表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/35

第16幕 死力だ戦友よ!倒せ北部軍団三大サムライド!!

「くたばれサクラ……!!」

トライマグナムのマガジンをリロードした。シンは満身創痍のサクラへ止めを刺そうと、トリガーを引くはずだった。

だが、突如マグナムが爆発を起こす事態が発生した。慌ててマグナムを投げ捨てる新だったが、シンには事態が何かは把握する事が出来なかったが、彼の遠方からは注射器らしき銃火器を携えてエメラルドのナース服のような衣装を纏う少女が、そして彼女のクリアの眼鏡からは自分へ恐ろしいほどの憎悪が突きつけられている事に気付いた。


「よくもサクラ様に酷い仕打ちを……」

「お前か……俺の怒りが晴れねぇじゃねぇか!!」

「そのセリフそっくり返しますよ!!」

叫ぶ彼女はトリィ以外の何物でもない。例えサクラが残虐非道な行動を行い、因果応報の形で報いが来ようとも、彼女はサクラを必死にかばい、サクラを傷つける者は誰であろうとも許さない。その宿命を持ち彼女は存在する。


「サクラはな、大陸時代からサイの国やいろいろな国を苦しめてきて、今だって多くの非常拠点の人々を苦しめているんだ! そんな酷い奴にお前は仕えていいのか!!」

「サクラ様の事を悪く言う人は私が許しません!私はサクラ様をお守りする命を受けて行動をしているだけです!」

「お前はモラルよりも使命を選ぶってわけか……ならお前もサクラ同等の倒すべき敵だ!!」

「使命を最優先にする事が私のモラルです! サクラ様を傷つけた貴方を私は許さないですよ!!」


感情に生きるシンと使命に生きるトリィ。これにより両者が和解する機会は失われた。

トリィはサクラほど卑劣な女でもなく、愚劣でもない。ただ彼女の使命感の強さが本来の彼女なりの考えを拘束してしまい、サクラの事を最優先に考えている。何事も縛られないシンとは対照的な女なのかもしれない。


「その勝負は待った!」

「何……その声は!」

「スネーク・サイド!?」

しかし、両者が一種即発の戦況を引き裂くように、天から声が聞こえた。スネーク・サイド。シンにとって最悪の敵である男の名前だ。最もトリィからしても、現状からはあまり加勢してほしくはない相手に間違いはない。


「ライド・クロス! ネプチューン・チェダーイン!!」

天から飛び降りたスネークがライド・クロスを開始した。まず彼のライドマシーンであるバルサンダーの頭部が、本体から展開された別の頭が展開されるとともに弾き飛ばされ、   

射出された頭部が口を広げてスネークを飲み込む。そして彼を包んだ頭部は、姿形を素早く変え、アーマーが備えられた手足と頭を展開させて現れた時、彼は今、紅の軍服の上に純金の骸骨を胴体に宿したかのようなライドアーマーを装着し終えた。スネークが地面へ着地する時、シンへは久しぶりだと言わんばかりの余裕めいた表情を見せているので、自然と彼の怒りを駆り立ててしまう。


「スネーク・サイド“ネプチューン・チェダーイン”……スネークがライド・クロスをしただと!?」

「どうだシン。お前を倒す宿命は俺にある。だから俺はこのライドアーマーを手にしたのだ」

「ぐ……」

「スネーク殿! これは私とそのシンとかいう男の問題です!! 貴方はいつでもシンを狙えばよろしいのではないですか!!」

「そうはいかんのだ。そのいつでもは今も含まれる。そしていつでもの中の好機が今しかないということだ」

打倒シンに燃えるスネークはソルディアを引き連れてシン達を、いや彼らの軍を一斉に叩き潰さんと揃えている。

また自分の状況と戦力に対し、シンの勢力が対策を練っている事もスネークには読めていた。いまいち煮えたぎらない結果を迎えようとしたトリィの不満のはけ口を反らす答えも既に用意されている。


「お前が恨む相手がどうやら接近しているようだ。そいつを討つ事でお前は満足するはずだ……」

「何をわけのわからない事を……!?」

理由も知らない事を発現され、もちろん納得がいくはずがないトリィだが、目の前に到着したシン側への援軍を見ると、シンへの怒りとは別の感情が高まる事となる。

「あ! ミツキ、クーガ遅いぞ!!」

「すまないシン、相手は俺たちを迎撃するために防衛部隊をいくつに分けて展開していた。その一つ一つを叩き落とす事が足止めだった」

「ですがシンさん、私の賭けは一応表に出たようですね。ブロッサムが目の前に見えます」

駆け付けた2人の内、ミツキの視線では非常拠点の後ろにはピンク色の建築物がみえる。確定はできないが、この荒廃した時代において浮いている奇抜な建物はそうとらえる事が無難だろう。

「しかし敵にはスネーク・サイド。此処で会いたくない相手に……」

「ミツキ・アケチ! よくも現れたな!!」

その時、ミツキのもとへトリィが注射器らしき銃火器ニトロシュリンゼの先端を思い切り地面へ突き刺した。本来はミツキに当てるつもりだったが、彼女が一寸の差で回避運動をとり成功したためにこの結果になった。

だが、トリィは冷静にニトロシュリンゼの先端を引き抜いて離れると、突き刺した地点から一帯の地面が突然の爆発とともに地表やソルディアが吹き飛ばされてしまった。

「な、なんだ! 地面に爆薬が仕込まれていたのか!?」

「いえ違います。トリィのブライトフォームの力と言いましょう」

「ミツキさ……いえ、ミツキ。私は貴方を裏切り者として始末しなくてはいけません!」

「やれやれ……私が恨む相手もいては、恨まれる相手もいるものですね……それが戦いの世の中と言うべきでしょうか」

「そう余裕を構えている時は今のうちです!」

ミツキは戦いの始まりを見計らったかのように、トリィを始めとするほかの面々から逃れるためにカムクワートを足として戦線を離脱した。


「シンさん、クーガさん。過去で相手をよせてしまえばいいはずです!」

「過去で相手を?」

「ミツキの奴め面白い事をいうものだな!」

「あぶねっ!!」

シンが何を考えているかわからないままスネークのスネーク・ウィップが襲いかかる。この地でもシンとスネークの戦いが始まった時に、クーガはミツキの言葉の意味が読めた。


「よし、ここにいる者は速やかに退去しろ!」

「は、はい!」

「サイ、お前をまだ信用してはいないがこの拠点の守りは任せた!」

「え……!?」


クーガからは認められてはいないものも、彼は藁をもすがる気持ちで自分に頼みを託しただろう。ようやく認められようとしている今だからこそ、サイは本来の目的を果たす時と見た。

