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第20幕 進撃、南部軍団! 策謀の九州征伐!!

「この南部軍団の領土は四国ほぼ全域、京都、奈良! そして兵庫、大阪の一部!! 領土からは四軍団中トップに当たる!! しかし!!」


 南部軍団が誇る薄墨色の拠点シキサンダー。蜘蛛を模したフォルムのこの拠点、その最上階にそびえる宿聖の間でカズマは叫んだ。

 彼は四軍団のうち、南部軍団の宿聖であり、大陸時代からケイの末の弟として、唯一の重臣でもあり、己の武勇を大陸へ轟かせて、戦乱の夜叉との肩書きを持つサムライドだ。

 彼は武将に例えるなら家柄、実力とも申し分なしの御曹司。それゆえにプライドも高く、自分を追いこそうとする味方に焦りを日々感じていた。

 カズマが叫んだのも自軍団の勢力を誇るものではない。焦りを感じているが故だ。


「東部軍団は紅き軍神ゲンが率いる風林火山の精鋭が長野を勢力下におき、西部軍団ではあの似非坊主の軍団がどういうわけか兵庫を平定した! だが!!」

「「だが……?」」

 何故か堂々とした振舞いで2人の側近には、何かをやらかすかのような笑みを見せる。

「まず、四軍団のトップはこの僕だ! 兄上の弟であり、戦乱の夜叉の肩書き、僕一人が広げたこの勢力圏がその証拠だ!!」

「カ、カズマ様……」

 自分があくまでもトップである。持ち前のプライドから出たカズマの発言を、皺が刻まれた丸顔を持つサムライド“ガフサー・シノファー”が言葉を挟む、

「お、お言葉ですが東部軍団は五強の一角でして、彼の軍団は大陸屈指です。カズマ様の地位は最もですが、もう少し他の軍団を評価すれば……」

「他の軍団を評価しろだって?ははははは……」

 ガフサーの諫めが主君へ届くが、その主君は言葉を聞き入れようとはせず、大きく口を開けて笑いだす。諫言を信じないかのように。


「五強であろうとも、所詮地方のサムライド軍団にすぎないね! それに、僕の考えに指図が許されるのは兄上とカッター、アタク2人の兄様のみだ!!」

「は、はぁ……ですが特に東部、それについで西部の勢いは確かなもので」

「むぅ……」

 大陸に名を轟かす者たちが集う東部軍団を地方の一集団と軽く見るカズマ。ガフサーはそれでも再考の機会を与えるように、現状を告げると顎に手を当てて考え出した。


「確かにこの2軍団が進撃を続けているから、僕の立場が危うい。僕は3軍団のトップとして君臨するには自分から動かなければならない」

「カズマ様、3軍団とは……」

「ミョシ・ツグール。どういうことだ」

 ガフサーの隣に控えた、紅白のヘルメットと甲冑を纏ったひょろひょろの男ミョシ・ツグール。もう一人の側近である彼は三光同盟が4軍団ではなく、3軍団であることを突っ込むが、


「それはないね。あの北部軍団の宿聖が率いる軍団は烏合の衆だね」

「そうですか……」

「その通りさ。100歩譲ってゲンと似非坊主を認めても、あの尻軽女はシンとかを相手にコテンパンにやられたじゃないか」

「ま、まぁ確かに……あれだけの軍勢で北部軍団は破れていますからねぇ」

 カズマが嘲笑するようにサクラを叩く。理由は北部軍団宿聖サクラと北部軍団がシン達に見事な敗北を喫した事が原因。常に彼女を見下していたカズマだが、その敗北が尚更彼女を見下す理由に繋がっているのだ。


「最も兄上はともかく、ぼくですらあのシンを倒す事は容易い気がするね」

「そうですか……」

「そうさ。それに僕にも考えがあってね……おっと」

 呆れが混じった面構えでサクラの無能さとシンへの軽視を露わにするカズマ。しかし、カズマには計画があるようで、思わず口に出しかけてしまい、自分の口を塞ぐ。


「考えですと? いったいどのような考えがあるのですか……」

「それはまだ言えないね。時が来たらしっかり公表して兄上に許しをもらうつもりだ」

「は、はぁ……」

 部下2人はカズマの考えを一応知りたかった。しかし、自分がトップであることのプライドによる強気な意見ではないかとうすうす察知しており、自分達が反論をすればどうなるかわからないと思い敢えて追及はしない。

「それより僕はこの時までやらねばならない事を告げる為にここにいるんだ」

 ここで本題に話が切りかわる。スクリーンのボタンを押されて、拠点周辺を上空から撮影した映像が、ロングとして日本全土を映し、それから九州地方へスクリーンが移動する。


「九州地方ですか……そこに何かが」

「そうだ。九州地方は三光同盟の勢力が及ばない地方。そして僕の勢力圏が軍団において最も近い!」

「ということはまさか……」

 側近たちはカズマの計画を察した。今、彼は両肩からショーテルを引き抜き、ビシッと振舞い口が開かれた

「そうだ! 僕は、いやこの南部軍団は総力を挙げて九州全土を支配下に置く!!」

 カズマは堂々とした自身の溢れる面も地で叫んだ。勢力圏では最高を誇る南部軍団は迫る競合相手に水を開けさせるために、今回の九州への征伐を考えたのだ。


「九州のサムライド達は無名の者ばかり。僕の力と四国まで広げた兵力を押し出してしまえば九州を手にすることなど容易い事さ」

「それはなりませんぞカズマ様!!」

「何……」

 誇らしげに自分の考えを主張するカズマだが、ガフサーが強く反対を主張した。上機嫌の彼が振り向く時は何やら歯がゆい表情を浮かべて、鋭い目つきでガフサーを指さんとする。


「カズマ様、九州に勢力を広げるサムライドは皆ナインステイツのサムライド達です!」

「それくらい僕は知っているさ! それがどうしたのかい!!」

「カズマ様は名前だけしかナインステイツを知りませんが、ナインステイツはビーグネイム大陸において最も技術が進展された地域です!!」

 ガフサーがナインステイツのサムライドが持つ恐ろしさを口にする。大陸時代、本大陸から少し離れた島でもあったナインステイツは、他大陸との技術交流を経て独自の発展を遂げた。そしてその技術が大陸の戦いを陰ながら支えていた存在であることを


「ほぉ。ナインエリアのサムライドは大陸最先端の技術が集う国か」

「はい。複数のライド・マシーンによるライドクロスの互換性を売りとするマーズ・グイシーが率いる突破」

「7体のサムライドと合体して圧倒的な破壊力を生むベアドラーゴと私達にはとても説明できないような能力を持つリン・フランシスコが率いるシムカ。どれも手ごわい軍団だと……ひっ!!」

 ガフサーとミョシ・ツグールの報告では九州のサムライド達は、同盟から選りすぐったサムライド達と互角の実力者であるように聞こえる。しかしカズマが右手に握ったフェンサーショーテルの刃先を、2人へと突きつける。


「だが、そんな彼らでも大陸時代に名前が知られていなければ意味がないもの! 都の守護神である兄上を武で支えたこの戦乱の夜叉の敵ではない!!」

「あ、あわわわ……」

 ショーテルを側近に向けながら眼光を光らせるカズマは、自分の考えを正当化へ強要する絶対王政の君主そのものだ。

 ミョシ・ツグールは腰を抜かして凶刃から遠ざかりながら頭を何度も下げるが、もう一人の側近ガフサーは一向に諫言の姿勢を引かない。

「カズマ様! そのような事はありません! そのような事は……!!」

「ええいくどいわ!!」

「なっ……!!」

 フェンサーショーテルが首を宙へ飛ばし、ガフサーの身体が制御を失ったかのように倒れた。側近を殺めたカズマは冷笑を浮かべてミョシ・ツグールを見ると、彼は完全にすくみあがり、ガタガタと身体の震えが止まっていない。

「お前達事務派には分からないけどね、所詮戦いたくないからそう言っているだけなんだろ!? 違うかいミョシ・ツグール!」

「は、はい! お、おっしゃる通りです!!」

 刃向えば自分が殺される。命あってこそと考えるミョシ・ツグールの判断はすぐに宿聖の間から逃れた。最もカズマは彼を自分の意見に刃向わない。いわば危険に及ばない相手と見て、敢えて彼を追う事はしなかった。


『やれやれ。カズマ、武人たる者は部下からの信頼を得られないものだな』

 1人しかいなくなった宿聖の間。機器に備えられたモニターにはスネーク・サイドの姿が移された。

 北部軍団の豪将である彼はカズマからすれば功名争いにおけるライバルの1人だろう。

 しかし、彼もカズマも武人であることと、上や同格の者にも折れない自尊心の高さからウマが合ったのだろう。軍団の壁を越えた通信はどこか微笑ましい様子である。


「ふふ。僕はまた分かっていない部下を倒してしまったよ」

「分からないなら殺してしまえばいい。お前が一人でここまでやった事は知っている」

「あぁそうさ。でもこう人から評価されるのは悪くないね」

 スネークからの賞賛がカズマの苛立つ心を揉みほぐされるようで心地がいい。彼は優れた部下を持ち、彼ら部下との協調があって勢力を確固たるものとした3軍団とは違う。南部軍団は常にカズマが敵地に切り込んでその勢力を広げてきた。


