第21幕 壮絶!カズマ散る!!
西暦歴2060年7月13日。南部軍団が九州に向けて進軍開始。四国に集うサムライドに率いられる量産型兵器の大群は約2000に及ぶ。
「センゴーク、量産型兵器の調子は異常ないか」
「大丈夫ですカズマ様。ソルディアサンゲーン、ソルディアカワタービを地上に、対空戦に備えたソルディアジンバー、射程を強化したアロアードロンガー、全て異常なしです」
「うむ、愛媛から九州本土へのルートも既に設置済みと工作隊からの報告があった。一気に進軍するのみだ!」
カズマは返事するセンゴークを横目にただ九州への征伐に己の闘志を燃やす。隣の彼がどのような野心を抱く事も知らず北北西に進路を取る。
「幸い九州は二つの勢力が激突していると聞いた。その争いに介入する形で両方を滅ぼしてやる! 僕は兄上の弟としてこの戦いで恥ずかしくない結果を残さなければ!!」
「うわっ!?」
「どうした! 何があった!!」
いきなり悲鳴と共に隊列が乱れた。叫んだ部下に振りむけば、何処からか砲声が聞こえ、後方の部隊を襲っている事を察した。
そして、部下の報告によれば漆黒に塗りつぶされた艦隊瀬戸内海へ姿を見せて砲撃を開始。しかもこれらの艦隊は四国を、九州へ向かう南部軍団のの進路を断つように包囲網を形成しながら、次々と砲撃が四国の拠点を襲っているのだ。
「何で気付かなかった! 九州の奴らが瀬戸内海へそのような兵力を備えていたら、一発で分かったはずだろうが!!」
「も、申し訳ございません!」
「カ、カズマ様、このままでは四国への進路が破壊されてしまいます!」
「それくらいの事は僕でも知っている! あの通路が破壊されては九州への進軍が困難となる!!」
部下の怠惰か、九州勢の英知か。四国から九州へ進撃する作戦が阻まれてしまい、自分がぬかった事を否定するような表情で爪を噛む。
「カズマ様、ここは私達が攻撃を食い止めます! その隙に少しでも九州本土への進撃を!!」
「当たり前! 僕が九州で暴れまわるのみ!!」
センゴークが別動隊を分けて四国の防衛と、カズマら本部隊の九州への進撃を支える行動に出る。カズマは何一つ顔を変えずに本部隊から九州への突撃部隊を割いて、北北西への進路を突き進む事をやめやしない。
「いけぇ! いくのだ!! カズマ様を九州へ向かわせるのだ!!」
センゴークの指揮により、サムライドと量産型兵器の半数ほどが、瀬戸内海にちりばめられた艦隊を食い止めようと動く。その間に本部隊が四国の左上に近付き、彼らの接近に呼応するかのように、海底から展開された九州と四国をつなぎとめるレールを突き進むのみだ。
しかし、いややはり。カズマはまだ気付いていなかった。自分がレールを通ることは逃げ隠れしない堂々とした行為であるが、艦隊は何故か自分達を狙わなかった。また艦隊の四国への攻撃も一斉ではなく、1艦が間隔をおきながら、ちまちまと攻撃をしかけているだけであることを。
「ミーつらいでござーるよ! どうせワターシ達の出番はこれだけなんでござーるから!!」
「イートゥ、文句を言ってはいけないでござりますよ! これはワターシ達がエスパーであるから出来る事でござりますから!!」
カズマの進軍を許す艦隊の陰には、空中を浮遊する二首、また四本の手を持つ男が愚痴りながら手を前へ伸ばし何かの力を支えていた。
「そりゃあそうだけど、既に寝返りが分かっている相手の足止めなんてつまらないでござーるよ!!」
「イートゥ! カズマとかを欺くには、とても疲れるけどこうしないといけないんでござりますよ!!」
彼ら艦隊が潜む海に潜むサムライドがマンショだ。マンショは超能力を使う事が可能なサムライドである。
この超能力の力で、テレポートによりとある艦を瀬戸内海へ移動させて、さらに幾多ものカモフラージュ用の幻覚を見せる。次に艦隊を幻覚の中へテレポートさせていくことで四国を大艦隊で覆い、攻撃を仕掛けている事が見せられるのだ。
最も、その行為をカズマ以外の南部軍団の者も分かっている。センゴークらが率いた別動隊は、カズマが視界から消えるまであくまで戦っているふりをしているだけなのだ。
「カズマは3割の戦力しか連れていない。九州の勢力に挟み撃ちされる事は分かっているが……ふふふ」
「……本当にやっちゃってよかったのでごわすか?」
「馬鹿! 俺達は計画を知っちまったから大人しくしとかないとやべぇんだ!!」
「シークレットを知ると辛いノーネ!!」
カズマを孤立させる為に、敢えて演技をして戦っているふりをするセンゴークと共に3馬鹿は行動をせざるを得なかった。彼らに忠義を貫く事が自分の身を守る事に優先するはずはない。だから従わざるを得なかったのだ。
「さて、カズマがどのようにやられるか見てやろうか……何せなら俺が倒してもいいからな! もうカズマの姿も見えないしな!!」
センゴークは飛び立った。自分が南部軍団のトップになれる事を信じて、また自分の手でカズマを殺めて、軍団におけるトップの座に躍り出る為に標的は九州に定まる。
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「本当に決戦のようですね! 先輩!!」
「あぁ! だが俺達も準備はしているから慌てる事はねぇ!!」
「かったりぃがなぁ……」
一方、九州においてムシカと突破の戦いが展開されつつあった。ムシカ側の量産型兵器が前進を開始するが、マーズ率いる勢力突破はまだ動こうとしなかった。
「アリマー、イジュー! 両翼の餌として動けるか!?」
『大丈夫ですマーズ殿!!』
『いつでも動く事は出来ます!!』
「ならオッケーだ! 本部隊の囮はそうだな……俺が行くぜ!!」
「ちょっと先輩がですか!?」
マーズは早速自分の得意戦法へ持ちこむ事を選んだ。その囮役として大将自らが志願したので、本来囮になるのは自分だと思っていたイシンは無茶だと思い、また先輩に万一の所があれば後輩の立場もないので自重を求めるが、
「これは総力戦。こういう戦いで大将がやられたら一気に軍が崩壊すると分かっているはずだからな!」
「その囮としてですが、危険すぎます!!」
「何、俺を狙う奴らが多いと思うから俺は絶好の餌だ」
大将自ら敵陣へ切り込む事は、危険を背中合わせな所に自分が置く事だ。大将を始末した者には見合った報酬が帰ってくるもの。自分から餌になる危険な真似だが、自分に勝算があれば、無事な保証があれば相手を引きつける絶好の的として動かせるのだ。
「……というわけだ! それに、さっきお前をからかいすぎた事もあるからこれくらいは大したことないものさ!!」
「そ、それとこれとは関係ないでしょう先輩!」
先程の事はもう済んだと思いきや、マーズまたもイシンの恥を引っ張り出してきた。そこで戸惑った隙に誰もが止めることなく、登場したマタシチローで彼は敵陣へ切り込んでしまった。
「あぁ先輩が無茶しちゃ……」
「かったるいことになってしまったが、先輩は俺達に無茶をさせないつもりだったが、先輩に無茶されるのもかったるいったらありゃしない……ライドクロス!」
リュウハクとジープ型ライド・マシーン“マタシロー”がライドクロスすることで、彼はファイティング・フォーム、グリーンのライドアーマーを着用する。このまま廃墟へ身を潜め、従うソルディア達はとある地形を両腕のドリルで採掘を開始していた。
「俺は前線まで行くにはかったるくて向いていない。イシン、お前のほうが前線には向いているはずだ」
「兄さん! そんな押しつけみたいな……と言われても、かったるい兄さんより私の方が向いているでしょう!」
次にイシンが、“マタロクロー“に身体を挟まれるようにしてライドクロスする。これによりサーティングフォームと化して青の装甲が宙にかっ飛ぶ。
「ライドクロス!!」
後輩がライドクロスをした一方、前線へ向かったマーズが空中に飛び上がった状態でライドクロスを決める。
マタシチローが左右に分かれた前部と後部の三分割を経て、落下を開始する後部の底から両足のパーツが展開される。
受け入れる準備が出来たマタシチローが、地上に着地する直前にマーズを収納することでカバーが閉じる。
そして、着地時に巻き起こる砂塵が払われていくと大型ブレードとして機能する前部パーツを握る彼が煙の幕から切りだされた。
「敵は寡兵だ! やれ!! やれ!!」
「お出ましときたか! そんじゃまぁいくとするぜ!!」
マーズの目の前には両腕をマシンガンと化したムシカ側のソルディアサンダーンが1師団。だが数では彼の部隊よりも倍近く。数の暴力と共に前面のハッチから弾薬を勢いよく射出するが、
「俺の前以外のガードを頼むぜ!!」
ボーティングフォーム。青と白のライドアーマーを纏うスピードに長けたフォームを兵器の壁が覆う。自分の壁となる量産型兵器も同タイプのサンダーンであり、取り囲もうとする同種の敵に迎撃していく。
「馬鹿め! 死に急ぎに来たか!!」
「でやぁぁぁぁぁぁっ!!」
自分の倍ほどのサイズの壁に守られている限り、マーズの進撃は止める事はない。敵の銃弾を装甲で受け止め、いや、厳密には両腕の大型ブレードを目に見えない速さで動かすことで弾を跳ね返す。
「へへ、いっちょあがりだな」
一瞬にして1機が包丁で裁かれたかのように破壊された。破片の一枚一枚がまるで帳面のように薄く、風になびかれて飛ぶ。これもマーズが振るうブレードの腕だろう。
「さて、次行くか……」
休む間もなく、両腕からの手錠型のワイヤーが別のソルディアの首を挟み、自分をめがけて放たれる銃弾を、軽い身のこなしでジャンプして避け切る。
肩車されるようにソルディアの上にまたがれば、またもブレードが真っ二つに頭を切り裂いた。
「これでこいつの機能は停止。あとは……おや?」
次の獲物を仕留めようとした時だ。どこからかは知らないが、十字状のブーメランが残りの量産型兵器の頭部を見事に切り落とした。メットパーツのフェイスカバー越しには、マーズが少し苦笑しながら、ブーメランの主の活躍を認める顔を現している。
「なんだ。お前が来る機会はまだ早いってゆーのによ」
「そのような問題ではないですよ先輩! もし万が一の事があったらどうするつもりでしたか!!」