「みなさん!これに乗ってください!僕のレーダーが割り出した安全地帯へ貴方達を運びます!!」

サイは腰からデルタートルを展開させて、彼の腕からはある程度のエネルギーが送り込まれる。

これにより、エネルギーが3枚の円盤と柄を繋げる電磁の糸の合間に膜を形成していき、いつの間にか三角形状の絨毯状の姿に完成させた。


「こ、これに乗って本当に大丈夫なのかい!」

「大丈夫です!このエネルギーの膜は僕の計算ではよほどの事がない限り破れないし、乗った人へはダメージを与えないように僕が調整しています!!」

「地下へ避難させた俺の娘とかは大丈夫か!!」

「今は戦いが激化しているのでむやみに入り口を開けると危険ですが、地下の人々も僕が絶対この非常拠点を守りぬきます!!」

「そ、そんな……無責任な」

「馬鹿無責任も何もあるか! ここのサムライド達はこの非常拠点を守ろうとしているんだ! こういう決断を下すこのサイさんもつらいはずだぞ!!」

避難する人々の間には何人かはこの非常拠点を一度捨てて、避難させた妻子を残して自分達だけで逃げることにためらいがある。しかし、サイの行動を理解する者の数の方が圧倒的に多く、また地位の高い面々が理解ある者であることが救いだった。これにより、サイによる避難活動は彼らのお陰で順調にいくところだった。


「待てよ……?」

しかし、サイは途中で不安に気付いた。デルタートルへサイは出来る限りエネルギーを伝達させて、三角形をどんどん広げていき民衆を乗せるが、サイにはこれからの戦いに備える必要がある。

よってまともに今後を戦う為のエネルギーを温存する為にエネルギーの句級に限界があり、想像以上の人々を乗せることにデルタートル自身の許容エネルギーもほぼ限界だ。


「僕はどうする……どのようにして皆を避難させる事が出来るか……」

サイは不安が近付いていく事を感じた。しかし、彼の目の前にはトレーナーが1台接近していき、避難民の前でピタリと止まった。最もこのライドマシーンは自分には何も覚えがない。だが、


「サイ、このライドマシーン・タダツグをお前に任せる……」

「ク、クーガさん!?」

「勘違いするな! 俺はお前をまだ信じてはいない。非常拠点の人々を完全に避難させる為にやむを得ずだ!!」

「は、はい! 分かりました、僕が全力で守ります!!」


クーガの言葉にサイは何か言葉とは違うニュアンスを感じた。彼はサイへ不信を貫いているようだが、サイがサクラの脅迫に屈することなく、民衆を守るために耐えた姿が彼の印象に残すものだったのか。

またクーガは不器用な面があり、強硬な姿勢を通る表と、その表から感情を出す事が苦手なサムライドだ。最もサイはクーガの性格を知らないが、彼の直感がなんとなくクーガの本心を察しているかもしれない。


「それなら僕は思い切りやるしかない……」

「お兄ちゃん……」

「大丈夫だよ伊智子ちゃん、君たちを安全な場所へ逃がしたら、僕は君達の非常拠点を守るために敵のサムライドを追い払って見せる!」

「本当さ!皆の命と家は絶対に守ってみせるから!!」

「サイ様ですね……クーガ様から彼を信じるしかないと言われていますので、私は何なりとサイ様の指図を」

タダツグ内で操縦を担当するマサノブからは、サイを頼る事が唯一の希望として扱われている。彼にそのように言われたからには、サイは引き下がる訳にはいかない。


「僕が今まで見てきた中では滋賀の非常拠点は守りが浅い! 僕が先導して拠点を強奪する事を選ぶよ!!」

「かしこまりました。では!」

サイは避難民を無事に避難させる為の受け皿として、偶然にも操られた頃の自分が支配していた滋賀の非常拠点を叩き落とす事を選んだ。


「あいつ……絶対頼むぞ」

クーガはサイに全てを賭けることしかできなかった。これで裏切られば終わる。その不安を抑えて作戦を遂行しようと決めた。


「それはそうと、因縁のあるカップリングが二組も存在していたとはおそらくミツキも思わなかっただろうな……」

ナオマサへ搭乗したクーガの標的は、彼の目線の先に存在する桜の花を模した北部軍団の総本山だ。

(あのスネークとトリィをなるべくこの現地から離れて戦わせることで、非常拠点を死守する事が出来る。そしてこの非常拠点の先にはブロッサムからの最短ルートか……)

半分クーガは燃えていた。自分が花形を飾る。彼には目立つつもりはさらさらないが、3人がそれぞれの戦いを行う中で、クーガが締めを飾るのだ。


「そうはいかないぜぇ……」

「何……どこだ!?」

しかし、クーガの作戦は早くも支障をきたす存在が現れた。しかも彼の頭脳には存在がないはずの反応点がうっすらと浮かび上がってきた。


「何だ……どういう事だ!」

「ふふふ。サクラを倒して、北部軍団の面々を引き寄せながら、お前が北部軍団へ殴り込みをかける作戦……このお前らの計画を俺は阻止する事が出来るんだよな!!」

何処からの声、声のしていく姿が徐々に濃くなっていく。何もない空間からうっすらと輪郭が、色がはっきりしていく中で相手は姿を現した。その男はミランと呼ばれ、にやっと何かを謀る彼の表情はまさにミランだろう。

「レーダーで反応がない相手だと!?」

『まさかミランまでこの戦場に出撃していたとは思いませんでした』

ミツキの通信がクーガに入った。その声色は何か残念めいた感じの声色である。


「とりあえず目を閉じてください」

「目だと!?」

「いいから早く。ミランは全体的には並みかそれ以下のサムライドですが、ミランに関しては一つ厄介な能力があります」

「わ、わかった」

ミツキに言われ、クーガは両目を閉じた。音からは分からないが彼女はクーガが目を閉じたと確信して話を続ける。


「ミランには鏡次元能力。自分の姿が映る鏡のような物体が存在すれば、そこから自分の姿を消す事が出来ます」

「な、なんだと!?」

ミツキが説明した能力がいわば鏡次元能力である。最もクーガにとっては全く理解が出来ないのか、内心驚きが隠せない。


「ちっ。ミツキの奴余計な事を言いやがって……」

「本来ならクーガさんを助けたいものですが、どうしてこうしてかトリィがなかなかしぶとい者で……」

「なるほど、俺一人で倒せということか」

クーガは未知の相手だが内心は自信があった。なぜなら以前自分は姿を自由自在に消す事が出来る相手、アサヒナーと一戦を交えて勝利を収めた経験があったからだ。しかも相手は目を閉じてしまえば自分が相手の鏡次元空間への突入能力を塞ぐ事が出来るはずだと見たからだ。

「ふふふ。お前はこうすれば鏡次元空間への突入を防ぐ事が出来ると言うのか!だがな!!」

ミランはゆっくり右手を前方へ付きだした。彼の力は右手へ一点に光輝く事でエネルギーをくの字状に蓄える。

「ミラージュナイフ……これで軽く様子を見させてもらうぜ!」

ミランが投げたミラージュナイフ、光の弾が静かに、だが確かに素早く飛ばされた。クーガが取った方法は微かに放たれていく音を耳に入れて、身体を動かすことだが、しかし感覚もなく続けて右手から放たれ続ける光のナイフを全て回避することは不可能に近い。最初は好調だった彼の回避行動も、じょじょに被弾が目立つ。


