み撃ち。1人を確実に倒して言ってじりじりと攻めるのみです」

「そやな。あの4人を倒せば戦輝連合は烏合の衆と化す。東部軍団にはもう作戦は伝えてあるよな」

「はい。作戦の伝達は既に終わっています。あとは……5分後に動くだけです」

 東部軍団と西部軍団による戦輝連合の主要サムライド4人を始末する作戦は、着実に準備が整いつつある。

 間近に迫っている二軍団の作戦についてハッターとの作戦の打ち合わせを終わて、ガンジーが戸を開ければ多勢の部下、いわば修行僧ともいえる容姿で座禅を組み、彼らがあがめる先には、おそらくこの時代における神か仏ともいえる像であろう。


「うむ……うむ……」

 一歩一歩音を断てないように歩きながら、部下の禅の様子を眺める。

 ゆらゆらと動く者を視界に補足すれば、法華銃の銃身を、警策で喝を入れるかのように肩へ叩きつける。

「……!」

 部下は耐える。激しい音が鳴る程打ちつけられても周囲は全く動こうとしない。心を落ち着かせる事。それが西部軍団にとって大事なことである。


「うむ。みなしっかり精神を集中さえとる……わいら主要メンバーを抜いた状況では、お前らが西を守るかなめやかからな」

「教主様!」

 部下達の落ち着きを確認した所で、何人かのサムライドが駆け寄るようにして飛び出した。沈黙を破られたことで教主は露骨に不機嫌じみた表情を見せつける。


「なんや、静かにしなはれ。この者達に西部軍団を守ってもらなあかへんのやからな」

「すみません。それよりディアは今回の作戦に出動させないのですか」

 ディア・カノスケ。ご存じ西部軍団の問題児である。

 彼が向かう所は東ではなく西のみ。ガンジーでも、内心彼の扱いに苦労していては頭を抱えて愚痴るように言葉を吐いた。


「……この作戦に向かわせたらモーリはんを倒せ! とかいいかねへん。とにかく今はライレーンがディアはんを眠らせておる」

「そうですか。ですがディアはんの能力は……」

「今回の作戦は足並みをそろえていくんや。一人の愚か者の為に軍が崩壊する例もあるんや」

 実力を認めていないわけではない。最大の問題は結束を乱す行動を彼が取っていることにある。

「わいは、この世界のとある武将の言葉を信じとるんや。真の勇士とは責任感が強く律儀な人間であるという言葉をな」

 この言葉を口にした者は、力が弱くとも団結力と連携を活かせば恐るべき抵抗力を発揮するからとの理由からこの言葉を口にしている。

 ちなみにその人物は、逆に豪傑肌の人間は「勝っているときは調子がいいが、危機には平気で仲間を見捨てる」と評価は手厳しかったようである。


「こんな事部下にも言えへんが、東部軍団の部下はうちらの軍団より強い。やけど、いつ東部が引っ込むかわからんのや」

「はい……東部のより東、義闘騎士団の存在ですな」

「義闘騎士団とは決着を付けたがっているし、ケイはんの傘下に入る条件に彼との戦いを最優先にしとったから仕方があらへん。それゆえに、うちらが粘らなあかへんのや!!」

「ですがなぁ……私とライレーンはやらなくてはいけない事があります」

「そ、そやったなぁ……」

「はい。ライレーンは本来この作戦に専念すべきと考えていましたが、とんでもない掘り出し物を見つけてしまいましてなぁ……」

 ハッターが言うとんでもない掘り出し物とは、彼女が目をかけていた存在である。その存在の為にライレーンは急がなくてはならなかったのだ。

「ライレーンがわいにあぁまでして頼むのは初めてやさかい。本当は西部軍団もこの作戦へもっと介入すべきなんやけど……サクラはん余計なことしてくれはる……はぁ」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……とこれが、西部軍団が計画する作戦だ。何か意見はないかカスガ」

 時は少しさかのぼる。

 ハッターの考案した西部軍団の作戦はゲンと彼らを慕う四人。風林火山の四戦士が囲んで軍議を進めた。

 まずゲンが真っ先に意見を振る対象はカスガ。四戦士屈指の知将でもある彼女だ。


「私からは特に意見はありません。作戦自体に問題はありません」

「カスガっちがそういうならあたしも異議なしー!!」

「ふむ……」

「しかし、ゲン様、何処に出撃するかですよ!」

 マサトの意見は作戦の事ではない、人選である。

 ハッターの作戦は四人を分断して叩く方法で確定している。二手に分けて、さらに個々を分断させる作戦だが、相手に誰をぶつけさせるかで戦況は変わるものである。


「マサト、お前には西へ向かえ。お前なら託す事が出来るはずだ」

「ふふふ。まってたわよーそんなポジションに当たる事は」

「確かに……」

 敵中突破の役に、カスガは肯定する発言を持ちこむ。四戦士最速のスピードを誇る戦士であり、敵陣に切り込む役には妥当であろう。


「モミーノ殿やアクエーモン殿が引っ張る敵を、後ろから囲むことで相手を包囲して潰す。牽制された相手を叩く事はお前がうってつけだ」

「つまり……マサトはシンを叩く役割になる」

「あら?どうしてかしらカスガ」

 カスガはすぐに手元のファイルを各自に渡す。

 数ページにわたりシンの分かる限りの経歴やデータ、今までの戦いについての特筆すべき事項がびっしりと網羅された資料。

 そして、これ等を纏めるファイルのボタンを押せばこの世界での戦闘映像が記録されている。


「ふふ……戦輝連合の中心になるサムライド・シンは大局的な点で物事を考える事が苦手な模様。いつも勢いで敵に切り込む可愛いおバカちゃんね、カスガ」

「……可愛いかどうかは私にはわからないわ」

「でもあたし見た目だけなら結構好みかなー。そのシンとかスンプー国のサムライドがおバカちゃんとか言っているサムライドがいたねー」

「外見はどうでもいい。だが勢い任せな男である点は事実だ」

 彼の外見で色々言うマサトとアリカだが、ゲンが話を本筋へ戻す。ようはシンをおびき寄せる事は容易い事は事実である。


「モミーノ達の挑発ですら、シンぐらいを動かせる可能性は高い。彼らの作戦を経ると、なし崩しにお前はシンとぶつかることになる」

「なるほど……ですが、私はシンを攻撃する気はないわ?」

「……何」

 しかし、マサトは拒んだ。それは何故か、彼の忠誠に曇りがあった訳ではない。闘志も他の3人に劣るものではない。

 ゲンからの問いに対して、マサトは少し微笑ましい表情を浮かべてビシッとVAVAを指した。


「俺……だと」

「そうよ~VAVAちゃん?」

「俺にちゃん付けをするな……いや、何故お前を当てる」

「そうだ。聞かせてもらおうか。戦輝連合においておそらく最強の男を避ける理由は」

「そうだよそうだよ~ならあたしだってそのシンとかと戦いたいよ~!!」

「んもぅアリカ、VAVAは四戦士において最強の戦士よ!」

 アリカはもったいないと駄々をこねている。四人のうち最も純粋であり、好戦的である彼女がうずうずしたがる事は最も。

 しかし、VAVAは自分たちの中で最強であることをマサトは示した。


「シンは頭以外ではトップクラス、サイはスピード、ミツキとか言う女は頭脳。各自の長所と同じ点かつ、より優れた力で相手をねじ伏せるのよ!」

「総合能力で高いシンを、VAVAに当てさせる訳ね」

「ならばミツキにカスガ、サイにマサト、お前を当てるつもりか」

 マサトの発言では、目には目を、歯には歯をと同じ意味である。VAVAはミツキとサイへ当てる相手を予想するが、その予想はマサトが微笑みながら首を縦に振る事で答えは出た。


「うむ。VAVAにシンを当てる。そして、この有利な戦いを敵が加入することで覆される事がないようナイト、お前とカスガでサイとミツキを牽制という作戦で行く」

「さすがゲン様!」

「西への切り込みにナイト、またおびき寄せられたシンにVAVAだから2人が西へ向かう事になるわ。サイは……なるほどね」

 

 カスガが口にしたなるほどの意味。

 それはサイがシンに友情を感じ、彼を常に想い、案じているからである。

 彼はシンの為に命を張る事が強さを持つが、その強さを逆手に取ってしまえば、シンさえおびき出せれば結果的にサイも引っ張ることになるのだ。


「あの子ならシンの危険に放っておく事は出来ない。シンを挑発させればサイが付いてくる事は確かな事だわ」

「敵の情けほど俺達に優位に物事を運ぶ要素はない訳だな」

 資料に目を通しながらマサト、VAVA。2人の突破組は理解を示した。一方、別の資料からカスガは少し難しい表情を見せていた。


「あれ、カスガっち何そんなに悩んでいるの?」

「いえ、ミツキは少々手ごわい相手になると思ったのよ」

「ミツキが……だと?」

「はい、ミツキは戦輝連合の知恵袋であり頭脳の面でもともかく、これといった弱点が見つからないのです」


 カスガが語る弱点が見つからない。のちにカスガは弱点を見つけるのだが、この時点ではまだ弱みを探ることができなかったのだ。


「はい。シンは思慮に欠ける所がある他に、腕の作りがやや脆弱な点、ブレイズバスターの射出に隙がある、ライティング・サンダーを使えば自分の腕は破壊されてしまう……色々あります」

「ほんとね……でも、弱点を露出させても、土壇場で逆転ばかりしているから、弱点を知った気でいい気になるなとか注釈に書いているわ」

「えー何それ。運、いや土壇場での勝負強さ、応用力がなかったら既に死んでいるじゃない」

「いや、運を味方にすることが出来るもの。また土壇場での勝負強さや、並み外れた発想と応用力があるから出来る事だ」

 弱点についての項目は、シンの資料が最も情報量が多い。弱点や癖がびっしり記載されているが、それでも彼が最も警戒されているのだ。

 戦いには弱点よりもそれを補い有り余る物があれば勝つという意味か。本当の答えを四人はまだ知らなかった。


「ちなみに、サイは重力軽減装置の力で高速で飛行できるけど、背中の重力軽減装置を破壊すればスピードは一気に失われるわ」

「なるほどね。空中と地上ではこっちの方が有利。でも、カスガ、ミツキには弱点がないのかしら?」

「はい。あの女は追い詰められても、弱みは見せない模様で……面白い事が書かれているわ」

 目を皿のようにして資料を眺めるカスガは面白い点に気付いた。ミツキがガビダルのサムライドである事実が書かれた点だ・

「秘策が思い浮かびました……」

「何……ならばその作戦、お前に全権を預けよう」

「はっ……!」

「うむ。お前の頭脳を存分に振るえ。戦いにはルールも何もない」

 カスガの秘策。彼女の二文字にはゲンが信頼を置くことにためらいはない。

 この信頼を得て、ミツキの表情は自然と晴れたものになる。例え表情が隠れていても口元が微妙に緩んだ事が証拠だ。


「カスガならミツキに戦闘以外の事を考えさせないだろう」

「さすがカスガっち! 第2世代組のトップだけはあるね!!」

「ちょ、ちょっとやめなさい。アリカ」

「あらあら、事実を言っただけじゃないの。あの頃からカスガっちは優等生だったじゃない」

「へへーカスガっちはいいなー……ってあれ」

 一同がカスガを賞賛していた時、アリカはある事に気付いた。

 VAVAはシン、カスガはミツキ、マサトはサイに当たる訳だが、よく考えたら、自分だけ誰にもあたっていない。

 早速抗議をしようとする彼女。大半の読者ならある人物と当たる事が想定できるが、彼はまだ相手に気づいていなかった。


「カスガはあと1人クーガと当たる事になるわ……クーガのデータが……あれ」

 カスガは隠れた目を皿のようにして資料を見つめ、クーガのデータを探ると、暫くしてから彼の項目が見つかった。

 だが、その項目は他の者が何ページかにびっしり記載されているが、クーガだけ余白が余った状態で、ただ「ビーグバーストボンバーさえ破壊すれば大したことない」と書かれる始末だ。