「あぁ怒るな怒るな。お前の活躍で殆どをかたづけたもんじゃねぇか。なかなかだぜ」
「そのような問題では……」
「ほらよ、いくぜ~」
「は、はい!!」
サーティングフォームとして登場したイシンは、ローターパーツのブーメランを握りながら相手を切りつけ、先輩と共に切り込み隊長として機能する。
戦場において、相変わらずいつものように洒落ているマーズと、呆れながらも必死に会話を続けながら、一途なイシン。だが内心では明日かもしれない命を長らえる為であることは変わらない。先輩と後輩2人は量産型兵器の数を確実に片づけていくのだ。
「な、なんてことだ……量産型兵器の群でも片づけられない……!?」
この断末魔で、襲い掛かった軍団を率いたサムライドが脳天を射抜かれてバッタリと大の字になって倒れた。弾が飛んだ元をたどればライティング・ライフルを片手に息を吹くマーズが、背中のホルダーへライフルを装着し直す。
「ふぅ。トップさえ仕留めてしまえば量産型兵器は使い物にならないというわけかな」
「先輩! ひやひやさせるような事はしないでくださいよ!!」
「だから俺は大丈夫だって。この調子で俺が餌になってもっと多くの兵をおびき寄せるからよ!!」
一応一つの勝利を得た。危険を承知で敵地に飛び込んだマーズへイシンは行動を叱責するが、この先輩は懲りないのか、またはデルタ・フィッシングを成し遂げていないのか。さらに敵陣の奥へと乗り込もうとする。
「先輩、待って……!?」
「何だ新手の秘密兵器……いや!!」
この調子で戦線をこちらの方向へ持っていこうとした。だが、地面のいくつかに点が光り、点と点が線を結び、円が繋がる。
「足元に線が?」
2人や量産型兵器の足元を線が引けば魔法陣が描かれる。その魔法陣に緑色の光が彼らの足元を通り越して行けば、円の中の円に光を包んで、真実を疑わざるを得ない事態が起こった。
その場には、山地を背中にして緑と黄色のツートンカラーで彩られた獅子、ヤギ、いや獅子の顔にヤギのから、蛇のしっぽを持つ両断型兵器の倍ほどの全長を誇る3匹の獣が戦場に圧巻ともいえる存在感を持って現れたのだ。
「先輩なんですかあれは!!」
「シャァァァァァァァッ!!」
機械らしさが全く感じられない巨大な存在を見た。そこには機械も何もではない。まるでファンタジーやおとぎ話の世界からやって来たような獣がその場にいるのだ。
右の口からは右は水流が、中央の頭からはかまいたちのような衝撃波が、そして左からからは吹雪が襲った。この瞬く間に地形ごと量産型兵器を海へと押し流すように、また深い傷跡を残し、そして身動きを取れなくなった量産型兵器が見えた。
「あいつだ」
「あいつ……?」
「噂には聞いたいたけど本当だったぜ。ムシカの当主リン・フランシスコだけが使える能力……魔法の存在をな!!」
マーズが少し震えた。表情には冷静に余裕を保ってはいるが、内心では自分が勝てると確信をしていた戦士としての武者震い、次は倒すべき宿敵への怒り、止めは魔法というサムライドの世界でも特異な能力を持つ彼女への脅威だ。
この世界、この九州において、日本列島で多数存在するサムライドの中でも希有な魔法の使い手がこの世界で、科学では分からない咆哮を上げようとしているのだ。
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「さすがリン様。前線へ出られたリン様に適うものでしょうか」
「私が正しいから……私の考えが正しいからこのガブリエルが動くの」
マーズの主戦区から少し離れた場所にて、両軍の量産型兵器がぶつかり合う状況を観戦するように、城壁の上にリンとマナが付く。本来ならロードスがいるべき場所には、マナがいる。彼女は既にナンバー2としての信頼を得たようである。
今リンが握っているガブリエル、彼女の右手に握る銀色の杖は、常に肌身離さず握っているこの杖だが、この杖に備えられたキーを入力することにより、先程の獣たちを出現させて、また獣たちに攻撃を命じる事が出来る。いわば魔法の杖である。
「コード入力完了。キタダー、エアロディスカッター、ウスキー、ハイドロ・プレッシャー、ナガマー、ブリザードストーム……続けて」
素早く右手が動き、コードを入力し終えるとガブリエルの力で現れた獣、いわば召喚獣達が動き出した。
この自分が傷つくことなく召喚獣と魔法で戦う事がリンのやり方。他のサムライドには決して真似が出来ない事であり、ナインステイツの国々が技術で最先端を突っ走っていた事によりこの能力が与えられた。
「マナ……」
「何でしょうか、リン様?」
「次々と片づけられていく、私が間違っていない証拠。前線に出る……」
召喚獣キタダー、ウスキー、ナガマーの3つ首を持つ召喚獣は、冷気と突風を吐いて、前線へ踏み出た途端、彼女に前進を許さないかのようにマナの右手が横へ上げた。
「リン様、貴方はこの魔法の力で前線に出る必要はありません」
「そう……なの?」
「はい。ロードス殿やショウ殿もあなたに危険な目を遭わせないために前線で戦っているじゃありませんか」
先程まで前線に出させて、今は前線で向かう事を自重させる。もちろんマナの考えには、主君ベアドラーゴの野心を果たす為である。作戦の為に彼女を自重させる必要があったのだ。
「……いや、これは正しい戦い。私も出たい」
「……」
しかしマナにも誤算があった。彼女を巧みに操りナンバー2へ躍り出ても、ポーカーフェイスの表情から考えが読めない故にリンの前に出る意志、またロードスが言っていたように芯の強さを読むことに失敗したのだ。
「わかりました。でも私もリン様を護衛する必要はございませんよ。あなたの当主としての戦いを拝見しましょう」
「うん」
しかし、マナは柔軟性を持ち合わせており、その程度の誤算で失敗するような計画は練らない女である。
彼女を暗殺する使命を持った身として、あえてリンを野放しにすることを選ぶ。それは暗殺の好機よりも、不信感を抱かせない為だ。
この彼女の考えの裏までは、リンには知られず、そのまま彼女はガブリエルを伸縮させるように変形させて、箒の要領でちょこんと腰を下ろせばガブリエルは勢いよく前線へと飛んだ。
「五指天王の皆さんは。南部軍団の標的を攻撃してください」
『了解した。マナ』
「頼もしい言葉です。そしてベアドラーゴ様、間もなくベアードタンカーがそちらへ返される予定ですが、スケジュールに変更がありました」
早く言えと催促をするベアドラーゴに対しても、マナは沈着にリンの現状について伝えた。
『なんだと! リンを仕留めるのに、どうするつもりだ!!』
「ご心配の必要はありません。ベアドラーゴ様は自由に暴れて大丈夫。リン様の反応はベアードタンカーにプログラミングして、私に連絡が届くように設定をしておきます」
『そうか! なら問題はないわ!! グワッハッハッハッハ!!』
「その言葉を聞いて安心しました。私はすぐにベアドラーゴ様の元へ急ぎます」
べアドラーゴヘ報告を済ませ、マナが自分の背中に備えられた、まるで自分を包む程のサイズのパーツに身を包まれて飛んだ。その時の彼女の姿はまるで空飛ぶ拳だ。
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「まっていたぜぇ!!」
「オデ達が、お前を倒す!!」
「この虐拳鬼賊を!!」
「相手にしちまった事がお前さんの!!」
「ミスでヤンス!!」
「何……早速現れたな」
虐拳鬼賊の5人が、三光同盟によってつながれた四国と九州を結ぶレール付近で待ち構える。
それぞれが異なるカラーリング、ハンドメイドカスタム化された小銃を撃って弾幕を作りカズマの侵略を阻もうとするが、カズマには関係なく量産型兵器へと進撃の合図を行う。
「ふふ、これが九州のサムライドか! 悪いが僕の前に死んでもらおう!!」
「それはいい度胸だな!!」
「オデ、こいつごときに敗れる訳がない!!」
「あたいを舐めてもらっちゃあ困るね!!」
「その通りだな!!」
カズマのフェンサーショーテルが振りまわされながら銃弾を阻み、量産型兵器を九州の地へ着かせた。このまま5機のサムライドを相手に量産型兵器の量で押し切るか、または自分の質で押し返すか。
「そんなカッコいい事考えるけど、どうでヤンスかね~」
だが、どちらにしろカズマの脳内では勝利は確定されているようなもの。このマサの一言を聞くまでだ。
「何だと!?」
「ポチッとなでヤンス♪」
五指天王の内最も小柄なマサが常に着用しているゴーグルのボタンを押す。すると、ゴーグルが赤く発光して量産型兵器の動きがピタリと止まってだ。
「そう言うとは、僕を侮辱するなら、一番チビ! お前から始末してやる!!」
「それはどうでヤンスかね~ソルディアサンゲーン! その槍でカズマを貫くでヤンス!!」
「何を馬鹿なことを……!!」
自軍の量産型兵器はプログラミングされた脳波で動く仕組みであり、指揮するサムライドの脳波にはクローンでもない限り、いやクローンですら微かに脳波が異なれば、敵の量産型兵器を動かす事は出来ない作りとなっている。
だが、先程までカズマが動かしていたソルディアサンゲーンが、次々と右腕に備えられた槍を突き刺すように振り落としてきた。間一髪カズマが身をひねるようにして槍の雨を回避し続けたが、これは新たな脅威の序曲でもあった。
「何があった! どういうことだ!?」
「わからないようでヤンスね! あっしには量産型兵器を操ることくらいちょちょいのちょいでヤンス!!」
マサは余裕をもって笑う。五四天王の1機マサは子供の様な背丈で、肉弾戦は向いていない身体だが、彼の最大の能力は彼のゴーグルにあった。ゴーグルから放たれる放射状の光線を浴びた量産型兵器を、彼の意のままになる能力である。
「さっきお前が言った脳波……この量産型兵器が受ける事を設定した脳波データをあっしは受け取っているんでヤンスねぇ~」
ニヤリと歯を見せながら、白色のデータカードはゴーグルの側部から排出されればカズマに一度見せてから、腰に備えられた四角形のパーツへ差し込んだ。
「どこから漏れた……南部軍団の機密が」
「あっしは知らないでヤンスよ。でもお前の考えは間違いではないと思うでヤンス!」
