第18幕 ヘタレサタケ! 決闘で男を見いだせ!!
チーム厳龍が東北地方から関東地方へ勢力を拡大し、甲信越への拡大を検討していた。だがチーム厳龍が待つ所には東部軍団と、義闘騎士団の勢力拡大を狙う争いが続いていた。
「義闘騎士団。これもゲン様の計画です。ミーシャに味方をする者を私は敵として倒すつもりよ」
「風林火山の四戦士!」
「森林の智将」
「この信濃の支配者という訳か」
長野の地において激戦が繰り広げられようとしていた。長野を手にせんとする者は風林火山の四戦士の一人カスガと彼女の部下二人。そして、長野を死守する者は、黒と灰色、白のモノクロームなカラーリングの装甲に包まれた3人のサムライド達、義闘騎士団に所属する者だ。
「そうよ。貴方には恨みはないけど、私はゲン様の意志に従って動く事が全て。ゲン様がこの地へ勢力拡大を図ろうとしているから私が動くのみよ。ノブート、ニナ」
「わーってるぜ!」
「はい!」
カスガの後ろにはピンク色のロングヘアーと戦いに一途な表情を見せる少女ニナとロンドン兵士のような被りものを着用した長身の男ノブートの姿がある。彼ら3人が騎士団の3人を迎え撃とうとしている。
「面白い! この信濃を守る義闘騎士団として、お前を倒すことくらい容易い事だ」
「まぁ……こんな美人を相手にするのも少し気が引けるがなぁ」
「ヤシロー、おどけている暇はないぞ」
「俺達は大陸時代からミーシャ様に恩があるんだぞ!この世界で騎士団入りして、ミーシャ様の力になった俺達が敵に背を見せる事はできんわ!!」
騎士団の面々は女性と戦いたがらないヤシロー、生真面目な熱血漢・ガサワラーサ、そしてまとめ役である寡黙な男キヨシ。彼らはミーシャから長野を託されている為に一歩も引こうとしない責任感を持つ。
「俺キヨシ・ムラカミはともかく、ヤシロー・マーサ、ガサワラーサの3人はゲンへ敗れた所をミーシャの手で救われた。そんな恩がある俺達がお前に屈する機会はない!」
「だな!!」
無骨な鎧を纏った男たちは一本気。カスガが大陸においても名前が知られていた事は彼女自身も他人も知っていた。そんな自分を相手に堂々と構えている所で、カスガは敵でも天晴れと心の中で認めようとしていた。
「3対3とは平等……1対1の戦いを誇るミーシャ様の意志を汲み取った敵に敬意を表さねばな……」
「何が敬意だ! バーカ!!」
キヨシは敵であろうとも、同じ人数で攻勢をかけるカスガへ敬意を表しようとしたが、ノブートは一喝して彼らの希望や感謝の意志を引きちぎろうとする。
「ノブート!」
「あえてお前達に合わせただけだ。俺にはお前たちは練習台のようなものにすぎないな」
「な、なんだと……」
「ノブートさん、相手をいくらなんでも舐めて掛かり過ぎだと私は思いますが」
「大丈夫だぜ! 俺は風林火山の四戦士に最も近い存在なんだよ!!」
騎士団の怒りに火が付き始め、ノブートは駆けた。彼の先陣を切る行為により、3対3の戦いの火ぶたが切って落とされた。
「ノブートったら……ニナ、行くわよ」
「了解です!!」
そして、ノブートの猪突猛進な行動に、半ば呆れながらカスガがニナと共に攻撃態勢へ入る。ノブートが憎まれ口を相手にたたき、自分を過信しているような男だが、ニナは彼女へ従順でただ従うのみの姿勢だ。
「にゃろう! 俺は突っ込んできたあいつを倒してやらぁ!! 男なら全然大丈夫だしな!!」
「それなら俺はあの女だ!」
「元シナノ国の義闘騎士団の意地見せてやる……」
この時、それぞれの戦うべき相手が決まった。後は直接やり合って勝者と敗者を決めるのみである。ノブートの突入に対してキヨシの3人が我先に行かんとばかりに突破口を開こうと一直線へ走りだす。先陣を支えながら敵を迎え撃つ者はガサワラーサとヤシロー、そしてカスガ、ニナである。
「標的を早く除く事に支障は特にない!」
キヨシが一足早くノブートへ切りかかろうとした瞬間、事態は急に変動を起こした。
「う……うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぐおおお!!」
「何……!?」
「馬鹿な!!」
「カスガ様、どういうことですかこれ!?」
その時、その場にいた5人は光景に対して全く訳が分からなかった。目の前で起こった事は、後方のガサワラーサとヤシローが同士討ちをしてしまったこと。
この同士討ちが原因かは分からないが、キヨシも3人の中で最も落ち着きを持っていたとは思えないほど、発狂したような目と化して、両手に握った警棒のようなソードでノブートを軽く交わしてカスガへ襲い掛かってきた。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
しかしキヨシとカスガには実力で1ランクほどの差が生まれていたようである。カスガの両手から展開された10本のワイヤーが彼の両腕に絡みつき、勢いで彼の両腕を砕きながら、彼女が振り向くと同時に地面へ向けて彼を背負って投げる。
この攻撃を受けてキヨシは首が砕けたのか、地面へ身体を打ちつけられてから身体が全く動かなかった。
「この原因は……おそらく」
「そうですよ~ふふふふ~」
自滅同然の敵の行動。その理由をカスガは何となく察しており、のんきそうな声と共に空中に現れた存在へ目は向けられた。
ニナとノブートは空中の存在へあっけにとられて、カスガは不快な感情をよぎらせる。空に浮く純白のライドマシーンに乗るのは、青紫のツートンカラーのボディスーツに身を纏い、純白のコートが自分自身を覆う。そしてでかい丸眼鏡がトレードマークともいえる女性プラム。彼女は機上で余裕ぶった笑みを見せつyける。
「プラムだな! お前のような裏方は大人しく引っ込めばいいものなのによ!!」
「あら~。私が頑張らなければ貴方達の戦いだと長引くから手助けしてあげただけじゃないの~。当時四戦士候補のノブートさん?」
「ぐっ!」
プラムに食ってかかるノブートだが、四戦士候補。候補の二文字からの弱みに付け込まれて彼の動きが止まった。
「……手助けより私達を馬鹿にしているように見えますね」
「んもぅ~ニナちゃん、そんな事ないですよ。私は~ただ、貴方達より上の力で貴方達を助けてあげただけですよ~」
「そ、それが馬鹿にしているんじゃねぇか!」
「あーもぅ。これだから私は戦の事しか考えない相手は嫌いなのよ。心が狭い人に狭い人が集まるものですねぇ~だからカスガ、それだから貴方は暗いと言われますわよ」
「それとこれとは関係ないわ……」
「その通りです! プラムさん、カスガ様を馬鹿にしないでください!!」
「あらあら……」
プラムの心ない台詞に、ニナが思わずカッとなってしまう。だがプラムは2人よりも大人であろう。自分への突っかかりが来るのを承知。そんな心構えだろう。
「そんなカスガを慕う者がいるとは……変わりものですね」
「何ですって……」
カスガを庇おうとするニナへはプラムは嘲笑の眼差しと言葉を送る。身体が震える彼女だがカスガが彼女の暴走を止めて、両目でプラムをじっと睨みつける。
「あらあら。厄介事には巻き込まれたくないですからね。ではごきげんよう」
「……」
これ以上侮蔑する事は、自分の身に危険が及ぶと感じてプラムはその場から去る。去りゆき際に3人をゆっくりと見下す表情を天から名月kるように見せつけて。
「プ、プラムさま……これでいいのでしょうか?」
天使のように柔らかく、だがライドマシーンに備えられた羽根は何処か♯に尖っている。そんな自分のライドマシーン“ライン・シュバルツァー”へ乗り込んだ彼女の真後ろには、エメラルドの長髪に顔の半分を隠した女性マーヤが、びくびくとプラムに告げる。
「ふふっ。マーヤ、この世界では実力勝負。裏方に徹するだけで物足りなくなったら前線に出てしまえばいいのよ」
「そ、それはそうですけど……」
「私を責めるより、私が来る前に片づける事が出来ないあの方たちが悪いのよ? ま、私が恨まれるのは筋違いよ」
「そ、それはそうですが……」
「マーヤ、私に意見が出来る身分かしら? 貴方のような出来そこないは私がいなければ、居場所はないのですよ?」
「……」
プラムに随分ひどい事を言われるが、マーヤにとっては図星だったのか、何も言えずにことばに詰まってしまう。そんな従順な彼女をほくそ笑むような表情で見つめる
「まぁあなたと私は違う派閥ですけど、あの四人に対抗するには手を取り合う必要があるのよ」
「は、はい……」
「あの集団であなたは弱者としていらない子になっちゃいますからね~。でも私と一緒に動けば貴方がいらない子にならないように考えてあげるからね~」
マーヤは、プラムに言われ放題である。だがしかし、東部軍団の武闘派と官僚派の足並みが合わなくとも、東部軍団が義闘騎士団の一師団を壊滅させた事は事実である。
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「キヨシ達長野の騎士団がやられたのは私も知っている。もちろん、私の目的は東部軍団を叩く事には変わりはない」
彼らの全滅は瞬く間に義闘騎士団全体に知れ渡った。騎士団を束ねる蒼き戦神ことミーシャ・ツルギは、相変わらず仇敵ゲンが率いる東部軍団を倒す事を最優先とするが、