「ちょ、ちょっと! それどうでもいい相手じゃん!! あたし外れクジひいちゃったの!?」

「ま、まぁアリカ……クーガとかはシンやサイと違ってイケメンじゃないし、外れね」

「むー! あたし火だよ! 烈火の猛将という肩書を持っているアリカちゃんだよ!! どういうことなの!?」

「……アリカ、肩書きは私達皆持っているし、あとマサト、顔で実力は決まらないわよ」

「甘いな」

 ボソッとカスガが内心で突っ込みを入れている中、アリカは駄々っ子のようにじたばたしている。しかし、ゲンにはこの期待されていない戦いへ考えがあった。


「ユキムラの力を試すにはいい実験台じゃないか」

「あ、そっかー!」

「そうだ。ユキムラにこいつを倒させる事も容易い事。万一の時、それがアリカ、お前の役割だ」

 ユキムラの事になればアリカは我を忘れてしまうようである。最もゲンは彼女を利用している訳ではない。

 ユキムラの成長を期待しているからであり、その点で共有できる楽しみがあるのだ。


「さすがゲン様! ユッキーがクーガを倒すのはよしとして、ついでに私は好き勝手暴れ回る事が出来る訳ね!!」

「うむ。どちらにしろ4対4のうち1人を片づけてしまえば、一方が1対2になり、自然と優位になる」

「いつもの俺の役柄か」

 何時もの俺の役柄というが、ここで説明をしておかねばならない。

 四戦士の内他の三戦士。マサトは以東の勢力への防波堤として群馬、アリカは前から戦輝連合における防波堤として静岡、この2人の合間、いわば両軍団の後方支援として長野のサムライド軍団を統制している。

 そして、VAVAは遊撃軍として機能している。アリカが他の3人に対する遊撃軍のようなものである。

「VAVAとマサトに切り込み先の2人を叩く。カスガとアリカは残りの2人を攻撃して最終的に戦輝連合を挟撃するのみだ。各自は出撃の体制をとれ」

「「「「ははっ!!」」」


 これにより東部軍団の軍議は終わった。各自は出撃までの時間を有意義に過ごすため、彼らは移動を開始した。

 そして残されたゲンが通信を送るためにモニターを着けた先には丸眼鏡をかけた女性である。

「プラム……俺も出撃するために留守を頼む」

「はいはーい。東部軍団の皆さんが総出撃という事で、留守を任せなさいということですね~」

「うむ。留守の勢力を残すが、その留守はお前に任せてもらおう……」

「はいはーい~ゲン様こそ五強を倒せますよ~ゲン伯父様頑張ってくださいね」

「伯父様とは懐かしい……最もこの大陸に血縁関係は何の意味もないがな」

 過去をゲンは振り返ろうとしたが、すぐに出口へと彼の影は消えた。自分の過去はすでに2万年前の話。また弟の死という記憶がある限りそれから崎の自分を思い出したくはなかったのだ。

 今は今にすぎないのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「アリカさん。私達も出撃ですね」

「そうよ……戦いにルールはない。1対1で戦えと決まったものじゃないわ」

「けっ、1対1で戦えないからなんだろーな!!」

 四戦士が存在する事は各自が日々己を鍛えているからである。

 東部軍団において虎を彷彿させる拠点ツツジヤカッター虎の口を彷彿させる格納庫の先には屋内にもかかわらず、サムライド達の攻撃に耐えうるように強固な作りとなった鍛錬場が用意されている。

 出撃の時まで、鍛錬上にてカスガは部下であるニナ、ノブートへ作戦を、自分の策を伝えるが、ノブートはつっぱねるようなな態度である。


「ノブートさん!貴方もカスガさんの部下じゃないですか!!」

「俺はやむを得ずだ!今となったら俺はなぁ……」

 ニナが思わず前に出ようとするが、カスガがさっと手を彼女の前に伸ばして前進を止める。カスガは愛おしい部下に顔を向けると首を横に振り、一歩前に出た。


「貴方は正攻法を好むサムライド。第2世代組の同期として貴方の戦いぶりは見てたわ」

「けっ、相変わらず優等生のようにお高くいるのかよ……」

「それとこれとは関係ないわ。今この長野に所属するサムライドの指揮権は私にあるから」

「なら俺は留守番だ! どうせお前に関わらければこんなことにはならないからよ!!」

「な、何ですって!?」

「止めなさいニナ」

 捨て言葉を吐いてノブートが部屋から去っていく。彼の不真面目な態度にニナは歯がゆい気分だが、カスガはやはり虚しく首を振るまでだ。


「ノブートは同じ第2世代組として風林火山の称号を競い合った関係よ」

「それは知っています。ですが、それで、風林火山から漏れたから、ノブートにはカスガさんの指揮下に置かれる事を嫌ったのですか!?」

「ニナ……ナイト、アリカ、そしてノブートがこの世界で健在な第2世代組だけど、ノブートだけがあの中で孤立しているのよ……」

「……」

 カスガは口にした。ノブートは自分達と比べても実力は劣るものではなかった。運がなかった事が彼にとって最大の悲劇であった事を。


「わかりました。ですが、大陸時代から恩があるカスガさんの為に私が今回の作戦を引き受けます!!」

「ありがと、ニナ。でもねニナ今回の作戦はね……」

「分かっています。例えカスガさんがやると言われても、私としてはカスガさんの手を汚したくはないのです!」


「ミツキがガビダルのサムライドである。

 カスガが目につけた唯一の特徴を逆手にとり、弱点が特に存在しないミツキを追い詰めて、葬りさる。

 それには無茶をせざるを得ない。また戦いにはルールはないとのゲンの言葉通り、何でもやるしか勝ち目はなかったのだ


「あ、カスガも来てたの!?」

「アリカ……」

「どーもっすカスガさん、ニナさん!!」

 同じ鍛錬場に現れた者はアリカとユキムラ。自分にとってアリカは同期の友人であり、彼女とユキムラの関係は、自分とニナと同じ師弟関係に近いようなものである。

「へへっ、ユッキーが大活躍するんだから、ここで軽く模擬戦かなー」

「そう」

 アリカが自分とほぼ同じ身長のユキムラに肩をぽんと叩き、彼は表情をにっこりさせる。後ろめたいことや腹黒い考えと程遠いユキムラに心を抱き、ニナが近付いた。


「ユキムラ、今回の戦いはお互い頑張りましょう! 私達が頑張ってカスガさんやアリカさんの手を煩わせないようにしましょう!!」

「へっへー! もちろんっすよ!!」

 弟子の存在は、アリカとカスガが友人関係であるように、互いとも関係は好ましい。

 師匠と弟子の間はどこか親子のようでもあり、子持ちともいえるカスガとアリカの会話は、どこか主婦の井戸端会議のようでもある

 そして、前向きな2人の新米をカスガは目を細くさせて喜びを心で表わす一方で、どこか虚ろな気分でもあった。


「あれ、ねぇカスガっち、カスガっち」

「……」

「むぅ……スガっちスガっちカスガっち! 聞いてるの!?」

「あ……ごめんなさい、少し考え事をしていて」

 何かを考えたままのカスガが、少し申し訳なさそうに弁解すると、アリカはむぅっとした表情でぐいっと近づく。

「それよりさー、あいつ、ノブートは何処行ったの?」

「ノブート、私の作戦に気が乗らないみたいで……」

「んもぅ! あのノブート、まだひねくれてるんだから!! ちょっととっちめてくる!!」

 思わずノブートの元へ急ごうとしたが、カスガはさっと手を取り、またもゆっくり首を横に振る。


「アリカ、今は決戦前よ。残り時間はわすかだから戦いに集中しなさい」

「それもそうね。ユッキー! いくよ!!」

「了解っすよ!!」

 鍛錬場の中央で天然気味な師弟が駆けた。

 アリカの右腕からは弾薬が飛び交い、右腕からはロケットパンチは飛ぶ。腰からはジックルが回転して飛ぶ。

 ユキムラは両手に握られた六紋槍を回転させて、長槍を短刀へとに分離させて、ザンバー、ムチ、短刀として振るう。そして

「てやぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 アリカが飛ばした武器や腕を六文槍の変化がことごとく弾き飛ばす。

このまま懐へ飛び込もうとするユキムラに残された師匠の左腕がうなりを上げる。両者が笑みを見せるが、戦いには、たとえ手合わせとは言え、いや手合わせだからこそ手を抜かなかった。


「さすがですね。カスガさん、ゲン様が後継者として見ているだけはありますね!!」

「……」

「あれ、何か私おかしい事を言いましたか?」

「……いえ、何でもないわ」

 ユキムラの戦いにまたもカスガがなぜかぼーっとしていた。彼の戦いに何かを感じており、自分の弟子へも顔をちらちら向けていた為、ニナ自身も少々戸惑いがあった模様だ。


「ニナ、身分で全てが決まる訳ではないの。例え無名でも実力さえあれば十分戦っていけるわ」

「あ、ありがとうございます」

 尊敬される自分が言った励ましは、弟子である彼女にとって最大の喜びを与えてくれる。ニナを不安に支えたくない意志がカスガへ働いていたが、別の感情もよぎらせていた。


(貴方は十分やっていけているわ……貴方にはやっぱり素質も、能力も本物よ……あなたが本物であることは当たり前なのよ……)


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「何故、俺を向かわせた」

「さっきの事かしら?」

 時は出撃に進んだ。獅子のようでもあり、玄武の様な外見のライドマシーン“キョライヴァー”朱雀を模したライドマシーン“スザークード”により空中を駆るナイトと地上を進むVAVA。彼らの目的は西への進撃である。

「そうだ。あの程度の猪ならお前でも片づける事が出来たはずだ」

「それは私の買い被りすぎじゃないかしら?私は以前あのモミーノとかアクエーモンとかの不細工にも倒せなかった。結構ナイーブな非力なのよん」

「まだ気にしていたのか……」

 ナイトが苦笑しながら微笑むが、この事はアリカが挑発した赤鬼・青鬼コンビと決着がつかなかった事である。

 最もケイが途中で試合を止めた事もあるが、自分にとっては軽く倒す事が出来ると思っていたようだ。

「あれでも強い者は強いのよ。あのシンとかは私よりもVAVAの方にリスクが少ないと思ったのよ」

「……お前の言う事は最もかもしれないが、一言言わせてもらう」

「何かしら?」

「戦いの前に確かな勝利はない。用意されたデータの優劣で戦いは決まるものではない。戦いは何かが介入して大きく覆される事もある」

「……」

 VAVAは冷静である。だからこそ戦いにはデータが全てであると鵜呑みしなかった。戦いにはデータでは測定できない事も理解していたのだ。


「俺を選んだからシンに勝機がないわけではない。だからこそ戦いに気はぬけないのだ」

「なるほどね」

「一番大事な事は戦いの前の心がけ。強くなったと思いあがってしまう事もある……」

「まだ根に持っているようかしらね……」

 このVAVAの持論には後ろめたい過去が隠されているようである。そして彼は自分が負い目を背負いすぎたこととポツリと漏らす。


「俺は今わかった。お前が俺をシンとあたらせた理由がな」

「どんな理由と考えているのかしら?」

「俺を立てる為だ」

 VAVAの突きつけた理由は間違いではなかったのだろう。マサトが少し図星だったような顔を見せてから、無理やり誤魔化すような表情を作った。

「無駄だ。お前にも言ったが、凡庸だった俺はゲン様に付き、ヤマカーン様の教えを受けてここまで腕を伸ばした。俺は多大な恩を受けながら、二度の失態を犯した……」

「その話は聞いているわ……自分は弱い。この仮面に弱さを封じる決意をしたってね」

 VAVAの仮面には彼らが共有する悲劇がある。VAVA自身はこの仮面をつけた時から現在の自分が存在すると考えており、この仮面にかけても敗北は許されないと考えていたのだ。

「私の実力ではシンに少々手こずるかもしれないからね。あなたとの戦いで私はちゃんと貴方を知っているわ」

「お前は損な役回りを嫌な顔一つせずに引き受ける。カスガがそのように言っていたな」

「んもぅ、カスガったらそんな事言ってたの? 大体嫌な事でも誰かが引き受けないとだめだから仕方ないじゃない」

「ふ……お前のような奇人変人が四戦士の屋台骨とは不思議なものだ」

 奇妙な性格に呆れながらも、マサトの貢献度を彼は認めていた。彼は四戦士においてなくてはならない存在。そして自分は四戦士の筆頭として勝たなくてはならない事を……。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「いや、俺は考えを曲げない。今は守りに入った事は俺が大事だと分かっている」

