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第22幕 復讐の女王サクラ! 超重力殺法を破れ!!

「どうした! そんなことじゃあ俺を超す事も、正式な騎士団員として認められねぇぜ!!」

「分かっているぜ! アガーキストランチャー」


義を誇るサムライド達が集う勢力義闘騎士団。彼らの勢力圏のうち最西端にあたる富山において、カキーザとボンジョーは競い合っていた。

最も以前彼は後輩に値するボンジョーに腕を競うと言っていた事もあり、先輩としてボンジョーの腕を確かめているのだ。

ボンジョーは先輩に対して少々ためらっていたも、相手がライドアーマーを着用している事もあり、手を抜く事は戦いに妥協を禁じる彼に失礼な事。

よってボンジョーは背中のスタンドパーツで身体を固定させてから、両肩の砲門を吹かせてカキーザを迎え撃つが、カキーザは象徴ともいえる2本のドリル“ビュンデルヴィルヴェルヴィント”を両手にして不退転のまま攻め込もうとしていた。


「どうしたボンジョー! 撃てる限る撃て!!」

「は、はぁ……ですがこれ以上撃ちづつけるとこっちのエネルギーもなくなるし、カキーザの旦那も傷物に」

「馬鹿野郎! 俺はお前のボスで、ミーシャを除けば騎士団のトップだ! そのトップがやわな攻撃で死ぬわきゃあねぇんだよ!!」


カキーザという男。表面ではクールを気どっていたが、内心では、いや元々熱血漢の所がある。戦いとなれば良い悪い別をして熱くなり、敵であろうとも味方であろうとも妥協を嫌う男の模様である。

「まぁ何、寸での所で止めてやるつもりだけどなぁ……分かっていると思うが俺は手を抜く事苦手だ。だから死にたくなけりゃあ全力で俺を倒せ!!」

「分かりました。ならアガーキストランチャーを全力で」

「あぁそうだ。俺はお前に倒されても退かねぇし、心は倒れねぇからな」

ボンジョーの砲身が収縮。至近距離用に備えエネルギーを蓄える。この間にもドリルを構えるカキーザは進撃を止めない。

ビュンデルヴィルヴェルヴィントが先に決まるか、アガーキストランチャーか。答えが明かされるのは先に攻撃が決まることにある。


「でやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「エネルギーチャージ完了! 旦那恨まないでくださいよ!!」

『ぐおおおおおおおおっ!!』

『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

「うおっ!!」

「わわっ!!」


だがしかし、戦場から少し離れた場所で2人の叫びが響いた。

この反応に心を奪われたボンジョーは何かに押されるかのように砲身の方向がずれて、見当違いの方向へビームを放つと同時に、身体が横へ倒れてしまい。また、カキーザもまた突入を試みる先で動きが鈍くなり、違和感を感じた彼は動きをその場で止めた。


「カキーザの旦那。大丈夫ですか!?」

「分からねぇ。だが、俺のビュンデルヴィルヴェルヴィントがこうなっちまった。お前、俺が知らない間に何かを」

「そ、そんな事俺は知りませんよ旦那! ですが、俺の砲門も」

ビュンデルヴィルヴェルヴィンの先端が何かに、外からの力によって凹んでしまい、アガーキストランチャーの砲身も、外部からの強力な力をくわえられて凹んでしまったようである。


「どうなっちまった……それより、ココとバシータに何かがあったようだな」

「あいつらなら大丈夫だと思うが……」

「それは俺にも分かっているわ。だがなぁ、今、何かが俺達へ攻撃を加えた事とあいつ等の悲鳴に何か結びつきがある気がしてならないぜ」

何かが自分達を襲った。

未知のエリアから放たれた攻撃にカキーザとボンジョーは急行するが、それよりも周辺の地形が何かに押しつぶされていた。

木々が、朽ちても誇った建築物が、まるで何かに圧縮されたかのように、バランスを崩して倒壊。彼ら2人の元に向かっていく中で、周囲の被害は甚大と化していく。


まさか……自信家のカキーザに不安をその先に到着した場所にココとバシータの姿があったが……身体のほとんどが圧縮された状態なのだ。


「!!」

変わり果てた2人に、ボンジョーが絶句。カキーザですら慌ててライドアーマーのヘルメットを外して……残酷でありながら現実の2人を目に焼きつける事となった。


「ココ、バシータ!!大丈夫か」

「ボンジョーか……」

「ダメなんだYO。押しつぶされてこのざまなんだYO」

「馬鹿野郎……まず何があったかを言え。お前らをこんなにしやがった奴をぶっ殺せねぇ!」

 内心不安でならなった。今まで、大陸時代において50年以上戦い続けた彼でも、この様な攻撃を行う者を知らなかったからだ。しかし、知らないからといえども戦わなくてはならない。黙りこむ事は、拳の震えから許されないものであろう。


「カキーザの頭領。相手は手に触れずに俺達を押しつぶすような攻撃が出来る奴だ」

「何! じゃあ、俺達にまで及んだ攻撃はお前たちのいた場所からやってたわけかよ!!」

「信じられないかもしれないけど本当なんだYO……うう」

「そいつの名前は誰だ!」

「サ、サクラ……サクラ・イチジョウとか……」

「三光同盟北部軍団宿聖とか、桜咲く女王とかの肩書きを持つ女だ……YO」

「……! ココ、バシータ!!」

 アガキタの騎士2人は、最低限の必要事項。真犯人を明かした所で手を地面へ降ろし、そして息絶えた。同僚の死に動揺するボンジョーとは別に、カキーザの目には自分の拳が映った。


「ちくしょう、やってくれるじゃねぇか。北部軍団とかゲンの東部軍団に絡みがあるんだろうがよ……サクラとかも風林火山同様、俺がぶっ殺してやらぁ!!」

 サクラ・イチジョウ。カキーザの消すべき標的へ彼女の名前が追加された瞬間である。

 だが、カキーザらはサクラ・イチジョウを知らないが、彼女は四軍団屈指のアレなサムライドである。そのようなサムライドが、2人の相手を始末する事はできたのだろうか。


「ふふふ。ゲン・カイが指し向けた刺客と誤解しているようですわね」

「は、はぁ……」

「この力。何事も触れずにたたき壊すこの力……どう思いましたか?」

「す、すごいです……」

騎士団の動揺を眺めながら、上空に佇むサクラは思い切り笑った。

隣でトリィは彼女の自信過剰な言葉に呆れを感じているようだが、内心では呆れだけではない。

手も触れずにそこそこ名前を知られていたサムライドを2機瞬殺してしまった事への驚愕、そして資料でしか知らなかったサクラの真の実力を目の前にしている感涙もあったのだ。


(サクラ様のこの性格は相変わらず……ですが、この実力は私にとてもかなうものではない! これならガンジー殿、カズマ殿にも互角以上……ゲン殿にも勝てるかもしれません!!)

「トリィ!」

「はっ! どうされたでしょうか」

「貴方は、私の忠実な僕……ですわね?」

「は、はぁ……いえ、はい」

今まで主君に値するサクラからは何度も振り回されてきた。

しかし、自分はサクラに仕える身として生まれた宿命。彼女の手足として動く事に誇りを持たなくてはならないと既に考えていた。


「そうね。これからすぐに戦いに出ますわ。あの紅蓮の風雲児とかを血祭りに上げる為にですわ!」

「!!」

シンを倒す。

トリィは瞬時に思い出した。サクラがあぁなったのもサイを傷つけられて怒るシンの猛攻を食らったことで、自慢の顔を傷つけられ、ほぼ瀕死状態に追い込まれたからである。   

幸い今の彼女はほぼ元の状態に修復が完了しており、華やかな美貌も衰えてはいない。

だが、自分の美しさに傷つけた彼は、サクラにとってまっさきに殺害すべきサムライド

今、戦線に復帰し、また新たに手にした力を試す事もあり、彼女はシンを叩くつもりなのだ。


「サクラ様! それはいくらなんでも少々やりすぎではないでしょうか!!」

「あら、トリィ私の実力が及ばなくて?」

「い、いえ、そのようなことで言っているのではありません! サクラ様の身にもし万一の事があればと思いまして……」

だが、サクラの行動は危険なものと見た。決して実力がなかったり、自分が戦いたくなかったりするかつての彼女と同じではない。彼女を想う故である。だが、


「私の様なサムライドが、あの屑に万一の事を思い知らされるというのかしら?」

「そ、そのような事は、それに私は護衛として……」

トリィの頬を軽くサクラが扇子で叩く。

ペチッとの軽い音とは反対に、何かの痛みが伴った瞬間。

恐る恐る振り向いた時には、目の前のサクラが、遥かに高い位置にいるような気がした。従者と主君との壁だけではない。2人の実力の間に大きな隔たりを感じたからであろうか。