「馬鹿め。目を閉じたまま戦う事など出来るはずがない……次はこれで行かせてもらうぜ!!」

ミランはクーガを嘲笑するような目で見た、たとえ本人は知らないだろうが、今のクーガは相手の姿を消さないように自分の視界を敢えて遮る、あべこべの方法を取っているからだろう。

そしてミランは胸から生えた二本の柄を引き抜くと、金色の大剣が姿を現し、そのサーベルを柄同士繋げ合わせることで薙刀状に姿を変えた。


「スライサーサーベル・ドリンギングでいかせてもらうぜ!」

落ち着きを持ったミランが柄同士を繋げ合せた薙刀ドリンギングを駆る。脚部に備えられたブースターの力を借りて、激しく疾走する彼がドリンギングを高速回転させて、その勢いで相手をぶった切ろうとしている。

だが、クーガは諦めたのか彼はその場で不動の体制のまま全然動こうとしない。ただ拳を構えるのみで拳でドリンギングの刃を殴って砕いてしまうつもりだろうが、その作戦も視界を遮られては空振りになってしまうだろう。

「ふふふ! クーガ、お前はシンやミツキと違ってとくに有名でもないからな、所詮俺には勝てないんだよ!!」

「有名ではないか……お前からすればミツキは元同僚、シンは三光同盟に真っ向から剣かを売れば少しは名前を知らしめる結果になる」

「そうなんだよ! だがクーガ、お前は未だに成果なしだ!!」

「弱いとは言ってくれるな。だが丁度視界が繋がれた所だから撤回させてもらおうか!」

「視界が戻っただと!? お前は目を閉じているだけでは……」


その時、ミランは信じがたい事実を目のあたりにした。クーガの拳が自分のドリンギングの持ち手を思い切り砕くように殴り飛ばした。余りにも痛さにミランは手を抑えながら片足を地面へ付けてしまった。

「俺を知らないだけで、お前に弱いとでも言われてたまるか」

「馬鹿な……こんなことが」

「どうして、お前は弱いと指した相手にやり返されてしまうのか? それほどの実力しかないのか?」

「なろう……調子に乗りやがって」

クーガは目を閉じながら笑い返す。ここで何故クーガが視界を塞ぎ、いわば全盲の状態で並の相手と互角にやりあえたか。それは気で感じ取るような非科学的な方法ではない。また、音で相手の動きを掴み取る事は先程の行動で無理。よって説明せねばなるまい。


まずクーガは数多くのライドマシーンを持つ珍しいタイプのサムライド。倍以上の巨体となるライドアーマータダカツを運搬する移動拠点タダツグ、空中での行動や、巨大筒のバッテリーパックとなるヤスマサ、彼の足となるバイク型のナオマサなどが彼の所有するライドマシーンだ。

そして、そのナオマサの先端のカウルが分離することで、鷹型ライドマシーンとして、偵察として役に立つ。また至近距離から情報を送る必要を省くため、一定距離内なら、視神経への信号を送ることでハンゾウの映像を脳波につなげる事が出来る。

今のクーガは、ハンゾウからの映像を送り込まれている。その映像は上空から見た視線なので、脳内で彼の目の前の現実と照射し合わせる事は多少感覚がずれるが、感覚を正確に把握できれば、クーガは目を開けている状態とほぼ変わらないのだ。


「俺のビーグローブも捨てたものじゃないな。マローン様……」

頑強な拳を一発ミランへぶち込むが、これはマローンから教わった方法である。相手が接近戦用の武器を持つならば、持ち手を砕いてしまえば、その武器は無力と化す。その教えがこの戦いにおいて活かされたのだ。

「にゃろう……」

「どうした? 先程までの実力はどうした……」

クーガは完全に勝ち戦の気分に立った。この勢いのまま巨大筒を使用する事を選ぶ為ヤスマサを使う事にした。クーガの背中にはソーラーパネルの様な翼が接続され、太陽を背にして巨大筒のエネルギーが瞬時にチャージされようとしていた。


「ちくしょう……!?」

先程の余裕がミランにはなかった。しかしこの一瞬今のクーガはミランにとってはチャンス、つまり恐ろしいミスをしてしまった事を気付かなかった。

「バーストソーサー!!」

ミランは今を逃したら勝てないと悟り円盤状のライドマシーンを呼んだ。幸運にも巨大筒が発射された瞬間にマシーンが飼い犬のように駆け付けた。よって彼は土壇場でバーストソーサーに捕まり激しく光が照射される地面から逃れ、ターンを決めるようにして上空からクーガの背中へ回り込んだ。


「馬鹿め!」

「何だと……はっ!!」

クーガがようやく気付いた。ソーラーパネルの役割を果たすヤスマサの表面には背後で飛ぶミランの姿を映してしまう可能性がある。背中からの攻撃、ヤスマサにチャージした太陽光を一斉に反射させて、ミランを焼き殺そうと選ぶ。


「ここで死ぬわけにはいかねぇ! ミラージュ・サークルガード!!」

バーストソーサーはギリギリで光線の射出方角を避けて、先端から手鏡のようなプレートから光がヤスマサを焼き斬ることでミランを援護する。光と光のぶつかり合いだが、これはミランのバーストソーサーがヤスマサの翼を悉く焼き切ってしまう結果になった。

何故か、まずバーストソーサーは表面のパネルが太陽熱を吸収する仕組みとなり、先端の手鏡から熱光線を放つ。ヤスマサのパネルはこの光版だが、あくまで太陽エネルギーをバッテリーとして利用する事が本来の使い方で、背中からの光線の一斉砲撃はあくまで間に合わせにすぎなかった。

よってヤスマサからの光線は凝縮力が弱い為に、強大なパネルでの一斉攻撃による広範囲の攻撃で、戦闘用に間に合わせていた。

一方ミランのバーストソーサーから放たれた光線は戦闘用として開発され、丸いプレートにより、凝縮させたエネルギーを放つことができる。口径は低いが威力自体はヤスマサの攻撃よりもはるかに上。ちょいちょいとヤスマサの翼を焼き切ってしまい、クーガの背中にも翼のサイズは満たなかった。

「これなら……ミラージュ・サークルガード!!」

別方向から飛びこむようにしてミランが顔から突入を開始する。両肘から展開された鏡のように透き通った円盤状のシールドがヤスマサの光を悉く蒸発させていく。

「鏡次元突入! クロース・ダイビング!!」

止めにミランが腕をクロスさせて円状の楯を重ねる。そしてこのクロス・ダイビングのキーワードこそミランの鏡次元突入の開始合図だ。

まずミラージュ・サークルガードのエネルギーを逆流させることで、ミランを構成する特殊物質の作用で彼の身体が徐々に透明と化していく。この透明な身体と化した時にはミランは固体の分子構造を傷つけることなく、ミランは鏡の中に身を投じることで、これによりミランは鏡次元へ突入を完了を終える。