「守ってばかりじゃあじり貧になるのがオチだ! 俺はさっさと四軍団のうちどれか1つでも叩き落としてやるつもりだ!!」


 一方、戦輝連合ではザイガー、サクラを始めとする各軍団の強力なサムライドによる侵攻を受けて決断に迫られていた。攻められる状況で守りに入るか、または一か八か攻めに出るかである。

 各拠点を守る10人のサムライドに意見を取った所、攻めは6、守りは4とやや攻勢派が押し気味。

 しかし、この4人のサムライドがどのような意見を取るかで答えは決まる。仮に守りに全票が行けばやや劣勢の守勢派が勝利へ巻き返すだろう。

 守勢派としては、まずクーガは守りに票を入れた事をよしとしよう、だが、当たり前かもしれないがシンは攻めに票を入れてしまった事で今回のいざこざが起こってしまったのだ。

 彼のせいで攻める側がほぼ勝利したようなもので、他の二人が守りに票を入れても引き分けが関の山だ。


「捨て鉢な勢いで戦いに挑んで勝算はあるのか? 今後に備えて俺は軍備を拡大すべきだと考えているがな!」

「慎重すぎるのはそれで問題だ! この状況を打破するに思い切り攻めに入る事は譲れねぇな!!」

「さすがだな、この戦バカが」

「な、何だとコラ!!」

「や、やめてよ!!」

 シンが食ってかかれば、保守的な意見がおしかかり、クーガが意見を返せば、シンが強引な意見を引っ張る。

 どう考えても両者の衝突は免れない所にサイは板挟みになりながらも、2人を止めようとする。また、この3人組をミツキが1人傍観するかのように、少し離れた場所でぽつんと突っ立っている。


「シンさんは理想主義者の革新派。ですがクーガさんは現実主義者の保守派。こうも意見が真っ二つに分かれてしまうのは仕方ないでしょうか」

 彼女は調律者であろう。身近な3人が言い争っているにも関わらずミツキの表情は相変わらず淡々としている模様だ。


「俺の世界でも、この世界でも戦におぼれて国政を怠る者は国を滅ぼす。お前の過ちは愚かな戦争屋と同じ過ちを犯そうとしているのだ」

「俺が知らない過去の話なんて関係ないね! 俺は俺で行かせてもらうからな!!」

「お前という奴は……」

「クーガさん、お言葉ですが、逆に慎重になりすぎて国が滅びた例も少なくはありません」

 平行線を辿る会話に介入したミツキの言葉は重い。

 普段は距離を置き、他人とは関わりがないような態度の彼女だが、その彼女がどちらかの側につく影響は大きい。クーガは一瞬、場の空気が1対2となり、自分の方に戦況は芳しくないような気がした程だ。


「どのような了見だミツキ」

「いえ、攻めか守りかは時と場合によります。私は今、中立派として立場を取りますが、今は攻めをよしと考えただけです」

「お前は相変わらずだ……仕方あるまい」

 話をスルーするスキルがミツキには供えられている模様だ。クーガが追求をしようとしても、彼女キは何か問題があるのかと言わんばかりに手を軽く左右に振った。


 ミツキを外から動かす事は無理だ。よってクーガが目を向けた先はサイだ。中立のミツキよりも、流されやすいようなサイに意見を振った方が簡単に彼を動かす事が出来るとみたからだ。


「サイを脅す事はやめろ!」

「俺は脅してはいない。サイの心を揺らす事を言うな」

「何だと!?」

 脅しのようにセイへと迫る彼の目配せ。それに気が付いたシンがクーガをぐっとにらみ返す。

 クーガの額に一筋の汗が流れ、表情は頑なに無を保とうとする。

 しかし、シンは平常の倍と言ってもよいほどの洞察力を発揮したのだろう。何かを見つけたかのように口元を一瞬揺らす。

「分かったぜ。クーガ、俺にはお前がどうして守りを選んだかをな」

「何? お前は何を……」

「俺から言わせてやるよ。守りが大事な時はあるかもしれないけどよ、お前の考えは俺からすれば臆病者にも見えるぜ!!」

 ビシッと指を刺しながらクーガを論破しようとするシン。この論破は彼の心を揺るがすには十分な威力があったようで、彼の眉がぴくんと動き、ちらっと目をそむけた瞬間を見逃さなかった。

「クーガ、お前はおかしいぜ。あのライレーンとか言う女にビーグバーストボンバーをズタボロにされてからな……」

「俺は……怯えてはいない。お前の思い違いだ」

「そうかな。今のお前はビーグバーストボンバーの復元も完了している。それなのに、攻めに回らないのはお前が戦うのが怖くなったからじゃないのか!?」

「それはない……だがお前は恐れないのか」

「恐れるだと……ふっ、ふっ、ふっ……」

 首を左右に振りながらクーガはシンへ怖気づく問いをそっくり彼へ返す。この様な展開をシンは予測していたかどうかは分からない。だが、彼は口元を少し動かして肩を自然と揺らしながら笑っていた。


「俺は怖いも何も。認めたくはないが、あいつは強くなるには死ぬのを覚悟しろとかかけだしの俺に教えたからな……」

 この教えを授けた存在に対し、少し諦めたのか、または怒りを抑えているのか。

 認めたくはないがシンが今、この世界に存在する事が許される支えは、皮肉にも今は憎き存在なのだ。

 そして、首を軽く振りながら、自分を肯定させた彼はクーガに確固たる自信を裏付ける不敵な笑みを露とした。


「あいつはアゲハの敵、袂を分けて殺すつもりだが、あいつは強いし、あいつがいなかったら今の俺はここにいないからな」

「……お前の昔話を聞く余裕はない。それより……決断は急を要するからな」

「お前! またサイを」

「いいんだシン……」

 シンに恐れを感じさせる事は無理か。クーガが諦めた時はまたサイへ目を動かした。

 どちらの味方をすればいいのかと気弱そうな面の彼だが、悩みを振り払うように一度目を閉じて、きりっとした顔つきでクーガの方を向いた。


「クーガ、悪いけれど僕の考えは……攻めだ」

「!!」

「サイ!?」

 第三者の答えにクーガはともかく、賛同されたシンまでも意外な答えに驚きを隠せなかった。

 彼は争いを嫌うサムライド。そんな彼が好戦的になる際の姿は珍しく思えたのだ。そして、彼らしくないこの理由を説明するサイは何時もの優しく、穏やかな顔立ちに戻った。


「僕は争いを嫌う性格だってシンは知っていたから驚くのはおかしくないよね。でも、これはシンに助け船を出すつもりなんかじゃない。僕がそう考えたからだ」

「お前がシンの為に俺の敵に回ったわけではないのか……」

「ごめんクーガ。僕は争いが嫌いだけど、僕達が動かない間に大勢の人が苦しんでいるはず……それはクーガも分かっているよね?」

「!!」

 この世界の現実をサイが一番見ていた。シンは理想や夢を現実で話すが、クーガは現実的であると考えた事を現実で話す。

 しかし現実か否かの基準は彼一人の視点にすぎない。サイの言葉は多くの人々が続く戦いで苦しんでいるという現実から目を背けなかったからこそ言える事柄であろう。


「大陸時代の頃は戦いで皆が苦しんでいるとは限らなかったし、僕達が市街地で戦えば罪のない人達が苦しむと思った。でも僕達が戦わないと圧政に苦しむ人達を救えないんだ!」

 サイの想いが静かに爆発した。争いを嫌う彼だが、戦う時が迫った時には、守るべき人々に危機が及んだ時には真っ先に戦う男。それがサイ・ナ・ガマーサである。

「僕達サムライドは戦いの為に生きる宿命。人々が戦うために生まれていないから、死なせたくはないけど、僕は戦う事が宿命だから、例え死んでも惜しくないよ……」

「……」

「そうか……けどサイ。お前はそんな奴だった」

 改めてサイの性格を把握して見直したシン。そして、真っ先にクーガへ反発の姿勢をとる彼の指はクーガの持論を叩きのめさんと一本指を指した。

 もう俺たちの意見は覆されることはない。8対5の状況を覆す事が出来るはずはないとの自信を胸にして。


「俺は俺の為に、サイは皆の為に戦うんだ。この状況で戦う事を避けるなんて方法は逃げなんだぜ」

「そのとおりですね」

 サイを代弁するかのようなシンの言葉で、最後の者が意見を、中立の立場であったミツキが立った。

そんな彼女が一歩近づいたのはシンの方であり、くるりと回りクーガへ顔を向けた。


「お前も賛成に回るのか。この日和見が……」

「日和見で何が悪いのですか。戦う気がない者に文句を言われる筋合いはないですよ」

「……」

 有利になった方へ加勢するミツキに信念はないのか。巻かれるものに巻かれろと選んだのか。

 クーガには意見が食い違うだけではない、他の理由を含めた不快に包まれて彼女を蔑視する。

 だが、彼女は自分が日和見である事よりも、クーガが頑なに戦おうとしない事を目を向けた。


「クーガさん? 既に意見が攻める方向に意見が固まっているのです。私がここで少数意見にしがみつくよりも、主な意見を選んだほうに意味があると思いました」

「やれやれ、日和見を美化するつもりなのか……」

「そう言われるかもしれませんが、もう一度言います。戦う気がない臆病者に戦うつもりの私がどうこう言われる理由はないですよ?」

 言葉の抑揚は感じられず、淡々とした物言いだが、ミツキの透き通るような紫色の瞳はより透き通り、まるで彼の大柄な体に隠しこんだ本音を見抜かんとばかり注視する。

 彼女の平常より真剣な表情のせいか、言葉もいつもより強く放たれた気がした。


「それにですね、この間のクーガさんの様子ですと……シンさんの考えている事はあながち間違いではないと思います」

「へへっ、ミツキが言うなら俺の言った事も無駄じゃなかった訳か! さすがミツキだ!!」

「それはどうも。シンさんにしてはもっともな事を言いますが、貴方達の言動は色々不安になりますからね。こちらで擁護しないとまずいと思いました」

「……それって俺色々歯がゆいんだが」

「僕も巻き添えなの?」

 ミツキの言葉にシンはともかく、サイも愕然とする。しかし二人のずっこけからミツキには何一つ顔を変えずぷいと向いた。


「はいはい。関係のない話はこの位にしてください。話はもう決まりましたから」

「ったく、おまえは関係ないとか言うけど、これ結構言われた方はきついのよ……」

「シンさん、そのような事を言う暇があるなら、さっさと動いたらどうですか?」

「はいはい。言われなくても俺は……ええ?」

 シンが目をきょとんとしたままミツキを振り向く。それでも彼女は首を何度も縦に振りながら、北へと、自分の勢力圏の先へ首を向けた。


「シンさん? 分別も久しくすればねまるです」

「分別も久しくすれば……ねまるってどういう意味?」

「シン、ねまるは確かこの世界での言葉のなまり、いわば方言で、たしか腐るとかいう意味だったような」

「正解ですサイさん……そして、相変わらずですシンさん」

「……」

 ミツキは自分をほめているのか、けなしているのかよくわからない態度である。彼女のようなややこしい態度を取られては相手も困るものであり、口をつむったままである。

「もっともこれは九州のとある武将の言葉ですが、考えすぎるのも問題であるという意味でして、シンさんのような言葉です。たぶん九州の誰かがそういうことを言っているでしょうね」