「トリィ、貴方護衛なら、わたくしが前に出て、貴方はその前、攻めて後を追うものが宿命ではなくて?」

「そ、それは……確かにサクラ様が出撃した場合は尤もな」

「貴方がどのように考えているかは分かりませんが、私には臆病風に吹かれたか、私への忠義がない者ともみえますわ! 貴方!!」

「……!!」

この時、トリィは震えた。サクラに捨てられる危機を本気で感じた。

今のサクラなら自分が補佐をする必要もなく、一人で動いても問題はないだろう。それが故に、サクラに捨てられる事もあり得たのだ。


(サクラ様、ここで出なければ私は使い捨てにされてしまう宿命……ここで動かねば……)


「ふふふ、ようやく私の本領は発揮されたと言っていいでしょう。この力であの屑を沈めてしまえば……」

「サクラ様! サクラ様!!」


無謀な行動に出る主君を前に、自分の忠誠が試されている。トリィが葛藤する中で、富山の上空で主君は既に勝算を持って高笑い。

しかし、一人のサムライドが現れたことで状況は一変の兆しを見せた。

「どうされました? カゲターカー殿」

「それが……南部軍団宿聖であるカズマ・ソゴウ様がセンゴークの反乱に遭って戦死された模様です!」

「な、何ですって……」

「カズマ様が!?」

カズマの死。カゲターカーの話す内容と事実は異なるが、離す側が事実を知らないので仕方がない。

しかし、どちらにしろカズマは既に死んだ。四軍団の宿聖の死が、同盟に大きな波乱を与えた瞬間だった。


「はい。それにて三光同盟では東部軍団、西部軍団により臨時評定を……」

「なるほど、ガンジー・ケーンとゲン・カイ殿の談合ですね」

「その通りだと思います」

「なるほど、トリィ、急用が出来てしまったようですね」

 動揺の中で、サクラの無茶な侵攻計画が引き延ばしにされる。カズマの死に対抗できるものではないが、この状況で戦う事はよろしくないので、安堵すべき事だろう。


「ですが、私達北部軍団があの屑どもを始末させる事を押しつけますわよ」

「は、はぁ……?」

 トリィの安堵は無駄だったようである。この女は意地でも諦めなかった。


「カズマは私にとっては目障りな存在。ですがこの世界におけるたった一人の弟に先立たれては……単に喜べない事もありますわね」

サクラはゆっくり瞳を閉じる。

カズマからは尻軽女とこの女は呼ばれ、彼女も食ってかかったりした。そのような犬猿の仲の者が死亡すれば手放しで喜ぶ所だが、相手は自分が恋心を抱くケイの実弟であり、大陸時代から苦楽を共にしてきた男である。

それを考慮に入れれば、単に憎い奴の死で喜ぶだけとはいかないようである。


「私はこの戦いでゲンを出し抜く必要もありますが……ケイ様の支えとして機能するのみ。この戦いは好機でもあり、一世一代の賭けかもしれませんわね」

この臨時評定を、そして自分が今から始める戦いをサクラは賭けとして出た。

カズマの後釜、すなわちナンバー2を狙い、ゲンを出し抜き、ケイの寵愛を一身に受けようとする野心もあった。

だが、純粋にケイの支えになる。力になりたかった。そのような気持ちだってあった。


「あの方の端正な顔立ち、品の良さ、壮大な理想を背負い、孤独の風に吹かれるケイ様は私が今まで感じた事のない方……あの方なら私のご主人さまにしてよくてよ……」


当のサクラをケイは使い物にならないと言ったが、今、彼女は過去とは似て異なる。

なぜ彼女は変貌を遂げたのか。四大軍団において宿聖としての素質で疑問を抱くように、ドン尻の最下位であった彼女が、また生死の境目を彷徨った彼女が何故新たに甦ったのか。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


話の時系列を少しさかのぼろう。

まず、卑劣な手を取るサクラはシンの怒りを買って全身を蜂の巣にされた。しかし、戦輝連合と北部軍団の総力戦のどさくさにまぎれて、シックスがサクラを回収していたのだ。


それからシックスはサクラの修理を行うことに決めた。自分の様などうでもいいサムライドが、どのような行動をとっても注目をされる訳がない。また、唯一顎でこき使うミランも背中にブレイズバスターを受けて回復を余儀なくされていた。


最も大陸時代からの縁はない。シックスは忠義でサクラを直すような事を考えない

メカラクリを始めとする攻撃兵器を一人で開発するシックスはメカの腕がそれなりにあり、それゆえにサクラの修理に興味を抱いた。鬼の居ぬ間に洗濯ならぬ、ミラン居ぬ間に修理である。


「なるほど~上から90、54、87……うらやましいんだに~」

しかし、この修理は健全な意味で行われていたかどうか……この台詞から疑わしいものである。

培養液に浸されたサクラはコードで全身を繋がれており、彼女が纏う衣類はコード以外何もない。その身体はうっすらと白いが、銃弾が彼女の内部構造。いわばメカの部分をさらけ出す。肌理の細かい、まるで人形のように整い眠りに就いた表情でも両目を始めとする各部分が射抜かれており、今の状況で美しいかどうかは判断が難しい所である。


「えーと、トリィが77、49、80で、北部軍団の女性サムライドでは……」

シックスはコンピューターに己の頭に内蔵したデータディスクを取り出して、専用コンピューターへ駆けるとずらり3列の数字が並んだ。

「ははーん。こういう所だけはサクラ様がトップなんだにね~そこに全てが回って頭が空っぽかもしれないんだにが」

PCのデータには、最も全てが女性型であり、彼女達がこのデータを見たらシックスへどのような矛先を向けるか想像がつかない。


「次点が東部軍団のプラムとマーヤ……ちぇっ。ゲン様うらやましいんだにー。私も今身体だけは最高のサムライドを好き放題いじれるんだにがね~」

シックスは自分の部屋の襖をガラッと開けると、腕や足などのパーツの部品がちらほらとはみ出すように溢れだす。どれもこれも全てがサムライドのパーツである。

「脳が無事だったのはサクラ様も空く運が強いんだに~ただソウルシュラウド破損しちゃっているから……それより、サムライドの残骸を集めるのって案外楽じゃないんだによ」

シックスがぼやくが、サムライドはソウルシュラウドが無事な限り自分のパーツを無から形成する事が可能である。

残骸さえあれば修復だけで済み、それだけ無駄な時間を省く事が可能。残骸を持って退散する様な程余裕がある訳でもなく、戦場に腕や足などのパーツが転がっている事も珍しくはない。

また、破壊されたサムライドにも頭か胸を破壊され、大破することなく残りのパーツが殆ど無事だった例も少なくない。本体と脳が無事なら残骸と上手く調節し合うことでつぎはぎとはいえ修理は可能となる。


「フィラオカン、クニトラ、モットー……この3人娘が面白い所だに。特にクニトラのパーツは随分無事な所が多いから楽しみだに」

この3人はアリカのデモンストレーション用に倒された相手で、全員女である。それだけにサクラを修復する為のパーツとして不足はないと見たのだろう。

 ちなみに、そのデモンストレーションへ雑用係としてシックスは参加しており、残骸パーツを既に回収していた。

そして、アリカへ吹き飛ばされたクニトラは復活してすぐに脳を、頭を切り捨てて……つまりソウルシュラウドは無事なままの死体である。

 そのままサクラの身体をじろじろと、まるで不埒な表現だが、彼はやましい考えが……あったかもしれない。だがそれだけではない事をシックスの名誉も考えて付け加えよう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「なるほどね……こうしていりゃあ動くわけなんだにね」

二日ほどが過ぎ、機械でも徹夜をしてしまうと目が赤くなるようで、シックスは重い瞼をこすりながら修理作業を続けた。

現在、部品の全ての修復が完了したため、サクラのソウルシュラウドを調整する作業に入った。

そのため、まず固定され、銃弾が貫かれたプレートを傷つけることなく、外してから取り除いた。

「おっと、この培養液からソウルシュラウドを出すと膨れ上がるんだに……慎重に……やっただに」

ソウルシュラウドはサムライドの体外へ飛び出すと、該当するサムライドと同サイズに膨張する特殊な性質の機械だ。よってソウルシュラウドを外部から取り出す場合は厳重な警戒がいる。