よって、今の彼は鏡次元と呼ばれるもう一つの空間へ突入して、並行して存在するあらゆる空間を己の分子を変化させながら行き来が可能となる。


「消えた……これが鏡次元か!?」

「馬鹿め! そのような事をしても俺を止める事は出来ないんだよ!鏡次元ビーム!!」

クーガは大慌てして背中に装着されたヤスマサを切除した。だがミランの額のエンブレムからは銀色の光線が放たれる。今の彼にはミランの姿を目視する事が出来ない、レーダーにも視覚からも目視する事が出来ず、何処からかわからない攻撃を何とかして避けては、受け止めてはと勘に基づいた行動をしなければいけない。


「どこへいった! ミラン!!」

クーガが叫ぶ間にミランは何処かへ行き来しているだろう。彼は姿を消すだけではなく、鏡次元、いわば並行世界と並行世界の狭間に存在するような何もない空間を移動することで、障害物に接触することなく空間を自由自在に移動することが出来る。

また、その状態でミランの攻撃は並行世界をも突き抜ける特殊な能力を持つ攻撃を放つ。それらの攻撃の一つがミランの額から放たれる鏡次元ビームだ。


「ミラージュ・クロス・フラッシュ!!」

次に放たれるは胸のエンブレムから勢いよく射出される白銀の光線ミラージュ・クロス・フラッシュだ。威力では上の下がいい所の兵器で、他に強い技や武器を持つ者は多い。  

だが、空間の壁を破壊するような兵器は前代未聞。そのような兵器を持ち、誰にも知られることない空間と現実空間を往復する能力を持つサムライドが鏡面智将ことミラン・ヨドバシである。


「これが……鏡次元能力! 何処へいるのかわからない相手へ、あれほどの攻撃がどこからか分からないまま無差別に攻撃してくるのか!!」

今、クーガは鏡次元空間という前代未聞の能力を持つサムライドを相手に窮地に立たされていた。


「ふふふ……ミランどのがなかなかうまくやっているんだにね……」

その一方で1機のサムライドが戦闘機の姿としてこっそり忍びよる。それはクーガを攻撃したり、ミランを援護したりするようなサムライドではない。この戦いの中で完全に忘れ去られかけた1機のサムライドの救護である。


「おんやおんや、サクラ様。北部軍団宿将であろうとするお方が、無様な姿なんだに~」

その独特な語尾を使い、戦闘機の姿も持つサムライドはシックス他ならない。シックス・アーマーは中央底部からのマジックハンドで、両目を失った事の絶望を過ぎて意識を失ったサクラを担ぎあげて飛びあがった。

「さて、サクラ様を私の手で修理することが出来たら、私は№2確定なんだに! またミラン様の計画を遂行することが出来れば……あのお方を怒らせてはいけないんだに。一人こっそりブロッサムへ突入しちゃうんだに~」

おそらくシックスは誰からも気づかれることなく飛ぶ事に成功しただろう。重傷の主君を火事場泥棒のように持ち逃げてだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「はぁっ!!」

一方別の地点ではソルディア同士の戦いが繰り広げられ、敵の総大将を攻撃するような真似をしたら、もう一方のソルディアがこれを阻止するなどして総大将を互いが守りながら、手駒を一つずつ落とす事を行っている。

「なるほど……」

そして、ソルディアを率いるミツキはカムクワートで空中を移動するが、一方の軍を率いるトリィが彼女をしぶとく追いかける。背中の6本の雌のような羽で彼女はトンボのように空を飛び、彼女を執拗に追跡しようとしては止めない。

そしてトリィは上空をトンボのように舞うが、握られたニトロシュリンゼを直接突き刺そうと、また引き金を引こうとしてミツキを亡き者にする姿は蜂のように苛烈だ。ミツキはなんとかこの動きを避けるが、これはこれで問題がある。


「……」


それは空振りの際にも被害が大きい事だ。ニトロシュリンゼの先端から放たれたり、固形へ流し込まれたりした液体が少しの刺激でも爆発することがミツキの回避行動を鈍らせている結果だ。回避しても着弾すればその時点で爆発してしまい、ソルディアの頭に針が突き刺さってしまってもソルディアが爆発して、周囲の敵どころか味方にも被害をあたえてしまう。

「これなら私が大人しく攻撃を受ける事も悪くないかもしれないですね。死にたくはありませんが」

ミツキですら鬱陶しく、扱いに困る思わせるトリィのブライトフォーム。ここで何を考えるべきか。その答えをミツキは割り出した。


「どうです……ミツキ!私は戦闘用に生まれたサムライドではありませんが……その気になれば貴方を追い詰めることだってできます!」

「私を追い詰める必要は……貴方からすればやはり私が裏切った事でしょうか?」

「当たり前です! サムライドたる者国に忠誠を誓い、主君に己を全うすべきです!!」

「見事な忠誠ですが、その忠義に貴方の持つ全てが縛られて無理をしているようにみえます。悲しいですね、主君に恵まれなければ真面目な方は苦労をしますね」

「わ、私に同情するつもりですか! それよりサクラ様を悪く言わないでください!!」

「現実を私は言っただけです。貴方は現実を認める事が出来ないで暴れ回っているだけ。いわば暴れトリィとでも言いましょうか」

「な、なななな……!?」

この言葉は若干本心が含まれているが、ミツキの作戦である。彼女の見事な忠誠心を刺激することで冷静な判断を妨げさせようとしている。

 実際にトリィは自分の戦いが勢い付いている事を気付いた。最も勢いづいている裏で、ミツキを確かに手こずらせている事を彼女は気付かない事は、まだ彼女自身が甘かったかもしれない。


「そうですね……ここで私が冷静にならないといけないです! ソルディア!!」

トリィは手に取るシュリンゼを駆使することを敢えてやめた。それは彼女が猪突猛進でない事をアピールするつもりだったが、これは明らかにミツキの上手い誘い方に乗ってしまった事を気付いていなかった。

「ブライトショッカー!」

「……!!」

ミツキの元に医療器具を彷彿させるような吸盤とチューブの器具がトリィの背中から飛び出た。器具が彼女の肩へ絡みつくと、トリィは喜んだような表情を見せるが、彼女は全く動じない。


「私は一直線の女性ではありませんよ!!」

「ほぅ。貴方は束縛プレイがお好みでよろしいでしょうか?」

「なっ……!?」

「トリィ、今のあなたは女そのものの格好。それでいて、同じ女性の私をこのようなプレイで攻めるとは、サクラに仕えていた影響でしょうか?」

「ななな……私、百合属性までは持っていないですよ!!」

「ひっかかりましたね」

この会話もミツキの作戦の一つだ。純粋だった性格ゆえにトリィは騙されてしまうもので、一時動揺していた隙に彼女は片手に握ったキキョウで軽々とチューブを切断してしまう。