「なら、さっさと東部軍団の奴らを倒すべきだ!」
「そーだそーだ! キヨシがやられちまったんだぞ!!」
「たおさねぇなら俺がどっちにしろやってやるYO!」
「……」
しかし、血気にはやる騎士団の者たちからの催促をミーシャは黙ったままだ。
この世界において、義闘騎士団は東部軍団を相手にする必要はともかく、東部軍団だけでなく東部軍団とパイプがある組織や、その他の敵対勢力と均衡に渡り合うためには大陸時代から残っ僅かな古参だけでは手が回らないと見た。
よって、各地方に小競り合いを繰り返したり、勢力を辛うじて保ったりするサムライド達。その中で大陸時代にミーシャからの恩を受けた者、騎士団員の知り合い、そして新たに志に共鳴した者による新生騎士団が結成され、新潟を中心に甲信越で勢力の意地を図った。
しかし、勢力安定の為に速成で結成された騎士団は、騎士団のイロハを叩きこまれていない物も少なくはない。ミーシャへ詰め寄るボンジョー、ココ、バシータの3人も、騎士団の新米に当たるが、血の気が高い者達であるせいか、やられっぱなしを良しとせず彼女へ殴り込みの提案を持ち込んだのだ。
「うっせぇ黙れゴラァ!」
だが、アレくれの新入りに手を焼いてばかりでは、義闘騎士団の名がすたるものだ。義闘騎士団において、団長の地位でありながら荒れる男が防波堤ともいえよう。その男カキーザが吼えれば、新入り3人の勢いが止まり始めた
「カキーザの旦那……あんたまでそういうつもりかい」
「恥ずかしくないんですかカキーザの頭領!!」
「そーだYO! そーだYO!! カキーザの兄貴!!」
「おめーら、俺はアガキタの頃のカキーザ・カーゲイじゃねぇ。義闘騎士団の騎士団長カキーザ・カーゲイなんだよ。あの頃と今と一緒にするんじゃねぇ!」
だが、この3人とカキーザは顔見知りの模様である。騎士団の新入団員は既存団員の顔見知りも当てはまると先程言ったが、これがその例であろう。
だが、頭領とか旦那とか兄貴とか慕われているカキーザに情けはない。彼らは全員納得がいかない表情を浮かべていても、カキーザは頑なに彼らに立ちはばかる壁としての態度を解こうとしない。そして、しばらくしてから彼ら3人も、どうしようもないと思ったのか彼らも黙りこんでしまい、後ろへ大人しく引き下がった。
「いったんだな……」
「あぁ。義の為に戦う男達を増やしたまではいいとしても、足並みがそろわないところは悔やむべきなんだな」
「出来る事なら早く行くべきだと私も考えている。お前が使命を果たした時にだ」
「申し訳ないんだな。ミーシャ様、あと少しで一応完成はするんだな……」
ミーシャとサイトは察した。義を持つ者達が集ったはずなのに、足並みが乱れ始めている。だが、ミーシャは動く時はまだ今ではないと見ている。だが彼らの猛る心が早まった真似へとつながる恐れが今、存在していたのだ。
「いや、サイト。お前はよくやっている。サイトとナオ用の鍛錬施設、新潟における防衛網の形成、そして残った義闘騎士団の為の新たな力の為にお前は休む間もない」
「ミーシャ様、まぁおいらは慣れているんだな。大陸時代から数えて40年以上こういう仕事ばかりやっているもんだから、生活の一部なんだな」
「そうか。私の元に集うサムライドはどうしたわけか、武闘派とか、戦争屋とか、まぁ勢いがある剛の者しか揃わないからな。あのような男たちも騎士団でよく見たものだ。ふふふ」
「あの馬鹿どもが集えば俺は大迷惑だがな!」
そこにカキーザが突っ込みを入れる。しかし、カキーザの突っぱねた態度もミーシャには分かっていたようで、軽く微笑んで見せる。
「あの部下もかつてのお前そっくりじゃないか」
「俺がそっくりだと? あんな馬鹿どもに似ているとか言われたくはねぇぜ!!」
「昔の俺は自分が最強だとうぬぼれていて、従われる事に、暴れまわる事に快感と栄光に酔いしれたとかおいらに言っていたのは誰なんだな?」
「……サイト、てめぇそうやすやすとミーシャに俺の事言うんじゃねぇ!」
相変わらず強がるカキーザだが、サイトのミーシャへの告げ口が彼を狼狽させ、サイトの首根っこを掴もうとするが、ミーシャは分かっていたかのように余裕めいた態度で彼へ首を向けた。
「ほぅ、カキーザはそのような事を言っていたのか」
「うっせー! 昔の俺はどうしようもねぇ馬鹿で、あの頃の俺はミーシャに完敗したから、こうやって騎士団長をやっているんだよ!!」
「ふふ。思えばお前はアガキタとかいうエチーゴ国の荒くれ者の巣窟を率いる者として、国を掻きまわしていたのも随分昔の話だな」
騎士団長カキーザは騎士の肩書きが似合わない荒くれ者だが、大陸時代は本当に荒くれ者達のトップとして君臨していた。いわば賊を率いた彼はミーシャとの戦いに敗れた事がきっかけで、騎士団の団長として今、ここにいる。そして先程のボンジョー達はカキーザがアガキタ時代の頃、部下として仕えていた者たちだ。
「あの者達は私をそこまで慕ってはいないようだが、お前には頭が上がらない模様だ。カキーザ、騎士団最高指揮官としてな……」
「冗談もほどほどにしろ。俺はお前のように気が長い訳でもねぇし、実力でもお前より下だ」
「やはり無理か……ふふ、冗談だ」
ボンジョーらはアガキタ時代のミーシャの部下だが、カキーザに従っていても彼らはミーシャに従っていない。さらに、仲間の死を前に猛き心が抑えられない荒くれ者を制御する事は、ミーシャからしても難しいようでである。
「ミーシャ様、おいらの仕事が終わるまで、東部軍団との決戦の日を伸ばすのはよくないんだな」
「それは私も思う。しかしな、私は無駄死にを好みたくはない。誇り高く生き抜く事が義を貫くことだ」
「それで、あの二つのパワーアップパーツの完成が必要なんだな。ナオもサタケも今必死にトレーニングを重ねているんだな」
「そうか。サイト、新兵器についてお前はどう思う?」
「むぅ……」
ミーシャから自分が今携わっている新兵器の開発について問われると、サイトは難しい表情で顎に手を当てながら、右手で髪の毛をいじり始めた。その時の表情は何とも言えない難しいものだ。
「どうしたサイト、随分複雑そうな顔だが、何か問題でもあるのか?」
「いや、ナオは大陸時代から騎士団の一員だったし、性格はさておいてあいつはあいつで普通に強いんだな」
「サタケとかいう新入りが凄い不安なんだろ」
「正解なんだな」
カキーザの答えにサイトは同感して、理由を説明する。まずサタケは騎士団の新入りであり、自分達が譜代とするなら、この世界で騎士団に加入したサタケは外様の様なもの。次に実力はあるとミーシャは評価しているが、実力を引きだすまでが難しいチキンハートであること。最後に、新兵器を与えると過信して最後に負けを見ることだ。
「特に最後の理由はおいらも困るんだな! あの時も新兵器を破壊されるとは思わなかったんだな!!」
この件は、騎士団としてのサタケの初陣、つまりユキムラ達との戦いだ。ビームを自由自在に放つ棒“ソー・ベガス”、義闘騎士団の誇りであり、強固な防御性能を誇る“ライドアーマー“、これら二つを手にしてサタケはユキムラに堂々と挑むが、彼の灼輪灯を前に二つとも装甲が劣化して破壊されてしまい、返り討ちに遭ってしまったのだ。
「お前の言う事も一理ある……だが、日ごろの鍛錬であいつはどうなるかまだ分からない」
「そうなんだな。おいらとしてはやはりサタケが新兵器をしっかり使いこなして、本領を発揮してほしいんだな」
「東部軍団との戦いに準備を整えておきたい。そうでなければあの二人に厳しいだろう……だが」
「待ってばかりいたなら、あの騎士団が黙っていられるかどうかはわからないんだな」
ミーシャとサイトは、新入りに当たるナオとサイト、2人の成長を見守らなければならない。だが待てボンジョーらが戦う事を焦りとんでもない行動を起こしてしまうだろう。彼ら荒くれ者の急進的なやり方とミーシャ達騎士たちの漸進的な方法は衝突を避けられなかった。
「なら、こうしてみればいいんじゃねぇか」
そこにカキーザが口を開けた。
「カキーザ、何か策でもあるのか?」
「あぁ。認めたくないものだが、あの馬鹿どもを負かせてやる。それがあいつ等にとっても、新入りにとってもいい経験になるはずだ」
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「バントウ!」
「アオオオオオッ!!」
そして、サタケとバントウがフィールドを疾走する。フィールドを疾走しながら的確に山脈にぽっかり開けられた窪みからの攻撃を弾き返し、幾多の地に不定期に現れては消えるレーザー砲台をかわしながら、射程の死角や懐に入り込んでライドロールで砲台を潰していく。
「なっ!」
「アオオオオオオッ!!」
しかし、砲台から放たれる黄色の光線を受けてしまえば、サタケとバントウは、哀れ全身を電撃に包まれてしまい、地面へと力尽きるように落ちてしまう。
「アオオオオオ……」
「ちきしょう……いってぇ。こんな訓練続けることに何か意味でもあるのかなぁ本当」
サタケの様子からだと、どうやらこの訓練を何度も続けて、挫折をしているらしい。相変わらずヘタレで根性無しと呼ばれてもおかしくない彼は、弱音を吐こうとしているが、