圧縮されたサイズのままソウルシュラウドを握りつぶすように押す。

これで、カードが1枚培養液を突き破るように現れた。次にクニトラのソウル・シュラウドから、同じ要領でカードを引き抜いた。


「これでケースとカードがそろっただに。とにかく、サクラの復元コードはこの様なデータになっているから……この3人娘の該当するパーツの復元コードを入力すれば」

このままではソウルシュラウドは機能しない。故障したケースを変えるだけでは意味がない。

ソウルシュラウドにはサムライドの基本データが搭載されている為に、高速でパーツの修復・復元が可能である。

3機のサムライドのパーツを始めとする各部品を継ぎ合わせてサクラの修復は完了したが、戦いで傷つき、すぐに修復を終えて戦いに挑む為にソウルシュラウドを機能させることは必然である。

よって、シックスは素早くキーボードが彼女の復元データに手を加えていく。止めにボタンを軽く押せば、スロットからはカードが取り出されて、もぬけのソウルシュラウドへ差し込んだ。


「これで修理は終わっただにね。後はこの復元コードを入れたソウルシュラウドをきっちりはめて……むむ?」

完成されたソウルシュラウドと外部パーツを、後は装着するのみ。これで不足したエネルギーを補い、起動させれば元のサクラである。

よって、ソウルシュラウドをはめ込もうとするが……シックスは気付いた。

胸にピッタリとはまるはずのソウルシュラウドが、胸に押し込んでも押しこんでも何故か少し浮いてしまうのだ。首をかしげて考えだが、ある事に気付いた。

「あれ、そういえば、さっき湖底プレートを外したらすぐにソウルシュラウドは取れた気がするんだに~プレートを外しても力を少し加えないと外れないのが基本だったに。もし激しい動きでソウルシュラウドが外れることになったらなったで大変だに」

シックスは舐めるようにサクラを眺めて、内部をじろじろ見るにつれ、ある部品に違和感を持った。

「そういえば、胸のパーツが一枚厚い気がするんだに……むう、0.5mm程だに」

胸のパーツに違和感が気付いた。隙間と隙間に指を挟んで思い切りパーツを抜き取ってみようと片手を彼女の腹に手を当てながら、パーツを抜き取ろうと後ろへ引っ張る。

「だ、だだ……だにー!!」

奇妙な叫びと共に真後ろへよろけ、瓦礫の中に身体が落っこちた。

だが、シックスの腕にはしっかりソウルシュラウドの収納を阻むパーツが握られていたので、彼の目標は一度果たされたようである。


「い、痛いんだに……けど取れたんだに……しかし、何でこんなものを付ける必要があったんだに……」

とりあえず考慮に入るがが、何故そのようなパーツが備えられたかは分からない。

結局、自分の頭では限界があると見たのか、または復活までの道のりにはあまり意味がないのか。彼女の内部にソウルシュラウドをはめ込んで、外部装甲、いわば皮膚ともいえるカバーを被せた。


「さて、これで大丈夫っと。しかし生きているサムライドを調べる事が出来るのは貴重な機会なんだに……これで私の計画も一歩前進だに!」

サクラが復活する事にも、自分の行いにも価値があると思っている。

だが、何よりも、他にもサクラを始めとするサムライド達のデータを詰め込んだタワー型のコンピューター、部屋の壁に埋め込まれたカプセルの中にまだ目を開けていない1機のサムライドが存在している事だ。


「ふふ。あとはこのエネルギータンクで不足したエネルギーを補い、ショックレバーを引くのみ。案外自己修復で済ませるより、自分でやった方が早く治るんだにね」

サクラへコードが接続されている事を確認して、付近の台を押せばケーブルが黄色く光り彼女の身体を光が包む。後はエネルギーの補充が完了した時に、起動時に必要なエネルギーを与えるショックレバーを入れるのみ。


「ふふふ。これで大丈夫なんだに。さて、少々時間がかかるから高揚剤の摂取するんだに。あと少しの所で眠る訳にはいかないんだによ」

カプセルから正面の壁、機器やパーツが散らばる部屋において、唯一素朴な、味気のない壁。

だが、背中を当てるとまるで忍者屋敷のようにがらりと壁が入れ替わり、何の味けもないシンプルな部屋へ放り出されて、ベッドの布団に着地した。


「この秘密研究室は誰にも知られる訳にはいかないんだによ。とにかくあっしがサクラ様を修理したと言えばサクラ様は私を見る目が変わるはずなんだによ」


やけに自信があるようだが、彼の考えが成就されかどうかは保証できない。とりあえず、彼は自分の部屋へ繋がる通路を出て番号キーによるロックをかけてから、何食わない顔をして通路へ出た。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「こんな機会が私に転がり込んでくるものだにね……。」

今のシックスは有頂天だ。自分がサクラを手にしているようなもの。彼女の修理を恩として売りつければ、惨めな立場から出世することだってできると思ったからだ。


「シックスじゃないか。お前は前線に出撃しなかったんな」

「そうなんだに。カゲターカー殿も無事だったんだにね」

北部軍団の通路をカゲターカーとすれ違うシックス。彼カゲターカーは北部軍団の魂。

階級からはミラン、スネークとはワンランク下だが、階級は上から3番目のものであり、魂将の間ではトップクラス。地味だが北部軍団幹部において3番目の地位に立つ男である。


「あぁ……幸い自分は気を失っていただけで、だがサクラ様もミランの奴も重傷を負っているのが自分とは大違いだ」

「どういうことなんだに?」

何処か諦めたように、またひそかに野心を燃やすような表情を見せて。カゲターカーは左右周辺を見渡して確認を行った。


「ここにはミランはいない、いや今は鏡次元能力を使われる事もないから話してもいいな。自分がサクラ様の後継機になる運命をな」

ミランの状況からしてカゲターカーはこの考えを告げてもいいと見た。躊躇いと欲望に板挟みになりながら、いや後者の方がやや勝る感情が口を開けるとともに飛び出た。

「ろろ!?あまり話が分からないようなんだに……」

「自分の使いが聞いた話では、ケイ様はサクラ様の失態、重体で軍団に受けたダメージが大きい。よって今回の責任を問う形で新たに北部軍団の宿聖がきまることになってな」

「はぁ……」

をの彼女が重体の身である事をシックスは誤魔化す事にした。

もし、サクラを復活させるような考えが他のサムライドに漏れたら手柄を取られてしまうに違いない。

自分がサクラを復活させることで寵愛を受ける。ミランではないが自分の出世計画を邪魔されたくはないと思っているのだから。


「とにかく、それでカゲターカー殿が何故宿聖になると決まったんだにか?」

「ケイ様が考えられている事は、自分かミラン、そしてスネークの内誰かが宿聖へ選ぶつもりだそうだ。だがな」

彼にとってここからが本題であるようだ。カゲターカーはゆっくり笑いながら3人の中で自分が最も有意であることを告げる。


「ミランは負傷中のありさま、スネークも今回の戦いでシンを倒すとか言っている割に結局戦果が上がらない。特に落ち目もなく堅実に任務をこなしている自分こそ無難な二代目宿聖として相応しいのさ。時の二代目は無難で堅実なれさ」

「そうなんだにか」

「まぁ、これは地味なサムライドでなければ分からない自分の考えだ」

「はぁ……」

時の歴史でも2代目トップは、地味な人物であることが多い。基礎を確立させた初代と基盤を完成させた3代目にどうしても挟まれてしまうが、大半は地味だがそれなりの実力者だったりするのだ。


「それより、サクラ様はどうなるんだな」

「残念だが……サクラ様は用無しになってしまう」

サクラの処遇を持ちかけるとカゲターカーの表情はやや暗さを見せたようだ。自分が宿聖になってしまえば彼女の運命は目に見えたもの。

「やはり、重なる失態が原因だにか?」

「そうだ。自分はサクラ様より遅く生まれたから詳しくは分からないが、まず俺が仕えていた頃のサクラ様ははっきり言ってどうしようもないお方だ」

「ま、まぁどうしようもないんだにね……と言われたら間違いはないんだに」

この場にミランがいたら、カゲターカーは殺される危機だろう。だが大陸時代の家臣として彼は本当の事を言っているだけだ。彼がつくため息はどこかトリィが常に呆れていた時と同じ雰囲気だ。


「しかし、サクラ様の活躍を目にすることなくリストラとはなぁ……」

「何か、華々しい活躍でもあったんだにか?」

「あぁ……」

またもカゲターカーは微妙な視線をシックスへ傾ける。しかし、今からの話は、まるで自分のしようとする話であるのに、自分でさえ嘘ではないかと思える事である。


「サクラ様は過去一度、初陣において3万の量産型兵器の反乱をたった一人とは言い過ぎだが、ナインヘッヅドラゴンリバー戦役でサクラ様は手を触れることなくほぼすべての機体を片づけた逸話がある」