「ちくしょう!!」
すかさず右腕を前へ向けて肩に備えられたシールド底部のマシンガンが火を噴くが、マサはひょいとナリマーツの元に身を隠れて、他の四人が小銃でカズマを退けようとする。
「数だけは大したことある!?」
カズマの不幸は続いた。銃弾を回避、あるいはショーテルで撃ち返したカズマだが、自分の右腰に何者かの手が伸びては、通信機がもぎ取られてしまったのだ。
あっけにとられるカズマが見た手の先は、マサの背中から展開されていた。いわば隠し腕であり、慌てて銃撃で腕を粉々にさせるが、完全に砕け散る直前に、隠し腕は通信機を握りつぶした。
「僕の通信機が……不覚か!?」
「ふふふ、これであっしは連絡が取れない」
「さすがマサだな。第1段階は見事だ」
「へへっへっへっへ!」
「まぁマナを除けばもっとも賢いのは一応あんただからね」
「あらぁ!?」
自分の活躍を威張るマサであるが、エリーに突っ込まれて調子を乱す。最も彼らは一つの作戦を成功させたようなもので調子がよく、仲良く笑ってまでもいる。目の前のカズマとは全く正反対である。
「南部軍団に反逆者がいる……スネークの言った事はあながちまちがいではなかったのか!?」
「その通りですぞカズマ様……」
「センゴーク!?」
カズマの後ろには、艦隊を食い止める為に四国に残ったセンゴークが救援に駆け付けたかにみえる。
だがしかし、彼は今回の作戦における副将の肩書きを平気で捨てていた。その証拠に今、マサから先程のデータカードが保存されたパーツが投げ渡されて、受け取ったセンゴークが伸びたバンドを頭に巻き、自分が指を指した方、つまりカズマの方へと量産型兵器が再び攻撃を開始してきたのだ。
「ふふふ! 俺はお前のようなボスの弟で偉そうに振舞っている奴の器には収まらない男なんだよ!!」
「おのれ……センゴーク! お前ごときにここまで反乱されるとはな!!」
「そうだ! お前はもう南部軍団にいる資格はない、この九州で死ねばいい!!」
「貴様……だが僕はな、僕はなぁ……!!」
ここまで言われるとカズマは察知した。表面で強がっているが、九州のサムライドとセンゴークらが手を汲んで自分を亡き者にするクーデターが行われていた。あの艦隊の存在も、カズマを九州へ誘導したのもセンゴークに叛意があったから手を仕向けたと考えれば、辻褄はあってしまうのだ。
『マナ、第1段階は成功したぞ!!』
『よくやりました。そして、ベアードタンカーが既に到着しています。リンの始末を兼ねて、九州勢力の始末に入ります』
「分かった! 行くぞお前ら!!」
「「「「了解!ライドヒア!!」」」」
ジョージがマナへ報告を終えると、作戦は第2段階へ移された。合流の為に5機のバイク型のライド・マシーンを呼び、一斉に彼らが乗り込む。
「「センプーン、レップーン、シップーン、ネップーン、トップーン!!バイクロスフォーメーション!!」」
各自が乗り込むや否や、5機のライド・マシーンが瞬時に連結。U字型の陣形を組んだライド・マシーンとしてベアードタンカーへ向けて全速力で走りながら、障害物や相手を次々になぎ倒して一直線の道を切り開く必要がある為、最前列で運転を担当するマサとヒャクダケを除いた3人が小銃で弾幕を張りながら最短ルートを進む。
「しかしマサ。あんたあれ渡して大丈夫なの?」
「あれ……簡易式リモートメットはもし敵の手に渡ればあっしの切り札がしられてしまうでヤンス!」
「おい、ダメじゃねぇか!」
「ヒャクダケ、あっしの話を最後まで聞いてほしいでヤンス!簡易式リモートメットには時限爆弾とついでの細工を仕掛けているでヤンス。しばらくしたら……ボカーンでヤンスよ」
隣のヒャクダケに突っ込まれたマサは自分のトリックを説明して彼を納得させた。別の勢力の相手と組んでも、機密までは知らせないマサの行動はぬかりのないものだ。
「マサ、ヒャクダケ! 無駄話もほどほどにしな! 合流するのに時間食う訳にはいかないからな!!」
「そうだ! オデもっと暴れ回りたい!!」
「カズマとかは、もう見えない所にいる。あとは合流あるのみだよ!!」
「了解了解」
「まかせるでヤンスよ!!」
催促を受けて1機と化す5大ライド・マシーンが連結された。ベアドラーゴ、マナとの合流。五指天王の作戦第2段階を果たす事だ。
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「いつの間にか凄い事になってしまったぜ……」
「あぁ」
「マーズ本隊はあの訳のわからない獣相手に苦戦を強いられている模様。俺達だけでも本陣へたどり着いてリンを倒せばいいだけだ!!」
その頃、本隊とは別にマーズと同じデルタ・フィッシングを成功させたイジュー、タダトー、タダムーの3機は本陣へ向かおうとした。しかし、
「何……ぐあっ!!」
「危ない!!」
「タダムー!!」
イジューら3機の快進撃は一瞬にして止められた。
何故か。それは大口径の砲門から放つオレンジ色の光が先導していた量産型兵器の編隊を軽く消してしまったからだ。そのついでにタダムーまで、その光の巻き添えを食らって姿をこの世からフェードアウトさせている。
「何があったというんだ……これは!」
「あれは巨大な……おそらくビーム砲だ!!」
「その通り……超電磁大砲グランドフランキーの前にはお前たちはとるに及ばん存在だ」
砲撃の命中を免れたタダトーとイジューは空中に浮遊する上半身だけの男に畏怖の感情に襲われた。ロードス・ノウ。
底部のブースターで浮遊するロードスの上半身は、指を大砲と化したパーツへ向けることで、大砲のパーツがスタンドパーツを収納してから、まるでスーパーカーのような速さで2人の周囲をぐるぐる回り始めたのだ。
「確かブンゴ国一、いやナインステイツ一の武勇と忠義を誇る! ブンゴ国の守護神!!」
「人機一身! かつて雷神と恐れられ、五傑に勝るとも劣らない武勇を持つ……ぐぎゃぁぁぁぁっ!!」
「タダトー……うわぁぁっ!」
残された二人は、雷神。つまりロードス・ノウを評価する時間も与えられず、大砲パーツの両側に備えられた車輪に、雷を包ませるシャリンダースパークによって、身体を踏みつぶされ、イジューは両端から鋭利に伸びたスパイクを展開させた兵器、“大車輪スパイカー”急カーブする要領でイジューの腹を横に掻っ切って砕いてみせた。
「沈黙を確認した……戻れ」
2人の沈黙を確認して下部パーツの砲門は真上から真下、底部パーツ内にほぼ360度の回転をしながら収納され、上部からのジョイントが背中の補助プロペラによって緩やかに降下していくロードスへと連結された。
「ライジンダーごときで片づけられる者など私は望まん。挑むはマーズ・グイシーのみだ」
ロードスの標的はただマーズだけである。通信機のダイヤルを調整させる行動の中で、彼は自分の下半身を。二本の足ではなく、金色のライド・マシーンが下半身代わりとなっている事をだ。
「マーズ・グイシー。お前を倒す理由は私の下半身を破壊して、ソウル・シュラウドを砕いた理由ではない……あれは私の実力が未熟だったからにすぎん」
マーズと戦わなければならない理由は敵だからではない。彼の両目は森林の中でおそらく自分の主君が生み出した召喚獣と戦っていることだろう。
「リン様に刃向う最大の存在……たとえお前にうらみがなくとも、私はリン様の忠実な家臣として戦う運命! 最前線で戦うのも、お前と戦うのも私がリン様の忠実な家臣であるからだ!!」
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「先輩! イジュー達の部隊が全滅しました!!」
イジュー達が壊滅した報せは、イシンからマーズへの報告において耳に届いた。本隊でもある彼らは現在キタダー、ウスキー、ナガマー。3匹の召喚獣に進路を阻まれて苦戦を強要されていただけに、有難くない報せである。
「ちっ。このような獣相手に手を焼いているというのに、状況が一向に良くならねぇな……」
『マーズ・グイシー! 聞こえるか』
相変わらずの余裕も、味方がやられていく状況では苦い色は隠せない。口元が負の意志を必死で口元で抑えながら耐えを選んだ。
『覚えているだろう。私はお前に破れ、挫折を味わうことになった。最も新たなる道を知った訳だがな』
「そういえばそんな事があったな……復讐という訳か」
ここでますます、悪い展開に入った。ロードスからの挑戦が入りこんだ。厄介な状況に追いやられたと思うが、表情では不利を悟られないようする。どのような戦いにおいても、例え敵へ弱みを見せてしまえば負けだ。
『それはない。マーズ、お前がリン様に刃向う意志を変えるかどうか! まずそれを問おう』
「やれやれ……俺はいつの時代でもお前が仕える女の考えは気にくわねぇ。神様気どりの考える完璧な理想なんてよ……」
「やはり。簡単に考えを変えてもらったら困るが」
「そうだな、そして悪いな……!」
声のする方角を分かっているかどうかは分からないが、堂々と自分の考えを告げて振舞う。高望みしない理想、常に現実を見て、それを守る事が自分の戦う理由であったからだ。
「あぁ。俺は変な所で筋を通す性格でね。世の中完璧はないのに、完璧だと思い込んでそれをやり遂げようとして、大勢の犠牲者を出すなんて……ばかげているね!!」
「その言葉、待ち望んでいた気もするが、やはりお前とは戦わなければならん!!』
「そのようだな!」
ニヤリと笑いながら、マーズは一騎打ちの時を悟った。自分が現実を守るが、あいつは忠義にかける。
ロードスが忠義に恥じない戦いをするはずだ。ならば自分は逃げ隠れもせず、卑劣な手も使わない事がサムライドとしての礼儀であろう。
「ライド・アウト!」
ロードスの声が消えていくと、戦線においてマタシチローが変形したライドアーマーを着脱。青と白のパーツが1機のボードへとの変形を追え、指を弾く。
「先輩! わざわざ敵との約束を果たす為に行くつもりですか……」
「あいつの言葉から……背負っている者の重みが感じられたからな」
先輩はおそらくロードスの元へ向かうであろう。しかし、相手は罠を張っているかもしれないのだ。イシンは先輩の行動を止めようと肩に手を当ててきたが、軽く手を払って振り向いた。