「ノン! サタケどうしたんだい!!」
「……」
と、ここで彼にとってあまり関わりたくない相手が現れた。エメラルドの髪は綺麗にまとまり、紫のタキシードの様な彼、いや彼女の服装から、どうしても女と思えないが、女である。
「こんにちは。ナオ・シュローンです。突然ですが、この世界でも肉体は魂の従者であるとの哲学者の意見は本当でしょうか?」
「ナオ……お前、のっけからなに訳の分からない事を……」
「僕の魂はアンヴァンシブルに男なのさ!サタケはそう思わないかい!?」
「え、ええ?そういうことなの……」
「そう! 故に僕は男! この結論はサタケ、君ごときに覆される事はない!!」
「訳わかんねぇ……」
鍛錬のせいか、サタケには彼女へ突っ込む気合も沸いてこない。ここで説明をしておかねばならないが、ナオは性別では♀だ。だが、ミーシャへ心酔しているせいか、騎士として振舞うためか、彼女は♀でも心は立派な♂。象徴は多分ない、いやないと困るがそれでも♂。いわば麗人と考えてもらえばいいだろう。
「どうだい。この明快にして単純な心理?素晴らしいと思わないかい」
「……何をだ」
「そんな僕は常に心の戦いに追いやられているのさ! いつか僕は女と言う肉体の鎖に敗れるかもしれないけれど!! それでも僕は勝ち続けて羽ばたきつかれた心の翼を休める場所へたどり着くのさ!! これが僕の最終勝利……信じる者は信じられない物より信じられているから大丈夫の真理に基づけば、何よりも強く、何よりも美しく、何よりも信じる物がある限り、僕は未来まで引かないし倒れない! さぁ!僕たちも声をそろえて共に言おう!!最後に……」
よくもそこまで息が続いたと思う程の長台詞の後、ナオがサタケへ振り向くが、彼は大の字になって寝ころんだまま。全くナオの話に興味がないようだ。
「どうしてそこでこう言わないんだ! 最期は絶対僕たちが勝つって!!」
「知るか! 何でお前の芝居に付き合わないといけないんだよ!!」
「ふふふ。次に僕の一人芝居「森の妖精」を。『蛇よ、君はだらしねぇ……』」
「続けるな!!」
「ノン!麗人の相手に僕が女を見出し、結ばれるまでの話をまとめたドラマ。この世界で言えばロミオとジュリエットに並ぶ感動の超……」
「結局鍋と鍋の恋愛劇じゃねーか! 久しぶりの出番でこんなくだらない話を突っ込むなんて思わなかったわボケェ!!」
「ノン、ひどぅい・……」
ナオが繰り出すネタはサタケからすれば理解するには光年程遠い、まるで超越者の様な話だ。このノリにサタケが付き合えるものではなく、疲れているにも拘らず叱り飛ばしてしまう。
「ノン、サタケ。君はロマンチストとは程遠いね」
「あのなぁ……それより、お前はトレーニングどうなんだよったく」
「ハハン……僕の考えた限りでは、サタケ、君は十二回目のトレーニングミスを犯してしまった!違うかい!?」
「俺じゃねぇ……ってなんで回数が分かる! 回数が!!」
「さぁ~とにかくサタケ、君はもっとトレーニングを大事にすべきだと僕は思うよ!」
「うぅ……何でおれが指摘される必要が」
ナオに指摘されて、サタケは頭を下げるが、その一方で何とも言えない感情が込み上がる。これもナオが相手だからか。
「だから、そーゆーお前はどうなんだよ……」
「僕かい!? そうだね、サタケ少し立ってごらんよ」
「あ、ああ……って何でなんだ?」
「それはね……」
よくわからないままサタケはナオに言われるままに立つ事にした。だが、彼女は常に首に巻きつけていたスカーフをほどいて、自分の目を覆い隠すように縛り付ける。そして、そのまま彼女は真後ろを向いた。
「僕はこの状態で、君のあらゆる攻撃を受け止める自信があるからなのさ!」
「……は!?」
「どうだい!? 僕に攻撃をしてみてくれないか! 君くらいのサムライドなら攻撃を見切る事が出来るはずさ!!」
「……な、なぁ、なんだとぉ!?」
ナオは堂々と後ろ姿を見せたままだが、言われた方としては侮辱されたようなもの。ついで彼女の態度もあり、そこに挑発をかけられては更に腹が立ってしまうことだ。
「あ、あのなぁ! そこまで言うならやってみやがれ!!」
サタケのライドロールが振るわれる。標的は真後ろで隙だらけのサタケだ。多少頭に血が上っていても、ライドロールの先端が激しくナオをめがけて飛ぶが、
「……!?」
しかし、ナオはライドロールの鞭の部分を掴んで、勢いで鞭と柄の間を引きちぎって見せる。真後ろを向けば、彼女はサタケへ余裕を持った笑みを見せる。
「僕はミーシャ様からの命で慣れない格闘戦を鍛えていてね。この成果はその鍛錬によるものかな!」
「お前、トレーニングの練習台に俺を使うのは……俺、ちょっと心が痛いんだけど」
「実力を試したのは無理ない事さ!」
ナオに悪気はないと思うが、それはサタケに実力がないと言っているようなもの。後ろを向いて隙だらけの相手に攻撃を見切られた事がショックだったのだろう。しばらく地面に座り込んで地面に絵を描いている。
「サタケ、よかったら君も試したらどうだい!」
「え……俺が?」
だが、ナオなりに気を配る事は出来るようで、サタケへトレーニングの成果を引きださせる提案を持ちかけてきた。
「たしか、君は周囲の敵に対して敏感に察知して迎撃するための鍛錬じゃなかったかな」
「それはそうだが……」
「君がやられっぱなしなのも可哀そうだ。君の修業の成果を僕に見せてくれてもいいんじゃないかな? 君もいつまでたっても弱いままではないはずさ!」
「そりゃあ、そうかもしれないけどさぁ……いくら騎士団でもそれだけは」
「だから人目に付かない所で言っているじゃないか……一回きり見せてくれれば、それで僕は満足するからさ。お願いだから……ねね、いいじゃないか?」
「そりゃそうだけどなぁ……でも、皆が俺の真似をすると困るからね」
「僕は絶対君の能力の事を喋らないさ! だから見せてくれないか!?」
醜態をさらす事を好まないサタケだが、どこかの転校生が秘密を暴こうと詰め寄るようなナオの会話に、サタケはまんざら実力を見せつける事が悪くない。そう考えるようになった。
「よし、わかった1回だけならやって……」
しかし振り向いた途端、サタケの胸にブスリと矢が刺さった。もちろん、その矢はナオが構えたものだ。
それから、彼が自分の胸に矢が突き立つ事に気づくまで少し間があった。だが、胸の矢を見れば、彼の目がすぐに点となって、彼は仰向けに倒れ込んで泡を口から吹き続けていた。
「油断大敵。敵はいつ攻撃してくるかわからないんだよ……って本当に大丈夫なのかなぁ」
「……」
「この弓はイリュージョス・アローの半分にも及ばない威力なのに……並のサムライドでも胸に突き刺さったくらいならピンピンしているはずだけど」
ナオが吐息を吐いて、弓を背中の筒に折りたたんで収納する。そして、サタケは放心状態で大の字になって、倒れ込んでしまった。
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「だ、大丈夫かい?」
「あーよかった……俺死ななくて、うん」
それから少し経って、ナオがサタケの胸から矢を引き抜いて、軽く頬を叩け彼が意識を取り戻した訳だが、彼からしてみれば臨死体験のようなものか、目を開けてからもまだ身体がガタガタ震えているようである。
「全く! 本当の騎士団は手加減なしの真剣勝負で強くなるものなのに……」
「一応あんたは10年ほど騎士団にいた先輩じゃないか……トーシロの騎士団の俺と一緒にしないでくれよ……」
「騎士たる者が手を抜くわけにはいかないからね!僕のような美しく凛々しい騎士が、麗しく雄々しい騎士に全力で仕えることは当然じゃないか!!」
「麗しく、雄々しく? まぁ確かにミーシャさんは鎧の下の姿がなぁ……」
「僕のミーシャ様で善からぬ事を想像しないように!!」
「いてぇ……」
ナオが鞘に入れたファイスソードを、サタケの脳天めがけて軽く振り落として突っ込みを入れる。だが、以前ミーシャの裸体を見て興奮していた者に突っ込みを入れられても、あまり説得力がない。
「でも、確かにミーシャ様は美しい! 君が妄想に心を動かされる事もおかしくはない事さ! そう、鎧を纏うミーシャ様は男顔負けの騎士そのものだが、ミーシャ様の中は、花も恥じらうし、ああっ!!」
「お、おいナオ……ちょっとそんなこと俺は聞いていないし、結局お前が妄想に浸っているじゃねぇか!」
ミーシャの理想を恍惚とした表情で語るナオは、顔を赤らめて腕を十字に合わせながら身体の疼きを表現する。だが、相手役が常識人のサタケであり、彼女の奇抜な行動に対して常任ゆえの突っ込みスキルが発動される。
「ナオ、お前本当にミーシャさんが好きだな……そりゃあミーシャさんはな、いい人なんだがな」
「その通り! ミーシャ様は強くて優しい僕のあこがれなのさ!! 先ほど君は僕の強さを知ったはずだから……」
「はずだから……ってええ!?」
先ほどがいつかはわからないが彼女が言うのならそうであろう。だが、突然ナオはサタケをドギマギさせるような行為を行い始めた。
「ちょ、ちょっと!? ナオ、どういうつもりなんだ!!」
「先ほどの強さは君もわかったはずだ!次は僕の美しさをな」