「……な、ななななんなんだにか!? そのとんでもない話は!!」

「どうも、自分の聞いた話では重力とかを操って自分は空を飛んで、量産型兵器の射程外から重力を操って押しつぶした訳だ」

「そ、そんな過去……あのお方では信じられないんだに」

「自分も知らないし、国の内乱と後ろめたい話故に国側から資料とかも殆ど抹消されている。むしろ」

「なーんだ、やっぱり嘘なんだにかカゲターカー殿」

半分馬鹿にしながら笑うシックス。カゲターカーはこの話を正直自分ですら信じてはいないが、とある一点の事が気がかりで、否定が出来ないのだ。

「そうは言えない。自分はいわば庶流のサムライドだが、王国嫡流のサムライドは何か空間を操る能力を持っていると自分は聞いた事がある」


意外な事実を漏らした。北部軍団の、またサクラの部下であったサムライドは偶然にも空間を操る能力を持っている。

ミランは鏡次元能力、トリィはリーフェストを借りたワープ能力。またミランの姦計で謀殺された北部軍団最強の武を誇ったマガラーナには真空を操る男だった。

「まぁ、自分にはどっち道、処分されるサクラ様が本家かどうか、また実力の持ち主か否かは分からないが仕方ないな」

「……分からないんだにねぇ……」

「まぁ自分のような無難なサムライドが堅実な二代目としては相応しい事かもしれないな……ふふふ」

かつての主君が消え去ろうとしている虚しさと、自分の野心が表舞台に躍り出る。カゲターカーは喜ぶにも喜べない表情を見せて通路を通りすぎていった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「さて! 一大事なんだによ!!」

高揚剤を打ったシックスは焦った。幸い研究室に入って鍵を閉めれば、サクラは既にエネルギーのチャージを終えており、あとはショックレバーを入力するのみである。

「ここでサクラ様をリストラさせてしまっては、私の作戦が台無しなんだに! なんとしてもサクラ様を修復して、リストラの件を言うのみだに!!」

ショックレバーを引こうとしたが、ある事に気付いた。それはサクラがまだ衣類を何一つつけていない状況だ。

このまま起動させる事がある意味ルールかもしれないが、相手の性格は気性とプライドが荒いサムライド。この様な姿で目覚めたと知るや、羞恥心と屈辱でシックスへ寵愛を持って接する事がなくなり、下手したらその命も危ういだろう。


「これはやましい事ではないんだに。サクラ様のためなんだに、サクラ様の……」

と何度もシックスは連呼しながらサクラの両胸を守る下着を握るが、その下着は紫色の大柄なカップであり、布の部分も少なめである。

顔をそむけながらシックスはその下着を彼女へ取り付けようとするが、


「わわわ!?」

しかし、いやこの場合は運が良かったかもしれない。シックスは目を閉じながら上の下着を着けさせようとしたゆえに、手元が狂い柔らかい球体へ手を触れてしまったのだ。


「な、なんてやわらか~いんだに~ばんざいだにー!!」

やはり運はなかった。

この状況に意外にも初なシックスは両手を顔に当てて絶頂を表現する。そして両手を上に高く上げてしまったが、これが彼にとって運のつきだった。

何も考えずに腕を上げた結果、ショックレバーが簡単にガクンと下がってしまった事をシックスは気付いていなかった。そして、


「あぁん!!」

「ろろろ!?」

この時、シックスは彼女にしか感じられない衝撃を受けて覚醒を迎えようとしたサクラに気付いた。

彼女はまだ何も衣類を纏っていない状態。これでサクラが慈愛に満ちた聖女ならばまだいいものの、サクラの性格はあまりにも問題がありシックスは下手したら死は免れない。目の保養よりも命の保身である。


「いそがないとまずいんだに! まずは証拠隠滅、証拠隠滅」

ドタバタしながら暗証キーの番号を素早く入力して、全てのキーを操作し終えると自分もまた隣の自室へ脱出を試みた。

自室からの連絡でシャッターが閉まる。意地でも証拠隠滅を図ろうとしたのだ。


「あ、あら私は……!?」

ロックがかけられてからコンマの差で、サクラは目を開けた。

そして自分がコードで繋がれている事、そして何よりも一糸纏わぬ姿であった事がサクラの目に血の色をたぎらせて、怒りのボルテージは急速に上がっていく。


「な、なんですのこれは! 私に何かをされては!!」

怒り狂うと、サクラの頭髪が明るいピンク色と化し、長い髪が一気に逆立つ。

しかし、この時彼女の頭髪を中心にして何かの波が放射状に放たれ、そこらへんにちりばめられた設備が一瞬で、まるで人の力で髪がくるめられるように押しつぶされて爆発を起こす姿を目にした。

この力は徐々に弱まっていくが、シャッターをも簡単に圧縮させ、壁ですら放たれる波に惹かれるようにして激しい亀裂を残しながら通路へ風穴を作って見せる。それも頭髪を逆立たせただけである。


「こ、これは……ふふふ」

一瞬自分から驚きの表情を見せたが、何かを思い出したようにクスッと口元を揺らす。

「そうでしたわね。私にはこの様な力があった事を……どうして気がつかなかったのかしら。まるでついこの間の事なのに……」


まるで頭に記憶が繋がったようにサクラはこの力を操って見せる。まるで今までの過去がブラックボックスで合ったかのように。彼女はブラックボックスの中から知らされなかった自分の力を見つけ、新たな自分を目覚めさせようとしていたのだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「トロイでんがなサクラはん! できればもうぼちぼち来てもらいたいんせやからな~」

「……」

話の時系列が現在に戻る。

三光同盟の中央。金閣へそびえる間ではガンジーとゲンが今後の方針を兼ねる三宿聖の会議に参加をしていたが、肝心のサクラが全然到着しない。

ガンジーは彼女に不安を抱くが、ゲンはそのような事を知るかと言わんばかりに無言の姿勢で構えている。

「ケイは実弟のカズマが戦死して動揺しているといるのか」

「そうや。ケイはんにとってカズマはんは大陸時代から唯一生き延びておる重臣でもあり弟なんや。ほんでどうとも動じない方がおかしいんや」

「ならケイの行いは普通ということか」

「そや、たった一人の弟が戦死したとなればやはり……でんがな」

「なら、常人の勢いは長く続かない……」

「な、なんやと!?」


ガンジーはカズマを悪く思ってはいなかった、またケイを信頼しているだけあってゲンの冷徹な発言に反応してしまう。

「戦いに常人である者は生き延びる事はない。勝者は、神か、鬼か、修羅か……最も秀でた物が頂点に就くべきだと俺は考えている」

「どうゆう意味なんや……」

「身内の死に心を病み、その心を隠す事が出来ない者に……天下に号令を取る事が出来るかどうか」

ガンジーへ反応せず、ゲンが誰にも聞こえないように呟きながら真後ろを眺める。

視界の先には王国の写真があり、既に無い弟2人、いわばカズマの兄にあたるカッター、アタク。そしてケイとカズマが時の姫君を囲んだ大陸時代の記憶の断片である。


(テンよ……俺はあの頃の俺と同じ境遇を迎えた者を目の前にしている)

そっけない態度を取るゲンだが、内心ではテンの事を思い出させるきっかけになった。彼もまた実弟であり重臣であったテンを戦場で失っている。

だが、今の彼は、弟の死を既に乗り越えたかのような堂々とした振舞いからはケイは軟弱に見えた、言い過ぎだとしても、トップとしての素質が試されす時であろう。


(俺はお前が死んだ時も、組織のトップとして堂々と振舞わなければならない。お前の為に気を滅入らせても、組織は成り立たないからな……)

「南部軍団の後任はミョシ・ツグールとかいったが、正直あまり武勇の方では名を轟かせておらへんし、この世界でも目立った活躍はしておらへん。不安だな」

「そうですわね、そんな方の南部軍団なんて大した事ありませんわよ?」

「さよかもしれへんなぁ……それよりサクラはんおそいだっけなーってええ!?」

「おそくなりまして?」


いつの間にか、サクラその場にいた。前述の通りサクラは全くの別人と化したが、彼女の変身をまだ2人は知らない。また、この様な高飛車な性格はやはり大陸以前からのもの。相変わらずの高慢な態度に、ガンジーは既に何とも言えない表情を浮かべている。


「そやなこといっとる場合やありまへん! カズマはんがなくなれた今、軍団は大きく揺らいでおるんや!! ケイ様そやかてなぁ」

「分かってますわ! ですから私はケイ様の為にシンを討つのですわ!!」

「そのような問題では……ってな!? サクラはん、また同じ失敗を繰り返すのでっか!!」

突っ込みともいえる妥当な諫言をサクラにしても、彼女はガンジーの言葉を聞き入れないように自分の考えで動こうとする事に呆れるばかり。だが、


「何を言いますの? あれは私が直接手を下さなかったから負けただけですのよ? 今回は私自らが力を振るうのですよ」

「え、え、ええ!?」

一度ではなく二度。ガンジーは驚きを隠せなかった。覚醒した事実を知らない彼からすれば、サクラが自分から動く事は、例え天と地がひっくり返ろうともそれはないと思ったからだ。