「ほら、確かこの技は相手を絡みつけて電撃で攻撃する技……勿体ないですね」

「う、うるさい! 貴方がそのような事を言うから!!」

「そのような事と言われても私は知りません。これは戦いですからルール無用の時間無制限一本勝負の方針でいかせてもらうだけです」

「ななな……」

ミツキはトリィの顔を見て微かにニヤッと笑わせる。しかし、


「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「一斉攻撃ですか……」

次の瞬間、トリィは背中の6枚の羽根を次々と両手に切り離して、メスのように彼女の手からは次々と投げられる。

「これで……」

ミツキはキキョウで飛ばされた羽根でもあるメスを叩いて落とす。しかし、地上へ落下していく間に、彼女は右手に握られたニトロシュリンゼを全力で射出して液状の爆薬を一直線へ飛ばす。

「まずいですね……」

ミツキの種皮が次々と自分の身体を覆う。シード・ディフェクションにより薄いピンク色の種と化した彼女は、強烈な液体の吹きかけ、微かな振動に反応して発生する爆発にひたすらミツキは耐える事を選ぶ。

これがトリィの最後の大攻勢か。彼女は猛攻へ耐えきりトリィが無防備の時こそ絶好の機会と見て今は耐える事を選ぶ。だが、


「それはどうでしょう!」

しかし、トリィの次の行動はミツキをも想像を絶する事態だ。彼女はシスターの様な修道服を纏い、ミツキの前に姿を現した。シード・ディフェクションの種皮の中に、ミツキとの至近距離に彼女は存在しているのだ。

「何……!>」

ミツキが声を出す暇もなく、トリィが握られた十字架の様な兵器の先端にミツキの右腹が突き刺された。なぜこのような事態が発生したか。ここで説明せねばなるまい。

まず、トリィが一斉攻撃を仕掛け、ミツキがシード・ディフェクションで身を守り、視界を遮られた時に彼女はリーフェストへ潜入した。

リーフェストこそトリィの最大の力でもあるライドマシーンだ。状況に応じた6種類のフォームへ我が身を変えて、またリーフェストから一定範囲内までワープによる移動が可能の優れ物。リーフェストの機能を活かしてトリィはこの種皮の中にもワープ機能で入り込む事が答えだ。


「シード・ディフェクション……破れたり!」

「まさか、種の中に入り込む真似をするとは……想像もつきませんでした」

この時ばかりはミツキは誤算をしたと認めざるを得なかった。すぐにシード・ディフェクションを解放させようとしたが、トリィはその事まで計算をしていたか、真後ろへ向きながら。背中に装備された蝋燭の1本をディフェクションの結合箇所へ、はんだ付けのようにしてくくりつけてしまった。これによりミツキは自動にシード・ディフェクション状態を解く事が出来ない。


「私はミツキ・アケチ。貴方に憧れていた時期がありました。貴方のような強い女性になりたかった事が私の願望です!」

「その結果が私のシード・ディフェクションを破ったかと」

「それだけではありません。貴方がサクラ様を裏切ったからこの様な事態になったのです!!」

「まだ私を裏切り者というのですか……貴方もしぶといですね」

「当たり前です!」

「そうですか。さて、貴方を黙らせないといけませんね。貴方の感情めいた説教を聞く事に飽きてきましたから」

トリィは内心、優位に立ったと考えていた。忠義に厚い自分こそ勝利を手にすることが相応しい。しかし、ミツキには忠義の是非で括られない意志を抱いている。その意志の強さを思い知らせてやると大技を賭けることに決めた。


「トリィ、あなたは忠義忠義と言いますし、貴方の忠義は見事なものですが、自分の考えを人に押し付ける事はやめてください」

「押しつけですって……押しつけではないです!何かに忠義を尽くす事は当たり前の事です!!」

「そうですか。ですが忠義云々よりも私にはやらなくてはならない大義があるのです」

「大義ですか!?」

ミツキはシード・ディフェクションに覆われながら、トリィを道連れにして飛んだ。標的はソルディアの群。視界が遮られた中で辛うじて自軍のソルディアをなるべく引き離すように命令を送る。だが、暫く飛んでからミツキは真下へと落下を開始していった。


「私は大義を為す為に主君を選ぶ権利があります。大義を果たすには全く相応しくないと私はサクラを見切っただけの話です」

「貴方の大義にサクラ様が……何をするつもりですか!」

「このカムクワートを破ることはないと思いましたが……止むをえません」

ミツキの言った止むをえませんとは自分が地面へ向けて急降下を開始することを指す。この状態、シード・ディフェクション状態からは量産型兵器の機能を停止させるスモークパウダーが吹きかけられ、足元のソルディアが動きを停止する。


「サークルフレア!!」

「な、何だって……きゃぁっ!!」

次の瞬間、シード・ディフェクションが激しく砕け散って残骸が飛んだ。無力化させた相手の上から、シード・ディフェクション状態で激しく地面にたたきつける技がこのサークルフレアである。シード・ディフェクションを破壊してしまう技ゆえに、ミツキはこの必殺技を放つ事を自重していたが、状況が状況故に止むをえなかった。


「なんとかここから逃れる事が出来ましたが……」

ミツキは次の行動を考えた。あくまで自分は優位に立った訳ではない。予期せぬ拘束から逃れただけにすぎないのだ。しかし、トリィのクロスシンフォニーがミツキの腹を貫き、彼女の右腹からは血のような液体が地面をぽとりぽとりと濡らす。今のミツキは動くごとが出来ない。しかしトリィはいまだ健在。


「こうなれば……心理的勝利を選ぶのみです」


右腹を抑えながらミツキはある存在を見つけた。これに自分は全てを賭けなくてはならない。一方地面にたたきつけられて暫く意識を失っていたトリィが意識を戻した。

この状況でとどめを刺す事は容易だったが、ミツキには決して相手の命を奪うような真似はしないルールがあるようで、その手は使えない。また今の状況ではまともに殺ることも出来ない。

「私はまだ大丈夫です……私が支えるサクラ様の為を考えればこのダメージなど……」

「来ましたか……潔く決めます」

「望む所です!!」

建物の影からミツキが飛んだ。今が彼女の全速力。間近にいたが突然の登場にトリィは多少焦ったが、本体を狙ってしまえばいい。クロスシンフォニーが再度ストレートにミツキの身体を貫こうとした……だが、


「やわらか……!?」

トリィは一瞬自分の行いが信じる事が出来ない。貫いたはずの兵器には生物のような内臓が垂れながら地面へバウンドをして落ちていき、外面を見てしまえば頭が吹き飛び、身体の一部がちぎれた残酷な肉塊だ。