ナオは何とタキシードの上着を脱ぎだし、平服のボタンを1個ずつ外す。そして、さらしを巻き取る、上半身を何の惜しげもなく披露して、さらしを巻き取った。先ほどまで穏やかな坂が一気にアップダウンの激しい急斜面となり、彼女の手は山あり谷あり、そして意外な落とし穴ありの場所までさらけ出そうとしているのだ。
「ちょ! ちょっと待て!! 何をやってるんだお前は!!」
「僕は恥ずかしくないよ。君と僕は同じ男じゃないか!」
「お前の性別は一応女じゃねぇか!!」
「騎士団に女はいないのさ! いるとしたら女の性別を持つだけの男なのさ!!」
「だめじゃねぇか! ミーシャさんはそれ言ったらどうなるんだ!!」
「それは……もちろん恥ずかしいよ」
「ほら、いわんこっちゃない!!」
自分の素肌を躊躇いなしに曝け出そうとするナオに恥じらいはない。だが、ミーシャが同じような行動を行うとしたら恥じらうようである。サタケにはよくわからない事だが、ナオにとってミーシャは性別を超えて敬意を持つ事だろう。
「でも、僕は女の肉体の鎖に縛られたくはない!だからサタケ!!」
「ふざけるなー!!」
「大丈夫……僕の体で君を骨抜きにすることくらい……あぁん!」
その時、ミーシャの首へバントウがひょいとかみつき、首からは軽く電撃を流し始めてしまい、真後ろへ倒れてしまった。
「僕が美しい故に……」
「いや、美しいからってそれはねぇよ」
「アオ!!」
ナオが上半身をさらけ出した状態で倒れ込むが、そこには不思議あり。一枚の写真がポロリと見えた。
「これは?」
サタケがその一枚を手に取ると、写真には、ナオのようでナオではない姿が映し出された。なぜならそのナオには外見がロングヘアーなのは、ともかくそこに映る彼女は明らかに少女そのもの。男らしさがまったく見えないのだ。
「これがナオ? いや、多分ナオの姉妹機か、友人か何かだよな……」
と心の中でサタケは理解を得ようとしたが、ふに落ちないところが一つある。ひょっとしたらこれは……・
だからサタケは写真の裏を触れた。写真の対象物に触れる事が出来て、解析を行えば相手の情報が解るかもしれない。
「おい、サタケ……」
「……」
しかし、サタケにとっては不運だった。丁度二人を呼ぼうとしていたサイトが現状を見てしまったのだ。上半身裸のまま倒れたナオの近くにサタケが写真を調べようとしてしたが、状況が状況ゆえにサタケの口ががくがくと震えながら縦へ開いてしまったのだ。
「お、おま! あの時は不慮の事故とかアクシデントとかに考えるようにしたけど、これは何だな!!」
「いや、違う! ナオが勝手に倒れこんできたんだ!! ナオは気絶しているけど本人に聞けば僕の美しさで君もめろめろになれとか言うはずだ!!」
「……もし、そうでなかったらどうなんだな」
「な、何でそんなことを言うんだサイト!!」
「だって、お前前科はあるんだな……ナオが自分を美しいと思っている性格は分かっているんだなー」
人柄と面倒見の良さに定評があるサイトでも、サタケの主張は何処か怪しいものがあるようで疑問の眼差しを向ける。それも以前ミーシャの沐浴を覗いて、妄想をしていたからだ。
「そこを何とか! サイトさん、サイト様!!」
「どうするんだな……」
サイトはしばらく腕を組んで考えるが、とある考えが浮かんで指を弾いた。
「そうなんだな。サタケ」
「は、はいっ!!」
「おいらはお前を許してもいい気がするんだな」
「ほ、本当ですかサイト様!!」
「……立ち直りの早い奴」
サタケの変わり身の早さはサイトになんともいえないものを感じさせている。だが、ここで突っ込みを入れようとしても話は進まない。だから突っ込みを入れようとする気持ちを抑えて次の話へ事を運んだ。
「いや、俺はお前を許してやってもいいんだと思うんだがな、騎士団の全部がお前の存在を許さない気がするんだな」
「騎士団の全員……俺とナオとカキーザと……カキーザさんか……」
「カキーザはそこまで怒らないんだな、ただ義闘騎士団が勢力を拡大させていて、各地区の勢力に対抗するための騎士団が生まれるのはいいとして、考え違いがあったりして大変なんだな」
サイトの言う考え違いとは、ボンジョーら3人の騎士団とミーシャとの衝突である。真っ先に東部軍団のせん滅を考える彼らに対し、ミーシャはある兵器の完成を待ってか、または本人の性格もあり野心に満ちた戦いを行わない。
この不満は彼女の命令に絶対の本家義闘騎士団へ向けられる。これを想定してカキーザが考えた案をサイトが口を開けた
「俺たち義闘騎士団は、大陸時代からミーシャ様の部下として仕えていたこともあり、格義闘騎士団の中心的ポジション、ミーシャ様と騎士団の方針を練って他の騎士団へ伝えることが使命なんだな」
「そうなんだ……」
「しかしサタケ、とある騎士団は俺たち義闘騎士団のポジションを実力で奪うつもりなんだな」
「実力で奪う……ってええっ!?」
「そうなんだな」
サタケは首を縦に振ってつい先ほどまで彼とナオへあたえてきた特訓の意味はこの時の為にあるようなものと現す。
「お前たちへ集中特訓させたのは別の意味があったんだが、ここでお前たちの実力を試す必要が生まれたんだな」
「実力……と、いうことはもしや!?」
「サタケ、騎士団の者なら1対1で誇りをかけて戦わないといけない時があるんだな!」
「な、なんですとぉ……!?」
「素晴らしいじゃないか!!」
「なな?」
いきなり戦いへ駆り出されようとしておりサタケは戸惑う。だがしかし、ナオは気絶していた状態から目をきらりとさせながら立ち上がった、もっとも上半身をさらけ出している彼女だが、そのようなこと、決闘の二文字が聞こえれば羞恥心など吹っ飛んでしまうものらしい。
「僕のミーシャ様への愛こそ海より深く天より高いもの! そんな僕が決闘で余所の騎士団に負ける訳にはいかない! いや、いく訳がない!!」
「ナオ、相変わらずお前は……服を着るんだな」
「恥じらいなんて、義と愛を貫く事を考えたら大したことないのさ! サタケ!!」
「お前の考えを、俺に振るな!!」
サイトに言われたとおり、ナオはさらしを巻いて。上半身に衣服を着用して身だしなみを整える。そしてサタケに顔を向ければ、
「サタケ、君は一応僕と同じ義闘騎士団、ミーシャ様直属の騎士だからには、敗北は許されないよ!」
「だから俺の話を聞け! そして振る……いや、ここはそうなんだよな?」
「そうなんだな……ってどうして俺がお前に代わって答えを振る必要が……いったい何がどうなってんのだな?」
サタケとサイトの一人ボケ突っ込み、ナオのナルシスト全開の対応はともかく、サタケは今、戦わねばならない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ど、どうも~」
騎士団がミーシャ、またボンジョー達4人のアガキタ騎士団の元に集った。義闘騎士団の古参二人は落ち着いた構えを見せているが、サタケは周囲をきょろきょろしながら挙動不審そのものでナオは何故か堂々と、仲間としても何故か腹ただしいほど自信全開で構えている。
「おいなんだあれ……あいつが本家の騎士団の一員かYO!」
「俺が知っている限りであいつ全然分からないぞ」
「他の3人が義闘騎士団の一員だとは知っているが、あの新参を倒すことは俺にも容易いな!」
「ひえええええ……」
アガキタ騎士団全員の標的はサタケへと向けられた。カキーザと同じ集団の一員として暴れ回っていた仲間であり、また彼がカキーザを恐れている事もあり何となく彼に近い匂いのする荒くれ者達に本能が恐れをなしているようである。
「おや、どうしたんだいサタケ!久々の登場で足が震えているのかい!?」
「久々のとか関係ねぇ! こ、これは身震いしているだけなんだ! 身震い!!」
「身震いなんて情けないじゃないかサタケ! 騎士は常に冷静沈着……じゃないか!!」
「お前、それ分かって言っているのかそれは」
サタケの突っ込みは尤もである。ナオは冷静沈着よりも、そのように思いこんでいるナルシストとでも言ってあげた方がいいだろう。
「ノン!僕は常に僕であるだけさ!!僕のように優雅なサムライドがあのような品のない者に負けるはずはないじゃないか!」
「……」
「お、おいナオ、口を慎むんだな!」
ナオは確信か天然かは分からないが、アガキタ騎士団を侮辱する事は、彼らのトップ格カキーザを馬鹿にしているようなものである。実際肩を震わせて怒りをこらえていたカキーザにサタケはまた震えが激しくなり、サイトが必死にフォローへ入る。
「ナオ、決闘は実力と実力のぶつかり合い。言葉などの下手な小細工は控えろ」
「ミ、ミーシャ様! あぁミーシャ様からのお叱りの言葉なんて!!」
「……」
流石にまずいと思ったかミーシャが直々に窘める。だが、ナオは反省したかしていないかはともかく、恍惚をしているようで、流石にミーシャを始めとする義闘騎士団一同が彼女を引いているようである。サイトがミーシャへ目配せをするとミーシャはどうしようもないと言わんばかりに首を横に振り、サイトは首を縦に振った。
「今回の決闘は義闘騎士団の入れ替え戦とでも言おう。1対1の3本勝負で先に勝利を二本先取した側を義闘騎士団の正式な団員に決定する」