「自信過剰もいい所だな」

「な、なんですって!?」

だが、たじろぐガンジーに対し、新たな動きにもゲンはビシッと、彼女の堂々とした考えをうぬぼれと断定して批判に入る。

言われた彼女は性格が従来の彼女であり、気性とプライドの高さから怒りに荒れ始めた。


「どういうことなの! 五強の筆頭であるからっていい気になるんではありませんわよ!!」

「俺は思った事を言ったまでだ」

「きぃ~!!」

「お前に優れた力があると言うのか、またお前に実績があると言うのか?」

「何ですって!?」

「や、やめるんやサクラはん、ゲンはん! ここでいざこざを起こしても、仲間同士で揉めるの事は意味ありまへん!!」

険悪な関係となるサクラとゲンの間にガンジーが入り込んで仲を取り持つが、両者の表情は動と静の差が目立つ。肩で息をするサクラに対し、ゲンはまるで静かなる林の如しである。


「えーい、わいはなぁシンを、戦輝同盟とか倒す事を今回提案しておこうと思ったんや!」

「あら、ガンジーなら私の行動も許されま……」

「いや、それはありまへん!」

「な、何ですって!?」

「ま、まぁ待て!わいであろうとも、ゲンはんであろうとも、ほんでサクラはんであろうとも、あの勢力を片づける事が出来るかどうかわかりまへんのや!!」

「……」

ガンジーの出したこの答え。それは3軍団の誰もが挑んでもシン達を倒せるか保証はない事だ。

サクラは歯ぎしりをしながら握りこぶしを作るが、ゲンは未だ沈着、林のように冷静である。


「その証拠に、サクラはんが率いた北部軍団もあの戦輝連合に破れ、わいら西部軍団の切り札ザイガーもシンを倒す事ができへんかった!」

「要は実力がなかった事だな。俺の軍団も保証があるかどうかわからないがな」

「腹が立つ事もありますが、あんさんのいっとる事は間違いやあらへん。けどあのシンはあんさんの同じ五強のサムライドを倒したんや。忘れるんやないで」

「くぎを刺すのか……まぁよい」

ゲンの言い方は相手を馬鹿にする事もあるが、正論である。その正論を受け止めてまたガンジーも反撃を行うがこの意見も正論であろう。


「とにかく、わいはここに北部、東部、西部が同盟を組んで戦輝連合を叩きのめす! それを望んでこの場へやって来たんや!!」

「三国同盟ならぬ三方同盟というわけか」

「まぁ、最大の違いは三大勢力で一つの勢力を囲む。いわば包囲網や」

ガンジーの考えた秘策。それは三大軍団の足並みをそろえる事にある。戦国時代で言えば大名同士の同盟である。

かつて、北条氏康、今川義元、武田信玄と東日本、関東から中部地方において名将が率いた三大勢力による三国同盟のようなものであろう。

その三国同盟の役割は三カ国が背中を安心して預け、其々の敵に全力を注ぐものであるが、この三方同盟は中央の敵へ向けて三カ国が一斉に攻めかかるものである。だが、

「納得いきませんわ!!」

しかし、この三国同盟は自尊心が異常なほど強い女性がいる限り成立はしないだろう。そのような手助けがなくとも、私には不要と言わんばかりの態度である。


「相変わらずうぬぼれているようだ!」

「わわっ!!」

見えない力にガンジーが弾き飛ばされ、ゲンもまた尻餅を突くように倒れた。しばらく立ち上がる事が出来ない。この彼が地面に倒れた姿を見るとサクラは満足げな表情を浮かべて手を引いた。


「さ、サクラはん! その力はなんでっか!!」

「これが私の切り札ですわよ……今までこの切り札を使っていませんでしたから。やられても仕方がありませんわよね」

「な、なんでそんな力を使わなかったんや!!」

「ですから、私は今までうぬぼれていたからですわ」

新たな力が2人の前に明かされた。内心この力があれば戦う事は出来るとガンジーは考えていたが、慎重な性格ゆえに、彼は足並みをそろえなければ勝てない。例え一人が強くてもシン達を倒す事は出来ないと見ていたのだ。


「とにかく! 今回ばかりは私も本気で行きますわよ!!」

「お、おい待ちなはれサクラはん! 話はまだ終わっていないんや!!」

ガンジーが止める間もなくサクラは高笑いを浮かべながら、ショーツシューツに腰をかけるようにしてその場から去ってしまった。まるで北部軍団の総攻撃を仕掛けるかのように。


「サクラはん……あぁ、これじゃあわいの計画がご破算やぁ」

「あの女がこのような実力を持っていたとは知らなかったが……所詮それまでの話だ」

「どういうことやゲンはん? サクラはんの実力を認めんおつもりでっか?」

「俺を倒す力がある事は認めるが、そのような力を何か把握できたならば、後は対策を練るだけ。1度俺を倒していい気になるとは愚かなものだ。それより、あの同盟の件だ」

「同盟の件……!?」

 まだ命運は尽きていなかった。同盟計画を五強のゲンに注目されている。この計画を空想ごとにしてはいけないと見た。


「俺はミーシャを倒す事を優先されるとケイから言われた。それだけは俺も取り下げるつもりはない」

「そ、それは承知の上や! ゲンはんはわいの作戦に乗ってくれるんやな!?」

「そのシンとやらがマローンほどの男を倒した実力者であり、後ろを蹴散らせば俺もミーシャとの戦いに専念する事が出来る。俺が彼と戦いたい事もあり、倒して損はないからだ」

「……それなら話は早いで!!」

其々が宿敵を片づけることで東部軍団と西部軍団の挟撃作戦が成立。その挟撃作戦が戦輝連合へ牙をむく時はまだしばらく先の事である。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……」

一方戦輝連合は滋賀の戦後処理を終えて、一度尾張へ進軍していた。

尾張は彼ら戦輝連合の旗揚げの地でもあり、その地へ引き返して今までの戦いに区切りを付けたと言ってもいいだろう。

だが、クーガの表情は特に険しい。前回の戦いで両腕とビーグバーストボンバーがズタズタにやられてしまい、両腕の修復が終わっても、彼の象徴でもあるビーグバーストボンバーはまだ修理が完了していなかった。

「……」

「気にしちゃだめだよクーガ! こう無事に生きているならいつか挽回できるよ!!」

「お前は気楽だサイ」

自分を励ますサイにクーガは思わず窘めるような発言をしてしまうが、それと同時に彼は自分自身の敗北も認めざるを得なかった。

押し寄せる現実が彼の硬派な性格を圧殺しようとしている。今の感情はそれだ。


「いや、俺が情けないからこの様な結果につながった事は分かっている。敵がますます強力になっているような気がするが、それは俺の実力がない事にすぎない」

「クーガ……」

「確かにクーガさんが言っている事は間違いではないでしょう」

敵はますます強力になっている。ミツキが言いたい事にクーガも、サイも同感せざるを得なかった。自分達の勢力戦輝連合は勢いと名声を高めているが、周囲の三光同盟の攻撃は苛烈なものになっている。


「そうだ。俺は今までお前達の助けがないとまともに敵を片づける事が出来ていない。俺は大陸時代に井の中の蛙の様なものか……」

やや自虐気味に今までの戦いを語る。三光同盟との主要メンバーとの戦いにクーガが辛うじて勝利を得たのはシン達の援護があったからであろうか。

それを裏付けるように、ライレーンとの戦いでは仲間の助力がないまま、1対1の状況で敗北して、ビーグバーストボンバーが砕かれてしまった。


「ですがクーガさん。戦場で自分が凡才であるとか言っている暇はありません。戦場では泣きごとを言う暇があれば、勝つか負けるかです」

「それはわかっている……わかってはいるのだが……」

勝つか負けるか。戦場で生きるか死ぬかはそれに値する。自分の弱さに嘆くならば、弱さを少しでも克服しなくてはならない。それが戦場に生きるものだ。


「そういえばシンはまだ帰ってきていないのか」

「クーガさんの修復の為に鉄材を集めているようで」

「あの馬鹿……大丈夫かどうか不安だ」

「大丈夫です。通信機で彼の居場所は捕らえていますし、連絡も取れるようにしていますから、少し遊んでいても大目にみましょう」

「そうか……うう!!」

「きゃっ!!」

自分の非力が内心で戦っている。複雑な心境のクーガを含めた3人。

だが、彼らの身体が何かの波に襲われるように震えあがった。まるで重力が襲い掛かったかのように身体が、特に足が動かなくなってしまう。


「クーガ、ミツキ! 大丈夫かい!?」

「はい、この位の圧力を加えられただけで私の身体は砕けません。それよりサイさんは動けるのですか?」

「うん。ただ僕の背中の重力軽減装置がないとろくに動く事も出来ないけどね!」

「なるほど……」

サイの言葉に納得をした。サイは背中に備えられた重力軽減装置の力を借りて単身で空を飛ぶ事が出来る。そして、外からの重力にも彼自身の重力軽減装置が機能して、通常の行動が可能となるのだ。


