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第19幕 始末人ザイガー!合体拳銃対変形小銃!!

「いくぞぉ! おらぁ!!」

「おおっ! 同志ぃ!!」

日本列島において近畿地方と中国地方を結ぶ地点が兵庫県だ。その兵庫県において激戦が繰り広げられていた。

幾多もの量産型兵器を2機の強靭な肉体と装甲を誇るサムライド達が思い切り持ち上げては、倍ほどのサイズにもかかわらず機体をひっくり返して、ひっくり返した無限軌道を二人の鬼が全体重をかけた足がめり込んでいく。


「各小隊ぶちこめ! 相手に反撃の機会を与えてはならん!!」

「「御意!」」

鬼ともいえる巨体のサムライドコンビ・モミーノとアクエーモンが前線で暴れまわる。後方からはハッターが率いる西部軍団のサムライド達が各自用意されたビームガンを抱えて、2人が撃ち漏らした前面のソルディアの駆除、また彼らの標的から外れたアロアードから本陣の護衛、そして2人の無双の援護を行う。

ハッターに率いられる部下全員が修行僧衣を身にしながら、共通の仕様で統一されたビームガンが量産型兵器を1機、1機ずつ機能を停止させていく。


「うむ。敵は小粒。無駄に労力を使わずに兵庫の小勢力を片づけることは容易い事……ぬ!?」

今回の戦闘も順調なり。ハッターの確信は早くも崩れ去る。それは1機無断で最前線へ突っ走る鉄の戦車の存在だ。

「ハッター隊長! またあいつが独断行動を始めました!!」

「またかの……おや、教主殿」

「やれやれ、またあいつが抜け駆けしおったか」

部下からの報告を受けて表情では平静を保ちつつも、“あいつ“は作戦を乱す獅子身中の虫のような存在であると考えているだ。そこに、ひょっこり後ろから現れた僧衣の男がガンジー・ケーン。ハッターの上司であり、西部軍団宿聖だ。


「ったくのぅ。あいつはまだ赤鬼青鬼の域には達しとらへんのや。もし不慮の事故で戦死されたりしたらわいがいっちゃん困るんやで。ライレーン!」

「はっ。そのつもりですね教主様」

ガンジー直属の部下、西部軍団ナンバー2の地位を誇る修行尼の衣装を着用した青髪の女性ライレーン。彼女は早速教主であり上司である彼の意を察して、自分のロングライフルを斜め上へ傾けながら立ち上がった。

「一光銃。標準は……ディア・カノスケの突貫が予測される地点です」

「よっしゃ!」

ライレーンの手際のよい行動に信頼の証を示すようにガンジーは頷き、両足のローラースケートを軽く試運転と入る。


「「き、教主様!!」」

「なんや、おまいら?」

「教主様、西部軍団が圧倒的に優勢ですが、この状況で一人特攻をかます真似など命を無駄にするようなものです!」

「どうか自重をなさってください! この先は私達でも!!」

「アホゥ!」

部下達がガンジーの前進が無謀な行動である故に自重を意見するが、彼は見事に部下を一喝。彼らが一斉に縮みあがってしまう。


「おんどれたちの頼みはわかるけどなぁ、西部軍団宿聖を任せられたわいがここで動かないで仲間を見殺しにできるやさかい!!」

「で、ですが……」

「あのアホンだらもなぁ、わいの部下とありゃあ助けない理由なんやらあらへん! それに、あいつ救うために、おんどれ全員が犠牲になるより、わい一人が犠牲になりよった方がどれだけ救われるかいな!!」

「ほぅ、さすがですなぁ教主殿」


ガンジーの部下を救う事への強い意志と、部隊を率いる小隊長ともいえるハッターの救出を賛同する勝算が、部下の戸惑いを沈めた。彼が自分自身も、ガンジーにとって都合のよい展開へ自然と持ち込む言動にはガンジーが目を軽く細くさせて評価を送る。


「ハッター、ワイも並み以上の、中の上くらいの実力はあるとおもっとるんや。わいが突入する間指揮を頼んだで~」

「了解です」

ガンジーとハッターにあいつを救出する為の作戦を簡単に練ると、ライレーンの一光銃がストレートに虹を描くように光を放った。

「そぉいや!!」

ライレーンの銃口から放たれた光へ向けてガンジーが飛んだ。彼に飛行能力は備わっていない。だが、彼の脚に装備されたローラーブレードはビームなどのエネルギーを足場にしての移動が可能となる機能が搭載されている。よって斜め上へ放たれた光を橋のようにガンジーは渡るようにして進撃する。


「だ、大丈夫でしょうか。教主様は」

「大丈夫だ。教主様は今回の戦いで負けるような例は私のデータからはほぼ存在しない。その状況で教主様の意に応えて全力で活躍させる為に私は私なりの全力を尽くすだけだ」


ガンジーが去った後、激戦区へ一人で突っ込んだトップに対して不安を隠せない部下がいた。彼は自分が去った後の部下達の不安を把握していないかもしれない。

だが、ここでガンジーの懐刀であり、西部軍団ナンバー2のライレーンが、自分が従う教主の無事を主張するような言動で上手く部下達をを取りまとめる。彼女が彼に抱く不安は全くない。むしろ、長年の付き合いから慣れを感じさせる落ち着いた態度だ。


「まぁ何、相手の力を引き出しきるまで、相方に徹することが私なりの戦い。皆、ここは私に従ってほしい所だ」

「おや、私が指揮権のはずですが……まぁいいとしましょうか」

「各自現状を維持せよ! 教主を守るのだ!!」

「「はっ!!」」

ハッターからちゃっかり指揮権を手にしたライレーンが部下へ指揮を送る。彼女の教主を信頼しているが故の落ち着きが部下にも浸透したのだろう。先程とほぼ変わらない様子で援護射撃を開始した。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「そりゃぁぁぁぁぁぁっ! ミラクルドリルッ!!」

ソルディアが入り乱れる前線に車高の低い戦車らしき機体が、無限軌道から思えないほどの進撃を開始している。この戦車の先端からはドリルが展開され、倍以上のソルディアのどてっぱらに風穴を開けて、機体上部のキャノン砲が上空の敵へと火を飛ばす。

この戦車が、独断で行動を続ける西部軍団における獅子身中の虫と指される誰かであり、彼の行動が赤鬼と青鬼。本来の切り込み役の立場がなくなるほどの活躍を披露している。


「お、おいディア! どこへ行くつもりだ!!」

「自分はモーリ・トライアローを倒すのみです! 自分の戦いを邪魔しないでください!!」

「お前、敵はレッドマーズだ! モーリ・トライアローは味方だ!!」

「自分は急いでいるんです! 文句はモーリ・トライアローを倒してから言ってください!!」


アクエーモンとモミーノの様子から、戦車の姿はどうやらディア・カノスケの事だ。彼は西部軍団の一人で、モーリ・トライアローに対する執念が半端でない。

だがよりによって彼らの勢力は西部軍団と不戦協定を結んでいる為に、敵に回せない相手なのに敵として立ち向かうディアはある意味厄介者だ。


「あいつ、俺達より速いぞ!」

「俺達のビートローダーとスタッガーウィンじゃあいつに追いつけないぞ! 同志!!」

「どうする同志! あいつに手柄を取られたら俺達の立場がなくなるぞ!」

「なら同志! 俺達もどさくさに巻き込む形でモーリの勢力を攻撃して手柄としてごまかしたら……」

「何をいっとるんやこのドアホゥ!!」

雑魚を片づけながら、手柄を求める事へとんでもない事を考え出したアクエーモンとモミーノに、ガンジーの強烈な蹴りが脳天に炸裂した。ガンジーの脚力は細身にも関わらず、2人が仲良く頭を押さえて痛みにうずくまってしまう程の威力がある模様だ。


「ガンジー様、痛いじゃないですか!」

「ドアホゥ! 西部軍団鉄の戒律第二条独断先行を禁じる! おんどれらこれやを忘れたんかいな!!」

「す、すみません」

「で、ですがあのディアが勝手に突っ込むから」

「西部軍団鉄の戒律第九条! 戒律を破る真似をせん! 赤信号を皆で渡れば怖くないようなまねをしたらあかんがな!!」

「は、はぁ……」

ガンジーは勢いに乗ってマシンガンのように戒律をモミーノ、アクエーモンへ突きつける。口答えをすればさらに戒律を押しつける。まるで彼ら2人を戒律で縛り付けるように、また焦る心を落ち着かせると、彼は脚部のローラースケートの調子を確かめる為軽く地面をつま先で蹴る。


「まるっきし、ディアに死んでもうたり、暴走が行き過ぎたりしたらわいが困るがな! 今から助けて説教しとくから、赤鬼青鬼は現状維持や!!」

「「は、はい!!」」

「ほな、行きまっせ!」

アクエーモンとモミーノへ言いたい事を言ってすませると、ガンジーがまた光のレールへ飛び乗る。そしてローラーブレードが標的へ向けて伸びていく光のレールを邁進していく。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「へへっ! 自分が倒せない敵はいないんですよ!!」

ディアは勢いで突っ走る。無限軌道と前部の車輪が激しく疾走して、ターンを決めてソルディアを貫いて、キャノン砲2門が胸を貫いて風穴を機体が突っ切るようにして飛ぶ。勢いで動くような彼であるからゆえに、勢いはそう簡単になえるものではない。疾走をやめる事を彼は知らないもようである。


「野郎! さっきからちょこまかちょこまかと動き追ってふざけるんじゃねぇぞゴラァ!!」

だが、ディアの真上に存在する絶壁から大柄な1機の影が見えた。シルエットからは自分より遥かな巨体。崖から射出された五機のライドマシーンがシルエットを赤、青、緑、黄、白、黒の六色に身を纏った巨体が砂塵を巻いて地面に着いた。


「あんたは誰ですか!!」

「誰ですかだと!? 俺の縄張りを荒らしといてよくもまぁそんなことを言うわ!!俺はな……」

「先に言っておきますが、 自分にはモーリ・トライアローを倒す事以外に興味はありませんから! 関係あるサムライドでないと、自分は聞く気もありませんよ!!」

「……」


そのサムライドに対しディアはストレートに興味がない事を告げる。散々自分の縄張りを荒らして、更に誰だと自分に聞いて名乗りを上げようとして、そのような言い方をされてしまっては、言われた方はたまらないものである。


「華鬼血隊長であり、六機合体レッドマーズ様を馬鹿にするなぁぁぁぁぁっ!! レッドマーズフラッシュ!!」

この大柄なサムライド・レッドマーズが痺れを切らしたかのように、背中から抜き取った強大な刀を奮い、ディアへ一文字に切ろうとする。だが、


「フォームチェーンジ!!」

この時、ディアの機体が背中からのブースターを噴射しながら直立へと立ち上がった。砲門の両腕から拳が露出し、最後部のパーツが表をむけば兜を着用した彼の顔が外気にさらされる。

