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序幕 戦士、二万年より還る!

 誰一人、滅亡は望んでいないだろう。


 だが、滅亡の芽は人類の奥底に、誕生と共に息づく。芽はエゴイズムという滋養分を吸収することで、大樹へと成長していく。これにより人はイノセンスの存在から加害者へと化す。

 自分が知らないどこかで、今日も人々はいがみ合い、憎しみ合い、争いの火種を発展させるだろう。火が付いた弾薬庫のように火種は戦禍として燃え広がり、まだイノセンスである存在を滅亡へと追い込んでいく。


 愚かな存在は今もエゴを満たすために大勢を戦いへ巻き込む。だがこの愚かな存在は遥か太古から確認がとれる。何故なら今、人類のエゴを満たす。戦うために生まれた2万年の戦士達がこの大地に存在しているのだから……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 西暦2060年5月10日。ユース合衆国の国際防衛センターが瞬く間に壊滅した。群青の大鳥が鉄筋コンクリートのビルを無傷で貫く未知の姿には、合衆国民は驚愕を隠すことはできなかった。


「愚かなる国民に告ぐ。これは我々三光同盟の挨拶代りにすぎない」


 巨大な鳥からは、やや甲高いが威厳を伴う男の声が聞こえる。500ほどのビルが真っ二つにへし折られるように倒壊した。

 地上では消防車が、パトカーが、救急車が駆け付け、事情を理解できないまま救助隊員は救出活動に急ぐのみ。彼らの慌ただしい足音と、被害者のうめき声と叫びが広大な地上を支配し、何もできない一般人はただ空からの声を聞くしか出来なかった。


「わしはマローン・スンプー。華麗なる軍略家として三光同盟東部軍団宿聖に位置する男として此度の大戦の主戦国であるユース合衆国に、この衝撃と共にわしは総帥ケイ殿の意向を伝える」


 上空に佇む機械の鳥からは淡々と男の声が聞こえる。彼の声は地上の惨劇等を知らないものと返事をしてもおかしくない態度で声明を発表する。


 それは、合衆国に同盟国である日本への一切の関与を禁じる。この要求を満たした場合、今後一切三光同盟なる彼らの組織は合衆国の地へ危害を加えないことだ」


「日本に手を出すなということか……」

「日本へ関わりを持つ事を禁じる事は、今回の戦いの主旨・ノーザンコラへの報復を捨てることじゃないか」

「いや、でもあんな、あんな国際防衛センターを破壊してもピンピンしている奴らを敵に回すことにな るぜ……」

「いや、あれ見ろよ!!」

 突然の惨劇を前に、国民は平常心を保てない。保つまでの時間を与えられることなく、合衆国の上空では、無数もの飛行機雲を描く形でグレーの戦闘機編隊が迫る。


「ほぅ。これだけ言っても分からないとはのぅ……」

 機械の鳥に備えられたフロントガラスから、マローンが半分この国の人類へあきらめた表情を浮かべながら白いボタンを押した。

 コクピットの中で座席に座るこの男は日本の平安貴族を彷彿させる雅な衣装と雰囲気に、それと反比例するかのように彼の顔は幾多もの戦いを経たような雄々しさが備わっていた。


『野郎! ぶっとばしてやる!!』

『落ち着け! 相手は未確認物体そのもの、下手に近づいたら返り討ちにされる!!』

『このまま変な化け物に黙っていろっていうのか!?』

『おい。あれ見ろよ!!』

 それぞれの反応をする戦闘機編隊のパイロット達。彼らのうち一人は目の前の光景に震えだした。機械の鳥。その鳥の底部がカタパルトとして展開され、飛行機ともボードともに人々からは受け取れる機体に乗る者たちが、また己の翼で宙を浮く者が、戦闘機編隊に姿を現した。


『な、なんだ! 人が空飛んでるぞ!!』

『こんなシチュエーション見たことねぇ!!』

『ちくしょう!!』

 目の前には戦闘機と人。前者の敵としては後者は不釣り合いだが、後者が宙を浮いている時点で後者は一般的なケースに該当する者たちではない。未知の後者へ、動揺した前者のうち、一人が火蓋を切った。


「……」

 1機につられて一斉に彼らへ放たれた弾丸の雨。だが、彼らは微動だにせず雨を受け止めた。その気になれば避ける事が出来た攻撃を敢えて耐えるのではなく受けた。何故なら、戦闘機編隊による攻撃は人出例えるならば小雨に濡らされた程度。最も彼らの場合ただの雨ではなく、弾丸の雨だが。


「耐えただと……!?」

 あり得ない事態を目前に、戦闘機編隊のパイロットが驚く。同時に真紅の光が正面を貫き、一機には風穴が空くと、その機体が編隊から外れ、地表へと落ちていく。

「……」

「……最新鋭のこいつが一瞬で……!?」

 次の犠牲者が出た。1機、2機、3機……彼らは瞬く間に標的を落としてスコアを稼いでいく。


『マローン様。この世界において強豪国の軍隊はこれ程ですか?』

『そうですとも。マローン様、これは指示なしの量産型兵器でも十分、いやそれ以上に太刀打ちできたはずでしょう』

『2万年以上の年月を経た兵器に期待した私が馬鹿だったのでしょうか?』

 彼ら、マローンの部下たちの視界からあっという間に標的が消えた。何人かがマローンへ先ほどの戦闘を苦言する事から、どうやらウォーミングアップにすらならない。


『ほほほ。それで上等じゃ。それで』

『マローン様、どのような見解でしょうか?』

『何、この世界のパワーバランスを一方的なものにしての見解じゃ』

 