「ある1点を近くに放射状にエネルギー波、いえ重力波が襲い掛かっている模様。その中央にはシンさんがいます」

「シンがだと……!」

「はい。エネルギー波は中心点が一番強力なもの。私の計算ではこの重力波の忠臣点にいるシンさんはエネルギー波に押しつぶされてしまう事もあり得るのです」

「……なんだって!?」

 シンが危険にさらされている。この危機を救う事は重力波へ対抗する力が備わった自分の身である。戦友として、そして親友としてサイが駆ける理由を彼の心には存在しなかった。

「サイ、お前は大丈夫なのか!?」

「うん! 僕の重力軽減装置はまだまだ序の口。ミツキの計算でも僕の重力軽減装置はやわなものじゃないと思うよ!!」

「確かに。私の考えでもサイさんは案外持つと思います」

「……」


サイは真っ先に中心点に飛んだ。シンを救うために飛ぶ彼には躊躇いや怯えは全くない。今、クーガには普段の繊細な彼とは違い、揺るぎもしない強い意志を持つサイが勇敢な戦士に見えた。それに対して自分は外見、見た目だけで硬派を名乗っているようなものではないだろうか……。

十分に戦う力がない以前に、自分は戦いを恐れているのではないだろうか。今まで考えた事もない感情が、自分を冒そうとしている事が、自分自身でも嫌でならなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「おわっ!!」

一方1人散策に出かけたシンを強力な重力な波が襲い掛かった。それはミツキやクーガのように足が動かなくなる程のものではない。強力な重力にのしかかるように腕も首も回らないのだ。


「いったい何が……無茶苦茶重い!!」

「あらあら……全く身動き一つが取れないようですね」

「その声は……!」

辛うじて首を声のする方向へ回す事が出来た。突然自分を苦しめた重力波が弱まったからであるが。

空を見げれば、オレンジの頭髪をなびかせながらほくそ笑む女性がいる。白とピンクのレオタードの様なスーツを纏い、右手には鉄鞭が握られていた。


「サクラ・イチジョウだと!?」

「そうですわ! お久しぶりですわねシンキ・ヨースト。顔を、この身体ハチの巣のように射抜かれた事を私は忘れていませんわよ」

まさか、自分を苦しめる存在は彼女なのか。以前再起不能までに叩きのめした彼女がそのような実力を持つとは思えない。しかし、彼女は空を飛びながら、自分の方へ伸ばした手から強力な重力波を放ち、身動きが取れない状況だ。


「よくもまぁ、私の様な美しい乙女に傷を付けて。貴方は見る目がないのですね……」

「うるせぇ! 俺の好みのタイプは自分から美しいと言わないでなぁ、強いんだぜ!!」

「相変わらず虫唾が立つお方なこと。ですが、美しさより強さというのなら、私は美しさと強さの両方ですわ……」

「おわっ!!」

「ふふふ……」

鞭を握り、シンへ向けて伸ばすと、重力波が彼の身体をますます襲いかかり、身体からは鉄がきしむような音が鳴り響く。そして

「うわっ!!」

腕が一瞬にして軋みによる音を鳴らす。両腕が大きくへこみ、左腕は凹み、ひじ関節から先を重力によってねじり取られるように地面へ落ちたのだ。


「腕が折れただと!?」

「これが私の実力ですわよ……この衝翔破の力思い知りましたか?」

「衝翔破……」

「さらに、こういう使い方も出来ましてよ?」

オレンジの頭髪が金、そしてピンク色へ変えていく。

ヘアーカラーの変化に合わせて、空中から彼女は何かに引き込まれるように、地上へ落下しながら回転をする。

今、彼女は足の裏に、まるでスケートリングを滑走するブーツに備えられたような刃が展開された。以前自分がシンにやられたように、顔を切りつけんと攻撃をかけた。


「させないよ!!」

しかし、シンに救いがない訳ではなかった。

全速力で飛んだサイがサクラの足の裏を拳で打ち付けあい彼女を吹き飛ばした。最もサクラは重力を調整して体勢を安定。隙を一寸たりとも作らなかった。


「サイ! 助かったぜ!!」

「良かった……それより早く!」

「分かってる!」

シンはすぐにバタフライザーを呼んだ。彼に時間を与えなくては。動いたと同時にサイは急いでサクラへ接近して、両手首をぐいと掴んで固定する。


「これでシンに重力を使わせないよ!」

「あらサイ……私にとって貴方は弟のような存在ですが。屑どもの味方に就くなんてねぇ」

「シンは屑じゃないし、僕は貴方に弟と思われたくはないね!」

「あら、貴方の重力軽減装置は私の、エチゼン国が生み出した装置ですのよ?」

「!!」

この瞬間、サイは目を点とした。同じ技術を投入されて生まれたサムライドは、人間においては血縁関係にある存在。

この彼自身が知らされていなかった弱みを付けこむ事が出来た。確信を得た時サクラはニヤッと表情を変えた。


「ふふふ。エチゼン国が生み出したのは自分の周りや相手の重力を自由に動かす重力操縦装置。また私の重力操縦装置は重力軽減装置のアップグレード版のようなものですわよ」

「……つまり、お下がりの重力軽減装置をキタオミ国に売り出して僕は生まれたと言いたい訳だね」

「その通り。最新鋭の装置を他国へ売り渡す程馬鹿な真似はしたくありませんからね」

大陸時代、サクラの故郷エチゼン国は技術において有数の発展を迎え、圧倒的な軍備を誇る大国であった。

また、エチゼン国は周辺で小競り合いを続ける小国に、技術や兵器を売りつけて利益を得ている。いわば死の商人のような国であった。

そしてサイの故郷、キタオミ国はオミ国から独立し、片割れのミナミオミ国と50年近くと長い戦争状態にあった。新興国家で基盤が不安定だったキタオミ国はエチゼン国の軍事力・技術の提供が必要不可欠だったのだ。


「そうか……以前貴方が僕を弟の様にとか言った理由が分かったよ」

「そうですか。では……いかがなさいます?」

「それはできないね!」

サクラからの誘いを断った時、サイへ向けて重力を放たれた。しかし彼には重力軽減装置がある。重力操縦装置からの重力攻撃をて重力軽減装置が働くことでゼロとして打ち消されているのだ。


「僕の重力軽減装置は貴方の重力操縦装置に劣るかもしれないけれどね……自分への重力を軽減する事くらいはできるよ!」

「なるほど。ならこれはどうですか!?」

サクラに諦める考えがないようで、ヘアーカラーがピンクから、赤、オレンジ、金、そしてクリームの様な微かな金髪へチェンジ。

ロングヘアーをふわりと肩へたらすとともに彼女の身体が急速に空へ浮く。彼女を止めるつもりだったサイだが、全く逆の行動を取られて、ただ彼女に引っ張られてとみに身体が宙に浮いてしまった。

「そうだった。サクラも自分の重力を操って空を飛ぶ事が出来る訳か!」

「その通りですわよ!!」

「だけど……させないよ!」

高速での飛行に、一瞬目を奪われる。サイは諦めずに追撃を開始する。しかし、


「ここはサクラ様を守るために私が戦わないといけません!」

しかし、サイを阻む者は栗色の頭髪にライトグリーンのナース姿。空中を飛ぶ者に、同じ空を舞うトリィが、彼女に率いられるアロアードの軍勢が立ちはだかった。

「確かサクラの従者のトリィだったね。でも僕は譲らないよ! シンの為にも!!」

「それなら私はサクラの為にですよ!!」

(これで時間稼ぎは出来た! あとはシンとサクラが戦えるように僕がこのトリィ達を食い止めるのみ!!)