よって人型の形態へ戻ったディアは、真剣白羽取りの要領で振り下ろされたレッドマーズフラッシュをぎりぎりのところで受け止める。


「な、なんとっ!」

「興味がない相手なんて所詮こんなものです!!」

「興味がないとか、そんな事また言うな貴様!!」

「仕方ないじゃないですか! 興味がない相手は本当に興味がないんですから!!」

興味がない、興味がないとディアは素直な感情をぶつけるが、レッドマーズの立場では相手にされていないと同じ事。彼の誇りが汚された事はもちろんだが、ディアの仕方ないにそんな事知った事かのようなものだ。


「自分の興味はモーリ・トライアローを倒す事のみです! 興味を持ってほしかったらあんたもモーリ・トライアローを倒せばいいじゃないですか!!」

「何で俺は敵に説教されているんだ……」

「自分は間違っていない! これが自分の持論です!!」

「えぇ……」

目の前の敵レッドマーズに、何故かディアからは別の敵を倒すように訳のわからない説教を食らい、そのむちゃくちゃな意見を彼は絶対的な何かを感じている。どちらにしろ常任ではないしぶとい考えのディアにレッドマーズが半分引きかけていたところだ。


「ちょいと待ちなはれ! ディア!!」

「何を言っているんですか! ガンジー・ケーン!!」

そこでガンジーがやってきた。光のレールを進みながら暴走するディアに突っ込みを入れようとするが、

「だいたい! 自分はモーリ・トライアローを倒す前座に興味のないこのサムライドを片づけて西へ向かうのみでして……自分は間違っていない!!」

「あちゃー……このドアホ」

 ディアは我が強い性格で、自分の考えをよくも悪くも折らない。最も今の状況で折らない事はガンジーにとってはあまり望ましくない事だが。


「あーもうライド・ヒア! 光明一機」

呆れながらガンジーが指をはじけば、背後から白の傘と修行僧衣が一体となったライドマシーンが尾行するように飛行を開始する。そして、


「ライド・クロス強槍鋭脚! まるっきししょうがあらへん奴や!!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「と言うわけで自分はモーリ・トライアローを倒そうとしない相手は敵! よって自分はあんたを倒します!!」

「ふざけた事を言いやがって……もう一度ファイナルレッドマーズだ!!」

「でやややややややぁぁぁぁっ!!」

両足から射出された十字型の短刀クロスカウンターを握りながらディアがレッドマーズへ駆ける。頭を前のめりに倒したまま、恐らく彼は前しか見ていないと思われるが彼の頭上へはファイナルレッドマーズが振り下ろされる、しかし


「……っ!!」

太刀を振ったレッドマーズが震えあがった。怖気ではない。振った先の障害物に太刀が当たり、強固な物体からの衝撃が腕へと伝わっているから震えているのだ。

その隙に、ディアのクロスカウンターが脇腹へ突き刺さり、彼を象徴する兜の角が中腹を抉るように刺す。


「へへへ、自分の兜はイズモ国の技術の結晶です! あんたの剣を受け止めることくらい簡単です!!」

「な、ななな……」

「それより! よくも自分の誇りでもあるイズモ国の兜を傷つけようとするなんて……とにかく自分の故郷に刃向かう相手は死んでください!!」

「ち、違う……俺はそのな、その」

「うるさーい! 自分は絶対間違っていなーい!!」

自分を正当化するディアの叫びに、彼の兜が顔面全体を覆う装甲へと変形。勢いで倍以上のサイズのレッドマーズを首と両手の力で真上へよろよろと持ち上げ、頭をドリルのように回転させながら角を赤熱させる。この一連の動きによる攻撃をジェラフパライザーと称される。


「あんたはここで死ぬべきです! 自分は故郷の誇りに傷をつける相手が大嫌いですからね!!」

「なぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

ディアの首が激しく回転する。だが、彼はまだ気づいてはいない。レッドマーズの体から聞こえる針が刻んでいく音だ。


「ディア! あかん……そいつをそうやって倒したらあかん!!」

「何故ですか! 自分は間違ってないですからそれで大丈夫じゃないです!!」

「そういう意味やあらへん!」

ガンジーが血気にはやるディアを収拾しようとするが、自分の行動に迷い一つなく正しいと言い張れる彼には、余り効果がない。口で言っても分からない相手には自分が直接動くべきだ。ガンジーの判断が次の行動を決めた。


「あぁもうライレーン、レールストップや!」

『了解です。教主様、敵を発見した事でよろしいでしょうか』

「そや! そんでもって現場へ大至急向かってやモミーノ、アクエーモンにも向かわせてや!!」

『総動員と言う事は、ディアの暴走を止めろということですね』

「すまん、わいにこいつを抑える自信はあらへん!何時ものあれで頼む」

『了解です!!』


ガンジーの通信に対し、ライレーンはディアの件に呆れながら、彼の意向を承諾した。そして彼がレールの先端に到達してから、空中へ飛びあがり身体を高速で回転させる。

「えーい堪忍してやディア! 浄土三段蹴りや!!」

「あだっ!!」

ガンジーの体が独楽のように地面へと突き刺さろうと向かう。ディアの斜め後ろから迫ってくるガンジーの足先が相手を貫くかと思いきや、つま先ではなく足の裏全体でレッドマーズの右肩を踏み込んでは身体をばねの様に脚へ力を貯めて再度飛び上がった。


「ななっ!?」

「てやぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ぐあぁぁぁっ!!」

「なぁっ!」


次に空中でトンボを切りガンジーの足が再び駒の様に、唸りを上げながらレッドマーズへの顔面を貫くように蹴りを決めたかに見えたが、またも空中を飛び、天へ姿を消した。


「じ、自分、頭がくらくらするわ……」

「そいやぁぁぁぁぁっ!!」

ガンジーの二段蹴りはレッドマーズだけではなく、ディアにも角越しにダメージが伝わるもの。頭へ激しい重みが襲い掛かり、何とか体勢を整えようとするも、前へのめり込んだ時に彼の兜がレッドマーズを挟み込んだまま地面へ落ちる。だが、


「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

標的はレッドマーズのみ。三度回転しながら蹴り込むガンジーは、挟まれたレッドマーズの巨体の中核を貫いた。今度も彼の身体を足場にして飛び上がるが、

「ディア! とにかくさがるんや!!」

「は……はい!!」

「よぉ狙ってなぁ……そこや!!」


再び宙に身体を回転させながら、ガンジーは背中に携えた小銃“法華銃”を抜いてトリガーを一度引いて身体から飛び出した部品を貫く。その部品は、レッドマーズの残骸をもかき消す程の爆裂が起こり、爆風のあおりでディアが尻餅をついてしまう程の威力だった。


「堪忍してや、ケイ様の為におんどれは極楽浄土へ召されるんや……」

「……」

そして地面へ着地するや否や、ガンジーは弔砲を鳴らした。空いた右手では彼の浄土行きを信じて首を少し前へ下げながら拝む。

ガンジー・ケーンは西部軍団の宿聖である。強烈な個性を持つ同階級の3人に、ディアの様な部下に振り回される彼も戦場に立った時には果敢な戦士。ディアは彼の戦いをはじめて目の前で見たかのように、口をぽっかりと開けっぱなしだ。


「ディア!」

「な、なんですか……あだ!!」

振り向いたディアへ迷いもなく、ガンジーが法華銃の銃身をディアの頭を叩く。強固な兜が頭から脱げており、本当の頭に銃身が撃ちつけられた時はやはり痛かった模様で、頭を押さえながらうずくまる。


「何するんですか! 自分は間違った事していないのに!!」

「おんどれが死んでもうたらどないするつもりや!レッドマーズに搭載された小型爆弾の巻き添え食らって死んでもうたらなぁ、わいはどないすればいいんや!!」

「自分があのくらいの爆発で死ぬとは思いません! 故郷を馬鹿にするものに負ける訳がありません!!」

「ちょ、ちょっと待てや!」

部下を想う故のガンジーの説教をディアは突っぱねる。そして小型爆弾によって炎上する地帯へ躊躇わずに駆けだして、炎の中から自分の誇りである橙の兜を持ち出し、金髪を兜で隠すように被る。なお、爆発の被害を至近距離で受けたにも関わらず全く無傷だった。


「ディア、そないこと言うとるんやない! おんどれが死んでみぃ……もしハルはんが見つかった時に、おんどれが死んでもうたらどないするんや!!」

「ハル・フィーサ様が……」

戦火から戻っても突っ張るディアを無駄に責めることをガンジーは良しとしない。そこでハル・フィーサの事をディアへ持ちかける。ハル・フィーサ。彼女はイズモ国時代のディアの上司であり、彼が故郷同等に大切にしている宝物のような方である。


「ディア、ハル・フィーサはおんどれが大切にしておる兜と同じ位、いやそれ以上に大切な同郷の思い出やないかぁ?」

「それは……そうです」

「そやろ。ディア、わいらだってハル・フィーサが見つかったらお前の願いをかなえてやるとおもっとるんやからな」

「……は、はい」

「だからな、今はモーリ・トライアローを討つよりも、おんどれの主君との再会の方が大事ではやんけ。ちがっとるか?」

ガンジーがハル・フィーサの名前を持ち出して窘めれば、ディアがしゅんと沈んでしおらしくなる。

彼にとって彼女の名は、行動指針として彼のエスカレートしかねない暴走を促進する時もあれば、暴走が収拾させる役割も併せ持つようで、とりえあず彼が一先ず落ち着きをガンジーは自分の胸をホッとなでおろした矢先だ。


「ガンジー様ですね? 今回の戦い、お疲れ様です」

「そや、わいが西部軍団宿聖の……っておんどれ、わいに感謝しとるということはまさか」

「!!」

「はい、自分はシュージ・シミズ。モーリ様の命を受けてガンジー様を迎えにやってきました」

ガンジーは焦った。よりによってモーリからの使いが現れたからだ。振り向いたときには先程大人しくなったディアがまるで通行者に対して荒れる番犬のように、歯ぎしりしながら顔をシュージに向けようとするが、

「なな!?」

その時ディアの背中に12本の線香が一気に突き刺さり、瞼を急に閉じてその場で口を開いたまま真後ろへ倒れた。そんな倒れた彼の後ろには先ほどの通信を受けて到着したライレーンが法華銃を片手に到着していたようである。