「僕にとって尊敬できるのは兄上のみ。僕の部下なんて所詮僕の手が回らない所にいれば十分な間に合わせなのさ」

「なるほど。だからあの事務担当を殺しても大丈夫と言う事か」

「その通り。事務も僕一人で何とかなるし、余程不利な状況に陥らない限り僕一人で道を切り開けるからね」

 カズマの部下が不甲斐ないかどうかは分からない。だが、カズマ自身の力が南部軍団を強力な軍団としている。南部軍団は彼一人のワンマン軍団である考えは確かである。

「カズマ、あの計画本気で乗るのか?」

 スネークから計画について話に切り出される。おそらく部下へ漏らしかけた計画の全貌であり、カズマは期を待っていたかのように、腕を組んで髪の毛をいじりながら微笑んだ。


「当たり前じゃないか。使えない軍団を粛清して、君と僕の武闘派が手を組む新生軍団。この合体軍団が強いはずじゃないか」

 北部軍団の粛清、南部軍団との連立軍団の結成計画。己の武を全てとする新軍団を生みだそうとするこの計画はスネークの葛藤が引き金となった。


「俺はシンを倒す為に敢えて北部軍団へ留まったが、シンを倒すには障害が多い事をに気付いた」

「障害ね……シンの実力じゃないだろ?君の実力からすれば」

「当たり前だ。俺はミラン、身内の策謀でシンを倒す機会を逃して、危うい所で破壊される所だった」

 スネークが抱える軍団の癌はミランの存在だ。サクラのナンバー2に執着する彼は、例え対象が寵愛を受ける事を考えていなくとも、サクラの目に止まる危険が及ぶ実力者を次々と始末しようとしていた。スネークも勝機を逃し、危うく破壊の一歩手前に陥り、同じ武芸者であったマガラーナは姦計の前に犠牲となったようである。


「マガラーナ・オタカルド。あの者も武闘派だったが……ミランの罠で散ったのは本当だったのか」

「俺が思うにはだ。俺も警戒しているが、武闘派はこういう奸臣に足元をすくわれかねない。だから気を付けろ」

「なるほど……」

 シンを倒す事しか考えないスネークが同僚へ気遣うことは珍しい事だ。だが、カズマは忠告を素直に受け入れるも、冗談も程ほどにとの軽い感覚で、身内の危機を認識していないようだ。


「僕の部下は所詮寄せ集め。僕を騙せるサムライドなんている訳ないじゃないか」

「そうか。しかしカズマこの通信は傍受されていないか?」

「大丈夫。今ここにいるのはこの僕だけ。そちらもあの尻軽女が重傷を負わなければこのような通信は出来ないだろう」

「あぁ。今ミランは回復中で動けない。俺は彼の取り巻きに触れないよう振舞っていれば大丈夫だ」

 通信の会話は収束へと向かう。共同作戦が成功した暁に、2軍団をトップとして束ねてカズマが三光同盟のナンバー2の座へ就き、スネークは内部に縛られる事無くシンを倒す事が出来る。作戦は2人の利益が一致して行われるものだ。

「ではカズマ、九州征伐をぬからないようにな」

「そちらこそ、この計画を気付かれないよう、また出来る限り都合のいい御膳立てを頼むよ」

 2人はそれぞれの無事を祈って通信を切った。カズマは彼との共同作戦が待ち遠しくて仕方がない。握った拳に顔を向けて前座ともいえる九州征伐に向かう自分へ気合を入れた。


「九州を制圧次第、降伏したサムライド達や部下どもに助命、昇格を餌にして、一組は西部軍団の陽動、そしてもう一組北部軍団へ殴り込みをかける。スネークはサクラを守るどさくさに反旗を翻して邪魔ものを始末……この作戦の為に九州征伐は不可欠だからね!!」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「おい、聞いたかヨシーマ?ガフサーが討たれた事を」

「あぁ聞いたでごわす。ガフサーが九州征伐を反対したらカズマ様を粛清されたたい」

「オーノーイッツアハーラーキーリー!!」

 噂はほんのわずかな穴から漏れてしまうものである。ガフサー殺害の件は、ミョシ・ツグールが漏洩したか、または自然現象か。この三馬鹿にも噂は広まってしまい、彼らは動揺している模様だ。


「しかし、カズマ様を実兄の情で再度宿聖に就かせた結果がこれとは困ったものたい」

「なぁ、ガフサー様の話だと九州のサムライドってかなり強いらしいぜ。ケイ様と戦ったあの時は、まだ地域レベルの戦いだったし、両方が疲弊した所への介入だったからなぁ」

「今度の戦いは九州オールスターね!!」

「「はぁ……」」

 何も考えていないであろうイワーナを除き、2人は今回の戦いを不安に抱いている模様。

馬鹿は馬鹿なりに憂慮するのか。だが九州の全員にケンカを売る真似をしでかすカズマの行為が無謀である事は、あながち間違いではない。


「なぁ、俺達そろそろ夜逃げを考えた方がいいんじゃね?東部軍団とかさ」

「そうですたい。でも東部軍団部下が全員強いようなものだから俺達用無しですたい?」

「まさにラ・フランス!」

「「……」」

 イワーナのギャグは洋梨と用無しをかけたのであろう。しかし、一応今後の自分を左右する問題にギャグを挟まれて、乗ってやれる程2人は余裕じゃない。

 ヨシーマは「俺達は合体があるじゃないか!!」と使われる可能性を掘り出して、希望を見出そうとしたが、


「そりゃあ合体すればいいものの、合体には時間制限があるし、あの風林火山が束になったら合体しても勝てるかどうか……わからないですたい」

 一応3人の中で最も現実的なヨシーナに却下されたようで、まず東部軍団への身売りは無理と見なされた。


「なら北部軍団はどうだ。ほらあのサクラとか見た目だけの女が重傷を負って今、組織の機能を停止しているじゃないか!」

「知っているたい。このトップ不在が理由で北部軍団では次期トップを駆けた争奪戦が展開されているとかおいどんは聞いた事があるですたい」

 北部軍団はトップとナンバー2が不在の状況。組織の機能がマヒをしている状況では、彼らの言っている事もまんざら間違いではないだろう。だが、

「しかと。トップはトップで色々辛いたい。ケイ様から部下の失敗を理由に色々言われて、終いが怖いたい」

「つらいなぁ! つらいなぁ!! トップはつらいなぁ!!部下の皆さん御苦労さん……」

「……なら西部軍団だ! ガンジー様は結構評判がいいと聞いたことあるぜ」

 イワーナのノリをスルーして西部軍団への亡命をヨシーナが持ち出す。現実を一応見極めているヨシーマも、西部軍団へ逃げる事は特に反対はしないので、意見がまとまろうとしていたが、


「じゃけん、おいどんは今気付いたけど、カズマ様に殺されたりしたら俺達洒落にならないですたい」

「そりゃあそうだけど……はぁ~」

 しかし、軍団間の移籍問題になると宿聖であるカズマの承認を取らなくてはならない。

 部下を特に何とも思わない彼であるが、九州征伐の直前に、直接許可を取ろうとすれば敵前逃亡と見なされる事が目に見えており、運命はどうなるのかは彼らにも分かっていたのだ。


「はぁ~」

 よって、彼らの亡命計画は全く上手く行かない。この様な夢に終わってしまうような計画を彼らだけではなく、今の南部軍団の下々が考えているだろう。



「……このような話をもう何度聞いた事か……」

 証拠にカズマへの不信と南部軍団からの出奔等の会話を聞き洩らさない一人の者がいた。

 彼はミョシ・ツグール。宿聖の間から逃れて生き延びた彼は部下達の苦言を盗み聞きしていたが、三馬鹿がしていた話ばかり聞いていた結果、このままでは南部軍団が滅びてしまう。カズマを、部下を、そして軍団を憂いていた。


「カズマ様は確かに強い。しかし、余りにもケイ様以外を軽く見ている今のままでは、カズマ様は一流の戦士だが、司令官としては余りにも……」

「ねぇねぇおじさん?どうしたの、そんなに困ったような顔をして」

 独り言をぼそぼそ呟きながらミョシ・ツグールが歩いていた所、ヒララへ袖を引っ張られた。外見からも、考えからも組織最年少のヒララを見れば、不安を露わにさせてはいけないと彼女へ無理に笑顔を作って接した。

「お主はヒララ・ウィドー殿、どうしたのかね?」

「殿じゃないもん。ヒララは女の子だもん!」

「ははは、すまない、すまない」

 ぷーっとフグのように頬を膨らませたヒララは、きょとんとした表情で、ミョシ・ツグールの表情をじーっと見つめる。

 彼女の焼きつく視線に動じない事で、大人としての威厳を保つ彼だが、彼女が何気ない様子で口にした言葉は、ミョシ・ツグールを大きく変えるとんでもない事に繋がってしまうのだ。



「おじさん確かミョシ・ツグールって名前だったかな?」

「そうだが……それがどうかしたのかな?

「ううん、ただ私は叔父さんがトップになった方がいいと思うかな~」

「私がトップですと?ヒララ殿、それはまた冗談を……私の様な凡才に何が」


 彼女はまだ子供である。ヒララをミョシ・ツグールは軽く見ているようで。冗談だと思い笑って対応する。だが、このままでは事が進まない。少々強引に出る事を選んだのだろう。突然彼女は自分の袖を掴んでグイグイと引っ張ってきた。


「ヒララ殿、そんなに私を引っ張らないでください!」

「むーヒララ本気だもん! その証拠にコウ・ムラカミに、ドイ・ドイ、ワルディ・サイオンジとか連れてきているんだもん!!」

「なっ……!?」

「本当だもん! その証拠にそいつらを見せてあげるもん!!」

 ヒララの口から出た発言にミョシ・ツグールが初めて震えた。彼女が口にした3人とは、以前カズマの留守に反逆を企むも、ハッターが情報を漏らしたがために未然に食い止められている。

以前、モットー、フィラオカン、クニトラと彼らの取り巻きだった3人が風林火山によって処刑されていたが、彼ら首謀者は行方をくらましていたのだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ふふふ」

「な、なな……」

 ヒララによって連れて行かれた彼女の個室には、小学生くらいの娘の部屋のように可愛らしいアクセサリーやぬいぐるみでコーディネートされている。だが、ふわふわのベッドの上には3人のならず者が集っていた事が微笑ましい雰囲気を無へ返す。