「なるほど……つまり俺にさっさと行動へ移せということだな」

「はい。この場合は迅速な行動が肝心かと」

「お、おい!!」

 ミツキがシンへ動き出せと促してくる。この催促をクーガが停めるのをよそに、ミツキの言葉を受けてシンがにやりと歯を光らせてから、バタフライザーを呼ぶ。


「ミツキがそういうなら、俺がちょっと意見まとめてやらぁ!!」

「シン! どこへ行くつもりだおまえは!!」

「反対派を説得するんだよ! ちとばかり手荒な方法もするけどなぁ!!」

「ええ!? ちょ、ちょっと」

 クーガは当たり前だが、サイもまた驚きを見せた。早速シンが向かったところまでは良しとするが、持ち前の勢いで全力疾走の彼は、いろいろな意味で全力疾走であろう。

 彼の良くも悪くも勢い任せの性格に、ミツキは流石に危機を感じたのか。あるいはわかっていたか。傍観者もそっとサイの肩をたたき、シンの方向に指差した。


「わ、わかったよミツキ!」

 ミツキの考えが読めたかは分からない。しかし、サイはシンを守らないといけないと感じたのだろう。背中の翼で素早く飛びだしたことが何よりの証拠だ。


「さて、シンさんは動くのが早いのはいいとして、何をやらかすかわかりませんからね。誰か抑止役がないと危ない危ない……」

「おいミツキ。お前また……」

「またとは失礼ですね。私はよいと思う事を行動に移しただけです」

「日和見のくせに……決まったことにはしっかり従う。誇りを捨てたようにな」

「それは失礼ですね。日和見でも決まったことには私は全力を傾けるサムライドですので」

 ミツキの視線はどこかクーガを、今の口だけと化した彼に追いなさいと言わんばかりの挑発じみた視線を静かにつきつける。

 すでに攻勢へ方針が傾いていても、クーガはいまだに守勢派として頑なに突っ張っているのだ。

 ある意味クーガの姿勢は立派であるが、今の状況ではミツキには逃げ腰のようにしか見えなかった。

「……ちっ!!」

 その時、クーガが一歩動こうと足を踏み出し、身を乗り出そうとしたがミツキが指をはじくことで彼女の背中のビットがクーガを取り囲む。

「通しませんよクーガさん? あなたがシンさんを止めるなら、私を倒してからですよ」

「ミツキ、冗談もほどほどにしろ。お前と俺、あのバカも一応同じ勢力ではないか」

「同じ勢力にも派閥争いなどの内乱はあります。戦わない理由にはなりませんよ」

 彼女の沈着な態度に、クーガの表情からは冷静さがかすかに削り取られていく。このような彼女をそのまま放置しておくことは、彼の冷徹な態度に秘めたプライドが許さなかった。決壊寸前である。


「どうしても俺を行かせない為に戦うつもりなのか。だがお前に俺が倒す事が出来るとは思えない」

「……ほぅ?」

「俺は、お前の今までの戦いを見たが、お前は敵のサムライドにとどめを刺さない。俺の推測だがとどめを刺せない何かがあるはずだ」

「……」

 この秘密を知る者もいるが、クーガも、シンも、サイもミツキに隠された秘密を知らないままでいた。彼がうっすらと抱いていた違和感は、ミツキの秘密の中核をついているようなものだ。


「何も声が出ないなら事実ということだな。お前は俺を倒す事も……」

「そして、貴方も私を倒すことはできないでしょう」

 しかしこの女。屈してはならない所で屈しない性格を持ち合わせているようである。彼女の紫色の瞳には揺るがない意思が、硬派なクーガをたじろがせているようである。


「ふふ、倒さないと先に行けないまたは行かせないとは限りません。動きを封じてしまうことぐらい私にも出来ますよ」

「そ、そうか。お前がその様に豪語するならば、俺がお前を傷つけずに先へ行く事も……」

「いえ、それは無理でしょう」

 この状況に及んで、必死に強がろうとして面目を保つクーガへはミツキが厳しく短い言葉が止めを刺そうとしている。


「国の誇りとかですが、ビーグバーストボンバーが一度破壊されたぐらいで戦う事を怖がるようなサムライドに私が負けてしまったとなれば恥です」

「ぐらいだと……!!」

「ええ。国の誇りなんて私には無縁ですし、破壊された場合でも修復が効く兵器の事で、破壊されたらどうしようもない貴重な自分自身を棒に振るような行動をとる貴方に、私が負ける可能性は失礼ですがほぼありません」

「そこまで言うならば……ミツキ!!」


 プライドが踏みにじられ、堪忍袋の緒が切れた。国の誇り持つ男として、自分に与えられた力を侮蔑された時の怒りは激しく、目の前で沈着冷静なミツキとは対照的である。

「やれやれ言葉に詰まると力ずく……ですが」

「なにっ……」


 男から飛んだ右のストレート。

 しかし彼女はくるりと背中をむけて、後頭部へ迫る拳の手首を掴み、前へ腕を引っ張ることで巨体の彼を一本背負いで決めてしまったのだ。


「ふぅ……私が性別上では女性と思われたからかもしれませんが、カピタルのサムライドとして、その気となれば私が貴方を投げ飛ばすことぐらいは出来ます」

「う……まだ俺は……」

「明確な目的がないまま動かない事より、馬鹿は馬鹿なりに何かを考えて動く方を私ですら期待してしまうものです」

 彼女はフレグランス・スプレーガンをクーガへ浴びせる。顔から食らったクーガは重くなった瞼を閉じて、地面へとバッタリ倒れた。


「あとは総意を一つにするのみ。もっとも私も早く事が進んだ方がありがたいのですけどね」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ったく、やっぱりクーガは臆病だ!」

「シン……」

 一方シンとサイは意見を一つにまとめるために反対派の非常拠点へ進撃を開始していた。彼はその中で、戦うべき時に戦おうとしない好敵手への苦言をサイに漏らすが、その彼は表情が変わらないままだった

「まぁサイ、お前ならたぶん大丈夫。お前がいれば心強いも……」

「シン、クーガの、他人の考えも僕にはわかるよ。僕が聞いた話だとね、サムライドは大陸時代のように人を守るために戦っても理解してくれるとは限らないんだ」

 サイは告げる。クーガが戦わない理由を臆病と片づけてはいけないと、くぎを刺すように。


「どういうことなんだサイ」

「ミツキからのデータだと攻めることを反対した理由は民衆が戦いに巻き込まれる事を嫌ったから。どうやら僕たちサムライドは民衆から戦いを持ちこむ疫病神のように煙たがれているんだ」

「……俺には関係ねぇな、被害を広げないように戦えば問題はないはず」

 サイが守勢に回る側を擁護しようとすれば、シンが突っぱねたような口調で自分とは関係がないことを表明してみせる。

「認めたくないがな。あいつは言っていた。最小限の被害で一つ一つの戦いに勝つことこそ激戦を制するってな」

 北の方角へ向けて呟く。彼の視線の先はかつての師、今の自分の敵が存在しているだろう。

 その様な人物の教えを今となっては認めたくないが、自分がここに存在する理由はその教えがあったからである。この教えを告げる彼の胸の中は複雑なものであろう。


「修復・補給の手間を最小限にする。その間を敵が突いてくるからだね」

「あぁ。俺はついつい、特にこの両腕を何度壊したかはわからねぇ。けど、俺は自分を壊しても、守らなきゃいけないものは守るつもりだし、俺にもそれが何か解っている」

 シンは照れながら顔を振り向かせる。自分は彼に出会うことがなければ、このような教えを活かせることなく、暴れまわっているだけの荒くれに終わったと考えていたからだ。


「ありがとう。でも民衆の中には僕達を利用して、権力を得ようとする人たちだっている事も聞いた事がある」

「……なんだサイ、そんなに俺を戦わせたくないのか」

 サイの存在は常にシンの心を良くさせる効果があるようだが、今、サイの言葉はなぜか、攻めるを支持したにもかかわらず、先ほどからクーガの擁護を、またシンへ戦意を削ぐような言動しかない。シンが機嫌を損ねてしまうのは仕方がないだろう。

「それは違う! 確かに僕はシンになるべく無茶なことはしてほしくないとは思っている。でもね……」

 不機嫌な友の様子から、サイはすぐさま自分の言動の意思を否定するが、伝えたい内容の撤回はなかった。


「守らなくちゃいけない存在には必ず裏の姿がある。それを知らずに自分が正しいと思って戦っていたら。いつかしっぺ返しが来るんだ!」

「……」

 サイは腕を震わせる。顔は俯いたままで。

 彼の震える姿には、シンは言葉を詰まらせてもおかしくないような匂いを漂わせていた。

「それでも僕は戦うよ。僕が少なくとも何かを守るため、救うために生まれてここにいるからなんだ」

 だが、戦うことをサイは否定しない。並のサムライドならば、否定をしてしまいかねない内容をもちこみながらも、それを背負って戦うことが、自分を始めとする攻勢側が必要とする心構えと彼は見ていたのだ。

「守るべき人への仕打ちを僕は許さないけど、僕たちへの守るべきの仕打ちを……僕は受け入れるつもりだ」

「サイ……お前は」

「……ごめんシン。でもシンには何も知らないまま戦ってほしくはなかったんだ」

「いや……」


 たとえ喜ぶ者がいなくとも、冷たい目で見られようともサイは戦うつもりだ。

 サイは戦うことを否定したのではない。戦いに赴く者として決意を持ってほしかったのである。

彼の悲壮かつ真剣な決意を知ったのか、シンは首を横に振ってから顔を上げた。

「大丈夫だサイ。たとえ裏があったって俺たちは戦うつもりだ。少なくとも俺の活躍を信じている人だっているはずだ」

 サイの戦いへかける想いは、シンにとって戦意を燃やす力にもなった。彼が真剣な目的を背負って戦うならば、自分も戦いへかける意思を再確認する必要に追われたが、結論を彼の心の中に用意されていた。

「それに、俺にとって屈辱だった大陸時代よりも、こっちの世界での日々が俺を高くまで伸ばしてくれるし、羽を広げることだってできるぜ。お前のように背中に羽はないけどよ」

「ふふ。伸ばしたい羽は心の羽と言いたいところだね」

「あぁ。俺達が眠っている間よりも、目の前で滅ぼされるところを見るのは大っきらいだ!」

 シンが戦う意味とは。この世界に身を置くことが、自分として価値があると感じたことだ。

 サイと同じ多くの人を守り、救うだけではない。自分の未来のためにも戦うことを決めたのだ。


「その為に、僕たちが指をくわえる暇があるなら早く三光同盟を倒すのみだ!!」

「そうだ! 俺たちは早くこの戦いを終わらせないとな!!」

「ぷぎー!!」

 拳を打ちつけ合うことで、両者が改めて決意を固めた瞬間。どこからか気の抜ける悲鳴とともに、ライドマシーンで脱走する者が目に見えた。

 しかも彼は牛乳瓶の底のようなメガネとやや小太りの体格。どこかで見たようであり、しばらくして思い出したかのようにシンが手をたたいた


「そうだ思い出した! ミッキー・アネノコージだ!!」

「ミッキーといえば確か、今から僕たちが行く飛騨の担当サムライドじゃないか!」

「何!? おい待て! どこへ逃げる!!」

「ピギ!?」

 ストラングル・チェーンが自分とすれ違うように通り過ぎたミッキーの首へ巻きついた。

 そして、チェーンへ電撃を流すことでミッキーの動きを止めて見せる。2人が回りこんで、シンが彼の首を掴んだ時だ。


「おいミッキー! お前逃げるつもりだな!?」

「ぷぎー! 俺はどうやって戦えばいいか解らないんだ!!」

「どうやって戦えばいいだと……ミッキー、どういうことなんだ!?」

「待ってシン。落ち着いて!!」

 襟元を掴みあげてしばこうとするシンに対し、サイは事情を聞こうとあくまで冷静である。勢いと静けさの二人にたいして、ミッキーはぷぎぎと頼りない口癖のような言葉の先に事情を告げた。