「間一髪です。もう少し私の到着が早ければ」

「いや大丈夫や、よぉ来てくれはった」

「あ、あの……」

「あぁ、済まないな。色々ドタバタして」

ディアの暴走が再度収まり、安堵する表情を一瞬見せるが、一応相手が他勢力の使いであり、西部軍団の宿聖として、軽く会釈して威厳を保つ。

「まぁ、わいはモーリはんに不戦協定を結んだ代償として、おんどれらに対抗する小童どもを片づける約束をしとるんやから当たり前の事やっただけや」

「そうですか。モーリ様から今後の件について折り入って話があるとの事で……」

「わーった。ハッターとすぐに行かせてもらうわ」

礼を終えたシュージが後ろを振り向いて帰る。それからガンジーが振り向けば、いつの間にか戦場だった地にライレーン、ハッター、アクエーモン、モミーノ。主要メンバーが勢ぞろいである。


「さて、わいとハッターは会談に出席する。よってライレーン、お前に留守を任せようと思うんや」

「了解しました。ですが教主様、ザイガーをどうしますか」

「ザイガーやと? あぁ……」

ザイガー。西部軍団の主要サムライドにも関わらず、ここまで名前が挙がらなかった彼の名前がようやく出てきた。ライレーンと同等の実力を持つ男が、何かの事情がない限り前線へ現れないはずはない。何か事情があるようである。


「はい。ザイガーはシンを始末しろと、北部のミランからの依頼を受けて仕事に向かったようですが」

「そうでしたなぁ」

「ミランの腹の中は解らない事が気がかりですが、どちらにしろザイガーがあの標的を仕留めれば、西部軍団の立場は優位になります」

「そやなぁ」


ザイガーの行動に、ガンジーがあごに手を当てながら思慮に入る。どうやらザイガーは曲者であるようでガンジーが何とも言えない表情で苦心している模様だ。

「ザイガーのやっとる裏稼業は、成功率100パーセントといっても過言ではおまへん。あの男を倒せとゆう依頼も奴ならこなせるかもしれんからなぁ」

「しかし、頼んだ側が頼んだ側のうえ、ザイガーもザイガー。どこで道草をしているか解らない男です」


頼んだ側が頼んだ側である。ミラン・ヨドバシは地位の保身と出世欲は人一倍、その為なら強かな男であり、味方を犠牲にする事も厭わない卑劣漢だ。現状軍団内部に彼の手で犠牲になった者も少なくない。今度は軍団の枠を超えた犠牲者が発生する可能性もあり得る。

「しっかし、あいついったい何に目を付けてミランの依頼に乗ったんや? わいはザイガーに報酬を与えておるけどなぁ。整備・鍛錬特権、任務以外の自由行動権限。大阪の自由居住権……あかん、これや以上報酬を割くと西部軍団破綻してしまう」

「ザイガー様、ザイガー殿はガンジー殿がおあたえになっている特権よりも好まれる者がありますがなぁ」

「……」

ザイガーの動きに悩むガンジーへハッターがヒントを持ちかける。その手掛かりを聞けば、ガンジーは歯がゆいような視線を彼に向けてから、軽く呆れる仕草をとった。

「そうやった。あいつはそんな奴やったわ。ミランの奴、それを目につけて……」

「おそらく、北部軍団でミラン殿が目の敵にしている北部軍団のサムライドがいます。その方を西部軍団へ追いやることで北部軍団の実権を掌握するミランの姦計……」

「なるほど……殺されるよりはましやが、それよりザイガーがミランの罠に嵌ったら一大事や」


ミランの考えを何となくガンジーは読んだ。北部軍団のトップの座へ飽くなき野心を燃やす彼の策略に、自軍のザイガーが巻き添えを食らおうとしておる事へ疑問を感じていたのだ。

「ライレーン」

「はい。こちらから向かうつもりでした」

「……われ、わいが言う前にようわーったな」

「ええ、思い当たる所がありますから」

「そや、帰還したらザイガーを監視してくれへんか。ミランはともかく、ザイガーの動きはワイもひやひやさせるからなぁ」

「了解です」

ザイガーの救援を選んだガンジー。彼の命令をライレーンは素早く了承の意を示す。


「モミーノ、アクエーモンはディアを連れていく事でよろしいでしょうか」

「そや。あいつはこの場にいたら何をしでかすか解ったもんやあらへんがな」

「御意」

この二文字の短い返事で、ライレーンはザイガーの所へ急いだ。彼女はライドマシーン・一光機に身を包むことによって、己一人空を移動する。


「しかしディアの奴重いなぁ……同志、そう思わねぇか?」

「おぉ同志。確かディアの奴の兜が凄く固いとか言っていたなぁ」

そしてモミーノとアクエーモンは気絶したディアを担いで帰ろうとしたが、やや小柄な身体の割には重量が想像以上のもの。やや頭が鈍い2人でも違和感を抱かせるほどである。

「俺の気のせいかもしれないが、頭の部分がむっちゃくちゃ固くて重い気がするぞ」

ディアの頭に不審な点を見つけたアクエーモン。そして彼はふと何かを思い浮かび、ディアの兜を脱がせて、本体を一度寝かせる。


「どうした同志」

「いやこれだけ重く固い兜だ。そんな兜を砕く事が俺たちに出来るかどうか気になってな」

「面白そうだな同志! なら、俺が砕いてやらぁ!!」

「あぁ。俺まで砕かないようにな」


ディアの兜を割る。こんな事をやらかして、祖国の誇りを汚されたと知ればディアが暴走する事は目に見えているが、同じ祖国でもなく、彼らの祖国への思いもそれほどのものではない。

よってこの愛国心の薄い2人は遊び気分でディアの兜を砕こうとしている。アクエーモンが彼の兜を両手に持ち、モミーノが腕をぶんぶん振り回しながら力を溜めていく。


「ていやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

そして、拳が兜を……砕かなかった。砕けたよりも兜が衝撃に対して激しく震えあがった。そして兜からの振動が拳を奮ったモミーノはおろか、兜を支えていたアクエーモンにまで伝わる。

「ど、同志……」

「な、なんだ……」

「こ、こいつの兜一体何なんだ……」

「あ、ああ。しかし言える事が一つだけある」

「お、俺もだ」

「「世の中には俺たち以上の物がまだまだある……なぁ同志」」


ディアの兜は頑強なもの。それは素材や製法だけではなく、祖国への想いが単なる遊び半分の気持ちに勝ったのであろう。


「ハッター、アクエーモン。道草の暇はない。任務へ就け」

「は、はぁ」

「ライレーン殿、すぐ向かいます」

ライレーンの催促を受けて、2人はディアの兜が砕けなかった事を不満に思いながら、やや乱暴にディアと、兜を担いで彼女の後を追った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「はぁ~しかしディアの奴ほんまモーリ嫌いはどうにかならへんかいな……。モーリはんの陰陽党を仲間に加えたら、火種の元になりかねないんや……」


それからライレーン達が帰還を始めて姿が見えなくなった頃、ガンジーはディアについて誰にも聞こえないような小声で苦言を漏らす。モーリを仲間に加える。この様な話をディアへ持ち込めば、迷わずに暴走してしまい何をしでかすか分からないであろう。

「そうですなぁ。ガンジー様は、モーリを倒せる自信がないから不戦協定を結んでいるわけでして」

「嫌な言い方するなおんどれ……最も否定せんけどな」

ガンジーの本心へ、ハッターの言葉が彼にぐさりと胸に刺さった。だが、否定しない所が現実。彼が西部軍団の宿聖と組織内でトップに近い男であっても、相手のモーリは大陸時代から五強に数えられているサムライドである。


「モーリはんとは大陸時代から縁があったんやけど、あの男はなかなか動こうとせぇへん。やはりあの件が」

「あの件が原因でしたら、ディアの存在はやはり……」

「あかん!それはあかんでぇハッター!!」

あの件についてハッターが話を持ち込み、ディアの処遇を考えさせる発言に入るが、本筋に突入する寸前にガンジーが待ったをかける。


「ディアはケイはんが見込んだサムライドなんや。それやからわいらの西部軍団へ移されたんや」

「そうでしたなぁ……ディア殿もケイ様も故郷の復活を望んで戦っていますからなぁ。志が繋がる者同士何か通じる物があるのでしょう」

「それもそうや。あの2人は、いやわいも入れて3人。故郷を想うからこそ戦いに身を投じとるんや」


ガンジーにはケイへ志に通じる物があった。だから西部軍団の宿聖として大陸復活の為に戦い、鍵を探している。知人のような関係である。そして、モーリの待つ拠点へ彼とハッターが足を動かす。


(モーリはん。わいそやかて故郷が恋しいから戦っておるんや。勝ち目がない事と、大陸時代の縁もあるさかい、今は答えを出すまでわいはあんさんの所へは手は出さへん……ただ敵対した時には……容赦しまへんで)


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「したたかな男だぜ……こちらの安全を守る代わりに人類抹殺とか企てる組織とあたいらは手を組まされているってのに」

このガンジーとハッターの動きを一段上の砦から眺める者達がいた。老齢なる男の両脇には、男の様な女性と、孫娘と思われてもおかしくないほどの背丈の少女が添う。

「パパン、あの人たちって確か三光同盟の軍団なんだよね~」

「あぁそうじゃ……ガンジー・ケーンは大陸時代に面識があった男。セッツ国を纏め人とサムライドの共存する世界を築きあげた文武両道の名君の誉れがあったのぅ」

ガンジーと面識がある老戦士がモーリ・トライアロー。五強の一人であり、サムライド屈指の頭脳を誇る男である。


「なら親父、そいつが何故人殺しの組織に加入しているんだよ!!」

「お姉ちゃん落ち着いてよ!」

両隣のサムライドがモーリの後継機であり、父と娘の関係に当たる。ガンジーを糾弾する不良じみた男勝りの女性キッカ、彼女を止めようとするピンクのロングヘアーと白のベレー帽が特徴的な少女がジュジュだ。

「キッカ。おそらく、あの男もケイ同様都への忠誠心が厚いサムライド。国民を愛するが故に同じ理想を持ち凶行に走ったケイに志を重ねたのだろう」

ガンジーとハッターが自分達の元へ近づいていく。彼らを迎える姿勢を整えるようにモーリは後ろへ顔を向かせてから口を開く。


「ガンジーの意志は分かるが、わしは、どちらにも動くべき時ではない……この世界の、わし達を信頼して平和を願うこの地方の人々を戦火に巻き込みたくはないからじゃ」

「パパン……」

「けどよ親父! 動かないんじゃあの似非坊主の操り人形同然じゃねぇか!!」

「キッカ、ジュジュ。お前達になくてタカナが持つものを解っているのか?」

納得のいかない顔を自分へ見せる2人の娘にタカナという名のサムライドの話をモーリは挙げる。タカナ。この名前あ彼女達にはとても深い関係があった模様で、即座に態度がしおらしくなる。