「ま、ままま……まさか!!」

「そうするしか貴方を倒す方法はありませんでした。私は大義を果たす為には犠牲を止むをえないサムライドですから」

「く……くろ!!」

この先トリィはミツキに対し黒いと叫ぶつもりだった。しかし気が付けばミツキが背中からゼラニウムブレードで彼女の胸を、中心からやや右にずれてはいるが導体を貫いた事には変わりはない。


「ええ。私に黒い一面がある事は自覚していますよ。あの男と一緒にしたくはありませんが、貴方のような純粋な相手に勝つためには手段を選びませんから」

「……そ、そんな……」

「あとですね、その人に止めを刺したのはトリィ、貴方ですよ?」

「ええ……!?」

「はい、少し楯になってもらおうと、逃げ遅れた人を軽く動けないようにしまして、丁度盾代わりに使おうと思っていたのですよ。貴方にもう少しテクニックがあれば殺されることはありませんでしたよ?」

「そ、そんな……私がこんな殺戮を……」

余程トリィが受けた衝撃が大きかったのだろう。胸を貫けられた痛みよりも、心の傷が彼女には大きい。正常に意識を保つ事が無理になってしまい、トリィはその場で崩れ落ちるように倒れてしまった。


「多少見くびったようです。ですがこうでもしないと貴方を退ける事は出来ないと私は考えましたので、正直望まない方法で片づけました」

ここで説明をせねばなるまい。先程の楯として活用された人間はサクラが、先程踏み殺した人質である。

人質を盾として利用し、より効果的に相手の心へダメージを与える為に瞬時に飛び出すことで冷静な判断をさせない、そして貫いてしまった際の衝撃をさらに刺激させる為にミツキは如何にも相手をその気にさせてしまうことで、不意を突く事に成功したのだ。


「さて……」

バッタリ倒れてしまったトリィにミツキが一歩一歩近づく。それは彼女を仕留める為ではない。胸のコードを入力させて、圧縮されて収納されたソウルシュラウドを隣に展開させて、彼女を担ぎあげた。

「わ、私に……何のつもりですか!」

「ごめんなさい。貴方のプライドを傷つけるつもりはありませんが、私はあなたを殺す事はもってのほか、その傷がもとで貴方が死亡してしまえば私の立場がありません」

「な、何故だ……何故ですかぁ……」

「……」

トリィの目元に涙が見えた。ミツキは彼女がなぜ涙で頬を濡らしたか理由を読んだ。忠義の為に戦う事はいいとしても自分の実力がそこまで及ばない事。そして恨むべき反逆者である自分にやられては、また助けられようとしている事の屈辱からだろう。


「ごめんなさい……今は、あなたにも、いえ誰にも私の事情は言えません」

「う……」

腰から取り出されたフレグランス・スプレーガンは相手の機能をマヒさせる能力を持つ。サムライドまでには効果はないように見えるが、致命傷を負った彼女には効果があったようで、意識を失い、首を横に振った。彼女が気絶した後、ミツキはポツリとつぶやいて開けた棺に彼女を収納した。


「……忠義ですか。私も一度は忠義も悪くはないと考えました。最もあの件が起こり国を抜けた私に忠義を貫くなどナンセンスです」

ミツキは決してトリィを馬鹿にしている訳ではない。時には彼女のようなサムライドが羨ましく思え、また哀愁をも感じた。

「トリィは自分を卑下して、サクラに忠誠を誓う事に必死になりすぎてしまい本来の自分を探せない……可哀そうな方です」

もし、トリィが忠義に自分を縛られていると思わなければ、ひょっとしたら彼女が時運の元へ就いていてもおかしくはないと思った。彼女は悲しい存在だ。忠義に報いることでしか自分を見つける事が出来ないと……。


「さて、私もまんざらここで死ぬ訳にはいきません」

そして、ミツキは簡易住宅へ身を隠し、右腰に用意された簡易な工具で自分の傷をいやそうとする。本来ならば自分がどちらかの戦局へ加勢して、勝利を確固たるものにしなければならないが……そこまで自分が果たせない事が彼女の誤算だったかもしれない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ミツキとトリィの戦いはミツキが辛勝し、クーガは想定外のミランへ苦戦を強いられる。1勝はしたも、まだ戦況が優勢ではない。あと1つの戦い、シンとスネーク。師弟の戦いには、今は倒すべき目的の駆除と、姉弟子の敵を撃つ理由が存在していた。


「シン、あの時はお前を倒せると思ったが、ミランの腰巾着のアクシデントもありお前を倒し損ねた! この世界では獅子搏兎という言葉があるようでな……」

「ししはくと?」

スネークが口にした四字熟語に、シンは真顔で首をかしげてしまった。この手の知識に関して彼は色々乏しいので仕方がないかもしれないが。


「獅子は兎を駆るにも全力を持って行う! この言葉の意味が分からないお前など兎同然かそれ以下だ!!」

「兎同然とは舐めやがって! にゃろう……兎どころか獅子のお前以上であることを見せてやらぁ!!」

本来の無知な性格を足され、弱者とスネークから呼ばれ馬鹿にされるシンがこらえる訳がない。意地でも彼に前言撤回させる実力を見せてやる。シンはバタフライザーを付近へ読んで飛びあがった。


「目には目を歯には歯をというなら、ライドアーマーにはライドアーマーだ! バタフライザーライド・クロス!!」

瞬時にバタフライザーからはライドアーマーを構成する6つのパーツが飛ぶ。真後ろへシンが高く飛ぼうとしたが

「……!!」


しかし、自分の視界に何十本もののワイヤーがパーツに巻き付き、電撃を流してはパーツへのダメージを与えていく。そのワイヤーの先には地上のスネークが存在する。この攻撃か。

「シン! だからお前は馬鹿だ!!」

「何だと!?」

スネークはまた彼を無知呼ばわりする。ネプチューン・チェダーイン形態と化したスネークの新武装の一つが彼のアーマーから幾多も展開されるハイドロフィナイヤーだ。

1本1本を目視することが非常に困難な細さのワイヤーが何十本も放たれ、絡みついては一斉に電撃を放つ能力を持っている。

「必殺技とか、合体とかいう見せ場は時間に隙があるものよ……必殺技破りに続き、ライド・クロス破りよ」

「ライド・クロスの隙を狙っちまえ…お約束を破ったわけか……」


バタフライザーの各パーツからは煙があがり、ワイヤーが外れると力を失ったかのように地面へ落ちていき、シンが地面へ落とされようとしていく。

「戦いは威力ではない。一瞬の隙をも突いてしまう早さで勝ってしまえばいいものよ!!」

スネークの胸が、骸骨のような顔が赤く光り、大きく開いた口がプラズマを発生させ、球体のような赤い球を形成した。


「デッドボールで貫通してしまえばいい……この魔球ブレイザーボールでな!!」

次にアーマーデ装着された右腕に光が纏われ、スネーク・ウィップが右手に合体して、独りで球体の核に巻きつく。そして、光の球はスネークの右手へ引き寄せられてはシンへと放たれた。だが、