 マローンが笑いながら部下へ言葉を返した。だが、マローンの表情に隠された考えを彼の配下は今一つ理解していないらしく、各自が首をかしげている。

『何、お前らわしがケイ殿に捧げた秘策を理解できないとはのぅ……それでも遠征に出陣するつもりじゃったのか?』

『いえ、そのつもりはなかったのですが……』

『海外遠征の際にどのような強敵が出るかしか考えていなかったもので……』

 部下達が自分たちの無知をごまかすようにマローンへ言い訳をする。無言のまま標的を破壊していた時とは一転して、今の彼らには十分人間味を感じさせる。最も先ほどの兵器じみた戦いの後にそのような一面を見せられると、民衆は彼らに対するギャップへ困ってしまうが。


『……もうよいわ。この世界では互いの国が大量破壊兵器を保有していれば、どちらか一方を攻撃してきたら返り討ちにすることができる。このパワーバランスの考えの元に世界は平穏が保たれておるのじゃ』

『へぇー。でも、相手の兵器元に攻撃を仕掛けたら一方的な勝利になるんじゃないですか?』

『それはわしも考えておったが話がずれるから別の機会に話すとして……この一方的なパワーバランスはわしらの存在……そうじゃ』

 マローンが部下たちへ自分の持論を語ろうとしたが、語る間を与えることなく、合衆国所属の飛行中隊が迫る。しかし、マローンからすれば最も今度の敵も前と大差はない。部下たちは笑いながら果敢に挑もうとする敵たちを蔑視している。


『マローン様、また来ましたよ!』

『なら、ここはわしに任せてさがれ』

『あれ、マローン様どうなさったのですか?』

『まぁお前達の言うことは最もじゃが……ここでちょっとパワーの差を見せてやらないとな』

 部下たちの前方に機械の鳥が現れ、コクピットからマローン本人が出陣した。まず彼は悠然とした様子で左手を前方に突き出すと、左手が変形して右手を一体化させる。


 次に右手を左手の弦に添えて人差し指を伸ばせば、指先から光が一直線状に灯る。同時に背中から展開された砲身の奥から光が膨れ上がる。彼は僅かな時間の間でエネルギーをチャージしていき、3点の光が刻々と誇大化していき、その全てを飲み込まんと、それぞれの光がぎりぎりまで輝き、膨れ上がっていく。


『イストライアロー、イストライキャノン……わしの武器をこんな相手に使うのは気が引けるが、灸をすえないと人類は懲りないからのう!』

 身の弁えを知らない客へ、マローンが歓迎する光が放たれた。両肩からのまばゆい光が一直線に飛び、腕からの光は一筋の矢へ分散して、標的に刺さる。

 このロングレンジ攻撃により、戦闘機編隊はバランスを崩壊して、それぞれが墜落する前に、二つの光が全てをとらえた。光の中で標的は溶解、蒸発。機体の限界を越えて各々が爆発する。ビームの光が消えた後に残骸はなかった。


『一方的なパワー……それは我々の存在とこの世界のことだ! 決戦兵器として生まれたサムライドはこの世界では真似できまい!! いくぞカイドウⅠ世!!』

 カイドウⅠ世と呼称された機械の鳥へマローンが戻る。彼の搭乗を確認したカイドウⅠ世のフロントガラスが意志を持ったかのようにゆっくりと閉まる。


『これでサムライドの、三光同盟の力を見せつけてやらねば……バードクラッシャー!サンダー、スピ ン、クロー!!』

 マローンにより技が叫ばれて、カイドウⅠ世の口が開き電撃が飛び出て、爪を思い切り向けた状態でドリルが回転しながら次なる標的へ向かった。


 2010年5月19日。この間に合衆国の死傷者は35万人以上にも及んだ。

 合衆国を空襲した東部軍団を率いる男はマローン・スンプー。東部軍団を率いる宿聖の地位を持ち、組織内でもトップに近い人物の一人。イストライアロー、イストライキャノンを始めとする強力遠距離兵器の威力はもちろん、巨大鳥型空爆メカ・カイドウⅠ世を駆った際の被害は計り知れないものがある。


 だが、この合衆国の惨劇は序章に過ぎなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「でやぁぁぁぁぁぁっ! イナバァァァァァサンダァァァァァッ!!」


 5月26日、日本海が荒れた。空母上空、爆撃機に乗る男の振った蛇腹剣が、ガラスを突き破るように甲板を貫通させて、閃光が標的に走った。


「弱い!弱すぎる!!」

「ス、スネーク殿? 何もそこまで怒らなくても……」

「だまれぇい!!」

 蛇腹剣を操る男・スネークは真紅の軍服に197cmもの巨体を包み、無精髭に傷だらけの顔で空母へ睨みを利かせる。癇癪を起している彼へ、爆撃機が窘めるが効果がない。

「弱者瞬滅! 弱きものは瞬時にして滅ぶべき!!」

「そ、そんな……」

「これが俺のポリシーだ! シックス、お前みたいなサムライドもどきは大人しく俺を運ぶだけにしてすっこんでろ!!」

「ろろろ……そんな言い方ないでしょうに」

 シックスと呼ばれる爆撃機の静止を振り切って、スネークは勢いよく空母へめがけて飛び降りる。スネークの勢いと力に任せた行動と自分を軽視する事にシックスという爆撃機は苦言をこぼす。


「とぉあ!!」

 スネークのトマホークが内部への扉を突き破る。そんな彼が人類にとって招かれざる客であることは言うまでもなく、さっそく兵士たちの一斉砲撃にさらされる。

「やったか!?」

「あぁ! こいつは最新式。倒れないはずは……!?」

 侵入者を沈めたと思った兵士たちの喜びは束の間だった。灰色の煙が晴れるとともに二つの光が見えた。まるで彼が健在だとアピールするかのように。


「それだけか……それだけなのか!?」

「ひいっ!!」

「それだけというのならば死ねぇ!シングルトマホーク!!」

 スネークの肩から勢いよくトマホークの柄が抜かれ、無力な相手へと投げ飛ばす。放つトマホークはすぐに、悲鳴を聞きながら宙に弧を描き、彼の手に戻った際には刃に血糊が付着していた。