「お前は、ミョシ・ツグール。南部軍団ナンバー2じゃないか……」

「うむ。しかし拙者は元々フォースエリアの、私はイヨ国のサムライドでして、アワ国のサムライドに傾く理由はないでござる!」

「よしなさいドイ・ドイ。どうせナンバー2でも名前だけの飾り、あの軍団はカズマだけのワンマン軍団よ」

 1人は海賊の様な装い、もう1人は忍び、そして紅一点でもある最後の1人は紫の髪と切れ込みの入ったボディスーツ。

 この外見の男2人、女1人は、怯えるミョシ・ツグールを見下すように笑いながら、また彼の恐慌する表情をじろじろと眺める。


「ま、まさか私を殺すつもりなのか!?」

「そうしてもいいかもな……」

「ひぃっ!?」

 海賊の容姿の男コウが腰からは、ミョシ・ツグールに向けてサーベルを引き抜こうとする。だが、


「やめないか。コウよ」

「!!」

 ヒララがコウを止めようとする。その時の口調は全く舌足らずのものではなく、まるで何十年も命を生きながらえてきた老婆のように達観した様子だ。少しずつ醸し出してきた逆らわせない威厳が、今は彼女の全身から発揮されつつある。

 この女はヒララではない、いやこの女がヒララの本性だったのかもしれない。ミョシ・ツグールは自分の、また軍団の危険を感じ取ったが既に手遅れだった。


「お前は一応大陸時代からケイ様の部下であり、豪将のランク。カズマを始末して次期宿聖に挙げるのは最も相応しいだろう」

「な、ななな……本気かヒララ! カズマ様を亡き者にして私ごときを宿聖にすることは本気なのか!!」

「うむ、お前を宿聖にしてやろうというのは本気だ……しかしな」

「しかしなも何もあるか!」

 ヒララが差し伸べた条件は、ミョシ・ツグールにとっては好都合かもしれない。だが彼はガフサーと比べれば保身を優先としてしまう臆病者かもしれないが、カズマを出し抜く考えを持たない忠臣でもあった。


「あくまでもカズマ様はケイ様の弟、殺めて寵愛を受けたり、宿聖に就こうと考えた事は大陸時代から一度もない!!」

「むぅ……やっぱりな」

「とにかく、この件はカズマ様に伝えなくては、この録音テープを渡せば、九州征伐よりも重要な問題であることを……」

「させぬわ」


 言葉と間接的な圧力ではミョシ・ツグールは屈しない。ならば荒療治も辞さない。ヒララの取った行動は彼女が背中を向けた時だ。

「な、なんだと、う、うわぁ!?」

 ヒララの背中は着物で覆われていると思われたが、着物の後ろにはファスナーのような繋ぎ目があった。

 そんなファスナーを開くように、背中が真っ二つに開き、空間からは蜘蛛の足が飛び出した。まるで獲物を捕らえるかのようにミョシ・ツグールは空間の中に、背丈から無理と思いきや、すんなりと入ってしまったのだ。

「ふふふ。これでよかろう……」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ぎぃやぁぁぁぁぁぁっ!! うみゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ヒララの背中にミョシ・ツグールごと蜘蛛の足が入りこみ、絶叫しながら背中がボコボコと蜘蛛の足が動いている。相手を食らうかのようなこの技はインフェルノ・イーターと称されるものだ。


「何、苦しむのは今だけじゃ。次にお前が現れる時はわらわの傀儡じゃ……」

「なるほど、トップを洗脳して傀儡にしてしまえば、ヒララ殿が実権を掌握する事も容易」

「恐るべしインフェルノ・イーター」

「まぁ、カズマ派さえ片づけてしまえばヒララ、あなたが実質的トップ。私達も権勢を振るえる訳よ」

「そうじゃな……よし」

 自分の背中から生えた足を動かしながら、何かを食らう様にして動く背中が落ち着きを見せた。背中からはミョシ・ツグールがベッドの上に吐き出されるように飛ばされた。

 だが、背中を壁に打ち付けて、だらりと掛け布団の上にへばりつく彼は瞼を閉じたまま身動き一つもしていなかった。

「これでよし。あとはわらわが再起動すればこいつは操り人形じゃ」

「ふふふ……あとはこちらの作戦を遂行するのみでござるな」

「そうじゃ。わらわは九州征伐を巧みに利用して、南部軍団の実権を握る。カズマよお前は武人としては立派だったが、策を練らねばならない司令官としては三流だったな……」


「あわわ……」

「うわぁ……」

「たまげたなぁ……」

 本性を再び現しているヒララは、前から練っていた作戦を進めていく。南部軍団を揺るがすこの会話を立ち聞きする者がいた。それはあの三馬鹿。彼らが3段重ねに積み重なってヒララの部屋からの会話を傍受していたのだ。


「さて、少しばかし外に出るか……」

「!!」

「や、ヤバいですたい!」

「何処へ隠れるノーネ!!」

 彼ら三馬鹿に年貢の納め時が迫る。ヒララが外へ出ようと動いたのだ。ドアに密着して話を聞いていた彼らは一斉にうろたえ始める。


「ええい、大丈夫だ! 俺達もともと南部軍団、ついでにこの通路は立ち入り禁止とかじゃないぞ!!」

 ここでヨシーナが立って、思考回路が停止している2人を収拾させた。馬鹿の筆頭格であるが、彼は一応三馬鹿を束ねるリーダー。ここぞと言う時で一応リーダーとして機能するようである。


「そ、それもそうですたい!!」

「そうだ! 俺達は何も後ろめたい事はしていない!!」

「イエース!」

「その意気だ! ついでにヒララの秘密を探ろうとした事もしていない!!」

「そうで……」

「そして俺達は何時も通り他人のふりを……」

 ドアを後ろにヨシーナが、リーダーとして自分達の後ろめたい行為を自己弁護しようとしているが、既にドアは開いて、ヒララが彼らを目にしている、弁明の会話と聞いていた。

 それを知らず延々と自分が正しいと告げるヨシーマが気付いた時には、既に2人が冷や汗をかいていた。


「ひ、ヒララ様……今回はどういう事なの!?」

「どういう事だじゃと? わらわの話を聞いていたくせに……」

「ノ、ノン! ミーがヒララちゃんがミョシ・ツグールを食って、カズマを殺そうと考えているなんて聞いてないノーネ!!」

 完全にまごつくイワーナのせいでさらに状況が悪化した。三馬鹿においてイワーナの空気が読めないスキルはある意味一級品。ヒララを目の前にして最も口にしてはいけない事を言ってしまったのだ。この時2人がどれだけ青くなったかは言うまでもない。


「ふふふ。お前達、わらわの策謀を聞いたからには、そこから帰れるとは思わない方がいいがな」

「あわわ……万事休すたい」

「ミーもハーラーキーリーデスカ!? 救いはないんですか!?」

「救いはないねと言ってやろうか……」

「「も、もう終わりだぁ!!」」

 三馬鹿の命運はここに尽きたのか。ヨシーマとイワーナは最後の救いをきっぱり断られて、諦めたかのように両手を組んで天に祈る。しかし、2人の前でヨシーナが正座して頭をきっぱりと下げていた。

「ヒララ様!勘弁してください!!」

「む……」

「「ヨ、ヨシーナ!?」」

 が、ヨシーナが真っ先に土下座をしてヒララへ許しを乞う。死を待つだけの2人とは違い、彼の堂々とした挙措には、彼女も少し興味を持って目に当てた。


「俺達はカズマにヒララ様の野望を告げ口するつもりはないですし! 反乱計画に俺達が参加する事に躊躇いはありません!!」

「ヨ、ヨシーナ、お前は正気なんだか!? おいどんたち大陸時代からアワ国のサムライドとして誇りがあるたい!!」

「イ、イエース! ユーアーアンダースタンド!?」

「う、うっせー! 俺達、このままだと殺されるんだぞ!?それだったら俺は生き延びる事を選ぶんだよ!!」

 ヨシーナは誇りより命を選ぶ。この行為は愚かだと指摘する者もいるかもしれないが、形骸化した誇りよりも現実における力を、また生き延びる事を選ぶことは間違いなのか。ヨシーマはヨシーナの考えに首を振って否定するが、


「ここは大陸じゃねぇから国もくそもあるか!?」

 この言葉でヨシーマを黙らせてしまった。誇りを重んじるヨシーマとその場の損得を選ぶヨシーナ。 イワーナは全く関係がないが省略するが、この三馬鹿が明日かもしれない命において、彼らなりに重大な決断を下しているようであり。


「そもそも俺達はただアワ国のサムライドだったから渋々国や上司の命令に従っていただけだ! この状況でその誇りが役に立つのか!?」

「この状況で誇りは……埃なんちゃって」

「イワーナ、お前も何ギャグ言っているたい!!」

「誇りは埃か……面白い事を言うものだな」

「「へ?」」

 三者が特にヨシーナとヨシーマが激論を展開している中で、イワーナの冗談が飛ぶ。場違いなギャグだが、このギャグの意味がヒララには理解が出来た。そしてだ。


「まぁ良い。力のない誇りなど捨ててしまえばよい。最もわらわはお前に恩を貸している覚えがある」

「そ、そういえば……」

 この件は風林火山の四戦士が眠るソウル・シュラウドの捜索時の話。ヒララは自分の功績を三馬鹿へ売って彼らの勲功に当てた。

 この時に借りた恩を貸すには、ヒララへ大人しく従う事が三馬鹿にとって最も平和的な方法であろう。


「そういうわけでヒララ様!俺達が今から恩を返せばいいだけじゃないですか!!」

「ヨシーナ! お前また……」

「まぁよい。その恩を返してもらう事も悪くはないだろう。ただし、お前の行いは私には筒抜けにするようにさせておく」

「は、はぁ……」

 一応三馬鹿は生き延びる事が許された。だが彼らを飄々と野放しにすることは愚かなる極み。イワーナへ秘密の漏洩を漏らさないか2人が疑っている一方で、ヒララの目配せとドアを叩く音に反応して荒くれ者のように大柄な男がのしのしと迫る。