「馬鹿はお前だ! バッターのいない野球はキャッチボール!! そんなキャッチボールに魔球を投げられてたまるか!!」

空中へ着地するまでのシンは無防備だ。だが、彼は慌てることなくストラングルチェーンで周囲に飛び散ったパーツを回収させてグローブの役目を果たすかのようにパーツが集結した。

「こいつで受け止められるか!?」

ピッチャーに対してキャッチャーのシンは周囲のパーツや残骸をストラングルチェーンの力で纏めたシールドを作って受け止めることにしたが、どうやらボールの威力の方が強力である。この先の展開を予想したシンは、自分のチェーンを背中からのダイヤモンド・クロスですっぱり切断して、グローブの貫通の巻き添えを食らう事を防いだ。


「あんなボールを投げられてキャッチボールなんてできねぇ……」

「誰がキャッチボールと言った!!」

この時シンはまたも予期せぬ事態を見た。スネークは背中からのトマホークを両手にして、なんとトマホークで彼の両手を切り裂き、また頭部の装飾がシンの胸を突き刺すかのようなヘッドスライディングを決めた為、彼は廃墟の壁にたたきつけられてしまったのだ。

「これは野球だ……点でなく命のスコアを取り合う野球だがな!!」

「なるほどね。これはヘッドスライディングだという訳か……」

スネークが頭をシンの身体から引き離せば、彼が力なく地面へ背中を叩きつけられてしまう。彼の目の前にはスネークが構え、彼を逃がす事を防ぐようにハイドロフィライヤーが身体に巻き付き始めた。

「ぐあああああああああっ!!」

「さぁて、このままいけば試合は俺の勝ちだ。この勢いでお前を殺してやるわ!」

シンは今電撃の前に苦しんでしまう。それはスネーク・ウィップのよりも強力かつ逃げ延びる事は出来ない威力。その状態でスネークが感電する彼を掴みあげようとするが、感電することなくその右腕はシンを掴みあげて、自慢のギロチンが彼の頬を掻っ切った。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!

そして、強大な腕力がシンを地面へと叩きつけ、ハイドロフィナイヤーが彼の身体へ巻きつく。特に両肩への接合部を直接突き刺された際にはデリケートな部分を貫かれたのか強烈な痛みを感じ、自分の歯を喰いしばって耐える。

「惨めだな……両手がないままとはな。安心しろ、俺がお前を成仏させてやるわ!残りのエネルギーを全開させてな!!」

「何をこしゃああああああああああ!!」


スネークのライドアーマーからは電撃が走り、景色によって目視が困難なワイヤーを伝ってシンの体へ激しい刺激を与える。激しい刺激を与えられ、特に内部への攻撃は耐える事が出来ない……意識が薄れていく。痛みの前に自分が引き裂かれていく。彼の両目が徐々に薄れては本能が自分の最期を告げようとする。


「ふふふ……ははは……これでシンキ・ヨーストも死へ追いやる事が出来る……!!」

「させるかっ!!」

「何っ……!?」


その時一瞬の風がワイヤーを次々と書き切った。その風はすぐにスネークの背中へ回り込んでは、3本のワイヤーがスネークの首に巻きついては彼の自慢だった電撃攻めをやり返されてしまう。

「な、なんだ……ってあの技を使う奴は!?」

「そうだよシン!」

後ろにはサイが立った。先程避難民を無事に逃がした彼が再び戦場に戻った彼だ。自分を操る存在はもういない。避難民を救う事だけではシンの役には立たない。ここからがサイなりのシンの恩返しだ。


「遅くなってごめんシン! それより予備の腕を!!」

「わーった! シューティング・アームセット!!」

外装が破壊されて搭載されたパーツがむき出しとなったバタフライザーからはアームが2本飛んだ。飛ぶアームが胴体に装着されると腕が激しく回転しながら腕がセットされる。

「き、貴様! 余計な真似を!!」

「シンが僕に言ったんだ。僕の痛みはシンの痛みだってね……だからスネーク、大陸時代から変わりはないけど、シンの敵は僕の敵でもあるってここで言わせてもらうよ!!」

「にゃろう……」

「シンを倒すつもりなら僕を倒す事も忘れないでほしいね! それに勝つためなら何でもやっていいと貴方が言ったじゃないか!!」

「サイ……お前ってやつは」

「シン、僕はもう縛られないよ! シンのテクニックに僕のスピードが揃えば敵はないはずだってね!!」

「当たり前だぜ……!!」

シンとサイ。戦友同士が同じ敵を前に再び手を取り合った。だが、2人が真上を見ればバルサンダーが自分を獲物にせんと迫る。


「ここは2対2にするつもりか……だがな、俺達たかがマシーン1機にやられるサムライドじゃねぇ!!」

バルサンダーが自分の腕を掴んで飛びかかろうとしている。しかし今のシンはサイという心強い仲間が共にいる。自分にとっては黄金時代を彷彿させるシチュエーションだ。民衆を救うために、またシンとの約束を守る為に自分を捨てる事も躊躇わないサイがいるからだ。


「てやぁぁぁぁっ!!」

放ったストラングルチェーンがバルサンダーの背中に突き刺さり、チェーンを収納する勢いでシンがバルサンダーの背中に飛び乗った。彼の反応に気付いたのか、バルサンダーは激しく身を動かせてシンを引き離そうとするが、ここで落ちる事は絶対に許されない。シンは友の為に全力で外装にしがみついては離れない。


「背中に武器がないようだな……どっかで聞いた事がある話だけど、こういう戦艦のようなライドマシーンは自分を攻撃する事が出来ないんだよな……」

昔聞いた事がある言葉を脳裏に浮かべながらシンはバルサンダーを山頂に登るようにして上り詰めていく。


「させるかぁっ!!」

一方地上ではスネークのギロチンカットがサイへ迫る。しかし、サイには砕拳フィストが備わっている。拳同士がぶつかり合う際はスネークが優勢だが、拳を振動させることで彼と互角に渡り合う。

「拳同士の戦いではサイズの勝負じゃないよ!!」

「小僧、言わせておけば!」

もう一方の拳でスネーク・ウィップが振るわれる。しかし、もう一つの拳がデルタートルを手放してはすぐに冷拳フィストへ換装させてう、腕をひねりながらスネーク・ウィップの先端へ拳を振った。