「弱いな……弱い存在だな……」

 頭と腹がまっ二つに切り離された屍の山。そんな山々を築き上げた潜血の付着したトマホークを目にすると、スネークは冷静さを取り戻して我を鎮める。それから、程良く血の気が抜けると、闘志がみなぎったかのような豪快に笑いが、獰猛な動きが、空母内を激しく駆けて内部を刻む。


「弱者必滅! このような弱い存在が世界屈指の空母とは片腹痛いわ……スネークウイップ! サイドショット!!」

 スネークからすれば、弱いの一言で済んでしまう空母の存在は許しがたい存在だった。背中に取り付けられたライフルが上空へ火を噴き、蛇腹剣が空母内で唸りをあげた。


「バルサンダー! ライドヒア!!」

 そして、スネークがある程度暴れまわり、頃合いを見たかのように冷静さを取り戻して彼は叫び指を鳴らした。この合図に応えるように、エメラルド色をした鱗の装甲に身を包んだ龍が甲板を突き破って頭を彼の前に出した。

「俺の勘だとこの空母はもう沈む! バルサンダー、跡形もなくこいつを消せ!!」

「グロロロロロロロロォッ!!」

 

 強大な龍・バルサンダーが空母から離れる。スネークからの命令に従い、口からほとばしる熱線が空を渡っては、光の中に空母が爆発を起こしながら融解させた。

「拍子抜けさせやがって! やはり……」

「いや~さすがスネーク殿。このくらいの相手など大した事ありませんなぁ~いよ、日本一、いや大陸 一、えーとえーと、とにかく戦場の大蛇と呼ばれているだけはありますなぁ!」

「少なくとも俺は俺は今猛烈に苛立っている! とっとと帰れ!!」

「ろろろ!?」


 スネークの元へ、先ほどの爆撃機・シックスがおべっかを使って彼を褒めちぎっているが、スネーク本人にとってはすこぶる不快なものにすぎない。怒号とともにシックスがの体が歪められたかに見えた。

「ろろろ……そんな、私は、せっかくスネーク殿、いやスネーク様を褒めちぎっているのにどういうことなの?」

 

 スネークを問い詰める事も出来たが、自分の命に危険が及ぶと思い、シックスは全速力でその場から離れ、チナの地へ到着した。

 チナの地では、自国の戦車編隊を彼ら三光同盟の量産型兵器の面々が一掃していた最中。三光同盟の量産型兵器は、オレンジの無限軌道にロボットのような上半身、槍とキャノン砲を模した両パーツに、一つ目の頭部で構成された人型戦車だ。

 このシンプルな、質素な色合いの戦車同士の争いに、1機だけ浮いている機体があった。赤・白・青のトリコロールカラーで塗られた1台の見栄える戦車・シックスランダーへシックスが迫った。

「シックスフライヤー、シックスランダー、ライド・クロス!」


 ライド・クロス。この言葉と共にシックスランダーの装甲が変形して機体からは接合部が露出した。次に機首を90度真上に上げて、フライヤー側の接合部と連結する。このまま無限軌道が先端を真下へ移動し、底部からのバーニアが静かな唸りをあげて宙に浮いた。


「シックス・アーマー、アウト&ライディング!!」

 重戦闘爆撃機・シックス・アーマーが空中でパージされた。パージされたパーツ同士が密接に連結し別の姿の戦闘機を構成する。

 そして、今までパーツに包まれていたために本体・シックスが大気圏内に姿を現した。だがこの彼はぼさぼさのヘアーに、いかにも堕落しきった中年っぽく覇気を微塵たりとも感じられない。


 この男が戦闘機・シックスフライヤーの上に着地することになるが「あいたっ!!」と、着地時に足をすべらせてしまう。彼は機体からは、見事に足がスリップしてしまい、地面へまっさかさまに落ちるところ、慌てて右翼に捕まった。

「上手く決まると思えば決まらないもの! こんな私に誰がした……っといけないいけない……えーと、確か」

 一人自虐気味に愚痴るシックスだが、腰の通信機らしき機体のダイヤルを回して何かの回線を調整して通信を試みる。


「はい! 誰ですか?」

 通信機の声は落ち着きが、穏やかさがありどこか年頃である少女らしいあどけなさと、戦士としてふるまうりりしさが共存した声だ。

「えーとですね、トリィ殿、こちらシックス殿がソビア連邦の最大空母を沈めましたし、本土を沈黙させましたんだに! そちらのチナ国遠征はどうですかに?」

「シックス・ホーンですか。こちらトリーティア。余程の事がない限り大丈夫だと思います。少なくとも 貴方の協力は必要ないです」

「そ、そうなんだにか……」

 と、シックスが別の戦場で戦うトリィへ戦況を報告したまではいいものの、彼女からの返事の内容はある意味痛い。


 スネーク・サイド。北部軍団豪将、いわばナンバー2の地位に位置するサムライドだ。

 彼は蛇腹剣・スネークウイップ、背中に取り付けられたビームキャノン・トライキャノン、両肩に内装された斧・ツイントマホークを駆使し、あらゆる戦局に対応し得る戦闘能力を持つ。またライドマシーン・バルサンダーの戦闘能力もハイレベルだ。

 なお、シックス・ホーンに関しては情報が不足しているのでここでは語らない。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 スネークがソビアの地を蹂躙する一方、チナ国の空で同士討ちが発生していた。それも一機の戦闘機のフロントからビームが放たれる奇妙な事態だ。