「アネキ……」

「タカナお姉ちゃんは、皆を大切にするから戦うのが嫌いだった。そんなお姉ちゃんに仁の心を持っていたってパパンが言っていたね」

「そうじゃ。キッカは武、ジュジュは智ならタカナは仁。お前達がいればわしの国は平和を保つ事ができるとあの頃は考えた物じゃ。だがタカナは……」

 三姉妹の長女に当たるタカナはここにはいない。彼ら三人が首をうなだれる様子が、彼女への再見、共に過ごす日々がもうない。現実がこの世界に残された妹の2人へ冷たい風を噴きつけるように通り過ぎていく。2人の胸の内は現実の辛さを感じさせていたに違いない。


「わしはタカナの分まで、朽ちようとも生きる事を決めた。そしてわしはあの頃から今もこの世界を、戦火に巻き込まない為にはわしはむやみな戦いを仕掛けることはしない。それがタカナへしてやれる事だと思ってな」

モーリは年老いながらも、強固な意志を持つ瞳で天を仰ぐ。娘、平穏への想いがサムライド一の英知を誇る彼に自重を強要させているのであろうか。


「本当ならこの世界の民が全員平和に過ごす事が出来ればいい……じゃが、まだ力が足りないのぅ」

どうやら、この天才が動くには時間がもう少し必要である。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……」

そして琵琶湖の湖には、身体を浮かせる1人の少女の姿があった。水面を浮く背中の翼には2本の扇子に、笹の葉のようにすらりと長いロングスカートと、種皮のように強固な、外部装甲ともいえる衣服が置かれた。彼女は水面に純白のアンダースーツを浸して、安らぎに身を任せる。


『ミツキ、お前が名付けたサムライド軍団“戦輝連合”を三光同盟への対抗馬にするつもりだな?』

「はい。トダカ様、ユーサイ様」

『この間北部軍団を追い払ったそうね~ミツキにピンと来た私の目に狂いなしね』

「ありがとうございます」

湖に浸され、内はねのスタイルが特徴のミツキの青い頭髪が、しなやかに、型を繕っていた時とは違い、自然のウェーブが加えられた状態だ。

たった一人しかいない。琵琶湖周辺の空間において、彼女は上司に当たる2人のサムライドへの現状報告を行う。この件は彼女自身しか知らない。シンも、クーガも、サイも彼女のこの行為を全く知らないのだ。


「しかし、あくまで北部軍団を一度落としただけ。二度三度落とす事が出来るかは私にも解りません」

『そうか。だが、お前の戦輝連合はまだ始まったばかりだ。五強が一人を除いてはまだフリーのような存在だからな』

「一人ですか? 誰かは知りませんが私の勘では……」

『紅き軍神ゲン・カイ。彼がマローンの後任として東部軍団へ就いた。もちろんゲンがかつて率いた風林火山の四天王も健在だ』

「風林火山の四天王……」

五強筆頭とも呼ばれたゲンが、三光同盟の東部軍団の宿聖として就任した。本人の能力は勿論、最強と呼ばれた彼のサムライド軍団まで自分達の敵となった。この事実を知らされたミツキもポーカーフェイスを少し崩してしまう。彼らが敵と化した事はそれだけ脅威となる。


『そうよ。只でさえ最強筆頭のゲンに、武勇、忠義に文句なしの四天王がいるのよ。あの軍団に、残りの五強3人がかかっても勝てるかもしれないわ。大丈夫かしら』

「そうですか。私としては、現状何とも言えません」

『いやミツキ、だからと言って不安に陥る必要はない』


ユーサイの話す内容から、ゲンの勢力が加わった三光同盟は更なる強敵と化した。しかし上司たる者が、部下を不安に陥れて任務に支障を来たしてはいけない。ユーサイの言動を受けてのトダカのフォローはナイスタイミングだ。


『ミーシャとポーはまだ三光同盟の門下には下っていない。お前の勢力に二人さえ加えればゲンを包囲して叩く事も出来るから』

「なるほど……おや?」

『まぁ、二人さえいれば目的は達成されますからね……どうしたのミツキ?』

現在、この世界に存在する五強の4人の内、まだ一人が触れられていない。ミツキは彼の話題をスルーする2人の真意が気がかりなのだ。


『お前が聞きたい事は、どうやらモーリのことだな』

「ビンゴです」

『……あいつは多分第三者、傍観者のままでいるはずだ』

「大陸時代に、小国アキ国のセントラルエリア統一を一代で成し遂げたモーリ。彼が加われば心強いと思うのですが」


トダカにはすぐにミツキが誰を指そうとしているか分かり、スルーした理由を説明する。続いてユーサイが彼女に代わってミツキへ説明を行う。


『そうよ、モーリは長女が戦死してしまった頃から戦意を失ってしまったのよ』

『あれから民の平和を前提に、国の統治と防衛以外の事はしなくなった。だが一つだけ言える事がある。それは……』

『『モーリ・トライアローが野心を持ち続けていたら大陸は既に彼のものだった(ということです)』』

「……」

話す口調は違っても、トダカとユーサイ。この二人の考えは同じ模様。2人声をそろえて同じ意見を言う時も、計画など練っていない。自然に口から言葉が飛び出したように聞こえた。


「それほどの実力者ですが……加わらない事を前提に考えるべきですね」

『そうだ。五強のうち2対2の構図に持ち込んだ頃には二大勢力の決戦を残すのみ』

『ミツキ、貴方はお膳立てまでが使命なのを忘れないでね』

「……私達は役目を終えた時には去らなければならない」

ミツキは一瞬言葉を詰まらせるが、自分の宿命を2人に告げる。だが2人は彼女が使命を再確認しても何も反応がない。仕方がないので全てを告げる。

「……また、さらなる力を求めた時は敵として回らなければならない……」


『そうだ、私達は世界のフィクサー。過去も、今も、未来も……ただ』

『そうね。ただ……ね』

ミツキは不本意ながらも、自分の使命を弁えていた。だが一点気になる箇所がトダカとユーサイの心に残されているようである。


『『今の三人ではまとまりがない……以上!』』

「……的中です」


トダカとユーサイへミツキがシン達の様子を暇さえあれば報告をしていたかは定かではない。だが、顔を合わせた事もない者の欠点をズバリと言い当てる上司2人。彼らの洞察力は抜群のものだ。

『確かに。サイは周囲に振り回されやすく、クーガは我が強く強硬的』

『ましてシンは誰かさんが言った通りおバカちゃん』

「はい。特に最後は同意します」

ユーサイの指摘に対して同意の反応を打つミツキの言葉は、何故か感情がこもっていた。これを本人が聞いていなかった事が幸いの模様である。


『だがミツキ、お前はばらばらの3人を裏で纏めて事を進める役目』

『ミツキが去るときには既に組織は纏め挙げられているはず。貴方の存在が不要になる事を目指す必要があるわね』

「はい……」

ミツキの課題が定まった。三光同盟に対抗できるだけの勢力の拡大、そして性格や考えがバラバラの3人の統率である。後者に関してはミツキもやや手こずる事が予測したのか、微妙な表情を見せるが、上司2人でも通信機越しでは相手の表情は掴めないだろう。


『まぁ何、その、あれだ。今のお前たちならいい調子よ!』

『そろそろ怪しまれるからここで下がらせてもらうわ』

「は、はぁ……これでいいのでしょうか」


通信機による連絡が切れる直前に漏らしたミツキの愚痴を、トダカとユーサイが耳にしたかは分からない。しかし、彼女が水面に半身を浸しながら微かに変化させた表情からは、愚痴と決めつける事は出来ない本心が漏れる。


「……シンさんとは大陸時代からの付き合いですが私の正体は知りません。私が正体を明らかにすることは、私はシンさんを裏切る事になります」

ミツキの平常心を崩されていくことが、表情からわかった。だが、彼女は常に平静を保ち、冷静沈着な素振りや言動をとることが信条。自分の心情が崩されていく事が辛い。だから彼女は一度顔を水面へ沈めて、また浮き上がる。


「いえ、裏切ると決まったわけではありません。私は味方から中立へ戦線を一歩退……!!」

 自分の使命を正当化することが、今ミツキが平常心を保つ事が出来る最善の方法だ。落ち着きを取り戻した彼女は、周囲の森林から聞こえたかすかな物音を聞き洩らさない。


「あたぁ!!」

「その声は……」

浮かべたキキョウを手にして、ミツキは物音の鳴った方向へ投げつける。すると男が悲鳴と共にキキョウが額に突き刺さった滑稽な姿でひょっこりと現れた。


「……シンさん、私は貴方を馬鹿だと考えていましたが、色情魔までとは考えていませんでした」

「いや、違う! 大体な」

「シンさん? この手のシチュエーションではごまかすよりも、潔く罪を認めたほうが好感度は上がりますよ」

「なるほど……ってちげぇ!」

現れたシンにミツキは何時ものように、トンチンカンな彼を鋭くえぐるような冷淡な突っ込みを、いわば言動のボディーブローの要領で放つ。


「だいたいこれはなぁサイがきっかけなんだよ!!」

「サイさんが? 馬鹿なシンさんより清廉でお利口さんのサイさんが貴方のような馬鹿と同じ事は」

「バカバカ言うな! そもそもなぁ、サイがミツキに用があって聞こうとしたことが事の始まりなんだよ!!」

「それがどのように関係があるのですか?」

「まず、俺達の通信機がお前に届かない。次に、サイのレーダーでも居場所がつかめない。だから俺とサイでお前を探し回ったんだよ! そうしたらお前が沐浴していたのを見てなぁ、サイが気絶したんだよ!!」

「だからそれは覗きじゃないですか」

「おだぁ!!」


息を突かせる間もなく、長台詞を言い放ったシンだが、ミツキから言わせれば二文字で済む。それだけではなく、悪気がないのに一方的に覗きだと言われてしまい、彼はその場で思いっきりずっこけた。


「なんでそうなるの! それより、何でお前の通信が切れているんだよ!!」

「戦いの中明日かもしれない命において、命の洗濯は貴重な機会です。何事も忘れたくなるときはなります」

「あのなぁ……そもそも俺は……」

「サイさんにとっては、私のセミヌードを見る事が出来ただけでも心が洗われたのかもしれませんよ」


 気を取り直して立ち上がろうとするシンだが、ミツキに自分の突っ込みはスルーされてしまい、話の筋を変えられてしまう。トンチンカンな言動が多いシンに付き合う事も厄介だが、掴みどころがなく飄々としたミツキもまた付き合う事が難しい相手である。