「そうなんだな。義闘騎士団の正団員はライドホースを手にすることが出来て、騎士団全体へ今後の方針を決めて伝える事が出来るんだな」
「俺達が勝てば」
「方針が採用される訳だNA!」
「そうなんだな……とは言い難いが、今よりは圧倒的に通る可能性が有利になるんだな」
サイトが一歩下がれば、彼ら3人アガキタ騎士団が闘志を新たに燃やす。勝てば自分の願望が満たされようとしている。特に騎士団の中で最も萎縮しきっている男を片づけることは容易いようである。
「あ、あれ、ライドホースってことは俺のジュヴィーダとか3機のライドホースも渡すのか?」
「そうなんだな。ライドホースの調整は俺くらいしかできないので俺は現状維持だが、もし負けたらアポロイド、ジュヴィーダ、ヴィーナの3機がアガキタ騎士団にわたる場合もあるんだな……」
サタケの疑問にサイトが説明すると、彼が羨望の眼差しを突然サイトへ向けられた。自分は勝っても負けても現状のままの処遇である事に不平等だと思っているようである。
「何俺をそんな目で見ているんだな?」
「いや、だってお前現状維持なんだろ?俺達が勝つか負けるかで運命が決まるのに……コネか何かなんだろうな」
「し、仕方ないんだな!」
「うわっ!」
「ライドホースはおいらが設計して開発したんだな! 自分で言うのもなんだけどライドホースは俺くらいの腕でないと調整が出来ない作りなんだな! 最も俺は誰であろうと否定するつもりはないし、そんなに俺が羨ましいならお前がライドホースを作るんだな!!」
「う……ご、ごめん」
羨望の目を向けるサタケへ温厚かつ常識人の怒りが火を噴きかけた。自分が裏で日々騎士団を支えているのに、コネで残ったとか心ない事を言われてしまったら怒る事が当然だろう。最も彼はやはり温厚であり、サタケが謝るととりあえず落ち着きを見せる振舞いを取った事は幸いだ。
「さて、ルールは簡単なんだな。あくまで騎士団同士の戦いで殺し合いはダメなんだな。ミーシャ様とおいらの判断で止めが決まる寸前に試合終了の合図を送るんだな」
「止めを刺しそうになった所が勝者なのかい? 華麗に止めを刺そうとすれば大丈夫なのかい?」
「そ、それは関係ないんだな。華麗に決めるかどうかはまかせるとして、殺しはNG。したらミーシャ様からの制裁が下るんだな」
「ミーシャ様からかい!?」
「……だからといって殺したら元も子もないんだな! 殺しダメ! 絶対殺すんじゃないんだな!!」
一瞬サイトはしまったと思った。ミーシャ様からのお仕置きは彼女にとっては至福の瞬間。必死に釘を刺すようにナオへ告げたサイトだが、彼女は昇天しているように悦楽の表情を見せており、ミーシャも若干戸惑いの表情を見せている。
「ナオ……大丈夫かなぁ。いやいやいや! とにかく俺は勝たないとまずい!! まずいったらまずい!!」
「ボンジョー、バシータ、ココ」
有頂天のナオ、決意を固める小市民なサタケ、そんな2人を傍観しながら己を貫くカキーザがアガキタ騎士団、かつての部下達の名前を呼ぶ。呼ばれた3人はかつてのトップとして敬意を持って接する。
「……カキーザさん」
「俺はお前達を率いて馬鹿やってたがなぁ、あの女に負けて俺はあいつの為にこの騎士団のトップをやっている」
「ええ。カキーザさん、大陸時代から貴方のお陰で俺達はアガキタで縄張りを守る事が出来た」「そうなんだYO!」
「そうだ。だがあの女の考えを俺は否定できない身だからな、お前らがあの女に対立するなら俺はお前達と戦わないとダメだ。最もお前らは俺がビシバシ扱いた関係だ。お前らがどれほどの実力かを見るいい機会だと俺は考えている」
カキーザにとって、相手の3人は自分と考えが違っても、かつての部下であり、どれくらいの実力を持つかを知るには丁度いい機会だと考えている。そしてカキーザは今、志を一応友としているナオとサタケへ思わぬ事を口にした。
「俺は一番最後に戦うことにするぜ。ナオ、サタケ」
「ええ!?」
「ど、どういうことなんだいカキーザ!」
「うっせー、要はお前らが勝ちゃあ俺は戦う必要はねぇんだよ」
「そ、そんな卑怯ですよカキーザさん……戦いたくないからって」
サタケが頭をガクッと下げてからすぐにカキーザへ突っ込みを入れる。もちろん自分も戦いたくないからのいい訳だが、彼は日本刀のような刀の先端をサタケへ突きつけ、
「俺も戦いたいところだが、ミーシャの考えでもあるからな。お前がこれ以上文句を言うなら俺と戦ってもらうぞゴラァ?」
「……す、すみません」
とカキーザはサタケを思い切り威圧する事で、彼の不満を捩じ伏せてしまったようだ。カキーザとの実力の差は彼自身が認めており、そのような実力の差がある者からの威圧はサタケにとっては効果が抜群のようである。
「さて、もう間もなく決闘を開始としよう。いざこざはスパッと解決しなくては大きく響くからな」
「そうなんだな、ナオ、サタケ二人とも後で俺のラボに来てほしいんだな。渡したいものがあるんだな」
「ホワイ?」
「渡したいものってまさか……」
ミーシャが審判席へ就いた所、サイトはそそくさとサタケとナオを近くの洞窟へと連れていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「どうやら俺達を馬鹿にした温室育ちが相手のようだYO!」
「温室育ち? 一応補足するけど僕は温室育ちじゃなかったりするんだけどね!」
彼らの決闘は始まった。相手は赤髪のセミロングにどこかヒップホップのようにファンキーな口調で喋る男ココ・ジョース。アガキタにおいてスプレイヤーと呼ばれた男である。
「これでも俺の姿が見えるのかYO!?」
「何を馬鹿な事を……あ、あれ? どうしたのかな、目が……」
アガキタは背中から素早く粒子をまき散らし、大気へ幾多の粉が舞い散る。粉がココへ振りかかっていくと、彼自身の姿が粉で解けて消えていき、ナオの視界には徐々に遮られていく。彼が自分の両目を擦り始めるが、視界がどんどん狭くなるばかり。そしていつの間にか視野がなくなり彼女はオロオロし始めた。
「まずいんだな……」
「相手は姿を消しているだけではない。ナオの視界も遮る事が出来るパーティクルコンデンサーの能力だ」
「そうなんだな。ミーシャ様の能力ならまだ打つ手があるけど、ナオはあいつと戦った事がないし、あいつは俺以上かもしれないんだな」
「そうか。いやナオは上手く対応する事が出来るはずだ。ナオが私を愛している事に関して度が過ぎていると思った事も多いが、口だけではなく行動で示す事が出来る」
ココの動きにサイトはナオが勝てるかどうか不安になるが、ミーシャはナオの勝利を信じているようだ。性格に手を焼かされる事もあるが、彼女はナオの性格の難しさより、実力がある事を信じているから彼女の勝利を信じ続ける事が出来るのだ。
「そう言われればそうなんだな。ナオがあぁなったのはミーシャ様に助けられたからなんだな。ミーシャ様の為ならナオは何だってやる性格が本当なら、おいらの託したあれが役に立つんだな」
「そうか。だが、この戦いでナオに万一の事を残す訳にはいかない。最もそうなった時点で認めたくはないが、ナオはココとやらより実力が下であるが」
試合は蒼き戦神の肩書きを持つミーシャの判断で止め寸止めの所で勝者と敗者が決まる。試合をつかさどる者としては両者が公平になるように接する必要があり、情けは無用だ。
そして、ココは自分の姿と相手の視界を遮って止めを刺そうとするつもりだが、ナオは自分の顔を右手で触りながらある事を決めて、思わぬ行動を取った。
「はぁっ!!」
「な、なんだYO!?」
「「「あいつ……!!」」」
「見事だな」
ナオが取った行動は目の前のココだけではなく、カキーザ、サイト、サタケの3人までも目を見開いてしまう程の者だ。
彼女が危機を脱する為に選んだ行動、それは二本指で自分の両目を潰すこと。瞼を閉じた両目の下からは鮮血がだらだらと流れ顔面からは火花が飛び散る。
「ナオ! そ、それは大丈夫なんだな!?」
「大丈夫さ! 僕は……、まだ殺していないし、死んでもいないからね!! エングローブ!!」
自ら盲目の道を選んだにも関わらず、ナオは相変わらず、いやそれどころか普通に燃えているかのようだ。彼女の燃えたぎる闘志に反応してかナオの両手を包むグローブが、ただ口を開けたままのココへ向けた発光。拳からはビームのように光が飛び交い見えないはずのココへ打撃を与えた。
「あ、あいつは見えないのに何でなんだYO……ちくしょう!!」
「はぁぁぁぁぁっ!!」
ナオが拳を奮えば見えないはずのココへ面白いようにダメージを与えていく。近くにいる相手には直接拳で攻撃して、離れた相手へは拳からのビームが唸る。ココはともかく、サタケも視覚を失ったはずのナオが面白いように攻撃を当てていく理由が分からなかった。
「やはり、ナオは大したものだな」
「そうなんだな……サムライドにも視覚、聴覚、味覚、嗅覚、聴覚の五感があるんだが、ナオは視覚を自らの手で完全にさえぎる事で、通常の視覚ではとらえられない相手にも残りの感覚でココを捕らえる事が出来たんだな」
ナオが選んだ起死回生の方法は、五感の内一つを絶やし、他の感覚を強化する方法である。視覚に障害を持つ者が、点字に触れることで文字の意味を理解する事も触覚が発達しているからと同じである。