「ふふふ……これから俺がお前達の目付だ!!」

「あ、あんたはセンゴーク・ヘツギス」

「南部軍団魂将の貴方が何故……」

 センゴーク・ヘツギス。魂将と上から3番目のランクを誇る彼は既にヒララと結んでおり、ランクから見れば南部軍団においてヒララ派のトップともいえる戦士に値する。

「へへ! 俺はケイの弟だからって権勢をふるおうとするカズマが気にくわないんだよ!!」

「貴方の様な武闘派が珍しいですたい」

「武闘派にも色々あってよー! カズマが死ねば、俺が武闘派のトップに就く事は間違いなし! あんな奴の指揮下に収まらなくてもいい訳よ!!」

「という事だ。センゴークには九州征伐の副指揮官としてカズマを補佐する役割。このセンゴークがカズマを刺激する行動をとれば、カズマの最期は目に見えるという事だ」

 ヒララはセンゴークを今回の秘密兵器のように扱っている模様だ。この副指揮官に就いた南部軍団魂将を土台に、以前の反乱計画で失敗した面々の中核、そしてここに3馬鹿が加わり少なくとも数だけではヒララ派は着々と南部軍団を侵食しつつあるのだ。


「出撃の時までお前たちはセンゴークの監視下に置く。作戦はセンゴークに任せるぞ」

「はっ、はぁ……」

「仕方ないんですたいかねぇ……」

「まさにプリズナーデース!」

「おめぇらはとっとと俺についてこい! 計画ばれたらぶっ殺すぞ!!」

「「「はぁ~い」」」

 センゴークの部屋に三馬鹿はとぼとぼと入室して扉を閉めた。周囲に誰もいない、また盗聴の恐れがない。それを周りを見渡して確認したヒララはコウを始めとする3人へ顔を向けさせた。

「お前たちは勢力圏で大人しく身を隠せ。反逆者の身であるお前たちは同盟の指名手配だからな」

「はっ」

「では拙者はここから」

「身を隠させてもらうわ」

「うむ」

 彼ら3人は可愛らしい学習机の下に取り付けられたキーロックを解除して、戸を引っ張ることで、空間が裏口に接続された。裏口のウォータースライダーの様な通路を滑って消えていく。


「これで作戦は上手く行くな」

『本当だよね~お義姉ちゃん』

 そしてヒララが独りきりとなった個室にて、通信機からあけすけの、仮初のヒララと同じような下足らずの声が聞こえる。

「お前の任務は無事完了したのか」

『したした! ボクの任務なんて寝ていてもやれちゃうものだからねー!!』

「うむ。お前の携える切り札は戦闘能力においてはわらわ以上のものだからな。私の手駒にしておかねば、今後の事で差し支えてしまう」

『まぁそうだね。あいつ普段は使い物にならないけど、一度いっちゃえば一応強いからね~あ、お義姉ちゃんの方が強いよ?』

 ヒララが連絡を取る少女の声は何者か、そして彼女が備えた秘密兵器は何か。おそらくヒララの味方であろうとする2人が加われば、ヒララ派の勢力はますます肥大化していくのみ。カズマへの反逆は強固な靭帯を持った計画であるようだ。

「それより、おべっかを使うのもほどほどにしろ」

『にゃは! でもあいつを何のために使うの? カズマとかを倒すのに使う切り札?』

「それは万一の時、またどちらにしろいらなくなる者を始末する為にあいつは必要。その為にはお前があいつの制御をしなくてはな」

『まかせといてよ!ボク、あいつを使う事得意からね!』

 通信機越しの対話にヒララは南部軍団、いや軍団、同盟の枠を超えた後ろ盾を備えているようだ。南部軍団所属のサムライド引き抜き、切り札の確保、順調に作戦が進行していき、いよいよ作戦は最終段階に入った。


「そうだ。カズマを孤立させる為に……の力を借りる」

『あいつかー。僕は認めたくないけどさ、あいつは上手く演じているようだよ』

「なら尚更、もう一組は私が直接乗り込んで芝居を演じてやろう……」

『わーお、お義姉あれやるのね!!』

「あぁ。今のわらわも、別のわらわも……本物ではないのだがな」

 彼女との通信を切ると、ヒララは壁に手を当てて忍者屋敷のように壁がグルリと回転。個室の鍵を確認してから、彼女が出た先には鉄の艦が彼女を出迎えるように待ち構えた。


「これで九州への直接交渉は良し。上手く舌先三枚を通せば後は潰し合いを眺めるだけだ……」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……ということでございます。リン様」

「そう……新たな力を提供してくれるのね」

 場所は大きく変わり、大分にそびえる古城内に激動が走った。王座にちょこんと座る水色の髪にエメラルドグリーンの額縁眼鏡の少女“リン・フランシスコ“に、深緑の髪に鬼の面を被った女性”マナ・ベシマ”作戦を進言する。

 北九州にそびえる勢力ムシカ。リン・フランシスコが率いるこの組織の使命は、大陸時代からの理想。神の力を借りた完全なる世界の創造である。


「リン様が目の敵にする勢力はマーズ率いる突破です。一番の邪魔者にはお間違いないでしょう」

「うん……」

「九州を私達の神の国と化す力を貸し、頼高みへ導いてくれる力を与える三光同盟の存在……借りない事に間違いはないでしょう。リン様」

「この島が神の国になる……それはいいこと」

「マナ殿!!」

 マナの提案がこのままリンに承諾されようとしている。しかし寸での所でマナの隣に存在する上半身だけの男性からは待ったが入った。


「ロードス……何?」

「あのような組織強大な組織が我々と同盟を汲むような事は何か裏があるに違いないことです! それに無暗に進軍をするべきではありません!!」

 車いすの男はロードス・ノウ。大陸時代、いやリンが目覚めたときから彼は忠実な部下であり続けた。だが、ただ従うだけではなく、モラル的な観点から良しと思わぬ所に忠告も躊躇わない心を併せ持つ真の忠臣である。


「ロードス殿。あなたは譜代風を吹かせているようですね」

「マナ殿、どのようつもりかは知らんが、私は思った事を言っているまでだ」

「思った事ですか」

 マナの提案に反論をあげるロードスは大陸時代からリンの配下であり、彼女へ忠誠を誓う老将だ。

だが、大陸時代において他勢力だった、この世界における新参者であるマナの意見に従おうとする事が快くなかった。新参と古参の激突が考えの違いから感じられた。


「ロードス、私にはあなたに問い詰めたい事があります。それに答える事が出来れば……私はあなたに大人しく従いましょう」

「うむ……」

「「んもう!」」

 ロードスの追及にもマナは落ち着いた態度で、あくまで言論による平和的な勝負で持ちこむつもりだ。最もロードスがしぶとい事を快く思わない四本腕、二首の奇妙な男がいるのだが。


「ロードスの奴早く引っ込んでマナ様の意見が通ってしまえばそれでいいじゃないでござーるよ!!」

「イートゥ! いくら正論でも、それをこの様な場で言ってしまうのはまずいものでは……ござりますよ」

「何言っているんでござーるオムラー! 大体リン様の部下はロードスとあの馬鹿を覗いてみーんな!!」

「……」

 後方からマンショ、特にその片割れイートゥの陰口が劣勢の立場に追いやられたロードスを更に困らせようとする。

 聞こえないようなふりをして、敢えて聞こえさせているように告げるイートゥの陰口だが、ロードスの様子は全然中傷するような発言に心を動かされていない模様である。

「イートゥ、オムラー合わせてマンショ、言葉が過ぎるぞ」

「し、しかしですねぇ!」

「イートゥ、マナ様を怒らせたらワターシ達の立場が危ういでござりますよ!!」

「いいから早く」

「「は、はぁ……」」

 しかし相手の事を中傷されるのはマナにとっては喜ばしくなかった事か。落ち着いたものいいとはいえ、何も分かっていないようなマンショをその場からさっさと降板させるように促せば、2人1組が渋々と退却した。


「すみません。関係のない者が割り込んで」

「いや、この世界においても私が誹謗中傷を受ける事など大したことはない。都合のいい土台を無にするとは私を論破する自身があるようじゃな」

「褒められているか貶されているかわかりませんが……そのようなことであぁだこぅだ言うつもりはありません」

 意外にもマナへ危機を救われたロードスだが、新参の身でありながらリンの心をつかもうとする彼女に警戒心は解かなかった。 

 マナもこの様な危機を救う形でロードスへ恩を売る事は考えていない。考える事はロードスの考えを論破して退ける事のみだ。


「ロードス殿……好機が今である時に、三光同盟と手を組まない理由を説明してください」

「それは我々ナインエリアのサムライドが優れた技術を保有しているからにすぎん」


 まず、ロードスは最初に自分達が持つ優れた技術を挙げた。

 次に、自分達の持つ優れた技術は三光同盟からすれば手に入れて損はないもの。よって同盟という下手に回る方法で縁を作りリンの野望をかなえさせるとの条件でリン達をおびき寄せるつもりであるとの結論を出した。


「ほぉ……リン様の大志を成し遂げる時ではないのですか?」

「リン様の大志は……リン様自らの手で成し遂げられてこそ初めて意味がある者になる」

「……」

 ロードスは自分の想いをマナへ、また王座のリンへぶつけようとした。「考え直してください」マナのやり方を批判する言葉は遠まわしにリンを諫めようとする主君への思いがあったが、肝心の2人の表情は悲しい事に殆ど興味を感じないような表情である。


「ロードス殿、貴方はそのような慎重すぎる発言で、リン様の偉大な志を貴方は踏みにじるつもりですか?」

「間違いは間違い。虎の威を借りる狐のような真似で神の国を築き上げても本当の平和は来るはずがない。リン様!」

 しかし、それでもロードスがマナを糾弾してリンへの忠言を止めはしない。

永久の平和に容易な道などない。大志を成し遂げるには死に物狂いで物事に挑み、1人悩むまで悩み、苦悩した先に糸口を見つけて、切り開いた平和を確固なものにする事が真の平和への道と考えているのだ。