「とりあえず、サイさんは私のようなスレンダーなクールビューティーが好みの様ですが、シンさんはそうではないのですね」

「そういう問題じゃない! 俺が好きな女はなぁ……少なくともクーガのように真面目ぶった奴は例外で……」

「何を馬鹿な事を言っている!!」

「ながっ!!」

第三者がボケと突っ込みの飛び交う不毛な会話に幕を下ろそうと、戦輝連合一の硬派がシンのこめかみを押しつぶすように拳をあてる。


「何すんだよクーガ! お前は男だからこちらから願い下げだぜ」

「馬鹿! 俺が言いたいのはな、お前達が滋賀の戦後処理を放置していることだ!!おい起きろサイ!!」

「ん……」

ミツキを探す事で任務をほったらかしにしているシンとサイにクーガが呆れている。彼は戦輝連合の残り一人、サイの気絶した体を起こして軽く揺さぶるが、

「ミ、ミツキ! 僕は見ていないよ!! ミツキはここにはいないミツキはここにいない……」

「……」

だがしかし、目が覚めたサイにとって素肌に密着するアンダースーツ一枚越しでのミツキの身体が余程刺激的だったのか、先程と今の目の前が把握できずにオロオロするのみだ。サイの想像以上に女性に弱い性格にクーガは怒るどころか軽く呆れてしまう。

最もシンにクーガが怒る理由は彼が余りにもトンチンカンな言動をしでかすからである。サイの性格はシンと比べれば遥かに人畜無害、いや機畜無害だ。

「サイ、ミツキとは連絡取れなかったというが、お前は確かレーダーによる捕捉能力に長けているサムライドだろ」

「う、うん。そうだけどこの地帯のデータが掴めなかったんだ」

「レーダーが掴めない?お前は先ほどメンテナンスを受けたはずだ」

「そのはずなんだけど、僕にも分からないよ……」

「むぅ……」

 すぐに我に返ったサイの話をクーガは疑問に感じた。何故サイのレーダーがミツキを捕らえる事が出来なかったのか。偶然か、地形か、または……ミツキか。琵琶湖において抱いてしまった疑問が彼の脳内を駆け回っていた。


「なにか俺、誰かに酷い事言われた気がするな……」

「多分気のせいです。それより万が一に備えてアンダースーツを着ていたのですが、サイさんには余り意味がありませんでしたね……」

「あぁ。まぁそれはさておいて、お前はとりあえず服着とけ。サイがまたお前を見たら大変だぞ」

「それもそうですね……さて、アンダースーツ蒸散完了」

浮かび上がる謎を解こうと思慮に入るクーガとサイの様子を横目に、シンとミツキのやり取りは軽い。一応大陸時代からの付き合いもあり、意外な所で息が合う会話が出来るものである。


「おや? 折角のファンサービスがおしまいか?」

「!!」

「誰だ! そこにいるのは!!」

その時だ。彼ら4人が全く聞き覚えのない声に、各自が一斉に声が聞こえた方向へ振り返った。またシンが思わず叫んだ瞬間だ。

「おっと、そんなに怒鳴る必要はないんじゃねぇか?」


シンに呼応するように、現れた男は両手をあげて、無抵抗の姿勢を貫くように立ち上がる。彼は漆黒のスーツに身を包み、同じく黒ずくめの小銃を背中に携行して、とどめに全て黒で塗り尽くされた仮面で頭をすっぽり隠す。この男はまさに全身黒の男だ。


「ま、初対面で、最初にお前に手をかけるつもりはないぜぇ……」

「なっ!」

男は琵琶湖の湖面を軽く飛び越えて、ミツキの目の前へ着地した。それからミツキの顎に素早く手をあてて、グイッと顎を上げさせる。

「何様のつもりですか? いきなり現れては……」

「近くで見るとなおさらだな。無表情の裏であんたも年頃の乙女だったりするもんだぜぇミツキ」

「私の名前を……」


自分の名前を知っている彼を只者ではないと見るが、男が自分へとった行動にミツキは目を丸くせざるを得なかった。漆黒の仮面を軽く地面に放り投げて、無造作な銀髪に、半開きの灰色の瞳。顔は整ってはいるがこの男からはやる気を全く感じる事が出来ない。そのような男が自分の唇を奪ったのだ。


「あ、あいつ!!」

「ミツキに……キスを!?」

戦輝連合の男3人が彼の唐突な行動に驚愕した。ミツキですら思考機能が停止してしまったのか、彼との接吻に時の経過を許してしまう程。それからしばらくして、理性を戻した彼女が彼を突き離したが、


「どうやら、何が何か解らない顔だな……突然のファーストキスの後、女はそんな顔をするものだぜ」

「何をしたつもりか……貴方は分かっていますか?」

ミツキの声は女を踏みにじられたせいか、淡々とした丁寧な言葉遣いの前にも気が立っているようだ。だが男はこの微妙な心情の変化を知って面白く思ったようで、ニヤリと笑った。


「俺を受け入れないで、突っぱねるのか。そうなるとお前をますます俺は気に入るものだぜ。これは、氷を溶かせば熱湯と化すって奴だな」

「氷を溶かせば熱湯……例えが分かりませんが?」

「氷の様な外見。いわばクールビューティーはな、俺が溶かしちまえば俺にデレるものさ」

「私はツンデレでもクーデレでもないと自負していますが……」

「ま、どちらにしろ言わせてもらうぜぇ。俺に惚れろ……お前の女、少し刺激してやるからよ」

男の考えにミツキでさえ引いている。だがこの男の右手が彼女の控えめな胸に触れようとしたが、銃声が鳴り響いた。


「何しやがる……」

「それはこっちのセリフだ! ミツキにそうやって振舞うお前は一体何だ!!」

男が向いた方向には、さっきまでどこか三枚目っぽさが拭えなかったシンがいた。彼はトライマグナムを噴かせて彼がミツキの身体に触れる事を阻止したが、自分の楽しみを邪魔された事が不満だからか、彼もシンへ苛立ちを含めた顔をキッと向けた。


「知らねぇなら教えてやるぜぇ……俺はザイガー・ソン。西部軍団豪将の肩書を持っちまったサムライド仕置人だぜぇ……」

「サムライド仕置人だと!?」

「ぼ、僕は聞いたことあるよそのザイガー・ソンの名前!!」

「何だと!?」

現れた男がザイガー。彼の洒脱な容貌にどこか掴むことのできない気迫をクーガとサイは感じ、特にサイは名前を聞いてザイガーの恐ろしさを思い出した。


「生まれ育ちも解らないけど、報酬次第で標的のサムライドを容赦なく始末する事からサムライド仕置人と呼ばれているんだ!!」

「まぁ正解だなそこ。そんな俺がここに現れたのはなぁ……シン、あんたを始末しろとの依頼が届いたからなんだけどよ」

「俺を始末するだと!?」


「そうよ……俺は三光同盟の一員。見合った報酬を用意された依頼と、三光同盟の発展を考えりゃあお前を始末しない理由なんてないぜぇ……最もそれだけじゃないがな」

シンを始末する。その台詞と共に、ザイガーが背中の小銃を引き抜き、先端に取り付けられた消炎器が微かにシンの身体に触れるように突きつけられた。


「お前がトライマグナムの使い手……拳銃の達人であること! 俺がお前を始末する第1の理由だぜぇ」

「……」

「おい、どうしたんだ? 俺が折角褒めてやってるのによ……五強の一角を倒したお前だ。もっと胸を張ればいいぜぇ……」

「ちっ……あんまり嬉しくねぇな」

 シンがそう言いたくなるのも尤もである。相手のザイガーは自分を始末する為にこの地へやってきた。そしてトライマグナムをホルスターから抜き取っては彼もザイガーへ照準を合わせる。


「へへ、銃と銃なら腕を比べる事が出来るものよ……俺は始末人として、男として1対1でお前に挑ませてもらうぜぇ」

「あぁ望む所だ。1対1で……」

「おい! 待てシン!!」

シンとザイガー、1対1の決闘が始まろうとしている。だが琵琶湖に戦慄が走ろうとした瞬間、クーガがこの戦いを良しとしないのか、一歩足を踏み込んで、両者を仲裁する位置に移動した。

「おい! ここで水を指すなんてどういう了見だ!!」


「お前は黙れシン! ザイガー、お前のような敵にシンが1対1で戦う理由はない!!」

「ほぉ……なら、お前は1対2で挑む訳か。シン……」

「な、何!?」

「シン!」

クーガは挑戦を受けて血気にはやるシンを制御しようとするが、さらにザイガーがシンを焦らせる発言を送って彼に冷静さを欠かせる。


「相手の挑発に乗るな! 相手はお前に冷静さを欠かせて……」

「ま、俺は片づける自信があるうえ男が立つけどよ。シン、お前が誰かに頼れば惨めな結果を迎えるだけだぜぇ」

「言いたい事言いやがって……なら、俺がおまえを倒してやらぁ!!」

「だからシン! お前はな……」

「ま、俺は望む所だぜぇ……」

結果は、ザイガーの執拗な挑発がシンに冷静さを欠かせて1対1の戦いが展開される事になった。戦いの火ぶたが切って落とされて、森林へ逃げていくザイガーを追うようにシンが琵琶湖から彼を消した。


「シンさん行ってしまいましたね」

「うん。シンはこういう挑発されると弱いからね」

「何を悠長な事を言っている!」


ミツキとサイがシンを心配しない訳がない。だが、2人の抱いた不安の程度はクーガからは危機感が感じられないものと見た。普段はそっけない彼だが、仲間の一大事には我を忘れるかのように熱い。それがクーガという男である。


「俺はシンを追い、ザイガーとかを倒す! サイとミツキは戦後処理を行え! ライド・オン!!」

シンを助けんと、ナオマサに搭乗したクーガもまた2人を追って林へ入った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「あのバカ!相変わらず先走る事に定評がある……」

「クーガ・ヤスト。冷静沈着な男も、仲間の危機には熱くなる男だな」

「……誰だ!?」


シンを追って疾走するクーガ。だが、彼の進路を遮るように彼の周りを12本の線香が突き刺さり、行く手を阻まれる。阻まれた彼には修行尼の女性が、彼女もまた小銃を携えての登場だ。