「だが、一度感覚を絶やして残りの感覚を強化させるには、長期の訓練が必要。そう考えるとナオ の作戦はあまりにも急な方法、感覚を発達させる余裕もないのにあそこまでやるとは流石だ」
「だなぁ」
2人が眺めながら、ナオとココの戦いは彼女の優勢で進む。そして続く彼女の攻撃の末にココの身体が徐々に姿を見せていく。
「そこまでだ!」
「!!」
その時、ココの姿が大気にはっきりと映り、ナオの鉄拳がさく裂する寸前にミーシャから試合終了の合図が鳴った。
「す、すごい。目をやってここまで動けるなんてYO……」
戦いはナオが、ココのソウル・シュラウドが収納された胸へ攻撃を加えようとしていた時点で勝者が決まり、ココは負けを認めたかのようにとぼとぼと去っていった。
「僕が勝ったようだね……」
「ナオ、お前無茶しやがって……」
視覚を失っているうえ、勝利宣告を聞いて緊張の糸が切れたのか、仲間達の元へ声を頼りに歩こうとするナオはどこかよろよろと足並みが危なっかしい。しかし、カキーザが突然ナオの肩を担いで帰路へ歩き始めた。
「お前のような奴が無茶をやるとは思わなかった」
「ふふ。僕はミーシャへ全てを賭けているからね。ミーシャ様の機体に応えるくらいなら僕が犠牲になることくらい構わないのさ」
「何はともかく、お前の無茶は認めないといけないからな。お前は早くとにかく早く休め」
「ふふ、カキーザらしくないじゃないか」
「う、うっせぇ!!」
ナオを担ぎながら試合場から運ぶカキーザは彼女の発言に照れ隠しをしながら強がるそぶりを見せる。
そして、ナオの言うとおりカキーザが、新参者を嫌うはずの彼がナオへこの様な対応を取る事は珍しい事だが、二人の様子をミーシャとサイトが微笑ましく眺めている。
「ナオ、カキーザはそういう奴だ。実力を認めた相手には信頼を寄せる男だからな」
「まぁ素直になれないやつだからな」
「そうだ。まぁナオはプレッシャーをあまり感じない性格だからな、カキーザが敢えてプレッシャーを押し付けても効果は薄いようだったな」
「あぁ。ただ、問題はあいつなんだな……」
サイトが視線を向けた先には何やら妙なリング状の兵器を両手に持ったサタケが、足を内股状態にしながらガタガタと震えている。
「これで僕は試練を乗り越えたよ。サタケ、後は頼んだよ!」
「ひぃっ!!」
ナオは決して悪意はなかった。純粋にサタケを応援する気持ちで言葉を贈ったのだが、サタケは彼女と比べて遥かにプレッシャーを感じやすい性格。期待を寄せられては困ってしまう。
「えーと、あれがサイトからナオに渡されたクレッセント・エングローブ。サイトが言っていたビームを纏う必殺グローブで、俺は……」
先程、サイトに呼ばれたナオとサタケは彼が完成させた新兵器を受け取っている。それはライドアーマーを装着時以外、エネルギーの消耗を抑え、またこのような決闘の場でも運用する事が出来る新兵器で。ナオの場合はビームを纏う特殊グローブ“クレッセント・エングローブ”を手にしている。
そして、彼女はトレーニングを積んでいたが、おそらくクレッセント・エングローブの使用を想定したトレーニングだっただろう。実際にこの戦果がトレーニングの答えだ。
的確に拳を、ビームを相手に当てていくナオ。剣と弓を得意とする彼女にとってどちらかといえば優雅ではない技であろうとも、彼女の努力の成果が自然と優雅なる必殺ブローを生みだした。
だが、ナオが新兵器を早くも自分の物にし始めた事に対し、自分はよくわからないわっかのような武器を受け取っており、使い方もサイトから全然聞いていない。むしろ彼が言おうとしなかった。今の自分にできる事は、命じられたトレーニングから新兵器の用途を考えることしかないが、彼の頭では思いつく事が出来なかった。
「なぁバントウ……これ、どうやって使えって言うんだよ」
「アオ!」
使い方が思い浮かばず立ち往生しようとしていた所、バントウが近くに落ちていた樹の枝を加えて何かを地面に書き始めた。バントウはサタケを始めとするサムライドの言葉を理解できるだけの脳を持ち、人語を話す事は出来なくとも、文字や図を書く事で考えを伝える事が簡単にできる。
そんなバントウが描いた図からはわっかを頭にはめる事が出来るように変形させて、それを頭へ付ければ大丈夫という事である。
「これをこうやって……本当だ。折れた」
何となくサタケがわっかを折り曲げれば、バントウが描いたように頭にすっぽりはまるような形と大きさになり、何となく顔からかけるようにはめる事が出来た。
「さて、続きは……どうすればいいんだバントウ?」
「……」
とりあえずこの輪っかの装着方法が分かったが、使い方がまだ分からない。バントウなら分かるかもしれないと、サタケが頼るように迫るが、バントウは一度ためらってから地面に文字を書くと
「それくらい自分で考えろ」
「え……?」
と冷たい答えが返ってきた。さらに、
「おい、俺との勝負はまだなのか!?」
「あ……」
「サタケ、いい加減決闘を開始しろ。何時敵が攻めてくる中でこの様な諍いを早々に解決したいからな」
「わ、分かった、分かりましたよ……」
半分いやいやの状態でサタケは決闘の場に立たなければならなかった。相手のバシータはサタケがその場に立とうとしなかった事から半分苛立った様子であり、ミーシャからも戦闘開始の催促が入ってしまう。
「お前が来るとは思わなかったぜ! 騎士団で最も弱そうなやつだからな!!」
「ええ……やっぱり」
バシータは先程サタケを馬鹿にしていたサムライドであり、腕を組みながら勝利を宣告しようとしている。ここで彼が早くも弱腰になるが、この場で弱気を見せたら相手に飲み込まれるのみ。サイトが呆れながら首を横に振る所を見て慌てて首を振り直して、強気な表情を作る。
「ソー・ベガスはライドアーマーがないと使えない。俺の頼りはこのライドロールと、この変なわっかにバントウ、お前だ……」
「アオ!」
「おいミーシャさんよ! こいつライドマシーン使っているけどルール違反じゃないのかよ!!」
「ええ!?」
だが、サタケにとっては困ったことにバシータがバントウに目を付けてクレームを付けてきた。バントウはサタケにとってなくてはならない存在だけあり、弱い所を突かれた。先程の強気からまたあたふたした状態に戻るが、
「バシータ、サタケとバントウはサムライドとライドマシーンの絆を超えた親友、兄弟のような絆で結ばれているうえ、サタケとバントウは2人で1人のようなものだ。大目に見てやれ」
「うっ……」
「2人で1人か。分からなくはねぇが、決闘は1対1でやるべきものだ!俺には納得がいかねぇ!!」
「えぇ~」
ミーシャがバントウとの存在に許容を請うが、荒くれ者であるバシータは意外にも筋を通したがる。彼女が暫く顎に手を当てて考えた結果だ。
「そうだな……なら、バシータよ。このハンデの決闘にお前が勝った場合はお前達3人の義闘騎士団のメンバーとして入れ替える。それでどうだ」
「……え?」
「まぁ、悪くはねぇな。どうせ俺が勝つに決まっているしよ!」
「ええ!?」
バントウとのペアでの戦いは許された。しかし、自分が負けてしまえば義闘騎士団はほぼ総入れ替え。この勝負には関係がないナオやカキーザにまで危機が及んでしまったのだ。
「サタケ、絶対負けるなよ……」
「ひぃぃぃぃぃぃっ!なんでこうなったの!?」
ここでカキーザからプレッシャーを更にかけられてしまう。どうやらサタケ、窮地に追いやられたようである。
「ミーシャ様、サタケに全てを任せる事は少し荷が重すぎるんだな……」
「すまん、だが窮鼠猫を噛むという言葉をお前も知っているはずだ」
「ああ。強者に追い詰められた弱者が時にその強者を圧倒するほどの力を出す意味なんだな」
「そうだ。あの男は決して弱いサムライドではない。窮地に追いつめられれば本性が分かるもの。お前の新兵器がサタケにとって反撃する為の力になるはずだ」
「なるほど……確かに俺の新兵器を試したい事もあるんだな。そう考えたらまさに賭けなんだな」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「これで俺が勝てば、騎士団全員チェンジだ! いくぜぇ!!」
「ええい!どうにでもなっちまえ!!」
圧倒的な勢いで迫るバシータを前に、サタケはライドロールを引き抜いた。このライドロール、棒から槍、そして鞭へ変形する事が可能な兵器であり、サタケは真っ先にライドロールを地面へ突き刺して高跳びの要領で飛んだ。
そして、バントウが一直線に回転しながら飛ぶ一方で、サタケのライドロールが収縮されると、彼も身体を回転させながらバントウへ突撃しようとしたが、
「どうやら捨て鉢になったか!」
しかし、バシータは両腕を前と上にピンと伸ばして、狼のような顔を模したグローブから、狼の子供のような機体が次々と飛び出した。それらはサタケとバントウへ向かいながら飛び、回転しながらバントウの身体に噛みついてきたのだ。
「アオオオオオオッ!!」
「バントウ! ってええ!?」
サタケが握るライドロールは、まるで鉄を蝕ませるように狼たちに次々と噛み砕かれてしまい、あっという間にライドロールが跡形もなくなろうとしている。