「言葉に魂を感じた奴は裏切らない。俺は大陸時代からこんな考えを持っているんでね」
「先輩……」
「たとえ敵であり、お前が何をしでかすか分からないと言おうとも、俺は俺を、俺の経験を信じる。だから俺も1対1で挑ませてもらう。手出しは無用だ」
マタサブローが迫っては、マーズはこの場で乗りこんで、ロードスへと向かおうとする。しかし敵に備えてライドクロスをするような真似はしない。
「何、罠があったら俺がそれを砕く為、ついでに俺の人……いやサムライドを見る目が狂っていた訳だ」
「先輩、だからといっても」
「俺がしくじった時は、お前を見る目も俺が間違っていた事だ!お前達の為にも出来れば考えない方がいいぜ!!」
マーズの思いを察しては、リュウハクがイシンの方に触れて、彼に止めても無駄、いや止めさせるべきではないと思ったのだ。
「先輩、あんたはかったるいことをやるが、俺は先輩を止めないぜ。かったるいからな」
「その言葉有難く受け取って置くぜ。総指揮代行はリュウハク、お前に任せるぜ」
リュウハクに後を託し、自分の近くまで到着したバイク型ライドマシーン“マタサブロー”へ乗りかかって、西へと向かう。
「ええ!? それはともかく先輩、待ってください! やはり……」
「イシン!」
しかし、イシンには不安でならなかった。経験が足りなかったからかロードスが何を考えているかは彼女には読めない。が、読めない相手だからこそ不安が絶えないのだ。
「そうはさせてたまるか!!」
「あなたは!?」
先輩を追う後輩だが、彼女を若き騎士の叫びが阻む。銀色の甲冑にその身を宿し、燃える赤髪は風に、燃え盛るように揺れる。ライド・マシーンを足にして堂々と立ち振舞う男が、剣先をビシッとイシンへと向けた。
「俺はショーウン・ハシターカ! 先生はどう思っているかわからないが、ロードス・ノウの教え子だ!!」
「ロードスの教え子!?」
「そうだ! そして先生は嘘をつかず、卑劣な手を取らないお方だ。先生は戦うべき相手と見定めた者に1対1で挑む信義を持たれている!!」
自分はロードスへ忠誠を尽くす者であり、彼の事も知り尽くしていた。師を知らないイシンへ感情を添えて、師の偉大さをぶつける。これが、彼なりの誇りの表れである。
「そして俺はあんたと1対1で戦う運命だ!!」
「私と……!? 敵味方であることは確かですが」
「あんたが敵だということもあるが、あんたをマーズに、俺を先生に加勢させないためだ!!」
イシンが持ったロードスと戦うマーズへの不安は解かれた。この戦いは敬意を持たれる側の忠義を守る戦いであり、持つ者が忠義を競う戦い。ロードスを慕う彼は、加勢を選ぶより、1対1の戦いを守り抜く事が忠義に報いることだと見たのだ。
「イシン、行ってやれ」
「兄さん……」
「俺は指揮をまかされている。お前が悩むのを見るのもかったるいからな」
兄からの押しを受けて、イシンの首が少し縦に傾いてから戻る。そして腰に携えた咬竜点刹を向けては、始まろうとしている一騎打ちを布告する姿勢を取る。
「私はあなたが誰かはしらないけど、先輩の言っていた事はあながち間違いではないようですね!」
「ふ、何かは知らないがいい心構えだ!」
ショウは胸から一本の槍を“デルタストライカー”を展開させた。握られた柄、そして向けられた槍先が東を指した。
「俺についてこい!俺達の戦いを誰であろうとも邪魔はされたくないからな!!」
「望む所……」
2人は東へと進路を取った。この為に最前線にはリュウハクが1人留守をして指揮を執る事になるが、特に自分が手を下す必要のある相手が誰もいない。そのせいか、何時ものようにかったるいと言ってばかりの彼とは変わらない。
「やれやれ、2人とも血の気があるのはかったるいが……だからと言って俺がここでやられたらかったるいからな……ん?」
しかし留守を任された自分が破れる事は許されない。しかし、自分の軍団が目の前で退けようとしていた、ハシバーら3匹の召喚獣が下半身から徐々にと消滅していく。
リュウハクを一瞬戸惑いと安堵が入り混じる気分にさせる事態であり、目をこするが、戻った視界には、後方からゆっくりと前進する1匹の巨人と、その方にちょこんと腰かける少女の姿を目にした。
「あれが……魔法の使い手、リン・フランシスコなわけか。かったるい相手に出会った」
「……邪魔」
「千星決由……!!」
ブリーツスカートに隠れた細い左腿。彼女の細く済んだ手には、彼女に似合う事偽りのないクリスタルのリボルバー。人差し指がトリガーを引けば空間が一瞬振動を起こす。
空気の弾か。リュウハクもまた対抗手段として、両腕から一斉にクナイを放ち、それらにより宙に飛ぶ銃弾を掻っ切り、空気による攻撃をしのいだ幾多かのクナイが評定とされた少女を切りつけようと飛ぶ。だが、
「……」
彼女は無言のままガブリエルのコードを入力して、クナイの方向へ振りまわす。
一振りにより、クナイが真っ二つに割れて、また地面には傷跡を残す。空気をかまいたちの様に操る攻撃は、彼女の放つ魔法の一つエアロディスカッターである。
「あの杖に何かがある……かったるいが解かないとなこれを」
しかし、リュウハクは目に捕らえて答えを考えた。ガブリエルさえ封じる事が出来ればあの少女に勝利を収める機会はある。
「かったるいが、荒業爆撃拳でいく!」
相変わらずのかったるいとともに、背中の装甲をパージして、巨大な2基の弾頭を専用アームパーツで手に握った。
そして、この状態でアームパーツを突き出したまま巨人へ向けて突入を試み、彼の身体は爆発の中に姿を掻きけされていく。
「シヒロスに何するの……デュラハンセイバーよ」
爆風であおられながらリンは巨人の召喚獣シヒロスへ命令を送る。
シビロスは“グオッ”と鳴きながら自分の背丈ほどの長剣で爆風を掻き切ろうとするが、攻撃のモーションで払われた爆煙からは、青と白のライドアーマーに包まれたリュウハクが空中へと躍り出た。
「イシンがこいつをライド・アウトしていなかった場合かったるい事になっていた。だが。空中からならなんとかなる」
「そう……」
「かったるいが、俺も一応ここを守らないといけないからな」
この男はかったるいを毎回語尾に付けなければ喋れないのだろうか。
しかし、例えそうであろうとも心を燃やす事もある。先輩と妹が誇りを賭けて戦う今、自分がこの指揮系統を断たずにリンと渡り合う事が自分なりに誇りを守る事である。そんな意地が相変わらずの何処か眠そうな表情の裏には隠されていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「フェンサーショーテル! 十字崩し!!」
譲れない誇りの為に個々の戦いに全力を注ぐマーズら突破の3人。しかし、ここにも窮地に追いつめられているが、誇りを失わないサムライドがいた。
彼はフェンサーショーテルを手にしている限り負けを認めないであろう。カズマが今、ショーテルで十文字にソルディアサンゲーンを掻っ切って残骸へと化す。
「はぁ……はぁ……どうだ、お前にこれが出来るか!」
「や、やばい。あんまりじゃねぇか!!」
「あんまりも何もない! センゴーク、覚悟したほうがいい!!」
配下に裏切られたカズマは、当たり前だがキレた状態として目がギラギラと怒りの光を照射するようにセンゴークをにらみつける。
このままでは自分も逃げられるかどうか自信がない。しかし、
「おーっとそうはさせないぜ!!」
「何……またもや!!」
ところが、5機のサムライドがいや後ろには2機のサムライドまでが真紅の艦艇に乗りこんでカズマを追る。
しかし、カズマに臆する事はない。フェンサーショーテルを突きつけるように彼らに立ち向かう姿勢を崩さないのは、カズマがケイの弟、いわばナンバー2に近い立場であるからだ。
自分が屈した時にはケイの誇りも傷つけてしまう。自分からすれば何処のサムライドかわからない相手に敗北は許されないのだ
「さすが四兄弟一の武を誇るだけ、プライドが高いですね。ですがベアドラーゴ様」
「わかっとるわい! 不敵拳帝形態だ!!」
「おぅ! 行くぞ鉄拳制裁だ!!」
「了解!」
「これが虐拳鬼賊の」
「本領」
「でヤンス!!」
不敵拳帝形態。ベアドラーゴを中心として、マナ、五指天王のサムライド6人が宙に舞った。まず、マナは肌で風の流れを感じながら、背中のパーツに身を隠して、拳へと姿を変える。
一方、五指天王の内、ナリマーツを除いた四人が上空へ飛びながら指の様な。親指を除いた四本指が、頭と両腕が収容された状態でゆっくり飛行するナリマーツに連結され、血止めとして左端からは1本のような指が展開された。
「ぐっふっふっふ……ぐあっはっはっは!!」
今、暴れ熊ベアドラーゴが上げた両腕には、彼の背丈と同程度の拳が腕に連結された。次に背中へ強大な翼が備わり猛烈な勢いでカズマへ向けて急接近を行う。
「7人が合体した!?だが……!?」
驚きながらも強がろうとするカズマだが、勝負は一瞬にして決まった。五指天王の五人が合体した右腕には、5人分、いやそれ以上の重さがあった。
その結果、カズマはもろに自分の倍以上の重量を誇る拳に殴り飛ばされて、建築物を何件も貫通しながら後ろへ吹き飛ばされてしまったのだ。
「ふふ、この不敵拳帝形態に砕けぬものはないわ!!」
「お見事ですベアドラーゴ様。後はリンを仕留める時が来るまでご自由に暴れてください」
「わかっとるわ……ん?」
ベアドラーゴは高笑いをしながら振り向く。先にはおそらく突破側だと思われる量産型兵器が空と陸から迫っていた所。凶悪な面構えには無数の、しかし微弱な敵への征服欲が走る。
「この俺に触れられると思うな!! ポーラーアイ! ブラスターバーン!!」
ぐっと構えて顔を上に向ければ目が青く光っては一直線に光線を放ち、あんぐりと開いた口からは業火が巻き起こる。
凍結したアロアードが地面へと落とされ、ソルディアサンダーンは一斉砲撃をしようとしても、猛火にあぶられる中では効果はないようだ。
「ぜ、全滅……、これがベアドラーゴとかの力なのか!・」
「そうだ! 俺の力はこんなもんじゃないわ!!」
「な、ななな!?」