「助けてください隊長! 機体が私の操縦を聞かないんですよ!!」

「嘘をつくな! おまえはあいつらが恐ろしくなって裏切ったんだろ!!」

「いや、でもフロントガラスから光線を放てるはずがない!」


 この不可解な現象に小隊の面々は戸惑う。脅威と化した1機のチナ国の戦闘機が、フロントガラスからの攻撃する事態から、明らかに何者かの手に操られている事は分かっていた。だが、次々と仲間を撃墜していく機体を放置する訳にはいかない。


「ええい仕方ない! このまま撃墜する!!」

 このまま放置を選べば、被害が拡大するばかりだ。諦めを決めて1機が機銃を凶器と化した僚機へ撃つ。標的は光を放つフロントガラス。ガラスへ弾が直撃すれば、放射状に透明な領域に罅が入る。


「やった!!」

「これでフロントガラスは砕かれた! 大丈夫か!?」

「は、はい! なんとかなります!!」

「ミラージュ・デストロイ!!」

1機の攻撃で辛うじて同士討ちは避けられた……かと思われた。だが、1人の奇妙な言葉が、またも予想外の事態が起こす引き金になった。

 声のした方はフロントガラス。そこから急発進した光の矢が、チナ国の戦闘機編隊を一直線に貫いたことで、機体の爆発が空へ巻き上がった。

 しかし、その光は止まる事を知らないで、ひたすらまっすぐに地面へ接近して、付近の建築物に貫通、それが何であろうとも障害物は障子と同程度の脆さしかない。

 この破竹の勢いで繰り出される光の突撃は、やがて彼を包む光の膜に比例して勢いが弱まり、最後はレールの上を滑るように、彼が地面へ着地し光の中から姿を見せた。


「鏡次元を見破ったかどうかはしらないが、所詮下等な存在による烏合の衆! 見破ろうが見破らないが死あるのみだ!!」

 鏡のような物質で構成された袴、額のクリスタルから突き出た二本の角。透き通る銀髪を揺らしながら彼は笑った。

「俺が北部軍団豪将、ナンバー2のミラン・ヨドハシだ! 覚えておきな!!」

『ミラン! 名乗る暇があるならこちらの援護をしてください!!』

「なんだ……人が勝利を満喫しているのによっ!」

『くっ……』

 トリィからの援護要請に対し、ミランは思いっきり舌打ちをして露骨に面倒な感情を表現する。その表情から、彼はまっさらトリィの援護に駆け付けるつもりはないようである。


「ま、所詮貴様のようなカスはこれが限界……」

 だがミランはトリィが現在戦っている場所に気が付いた。戦いの場はチナ国の核兵器基地付近。その場でトリィが戦っている事に気づき、笑みを浮かべてベルトのバックルを変えた。


「分かった。行ってやるよ……ライドヒア! バスターソーサー」

『ちょっとミラ……!!』

 ミランが回線を切った為にミランは通信を切った。彼の元には円盤状のライドマシーン”バスターソーサー”が駆け付け、彼の搭乗を確認すると独りでにエンジンを吹かせて飛んだ。

「面白い事になりそうだぜ……パーっとやってやるよパーっとな!!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 チナ国の核兵器基地には無数もの戦車が一台の車両を迎撃を行っていたが、その車両は巧みな動きで砲撃を切り抜ける。

「シグマチャージ・シグマフォーム!」

 戦車編隊を翻弄する車両の上部が、観音開きのように真っ二つに割れるとともに彼女は姿を現す。青と黄色の装甲で包まれた強固な両足と、真紅の上半身と強大な翼。エメラルドグリーンの髪の少女。彼女の白い手に握られたものは鋭利な大剣だ。

 

 彼女がミランに援護を要請した少女”トリィ”。彼女のどこかあどけなさが残る表情に対し、全体像からは可愛いよりも凛々しいと例えた方がいい。

「ブレイディング・ソード! 行くよリーフェスト!!」

 トリィの背中に装備された左翼が真下にさがる。上がったままの右翼の柄を握ると大剣ブレイディング・ソードが展開される。両手で剣の柄を持ち直すと、彼女を乗せたライドマシーン”リーフェスト”が方向を変えて敵陣に突入を開始した。


「トリニティィィ・ブラスタァァァァァシグマ無双連撃双方!!」

 頭ほどのリボンが輝き、両側から迫る戦車を照射しながらかすめた。眩い光を放ちながら少女は巧みな剣さばきで戦車を横一文字に叩き斬る。重々しい剣を軽く鮮やかに振るい、まるでハサミで紙を切るように、また1台の戦車が上部を斬り取られて地面へ落ちた。

「あそこを制圧すればチナ国は日本列島への攻撃を停止する!」

 トリィの標的は目の前の拠点のみ。ひたすらまっすぐに突き進むはずだったが、

「!!」


 背中を取られた。無防備な後方へ戦闘機中隊が迫った事を感じた。後方からの銃弾をトリィはよけるだけが精いっぱいだったのかもしれない。

「後方を取られるなんて私はまだまだだけど……ライド・イン! チャージスタンバ イ!!」

 だが、多少戸惑いはしたもトリィは打開策を浮かべた。リーフェストの足場が観音開きになれば、彼女が真後ろに倒れる形でリーフェストに収容された。


「隊長! 相手がマシンの中に収容されました!!」

「うろたえるな! どうせ相手は同じ扉の中から現れるにきまっているから、あの車を後方から攻撃し続けたら倒れるはずだ!!」

 チナ国の迎撃部隊の隊長は確信をしていたのだろう。確かに相手はマシンに籠っただけにすぎない。よって彼らの判断は妥当だろう。

 だが、相手は人と現代兵器ではない。太古から復活した未知の兵器。彼らを現代の兵器にあてはめた時が彼らの命取りだ。


「シグマチャージ・グレイスフォーム!!」


 リーフェストが方向変換して、敵からの猛攻を振り切ろうとする。同時にトリィはシスターのような衣装を纏って姿を見せては、いつの間に彼女がリーフェストとともに敵の機体を挟み込む為に背後をとったのだ。