「私はライレーン・シモツ。同じ西部軍団としてザイガーを助け、戦輝連合を阻む者とでも言おう」

「こちらも1対1で持ち込まれた訳か……俺はともかくあの馬鹿が暴走しかねない所に……」

「悪いな。お前にもシンにも恨みはないが、ザイガーは1対1で戦い、得た勝利にこそ価値があると考える男だ。ザイガーを立てる為にお前にはこの私が相手をせねばなるまい」

「そういう事か……」


クーガの行動は素早く、両肩の巨大筒が正面のライレーンへ放たれる。ピンクの光が木々を焼き払うように標的を仕留めようとするが、

「ライド・クロス。一斉法華形態!」

しかしライレーンも素早い。自分の足元に停めた一光機が90度前方へ起き上がっては彼女の身体を後ろから被さるように装着された。この一斉法華形態が彼女のライドアーマー形態だが、最も特徴的な部分は背中から両肩、両脇に展開された砲門である。


「行け! イルシャーマカノン」

胸から一直線に放射された白い光を、砲門から展開された赤、青、黄、黒の光が巻きついていき五色の光が巨大筒からの大口径の光に激突。光の威力はほぼ互角。最終的にどちらの光も瞬時に消え去ってしまう。


「俺の巨大筒を打ち消すとは……」

「一つの事に、心を奪われている余裕はあるのか!」

自分の巨大筒が破られた。僅かながらショックを受けるクーガだが、戦いに休みはない。光が消えると同時にライレーンが背中からの12本の線香を引き抜き、彼をめがけて投げつけてきたのだ。

「させるか!!」

閃光が命中する僅かな時間。ビーグローブを装着してクーガが巨大筒を抜いた。スタンドパーツを柄として、2門の砲身を鎚として運用される。ビーグバーストボンバーの強固なだ円状の面が向かって飛んでくる線香を1本、2本、3本と軽く跳ね返す。

「はあっ!!」

次にビーグバーストボンバーの鎚を相手へ突きつける体勢をクーガは取り、そしてライレーンへ駆けた。ハンマーを担ぐのではない、まるで破城鎚のような構えで走るクーガにライレーンは疑問を抱いた。

「ハンマーはそのように使うものか……笑止!」

だが、躊躇いもせずにライレーンは自分仕様の法華銃を構えてクーガを仕留めるように放つ。


「お前の好きなようにさせるわけにはいかない!!」

法華銃から放たれた弾の動きを、走りながらの状態であろうともクーガは見逃さなかった。銃弾を、勢いよく振るわれたビーグバーストボンバーの槌に当てることで失速させては地面へ落とす。

それだけではない。弾を撃ち返す動きと同時に、ライレーンに鎚面が向いた時に巨大筒のエネルギーが放射される。ロングレンジ攻撃は巨大筒状態でなくとも、ビーグバーストボンバーの形態でも運用が可能。これによりクーガが徐々にライレーンへ接近を試みているのだ。

(そのような使い方があったか。まぁ良い……)

このクーガの目論みをライレーンは察知した。しかし、先程と同じ法華銃による攻撃の手を緩める事はない。よってクーガは法華銃の銃弾を悉く跳ね返しながら、ライレーンはビッグバーストボンバーからの砲撃を皆回避と一進一退の五分五分。だが、クーガが着実にライレーンとの距離を縮めている。

「これで距離も縮まったな……」

「ほぉ。ハンマーは面を相手へ打ち付けて使う者ではないか。お前の持ち方ではそのビーグバーストボンバーもまともに使えないと思うが」

「ビーグバーストボンバーはハンマーとして、ビームキャノンとしてだけではない!」


クーガの言ったことに間違いはない。二門の大砲をハンマーとして支えるスタンドパーツの先端突起が突如伸展。槍のような形態へ変形を完了したからだ。

「ほぉ。殴る、撃つ、刺すの万能兵器だったとは知らなかったものだな」

「喋る事は程にして、これで倒してくれよう!」

「それはどうかな……」

「強がりは程ほどにしろ! でやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


ライレーンが不敵そうな笑みを浮かべるが、クーガは勝利を確信したのか何も考える事はなかった。至近距離でビーグバーストボンバーを突き刺してしまえば、彼女はもう動く事は出来ない。先端の槍が止めを刺そうとした瞬間だ。

「はぁっ!!」

「何……ぐあっ!!」

しかし、ライレーンが懐から取り出した数珠が長鞭と化し、ビーグバーストボンバーを握るクーガの両手へ絡みついた。次に、ライレーンの掌からは一本のワイヤーが鞭の両端に結びついて再び輪の形へ形を整えた。


 そして、輪の一片を彼女が掴んでは引っ張ると、輪のように巻きつかれていたクーガの両腕が引きちぎられるように切断され、巨大なビッグバーストボンバーが地面に突き刺さるように落ちていった。

「お、俺の両腕が!!」

「シンとかを救おうと考えて焦ってしまったようだな」

「何!?」

「まだ分からないとは。お前は大人びており冷静なサムライドだと、かつての東部軍団の者から聞いた事はあるが、それほどではないようだな」

「……」

黙りこんでしまうクーガを目の前に、ライレーンはまたもや先程の12本の線香を投げつけて彼を包囲した。そして腰の右側に携えた棒を、線香よりやや太く長めの棒を彼の真上をめがけて投げると彼の身体をすっぽり包む光のドームを形成させる。


「まぁ私のイノセンススティッカーにはこの様な能力もあってな……」

「貴様……俺を閉じ込めてどうするつもりだ……」

「ふふ。私には何を言っているのか分からないぞ」

「何を!?」

クーガは口を必死に動かしているが、ライレーンは敢えて分からないふりを彼の前でして見せる。最もこのイノセンススティッカーの力である。

イノセンススティッカーから展開されるバリアーを、左側の腰から引き抜いたリモートコントローラーでバリアーの性質を変えたのだ。今クーガに張られたバリアーは周波数を0とする防音性を備えたものだったのだ。


「さてクーガ、私は敢えてお前を攻めさせるような流れに戦いを持ち込んだ」

「……!?」

クーガが口をパクパク動かして、ライレーンへ何かを問おうとしているも、防音のバリアーに囲まれては何も意見する事が出来ない。ライレーンはあまり乗り気ではないようだが、1人語りを始めた。


「お前が私を倒す方法を思いついた時、あのビーグバーストボンバーとかいう武装に対するお前の自信が並大抵のものではないと見た」

「……」

「クーガ、お前が何を言っているかわからないがな、訳があってお前の声を聞く訳にはいかないのだ」

「……」

クーガとの会話はライレーンが一方的に自分の戦法を話しているだけであって、1人べらべらと告げることはあまり好みではないようだ。

「人でも、サムライドでも。得意戦法一つを打ち破ってしまえば脆いもの。ビーグバーストボンバーの弱点を考えた所、どんな強力な武器であろうとも操れなくしてしまえばそれでお終いだ」

「(同じだ……俺のやった戦法と同じだ……!!)」

クーガの心が震えた。それはライレーンが執った戦いが、自分がミランと戦った時のやり方と同じだからだ。相手の腕を破壊してしまえば武器は使えない。ライレーンに得意戦法を返されてしまったからだ。


「お前のビーグローブは近接格闘戦にも想定しており、ビッグバーストボンバーを自由に振り回す事に耐えうるだけのものはある。だが、どれだけ強固な作りでも、頻繁に稼働させる部位。そうだ、手首は比較的もろいものだ。このマイクロビーズウィッパーで手首をちぎる賭けに出て……この通りだ」

彼女が右手に持つ数珠がマイクロビーズウィッパー。クーガの両腕を破壊した兵器である。相手へ巻きつけて、引っ張る運用だけでなく、鞭として変形させて、掌からのワイヤーを連結させることでより長い数珠として使う事が出来る。相手を絡めて引きちぎる目的の武装として使い勝手の良い兵器だ。


「そして、お前をこのバリアーに閉じ込めた理由はライド・クロスを封じる為だ」

「(ライド・クロス……しまった!)」

「その顔。ようやく気が付いたようだな」

クーガがライド・クロスをこの場で行う事が出来たならば、全身4mの巨体でビーグランチャー、ビーグバーンブレイカーを運用してライレーンに挑む事が出来たはずだろう。


「ライド・クロスはサムライドの脳波だけではなく、本人の音声反応が必要。しかし完全防音のバリアーで塞がれたお前はライド・クロスが出来るはずがない!」

「……!!」

「お前のビーグバーストボンバーはバリアーの外。この時点でもお前を封じる事は果たされたが、念には念を入れよう」

腕を壊されてしまえばクーガは武器を使う事が出来ない。ほぼライレーンの勝利が確定したが、地面に放られたビーグバーストボンバーに危険を感じ、法華銃を片手に一歩一歩接近していく。

「(させる訳にはいかない! ヤスマサ、ナオマサ!!)」

ライド・クロスが出来ない、武器が使えない。自分の最大の武器が危機に陥っている事にクーガはないない尽くしかと思えたが、一つ可能な事があった。

それはライドマシーンが脳波で移動する事が可能だという点だ。ヤスマサ、ナオマサの2機が空中、地上からライレーンを取り囲もうとするが、


「お前にはすまないが、無駄な抵抗だ……」

「!!」

しかし、最後の頼みも猫の手と同程度だった。ライレーンは、表情一つ変えることなく自分の法華銃で2機の動きを止める。ビーグバーストボンバーへの攻撃態勢に何一つ変化はない。

「(や、やめろ! 何をするつもりだ!!)」

「……そのうろたえた様子。お前からしてみれば、ただの武器以上に思い入れが深いものだと思うが……」


この状況を切り開く望みはないのか、ライレーンは一歩一歩近づいていく。そして、


「!!」

法華銃の発火装置が解除されれば、ライレーンは勢いよくビーグバーストボンバーへ楕円の穴を次々と開けていく。今、大陸時代から背負い続けたクーガの誇りが無残にも破壊されていく。彼が背負っていた心の支えが初めて撃ち抜かれてしまう。

「すまない。お前に何も恨みはないが、私は西部軍団のサムライドとして敵にあたるお前たちを倒さなくてはいけない……」

「……」

ビーグバーストボンバーをハチの巣にした所でライレーンが振り向けば、クーガは戦意を失ったのか、顔を下げたままだ。

言葉でライレーンはクーガに詫びるが、これは戦いである。戦いに敵味方を超えた情けは無用であるとの彼女の考えが、決して感情的にさせない理由であろう。


「最もザイガーはある行為をされる事を嫌う男。相方の気持ちを踏みにじることなく、相方の全力を引きだす戦い方こそ、私の戦いだ……」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「さーて、1対1。これなら勝とうが負けようが、男はすたらないぜぇ……最も俺は勝つけどな」

「さっきから俺を怒らせてばかりだな……トライマグナム!!」

「そう来てくれると嬉しいぜぇ……ザイガーショットでな」

琵琶湖から少し離れた位置に、廃墟を部隊に両者がライドマシーンの力を借りて空中を部隊に熾烈な銃撃戦が始まろうとしている。シンのトライマグナムは自動拳銃だが、ザイガーが持つザイガーショットは自動小銃。遠距離戦ではザイガーに分があるが、バタフライザーが誇るスピードを活かせば相手の懐へもぐりこむことだってできる。