指揮を執っていたサムライドが逃れようとしても、彼らを捕まえんとベアドラーゴの両腕が拳をほどいた状態で彼らに追いつき、まるでパン生地のように押しつぶされてしまい、爆発の後に残骸が手と手の間から落ちていく。
そして、低空を素早く滑空するベアドラーゴへと両腕が連結された。
「いでよ! ビーグカイザースライサー!!」
主君の指示に応えるように、九州に佇む巨艦ベアードタンカーから、強大な剣がカタパルトから射出された。鋭利な装飾をちりばめたこの剣もまた自分の背丈、いややや剣の方が長い。
だが、普通のサムライドではとても扱えないサイズの剣も、合計6機のサムライドを両腕で支え、なおかつ彼らが変形した拳を自由に振るうベアドラーゴならそのような剣を振るう事も大した問題はない。
「これで俺様の力を見せつけてやろう! グアッハッハッハ!!」
堂々と笑いながら自分を阻む敵をビーグカイザースライサーの錆にしてみせて、赤褐色の羽根で宙を飛ぶ。だが、建築物の瓦礫に埋もれながらも1人のサムライドがまだ眼光を光らせていた事を、暴れ回る事に専念していた彼らが知るはずもなかった。
「なんて力だ……僕の身体が持っている事が奇跡の様にみえる」
カズマだ。自分の倍以上の質量を誇る拳を受け止めて叩きつけられた彼は辛うじて生き延びていた。いくつかの箇所が破壊されているも、自分の破損個所へと応急処置を下しながら立ち上がる。
「この状況ではさすがに九州へ殴り込みをかけるのは無理だ……しかし! あの反乱を企てた奴らだけなら倒す事が出来る!!」
九州征伐をカズマは断念せざるを得なかった。
しかし、カズマにとってあいつら呼ばわりしても差し支えのない相手に、自分が好き勝手やられたままでいいと思われることが許せない。ケイがどのように自分の行動を想っているかは知らなくとも、内なる敵を沈める意志は変わらなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ライドクロス!フライティングフォーム!!」
マタゴローを着脱して。戦闘機状のフォルムを誇るマタハチローを身体に包んで地面じぇ着地。これがイシンの専用ライド・マシーンであり、最も得意とするフォームだ。
「これが、マーズ達突破が誇るライドクロス変化! ならば……マジカルナイツ・クロスフェイス!!」
ライドアーマーに身を固めたイシンに反応をしながら、ショウはいきなり手を出さなかった。
それよりも自分も力を引き出す必要がある。銀の仮面を顔面へとがっちりはめ込むように、右手で押しつける。そして、後頭部で仮面が固定された時、ショウの頭髪は赤く燃え立つように逆立った。
「燃える魔道騎士ショーウン・バシターカここに参る!!」
「これが、あなたの全力の姿ですか……」
「そうだ! お前が全力で挑むつもりならば、俺も全力で挑むのみ。まず、手出しをしなかった事に礼を言わねばならない!!」
ショウの礼に、イシンも返した。敵に礼を返す行動は彼につられてしまった所もあるが、互いが最善な状態で戦う事を良しとし、手を出さなかった事に、堂々と振舞い戦う敵への敬意の印だったのかもしれない。
しかし、敬意を感じても敵は敵。イシンが咬竜点刹を両腕に連結させると、ショウもまたデルタストライカーを握り直す。
「先輩の為に私はここで負ける訳にはいきません!」
「それはこっちも同じだ! このデルタストライカーでお前との一騎打ちに俺は勝つ!!」
「てやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「たぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
剣を備えたイシンの両手が回転しながら、ショウにより振り下ろされたデルタストライカーを受け止める。
「これなら……チェストッ!!」
次に自分の刃先でデルタストライカーの先端を食い止めているうちに、空いた両腕でその先端を握り、自分の方向へグイッと引き込んで、足で彼の腹を蹴りあげることで空中へと投げ飛ばす。いわば巴投げであり、マーズと同じチェストと叫ぶ所はやはり先輩、後輩のつながりである。
「柔術で返すとは小癪な……リボルバァァァァァァァン!!」
しかし、地面へ叩きつけられる直前でも、ショウはトライストライカーを離さず、身体をイシンの方向へ向ける。
次に、空いた右手で拳を作って赤く発光するグローブがイシンの背中を狙ってビームを放射してイシンに攻撃の手を取らせない。
「拳からビーム兵器ですか……」
「ビーム兵器というよりは魔法だ! 俺の故郷ブンゴ国のオカルト理論による賜物だ!!」
「オカルト理論……まさか先輩と同じ!!」
オカルト理論のキーワードにイシンが反応した。そして、ショウはトライストライカーの柄を伸縮させて、魔法の力で放たれる熱線を刃状に形成させる。それを地面へ突き刺すことで体勢を立て直した。
「トライストライカーシュベリアーバースター!!」
地面に足をつかせると、トライストライカーを素早くブーメランのように投げつける。ブーメランと化した槍は、刃先が球状の熱線へ形成して、回転する柄には熱線が囲む。
「この程度の攻撃、私にも読めています!」
このブーメランを落とす為にイシンは左肩から展開されたショルダーキャノンを取り外し、マシンガン状の先端が空中でトライストライカーをハチの巣にせんと弾を飛び散らせる。
「本当に読めているのか!?」
ブーメランを迎撃して、攻撃を読んだと思えたイシンだが、ショウからすれば計算済みの話。
右腰のホルスターケースに収納された拳銃“ヴァリアブルショット”が、上でハチの巣のように飛ばされているトライストライカーが彼女の後方へ弾き飛ばされる。
次に、左腰のシールドを構えて、グリップを握りながら大きく腕を横に伸ばしてから90度前へ振ると同時にシールドがグリップからのチェーンに繋がれるまま飛んだ。円状のシールドはスパイクパーツを周辺に展開させて、チェーンがピンと伸びる。
そして先端の盾が、彼女の後ろへ回り込んでトライストライカーをまたも弾き飛ばす。
「これでフィニッシュだ! コア・イレーザー!!」
度重なるトライストライカーへの攻撃に気を取られ、後ろを振り向いたイシンに、前方への警戒心を指し向けるよう攻撃が行われた。
ショウの胸の甲冑が観音開きになり、火球“コア・イレーザー”が彼女の頭部へ放射される。
「何かと随分忙しい攻撃方法……!!」
イシンが慌ててしゃがむようにしてコア・イレーザーが頭上を通り過ぎる事を感じ、強烈なダメージも感じた。
地形へ大きな穴を開けたコア・イレーザーを回避した瞬間、地面へ落ちようとしているはずのトライストライカーが、突如伸展して刃先を再び鋭利な光の刃に化しての攻撃が背中の装甲を突き刺したのだ。
「卑劣な手は使ってはならない! だが戦いで相手を欺く事は戦法の一つだ!!」
「なるほど……戦いは駆け引きによるものですか」
「そうだ! 卑劣な真似はしないが、兵法の類はどんな事も使うのが俺だ!!」
「兵法の類……先輩も同じ事に長けていましたね」
ショウのポリシーに、マーズの姿をイシンは重ねた。それはたまたま考えに共通点があっただけではない。オカルト理論という人からサムライドへ生まれ変わった道を歩んだものだからであったかもしれないのだ。
「お前の先輩とか言うマーズ・グイシーも俺と同じ人間からサムライドの身に転じたサムライドだったな!!」
「やっぱり……貴方もですか!」
「そうだ! 俺は人間としてぬるま湯のような世界で飼い殺しにされるよりも、サムライドとして太く短く燃え尽きる事を選んだ! 一生に一度限りの人生だからだ!!」
「……!!」
イシンの考えにはなかったショウの意志に彼女はは目を丸くした。
マーズは敵を討つべくしてサムライドになる事を選んだだけ。決してサムライドであることを好んではいなかった。だが、このショウは自分から好んでサムライドとして生きる事を選んだ。ある意味マーズとは相反する動機を持った男なのだ。
「俺は戦わなくてもいい、平和な世界人間として生きる自分が、非力だってことが分かった! 先生と出会ったことでだ!!」
「人間が嫌いなの……人間のくせに」
「人間が何も守れない非力な存在、またそんな過去の自分が嫌いだ! 決めつけるな!!」
自分を嫌悪するようなショウの言葉に反応したイシン、複雑な過去に食いついたイシンには自分の想いを話す価値があるとみては話を続けられた。拳を作った右腕を前へ伸ばして火球を生みだしながら。
「何かを守るためには力がいる! 守りたい物を守れない自分は生きる資格がない! Ⅴ生きる資格を得る為にこの機械の身体と……このように炎と熱を操る魔法力を手にした!!」
「……こんな人を私は初めて見た」
守るべきものを守るために人を捨てて機械の身体になる事を選んだショウ。仮面越しに見える両目には悲壮でもあり、一途にも輝きを放ち、イシンは未知の感覚でもあり、敵でありながら敬意と、敵としてでも悲哀に包まれた気分にさせた。
「それより、何故貴方は先輩が敵と見なすリンの味方をするのですか!」
「それは……先生がリン様へ忠義を尽くす他にならない!!」
「先生……ロードスのことですね」
「そうだ!!」
ショウが拳を握りしめて自分の胸へそっと当てる。固く握られた拳は微かに震えが続き、拳に顔を向けると露出した口元が揺れる。
「俺は先生に助けられて自分の弱さと先生の偉大さを知った! 俺はもっと多くの人を助ける事を信じて、国の為に戦う軍人の子の誇りを守るために、この道を歩んだ」
「そのロードスがどのような人かは知りませんが、リンの行いは人を守ることとは大きく反れた事です!」
「それくらいわかっているし、先生は偉大な方だ!!」
叫ぶショウが勢いよく前線へ飛びだし、両手の拳を熱が帯びていく。イシンの握ったキャノンが彼の進軍を阻むが、走りながら拳を突き出すことで、熱で銃弾を蒸発させていく。
「先生のような完璧な方でも、リン様の考えに心を痛められている! しかし、それでも先生は忠義を貫くのみだ!!」
「自分の考えと、師が忠義を向ける者への対象……あなたは矛盾しています!!」