 サクラを引きつけた事には裏があった。サイはシンがサクラを倒す事が出来る。いつも彼へ信頼を失わないが、この時もそうであった。

 またシンもサクラと戦う事を望んでいるはず。そうであれば自分はシンの気持ちを裏切らずに、何も迷いもなく戦わせるべきである。トリィと戦う事も彼女をサクラへ加勢させないためだ。

「てやぁぁぁぁぁぁっ!!」

「たぁぁぁぁぁっ!!」

ニトロシュリンゼから液体爆弾を噴きかけられた。飛び散り緑へサイはフロスト・フィストを展開させて、拳を前に出すことで噴きつけた液体を凍結させる。


「たしか液体爆弾だったっけ……危なかったね」

「それはどうでしょう?」

「分からないけど、こんな液体爆弾は凍らせてしまえば……うわぁっ!!」

サイが両手を動かした時だ。ニトロシュリンゼが爆発を起こしサイの両手へ損傷が及んだ。結局第一の両手は、ニトロシュリンゼの餌食となってしまったのだ。


「液体爆弾は刺激を与えることで爆発する仕組み。凍結させてしまえば安全という訳ではなく、余計感度が上がってしまい危険な目にあってしまうのです」

「そうだったのか……ならこのフレイムフィストで叩くのみ!」

「考えは読めましたよ!」

次に展開したフレイムフィストの熱で液体爆弾を蒸発させようと考えていたのだろう。だが、拳で液体爆弾を塞がれるパターンを読んだのだろう。トリィは背中の羽の内2枚を二刀流の要領で切りかかろうとしてきた、

「読めていたのか。なら……」

「ん……?」

今度はプラズマフィストを展開させて、サイクローをランサーとしてサイが両手に握った。

このまま二刀流同士での戦いに持ち込むつもりなのだ。しかし直前にサイは通信機でシンからの連絡を受けて、何かの考えが脳裏に走った。

「何か……シンに考えがあるなら僕もその通り動くのみだ!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「さて、サイが時間を稼いでくれた事はあるぜ!」

 サイはサクラの時間を稼いで彼女から重力波を放つ事を一度止めた。

これにより、今のシンは両腕の交換、バタフライザーとのライドクロスが完了し、トライ・フルバレッター形態として姿を見せたのだ。


「この姿ならまだ動けるし、身体がへこむような事もねぇしな」

「身体の強度を高めて重力による攻撃を防いだと……ですが」

「うわっ!?」

シンの確信はサクラの能力によって阻まれたようだ。彼女はニヤッと笑いながら指さすようにしてシンへ向ければ、ますます重力が強まったのか、シンの身体が地面へめり込もうとして脚が思うどおりに動かなくなってしまう。


「この衝翔波の力はまだ私の序の口。もっと強くして貴方を砕く事もできますのよ」

「ちっ、こいつも使えないのか……なら」

ならば、と考えたシンはトライマグナムを使う。トライリモートを取りつけたトライマグナムが自分の手から離れて動きだしたのだ、

この身体で動かす兵器には身体が持たなければ満足に動かす事が出来ない。しかし、脳波で動かす兵器なら身体が請われようとも、頭が無事な限り、身体に負担をかけずに自由自在それを動かす事が出来る。シンはそう考えたのだ。

トライマグナムは重力に逆らないながら、緩やかにだがサクラの懐を突かんと微かに軌道を変えながら動いていく。


「不意打ちで突こうと思って!?」

しかし、サクラの左手を前にしてトライマグナムもまた押しつぶされて爆発を起こした。これにより、作戦は破れたかに見えたが、シンは何かを見出した。それは両手の及ぶ先にサクラを倒す事ができるかもしれない事だ。


「さて、これ以上貴方のような屑にやられてばかりではいられませんわ……」

「う、うおっ!?」

ますますサクラの両腕から放たれる重力の波が強力な力と化す。このままではライドアーマーでも身体が持たないかもしれない。

「上と左右に逃げる事は出来ないかなら出ろ!フットシャーク!!」

逃げ場を見つけた。方向は下。つまり地底だ。

両足からはシャークドリルが展開され、地中を激しく掘り進む。重力は下へ自分を押しこむように畳みかけていたせいか、そのドリルが地中へめり込む事も必然と早かった。

兜が顔を完全に覆い、彼の上半身が徐々に戦車のような形態へと変わり、背中からはバックパックが展開されて、やがて地面へと身体を消した。


「そうだよく考えたが、サクラの奴は手を伸ばした先に攻撃を仕掛ける事が出来る」

今、シンは地中で物事を深く考える。

サクラが両手を差し出した方向へ強烈な重力波を起こす事が出来る。自分とトライマグナムと双方向への攻撃では両腕からの重力波で攻撃を仕掛けていた。

 この考えが思いついたまではいい。だが土の中でもその土が徐々に自分を押しつぶそうと迫っているのだ。おそらくサクラには地底の圧力。つまり土圧を賭ける能力があったのだろう。このまま留まれば危険極まりないだろう。


「サクラが俺を圧殺しようと地面に圧力をかけているのか……だが、これを使ってサクラがどうやって攻撃をしてくるかが答えだ!」


まず、シンが思いついた事は地中からの脱出にある。だが先程の地中への潜行とは違い重力は下に押しかかっており、地上へ這いあがる事は地中へ潜る事よりも困難な事だ。

「やりたくないが、勢いよく飛び出すにはそれしかないな……!!」

背中からの無限軌道を緩やかに進めながら体勢を変えて頭を地表の真下すれすれの所まで回転させた。あとは望まないが危機を抜け出す唯一の方法に全てを賭けるのみであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「これで終わりかしらねぇ……地面に潜ったとしても地圧を強くすれば貴方は握りつぶされて死ぬようなものですのよ……無駄な悪あがきもほどほどにですわ」

サクラが両腕を地面へと当てて圧力波による攻撃を行う。しかし、

「ライド・アウト!!」

だが、ライドアーマー形態で地面すれすれで掘り進んだシンが、ライド・アウトと共に先程まで身を守っていたパーツを排除した勢いで飛び出したのだ。それも4人のシンである。

「シンが4人……ははぁ。分かりましてよ」

この手の内は読めていた。レーダーも攪乱させる彼の幻覚兵器ミラージュ・シフト。シンが何度も使っていた事もあり、少なくともこの様なバレバレな攻撃は彼女ですら把握していた。

「4人いるなら、一気にまとめて攻撃してしまいましょうか」

この言葉通りにサクラはニヤッと笑って四方にばらばらで陣形を作るシン達のうち2人に、重力波で攻撃をかける。

次に、残り2人への攻撃は彼女の腰に備えられた筒状のビームキャノン・将翔砲が、腰の前と後ろに備えられると同時にピンクの光を放つ。

その光は重力の強弱に関わらず、スピードを衰えさせずに一直線に飛び、標的を当てた。


「うわっ!?」

ビームがシンへ命中して、彼の腰のベルトのバックルへ直撃すると4人のうち3人の彼が消滅した。

幻が破られた。一つ筋の光が偶然ミラージュ・シフトの機能を司るベルトを破壊してしまったのだ。

「本物はそこに……愚かですわね」

「……」

シンは歯ぎしりをせざるを得なかった。欺く手が破られたからだ。だが、その気持ちとは正反対に攻撃を仕掛ける方法が、高重力の中でも打つ手立ては残されている事に気付いていた。

ビームだ。

ビーム兵器を使えばサクラを攻撃する事が出来る。ブレイズバスターを素早く仕掛けて攻撃するのみ。

右腕からトライバレルとトライサンダーを接続させたまでは出来た。しかし、腕が上がらない。サクラは一方的に重力を加えて自分の身体を動かさないで砲撃させないようにしているようだ。

彼にできる事はただ一つ。右腰の通信機を握って

「くっ……」

方法が見つかったが、それを実行にする事が出来ない。次に重力を破るにはどうすればいい。


「こうすればいいのさ!」

その時、シンの背中に誰かが密着され、自然と腕がサクラの方向に伸びた。後ろのサムライドを振り返れば、そこにはサイが微笑みながら背中合わせになっている。

「サイ、お前!」

「連絡を受けて来てみたんだ。そして状況は……サクラの重力波のせいでまともに攻撃はできないと僕は思ったんだ」

「ご名答。腕が上がるのは……そういう訳か!」

サイの考えをシンは察した。

サイの背中には重力軽減装置が内蔵されている。それは本人にしか効果がないはずだが、至近距離に密着すればどうなるか。重力軽減装置の効果は背中合わせになった自分に及び、今、重力の束縛から解いて平常通りの動きが可能となったのだ。