「リン様はいつの頃からか焦っていた事が私には見えました。ですが、焦る必要がどこにあるのですか!」

「……」

 リンへ深慮を求めるロードスの諫言だが、彼女はただ耳から言葉を聞き入れて、もう片方の耳からその諫言を聞き流しているような様子。いわば馬耳東風だ。彼女の耳に念仏、いや忠告をする事も無駄である事を知っているか、または知らないか。ロードスの態度もまた一向に変わる事はない。


「ロードス殿、リン様は平和の為に少しでも回り道をしたくない。貴方のやり方をリン様は好まないのです」

 ロードスの一方的かつ不毛な諫めの言葉にマナが水を指した。彼女はまるでリンの志を代弁するかのようにロードスへ意見をぶつける。

「ですがリン様……平和への急激な平定は不平の火花を生みます」

「なら、深慮してさえいれば世界は平和になるのですか?」

「な……」

「私達の世界でも、この世界でも慎重か否かが永久の平和を導くものではありません。急ぐ事を否と貴方が言うのなら、私は回る事を否と言いましょう」

 落ち着いて考える事をマナは批判する。だがマナは急進的な方法、また漸進的な方法は時と場合による事を付けくわえており、彼女はどちらを悪とは決めつけず、場合が急進的な方法を良しとするのみだと選んだ。


 マナの態度は落ち着いており、ロードスの考えと悉く正反対の方法を何のためらいもなく押しつけていく。リンの寵愛を受ける為か、ロードスを陥れる為か、または本当に思った事を言っているだけか。鬼面から光る緑色の眼光は全く彼女の考えを掴む事が出来ない。


「ついでにロードス殿、貴方は比較的穏便な方法で平和を取る事を選ぶつもりですね」

「当たり前のことだ」

「当たり前の事ですか。生ぬるい平定が火種を取り除く事が不完全で終わり、その火種が原因で長らく続くと思われた平和が瞬く間に破られました。世界でそのような過ちを犯した例は多々見られます」

 マナは生ぬるい方法を嫌った。苛烈な方法に取る事もまた必要であると見たのだ。


「この世界の、この地の者が遺した名言。分別も久しくすれば腐るという言葉に従います」

 マナが口にした分別も久しくすれば腐るという言葉は、この世界、九州にて一代勢力を築いた戦国大名・龍造寺隆信が遺した言葉であり、熟慮も過ぎると却って期を逃したり、悪い結果になったりする事もある。よってここぞという時は迅速な決断力が必要であるという意味である。


「最後にロードス殿、あなたは本当に主君の繁栄を想っているのですか?」

「……何を根拠にそのような突拍子もない事を」

 マナがここで攻勢をかける。それもロードスが誇りにしているリンへの忠義心を猜疑するかのような発言で畳みかける。

「はっきり言わせてもらいます。貴方はこの世界でベアドラーゴ様と共にこの世界の民を殺めているではないですか」

「……!!」

「慎重に平和的にと永久の平和を築こうと考えているような貴方がなぜそのような蛮行に手を染めているのですか」

 マナに痛い所を突かれた。リンの願いは神の国の建設。彼女が神として敬うリストの教えを受け入れない者たちを始末して、残りの者たちを自分の操り人形と化すこと。それにより神の国が生まれると彼女は考えていた。

 その為に分かっていない人達を始末する蛮行をロードスは手につけていたのだ。例えリンが自分を理解してくれなくとも、彼女へ忠義を誓う者として、また彼女から見放されたくはない。板挟みになった考えの結果、やむを得ず蛮行に従う事が最善だと考えていたのだ。


「ベアドラーゴ様は私達と同じ、リン様の苛烈な方法に同調しているから遂行しているだけです。私達と同じ事をしているのに、何故反論する事が出来るのですか」

「……」

「貴方は過激な手を使いながらも、穏便な事を考えています。貴方の様なサムライドは矛盾の塊だと私は思います」

「そ、それは違うことだ! 世の中は矛盾……」

「貴方は矛盾で説明がつかない物事を片づけるつもりですか!?」

 マナの言葉に力が入った。矛盾する考えを背負い悩むロードスに、矛盾の愚かさを押しつけて、彼に反発させる心を削り取っていく。「リン様が単純明快な神の国を作る」とリンの考えを噛み砕いた言葉でロードスの矛盾を否定させる。

 どうやら、弁舌の腕においてはマナの方が圧倒的に上であり、彼女は決め手となる行動を移した。


「さて、いかがなさいますリン様?」

「な、何!? マナ、お前はどうして……」

「どうしても何もありません。最後に当主がどちらかの考えを選ぶものでしょう。いかがなさいますか?」

 マナの考えは表向き、妥当である。しかし、彼女の行動は自分の考えがリンによって取り上げられる事を確信していたから。リンを諫めるロードスに対し、マナは彼女を持ちあげているからだ。


「……私、ロードスの話聞きたくない」

「リン様!どうして!!」

 これで答えが決まった。譜代として認められない葛藤をロードスはリンに問おうとするが。


「急がないといけない私の気持ち……マナは分かってくれるのに貴方は何故分からないの?」

「お気持ちはわかります! ですが!!」

「世界の歪みを知らないから貴方には分からないの!!」

「……!!」

 これまで寡黙であったリンが遂にキレた。とぎれとぎれに言葉をもらし、感情を表に出そうとしない彼女が見せる怒りは、表情に現れなくとも、言葉の様子で怒りに満ちている事が分かる。

「私は歪みが嫌い! 歪みを良しとする貴方はここにいなくてもいい!!」

「その通りですリン様! 公平をこのむリン様にとって矛盾を抱えるロードス、貴方はこの組織にとって居場所がないおろか者です!!」

「……」

 リンの、自分の主君からの言葉の重みがロードスにとって効果が大きい。彼女が譲らないのならば、自分はもう引くしかないと見てゆっくりと車いすを動かしながら表から去っていく。


「ハハハ! ベテラン気どりがざまぁでござーるよ!!」

「イートゥ! 言い過ぎでござりますよ!!」

 邪魔者が失せてマンショは床に転げながら笑いをかます。マナは2人をちらっと見てはリンへ顔を向ける。

「さてリン様、馬鹿は放っておいて、一途な思いを遂行することに専念してください。貴方の迅速な判断による行いを私達は全力でサポートしましょう」

「ありがとう……」

「いえいえ。私はリン様の志に共鳴しただけでして、ですが一ついいでしょうか」


 表情を全然変えないリンだが、マナから利用される恐れがあるとポツリと言われる。他人からすれば彼女がどう思われているか分からないが、この同じ表情から考えが読めない者同士か、リンが疑問を抱いた事をマナが察した。


「ですが、リン様自身が前線に出てしまえば、そしてあなたの魔法を振るえばどうなるのでしょうか?」

「私が……前線に出ればいいの?」

 リンが自分に食いついてきた。言葉を餌にして、彼女を釣り上げようとする為には、マナはこの微かな表情の変化をマナは見逃さず一気にたたみこんでいく。


「貴方はムシカの当主たるサムライド。ここで貴方が実力の全てを振るうことが、三光同

盟にムシカの力を見せつけることになります」

「じゃあ……もっと神の国が出来るの?」

「はい。最も貴方次第ですが、詳しくは打ち合わせが終わり次第……」

マナはゆっくり後ろへ身体を動かして、真下の落とし穴に身体を任せて下へ消えていった。リンの信頼を得られた事はマナにとって作戦の1段階が完了しただけなのだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「―ということであります」

「そうか。でかしたマナ!」

 古城の地下には、強大な椅子へ身を任せる本来の当主がいた。ベアドラーゴ、人間離れした、般若の顔を着用して、全身をブロンズの鎧を纏うサムライドである。

「おぉ~マナ、うまくやったようですな」

「さすが虐拳鬼賊のブレーン」

「俺は難しい事面倒だから助かるぜぇ~」

「ヤンスヤンス!!」

 主君と参謀の2人はの前にはジョージ、エリー、ヒャクダケ、マサ五四天王の四人が集う。一人欠けているが、これにより全員揃ったとみてマナは新たに考えを持った。


「さて、今回の南下計画の遂行はほぼ確定。リンも前線に出動するようです」

「あの子娘も出動する事は、本拠地はほぼ手薄だな!」

「はい。ですが、ベアドラーゴ様は前線で暴れ回っていてください。マーズを倒すのは最も、ロードスやショウも倒す機会があれば倒してください」

 マナは虐拳鬼賊のブレーンである。ベアドラーゴを始めとする部下は過半数が荒くれ者の戦争屋であり、彼女は頭脳労働に向いた貴重な人材であり、作戦を練るかなめである。。


「おや、マナ、あんたはどうするつもりかい?」

「私はベアドラーゴ様の右腕として機能しますが、頃合いを見てリンの始末にかかります」

「リン、そなたが行うのですか?」

「はい。手薄な本陣。ベアドラーゴ様を始めとする猛者達の手をわずらわせたくはありません」

「おぅ。いいお世辞言ってくれるじゃねーか」

「いえ、私は思った事を言ったまでです。貴方の様な猛者に私達が敵いもしない言っただけです」

「そうなるとあっしは文武両道ですな~」

「どこがだ」

 マナは頭脳もキレるが、相手の機嫌を取る事にもキレがかかっている。野蛮で好戦的な彼らを手玉に取るように機嫌をとり、6人で唯一浮いているはずだが、会話からは全く浮いた雰囲気をだしていない。