「そうだ! 俺にはリンの考えをまだ理解できていない、だけど先生がリン様へ忠義を尽くすなら、俺は先生へ忠義を貫くのみ! それが今の俺が出来ることであり、最も正しい事だ」
懐へ乗り込んだショウの拳がイシンの顔面ギリギリのところまで迫る。だが、イシンも攻撃を受けるだけではない。腰に備えたトンファー“裁断龍腕”を握り刃が高熱の拳を受け止めた。
「先生も矛盾の間で悩みこんでいる。だから俺も矛盾の中で自分が正しいと思った事をやりぬくのみだ!」
「ですが、多くの人を守る貴方が、多くの人を苦しめるムシカのサムライドであることなんて! 貴方ロードスへ恐れを感じているから……そんな事を!!」
「違う!!」
拳がイシンの頬をかすめ、頬の一部が熱で黒く焦がす。焦がされた頬を彼女は抑えたが、
「俺は先生を信じているから従っている! 先生は自分の考えがリン様に通じる事を信じて戦っているなら、俺は悲願がなされるまで先生の元で死力を尽くすのみだ!!」
「それは違います! 矛盾した考えを持つような貴方に負けたくは……」
「ええい! お前のようにサムライドとして生まれ、何も目標がなくマーズを慕っているだけの奴に俺の考えを否定されてたまるか!!」
何も目標がないサムライド。
イシンの思考能力が停止した。自分はなぜマーズを慕っているのか。それは彼の後継機として生まれ、彼を超える為に今はマーズの元で自分を成長させる為に彼に従っているからにすぎないのか。
それに対してショウは自分にはない目標と自分が及ばない忠義を背負って戦っている。もし、背負う物の重さを比べるとするなら、ショウの方が圧倒的に重いものを背負っているだろう。
「お前のような薄っぺらいサムライドに、俺と先生の志を傷つける事を許してたまるか!!」
呆然としているイシンへ、ショウは彼女の背中へ突き刺さったトライストライカーをさっと引き抜き、ヴァリアブルショットの先端へ柄を繋ぐ。
「志と忠義の間は相反するもの。しかし、俺は二つが重なり合う日を信じて先生の為に戦う事が、俺が出来る事! そして先生も俺と同じ事を信じてマーズと戦っているはずあんだ!!」
「先輩……!!」
「その先輩は今、先生を相手に一騎打ちを展開している! 多分先生が一騎打ちを制すと同じ、お前は俺と一騎打ちの前で、そしてこのフランベルジャーの前に倒されるはずだ!!」
ショウが握るフランベルジャーとは、ヴァリアブルショットを柄として、トライストライカーの全てにエネルギーを宿らせて剣の刃と化した彼の必殺剣である。
今、薄っぺらい理由で従い戦う事を指摘されたイシンを前に、フランベルジャーの刃が振り下ろされようとしていた。
「ええい! クロス・インパク……何!?」
「邪魔するな! どけぇっ!!」
「うわっ!!」
その時偶然か、または陰謀か。運が悪い事にベアドラーゴの進撃する軌道には、ショウが存在していた。
全く回避を試みる気がないベアドラーゴの急接近を避けようとして身体をねじらせるが、巨体の激突は免れずに強大な質量を前にはね飛ばされてしまったのだ。
「ぐ……ま、まさかこれが。先生が言っていた……マナに気をつけろとのことか……」
マナはベアドラーゴに自分を亡き者にするかのように指し向けたのか。甲冑で身を包んだショウでも身体に堪えるようであり、その場で気を失ってしまいバタリと倒れる。
「……」
イシンの意識が覚醒された。目の前にはいつの間にかその場でうつぶせに倒れるショウが目に映り、彼女は脚を動かないショウの前に向けて咬竜点刹を両手に握る。このままショウを刺殺するつもりか。だが、
「私は薄っぺらいサムライドでしょうか……先輩と動機や考えが全く異なっていても、このショウは人間からサムライドとなった身分でしょうか……」
イシンは敵であろうとも目の前のショウを倒す事に疑問を抱いていた。意志が強い方だと自分は考えていたが、ショウと比べれば霞んでしまう。自分より優れた何かを感じたショウを殺める事は、自分の弱さを力で押し殺してしまう気がして仕方がなかったのだ。
「私は何で先輩に従うのでしょうか……後継機としてでしょうか。先輩に実力で格の違いを見せつけられたからでしょうか……」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
イシンがショウの考えに触れて、薄っぺらい存在でもある自分に頭を悩ませる一方、ロードスとマーズ。2人の師ともいえる人物はまた別の場所で激戦を繰り広げていた。
「だから俺は従うつもりはないね! お前の主君が考えている完璧は結局自分一人が柄らソーにしているだけじゃねぇか!!」
「それは……否定できないことだ。じゃが」
車いすの腕置きからレールが展開されて、電撃が彼へ向けて飛んだ。
しかし、ライティングフォームであるマーズは、足に備えられたローラーで疾走しながら、知面へ着弾する電撃を巧みな走法で避けて、足の裏のブースターによる助力でロードスより高位置へ飛ぶ。
「分かっているならお前はどうしてそんな奴のいいなりになっている。俺だったらどうなろうとも立ち向かうつもりだぜ!」
「それは……」
空中に滞空する間、両腕に装着されたロケットランチャーマイトが激しく回転しながら弾薬が彼に目がけて飛び散らせる。
しかし、ロードスのライジンダーには防弾機能も備えられており、腕置きのボタンを押すことで彼の身体をフロントガラスによって守られ、弾薬が跳ね返された。
「ほぅ。防弾機能はなかなか。お前が殻に閉じこもっているようにみえるぜ……」
「何を!!」
「俺は思った事を言っているつもりだ。俺は周囲に流されるままを常とするがな、譲っちゃあいけない所だって弁えているつもりだ!!」
次にマーズは両腕のパーツから二刀流を展開させる。その刃は腕をも振動させる勢いで震え、ライジンダーのパーツを長くのびた刃を震えさせながら切り裂こうとする。まるで彼が閉じこもって見えるようなライジンダーを引き裂かんばかりにだ。
「どうした! お前が逆らわない理由はリンが怖いからか!または俺を恨んでいるからか!!」
「……」
「俺がリンに逆らう理由は、マドカを、あいつらを殺った遠因だからだ! お前と戦う理由はリンに従う部下だからだ!!」
マーズが心の底に宿す怒りは表情の軽さからは思えないほど熱い。例え飄々と常に振舞っていても、幼馴染がリンの取り巻きが殺した事が彼の内にひめた強さと熱さ、そして行動原理を固めているものである。
「お前は何も知らないけどなぁ、俺はお前が従うリンの部下の巻き添えを食らって大切なあいつらを殺されている! 俺はリンの考えも気にくわねぇし、あいつ等の様な可哀そうな運命に陥った奴を増やしたくないんだ!!」
振動するブレードでライジンダーを切りつけていく先に、フロントガラスごしにマーズがロードスに面と向く。
「私を倒すつもりか!だが、私だって倒れる訳にはいかん!!」
フロントガラスの内側でまたも腕置きのボタンを押す。その途端、ロードスの上半身が震えながら底部のブースターにより高く飛びあがる。
この手段をマーズは考えていなかったのか、発射時の衝撃によって地面へ叩きつけられそうになった。幸い足からの逆噴射を活かして軽やかに地面へ着地するが、上空へ飛びあがるロードスは彼を見下すような位置に構えた。
「わしがリン様に従う理由は忠義にあるのみ。リン様に仕えて忠義を尽くす宿命は世界が変わろうとも、リン様が存在する限り変わる事はない」
「忠義か……俺には程遠い話だぜ」
「何、お前は人として生まれて忠義を知らないのか?」
「親父やおふくろには一応感謝していたが、忠義って言う程堅苦しいものじゃねぇ。あと俺は人を慕うのも苦手、慕われるのも苦手だったりするからなぁ」
マーズは忠義に殉じる硬派かつ一途な男ではない。自分は好きなように生きる考えがマーズに確固たる信念として宿っており、ロードスから不孝者と呼ばれたが、首を軽く左右に振ってニヤッと笑う。
「あんたは忠義を誇りにするが、俺はその二文字に縛られたくはないぜ、元々俺は縛られずに適当にぶらぶら流れて生きる事が性にあっているからな……」
「なるほど。なら、お前をここで仕留めるのみだ……グランドフランキー!」
上空でロードスはライジンダーのパーツへ指揮を送るとともに、変形を開始した。底部から巨大な砲門グランドフランキーが展開されて、先端の底から車輪が展開。
姿は3輪の車両と化したライジンダーが、グランドフランキーを力の象徴としてマーズを徹底的に追いまわしてくる。
「ほぉ。随分物騒な兵器で追いまわすものだな」
後ろの巨大な車輪は電撃に包まれ。側面からは鋭利なスパイクが展開される。大車輪スパイカーとシャリンダースパークが展開されてロードスに襲いかからんとするが、マーズも両足のローラーで必死に逃げる。
「こんな物騒な車いすなんて作っちゃって……けど逃げるのもやっとの事か……ここでライドクロスしたらこいつにやられちまう」
マーズは後ろ向きに走りながらライティング・ライフルを吹かせて攻撃を開始するが、グランドフランキーは迅速に砲撃の直撃を免れ、また自分との距離を確実に詰めていく。
「こいつ、かわしちゃって……のわっ!!」
ここで、マーズは足場の瓦礫に躓いてしまい、後ろに倒れ込んでしまった、これにより一方的に距離は詰め寄られてしまう。
だがマーズの表情は全く変化がない。飄々としているのは覚悟を承知か、あるいは何か勝機があったからか。そうこう考えている間にグランドフランキーはロードスの脳波によりエネルギーを蓄えられていく。
「マーズ、あの頃の私に挫折を味あわせた男として評価してやるが。ここで引導を……!!」
その時だ。ロードスの元に鷹の姿をしたメカが飛び、フロントガラスを開いた彼の手の元に到着すると、彼は見た事もないような表情を浮かべた。すぐさま、鷹を離して慌てて自分の元から離れていった。
「何があったあいつ?」
一瞬グランドフランキーへのエネルギーの充填速度が鈍った事を見逃さず、この機を逃さなかったマーズは砲撃を寸での所で避け切る事に成功した。
それからもマーズをグランドフランキーが追撃を試みるも、ロードスが突如その場から離れてしまったからか、勢いに精彩を欠きマーズが逃げ切る事は特に問題ではなかった。