「ぷぎぎ……町とかに敵を入れちゃだめだ、補給は手を貸さない、相手がいつ来るか解らない! どうすればいいんだってことだ!!」

「なるほど、飛騨には東から迫られたら万一の事もある……確かに」

「そんなの知るか!!」


 ミッキーの意見に同情しようとサイが考えるが、シンは妥協しない男であろう。襟元を掴んだままぶんぶんと彼をゆすりながら、自分の意思を曲げる気配はない。

「シン!? どうしたんだい!!」

「おいお前! そんなの理由にならないぞ!!」

「ぷ、ぷぎー!!」

「俺はあいつにそんなこと何度も言われて殴り飛ばされてきた身だ! そしてその気になればなんとかなる!! そして実際俺はそうやってここまで生きてきた!!」

「む、無茶でしゅ……」

 ミッキーが反論しようとすれば、ますますシンの激昂が高まり、首元を自分の両腕で絞めつけようと力を強める。いわば火に油を注ぐ結果である。


「当たり前だ! 全力で無茶しねぇとあの世界でも、この世界でも死ぬぞ!! 確か弱肉小食とか言ってな……」

「……」

「……違うよシン。弱肉強食」

「……それだそれ!」

 無知ゆえに一瞬四字熟語のことで言葉を詰まらせるシンだが、追及の手を再開した。

臆病者であるミッキーの存在は、何度も死にかけながら腕をみがいた自分にとっては腰ぬけに見えたのだろう。


「この言葉は確か弱い奴は肉を食って強くなる! そういう意味だ!!」

「……弱い者の肉を強い物が食べる……シンの場合弱肉食強だよ」

「……とにかくだ! 弱肉強食のご時世だから弱肉食強だ!!」

「そんなことわざどこにもないでしゅが……」

「あぁもう! あぁだこぉだとかどうこう言わない!!」

 臆病かつ戦意のない彼にシンの納得がいかない。しかしミッキーは死に物狂いで拘束を振りほどいて、ライドマシーンでややあわて気味に逃亡を開始した。


「ぷぎー! 俺はミツキが死んでもらいますとかいうから渋々ここにいたわけで、スネーク・サイドが無事だったらこんなことには……」

「何だと!?」

「ぷぎぎ!俺はそんなこと……」

「にゃろう……スネーク・サイドが無事だったらお前はあいつの味方になるつもりか!!」

 スネーク・サイドがいれば自分はこんな事にならない。スネークの犬のように振舞うミッキーが気に食わなかった、いや許せなかったのだろう。

 一人逃れる彼を追おうとするシンだが、彼の肩をサイが押さえた。


「シン、こんな奴の相手をしている暇はないよ!」

 サイは首を横に振って自分のやるべき事を思い出させようとした。

 闘志のない身内を始末することはかえって自分の首を絞める結果になる。勢いに任せて行動するより、目の前の目標を見失わないことが大事だと思った故である。

「やる気のないサムライドにかまう価値はないよ。僕たちは僕たちで戦うのみだ」

「あ、ああ……しかしあの野郎」

 今一つ納得がいかない気分をそのまま流して、シンは次の行動に移ろうとした時だ。


「ぷぎー!!」

「……またあいつ!!」

「シン! だから今そんな相手にかまっている暇は……」

「ないっていうのか!? なぁ同志!!」

「あぁ同志! 大したことないなぁ!!」

「何だと……!?」

 ミッキーの頼りない声とは別の、荒げた声でシンが侮辱される。

 二人が振り向いてみれば、二人の男が、比較的大男であるミッキーを羽織絞めするように捕まえており、彼がじたばたしても振りほどける気配はなかった。


「な、何だお前たちは!!」

「ふふふ! 俺はモミーノ!!」

「俺はアクエーモン! 俺達、三光同盟のサムライドとしてお前を倒す為にやってきたのだ!!」

 頭の角が目立つ大男は腕を組みながら、まるで兄弟のように息が合っている事を示すように揃った笑い声をあげた。

 そして、目の前の標的へシンは元から気が立っていた事もあり、身体の震えを抑えきれない。ただ冷静なサイの制止が最後の拘束具となっていたはずだ。


「ぷぎー! 助けてくれー!!」

「なぁ、同志! こいつはどうしようか!!」

「そうだな、同志。こいつはそこの奴が使い物にならないとか言っていたからな……」

 この中でミッキーが取り残されていた。一種即発の空気に一人臆病者が浮き、排除すべき存在である。

「そうだな……マンティブルシザー!!」

「アトラスボーン!!」


 その時、モミーノの胸から展開された二本角がミッキーの首を胴体から切り離し、同じアクエーモンの胸からの一本角で胴体を真っ二つに掻き切る。

 そして、掻き切られた体を上へ投げつけた時に、臆病者の身体が空中で爆破四散した。

「さーて同志! これで俺たちはお前らの仲間を一人殺ったぜ!!」

「この状況で戦わないなんてオチはないぜ! なぁ同志!!」

「にゃろう……本当に何しやがる!!」

「ふふふ悔しいか? なぁ~同志!」

「あぁ。俺たちどうせこいつらに倒されるとは思えねぇしなぁ」

 シンの震えが限界へと達した。ミッキーが倒されたことより、ずけずけと人の縄張りに踏み込んで、宣戦布告といういかにもシンプルな挑発行為だが、なによりも彼の頭もシンプルであったことが原因だろう。


「言いたい事をさっきから言いやがって!!」

「シ、シン! 確かにこいつらは許せないけど……」

「ふふふ……行くか同志。こんな臆病者なんてなぁ」

「おぅ! さっさと行っちまおうぜ同志!!」

「にゃろう……もう我慢ならねぇ!!」

 度重なる挑発へ遂にシンは動いた。拘束具が外された時、止める者は何もなく、ライドマシーンで撤退しようとする2人へバタフライザーを足として西への追撃が行われた。


「待ってシン! あぁもう……とりあえずミツキに連絡をして、僕は早く……」

「おっと、そうはさせないわよ?」

 一時反応が遅れたが、サイが振り向けばスカイブルーの髪を奮う妙齢の少女、いやどちらかといえば線の細い女性のようなサムライドが、にこりと笑いながら飛びたとうとする彼の前に立ちはだかったのだ。

「だ、誰なんだい……君は」

「あら、やっぱり可愛いわね……」

「えっ……?」

 そのサムライドはやや甲高い、つまり釜のように、そんな彼女、いや彼はそんな性格であるようで、早速彼へ向けて可愛いと発言する始末だ。


「シンちゃんとかどこかワイルドな雰囲気に私の乙女心は貫かれちゃいそうだけど、貴方のような甘いマスクに守ってあげたいような気分にさせるのも乙女心としてはきゃっ」

「……」

「ふふふ~♪」

「……悪いけど僕は貴方にかまっている暇はないんだ! 早くしないとシンが!!」

 この奇妙な彼に付き合う暇はない。勢いに乗ってしまったシンを止める事が出来るのは、この勢力において最速のスピードを誇る自分しかいないからだ。

 自分の長所ともいえる重力軽減装置を活かし、空中へ飛び立とうとするが、激しい砲弾とビーム、そして羽のようなビットが一斉に攻撃を行いならが、地上からは加速する一人の影が、それはサムライドである。

 そして、いつのまにか先程の彼が自分の進路を先回りするように駆け、両肩からの砲門で狙っているのだ。スピードに自信があった自分が回り込まれていたのだ。


「そうはされないわよ。疾風の勇将と呼ばれた私にスピードで勝つ事は無理無理」

「地上でこんなスピードを出されたら……いったい何者なんだ」

「まだ教えてあげていなかったわね。三光同盟東部軍団魂将で、疾風の勇将マサト・ナイトはこのわ・た・し・よ♪」

 遂に四戦士の一人が現れた。先鋒は疾きこと風の如くともいえる疾風の勇将である。たとえ性格がオカマでも彼は強豪に間違いないのだ。


「三光同盟のサムライドだったなんて……僕とシンを罠にはめるつもりだったんだね!?」

「当たりよ~ごめんして~♪」

「ちっ……!!」

 シンを追い西へ向かわねばならないサイだが、彼が西へ向かえば、マサトもまた西へ距離を詰める。拮抗するスピードは一方的なパワーバランスにはならないのだ。

 だが、自分がシンを放っておく事をサイは許されない。友情にかけるか、冷静になるか。しかし、その中でどちらにしろマサトのスピードにサイは驚愕と焦燥を感じ始めていたのだ。


(僕は不利だ……空を飛ぶ事には調整がいるけど、地上にはそんな余計な調整を必要としないからだ)

サイが空中を飛ぶ時、彼は重力軽減装置をある程度操縦しながら戦わなくてはならない。常に重力軽減装置の制御を行う事に注意しなくてはならなく、また高低、左右の方向を操縦することを避けられない。

 しかし、地上を走るマサトにはそのような装置に気を使う事はなく、ただ迅速に疾走するのみしか考えずにすむのだ。


(どうすればいい……今の状況でも僕は敵に前を覆われている! もっとスピードをあげないと……!!)

「ふふふ……」

 その時、サイがマサトを追いこした。ストレートに駆けていく彼がシンを助けようと、額のレーダーに彼を捕らえて最短距離を割り出す。一度最短距離を弾きだせばあとはそこへ突入するのみだ。

「!!」

 しかし、サイの目の前には12本のビットが時計状に空中を飛びあがり、シールドを形成された。

 この網にサイが飛び込んでしまう事は必然。全速力で飛んだ彼はブレーキをかける。 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 だが、全速力の彼がブレーキをかけて制止するまでの時間がたとえどんなに早くとも、網に触れてから、ビットが彼をくるむように一本へ結合される方が圧倒的にスピードが速かった。

 そして、袋のように包まれたエネルギーシールドに捕われたサイへ電撃が走れば、力尽きたかのように彼は静かに地面へと落ちていったのだ。


「計画通りかしら……」

「そうだな。さすが四戦士屈指のスピードを誇る男だけはある」

 彼が地面へ落ちた元には、修行僧衣に身を包む西のナンバー2。ライレーンの姿だ。青髪とキレ長の瞳の先へは、捕縛されたサイを眺めた。

「背中の重力軽減装置を制御する必要がある為、お前はスピードの制御に集中し切れなかった。あの時スピードの制御に全てを考えてしまい、コントロールする余裕もなかったから私の罠に嵌った訳だ」

「……!!」

「無駄だ。このイノセンス・ティッカーのエネルギーシールド内は防音がいきわたっているのでな」


 ライレーンの言うとおり、イノセンス・ティッカーによるエネルギーネット。クーガを封じ、彼のビーグバーストボンバーを砕いた彼女の兵器である。

 そして、クーガに次いでサイも彼女の切り札にかかろうとしているかのようだった

「ライレーン、このサイちゃんどうするのかな?」

「捕虜として暫く猶予を置く。無暗に殺す事は私の趣味ではない上、私には別の仕事がある」

「別の仕事? 何かあったの?んもぅ」

「私が目にかけていた者を救わなくてはならないのだ……主君に見捨てられた中で、かろうじて生き延びていたことは……本当に幸運だった」

 ライレーンが目を向ける先には北陸の方面だ。その地に自分が目にかけていた者が存在していた。いや、存在したで終わらせない。再び存在させようと彼女は決意していたのだ。

「私はその手の事に不慣れだが、ハッター殿に心得がある。ハッター殿の力を借りて私の力をあの者に授けてやりたいと思ったのだ……」

「そうなのね……西のもう一人のエースがいてくれればね……私も会いたいしね」

「あいつは依頼がなければ相手を始末しない、また1対1のフェアプレーでないと戦わない男でな」

 彼女が指すあいつとは変幻自在のロングライフルを愛用する男であろう。

 そして、今はある程度の自由行使権を持つ彼は依頼をこなすか、女を口で落とすのどちらかであろう。

「うむ。私はこれで去らねばならないが、マサト殿の要望には応えるようにこれに細工を施しておいた」

「あら、私の好みとは何かしら?」

「……」

「このエネルギーシールドは酸素濃度が低いようにしている。このエネルギーシールド内でサイとやらは酸欠で息絶えるようにな」

「……!!」

 サイは死を待つ棺桶に閉じ込められたようなものだ。自分の両腕で必死にエネルギーシールドを破ろうとするが、エネルギーが逆流して彼が感電してしまう。

 だが大人しくこの場を過ごしてもいずれかは窒息死してしまうのだ。むやみに動かない事をよしとするが今できる最善のことであろう。

「お前は男色家。その癖のあるお前がこのようなサイを殺すことは少々気の毒だと思ってな。あとはお前の煮るなり焼くなり好きにすればよい」

「さすがライレーンね! 相手の事を考えれる人って惚れちゃうかもね!」

「……言っておくが私は性別では女に該当する」

「え……ええっ!?」

 マサトはライレーンを男と思い込んでいた模様である。最も麗人のような振る舞いと、顔立ちの整った男性のような顔立ちから、惚れてしまうこともおかしくはないのだが。

「これだけは期待にそぐえなくて申し訳ない。それと……」

「……」

 そして、大人しく動かないサイへライレーンの顔は向けられた。

「済まないなサイとやら。お前にうらみはないのだが、教主様が、またナイト殿の意志がお前を倒せということだ。これについては私にはどうしようもないことだ」

「……(なんという罠だ……シン! あの二人はシンを孤立させて叩くための罠だ!!)」

「ふふふ……」

 飛び去るライレーンを目にしても、サイには自分を包む脅威と、また膜の外から自分を眺める者の脅威も去ってはいなかったのだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「同志、まだおびき寄せるのか? 一応俺はあいつを倒したいくらいなんだぜ」