「どうだ! このツヴァインファンガーを思い知りやがれ!!」
「あわわあわわ……やべぇ」
ライドロールの柄をぽいっと投げても、狼たちがライドロールからサタケに照準を合わせた。今度は自分も噛み砕かれてしまう。回転しながら突入する彼が、空中で重力に逆らうようにじたばたするが、全く効果がない事は言うまでもない。
「アオッ!」
「バントウ……有難うだぜ~」
しかし、狼の群を振り切ったバントウがサタケの身体を空中でキャッチ。主人が落下する軌道を変えて友に着地。だが、飼い犬に救われたサタケが、バントウを抱えてとった行動は。
「やべぇやっぱやってらんねぇ!!」
「……」
「……」
なんと、サタケは全速力で走りだした。前ではない後ろにだ。バントウの願いを無視するかのように、敵へ背中を見せて堂々と逃げ出す彼は本当にサムライドであり、また義闘騎士団に所属して許されるべき男か。
この余りにも何とも言えない彼の行動にサイトの口が思いっきり開いてしまい、バシータですら呆然として立ちつくしてしまう。ちなみにカキーザは無言で付近の岩を拳で殴って砕いていた。
「あ、あいつ……敵に背を向けるなんて何考えているんだな! 逃げたら義闘騎士団はおしまいなんだなぁ!!」
「待て、あいつはあぁいう奴だが、まだ負けが決まった訳ではないはずだ」
「そうなんかなぁ……?」
「そうだ。それにお前に目論みがまだ果たされていないじゃないか」
「そうなんだが~」
サイトの考えはまだ果たされていない故に戦いは続く。しかし当のサタケは逃げる事に全力で考えているようで、戦う気は何もない。
「にゃろう……俺を馬鹿にしているのか!? 俺から逃げ切る事が出来ると思うなよっ!!」
「ダメダメダメ! 逃がして逃がして!!俺の立場なんてあんたに渡しても俺は困らないから!!」
バシータが手を動かせばツヴァインファンガー。彼の腕から放たれた狼の頭状の子機が次々と飛んで、子機の口からはビームやら、爪状のミサイルやらを放ち、一斉砲撃と言わんばかりにサタケを追いかける。
「ふざけるんじゃねぇ! 俺はカキーザさんに教わったんだよ! 逃げる相手は徹底的に嬲り殺してしまえってな!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁっ! どして、どしてこうなるのよこれ! 助けてマジで!!」
「……終わったか。あれだけの攻撃を受ければアウト寸止めしなくてはな」
「そうなんだなぁ……?」
次はどう考えても戦えなさそうな状況。さすがにミーシャですら諦めたような顔色である。しかし、逃げるサタケの頭の周り、先程の輪っかの部分からを何やら黄色の光が包み始める。
それから輪っかが一種の鬣状態に頭が姿を変えた。サタケは全く気付いていないが、自分の鬣からはビームやらミサイルやらも一瞬で熱化させて蒸発させてしまった。
「何っ!?」
「え……?」
「アオッ!?」
突如発生した頭の鬣に一番驚きを示しているのはサタケだ。だが既にこの新兵器の使い方を理解していたバントウはすぐに命令を送った。
「何? 振り向いて顔であらゆる攻撃を食い止めろだって!?」
「アオアオア!」
「いいからとにかくやれ……ええっ? そのええっと!?」
よく分からないが、バントウの言われたとおりにサタケは振り向く事にした。振り向けばミサイルが目の前に飛んでいる為、顔を少し動かしてみると、真横で発動した鬣にジュッと音を立てて蒸発する姿が見えた。
「わわわわ……」
「遂に発動したんだな! スタークレフトが!!」
「スタークレフト……お前がサタケの為に開発した兵器の名称か」
「そうなんだな。頭に装着することで脳波から兵器への伝達速度を最大限にさせる。次にこのスタークレフトは防衛本能でエネルギーが発動する仕組みとなっているので、危険を感じた時ほどスタークレフトの効果は最大限に発揮される訳だな」
サイトの話からだと、サタケに与えられたスタークレフトは防衛本能をそのまま武器にしたような兵器だ。展開された光の輪があらゆる攻撃を蒸発させて彼を守る兵器と化す。
「最大限に発動すればビーム同士でも蒸発させる事が出来る。失礼だが逃げ腰全開のあいつにとっては身を守る最大の武器になりそうだな」
「だな!さて、サタケ、お前はその武器の存在を知ったんだな!頑張ってもらわねばならないんだな!!」
「あぁ。この戦い少し面白くなりそうだな」
逃げ腰のサタケを救うかのようにスタークレフトが輝いた。これにより彼が反撃を開始する時は近いといえるだろう。あとはサタケに闘志が宿る時を待つのみである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「す、すげぇ……俺はこんな力を!」
「アオアオア!」
スタークレフトの性能を前に、サタケに命じられたトレーニングの意味は、彼の防衛本能を最大限に引き出し、また危険物へ的確に攻撃を当てていく事にあったと彼はようやく気付いた。何かを掴もうとしているチャンス。バントウは彼へある事を告げる・
「何?あいつの戦いを考えてみろだって?」
「アオアオア!!」
「あいつは自由自在に操るビットのような兵器を使い、ビットは遠近攻撃共に出来る。何処かで見たことないか?」
「え、ええと……そういえば何処かで?」
バントウに言われて、サタケが何かを思い出した。その時彼の表情が何時もの少し間の抜けた表情から一転して過去を思い出させてしまったのか、手を叩いてはっとした表情で思い出した。
「そうだ。俺がこの世界で目覚めた時だ……俺の仲間が皆アキによって殺された。その中であいつはあの女が操る小刀に気をつけろって言っていた!!」
「アオ! アオ!!」
「自分の意思で操る事が可能で、遠近ともに攻撃手段を備えたあの兵器……あいつの小刀に似ているじゃねぇか!!」
「アオアオ!」
「そして、俺があいつを倒せばあの女を倒したも同然ってことだな!!」
「アオ……?」
「お、おいどうした! さっきから俺を無視しやがって独り言をいってよ!!」
「ふっふっふっふ・……」
バントウの言葉にサタケはどんどん乗り気になり、最後の方はバントウも少しおだてすぎたと思う程の気持ちの上がり様だ。忘れられかけているバシータが不機嫌そうに突っ込みを入れれば、彼は勝利を確信したような笑い顔を見せる。
「な、何だ、その気味の悪い笑い方は!」
「バシータ・シーゲイ! この戦いで俺はお前に負ける訳にはいかなくなった!!」
「はぁ? どういうことだ!?」
「ふふふ・俺がお前を倒せば俺は仲間の敵を討ったも同然!!分かるか?」
「分からねぇよ! 俺とお前は初対面だ!!」
「うるせぇ! とにかく新兵器を手に入れた俺が負ける訳がないんだよ!!」
「し、新兵器を手に入れたからって負けるはずがないだと!? てめぇふざけるのも大概にしろよ!!」
バシータは怒った。当たり前だが先ほどまで自分が圧倒していた相手がたかが一回攻撃をしのぐ事が出来ただけで、それも新兵器を手にしただけで勝った気にされたら腹ただしい事だ。
「あの馬鹿! 悪い癖がまた出たんだな!!」
「悪い癖とは? お前から聞く話では新兵器を手にしたら調子に乗って結局自滅する癖か」
「そうなんだな! ソー・ベガスを与えても、バントウキャノンを与えてもあの戦いで自滅してしまったんだな!! 今回のスタークレフトもな、本当は造りたくなかったけどナオだけに造る事はどうかと思って作ったんだな……」
「いや、あれはあれでいい結果になっていると私は思うぞ」
「へ?」
サタケの悪癖が発動したと頭を痛めるサイトだが、ミーシャは意外な発言をしてきた。今のサタケはバントウを銃のように構えて、スタークレフトを展開させた顔を振り回しながら相手のツヴァインファンガーの攻勢を巧みに退けていく。
「サタケは勢いづくと自滅する癖があるそうだが、あいつはバシータに偶然仲間達の敵でもあるアキの姿を重ねているのではないか?」
「そういえば……あいつが敵と言ってたアキとかは空飛ぶ小刀を幾多も操って、ビームを出す兵器を使うとか言っていたんだな……」
「なら、偶然とはいえこれはいいカードだ。バシータにサタケは倒すべき相手の姿を重ねている。これは見る事が出来るかもしれないな、あいつが勝つ姿を」
サタケと新兵器の化学反応がついに好ましい状況と化した。今の彼には新しい玩具を手にして喜んでいるような子供のような感情だけではない。ここであいつを倒さなければ自分の存在意義が危うくなる。倒さなければならない敵をバシータに重ねる事で化学反応から生まれた勢いに勝利への決意が備わったのだ。
「ま、マジかよ。俺のツヴァインスティンガーを全部砕きやがった!」
「これであの女の笹切を破ったも同然! ぶっちゃけこのペースなら殺す事も出来る気がするぜ!!」
「こ、殺せるだと! どれだけ調子に乗っているんだお前は!!」
「今の俺は結構調子いいぜぇ……お前に加減する事もできるぜぇ」
「うわ……」
だが、調子に乗るのも度が過ぎてしまったのではないかと思わせるほどだ。目の前のバシータはともかく、ミーシャ達はサタケの意外な一面を見つけて少し引いた。ともかく、へたれ腰の彼が勢いづき、、倒すべき相手を重ねて戦うとは彼を見事に調子つかせるものだ。
「さーて、光輪義賊サタケ様の必殺ツーラッシュを見せてやるよ!!」