 ちなみに1人うぬぼれるマサがいるが、全員はスルーの方針。ジョージが気になる事を告げた。


「そういえば、マナ殿上手くリンに付けこむ事が出来ましたなぁ……さすがブレーンだけの事はある」

「ジョージ殿、リンは良くも悪くも純粋な性格なのです。ロードスの存在も大したことありませんでした」

 マナがリンに付けこむ事が出来た理由は相手の性格を把握していたからである。性格を把握して、その性格に適した言葉で心の核を突く。それがマナのやり方である

「けどよ、マナ。ロードスは確かナインランド一の忠義と武勇を持つ者とか聞いた事はあるぜ。武勇についてはあたいは考えていないけどな」

「えぇ。忠臣は中心ですが、諫言が煩わしいとリンは考えていた者ですから。上手くリンに従えば信頼は勝ち取れるものですよ」

「なるほどねぇ~」

 彼女のやり方にエリーは舌を軽く巻いた。マナとロードスにはキャリアの差があったものの、接し方ひとつでキャリア組をしのぐ信頼を得る事が可能だと証明しているようなものだ。


「という訳で私たちは、ムシカから虐拳鬼賊が下剋上をしますが……お分かりですねベアドラーゴ様」

「そうだ! 九州の王となりあらゆる存在を嬲り殺す事が許される!!」

「ご名答を。私には天下を取るには知恵も勇気もあるが、大気が足りない。時の武将に転科人が評価した言葉がよくお似合いですから、大気はベアドラーゴ様に譲る訳です」

「天下を取るには大気が足りないか! こいつ、面白い事を言うわい!!」

 おべっかを使ったかどうかわからない。マナ曰く思った事を言うまでと口で言っているが、真相は分からない。彼女の心が読めているか、読めていないかはわからないが、ベアドラーゴが高笑いをしながら立ちあがる立った。


「これで、この九州征伐の名の元に俺は何の不自由もなしに暴れ回る事が出来るわい! のぅ!!」

「んだ! オデ達暴虐上等だ!!」

 ベアドラーゴが立ち上がった後の椅子が人の姿へと形を変えた。4人分の横幅を誇る大柄なサムライドはナリマーツ。彼が現れたことで五指天王は全員集結した

「ははっ! 虐拳鬼賊は悪虐上等!!」

「酷虐上等じゃないの!!」

「残虐上等もだ!!」

「凌虐上等でヤンスヤンス!!」

「ふふふふふ……ははははは!!」

 虐拳鬼賊の6人が荒れ狂う闘争心を決戦前に噴かす。待つ価値のある戦いへ向けて、悔いがないように、暴れたりない事がないように。力で相手をねじ伏せることに快楽を覚える虐拳鬼賊からすれば、戦いは晴れ舞台であるからだ。血に逸る彼らから少し距離を置くようにマナは腕を組む。鬼面に隠された彼女の顔からは、考えを読む事は難儀なことであろう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 九州の覇権をかける決戦が迫ることで虐拳鬼賊の士気は右肩上がりだ。しかし、もう一人は戦いを望まなかったことは承知である。


「どうしてなんだ! どうして先生の考えが分からないんだ!!」

「よいショウ……上に仕えるサムライドは一度決まった命令には例え何があろうとも守りとおさなくてはならないものだ」

「先生……ですが」

 論争に敗れたロードスを迎えるのは真紅の髪を誇る若きサムライドショーウン・ハシターカ。ショウとロードスから呼ばれる彼は、この大陸において不利な人間ならぬサムライド関係に追い込まれたロードスを支える心の拠り所ともいえる男。理由は常日頃から彼を信じ支えている男だからである。


「先生の様な忠義の人をないがしろにして、マナとかよくわからないサムライドの意見を選ぶなんて! リン様はどうかな……」

「言うな!!」

 声を荒げるショウをロードスはぴしゃりと一喝して止めた。また思わずすくんでしまった彼を見ると、ロードスは我に返った。

「すまないショウ、じゃが、わしたちは不利な立場。わかっているな」

「は、はい……すみません、先生。俺が短慮な性格のせいで」

「いや、私を想っている、お前はリン様よりも私に命を賭けているからそのような事が言えるのだ」


 ロードスの言葉はショウの本心を突くに相応しい。本人が思っていた事でもあり彼の口は黙ってしまう。彼はショウはリン様を主君として敬意を持つ場合なら、リン様の苦言よりも、いや私への苦言を口にすることを選んだと口にしている。


「は、はい……先生のおっしゃる通りです」

 と、先生と慕うロードスに指摘をされれば、すんなりショウは鞘に収まってしまう男である。


「すみません。先生は俺の人生を決めることになった大事な方。そのような方に何故敬意を持たない事が出来るのでしょうか!」

「その心遣いは有難いが、私の主君はリン。ショウ、お前が私に忠義を尽くす宿命なら、私はリン様に忠義を尽くさなくてはならないのだ」

「やはり大陸時代の使命からですか。リン……様を慕う事は」

 ロードスへ絶対の忠誠を誓っても、リンへはロードスを軽視するせいか忠誠どころか不信の気持ちの方が強い。様付で彼女の甘えを呼ぶのもどこか言いづらいようであり、苦しい気分である。

 その彼の疑問をロードスはどこか懐かしげに、またどこか微笑ましくもあり寂しくもある。そのような視線で天を仰いだ。


「私はごく普通のサムライドだったが、先代国王であられたシャーキー・フランシスコ様からえらく気に入られて、リン様の世話係として、教育係として、護衛としての仕事も兼ねていたのじゃ」

「はい。以前先生から聞いた話ですと、昔のリン……様は可愛らしいお方で、純粋で、素直で、好奇心旺盛な明るい女子だったと……」

 以前の話を返すショウにロードスが首をかしげるが、暫くして申し訳ないように、先生の言葉を疑ったり否定したりする事はショウにとって恥だが、それでも恥を残すより謎をうやむやにする事の方に納得がいかないようである。


「先生、お言葉ですが俺が覚えている限りではリン様がとてもそうであったとは思えないのですが……」

 今のリンは王座に座り、何を考えるかわからない寡黙な性格と、とぎれとぎれな言葉、そして時折見せる苛烈な一面。ロードスの話とは全くの別人であり、ショウではなくとも疑問に感じて普通だろう。

「そうじゃのぅ……」

「い、いえ! すみません!! 俺は決して先生のおっしゃった事を疑うような事は!!」

「気にするなショウ。確かにお前が驚く事も間違いではないだろう。リン様は心の透き通ったお方だったが、猛威を振るった伝染病のせいで、僅か14で命を落としてしまった」

「そこに自分と同じ、いや自分以上の生体技術。リヴァイアル理論で今のリン様がいる訳ですね、先生……」

 教え子の問いに師は苦しそうに首を縦に振った。リヴァイアル理論とはナインステイツで広まっていた人間をサムライドへと改造するオカルト理論の発展型である。

 オカルト理論は普通の人間にそのまま改造手術を施す方法だが、リヴァイアル理論は屍を改造したボディに死者の魂を憑依させる。もはや神秘に近い理論。つまり、リヴァイアル理論で生まれたリンは死から甦ったサムライドなのだ。


「ブンゴ国にこの手の著名な学者がいた事、そしてシャーキー様がリン様を復活させようと必死だった事、そして私もリン様が愛おしかったばかりに……」

「……復活に加担してしまったのですね、先生」

「私は今、リン様を天から呼び戻した事がが良かったのか間違いだったか……最初リン様は以前と変わらぬ様子で私もホッとしたが、リン様は平和への想いが純粋過ぎた。妥協のダの字も許す事が出来なかった……」

 リンは芯の強い少女だ。何事にも妥協せずに目的を成し遂げる強さを持つが、今となってはその強さが彼女をあぁさせたようである。

「リン様がサムライドである事は隠され、ブンゴ国の第一皇女としてその手の勉学を学ばれたが、世の中は綺麗ごとだけで成り立たない。そのような汚れた裏を知ってしまった事がリン様には……」

ロードスの表情が増すにつれて苦悩に落ちていく。そんな師が悩みに悩まされる姿を目にはしたくないショウだが、師の思いを察した彼は目をそらす事はなかった。


「子供の頃に考えた無茶な願いは時を経る連れに無理だと妥協するだろう。 だが、現実をひっくり返す事が出来る力を持っていた場合はどうなると思うか、ショウ?」

「……!!」

「それからじゃ。リン様が今のように心を閉ざし、苛烈な手も躊躇わない極端な性格になってしまったのは」

 ショウの目が見開いて、身体が震えた。リンは強い意志と力が結びついて汚れたりゆがんだりする存在を許さない。そんな彼女が考えた事が自分の力により自分の思いで染まった、いわば神の国を作ることなのだ。


「私はこの危険じみたやり方を少しでも和らげようと必死に動いた。または諫めもした。しかしその一方で私には恐怖も感じた」

「先生……」

「私の思いが行き過ぎてしまい、厳しい諫言をしてばかりだと私はいつかリン様から切られてしまうのではないかと……それじゃ」

 幼少時から仕えたロードスでさえ、今の冷徹なリンには、何の自分が切られる恐れを感じている……ロードスが忠義を貫くのは思いだけではない。今の彼女への憂いと危機を感じたからだ。

「私は間違いを知って犯したくはない。だが、リン様への忠義を貫く事が私を形成しているようなもの。この狭間のなかでしか私は動けない身なのだ。ショウ、許してくれ」

「い、いえ先生! 俺は先生の元で戦えるなら文句は一つも言いませんよ!!」

「そうか……なら今回の戦い、わしも行かねばならまいから、お前も行くはずだな?」

 ロードスの問いかけにショウは決意の意志によって作られた凛々しい顔を変えず、はいと返事をした。恩師を守るために戦う事もある。だが、板挟みの思いに葛藤しながらも戦う師の心の強さが、自分にはなかった強さを見つけたからだ。