「我慢だ同志。もう少ししたら、あいつが自然とやってくるわい」

「そうか……でも同志、俺たちの出番とかに疑問を感じるものだな」

「気にするな同志。後は雑魚を片づけるのみ。おびき寄せればいいだけよ」

 一方、自分の存在の薄さに疑問を感じるアクエーモンとモミーノ。彼らの任務はシンを引きつける事のみであろう。

 敵を1人片づけて挑発を加えればシンは勝手に自分の方向へやってくるからである。最もパワー押しを好む二人には物足りないような任務でもある。


「にゃろういまさら逃げたってぶっ倒すだけだからな……!!」

「来たか……同志」

「あぁ……あとは東からの追手を待つだけ」

「待てコラ……おわっ!!」

 後方からの砲撃にシンが吹き飛ばされる。東部からの刺客が彼に迫る証か。だがモミーノとアクエーモンの様子ではそれではない。紫の甲冑に身を隠した大男ではないのだ。

 荒れる黒髪に猛牛のような二本角を持ち、まるで若武者か野武士のように、勢いで荒れたシンと似た空気を持つ男である。


「お前がシンキ・ヨースト! 最近三光同盟を荒らしまわっていると聞いているぜ!!」

「何っ……」

「おいお前VAVAとかじゃないな!!」

「けっ、そのVAVAとかが俺に倒せって命令したんだよ! この業火の名将ノブート・I・キャーマにな!!」

 男はノブート。右手に強大な砲台を抱えて、空いた左手でビシッとシンに指を刺す。

 最も作戦が食い違うとアクエーモンが文句を言うが、この男は生意気な奴であろう。自分に強い自信を抱きながら軽くスルーをする。

「業火の名将……風林火山の四戦士ってそんな肩書なかったよな」

「うっせー! よそ者にあぁだこぅだ言われたくはねぇ!!」

「何を!!」

「待て同志! あいつをおびき寄せることはやった! あとは雑魚部隊を適当に片づけるだけだ!!」

「く、くそ……そのままやられちまえ!!」

 反発するモミーノを同志アクエーモンが抑え、文句を愚痴りながら2人の巨漢は戦線から離れていく。

 この場にはノブートとシンが残った訳だが、シンの標的は自分を侮辱した鬼2人である。よって西へ向かおうとするが、

「させねーよ!!」

 向かう先へ砲弾が落とされ、1人と1機が宙を舞った。この砲弾を放つ者は勿論ノブートだ。

「このトーヤ・バズーカを甘く見るなよ……お前を倒して四戦士になってやるんだ!!」

 宙で1人1機が一つになろうとしている。しかし、この合体のタイミングを見逃す事をノブートはしない。背中に備えられたカードリッジを装填させて砲撃を継続する、


「たぁっー!!」

「ぐふっ!!」

 合体までの時間と砲撃までの準備。前者の方が必要な時間は短かった。

 ノブートが砲身を向けて弾を放とうとした時には、トライ・ウェスターマー形態でのとび蹴りで顔を蹴りつけられたようだ。

「合体時の俺を狙おうとしたが、こっちの方が先手になったようだな」

「ちくしょう……だが、トーヤ・バズーカを甘く見るなよ!!」

「何だと……うわっ!!」

 遅れを取り戻すときだろう。トーヤ・バズーカからは煙が放たれるとき、シンが白煙に包まれてしまう。

「トーヤ・バズーカは様々な弾薬を装填する事が可能! あとはこれでお前を眠らせるのみ!!」

 煙が晴れればシンは倒れたままであろう。

 しかし、ノブートの予想は裏切られ白い煙が晴れた瞬間、フェンサーギロチンを両手に握る彼が両目が捉えた視界に映った。

「何。真正面から来るのか……いい度胸してるじゃねぇか」

「……」

「言葉は無用か! しかしどうせ鋼の砲口が物を言うんだ!!」

 眠らないシンだが、正面から迫る彼を倒す事は容易い事。装填された砲門を向けて攻撃を放つだけ。

実際、バズーカが放つ光により、シンの姿が一瞬にして消滅した。そう。一瞬であり残骸などは一つもないのだ。

「残骸がないとは何か小細工を仕掛けたのみだ……おわっ!!」

 ノブートの足元から地面を突き破る形でドリルが飛び出した。

 ドリルの先には真紅と白の機体。今、人の形へと姿を変え、トライ・マグナムを突きつけようとしたが

「地中から迫ったがどっちにしろ意味はねぇ!!」

 またも砲門が唸りを上げた。またもシンの身体が消滅するが、残骸らしき部品はやはりどこにも見当たらない。


「これも幻だと!?」

「その通りだぜ!!」

 ようやく聞こえたシンの声は、ノブートの真後ろ。さらにブレイズバスターにより光が彼の胸を射抜いた。


「変形マグナム、合体ライフルの次にゃ換装バズーカときやがった……けどよ穴は一つとは限らないぜ?」

「にゃろう……正面から来ると思えば……」


 ここで説明をせねばならない。まずシンは幻を生成するミラージュ・シフト。白煙の中で幻の囮を作り、煙を蓑に両足のドリルを展開させて地中へ潜行したのだ。

 次に一つの穴を掘り、両足からのドリルミサイルを穴から放ち、ノブートの気を引き、ドリルの後には第二の幻がノブートを欺く。

 そして止めに、彼が気を取られている隙に元の穴へ急ぎ、ブレイズバスターへ右腕を変形させて攻撃を加えたのである。


「戦いにルールはない。あいつの言った事を認めたくねぇがあながち間違いじゃないぜ」

「あいつ……カスガと同じような事を言うな!」

「なっ……」

“あいつ“をノブートが知っているかどうかは分からない。だが、カスガとシンが言うあいつとは多分=ではなく≠である。

「真っ向正面から挑まない奴なんて……挑まない奴なんて弱いだけなんだよ!」 

 胸を抑えながらノブートは叫ぶ。シンは一瞬戸惑いを現したがすぐに首を横に振った。


「こんなところで俺は負けちゃいねぇ……うわっ!!」

 その時、何発かのミサイルがノブートへと当たり、彼の身体が砕け散った。

 シンが後ろを振り向けば藤色の鎧を身に着する男。おそらくアクエーモンとモミーノが来ると思われた本来のサムライドである。


「弱者は死あるのみ。独断行動の上に敗北して恥をかくお前に生きる資格はない」

「……」

 男は一歩一歩近づく。ノブートの残骸を足蹴にしながら。本当の倒すべき……この自分を仕留めんとするばかりだ。

「誰か知らないが……どうやら俺の味方じゃないようだな」

「当たり前だ、俺の使命はお前を始末する事にある。その邪魔をして失態を演じたノブートを始末したのみだ」

 足が止まると、無表情の仮面が声を上げた。

 彼は言う。自分が三光同盟東部軍団豪将、風林火山筆頭、鉄山の闘将であるVAVAだと。

「はいはいそうですか!!」

 名乗りを終えたVAVAにブレイズバスターが火を噴いた。しかし、光を胸板へ直撃させても、彼の装甲は光沢を放ったまま、傷一つついていないのだ。


「ブレイズバスターが効かないだと!?」

「確かブレイズバスターはお前の必殺武器だが、俺のこの身体にはかすり傷一つすら負わせることができない」

「……ちっ!!」

 ブレイズバスターが通用しない。すぐに左腕からスピニングブリザードを放って抵抗をしようとするも、彼の体にはひび一つも入りやしない。

「……無駄だと言う事が何故わからん! たぁぁぁぁぁっ!!」

 冷気の壁が前にあっても、VAVAの動きが止まる事はない。彼は一歩一歩足並みを速めていく。

 彼がリーチ内に踏み込むと、右腕のメリケンがシンの脇腹を突く。勢いの入った拳で揺らぐ身体。地面へ倒れようとする彼の右腕を掴む。

「ぐあっ!!」

 掴まれた右腕。銃身と化した右手が握りつぶされて潰えた。また思い切ったスイングにより彼の身体が叩きつけられた。

「攻撃が通用しなければ相手は無力。弱さを覆うこの身体こそ俺の全てだ!!」

「にゃろう……何しやがるっ!!」

 VAVAに腕をつかまれる形でシンが地面へたたきつけられていく。圧倒的な握力に逃れる事は出来なかった。

 ダイヤモンド・クロス、ストラングル・チェーン、そしてフェンサーギロチンで、地面に何度もたたきつけられながらも、彼の身体を、腕を斬りつけようとするが、彼の身体は全く通用しないようだ。

「ふふふ……俺は痛みなど感じん。この鎧がある限りな……!」

「させるか……」

「無駄だ無駄だ! 虚勢を張る者の皮をはいで苦痛に喘ぐ姿こそ俺への褒美。素晴らしいものだな!!」

 VAVAは沈着冷静だが、相手を痛めつけられている姿に彼は快楽を見せて狂乱していくのだ。彼は徐々に野生へと心を動かしアドレナリンを分泌させているのであろう。

「アームパージ!!」

 逃れる方法はあった。掴まれた右腕を分離させてしまうこと。拘束を振りほどき別の右腕へ換装して地上に着地するが、

「ストーム!マシンガン!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 両肩の円盤と胸からは激しい銃弾が彼へ放たれる。仰向けに倒れた彼だが、また立ちあがり仮面の奥に研ぎ澄まされた闘争心を光らせる。

「にゃろう……こんなところで死ぬわけにはいかないってのにな!!」

「ははははは!! 弱者は死ぬのみ! ヴァルヴァーチャックだ!!」

 観音開きとなった胸からの鉄球が鞭へと連結される。鉄球が振るわされれば、彼の装甲を痛めつけようと質量が押しかかる。

(にゃろう! 好き勝手攻めやがって……でもあの鎧を壊さないとあいつを倒すことは……ちくしょう!!)


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「サイさんとシンさんの連絡がない。ということは……」

「遅いんだポコ……他の部隊を送った方がいいかと思うんだポコ」

 サイだけではなく、シンも瞬く間に危機へと陥った。

 その知らせが届かない本拠で。ミツキはタダカツの操縦席で、腕を組みながらマサノブと言葉を交えた。

「そうですね。本拠地では私しか戦う事が出来ませんし」

「すまないんだポコ……クーガ様が戦意をなくされていては……」

「そうです。クーガさんは決してシンさん、サイさんに劣らないサムライドですが……立ち直ってもらわないと私達のリーダーを任せられません」

「クーガ様がリーダーポコ?」

 ミツキは意外にもクーガを自分たちのリーダーとして挙げるつもりだ。

彼は融通が効かない所があるが、自他ともに厳しく冷静さを忘れないクーガには的確な指示を送る才覚がある。また巨大筒の存在も後方からの援護に必要不可欠であり、キング・ランダー形態の存在も捨てがたい。


「なるほど……」

「サイさんは気が弱い所からやや力不足で、日和見な私もリーダーとしては向いていません。他のサムライドでも纏める力量があるかどうかは……」

「シンさんはどうなんだポコ?」

「問題外です。とにかく私としてはクーガさんが立ち直らなければ困ります」

 ほかの二人にはリーダーとしての器は疑問に問われ、自分自身もリーダーとしてふさわしいとは考えていなかった。

「クーガ様は立ち直ることができるかどうか……ポコ!?」

 よってクーガの再起が戦輝連合にとって必要不可欠だが、その時モニターの映像に爆発が映された。

 慌てながらマサノブが映像を分析すれば、飛騨の非常拠点で備えられた格納庫が爆発を起こし、炎上を起こしていたようである。


「ミツキさん! 飛騨の非常拠点が……あぁ!!」

 伝令として駆け付けたサムライドが横に、斜めに切りつけられてうつぶせに倒れる。

 彼に変わって現れた者は、オレンジの髪の少女が、両腕に装備された刃を備えていた。

「貴方はどうやら三光同盟の者ですね。誰かは知りませんが……」

「ニナ・モリノス。カスガ様の部下として貴方を始末させてもらいます」

「カスガ……聞いたことはあるわ」

 カスガというサムライドをミツキは耳にしたことがあった。彼女は自分同様頭脳派のサムライドであり、また風林火山の一人であったからであろう。

「そのカスガは……私にとって戦いたくはないサムライドですね」

 ミツキがそのように言葉を漏らす。

 今まで自分が戦ってきた相手は基本的勢い任せの所があるようなサムライド。だが今度の相手は頭で勝負するサムライドだからである。


「はい。カスガ様にとって戦いたくないのですが……貴方にカスガ様が戦う必要性がないとみていますがね」

「……随分見下されていますね。それで部下の貴方が私を始末しに」

「戦輝連合の頭脳と呼ばれる貴方に私が敵うか解りませんが、私も伊達に遅くは生まれていません。もし始末できるならば始末させてもらいます」

 カスガの手を汚す必要はないとニナが駆けた。両手両足に備えられた四本の刃のうち、両腕の二つを突き出しながら、ミツキへと向けて切りかかった。

「やれやれ……サムライドの優劣は世代の差ではありません。実力と要はここです」

 しかし、ミツキは彼女の身体を二本の鉄扇キキョウを両手でクロスさせて食い止める。だが、彼女の身体全体での突撃に耐えきれなくなったのか、足を後ろへ踏みこんで倒れだした。