「……!!」

その勢いでブレイズバスターが放たれ、サクラの頬をビームがかすめた。彼女の様子が一瞬焦ったかのようにも見えた。

「どうだ! これでサクラを倒す手立てが見つかったぜ!!」

「たかが一度有利になったきりで……くたばればいいのよ!!」

「シンを倒させはしないよ!!」

サイに諦めを知らない。サクラからの重力波にはサイが展開したデル・タートルが輝く。三本の円盤から展開される膜が重力波に触れることで振動を止めない。


「サイ、貴方は愚かですのね! そのようなゴミに従うなんて!!」

「僕の大切な仲間をゴミと呼ぶ貴方の方こそゴミだ!!」

「な、なんですって!?」

「サクラ様!!」


トリィがシスターの形態、グレイスフォームとして姿を現した。

取り出した十字架クロスシンフォニーの先端からはピンク色の光線が飛ぶ。おそらくサイを追うためにリーフェストの力を借りて飛んだのだろう。だが、


「ちょっと残酷だけど……シン、しっかりつかまっていて!!」

「おう!」

サイがシンにとった方法。それはシンの腰へ手を当てた状態でくるりと一回転しながら飛んだ。このサイの飛行が勝因になった。

「!!」

「サ、サクラ様!?」

十字架からの光がサクラの右肩を射抜いてしまった。サイが動いたことで運が悪く、先程までサイの後ろに存在したサクラへ攻撃が命中してしまったのだ。

トリィは震えた。自分が忠義を持って接する彼女に、また強力な力を得た彼女に自分は切られるかもしれない。何時もより必死になって動いた結果が皮肉にも自分の主君を傷つけてしまったようだ。


「シン、今が好機だよ!!」

「分かってる!ブレイズバスターだ!」

「きゃあっ!!」

サイに言われたとおり、ブレイズバスターが今度はサクラの左肩を貫く。両腕を破壊してしまえば、重力による攻撃は脅威ではなくなる。サクラの新たな力を砕いた時、彼女はシン達の脅威にはならなかったのだ。

「お、おのれ……よくも私の美しい身体に!」

「だから美しくも何も関係ねぇ! 俺はおまえを倒すの身だ!!」

「わ、私はここで無駄死にする為には……」

「サ、サクラ様!!」

ショートシューツを呼んでサクラは去った。トリィが彼女の元へ急ごうとした時、半壊した右手で思い切り彼女の頬へ一撃をお見舞いしたのだ。


「え……」

「貴方が私に誤射するような馬鹿な真似をしなければ、私はあのシンを倒せたのですわ!!」

「そ、それは私が悪い事です。申し訳ございません!」

「護衛が足を引っ張ることなど言語道断!貴方の居場所はありませんわ!!」

「そ、そんな……!!」

サクラをトリィは追う。しかし、トリィを射抜く一筋の光。目を点にした先のトリィにはサクラが、将翔砲を自分へ向けて放った彼女の姿がそこにあった。


「サクラ様……これはどのような……」

「いい言葉を教えてあげますわ。サムライドは犬とも畜生とも言われようとも、勝つことこそが肝要である……」

「……!!」

「貴方、つまり部下を撃つ私は畜生かもしれませんが、貴方の様な足を引っ張る方を始末した方が私に勝算があると見えましたから……躊躇いませんでしたわ」

とうとう捨てられてしまった。忠義ゆえに何度もサクラを諫め、守ってきた彼女は、皮肉にも憧れた真のサクラによってあっさり不要とされたのだ。

今まで自分は何の為に、そして今自分は用済みとされた。目に絶望の色をにじませながら、地面へと叩きつけられ、目の先にはシンとサイが、まるで空で起こった事態に驚愕し、自分へ複雑な感情を向けていた。


「確かトリィとか言ったよね……ミツキからはサクラに忠誠を誓うサムライドだって僕は聞いた事があるよ」

「……」

「でも、サクラは悪逆非道のサムライド。例え強くなっても今までの部下をあっさり切り捨てる冷酷極まりないサムライドなんだ!」

「……あぁ」

 サイがシンへ顔を向けた時、シンも強気な表情から首を振って、彼の言葉を認めた。ただ忠誠を誓ったのに、用済みにされてしまった彼女が気の毒で仕方がなかったからかもしれない。

「ごめん。僕はあのときシンに死んでほしくなかったし、この戦いで勝たないと未来がないから……同士討ちを誘ってしまった」

目の前の敵にサイは謝った。上半身を前方に思い切り下げて謝る彼にやましい気持ちやよこしまな考えは一切ない。勝つために卑劣な手を、特に彼女の心を砕いてしまった事への償いかもしれなかった。


「僕はサクラを許したくない。例えサクラが姉さんでも僕は共に戦ってきたシンを、この世界の為に戦うシンの元で戦うつもりだ。でも……僕は君を憎んではいない」

「私をですか……」

「そうだよ。ミツキの話から君の事は聞いていたけど、君は悪いサムライドじゃない。だから僕は君と一緒に戦いたいんだ……!!」

「サイ……お前!!」

「僕はサクラに操られていたし、そして僕はサクラの弟。でも僕はサクラと戦う事を選んだんだ」

 トリィを説得しようとするサイにシンは止めようとしたが、サイには過ちを犯しても、償う事が出来ると信じていた。自分を救ったシンへ微笑む彼には、今度が自分がトリィを救う番だと考えていたのだ。


「それは……できません!!」

「!!」

「私はサクラ様に仕える身で生まれたサムライド。サクラ様の敵になってしまえば私は存在する意義を失ってしまうようなものです!」

「違う!それを言ったら僕はサクラの弟だけど……ここにいるじゃないか!」

「貴方はサクラ様の弟である事実をつい先ほど知ったから大したことないのです! ですが私は生れてから20年以上サクラ様の僕として戦ってきたのです。今までを一度で裏切る事が出来ると言うのですか!!」

「!!」

俯いたトリィが顔を上げる。その顔には平常時ではないような血走った瞳が、作った拳が地面に震えて、涙は地面へ落ちるのみ。サイを圧倒するには十分な表情だ。


「私は貴方達を許さない! 私の心を砕いて、存在意義まで砕こうとする貴方が!!」

「!!」

「危ない!サイ!!」

 クロスシンフォニーが放たれようとした時、即座にブレイズバスターが唸りを上げた。光を受けた彼女は後方へ弾き飛ばされ、残骸の山に叩きつけられたと同時に大規模な爆発が……まるで彼女の最期を告げるように空高く炎と煙が上がっていた。


「すまんサイ……だけどあいつは」

「……僕を助けた事は礼を言うよ。でもトリィは……あの大爆発じゃ」

「多分助からないはずだ。あいつの最期を見るのは……あまりにも酷だ」

「シンは悪くない。トリィも悪くない。僕が……僕にはない忠誠心をもつトリィの心を傷つけてしまったんだ……」

忠誠心で自分の存在を確立していたトリィから、忠誠心を奪う事は酷だ。目の前の爆発は、自分の主君への失態を償うかのように、またシンとサイを恨むように悲しくも、激しく炎上を続けていた。


「トリィ、でも僕は戦わないといけないんだ。例えサクラが僕の姉さんであっても、皆を苦しめて、トリィのようなサムライドを切り捨てるサクラを許す訳にはいかないんだ……」

「……」

 目の前の悲劇にサイの闘志は折れなかった。例え実の姉でも戦わなくてはならない。そんな彼へシンの表情は晴れなかった。


(俺が弟を倒したように……サイも姉さんを倒すのか。例え血のつながりがあっても、戦う時には戦わないといけないのか……!!)

ノーブル・ユーキ。かつてシンは弟をこの手で殺めた。兄を否定して、悪逆を尽くした弟は兄の手で始末しなくてはならず、最終的にノーブルが弟ではない事を否定して打ちのめした。

そしてサイはサクラを殺す事を決めている。共に打倒サクラの考えを持っている故に心強くもあるが、目上の血縁関係のサムライドを始末するサイの心情は如何なるものか……。


自分には分からない。姉に当たるサムライドも、兄にあたるサムライドもいないからだ。ただ、トライマグナムを弔銃として空へ放つ事でトリィの冥福を祈りへ専念するのが、今のシンが出来る精いっぱいの行動だった。


「ふ。サクラめ、だからお前は馬鹿なのだ」

そのようなシンを見下すように。付近の崖にスネークがいた。師匠でもあったが、アゲハの敵として宿敵でもある男とはいずれ戦わなくてはならないだろう。しかし今回の戦いでサクラがシンを倒す展開は考えていなかったようである。


「あの女の力を俺が手にしていたら瞬殺は容易い事だ。それで敗れたのはあいつのほうがまだ賢かった事もあった訳だ……それでこそ倒しがいがあるものよ」


スネークが去りゆく。サクラを退けたシンに一つの安堵感を得たのか、また自分が倒すべき人物の強さを見定める事が出来たのか。彼はいずれ交えるだろう。


例え恩が、血縁での関係があっても戦う時には戦わなければならない。それが戦時におけるサムライドの宿命だから……。


続く


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