「頼もしい言葉だ……だがショウ、マナ・ベシマには注意を怠るな」

「マナ・ベシマ。確か虐拳鬼賊の軍師とかですね。分かっていますよ。リン様の意見を担いでばかりのご機嫌取りに俺が負ける訳が」

 師を安心させようと強がるような事を口にするショウだが、ロードスには分かっていた。ショウが健在であることを振舞うためか、またマナが只者ではない事を。だからマナには常に気を付けろと忠告した。あの女は抜け目のないキレ者であることを。


「そうだ。ショウよ、くれぐれも油断はしてはならぬ。この戦いには味方の中にも敵がいるのだから」

「はい! 先生!!」

「うむ。無駄死にはするな。しかしリン様への忠義の為には命をかけるのだぞ」

 望まない戦いでも、リンの存在からロードスに退く事は許されない。簡単には死なない。しかしリン様の為には命を捨てる事を惜しまない考えは、自分の規律であり、ショウに教える事が出来る心構えでもあった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「どうしたイシン、こんな所で慌ててよぉ」

「先輩、兄さん! これですよこれ!! これがあって慌てない事もないでしょう!!」

「かったるい……何かひと騒動が起こる予感がして」

 一方ムシカの九州征伐の標的にされた仇敵。マーズ率いるサムライド軍団突破もまたひと騒動が起こっていた。事の始まりははイシンが沿岸でとある女性を保護した事が原因だ。


「兄さん!かったるいと言いますが、人命、いやサムライド1機の命が懸っている問題ですよ!!」

「サムライド1機かぁ……なんかそういう言われ方すると重みがないっていうかなんというか」

「ちょっと待ってください! 先輩まで何をのんきな事言っているのですか!!」

 大真面目なイシンに対し、師のマーズと兄リュウハク。男2人はこの騒動に巻き込まれて少々面倒な様子を見せている。

 しかし、少しだらしない男二人とは関係なく、イシンはライドボード型のライド・マシーン“マタシチロー”へ塩水にぬれた妙齢の女性を浜辺へ搬送してから、彼女をそっとおろす。


 この男マーズ・グイシー。突破を率いるサムライドであり、リュウハク、イシンと自分を先輩と呼んで従う2機を連れている。30代に差し掛かりそうな容貌にもかかわらず、金髪のはねっかえりと無精ひげが目立つ男はワイルドかつ洒脱な雰囲気を漂わせている。

 だが、彼もリンと同じ。つまり人からサムライドとして生まれ変わった敬意をたどる男。だが、彼は負の感情を表に晒す。いわゆる激情的な性格ではなかった。それがリンとの最大の相違である。


「まぁしかし、どうやって起こすかだな」

「先輩、かったるいが一発で起こす方法があるぜ」

 先輩と呼ぶ兄妹の兄リュウハクに名案がある。妹であるイシンにはこの様な発言が珍しいと思い目を丸くした。

 兄は先程のように「かったるい」を口癖として生きている面倒くさがり屋であり、比較的常識人の妹はある意味情けない兄へ突っ込んだり、引っ張ったりしないといけない。そのような兄がまともな事を言うのは妹の立場からすれば珍しいようである。

「お、リュウハク。なら、聞かせてもらうぜ」

「先輩、まず一番敏感な所を探す必要が……」

「……自分でやります!」



 一瞬兄へ期待をした自分が馬鹿だった。イシンがすぐさま意識を失った彼女を起動させようとするが、行為の前後にイシンが見るなと言わんばかりに2人をにらみつけて、「見ないでください! 絶対にですよ!!」と必死である。


 そしてイシンの行為が終われば彼女は身体を軽くピンと伸ばして、嬌声をあげた。何をやらかしたかは分からないが、妹は純情だったのか、ストーブのように顔を赤く照らしている。


「かったるいな。俺は一番敏感な所、つまり傷を受けている部分から内部機械をショートさせると意識を取り戻す事が出来ると言おうと思ったんだが」

「お前にしては、荒療治だな! まぁイシン、お前は何を勘違いしていたんだ? ナハハ」

「……あんな事言われたら当然ですよ!!」

 紛らわしく、後ろめたい話の種をリュウハクがばらすが、既にイシンは勘違いをした行為で目覚めさせてしまった。ちなみにマーズは先輩と呼ばれながらも、腹を抱えながら笑いを漏らしている。


「ほぉ~あんな事とはどんな事だい、イシンちゃん? あ、言っておくが俺は経験済みだったりするぜ。なっはっはっはっは!」

「早とちりするとこんなかったるい結果を招くものだな」

「あのですねぇ! あと先輩、それセクシャルハラスメントです!!」

 先輩である男マーズが立つ事も困難となる程笑い転げ、目の前ではイシンが恥と歯がゆさで拳を震えさせている。彼女がキレるのも時間の問題か。ところが倒れていたその女性が意識を取り戻したように声をもらし、2人の雰囲気が及ばない距離に座り込んだリュウハクが反応した。


「かったるいお前の突っ込みをきかなくて済むな」

「ええ?」

「ほぉ……まぁそれより言い過ぎだぜリュウハク、まぁイシン、女同士上手くやれよ。あんな関係だしな」

「だから、いい加減にしてくださいよ!!」

「あの……何の話ですか?」

「い、いえ何でもないですよ! そ、それより貴方は一体どちらの方でしょうか? 見かけない顔ですが」

 先程イシンが行った行為は何か。多分彼女の口からは絶対明かされる事がないので各自で判断をしてもらおう。実際に現れた女性にも自分の行いを必死で隠そうとして、話を切り替えた。

「うちはアンティア・イエスタ。サムライドどして、三光同盟、ほんでムシカに追われとるサムライドどす」

 紫色の長髪に、藍色の小紋を纏った和の雰囲気を持つアンティアは、外見に偽りがないのは京都弁の様な喋り方をする女だ。

「変わった言葉遣いですね」

「すんまへん。どすけどこれがうちのヤマシロ国の言葉どすねんよ」

「は、はぁ……それより貴方がムシカに追われていることは本当ですか?」

「は、へー。うちはとおます任務で三光同盟南部軍団に潜入して機密を手にどしたんやさかい、見つかってようて、命さかいがらここまでけたんや」

 アンティアという女性は三光同盟南部軍団の支配地である高知に潜伏しており、鹿児島から単身で逃げのびたようである。よほど何かの事情があってここへ逃げのびたのだが、マーズには一つ疑問があった。


「あぁ。しかし、どうして九州軍団が関係あるんだ? 俺達三光同盟とかいう組織に縁はないぜ?」

 この様な発言をするのも当たり前である。まず彼ら3人は大陸時代から三光同盟のサムライドとは全く縁がない。次にこの世界においてもマーズ達が敵と見なしている者はリンが率いるシムカの存在だけだったであり、三光同盟の魔の手は自分の勢力に伸びていなかったからだ。


「へー。三光同盟とムシカが手を汲んだやのどす」

「ええ!? 先輩、一大事じゃないですかこれは!」

「まさにかったるい……」

「あぁ。どういう訳かい、アンティアさんよ?」

 首をゆっくり縦に振ってからアンティアは互いの利害の一致を理由として同盟締結の謎に答えをだした。彼女の考えが正しいかどうかは分からない。

しかし、どちらにしろ宿敵が三光同盟という後ろ盾を手にして、新たな脅威として立ちはだかっている事は事実のようである。


「かったるい敵をひっぱってきたな。あぁかったるい」

「すみまへん……うちも生き延びへんとあきまへんさかい」

「兄さん、この人にも事情はあるけど……」

 リュウハクは何処の者か分からないアンティアへ不信の目を向ける。イシンは彼女を擁護しようとするが、目的が分からない彼女へ完全に擁護の立場へ回る事は出来ない。目的を聞こうとしても、「そればっかりは黙秘権やさかい」というばかりだ。


 と、このリュウハクはいったい何者か把握できない故に、兄妹は今一つ信頼を置く事が出来ないようである。だが、


「わーった。一肌脱いでやろうじゃねぇか」

「先輩!!」

「かったるい事しなくてもいいじゃないか……かったるい」

 リュウハクと同様比較的面倒くさがりであるマーズがぐっと腰を上げて、胸板に自分の拳を軽く当てる。のんきで遊び人でもある彼も芯を通すようで、やると決めたら立つ性格だったりするのだ。

「お前ら。この世界で、この鹿児島を拠点として戦った者達はこう言った。昔から戦士は義を最優先として、自分達を慕って一命を預けてきたものを見殺しにできるかってな」


 マーズ達が拠点とする鹿児島では、500年ほど前に兄弟の絆を持って九州地方をほぼ支配下に置いた武将達がいた。

 この人の和を重んじる彼らの魂が眠る地において、マーズに魂が憑依したのか、またはマーズ本人の男気か。飄々としている彼が自分から動く時は、気合を静かに両目の眼光へ漲らせていや。


「俺はこの世界で過ごすのも悪くはないと思っているし、あの世界がもう無くなってしまった事は天変地異だしな・……」

 現実を守る事が何気ない幸せを手に入れる事が出来るとマーズは考えている。その場の現実を把握して、過ぎ去った過去は止むを得ないものと過去にしがみついて無茶をやる事を嫌う考えだ。

「だが、俺はどんな理由があろうとも、戦わない者達を巻きこむような事をやる奴は絶対に許さねぇ! それが俺だ!!」

「「!!」」


 しかし、マーズには許せない者がある。自分達が大人しくしていれば守る事が出来る平穏を汚す者たちだ。戦わなくてもいい時に、襲い掛かる者。彼らを倒す事が平穏を守る使命があると考えていたのだ。


「まぁ……俺は昔から高望みた事を考えない冷めた男だ。俺は完璧な方法を考える事なんてできないから、だから今を守ることしかできない」

「「……」」

「俺は今を守る事が自分のやるべきだって。あいつの敵を討ってからそうじゃないかって大陸時代から考えていたが、ひょっとしたら、俺も私情に走ってこんな戦いをやろうとしているかもしれないがな」