 これがミツキの狙いだ。体重を利用し、自分の右足を腹へひっかけるようにして上げた時、ニナの身体を彼女が軽々と巴投げで決める。


「甘いですね……エレクトリック・シュナイダー!!」

 受け身を取ったニナの反撃は素早い。両腕のカッターを結合させてブーメランとして投げつける。

 弧を描いて飛ぶ彼女のブーメランは、それを迎撃するように投げつけられたキキョウを引き裂いてしまう威力だ。

 しかし、キキョウが破れた瞬間に休む余裕はない。二ナが足のカッターを手に持って二刀流の要領で襲いかかった。


「たぁぁぁぁぁぁっ!!」

「はっ!」

 握るは腰に携えたゼラニウムブレード。クロスされたカッターを前に、ゼラニウムブレードの刃がギリギリで持ちこたえる。


「どうやら怖いもの知らずの様ですね。随分勢い任せ、反撃を恐れていないようですが」

「カスガ様は危険だと言いますが、私にはカスガ様の為なら危険も恐れません!それに……貴方は私を殺せないですしね」

「どういうことですか……」

 先程クーガから言われた事と同じ内容か。相手を殺さなくとも戦力を削ぐ事は出来る、ミツキからすれば何も痛くも痒くもない話だ。

「ですが、私を殺さないと状況は悪化しますよ」

「私があなたに負けると言う意味なら心配はいりません。私があなたを退かせるのみですから」

「……そうですか。ですが、そのように言っていられる事もあと僅かです……はい」


 はいの二文字をニナが口にすれば、別の非常拠点が粉砕された模様である。雑木林の奥へは業火が燃え上がる所が彼女の視界にも入った。

「今の爆弾は、密かに忍ばせた三光同盟の捕虜に命じて仕掛けさせた時限爆弾が爆発した結果です」

「……!!」

「一定時間が過ぎれば爆発して非常拠点が木端微塵となる仕組みですが、時限爆弾を破るには私と戦う事が最良だと思います」

「どのような理由で……時限爆弾と貴方と戦う事に繋がりが……!!」

 ミツキが自分の目を少し見開かせた。繋がりはあった。戦うことで時限爆弾を止める方法だが、その方法はミツキの手を汚しかねない、残酷な方法である事を彼は知っていた。


「簡単です。私を殺せば爆弾のスイッチは停止するのです」

「やはり……どうしても私があなたを殺さなくてはならないというのですか」

「はい。私の心臓部に起動コントロールがありまして、そこを攻撃すれば機能は停止します。私を殺せば時限爆弾は自然に停止する訳です」

「……」

「あ、勝手に爆弾を探そうとすれば私の意志一つで非常拠点を吹っ飛ばす事も出来ますよ」


 自分のルールを破って殺める事は容易い事である。しかしミツキには彼女を殺す事を何かから禁じられている。顔を上げた時に……自分にとって頭が上がらない2人は確かに天に存在した。


「……殺めた時に私の存在意義はなくなります。相手を倒し、町を守る代償は……私を殺す事です」

「やはり、何かあるようですね。無茶をした回がありました」

 ニヤリと口元を揺らす。彼女のカッターがミツキの首元に突きつけられた時、勝利を確信したかのように緩んだ口元を開く。


「私はカスガ様の作戦に死を惜しみません。それにカスガ様は貴方が敵を破壊しない事に謎があると思い私を送り込んだのです」

「なるほど……私の泣き所を突いてきたものですね」

「その通り。貴方が私を殺せないなら私が貴方を倒すまで。貴方が殺さない理由を暴くまで私は粘るつもり……きゃぁ!」

 カッターを握るニナの手首をミツキが右へひねる。そして隙を見せていた足を払えばいとも簡単に彼女は倒されてしまう。首元へ全神経が集中していたのだろう。

「……なかなかやりますね。最も貴方は私を倒す事が出来ませんし、その間に時限爆弾がまた爆発しますよ」

 彼女は軽く倒されてしまいゼラニウムブレードを彼女の胸に突きつける。

 だが、ミツキ同様、ニナも心構えが座っているのであろう。命が奪われようとしている状況でも、顔色を一つ変えていないのだ。


「……強がりを言って」

「ふふ。あなたは私を倒す事もしていない。よほど謎を隠したいままですね……」

「ありがとうニナ……ミツキを相手に持ちこたえたわね」

「カスガさん!!」

「……!?」

 後ろからの声へミツキが振り向いた時、飛んだ四本の分銅が自分の両手と両足を絡まり、ゼラニウムブレードがニナの胸から離れてしまう。

 振り向いた先の人物は、着物を纏い、黒髪に自分の両目を隠す。そして背丈は自分と同じ程の少女。彼女が今、最も相手にしたくないタイプの相手である


「どうかしら。ニナの演技に気づいていたかしら……ふふ」

「演技でしたか。これは一本取られましたね」

「貴方は知らないように聞こえるけど、そのようには思えないわ」

 ミツキの表情は判断を相手に任せるように無の表情のまま。カスガの答えが是か否かは分からない所である。


「先に言っておくけれど、私は貴方を見下していない。むしろ貴方が4人のうち一番の強敵として考えていたわ」

「私を一番の脅威と見なしていたとは。貴方の様な頭脳派にとっては他の3人の様に私は騙せやすいとは思わないようですね」

「そうね。だからこそむやみに自分から動かなかった。ニナにこんなことはやらせたくなかったけど、あなたの謎を確かめるための囮として、そして貴方の削りとして頑張ってもらったわ」

「なるほど……」

 カスガの慎重な策略にミツキはじりじりとはめられていた。

 だが、カスガの慎重な攻めは身に纏う一枚を脱ぎ捨てることで終わりを告げた。

「出た! 真撃輪舞形態!!」

 目の前のカスガは控えめな印象から一転。漆黒のレオタードにパーツが覆った程度。太腿が何にも覆われない露出度の高いコスチューム。

 目を隠す黒のロングが金のショートに代わる時。彼女の両目ははっきりと見えた。その両眼には意志の強さをミツキへ突きつけているかのようだ。


「これでもしないとミツキ、貴方を倒す事は不可能」

「どうやら本当に倒すつもりのようですね」

「ニナ、貴方は下がりなさい」

「ありがとうございますカスガさん! 私は残りの勢力をすぐにでも!!」

「ニナ、いいけど無理はしないでね」

 師匠へ忠義による返事をしてニナは別の戦闘区域へ向かう。弟子に健闘を祈るように顔を向けた後に、師匠としてから戦士としての表情を作りなおす。


「2対1で挑まないのですか……私を全力で倒すつもりでしたら?」

「ニナは私の弟子の様で娘のような大切なサムライド。無名だけど実力は私が保証するわ」

「余程可愛がっている模様ですね」

「可愛がっているを別にしても、烏合の衆にニナは負けないわ」

「烏合の衆ですか……」

 カスガの両目が光る時、またも非常拠点が爆発を起こす。

 ニナを殺す事しか方法はないのか。しかしそれがせめてもの方法ならば、ミツキは駆けざるを得ない。撤退を開始したニナへ攻撃を仕掛けようとするが、

「ニナの所へは通さないわ」

 カスガの手にビームの刃を持つフォーレ・アサルトが握られた。

 ゼラニウムブレードではビームの刃に打ち合う事は出来ない。慌てて剣を下げ、振り落とされる刃から逃れる事が最も妥当な方法だ。


「ニナが本気で私に応えてくれたなら、私はゲン様に本気で答えるのみ!!」

「この手のビーム兵器、私は所有していません……不利ですね」

 ミツキは不利を悟り素早くカムクワートを呼び、空中へ逃れようとする。

 だが、いつの間にか青銅の龍がカムクワートの追撃を行っていた。今、口からの電撃がカムクワートを痺れさせた。

「逃げる事は許されないわ。ブルー・リューガから逃れると思わないようにね」

「……」

「そうだ。いい事を教えてあげるわ。私を殺しても時限爆弾は止まる仕組みだわ」

「どのような……まさか2人が一組となりスイッチの役目を果たしているのですか」

 カスガの首が縦へ振られた。どちらにしろ2人のうち一方を倒せば、非常拠点に潜む時限爆弾は解除される。

 しかし、ミツキにはどちらにしろ2人を倒す事は許されない。自分がカビダルのサムライドであったからか。

「私に殺しを強要されては……さて、不殺を貫く私には厳しい所ですね」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「う……」

「気付いたポコかクーガ様!」

 3人が死闘を展開しているが、どちらにしろ劣勢である。その中で戦輝連合のリーダー候補でもある が、敵側からはどうでもいいと見なされた秘密兵器が、フレグランス・スプレーガンの効果から目を覚ました。


「クーガ様! この様子だと東部軍団と西部軍団のサムライドによる包囲攻撃が発生しているポコ!!」

「何!? あの馬鹿はどうした。それに……」

「こんな感じだポコ」

 3人を写すモニターは劣勢の様子を偽りなく伝えた。サイはあれから身動きを取ることができず、シンはVAVAの猛攻にただ耐えるのみ。ミツキは2人よりはマシだが、春日との戦いはやや押され気味である。


「……」

「御覧の通り3人は皆苦戦しているポコ。クーガさんが動かないとまずいんだポコ」

「それは……確かにそうだが」

 握った拳は固いが、かすかに震えがあった。怖れである。このときも戦わなくてはならない。自分が言っていた戦わなくても避ける方法がない事は分かってはいた。

 だが、自分は怖かった。国の誇りを結集体でもある自分とビーグバーストボンバーが壊されてしまうことを。


『ひゃっはっは!! 壊れやがれ!! ひゃっはっは!!』

「……」

 特にシンをぼろぼろにしようとするVAVAへは目をそむけたくてならなかった。たっと絵衝突を繰り返しても、自分たちの仲間であるシンを傷つけられてほしくはなかったのだ。

『壊れるくらいなら平気だ……どうせ兵器の俺は直せばなんとかなるわ!!』

「!!」

 シンは叫んだ。一方的にやられた状況においても諦めを知らないからだ。


『ひゃっはっは! 貴様、直せないくらいボロボロにしてやるQQ少し、頭を冷やせ』

『頭を冷やせだと……まぁどこかの偉そうな奴の言いそうな事言いやがって……まして敵なのによ』

『何!?』

『俺はまだあきらめてねぇぜ……俺がここで折れたら皆に申し訳ねぇ!!』

「……」

 クーガはくぎ付けにされた。この苦しい状況でも闘志の炎を失うことがシンにはなかったからだ。もしこれが自分であればどのような事態と化したか。

 シンの戦いが偉大なものに見えた。ハンゾウから敵が迫る故の出撃の催促があったが、彼はモニターから目を、意識を少しもそらすことがなかった。


『ミツキだって、サイだって……多分クーガだって今必死で戦っているんだ!!』

『仲間が戦っているから負けないと言うのか貴様は!!』

『あぁ!ミツキは冷めていても、サイは優しくても、譲らない所は譲らない奴だ!』

 譲らないところは譲らない。どれだけ強敵が現れようともシンは、絶対に心を折らない。彼からすればミツキは、サイは同じ譲らない強さを持つと見ている。

『そしてクーガはな……頑固で、面白みがなくて、癇癪持ちで、俺の事をあの馬鹿とか呼んでいるっぽいけどなぁ……』

 最も自分はどうなのか……内心では自分への嫌悪を感じ、聞きたくなかった。自分を臆病者と呼ぶシンは、自分の事を良くは思わないだろう。


『あいつこそ絶対譲らない所を譲らない奴なんだよ!!』

「!!」

 自分は彼に期待と信頼を寄せられていた。臆病者である自分を彼らと同じ譲らない心を持つと言われた時にクーガの決心はついた。

「クーガ様!このまま逃げていても何も……何だポコ!!」

「分かっている!」

「分かっているなら早くするんだポコ!!」

「なら、キング・ランダーで行かせてもらう! それにビーグバーストボンバーの修復はもう終わっているはずだ」

「ええ!?」

 この変心をマサノブは理解したかしていないかはまだ分からないであろう。だがクーガの心は消えた炎をもう一度点けられたようで、心の内に喜びを隠すものであった。


「あの馬鹿は何も考えていなくて、すぐ勢いに任せて、トンチンカンで……俺と正反対の奴。そんな奴だから、純粋な奴だからこそ譲らない性格。そして」真逆の俺をあいつが譲らない奴と呼ばれたなら……