(急にどうしたっていうんだ……いったい何があったか知らないけどよ)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ぐわははははは!!」
「ぎゃぁぁぁっ!!」
「アッー!!」
ベアドラーゴの勢いは、激戦区へ突入しても止まらなかった。5人分のサムライドが合体した左手の拳は余りにも重い拳であり、マナが変形した右手はビーグカイザースライサーを片手にバッタバッタと切り捨てていく。
「ベアドラーゴ様、お見事なものです」
「がはははは! 力で地無力をねじ伏せる事はいつの時代も面白いことだのう!!」
「それはなにより。ですがベアドラーゴ様。私にもやらなくてはいけない事があります。そろそろ私を手放してください」
「そうか……まぁよい。ならお前は任務を果たすのみだ!!」
ビーグカイザースライサーを地面へ投げ捨て、スイングされるように左手が飛んだ。
左腕の拳のパーツが元の形態へ戻り、鬼の面を着用したマナが現れ、パーツの両側からは光によって構成された羽を展開。空中の量産型兵器を翼で打ちながら彼女も飛ぶ事を続ける。
「リン様は激戦の中。しかし!」
マナが見据える視線はシヒロスの上で命令を送り、魔法を駆使してリュウハクと応戦するリンのみ。
彼女は全力を挙げて急ぐ。だが、彼女の視界の先に量産型兵器として見覚えがなく、また自分を攻撃しない。不信感を抱かせる鷹の機体が目に入ったのだ。
「リン様!(あれは私に見覚えがない機体。ひょっとしたら……)」
裏に一物を抱えながらリンの元へ距離を縮めていく。ちらっと目にしたリュウハクがちょうど背中のローターブレードをブーメランとして投げ飛ばそうとしている。
「マナ……」
「ここは危険です! 私が……」
放たれたローターブレードから身を挺して庇うようにマナがリンを抱き寄せる。だが近づかせたマナの右手には、2門の砲門が彼女の脳を狙おうとしていたことを。自分を守ろうとするマナと、リンは気付いていない。
「そうはさせんぞマナ!!」
だがしかし、激しい勢いで上半身だけのロードスが、上半身よりも長い刃を持つ刀“雷切”を片手に猛スピードで距離を詰めていた。
さて、ロードスが突如マーズへの引導を渡す事を止めたのは、先程マナが疑問を抱いた鷹メカ“ギンチヨ”の存在にあった。
リンの戦いを監視して、万が一の危機に備えるためにギンチヨを送りこんでいたのだ。マナの至近距離でリンを暗殺しようとする動きをロードスは見過ごさなかったのだ。
「お前の考えどおりにさせるわけにはいかん!!」
よってロードスは雷切をマナへ向けて投げ飛ばした。電流を帯びた刃先がマナを仕留めんとするが、この襲撃に対してマナは落ち着きを保っていたのだろう。素早く身体を動かした事が答えだ。
「きゃあっ!!」
「何……だと!?」
ロードスは最後の最後で答えをひっくり返された。
マナが避けようとした所で雷切の先端がリンの背中に突き刺ってしまい、彼女はマナの抱擁から転げ落ちるように地面へ横向きに叩きつけられてしまい、同時に彼女が肩に乗っていたシヒロスの身体が消滅していった。
「ロードス殿! どのような気があってそのようなことを!!」
「なっ……!!」
「私はリン様をお救いしようとしたのに、何故攻撃を加えたのですロードス殿!!」
「……」
マナにもちろんその気があった。だが彼女はあくまで偽りの忠義で本心を上塗りして、真の忠臣であるロードスを逆臣へと陥れようと動いている。
「何が……あったの?」
「何も言わないでくださいリン様!それより急所を外れているのでまだ間に合います!!」
「引くの?」
「今はリン様の無事が最優先です! ロードス!!」
「は……はっ」
「全員! ここが引き際です!!」
リンにはナンバー2のように、また有事における指揮官として部下に指揮を送る。
彼女に対して、ロードスはリンを殺めかけた真似をしてしまい、精彩を欠いたかのような表情のままおそらくライジンダーの元へ上半身は去っていった。
「……何があったんだ、かったるい」
「リュウハク! 何があったんだ!」
「先輩。俺にも何が何だか分からなくてかったるいが……ロードスとかがリンと同士討ちを起こして……全員撤退だ」
「……どういうわけだ」
マーズには分からなかった。リュウハクから聞いた同士討ちの話に、忠義を誇るロードスを操っていた何かの存在を感じずにはいられなかった。
だが通信機からの連絡が入り、マーズはすぐに耳に当てた事から、ますます何かの存在への確信を強めていった。
「どうした。ナガマー」
『すみませんマーズさん! 監視を兼ねて自分が保護していたアンティアが少し目を離した隙に逃げられてしまいました!!』
「まさか……!」
通信機から聞く所では、マーズはアンティアがこの戦いを仕組んでいたのではないかと思った。
それは、ひょっとしたら……自分はあの女に利用されて、この戦いに挑んだのではないだろうか。まるで自分を仕留めるよりも別の場所にいる敵を倒すかのようにだ……。
「どうやらあの女に一杯食わされたようだな……まいったね」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アンティアという女性に仕組まれたと思われる九州の戦いが幕を下ろした。しかしこのサムライドの戦いはまだ終わっていない。
カズマ・ソゴウ。虐拳鬼賊の前に重傷を負っても彼の闘志は尽きない。むしろ闘志は四国へ向けられていたのだ。
「大人しくここで眠る方が僕にとっては簡単な事だ……でも僕がここで戦う事を止めたら、兄上の危機を救う事も出来ないし、反乱を許してしまった僕の兄上は笑い物にされてしまう!!」
カズマは許す事が出来なかった。反乱を起こした者達もだが、許してしまった自分も許せない存在。何か報いる、尻拭いを行う事が自分が出来る贖罪の様な気がしてならないのだ。
「部下の統制を取れない者を兄上は許さない……僕だって許されるかどうかわからないけど、四兄弟の末弟として、また兄弟一の武を誇った僕に大人しくこの世界から存在を消す訳にはいかないんだ!!」
四国へ帰還しようとするカズマだが、四国は既に自分の本拠地ではない。センゴークによって率いられた反乱者達が集っている敵達の巣窟だ。
「現れたな……カズマ・ソゴウ」
「私たちフォースエリアのサムライド達は黙っていないんだよ!!」
「うむ!!」
「コウ、ワルディ、ドイ・ドイ……お前らまで生き延びていたのか!!」
「「「そうだ!!」」」
彼ら三人は自分に叛意を向けた者。元から許せない存在だったが、彼らが今自分の目の前に現れて、また敵として襲いかかっている。
何かを諦めたカズマの表情は冷静さを取り戻すが、だからと言って苛烈ともいえる闘志を屈す事はプライドが許さなかった。
「俺は元々フォースエリアのサムライドで敵対関係。お前の侵略に従ったのもこの機を待ったためだ!!」
「ふざけた事を言って! この傷で3機を、それらの編隊を相手に……ならマグナ・オリファンツだ!!」
このままでは死ぬ。カズマは覚悟を決めた。
ライド・マシーン“マグナ・オリファンツ”からは、ジョイントらしきパーツが飛び、前部と後部が折れ曲がる。
マシーンの折れ曲がった状態でカズマに覆いかぶさる直前、彼は自分の顔に手を当てて自分の顔を外した。彼の端正な表情の下には精密な機械が集まった姿、まるで不気味な、無機質、しかし鬼気が迫っているような表情だ。
そして内から込みあがる鬼気を外見で表すように、ジョイントパーツが顔面へ接合されると、彼は夜叉の様な鬼面を見せつけて現れた。
「ライドクロスしたのか!!」
「そうだ! 百鬼夜行形態は僕の怒りの表れ!!兄上を汚す者はもちろん、僕を侮辱するような真似をする者も……皆纏めて始末してやる!!」
「ちぃっ!!」
空中を飛ぶカズマを前にドイ・ドイの放つ手裏剣が彼を狙う。
しかし、両肩間接に装備された柄を引き抜くことで、現れたビーグエイツサウンザーツが手裏剣を打ち付けて叩き落とし、また空中から迫るアロアードにも鞭が叩きつけられる。
「兄さんの足を引っ張った罰で、僕の顔は醜いものとなり、戒めとしてこの鬼面を被る。この鬼面を被った時に僕の負けは許されないんだ!!」
「うわっ! さ、させるか!!」
「それに、一度でなく、二度も刃向うお前たちを許す訳にはいかん!!」
コウにはビーグエイツサウンザーツの刃を、ギリギリ肩に触れさせて、まるで圧力をかけるように彼の動きを封じ込める。
この状況を打破しようと、肩を切り落とされないように、微細な力加減で素早く西洋の姿を模したサーベルを引き抜き、胸を貫こうとする。だが、
「スピニングメガロブラスト!!」
「何!? うがあああああああ!!」
相手を打ち付けたり、切りつけたりする戦いがカズマのやり方ではなかった。
鬼面の穴が赤く光り、業火がコウの顔面へ向けて吹きかけられ、顔に炎が燃え移ったコウがサーベルを捨てて、顔面を炎に燃やしながらもがき苦しみながら、すぐに身体が硬直した。
「な、なんという……逃げるが勝ち」
「ならばくたばれぇ!!」
「ぐはっ……む、無念……!!」
コウがやられた。カズマから命を守るために、逃げのびようとするドイ・ドイをカズマは許さなかった。そして、フェンサーショーテルを投げつけ、背中に弧を描く刃が突き刺されば、無念の二文字と共にドイ・ドイは力尽きたかのように倒れ込んだ。
「これであと一人!!」
「ひぃっ!!」
「ここまで来て逃がすものかぁ!!」
カズマの執念と憎悪が自分を押しつぶそうとしている。ワルディは右腕から展開されたワイヤーを瓦礫に隠した円盤状のライド・マシーンへ絡みつけて、それを足代わりにして低空飛行で逃げのびようとする。
彼女の右手にはビームガンが光を噴くも、カズマはこれを避けながら相手を始末しようと燃える魂を宿してワルディを追う。
「は、速い!!」
「これで貴様を倒せば! 後はセンゴークを始末するだけだ!!」
ワルディとの距離は着々と詰めている。これなら自分のショーテルで首を掻っ切ることが出来る。自分に一度恥を掻かせた相手を3人とも始末する事が出来れば屈辱を晴らせる。
あと少しだ。あと少しで僕は屈辱を晴らす事が出来る……。
「……ケケケケケケ」
「何……!?」