「なんだと!?」

「奴はマシンの中にいたはずでは!?」

「いくよ! クロスシンフォニーブーメラン!!」

 未知の存在に現代の常識が通用するはずがない。今、投げられた十字架のような武器が、まるでブーメランの要領で戦車部隊を切りつけて片づけてみせた。


「私もまだまだですね。バックを取られるのは恥なのに……リーフェストがなかったら大幅に計画が遅れていました」

 そして、敵側の標的が沈黙した事を確認し、トリィは到着したリーフェストの先端をそっとなでる。

「私は戦況に対し貴方の力を借りてフォームチェンジして対抗できる。リーフェストにはフォームチェンジして再出撃する際の隙を防ぐために一定距離の空間内に私をワープさせる力をもつ」


 気を取り直し、目的を再確認しトリィがリーフェストで目的地へ急いだ。あと僅かでもゴールだ……だが、

「私もその能力に頼ってばかりいては……きゃあっ!?」

 激しい閃光が拠点を包み、紅蓮の炎が施設を、人々を飲み込むかのようなきのこ雲状に舞い上がった。 膨大な煙と雲が巻き上がる事で、バランスを崩したトリィは強制的にリーフェストに再度収容され、リ ーフェストの両側面の翼を展開して機体は爆風のショックに揺られながらも爆発圏外へ逃れ、よろよろ飛びながらも甚大な被害を免れた。


「これは……まさか!?」

「だらしないものだな! 落ちこぼれ!!」

 トリィが外に顔を出すとバーストソーサーに乗っかったミランが到着。今の彼は明らかに自分を侮蔑の表情を見せていた。透き通るような装飾と顔立ちの彼だが、唯一透き通らずに濁りがある箇所は、彼の両目のようである。


「ミラン、どうしてそこまで」

「ここまでパーっとやらないとなぁカスどもには分からないからな! お前と同じここのネジが緩んでるからな!!」

 ミランは自分のこめかみに人差し指を突きつけて軽く指を捻った。トリィは侮蔑して笑う彼に当たり前だが不快な感情を抱くが、敢えて表には出さない。


「鏡のように少しでも自分が映る空間があれば鏡空間へ突入できる……そして誰にも攻撃できない場所相手へ攻撃をかける。それがあなたの鏡次元空間制御能力」

「その通り」

 トリィに鏡次元という空間を操る能力を説明されると、自分のことゆえか、ミランは笑いながら梨を取りだし、指を梨へ突っ込んでは、その指で梨を貫いた。ふてぶてしい笑いとともにだ。


「そして俺は鏡次元を構成するエネルギーとして己の体内に吸収し、そのエネルギーで脆くなった空間を突き破って帰還する。その際の鏡次元空間はこの梨のように内部が脆い存在だ」

「鏡次元空間制御能力を活かしてで相手に突撃すると同時に鏡次元を構成するエネルギーを内部へ叩きつける。これをミラージュ・デストロイという……ふふ」

 ミランの説明に続けるように、箒にまたがりながら第三者が姿を見せた。クリアピンクのロングスカート、金髪の縦ロール。白と紫がコントラストによるレオタードが身体を包み、片手で扇子を仰ぐ。

「「サクラ様!!」」

「さすがミラン。核弾頭にミラージュ・デストロイを叩きこむエレガントな爆発、見事でしたわよ」

 

 サクラ・イチジョウ。彼女の前にトリィとミランは従順な姿勢を見せる。彼女にとって部下である二人に慕われる自分に、サクラは優越感と満足に満ちた気持ちを表情でゆっくり表わす

「いえ、サクラ様。このくらいやらなければ私はあの愚かな下等どもに我々サムライドの、三光同盟北部 軍団の実力を思い知らしめることが出来ないと思ったのみです」

「そうかしら……ふふ、ミラン、いい子ね」

 先ほどの態度とは対照的に、サクラへは健気な姿勢を取るミランに彼女は甘い言葉をかける。そんな実続きのように甘い二人の空気に、ただ一人トリィは入れない。

(サクラ様……あの男は私より強いことは事実かもしれません……ですが……)


 サクラ・イチジョウ。北部軍団宿将。今のところ本人の実力は未知数。ミラン・ヨドハシは先述のスネーク・サイドに匹敵するナンバー2候補。鏡次元と呼ばれる独特な空間を借りた戦いが彼をその位置へ押し上げているのだろう。

 あと一人。現時点においての北部軍団員トリーティア・シグマ。戦局に応じたフォームチェンジ能力のほかに、空間跳躍能力が存在している。◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 行くぞ同志ぃ!!」

「おう! 必殺稲妻落とし見せてやらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ふん! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁとやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「たぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 6月2日。ヨーロッパ地方でも彼らの脅威にさらされることになった。先鋒はカブトムシ、クワガタのような強靭な角を持つ大男の二人。同サイズの片割を全力で担ぎあげ、振り回して、そそうて戦車編隊へ投げ飛ばす。

 相方により激しい勢いと共に投げ飛ばされた彼だが、回転の向きを自分で変えて、彼の象徴ともいえる頭の一本角が、ドリルのように激しく回転して、戦車1台へに頭からめり込む。

「とやぁぁぁぁぁっ!!」

「ひぃぃぃぃぃっ!!」

 直撃を受けた戦車から、彼はほぼ無傷のまま飛びあがり、隣の戦車を掴んで、持ちあげる。足の裏から地盤に打ち込まれたアンカーを借りて、男は宙を浮きながら傷ついた獲物にジャイアントスイングをかける。