「……」

「シン、ミツキ、サイ。俺は弱い男かもしれないが、逃げて期待を裏切る程俺は弱くはない! 例え壊されようとも、心は壊されない!勝者がどちらか決まるまで俺はここで折れる訳にはいかない!!」

 心が決意により固められたとき。彼に迷いをもたらす存在は、すでに心のうちにはなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「そら、そら、そらー! へへーどうやら大したことないっすねー!!」

 そして尾張の非常拠点へ、クーガが守る要所には一人の少年が勢いよく切り込んだ。

 少年は両手に握られた六文槍を多種多彩な姿へ変形させる。槍として、ザンバーとして、短刀として、鞭として。量産型兵器を打ちつけ、突き刺し、たたきつけて切り込んだのだ。

「ユッキーいい感じだよ! そのペースそのペース! 無理なら私がいるけど、出来る限り全力で頑張って!!」

「もちろんっすよー!!」

 ユキムラの快進撃にアリカは気を良くしている。カスガ、VAVA、マサトが3人を封じている為、後は大した事がないとの彼女の考えはあながち間違いではないようである。

「それはどうかな!!」

 しかし二人の進撃を食い止めんと男が立った。男はブルーのライド・アーマーを纏い並のサムライドの倍以上の身長を誇る。これこそキング・ランダー形態。クーガが誇る強大な力の表れでもある。

「お前が最後の四戦士とやらは。だが……」

「お前じゃなくてアリカ姉ちゃんっすよ! おいらはお師匠の一番弟子ナダ・ユキムラっす!! ってうひゃ~でかいっすね! 量産型兵器よりでかいっすよ」

「……」

 止めようとするクーガに対して、まだ子供ゆえかユキムラに落ち着きはない。多分自分の言葉を聞いてはいないだろう。


「そいつはでかいだけだって! ユッキー、でかい奴は隙だらけだよ」

「なるほど~そういえば随分重そうっすね」

「それはどう……そやっ!!」

 でかいやつは隙だらけだ。アリカの読みを信じてユキムラが突入を開始した。何も考えないで向かうユキムラには、ハイゾルグランチャーから大口径の光を飛びださせる。

 だが、軌道はなぜかユキムラから大きく逸れるものであった。


「あれ? おいら狙いじゃないっすか」

「ちっ……そこだ!!」

「うわぁっ……ってあれれ」

 ユキムラも強大な攻撃を一発外された事に戸惑いを感じていた。気を取り直してまたもハイゾルグランチャーの火を噴かせるがまたもや外れてしまうのだ。


「また攻撃外してるっすよ~姉ちゃんどういうことなんっすか?」

「簡単簡単! ユッキーが身軽だからよ。図体のでかい奴は大半ユッキーくらいのサムライドにやられちゃうから気にしないで!!」

「……随分舐められているようだな」

「おおっと!!」

「だって本当の事だもん! ユッキーが逃げ回れるのはあんたが鈍いからだもん!!」

 アリカの言う通りか、クーガが放つハイゾルグランチャーの攻撃は尽く外れる。

 その間に懐に潜り込んだユキムラの六文槍が懐へ炸裂した瞬間だが、彼の動きが鈍い事とは別に装甲は十分に強固なもの。槍でもザンバーでも、またハンマーで叩いてもびくともしないようなのだ。


「あれれ!お姉ちゃん攻撃が効かないっす!!」

「無駄だ。この装甲はそれ相応に強力なもの。また至近距離ならばこれで十分だ」

「ひやぁ……あ、でもならこうすればいいっすよね! そりゃ!!」

 背中のハイゾルグランチャーをハンマーへと手に変える。至近距離でたたきつぶすつもりか。

 しかし、目の前のクーガに灼輪灯が眩く輝きだした。光は彼の装甲を青からオレンジ色へと瞬く間に変色させていく。

 全身が橙と化した装甲に六文檄を叩きつけるようにぶつけさせた時、キングランダーに亀裂が走り、メッキのように装甲がバラバラと落ちてしまったのだ

「キング・ランダーが……やられただと」


「後は身体だけ! アリカ姉ちゃん、本当に大したことないっすね~!!」

「ふふ~んアリカちゃんの読みは間違いじゃありませんでした~! ユッキーも凄いけどね」

「……まだだ。たかがライド・アーマーがやられただけ。今でも俺はお前たちをこれ以上先へ通すつもりは少しもない!」

 強固な装甲を破ったことで二人は戦勝ムードに入っていた。

 しかしクーガには負けを悟ったような顔色は見せない。過去ならばライド・アーマーが破壊されて戸惑う事もあったであろう。

 しかし、形ある誇りが崩れようとも、心のうちの誇りが折れなければ負けない。シンの言葉がクーガの心を支える新たな柱と化していたのだ。


「強がりもほどほどにっすよ!!」

「今だ!!」

「え……うわっ!!」

 二度目の灼輪灯を放とうとしたその時、森林からはまばゆい光がユキムラを襲った。

 光を直視したユキムラは目をそむけて、額の灼輪灯がクーガの真上に飛ばされてしまった。

 この光が止んだ時、ハイゾルグランチャーでクーガがユキムラを殴り飛ばした。一転攻勢である、

 勢いで地面へ叩きつけられたユキムラへもう一発、二発とハンマーが次々とユキムラの身体を砕いていく。


「う、うう……」

「ちょ、ちょっと! ユッキー!?」

「……散々舐めてかかった代償だな」


 ここで説明をしなくてはならない。

 ユキムラを狙うつもりでクーガはハイゾルグランチャーを放っていたが、実際には敢えて狙ったふりをして周りの量産型兵器の一掃に入ったのだ。

 だが彼の演技は、単にユキムラを狙おうとして外していたとユキムラもアリカも思い込むようになってしまったのだ。

 また、実際にユキムラへ攻撃を仕掛けるふりをして彼を無駄に動かせた事で疲労を蓄積させる。灼輪灯を受けた事は敢えてエネルギーの消耗を誘っただけである。

 しかし二度目を受けた場合は自分の体が持たない。よって灼輪灯を外す必要があるとみたクーガが、密かに忍ばせたヤスマサの存在だ。

 太陽光を蓄積するヤスマサから放たれたまばゆい光がユキムラの頭を動かす。

 さらに高輝度の光で眼を閉じたクーガにはハンゾウの存在が彼の脳内へ映像を結び付けた為、至近距離へ近づく事に成功。その勢いで一気に殴り込みを賭けたのだ。


「あの馬鹿のお陰で俺は逃げなかった。そしてお前が見くびったために俺はお前の予想を覆す事が出来た」

「ゆ、ユッキー!!」

「本気になった俺からすればお前の可愛がるユッキーとかは大したことない。敢えて殺さないのはそれ故だ」

「むぅ……よくもユッキーを! 烈火の猛将アリカちゃんの実力を見せるべきね!!」

 弟子を倒された無念と怒りを背負い、アリカがグローブを両手に駆ける。

 しかし、クーガは冷静にハイゾルグランチャーを構えたまま、ハンマーの先端がスピアー状態と化して伸展された。

「おおっと! 危ないもんねそんなうすのろ!!」

「……まだだ!!」

「強がらないでよ……!!」

 ハイゾルグランチャーのスピアーでアリカの胸を刺そうとするが、彼女が飛び跳ねて、左の回し蹴りが彼の顔をけり飛ばす。

 パワーはユキムラ以上かもしれない。ライド・アーマーを身にまとってはいなかったが、彼女の回し蹴りで自分の巨体が宙を浮き、彼女のミサイルパンチ……いわばロケットパンチの威力が真後ろに倒させた。


「どう!? あたしにかかれば、あんたなんて大した事……!!」

「ぐぐぐ……」

「死んじゃえばいいんだ! ユッキーを傷つけるあんたなんて!!」

 ロケットパンチが射出された右腕からは銃身が現れる。

 この銃身が至近距離で、彼女が馬乗りとなるクーガをハチの巣にしようとしている。ユキムラを傷つけられたことへの怒りが現れているようである。

「させるか……俺はここで死ぬわけにはいかない! 心が折れなければ俺は負けない……!!」

「ユッキーだって折れてないもん!折れてないユッキーに変わってあんたは私が倒すんだもん……!!」

「それは……ない!!」

 マシンガンが自分の急所に向けられないように、クーガは右腕を懸命に支えた。そして、彼は思い切り投げ飛ばす方法を取った。

 自分を倒そうとする彼女の右腕をつかんで投げ飛ばすことは、小柄な彼女だった故に簡単であった。

「きゃあっ!!」

 追い打ちとしてハイゾルグランチャーが吹き飛ばさるアリカに炸裂した。ビームを受けて地面へ叩きつけられた彼女に反応はない。

「スピアーにも、ビームキャノンにも、ハンマーにも。このビーグバーストボンバー……またはハイゾルグランチャーは愚鈍な俺に与えられた国の誇り。そしてこの戦い方はマローン様から授けられたものだ」

 彼女に反応がない。ユキムラはアリカの負けに茫然としたままである。勝ったのか。自分は四戦士を倒すことに成功したのか。

 これに確証はない。自分から戦おうとしたこの戦いは、自分にとっても死力を尽くし迷いはどこにもなかった。


「シン、ミツキ、サイ……俺は今乗り越える事が出来た。お前達の戦いと期待を背に俺は壁に挑んで超える事が出来た……」

「ほぅ……マローンの弟子がお前だというが、なかなかではないか」

「お師匠!」

「ゲ……ゲン様!!」

「何……!!」


 ゲン・カイ。自分の師に当たるマローンと五強の一角であり、覇を競い合った戦友。その彼が自分の目の前に現れた。目の先には逆立った黒髪と、何もかも見通すような鋭く冷徹な眼力が自分を威圧しているかのようにも見えた。


「あの4人の中ではお前はノーカードであったがさすがユキムラには荷が重いか。最も、アリカを圧倒するまでは俺も予想していない事だった」

「……」

「ゲン様! あたしは少し油断をしただけでまだ……」

「あとでその件は聞かせてもらう。それよりも、クーガとやら。お前がこの組織で最も重要な存在と見たからには、リーダーとしてお前と競い合う方が早い」

「リーダー……」


 自分がリーダーなのか。内心クーガには戸惑いを包んだ。リーダーとして4人を、この戦輝連合を自分が導くだけの力があるのだろうか。

 だが、自分が戦わなければ、ここでリーダーとして戦いに挑まなくては目の前のゲンを倒すことは不可能に近い。たとえ荷が重くとも、クーガは重荷を背負って立ちあがらなくてはならなかったのだ。

「あぁ。今は俺がリーダーだ。ミツキほど賢くもなく、サイほど早くもなく、あの馬鹿ほど土壇場に強い訳でもない俺だが……俺はリーダーとしてゲン、貴方を倒す!!」

「面白い……随分の自信だ」

「この地震は、サードリバーとマローン様から受け取った俺への期待と誇り。そしてあいつたちからの信頼と力が俺を支えているからだ……!!」

 

 3人が苦戦する中、クーガは再起した勢い、自分を軽視した敵の事もありユキムラを、アリカを破った。

 だが彼の前には五強筆頭ゲン・カイが自ら決闘を申し出た。

新たな脅威がクーガを襲う。3人が勝利をおさめるその日までクーガは持ちこたえる事が出来るのか。

今、戦輝連合における未来のリーダーとしてクーガが試される時が来た。


続く

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