しかし誰か? ワルディが逃げる方向からは猛スピードで黒い影が近付いている。その影は徐々に大きくなるにつれて蝙蝠のように禍々しい羽を開き、薄い赤紫の髪が妖しく風に揺れ、何処か桜色をした両手には長き柄と刃を備えたデスサイズがキラリと妖しく光る。
「お、お前は誰だ!!」
「シャァァァァァァァァァッ!!」
カズマの問いを聞く事もなく、その彼女は両手に大釜、カズマは両手にショーテル。空中で蝙蝠と夜叉が激突。飛ぶのは血ではなく火花だ。
「……!!」
「シャァァァァッ!!」
刃と刃がすれ違った瞬間女蝙蝠はにやっと笑い、夜叉の腰が鋭利なデスサイズによって半分以上切り裂かれた、今、彼は空中から地面へうつぶせの状態で叩きつけられた。
「シャァァァァァッ!!」
「な、何か知らないけど助かったのね、私……」
その少女はカズマに引導を渡そうとする。命拾いをしたワルディは見知らぬとはいえ、自分に味方する彼女に安どの表情を受けべるが、
『ならぬ……』
『分かってるよお姉ちゃん! 目の前の女をやっちゃえー!!』
「シャアッ!!」
「え……?」
しかしその女蝙蝠はワルディの方向を振り向いて、一瞬のうちに鋭利な刃が胸を貫いて絶命させる。
これによりワルディは始末されたが、突如四国の、高知の暴れ回った彼女はふらりと揺れてバッタリとうつぶせに倒れた。瞳は狂気の赤からけがれを知らない青へと変わったが、すぐに瞼が彼女の光を閉ざした。
『あんたの秘密兵器もまや不完全な所か』
『そうだねぇ。やっぱ覚醒させたばかりだったからね、もう少しテストをした方が良かったかな~このボンクラ』
三者が倒れる中で2人の影が迫る。そのうち一人はどこかのサムライドのように京都弁を使い、紫の長髪もそっくりだ。
『でもお義姉ちゃん。カズマを始末するよりワルディとかを何故始末させたの?』
『いっぺん反旗を翻どしたモンを信用しはる事は危険や。わての身が危うくなるか、不満を感じた時に手を噛まれへんさかいな』
『あ、なるほど~んで、この馬鹿達はどうするの? お義姉ちゃん』
「あわわ……」
彼女が指す馬鹿達とは、2人の後ろで従者の様に従わざるを得ない3馬鹿の事だ。ワルディが始末されたのをみて、彼らは恐怖に晒されるが、
「まぁ、どなたはんらには一応恩を貸して、これさかい恩を返してもらう約束をしておる。まぁうちの手あいやとして働いてもらうのも悪くはへんやろう」
「ほっ……」
「一時はどうなるかと思ったノーネ」
「これでいいのですかな……?」
幸いにも、アンティアの計らいで3馬鹿達が散る事はなかった。そして彼女は、三馬鹿の事など知ったかのように無視して、ゆっくり笑いながら倒れるカズマの元に近付き、頭をこつんと足先をぶつけさせた。
「ぬ……お前が、だが、誰だ……」
「そうや。うちがなぁ……」
カズマが顔を上げるとアンティアの顔が真上に見えた。しかしアンティアは徐々に背丈を縮めていき、小紋が背丈に合わせて段階的に収納されていく。顔も徐々にあどけなく、幼い顔立ちになっていくも、何かを練るような腹黒さは変わる事がない。
最後に足元まで垂れた頭髪をツインテールにまとめた時の姿は、どう見てもヒララそのもの。妖しく揺れる薄紫の髪には、今までカズマへ見せなかった悪しき表情を浮かべながらだ。
「ヒララ……貴様!!」
「すまんのぅ。お前が四軍団において最も騙しやすく、騙す価値があるものだったからな……」
「貴様がよくも……うぐわっ!!」
カズマの心はまだ折れていなかった。しかし、重傷の身であり、攻撃をヒララへ加える事が出来る程体力は残されていない。
その間にヒララの背中からは、自分に尾身体以上のサイズを誇る蜘蛛の足が、もう一押しと彼を串刺しにする。
「あえて即死は避けた。お前に辞世の句ぐらい言わせてやってもいいと思ったからな」
「な、何だと!? 僕はまだ……」
「いくぞ。もうあの者には死を待つのみじゃからのぅ……」
「うん!」
「「「は、ははーっ!!」」」
「待て!待て……ちくしょう!!」
ヒララは後を追うチカと三馬鹿と共に、カズマはもう虫の息とみてゆっくり去っていく、ただかつての南部軍団宿聖が待て待てと叫んでいる事も、今では虚しい喚きにしか聞こえない。
立ち上がって追いかけようとするが、何度も右ひざを地面へ着かせてしまう程の深手を負い、そんな状態で自分が一歩一歩迫っても、ヒララ達は既に視界から外れた所にいる。どうやっても自分は追いつかない。
やがて暫くして、表面では強がっているカズマだが内心では諦めがついた。目の前には瀬戸内海を下に従えた絶壁が存在していた。
「兄上……僕は愚かな弟です。九州征伐もできず、部下の反乱を許してしまう。カッター兄さん、アタク兄さんにも及ばないまま……」
視界が徐々に薄れていく。絶壁へ近づくと足取りも徐々に重くなっていく。もうここまでであると自分の最期を悟ったカズマには、最期にすべき事があったのだ。
「僕にできる事はただ一つ。偉大なカッター兄様、アタク兄様には及びませんが天から兄上を支え、見守るのみ。僕には兄上の支えは務まらないし、足手まといになるだけだ。この失敗からは……」
死に際になって自分が凡才にしかすぎず、偉大なる兄たちの足元に及ばない事をカズマは感じた。
どうせ、自分の行いがケイに手を焼かせる位なら、自分は遥か空へ昇った方がケイの手を煩わせる事がない。それは余りにも悲しい決断であり、無能だと悟った自分は兄上の弟であろうとも組織には、兄上には必要ないと自分を自分で裁いた結果だった。
「兄上、気を付けてください。ヒララ・ウィドーは兄上に災いをもたらす存在です」
カズマが届いているかどうかわからないが、ケイへ最後の忠告を送る。そして鬼のような面を外して、元の端正な顔を装着した時、カズマの足元に雫が少しずつ濡らした。
「……」
目からは雫が自然と漏れる彼の表情は、諦めによって意地を捨て去った。穏やかでありながら虚しい状態だ。
自分に引導を渡す為、最期に切断された箇所へ手を入れて内部の機器を握りつぶせば両目が見開いた。
「三光同盟に……兄上に栄光を!!」
今、彼はゆっくりと前へ倒れ、奈落の海へ身体が吸い込まれるように消えた。
それから小さな爆発とともに何箇所かで水しぶきが上がったが、彼はしばらく浮き上がる事もなかった。
ただ鬼面が水上に暫く浮かび上がっていたが、やがて流されながら海底へと沈んで消えていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……」
「これが、カズマ様の亡骸です……」
カズマの残骸はセンゴーク率いる南部軍団において迅速に回収が行われ、胴体が爆発した影響で身体はちぎれ果てていたものの、そう時間が立っていない状態で回収作業が開始された為、カズマの遺体は原形に近い形をとどめていた。
だが、最期であったことには変わりはない。センゴークによってカズマの遺体が運ばれたが、ケイは表情を変えてはいなかったが、自分が手にしていた剣を地面へと落としてしまった事から多少とも狼狽をしていた模様である。
「カズマが死んだだと……そんな、そんなことが……」
「はい。カズマ様はコウ、ワルディ、ドイ・ドイを始めとする反乱分子により不意を突かれ……組織不統一の責任を取る事もあり、反乱分子を潰し、九州征伐を意地でも完遂しようとした所、マーズ・グイシーに……」
「マーズ・グイシー……がだと?」
「はい。カズマ様の敵討ちはこのセンゴーク・ヘツギスが南部軍団2代目宿聖として……」
『へへ! 俺はケイの弟だからって権勢をふるおうとするカズマが気にくわないんだよ!!』
「「!!」」
その時、センゴークの野心はいきなり覆される事になった。突然自分が口にしていたカズマを亡き者にする野心がケイに知られてしまったのだ。
『武闘派にも色々あってよー! カズマが死ねば、俺が武闘派のトップに就く事は間違いなし! あんな奴の指揮下に収まらなくてもいい訳よ!!』
「な、何でこんなことに!!俺の計画は完全に用意周到なもので……」
「……」
さらにその野心はケイに漏らされる、センゴークが自分で作戦を漏らしているが、それに気づかず彼はあたふたし続けている。
『そうだ! お前はもう南部軍団にいる資格はない、この九州で死ねばいい!!』
「お、俺の頭脳の……これ……ぐわぁっ!!」
センゴークは気付いた。先程量産型兵器を操る為にマサが用意したコントロールパーツに、彼は細工を施したと告げた。その細工はセンゴークの野心を感じさせる言葉を録音したもので、まるでこの時を分かっていたかのように、野心がばらされてしまったのだ。
頭のトラップに気付いた時は既に遅し。センゴークの脳天はコントロールパーツごとケイの凶弾に貫かれ、倒れた彼の頭部はコントロールパーツの爆発と共にした。
「カズマを……今となってはたったの弟であるカズマをよくも……!!」
振るえる両腕でカズマの胸と腹に手を当てるとケイの身体が震えた。今彼は感情に走ろうとしている。センゴークを容赦なく射殺した時、彼の顔はカズマにして、この兄があるかのように鬼気に満ちたものだった。
「カズマ……お前に私は厳しすぎたのか……俺はお前に無理を強要してしまったのか……」
もしカズマが今も無事ならば、どのような返事をしたのか。多分兄の足を引っ張らないとばかりに、カズマは無理をしていただろう。今回の戦いもプレッシャーに押しつぶされた末に、玉砕を選んでしまったのか。
「カズマ、私はお前にたった1人の支えとして、また万一の際の後釜としてもっと強くなってほしかった。お前に死んでももらうために鬼となった訳ではなかった……」
悔むように拳を握り、腕が震えるが今となっては後悔するにも遅すぎた。
「……」
「ふふふ。センゴークのように我が強いサムライドに宿聖へ就かれたら私の計画は狂ってしまうからな。最も裏切り者を信用できないものだがな」
沈黙が支配する本拠地をヒララとミョシ・ツグールの影があった。だがミョシ・ツグールの表情は生気が失われ、まるで彼女の操り人形のようにボーっとしている様子だった。
2060年7月13日。南部軍団宿聖カズマ・ソゴウ戦死。三光同盟の重要人物である彼の死は、ケイへ、そして三光同盟全体を激しい波へと誘おうとしていた……。
続く