『今だ! モミーノ、アクエーモンと合流して前線を切り開け!!』

「はっ!!」

『ザイガー殿、ライレーン殿は後方から迎撃を頼む!』

「了解だぜ教主」

「御意!!」


 一本角の男・アクエーモンが戦車編隊相手にまさに鬼に例えられる暴れっぷりを披露。彼の奮闘が切り出しとなり、後方からの指揮が入った。


「タイタニア・フロストォ!!」

 アクエーモンを囲む戦車編隊に、相棒モミーノの槍から水色の氷弾”タイタニア・フロスト”が放たれる。この攻撃に被弾してしまえば、まるで氷に取りつかれたかのように戦車群の動きが止まった。

「同志ぃ! この祭りを一人占めとはいかねぇぜ!!」

「もちろんだぁ! ビートランサーだ!!」

 

 両者がカブト、クワガタの角を模した先端を装着した槍を振るい戦車群に猛攻をかける。鬼顔負けの暴れっぷりを見せる二人から逃れようと、どさくさにまぎれて撤退を試みる戦車も少なくない。だが、


バシュッ


 鈍い音と共に無限軌道から灰色の煙がたちこめた。乗組員は状況を理解したのか、狼狽しながら機体から脱出し単身でスタコラ逃げていく。主砲、無限軌道をピンポイントで破壊されてしまい機体を途中放棄せざるを得ない。


「やれやれ。赤鬼青鬼が敵を抑えているから苦労しない者だぜ」

「ええ。この法華銃があればロングレンジで落とすことができますね」

「ふっ」

 法華銃と呼ばれた小銃を放つ者が二人。男は漆黒の衣装、虚無僧の陽子、女は修行僧衣を着飾り、笠に顔を少しかぶせている。

「ザイガー、ライレーン。そのまま遠方から攻撃に専念するんや。予算に気をつけてな」

「了解だ教主。まぁ俺に任せておいてくれよ」

「教主様。このライレーン、貴方に言われた事は必ず守ります!」

「サンキューなあ。ま、とりあえず攻撃・移動手段さえうばやぁ無抵抗だからそこんとこ頼むな」

「御意!」


 坊主頭に、質素な法衣、そして朱の数珠を首にかけた男・ガンジー。彼はザイガー、ライレーンの二人に命令を下すと、腰の通信機を調節した。

『ガンジー殿。此度の戦いは我々の勝利に終わるようですな』

「そやのぅ。いーや、単なる勝利に終わらせず、わいの要求を果たした先述・采配は見事なもんや」

『費用を最低限のものに抑え、敵兵の命をむやみに奪わないものですね。しかし、ガンジー殿。貴殿も随 分変わりものな所がありますね』

「そりゃあむやみに燃料使ってもうたら、儲けがなくなるし、部下を養えないんや!

 ハッターの問いに対しガンジーは半分笑いながら口をあけて、懐からは小柄なそろばんを取り出し、慣れた手さばきで玉を動かしていく。

「あとまぁビーグネイム大陸の生き残りを滅ぼした罪あれど、それを知らない奴らをむやみに殺すのはち とわいの流儀に反するものやからな……生かしておけば何かの役には立つと思うンがや』

『なるほど。ですが、むやみに生かしておくのは危険ではないでしょうか……ほら、日本の歴史での平清盛と源頼朝の例があります』

「そのような話はわいも聞いた事ありまんねん。けんどわての計算内では情けを仇で返されても、われら 西部軍団のメンバー舐めても らっちゃあこまりまっせ」

 

 機嫌がいいように動かされた指はそろばんの計算による答えをはじき出し、スキンヘッドに光を反射させながら彼はニヤリと笑った。


「秘密兵器のわてに、ガンジー、ライレーンによるロングレンジ攻撃、モミーノとアクエーモンの前線を切り込めるだけのパワー、4人をまとめるハッター、あんたの指揮があれば西部軍団は不滅やでぇ!」

「ふふふ……そこまで我々流れ者を買ってもらえるとは。さすがガンジー殿ですな」

「東部軍団のマローンはんみたいにわては実力者じゃありまへん、北部軍団の面々みたいに軍団員個々が むっちゃ強いというわけでもありまへんし、はては南部軍団のカズマはんのようなカリスマもわてはも っていまへんが、それに依存しなくてもわてらは他の輩と互角以上に張りあえまっせ!」


 東部軍団、北部軍団と比較すると被害は抑えめであったが、ヨーロッパ諸国には十分の打撃を西部軍団は与えた。

 ヨーロッパへ侵攻をかけた西部軍団宿聖がガンジー・ケーン。この男についてはまだ情報が少ないので詳細が分からないが、相応の器を持つ男ではないかと思われる。

 そのガンジーの両脇を固めるスナイパー、ザイガー・ソンとライレーン・シモツ、北部軍団の指揮を託されたハッター・ノン、そして彼の部下であり。ヘビー級コンビのアクエーモン、モミーノ。小粒なれど個々の得意分野が互いを支え合う侮れないチームであることに間違いない。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 このように列強はサムライドにより手痛いダメージを負った。

 だが、一度やられても懲りないのが人類。戦争は一時休戦となり、日本を標的に各国の精鋭が攻撃を開始したのだ。

 だが、彼らはやはりサムライドの存在を軽視していた。個々が力を合わせれば勝てるとのもっともな考えは、サムライドの圧倒的な力の差に脆くも砕け散ることとなった。


「艦長! ノアースカイが、ノアースカイが貫かれました!!」

「ノアースカイがだと!?」

 とある空母は先行していた艦の撃沈の報に震えた。だが、彼らに思考する時間を与えることを時は許さない。4m強の機体が彼らへ迫っているのだ。


「ふふふふっ! 勝てなかったりして! 負けたりして!! ミサイルパーンチ! トライアングルビーム! ベガスハーケン!!」

 甲板に着地した巨大な機体ははしゃぐように艦上で暴れ狂う。人並外れた巨体に違わぬ火力と装甲、依らぬ速度とテクニック。そのスピードは戦闘機編隊の着艦を許さないほどだ。