戦いは電光石火。先に懐に入るか、自分が撃たれるかの勝負だ。


「拳銃と小銃じゃリーチに差があるぜぇ。さぁて……」

ザイガーショットが唸りを上げる。1発、2発、3発。しかしバタフライザーのスピードとそれを駆るシンのテクニックを侮ってはいけない。高速で放たれる銃弾を、それ以上に素早くシンは着実に間合いを縮めていく。

「射程圏内だ!!」

「ここまで攻めるとはよくやるじゃねぇか。まず一つ褒めてやるぜぇ……だが」

シンがトライマグナムを構えた途端だ。ザイガーは至近距離にてザイガーショットを放つ。今までとは間合いが違う上、構えのモーションに入った彼が急に避ける事は出来ない。脳天を見事に貫かれ、両目が見開いた。


「一つ言っておくぜぇ。俺の顔を見た女は俺のものにするつもりだが、男だったら速攻で始末する。それが俺のルールだぜぇ……」

「ほぅ……これで、俺を倒したって言うのか」

「強がりは、往生際が悪いと紙一重と言うか……」

「強がりかどうかはここからだ!!」


だがしかし、シンは銃弾を射抜かれてもケロリとした表情で笑い、身体が徐々に姿が消えていく。幻か。ザイガーの目の前にいるのは幻か? この答えは彼が持つ能力ミラージュ・シフトの能力から考慮すれば是であろう。


「俺はここにいるぜ!!」

次にザイガーが考えた事は、シンが何処に存在するかだ。幻のシンが消えさると共に、バタフライザーの上部カバーが真後ろへ展開され、なんと彼は機体内部に己の姿を隠していた。

シンが右手に握る兵器はトライマグナムではなく、トライサンダー。トライライフルへの合体の際にストックとして運用される兵器は、平常時にスタンガンとして機能する。ザイガーの右手にスタンガンが放たれるはずだが、


「お前の隠れ場所には面を食らったが、させねぇぜ……ザイガーダガー!」

「何だと……」

だがザイガーショットのピストルグリップからは直角三角形状の銀の刃が展開された。この刃が自分の右手を狙っている。ザイガーショットごと感電させる事が出来るか、自分の右手が突き刺さってしまうか。僅かな時間の中、シンは腕を引く事を選ぶ。間に合わないと察したからだ。

「っ!!」

シンの判断は間違いだったかは分からない。だが、寸での所で腕を引いたことで、ザイガーダガーの凶刃がトライサンダーを突き刺してしまったのだ。

「トライサンダーが……それよりライフルが剣に変形しやがった!」

「驚くのはまだ早いぜぇ……」

「おわっ!!」

グリップでのダガーが炸裂した次に、巧みに小銃を持ちかえてストックの先端に装備された鏃がシンの懐を襲う。ギリギリのところで身体を右へ軸をずらしてトライマグナムが何度も吼える。

「懐を突こうとしても無駄だぜぇ……」

しかし、またも思わぬ小銃の変形をシンはザイガーに見せられる。槍として運用されたザイガースピアー。やや細めだった柄が突然撓るように曲がり、グリップを片手に銃身の真後ろの鞭がトライマグナムの弾を軽く弾き返して余裕の笑みを浮かべる。


「どうよ。ザイガーショットはただ撃つだけの相棒じゃねぇ……近接戦にも十分対応しているんだぜぇ?」

「ちっ……」

ザイガーショットの脅威にシンは背中のダイヤモンド・クロスを抜き取り、優位な戦いへ持ち込もうとするが、

「おや、逃げるのか?」

「何だと……」

ザイガーは言動で相手を挑発する腕も長けているようだ。相手のシンが単細胞なこともあるが、逃げているといってしまえば、最善の策を見つけようとするシンの攻撃の手順が鈍ってしまうからだ。

「俺のどこが逃げてるって言うんだ!」

「俺はお前のガンテクニックを見てなー、俺は依頼以外にも倒す価値のある相手だとおもっていたんだぜぇ。いやぁ俺と同じ銃を誇りとして戦う者ではない事が残念だぜぇ……」

「にゃろう! そこまで言うのならやってやろうじゃねぇかお前がライフルを変形させるなら、こっちはマグナムの合体殺法だ!!」

「変形小銃と合体拳銃の激突というわけか……面白そうじゃ……ねぇか」


トライマグナムがシンの腕で振るわれる。弾を次々と放つ意味ではない。銃そのものを近接用の武器として奮っている。

これはバタフライザー内部のオプションパーツの力である。トライガーターとトライダガー。マズル、ハンマーにあたる部位に装着されるカッターであり、トライマグナムの発砲が妨害される事を防ぎ、銃そのものを近接戦の打撃用兵器として運用することがより容易となるのだ。

 よって近距離戦用のザイガーダガーがトライマグナムの鋭利な先端と激しく刃を打ち付ける。そして離す。銃による近接格闘戦が低空を舞台に展開される・


「ほぉ、銃は殴る為の兵器としても使われていたってのは大昔の話だと思えば……たまげたぜぇ」

「へへ! トライマグナムにもこういう使い方が出来るんだぜ!! そして、これもな!!」

トライマグナムをアッパーのようにシンが突き上げると、ザイガーダガーが宙を浮きかける。ザイガーダガーはザイガーショットから展開された刃を指す兵器だが、小銃の姿が殆ど崩されていない兵器。よって小銃の長い銃身が攻撃対象と見なされて起こった事態だ。

「これで隙が出来た!」


ダガーが自分から反れた時が好機とシンは見た。素早くトライダガー、トライガーターを払い落すように分離させて、己の腕とバタフライザーから用意したオプションパーツ、トライカップバレル、トライトンファー、トライボンバーの三種をトライマグナムへ装着。

 ストックとノズル部分がオプションパーツとの連結を完了した時トライマグナムはトライライフルと化す。そしてカップノズルの装着理由はトライボンバーを使いきる為である。


「こういう小競り合いでは小柄な武器の方が有利……」

相変わらず飄逸な男ザイガーは威圧感を感じさせない軽いノリの口上を述べようとするが、既にトライボンバーが手榴弾の要領で自分の目の前に射出されたのだ。

「おっとあぶないね!」


だが、ザイガーはマイペース。自分を見失う事がないサムライドだ。周囲を見渡し、自分達より遥か高い位置で聳え立つ朽ちた高層建築物に脱出の糸口を見つけたのだろう。すぐに銃の向きを変えてザイガーウィッパーを空へ向かって放つと同時に、自分の身体が空中へ飛んだ。

「ザイガーが消えた! ならば!!」

視界からザイガーの消失をシンは確認したが、決して戦いが終わった訳ではない。彼はバタフライザーごと地面へ着地して、閃きにより思いついた作戦を遂行に移る。


「トライバレル! トライスコープ! トライリモート!」

シンはまず自分自身の右腕から常にコンバッツアームへ搭載されている通常のオプションパーツを3種用意する。これをもう一丁のトライマグナムと組み立ててトライマグナム1組が完成である。

「トライサブレッサー! トライフロスト! トライアネスト! トライマグネ! トライスティッカー!!」

次にバタフライザーに残された拡張のオプションパーツを取り出す。トライサブレッサーを1組のライフルに備え、ラジオのアンテナに酷似したトライアンテナを地面へ突き刺して、残り3つ、マガジンとして運用されるオプションパーツだが、2丁のライフルの為、3つのマガジンのうち1つを何らか別の運用をせねばなるまい。


「……アンテナが倒れた……後ろか」

トライアンテナが自分の足元へ倒れた。トライアンテナとはトライマグナムと連結してストックの役目を果たすオプションパーツであるが、単体では名前通りアンテナとして運用が可能な兵器。アンテナで掴む事が出来るのはサムライドのエネルギー反応だ。 

おそらくアンテナの倒れた方向でザイガーの位置を探ろうとしたが、後ろへ倒れるとはシンは思いもしなかった。何故なら彼の飛んでいった方向から真後ろにシンは移動して作戦を練っている。彼は真後ろにザイガーが存在する事が信じられなかったようだ。

「どういうことだ……俺はどちらで攻撃をしかければいいんだ。こうなったらアンテナの向きから……」

シンは戸惑いを抑えてアンテナの向き。やや右側に倒れた事から、ザイガーは右から襲い掛かってくると決めた。だが、


「ふふふ。シン、注意が疎かになっているですぜ……」

ザイガーへの対応にシンは追われている事を彼自身が気付いていなかった。廃墟に隠れながら1人のサムライドが顔をちらりと出している。ですぜの語尾に、白い出っ歯、そしてお世辞にも美男とはいえないこのサムライド、彼はまだ生きていた。


「シックスの野郎、あっしを北部軍団の反乱者とかに担ぎあげて酷いんですぜ……」

マエバーミン。北部軍団中闘士であった彼はミランの取り巻きだったが、相方ナガシゲールのサクラへの暗殺計画がトリィの想定外の活躍により阻まれ、ナガシゲールは戦死、さらにシックスの姦計によって、自分が身に覚えのない反逆者として濡れ衣を着せられ、北部軍団から逃亡していたのだ。


「ミラン様は自分の保身のためにあっしを切り捨てる。あっしには戦輝連合を脅かそうとしているシンを倒さないといけないんですぜ!」

マエバーミンが自分の両腕をこすり合わせて、これにより両腕を帯電させる。彼の得意技であったエレクトリックサンダースラップだ。雷を放つ両腕でシンを倒そうとするつもりだろう。静電気の音が鳴り響いているが、ザイガーへの対応に追われる彼は気付くはずもない。


「来た!」

「死ぬんですぜシンキ・ヨースト!!」

その時、ザイガーらしきサムライドが空から落ちていく姿を見た。シンがライフルを真上に構えるが、1人で2丁を持っているのではない。2人が1丁ずつ持ち合せているのだ。

「どちらかが幻……さぁて、どっちかね」

だが、先程のミラージュ・シフトで欺かれたからか、ザイガーは既に分かっていた。2人のシンがトライライフルを連発され、おそらく3種の内2種類の弾が射出されている。

「よし、ザイガーソー&ザイガーアックスでいくぜぇ」

 

空中でザイガーショットの形が独りでに変わる。まず銃を運ぶ為のキャリングハンドルが180度回転して内部に収納されると入れ替わるように曲線を描く刃が現れる。次に、銃身に備えられた筒型のパーツが回転するとともに、丸鋸のようなカッターを展開させる。