速攻で考えたような肩書まで付けてサタケが四本足で、獣のように駆けだした。全開の彼に即発されてバントウも駆ける。バシータが背中からのサーベルを引き抜いて真上から地面にたたきつけようとしたが、
「とあっー!」
咆哮をあげてバントウとサタケが獣のように四足で走りだした。標的はバシータ一人。音速でグルグル周囲を駆けまわり、バシータが二人の気配をつかめなくなったときに、輪から二つの影が飛び出した。
「な……ななな!!」
「ダイナミック・スピニング……この世界でやっと決まったぜ!!」
一人と一匹の突進が、バシータへ炸裂。強烈な攻撃で挟まれたバシータは意識を失ってばたりと倒れ、サタケが格好良く決めポーズを決めて勝利を収めるが、彼は気づかなかった。自分の頭のスタークレフトの光輪がいつの間にか消滅している事を。
「へへ……この世界でようやく俺もツキが出てきたようだなぁサイト!」
「あ、ああ……サタケ、お前気づかなかったんだな?」
「気付かなかったんだな……ってなんだサタケ、俺がせっかく勝ったのに喜ばないのかよ。冷たい奴だぜ」
「いや、お前が勝ったのは嬉しいんだが、お前のスタークレフトが既に消滅しているんだぞ」
「スタークレフト……えっ、ええええええ!?」
スタークレフトの言葉でサタケの調子全開モードが終了した。顔を触れてもサタケは光輪を全く感じないところに先ほどの戦いでは全く感じられなかった恐怖心が一気にぶり返してしまい全身が震えだしてしまったようだ。
「え、ええええええ!? お、俺勝っちゃったの!? 勝っていいの!!」
「……お前なぁ、それを驚くこと自体がどうかと思うんだな。まぁスタークレフトがバッテリー切れを起こした事を説明していない俺も悪いがな」
「バッテリー切れ!? なんだよ、不良品じゃねぇかよサイトさん!!」
「それとは違うんだな。確かにそうかもしれないけど、お前は最終的に新兵器ではなく、お前自身の力で勝ったんだな」
「え……ええ?」
サイトは新兵器よりサタケの勝利を称えたかった。その意思が分かればサタケの不満も自然と解消されていき、それとはまた正反対に自分がここまでやれる事を知らなかったかのようにキョトンとした表情をしている。
「サイトの言うとおりだサタケ」
「ミーシャさん!!」
「サタケ、お前は自分の実力に気づかなかっただけだ。死に物狂いで戦えば、相手を恐れることなく、相手以上の戦い方を見せて勝利することだって出来た訳だ」
「な……」
「どうだサタケ。お前もなかなか捨てたものではない。ナオに劣らない戦いだったと私は思っているぞ」
「ミーシャさん……」
トップのミーシャに自分が初めて評価された。その気になればここまで頑張る事が出来る事実に自分自身が心を動かされている一方で、カキーザは真後ろを振り向いた。
「ちっ。まぁあいつ相手によくやったと認めねぇとな」
「カキーザがそう誉めることも珍しいんだな! よくやったんだな!!」
「……へへ」
サタケは今騎士団の3人から実力を認められた。自分は今まで何でへたれ呼ばわりされてもおかしくないような生き方しかしていなかったのか。格が上の相手にはじめてほめられたことが嬉しくて仕方がなかった。そして、
「どうだ! 俺も本気出せばこのくらいは……」
「最も一人前になるにはまだまだ実力を伸ばしてからだがな」
「なぁっ!!」
「ふふ。」
サタケが調子に乗ろうとしたらミーシャからは少しおどけた調子で釘を刺されて彼はずっこけてしまった。それはそうと、ミーシャが着いた先は2本先取されて敗北してしまったアガキタ騎士団の元である。
「な、なんだミーシャさんとか」
「俺は負けたんだ」
「あんたに逆らって敗れたとならば俺は文句は言わないぜ。何をやられようともYO!」
「……お前達何を勘違いしている」
敗者として彼らアガキタ騎士団は覚悟を決めていた。だがしかしミーシャのキョトンとしたような発言に彼ら3人は、考えてもいなかった反応に対しあっけにとられた表情を見せている。
「まず私は敗れた場合にお前を処刑するような事など全く考えてはいない。お前達が人々に下衆な真似をしたり、義に反した事を何もしていなければ処罰を与える理由などない」
「そ、それはそうかもしれませんが」
「俺達がそのような真似をしたらカキーザが」
「何、カキーザがそのような事を……」
部下からカキーザの行いをミーシャは初めて知った。彼女が振り向くとカキーザ本人が顔をプイと向けて
「う、うっせー! この馬鹿どもに俺が迷惑しないように言っただけだ!お前の事を思っていった訳じゃねぇからな!!」
「やれやれ、相変わらず素直じゃない男だ」
「おまえら……」
ミーシャに本心を突かれて、カキーザは照れる感情を必死に突っ張る事で覆い隠して、彼もかつての部下の元に足を運んだ。
「ったく、お前ら馬鹿やって返り討ちに遭うとは何てやつらだ!」
「「「す、すみません!カキーザの旦那!!(頭領)(兄貴)」」」
「……だがなぁ、お前らを俺が責めることなんてできねぇよ。馬鹿をやって返り討ちにあったお前達をまとめたあの頃の俺も今のお前たち同様馬鹿な奴だからな……」
「カキーザ、馬鹿だ馬鹿だとこの者に言うのも失礼だ」
「今は黙ってろミーシャ。だがな……まぁ、お前達も必死に戦ったし、あいつ等を追い詰める事が出来たのは事実だ。あいつらがお前以上に伸びたから負けたが、お前らはあのときと比べて伸びているぜ」
「カキーザさん……」
下の者に素直に喜ぶ感情を出す事がカキーザは苦手な男だろう。背中を向けてはボンジョーへこっちへ来いとの合図を送る。
「ボンジョー、後で俺んとこ来い。お前とは俺が直接戦って実力を見てやる」
「は、はい!」
カキーザは彼なりに過去の部下を評価している。ボンジョーは目を丸くして感動の表情を作り何処かへ消えていく彼の後を追う。追いかけてくる部下はカキーザにとっても悪くはない存在。表では突っ張りながら、誰にも見られていない所で彼はどこか誇らしく笑っている模様だ。
「それとな、私にも近いうちにゲン達総力挙げて叩く作戦を進めている」
「「な、なんですと!?」」
そんな中ミーシャが思わぬ事を口にし出した。その内容はアガキタの騎士団が考えていた事と全く同じ内容だったからだ。
「すまん、作戦は私たち義闘騎士団と選りすぐりの精鋭たちで東部軍団へ奇襲を仕掛けて、今度こそゲン達風林火山を完膚なきまでに叩きのめす作戦だが、その為に義闘騎士団の新入り二人の為の武器を完成させてから作戦を立てようと思っていたところだ」
「ミ、ミーシャさん! 貴方はやっぱり考えていたのですか!!」
「義を貫こうとして風林火山にないがしろにされた最期を迎えたキヨシらムーランカヴィー騎士団の無念を晴らす意志は、騎士団の者として当然のことだ。ただ新兵器完成から実践までを他の勢力には知られたくなかったから、しらを切る必要があった」
「そ、そんなことがあったのですか。俺達全く知らないで」
「すまない。私も早く話すべきだと思ったが、万一の事を考えるとな」
ミーシャには理由があって決戦を引き延ばしていた。その理由が明らかになって、解決したとなればアガキタ騎士団が反発する理由はどこにもない。頭を深くミーシャへ下げる三人の姿が答えだ。
「だが、新兵器の実力に関する不安は取り除かれ、お前達のような強者が身近にいる事にも気づけたこの戦いは無駄ではなかった。そして、新生義闘騎士団の足並みはそろった。あとは時を伺うのみだ」
ミーシャの決意はこの模擬戦を経て固まった。標的は東部軍団。目的を再確認したことで義闘騎士団の内紛が一件落着したのだ。
「しかしこの俺の戦いっぷり、ナオにも見せたかったなぁ……ん?」
そして、サタケはそれとは関係なく自分でつかんだ勝利に有頂天になっている模様で、ナオの事を口に出したがある事に気付いたらしい。
「な、なぁサイト」
「どうしたんサタケ?」
「いや、ナオの事だったけどさ、あいつってずっと昔からあぁだったのか?」
「昔からあぁ……だな」
昔からとは、ナオの上着のポケットに封入されていた写真の事である。あの写真が一体何か気になって仕方がなかったようで、サイトなら解るかもしれないと情報を聞き出そうとしている。この悩みを聞かれたサイトは一発で何の話かを理解して、瞼を閉じた。
「いや、あいつ一応昔は普通の女の子だったんだよ。ミーシャ様に助けられた事がきっかけなんだなぁ。俺に騎士団に入れてください入れてくださいって女子禁制にもかかわらずなぁ……」
「それで……」
「どうしても入りたいなら男になるんだな……って俺が冗談で言ったせいで」
「……」
その謎は明らかにされた。かつてのナオは恐らく外見も女の子らしく、性格も遥かにまともだったようである。ロングヘアーが綺麗な少女は外見からでもなく、中身も多分まともだったはずだろう。
それだけに今はどこかぶっとんだ麗人にイメチェンしてしまった事を知ると、サタケにとっても残念なことだったようで、身近な原因に思い切って聞いてみた。
「サイト、とりあえず後悔してないか?」
「……ナオは頼れる騎士団の一員なんだが、この件はある意味後悔しているんだな」
この彼の発言をソウル・シュラウドの中で眠るナオが聞いていなかった事はある意味幸いである。
続く