「これでとどめだーっ!!」

 上部が沈黙したと悟ったm彼は中心地点に陣を張り、胸から柄を引きぬき巨大な刃を天にひからせる。


「素晴らしいケイ様の理想を余所者の手で汚す者は許さない! 合身巨神トライベガス!!」

 その決め台詞とともに剣を甲板に突き刺す戦士は合身巨神トライベガス。彼に貫かれた点からは装甲へ亀裂が瞬く間に入り込み、彼が離脱すると同時に動力炉からの爆発が艦を飲み込んだ。


「ふふふ! 大勝利なのさ……あ!?」

 一足早く空へ避難したトライベガスが、無表情な顔と反対に心から笑うような勝鬨を上げる。だが、頭部のアンテナが白く点滅し始めて、あっという間に彼の体が3つに分断され、個々が変形をして3人の姿が海へ落っこちる。


「と思ったらもう合体解除……エネルギーの使い過ぎじゃね?」

「いや、おいどんら元々この時間が限度だったでごわす。ヨシーナが無駄に暴れまわるからな気もするでゴワスが」

「イエース! ユーアー並列回路じゃありませ~ん!!」

「そうそう! 並列回路はパワーが出る分、持続時間が少ない……ってそれ直列回路と間違えてるだろボケぇ!!」

「カワチ!? ノン、アウチ!!」

「毎度思うけど……よくもまぁのんきでゴワスね」

 

3者が立ち泳ぎをしながら陸地を目指している。多分彼らのリーダーと思われるイワーナという男が放つ片言のボケにヨシーマのハリセンが直撃。そんな二人に対しヨシーナはただ呆れて顔に手をあてる。

「……まぁおいどんたちの数少ない見せ場だったのかと? カズマ様にあぁこぅ言われないだけましですたい」

 

 この3人組はヨシーナ・アルファ、ヨシーマ・ベーダ、イワーナ・ガンマ。個々の実力は不明だが、3人が合体することで合身巨神トライベガスとして圧倒的な力を見せつけている。よくわからないが昔テレビで見たような合体ロボットもののような奴らなのかもしれない。


 彼らが、戦いを終えて、のどかにボケと突っ込みを交わしていた所、残された戦闘機編隊は一人の存在に翻弄されるままに墜落していく。

「フェンサーショーテル・十字崩し!!」

 宙で十字が描かれ、真紅の炎と共に十字の軌道が灰色の機体から白く光る。爆発から飛び上がり、身を海へ落ち行く。

 しかし彼は、弧を描くショーテル独特の刃を擦れ違う機体の底部に突き刺して、バランスを取るように体を回転させて機体の上に立った。


「ふふ……」

「ひぃ!!」

 彼は端麗な表情をかすかに微笑ませて二本の刃をフロントガラスへ突く。ガラスは瞬く間に砕け散りパイロットの首元に刃が突きつけられた。

「おや、いつか僕達三光同盟の楽園、ビーグネイム大陸復活を邪魔するとは。人間のくせに覚悟はできているかな?」

「た、助けてくれぇ……」

「助けて? 僕達へ報復攻撃をしかけてきた癖に助命嘆願とはちょっと自分勝手じゃないかな?」

「そ、そんなこと言われても、私は上層部から無理やり攻撃隊に参加する事になって、私にはその気なんて全くないのですよ!」

「ほぅ……それなら、まぁ、なるほどねぇ……」

 パイロットの我が身を守る言動に彼は少し考えるそぶりをみせる。そして

「そ、そうだ! 私は……!!」


「これで助かる」パイロット安堵した思いだった。だが、彼の希望も刃の前に飛んだ首と共に砕け散るった。


「ふふ。どうだい。これで君はもう自由だ……あの世で人生を全うしたらいい……」

 パイロットを失って落下を始めた機体から彼は離脱し、自分を救うように地上から飛びあがった機体に乗りかかる。


「愚かな存在に兄上の偉業を邪魔される訳にはいかないのでね! 兄上の素晴らしさが分からない存在はここからいなくなればいいんだ!!」


 彼はただ笑った。自分にとって兄上の夢を阻む存在は虫けら以下のようである。

 この端正な容姿に獰猛な戦いと冷酷な性格を持つ者が、先ほど3人が恐れていると思われる男カズマ・ソゴウ。彼が残りの軍団・南部軍団を率いている可能性が濃厚である。

 優しげな顔立ちとは正反対に好戦的かつ非情の性格を持ち、肩からのフェンサーショーテルを駆使した戦いは単身で戦闘機中隊を軽々と葬れる実力を持ち、彼もトップに近い男といえよう。


この4軍団の猛攻の前に世界各国は返り討ちに遭うのが常。そして……。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「諸君……世界諸国はとうとう日本への関与を拒む事を決めた。これは我々三光同盟の脅威を大国どもが思い知ったからにすぎない」

 21世紀半ば。だが、何世紀前にタイムスリップしたような雰囲気が漂う京都のとある古城。何故か戦禍にさらされる事もなかったこの古城に今、一人の男の叫びが響いた。


「だが、これは下準備にすぎない。我々の故郷ビーグネイム大陸は2万年前に天変地異の連鎖によって 海中深く沈んだのは既に知っているだろう」

 城内は不気味の三文字に尽きた。男の背後には何百、何千かの蝋燭の火がゆらゆらと揺れ、彼の前には多勢の者が4列になり不動の姿勢で耳を傾けている。


「幸い我々は敬愛すべきビーグネイムの民により、この新天地に眠りに就くことで生き延びる事に成功した。ここにいる者達は皆新天地から解き放たれた同志。かつては国の威信をかけて血を血で洗うような 戦いを続けてきたのは懐かしい……」 