最後に、ストックに当たる柄を握ることでザイガーショットはまた新たな運用が可能となる。

変形したザイガーショットをザイガーへ向けて飛ぶ銃弾を鋸で切り裂き、斧でたたき割る。落ちながら彼は空中で幾多の銃弾を蹴散らしていくが、彼は違和感に気付いた。鋸と斧の切れ味が徐々に悪化しており、自分も徐々に睡魔が襲い掛かってきている事だ。


「へへ。トライアネストは麻酔弾、トライマグネは粘着弾だからな。避けない限り動きは鈍るって訳だ! 後は動きがなくなった所で止めを刺して……」

「死ねぇぇぇシン!!」

「何!?」

その時、シンの真後ろにマエバーミンが飛んだ。ザイガーとの戦いに全てを賭けていたシンは部外者の侵入を計算に入れていなく電撃を放つ両腕が迫りくるが、


「ぐぎゃっはぁ!!」

「!!」

しかし、間一髪のところでマエバーミンの胸を銃弾が貫き、シンへ攻撃が届く事がなく彼は奇妙な断末魔を残して倒れた。だがシンがトライライフルを放つ余裕はなかった。ただすぐにザイガーが着地する音に、周囲への警戒を取り戻した彼が顔を向けた。


「獲物を他人にとられる事が俺は嫌いなんだぜぇ……」

「……俺の味方をした訳じゃないのか」

「お前を始末しろと依頼されたからにゃ俺が味方になる理由はないぜぇ……」

「そういうことか……なら」

依頼を邪魔される事、それがザイガーにとって最も許せない事である。シンを倒すより、依頼を邪魔する者を始末する事を選んだのは彼の美学。決して助け船を出した訳ではないのだ。

このザイガーの考えを把握すると、シンは通常の弾薬を装填したトライマガジンをザイガーへ向けてニヤリと笑った。


「何がおかしい……ってなるほどなぁ」

「どうやら気付いたようだな!」

そして地上に隠したシンの仕掛けが明らかにされた。いつの間にかザイガーの足元が凍結して動く事が出来ない。

ここで説明をせねばなるまい。トライマグネが粘着弾、トライアネストが麻酔弾であれば、トライフロストは冷凍弾だ。弾薬に冷凍ガスを詰め込んだ兵器であり、相手に銃弾が命中するだけではなく、何らかの形でケースが破壊された時でも効果が発揮される。その弾薬をシンはマガジンとして装填をするのではなく、マグナムから弾薬を全て、ザイガーが着地すると思われる地点にぶちまけていたのだ。


「何が分からないが、粋な事を……」

さらに運がシンに味方をした。ザイガーショットとしてシンへ発砲しようとしたところ、引いても弾薬が出ない。おそらく弾薬が尽きたのだが、足が動かない状況でリロードをしていたら絶好の的される事がオチだ。

「ザイガー、俺はこんな所で死ぬ訳にはいかねぇ……だから覚悟しろよ!」

「やれやれ、俺はここで死ぬのか?なら……」

だが、ザイガーは全く顔の色を変えず、自分が余裕であることを告げているようだ。しかし外見や口だけではない。ザイガーショットのトリガー付近に備えられた赤いボタンを押すと、砲身のすぐ下に備えられた筒の先端が発光、ビームを放つかに見えたが光が刃の形に形成される。


「ビームサーベルできたか! だがリーチでは俺の方が圧倒的に有利だ!!」

ここでトライライフルの発火装置が起動した。あとはライフルの弾がザイガーの胸に当たればいいだけの話。何か余程の事がない限り自分の勝利は揺るがない。シンは信じたかった。何も起こらない事を。


「俺もお前と同じこんな所で死ぬ訳にゃあ行かないから使うぜぇ……」

「な、何!!」

ザイガーが選んだ行動は、ビームサーベル形態と変形したザイガーショットをシンへめがけて投げ飛ばす事だ。

「ザイガーサーベル……これでザイガーショット7変化完了だぜぇ」

「ザイガーショット7変化ってやつか! だが、どっちにしろお前の胸を俺が射抜く方が先だ!!」

「それはどうだかねぇ……これは使いたくないんだがなぁ……」


銃弾が自分の目の前に迫りつつある。さらに上下に波状攻撃として放った為、その場から動かない限りザイガーは攻撃をかわす事が出来ない。

だがその時、ザイガーの足からスプリングらしきパーツが展開して、足首より上の部位が真後ろへ吹き飛ぶ。次に両膝が、腰が、腹部が、彼の身体がまるでブロックが分割されるように切り離されていき、上への銃弾は避けることに成功した。

なお、下からの銃弾が宙を浮いていた右ひざから足首の部分に直撃するが、身体をバラバラに分離した時点で痛みを感じるはずがなかった。


「身体がバラバラに分離しやがった……ぐあっ!!」

この事態にシンがまたも驚愕せざるを得なかった。確実だった勝利への方程式が根本から崩されてしまい、これにより全く考えていなかったザイガーサーベルの存在が、彼の右肩に突き刺さった。

「そらよっと」

手痛い一撃をシンに浴びせたと見るザイガーは、右手に握る柄を、サーベルの後ろに伸展し続けていたウィッパーを引っ張ることで、彼に刺さったサーベルを抜き取り、手元にザイガーショットが戻れば、安心したように地面へ倒れた。

そして、先程切除されたパーツが胸の接続面から展開された電磁波の力で次々と元の部位に接続された。脚は冷凍弾の影響で地面から離れないが、ザイガーにとってはどうでもいい部位だったのか、ザイガースピアーにショットを変形させて、スピアーを杖代わりにして身体を起き上げさせた。


「言い忘れていたが、俺の身体は部位ごとに分離させる事が出来るんだぜぇ……万一の事態に備えて、あと脱出さえできれば棺の中で寝ればいいだけだぜぇ……」


ザイガーの力。それはパーツの差し替え等一切なしで7変化することで遠近共にそつなくこなすザイガーショットの存在と、自分の身体を部位ごとに分離させる部位任意切除・結合機能である。

後者は身体の部位を拘束された場合などに、部位を切除させて、自分のライドマシーンに回収を託すことで脱出を可能とする能力である。一度安全な場所へ帰還して、頭と胸のソウル・シュラウドさえ無事であれば、部位の復元が可能なのだ。


「さて一光機、来な。ライド・ヒアだ」

だが、起き上った彼は既に戦意を失っていた。ザイガースピアーを真上に向ければ、空を駆ける彼のライドマシーン“一光機” ライレーンと同名のライドマシーンだが、外見や内部を彼なりに改造された機体からのロープがザイガースピアーに繋がれて空中を飛んだ。


「ど、何処へ行く!」

「足をやられた、弾薬が尽きた。以上の理由で依頼失敗もあるが、俺はまだ死にたくないぜぇ……」

「に、逃げるのか!ザイガー!!」

「逃げる? 違うね、逃がしているだけだぜぇ……。依頼に水を挿されて気が失せたのもあるんだぜぇ……」

「逃がしているだと……」

「そうだぜぇ……ついでにいい事を教えてやるぜぇシン」

自分を始末する為に勝手に現れて、勝負を挑んで、挑発して、負傷させて、その挙句勝手に去っていくザイガーへシンはやりきれない気持ちを暴発させようとしている。しかし、ザイガーは彼の気持ちが分かるか、分からないか。だが、どちらにしろ彼の次の一言がシンの怒りを解いた。


「お前を止めに行ったクーガとかがよぉ……俺の同僚に完膚なきまで叩きのめされたぜぇ」

「何!? クーガが……!!」

「そういう事だぜぇ。まぁ縁があったらまた会おう、いや縁があるからまた何時か会わせてもらうとするぜぇ……」

クーガの危機。シンはザイガーに執着する事を許されなかった。自分を止めに行った彼が危機にさらされている。右肩の傷など大したものでもなく、ザイガーが去りゆく姿に新たなる脅威を感じたも、クーガとの合流が何よりも最優先される。だから彼はバタフライザーでクーガの元へ急いだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「シン! 大丈夫だったかい!?」

「サイ! 俺は何とかなったけど、お前任務はいいのか!!」

「クーガの帰りが遅いから僕が探ったけど、クーガはライレーンとかいうサムライドに両腕を、それにビーグバーストボンバーまで破壊されてしまったんだ!!」

「ビーグバーストボンバーだと!?」


現地でシンは震えた。サイからの話だとクーガは完璧な敗北だったらしく、ズタズタにされたビーグバーストボンバーと、切り落とされた両手を前に彼は一種のあきらめをも感じる表情を浮かべている。


「手ごわい敵だ……ライレーン・シモツ。あれは俺の敗北同然。俺が今ここにいるのも、あいつが俺を倒す価値がないとみて去っていったからだ……」

「そんなに……確か西部軍団。三光同盟にはまだまだ強敵がいる訳か……」

シンはポツリと新たなる敵の脅威を感じさせる言葉を漏らした。彼の上空ではシン達は気付いていないが、ザイガーとライレーンが通りすぎている。


「ザイガー、お前が依頼を失敗したのは初めてか」

「あぁ。依頼を邪魔された事もあるが、あいつはあれでなかなか……だぜぇ」

「そうか。強がりではあるまいな?」

「それを言ったらお前もクーガとかを食い止めただけで、倒していないそうじゃねぇか……」

「私はお前を救援に向かうだけ。クーガとかを倒す事は任務ではない」

「まぁ、お前の事はどっちでもいいぜぇ……」

上空でライレーンとザイガーが、それぞれ交えた相手を評価する。冷めた感じの会話だったが、新たなる強者との出会いに彼らなりに手ごたえを感じたようだ。


「まぁ、依頼を失敗されちゃあ面子がたたねぇもんだぜぇ……次あったときには俺が始末してやるよ……」

「ほぅ。まぁお前が1対1の任務をこなす事はお前の自由。私がお前の手助けをしてやれる事は、任務を共にした時ぐらいだ」

「そのくらいでいいぜぇ……」

「しかし、私はお前が嫌いではないが、今回の任務が失敗に終わってよかったと思っている」

「ほぉ……俺の失敗をねぇ」

ザイガーの決意に水を指すように、何故かライレーンは任務失敗を喜ぶ事を口走る。最もライレーンを悪く思っていなかった事もあり、ザイガーは怒ることなく、顔をちらっと見る。


「すまん。だが依頼の報酬に私が気にかけた者がいるからな……」

「ほぉ……俺が手にしたらまずい相手が北部にもいるのか」

「あぁ。軍が違うがなかなか筋がある者だ。お前に傷物にされたら私も困るだろうからな」

「まいったぜ……お前は俺を倒す事も知っているようなものだからな」

「ふふ……そういうことだ」



続く


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