 平穏を崩す敵へは静かに、しかし熱く燃えるマーズだが、同時に自虐的な振る舞いも見せる。

 それは何故か。マーズが戦う理由に深く根付く存在。リンに従う者達の内乱に巻き込まれて、人間時代に想っていた幼馴染と自分の息子達のように想っていた孤児たちが散った。 

 彼らが亡き今、もう失う物はないと見たマーズ、いやアレス・コジュンはサムライドとして、マーズ・グイシーとして生きることを決めたのだ。


「悪いな。俺も大人げない所があるから、熱くなっちまう。お前達には迷惑をかけるが」

「かったるい愚痴はほどほどにしてくれ。先輩」

 自分の行いが決してきれいごとではない。私情もはさんだ事だと知る故に、憂いを混じらせる。だが、いつの間にか自分の後ろには後輩の二人が友に立ちあがっていたのだ。


「先輩がやろうとしている事をやり遂げなくては、私達も後継者に認められませんからね」

「先輩が道を開けないからかったるい思いをするわけで、かったるいけどやらねぇといけない訳だ」

「……やれやれ」

 2人の決意に漏らしたやれやれの一言は、どこか嬉しく、どこか呆れるものだ。自分が立ち上がる事に共鳴する彼らは、まるで自分の息子のように、いわば鷹の子は鷹という関係であろう。


「ま、お前達に跡継ぎの道を譲ってもいいような気がしたけど、いやなおさら俺も頑張らないといけないなこの戦いは!!」

「……ようは一歩前進、一歩後退の様な」

「かったるい」

「細かい事気にするなって、それより、決戦の準備とさせてもらうかぁ、アンティアさんよ!」

 半分跡継ぎという期待を損ねてがっかりする2人をよそに、戦いへの下旬美が始まった。まずはアンティアから情報を手にする事。戦いに勝つ事では、情報を得る事は必要不可欠だからだ。

「ま。あんたが誰か俺は詮索しないが、決戦への下準備が本当か確かめさせてもらうぜ」

「まや信頼をしてへんのどすね? 南部軍団の機密をおせてあげようかと思やはったが」

「信頼するより、それを先に聞かせてもらうぜ」

 相手の信頼を得る為に手間をとるより、引き出せる情報は引き出させておく。マーズのやり方だ。戦いの準備に敵は待ってくれない。時間がかかる事をやるなら、少し荒っぽくてもいい。一つでも多くやれる事をやる方が手っとり早いとみたのだ。

「案外用心深い方でっせー。どすけど、うちがあんさんに機密をおせてもらう事は特に不利な事はあらしまへんさかい」

「ほぉ。落ち着いているな。だがこっちも急いでいるから早くしてくれよ」

「はいはい」


 アンティアから得た情報は、南部軍団のトップがカズマ・ソゴウであること、今回の進撃計画がカズマの独断行動によるものでして、三光同盟側は殆どのサムライドが乗り気でない事だ。

 この二つの情報から三光同盟を退ける最良の方法は、1人意気込んでいるカズマを倒す。事とマーズは決めた。


「これで信頼が持てましたか?」

「まぁ、信頼したとしておくぜ……だが、相手の動きを探る事は戦いにおいて欠かせないこと。頼むぜマタゴロー」

 マタゴローを呼ぶと、青を基調としたヘリコプターが飛んだ。彼に偵察を任せるとマーズは手を前へさしのばして叫んだ。

「突破全員出動態勢! 各自ライド・マシーンへこの通信が伝わり次第伝達せよ!!」

 ベルトのバックルを引き抜き取りだされたのはリモコンらしきアイテム。ダイヤルを回しながら周波数を送ると引き抜いた後のベルトに備えられたランプが各自へ点灯を開始した。


「さて、俺達の兵力は1300。相手は以前の偵察状況だと1400」

「そこに南部軍団の勢力が加わるから、相手は多勢となるのでは、先輩?」

「かったるい」

「いーや、かったるいとか全く思わねぇ。むしろ強兵集う俺たちサツマ国のサムライドは、寡兵で何度も勝利を収めてきた! この位慣れてらぁ!!」


 突然の決戦の報せにもマーズは戸惑いを見せることなく、的確な行動を取り、落ち着いた様子。そこはさすが人間時代に小隊長として前線で指揮を振るった男だけはあった。

 名将の器をもつ彼に、アンティアが気付かれない程度に視線を浴びせる。


「ふふふ。マーズ・グイシー。出来る男だが……わらわの目的はお前を始末する事ではない」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ケイはん、どないしますか!?」

 そして、三光同盟において京都の地。金閣寺がかつて存在した地の底でケイはガンジーからの報告を聞いた。微かに眉を動かすが、狼狽する事はなかった。


「カズマは意見の不統一が原因で、ガフサーを粛清して、強引に南部軍団を九州征伐に動かした訳か」

「そや、カズマはんは、ゲンはんの存在に焦りを感じたんや! 五強の一角とゆう屈指のサムライドにオノレの立場を奪われたくはなかったんや!!」

「カズマめ……」

 勢い任せで、時に苛烈な手で内部を仕切るカズマにため息をつきながら、ケイは処遇を考えた。

結論は、ガフサーを私事で処刑してはならないこと。場合によっては処罰を加えねばならない。例え弟であってもだ。

 この結論を出したケイは厳格な性格である。実の弟といえども失態には情けを持たずに処罰する。以前南部軍団の部下達の反乱計画を知った時は容赦なく、宿聖の位をはく奪したこともあった。


「相変わらず厳しいでんがな……それより早速進軍中のカズマを呼び戻さないとあきまへんで?」

「いや……ガンジー、カズマは九州をどのように攻めている」

「なな!? た、確かわいの聞いた話では……九州のシムカっちゅう勢力と手を汲んで九州の領土を二分するつもりとか」

「なるほど」

 だがケイは部下の非を責めても、非だけをあらさがしするようにして見つけて叱咤に入る男ではなかった。ガンジーから聞いたカズマの戦略に、何を想ったか表情を微かに崩す。


「単なる力攻めではないなら、活躍の成果を見守らねばならない」

「どうゆう風の吹きまわしや?ケイはん。カズマはんを庇うつもりか?」

「いや、カズマのやり方は許せないものがある。しかし……三光同盟において実力を証明する事が出来ればそれでよし。それが私のルールだ」

 一旦顔を俯かせて笑みを隠すケイは、顔を上げると先ほどとはまた違った笑みを見せる。その笑みは勝算を感じたかのような笑み。ガンジーには自分の弟へ、異様な自信にあふれる兄としての表情。そのような顔が作れる理由が分からなかった。


「私は、カズマが率いる南部軍団の実力を見せてもらってからでいい。処罰の件はそれからだ」

「そやけど、万一カズマはんがえらいなことになりよったらどないするつもりでっか?」

「その時はカズマがそれまでの実力しかなかった話だ」


 ケイはきっぱり言い放つ。カズマに自信を持つケイの表情は必ず勝つと自信ゆえか、または1人のサムライドとして弟を、カズマを送りだしたら、兄は見守るしかないからもしれない。

「ケ、ケイはん。やはり少し厳しすぎやしまへんか?」

「戦いにおいて兄弟であろうとも、情けはない。実力がなければ切り捨てるのみ。既に罪をもっているならなおさらだ。最も戦果をあげた時は、酌量の余地もしっかり考えている」

「そうでっか……」

「それより、俺は北部軍団の臨時宿聖として使命を果たさねばならない」


 弟の命運を賭けた戦いを兄として終始見守る事は許されない。何故なら彼には渋滞の桜故に、組織の系統が麻痺した北部軍団を取りまとめなくてはならなかったのだ。


「ガンジー、言っておくが私はサクラを切り捨てるつもりだ」

「なんやて!?」

 またもガンジーはケイの意見に驚かされた。宿聖が1人この世界から消えようとしている。マローンの場合は予期せぬ戦死、実力の有無による問題ではなかったが、今度のサクラを不要と見なす理由は北部軍団の大敗である。


「サイを逃して、戦輝連合との総力戦に大敗した原因はサクラの宿聖としての実力不足。正直私は見る目を間違えたと思う」

「た、確かに……い、いや! サクラはんは、いっぺんの失敗!!もういっぺんチャンス与えたかてええんでっか!?」

「そういう訳にはいかない。再起不能と化したサクラを回復まで待つ程余裕はないからだ」

 ケイは既にサクラを気にかけるつもりはなかった。使えない者は誰であろうと始末する彼の考えに、彼自身を従わせた結果であり、目的を為す事を急ぐ彼らに、足踏みをするような時間はないとみていたからだ。


「そ、それなら次期の北部軍団の宿聖は……」

「実力からすればスネーク・サイドだが、あいつはシンを倒すことに頭が全て。忠義ではミラン・ヨドバシだが、宿聖としての実力は不足している。そう考えると地味だが無難なカゲターカー・スーイか……」

 次期宿聖の候補がケイにより北部軍団の面々から選ばれようとしている。ガンジーはケイの意志を確認すると静かにモニターを切った。

「さて、私はこの人事を片づける必要がある……北部軍団の再建はそれからだ」

 地下で専用の座席に座り、素早い動きでディスプレイのキーを叩く。視線の先はノルマで埋め尽くされたメインモニターか、あるいは既に戦場へ旅立ったカズマか。


(カズマ……我ら四兄弟において最強の武を誇るサムライド。ナインステイツのサムライドは強者が集うが、ナインステイツのサムライドを取り込んだ事で戦いは五分に持ち込む事が出来る。そして後はカズマ……お前が思う存分の武を振るうだけだ!)


 兄は弟の武勇を認めていた。たとえ相手が強敵であろうとも、弟は自分の手で兄に納得のいく方法を執った報せに、自分を超える器が弟にあると兄は確信した。弟が越えるその時まで、兄は出来る限り弟を高みへ導いてやらなくては。


「わが弟よ! お前の器が本物なら私の弟として恥じない活躍をみせろ! 無様に帰った場合のお前を始末する事は望まないからだ……!!」


続く


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