 男は剣を引きぬき、それをすかさず天へ掲げる。それと同時に頭上のスクリーンが写され人類同士の戦いが映し出される。大量殺人兵器の押収、逃げ惑う人々、強者に蹂躙される弱者の存在を見せた。

「我々はこの地で団結を決めた。今我々には共通の敵が存在しているからだ!!」


 ケイは語った。黒髪に隠れながらも彼の両目にはぎらぎらと闘志、そして憎悪が込みあがる。思いっきり一歩前に出て拳銃のトリガーを引いた。

 銃弾は聴衆の頭上を通過して日本列島の地図に幾多もの風穴を開けた。彼のテクニックはおろか、日本列島をハチの巣にせんとする彼の決意に改めて肝を冷やした。


「そして我々が今、大戦の戦火によってこの地に目覚め、集ったのは、ビーグネイム大陸沈没から我々を救ったビーグネイム大陸の民の敵を討ち、沈んだ大陸をよみがえらせて新世界を築かなくてはならないのだ!!」


「さすが兄上! 兄上の志を果たすことが僕達の義務だ!!」

「そうですわ! さすがケイ様は薄汚い存在とは違いますわ!」

 ケイの演説が終わり、最前列で不動の姿勢を誇るカズマが彼を称え、部下に士気を高揚させようと振る舞う。彼に続くようにサクラもまた青い瞳をキラキラさせながら彼を持ち上げるが、


「おや、その薄汚い存在って自分の事じゃないのかな?」

「な、なんですの!? カズマ、貴方がケイ様の弟だからって私を侮辱するとどうなるか……」

「黙ってくれないかな! 僕と兄上は大陸時代から共に闘って来たんだ! そんな尻軽女が崇高な兄上に近付く事なんて許されないよ!!」

「し、尻軽ですって!?」

 サクラを侮辱するカズマ。彼の言葉は的を得ていたか、サクラの後ろに並ぶ面々に笑いをこらえきれず漏れている者も少なくない。そんな彼女の怒りに真後ろにいたトリィが気付いた。

「サ、サクラ様! 落ち着いてください。サクラ様は……」

「そ、そうですよ! 確かにサクラ様は尻軽で……」

「シ、シックス!?」

「ろろろ? 私何か悪い事言っただに?」

 北部軍団において最も良識があると見えるトリィが、主君を宥めようとした。しかし、同じ北部軍団であるシックスが余計な事を言い出し、彼の笑いと同時に、後方から笑いがどっと高まっていく。


「この役立たずが!」

「ろろっ!?」

 サクラが腰から投げた金華棒がシックスの額に直撃し、あおむけに倒れ込んだ。

「一理ありますって!? トリィ、ちょっとどういうことかしら」

「え! サクラ様、ちょ、っとこれはいろいろと……」

「ま、まってーやまってーや、サクラはんにカズマはん、そしてついでにトリィはん!!」

 サクラに怒りの鉾が向けられるトリィだが、幸い見ていられなくなったガンジーの仲裁が入った。


「ふっ……」

「さすがカズマっち!」

 北部軍団と西部軍団のしょうもないやり取りに対し、火付け人のカズマはただ侮蔑の意を込めた笑いを見せる。また余裕にあふれる彼へ、真後ろにいた幼女が笑いながら近づいてきた。

「あのね! あのね! ヒララもね~サクラっちがしりがるおんなだって思うの! 意味がよくわからないけどヒララもそう思うの!」

「うるさい黙れ!」

「むぅ~カズマっちの意地悪意地悪!」

 素っ気ない態度を取るカズマに対し、ヒララと呼ばれた少女はほっぺたを膨らます。見た目は小学生くらいの彼女だが、彼女もまたサムライドの一人である……何故ならサムライドの集団へ、幼い少女が何の不安もためらいもなく、平然とこの場にいるのだから。


「ヘイ、ヨシーナ! 尻軽ってどんな意味なのか!? デューユーノウ?」

「尻軽とは、ここのパーツが軽量化されたサムライドの事をいうんだぜ! ここのパーツが軽量化されている分、ブースターとかの強化パーツを装備したりできるわけなの!」

「……それは違う! 絶対違うたい!!」

 そしてカズマの後ろでは、イワーナからの疑問に対しヨシーナは自分の尻を彼に向ける。こんな二人のやり取りを一人悩むヨシーナ。当たり前だが尻軽の意味はヨシーナの言っている意味とは違うのは言うまでもない。


「現在東部軍団は未だに従わないムトナーベ国へ遠征。東部軍団が帰還したら、この日本列島を下剋錠発見までの仮初の要塞にせねばならないな。それにまだまだ私達に非協力的なサムライドを懐柔、万一の際は始末しなくてはいけないからな……」

 部下達がそれぞれ揉めあったり、好き勝手やっていたりする間にケイと呼ばれた男は席を外した。


「楽しみだ……ビーグネイム大陸復活の日も近いな……」

 ケイ・ヨシナガ。三光同盟において盟主に当たる人物。その全貌は未だ謎の中だ。またヒララ・ウィドーという詳細不明の人物がいることも付け加えておく。


 2060年6月9日。謎の兵器”サムライド”の脅威にさらされる形で終戦を迎え、平穏が戻ってきた。ただ日本列島が世界から切り離され、彼らの巣窟となってしまった事を別に……。


この地での戦いはまだ始まったばかりにすぎない……。


続く

次回予告

「西暦2060年、日本列島はサムライドら群雄割拠の時代。この荒波に放り込まれた彼は人類の守護神か、故郷への逆賊か……銃声が響いた時、歴史が激動の軌道を走りだす!!

いよいよ幕開けとなる、戦機旋風サムライド「吼えろ!紅蓮の風雲児!!」新たな歴史にその名を刻め!ライド・オン!!

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