「スネーク・ウィップが凍結しただと!?」

「これが僕のスクリューイーグルの威力さ!!」

サイは一度手を離しては、次にデルタートルを再度持ち込みスネークの首を仕留めようとする。

「スネーク、これ以上動いたら……首を取らせてもらうよ!」

「小僧め……」


サイはスネークの動きを必死で止めようと粘る。この粘りを上空のシンからは見え、彼の本心が何となくわかった気がするのだ。

「サイの奴……!!」

本心を読んだシンの行動は素早い。トライマグナムでバルサンダーの背中を攻撃しながら、登山の要領で頭部まで上り詰めたシンが立ち上がる。

「にゃろう! でかい図体をしているだけで暴れやがって!!」

「グラァァァァァァァッ!!」

シンが両腕のストラングルチェーンをぐるぐるに巻きつけて、バルサンダーの両目に該当する部分を縛り付ける。それだけではなくトライマグナムを可能な限り打ち込みバルサンダーの動きを止めようとしていたのだ。


「暴れ馬を調教するのとは違ってね、どうせこいつを仲間にするつもりはないから殺してしまってもいいからね!!」

これから答えが分かる。サイはスネークの行動を足場で止めることで、自分に止めを刺せと言っているようなものだ。さらに自分がたまたまバルサンダーを迎撃する為の行動が、スネークへ隙を作る事を防ぐことに成功した気がしたのだ。

「なるほどね、ここからならブレイズバスターの隙がない。しっかり当てる事が出来れば大丈夫だ!」

不安定な足場で起ちながらブレイズバスターをセットする。標的はスネークのみ。彼が豆粒のようにしか見えない中で、標準を合わせなくてはならない。針の穴に糸を通すかのような慎重さが強要される戦いだ。

「ええい! 一か八かだ!!」

一か八かにかけてシンの右腕が火を噴いた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ぐわぁあ!!」

「やった!!」

スネークの右肩から一直線にブレイズバスターが射抜いた。サイの足止めがシンの隙を補う事となったのだ。

「スネーク、もう同じ手はくわな……うわっ!!」

その時バルサンダーが暴れ出し、前足でストラングルチェーンが切られた。そして、体を横にねじることで、シンが落とされてしまったのだ。

「シン!!」

サイの緊張の糸が切れたかは知らない。慌てて飛び立ち、落下してしまうシンを救出しようと彼は飛び立つ。その速度は素早く、落下したシンを上空で受け止めることに成功した。


「た、助かったぜ!」

「大丈夫かいシン! それよりも……」

上空でシンをキャッチしたサイは、スネークがバルサンダーによって撤退を開始してしまっていた。


「馬鹿め……隙を作る事を防いでも、止めを刺し損ねたら意味はないわ!」

「にゃろう……!!」

「どうやら、そういう訳にもいかないようです」

「何っ! スネークを追う事が出来るはずだろ!!」

「相手を攻めることくらい簡単にできます。ですが、クーガさんが窮地に追いやられているのです」

「クーガが……だと」

「はい。本来なら私が退けるべきですが、よりによって深手を負ってしまいまして」

「それで俺にお鉢が回ってきたわけか!」

「はい。サムライドの数では相手の方が圧倒的に有利。相手を減らす事よりも、こちらの駒を減らさない方が戦いにおいては重要です」


これからバルサンダーで撤退するスネークを追おうとしたシンだが、ミツキからの通信で追撃を断念せざるを得ない事情が出来た。折角のチャンスだっただけにシンは少し不機嫌な表情で指を鳴らす。

「なるほどね……ちっ」

「仕方ないよ。それよりクーガを救わないと……」

シンは舌を打つ。だがサイの言う事もある。彼はサイのデルタートルをリフター代わりとして、空中へ飛んだ。


「シンさん、サイさん。クーガさんが戦う敵ミランには鏡次元と言う誰にも視覚でとらえる事が出来ない空間へ隠れて攻撃を行う能力があります」

「空間から隠れる能力!?」

「はい。以前戦ったアサヒナーとは違いまして攻撃の際にも姿を見せず、またフレームなどの外部パーツで破壊してその能力を封じる事も出来ない相手です」

「弱点がない相手の訳か……」

「いえ、弱点が一つだけあります。その能力を継続して使用するには、5分までが限度」

「なるほど!」

ミランの鏡次元能力の弱点が、5分間との制限時間だ。5分を過ぎた時こそミランは劣勢の状況へ追いやられてしまうのである。


「そしてミランにはタイムリミット寸前にミラージュ・デストロイを仕掛けてくる可能性が大きいです」

「ミラージュ・デストロイ?」

「はい。ミランの必殺技でして、自分のエネルギーの全てを相手へ叩きつけるために、鏡次元の空間を突き破り突撃を決める技の事です」

「その時が決め手と言うわけか……けど姿形も見えないんじゃ」

「いや待ってシン!!何か周囲に蔓延しているよ!!」

「何だって!?」

更に奇跡が起こった。サイが何かを感じろうとしている。シンはひょっとしたらに期待を掛けて顔を彼へ向ける。


「シン、僕のレーダーは並みのサムライドより強力な精度なのはシンも知っているよね?」「あぁ。お前のウリであるスピードを活かす為に目的地や障害物をより遠くより正確に認     

知するためのカネーガサーチャーの存在だろう?」

「うん。それで僕のレーダーにはクーガさんと思えるサムライドの周りに何点かのエネルギー反応が……あ!また反応があった!!」

「どのようにだ! どんなふうに反応している!?」

「僕のレーダーでは一直線へクーガさんを撃つと、そのエネルギー反応がなかなか消えないんだ……」

「多分……それです。シンさん、サイさん」

 その5分が経とうとしている。ミランの鏡次元のエネルギーがクーガを砕かんとするまで、残り時間はあと僅かである。


「よほど高度に凝縮されたエネルギーを放つわけか……それなら、そのミランとかがどこへ行くことが分かるかもしれないな! サイ!!」

「うん! シン、全速力で突っ込むよ……!!」

シンを引っ張ってサイは飛ぶ。目的はミラン。北部軍団最後の刺客を倒す為に彼は急いだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


(へへへ。俺の計画はもう一歩でチェックメイトだ)

鏡次元を往復しながらミランはクーガを確実に攻撃のダメージを与えていく。この3人の相手においてミランのみが一人粘り続けた。

(俺の目的はサイを片づけることよ、サクラのブロッサム・テンポーションを奪ってしまえば、サイが俺の仲間に加わる事もないし、カゲターカーとかいう俺のポジションを狙うやつの目論見も防いだ訳だ!あとはこいつを片づけてしまえば俺の№2は不動のポジションだ!!)


「まずいな……相手が全くレーダーに反応しなければ、どこへいるんだ……」

「さて、もうエネルギーが持たないからな……決めるぜ!!」

その時、ミランの額が光った。額が光る時、鏡次元空間は横から収束を開始する。この時、ミランの目の前には一直線のレールが敷かれている。

これが必殺技ミラージュ・デストロイの全容である。鏡次元のエネルギーを額から吸収して本人のエネルギーへと変換させていき、そのエネルギーを付加した事でミランは通常以上の全速力で突っ切る事が出来る。この勢いを出しながら目の前の京次元空間を吸収しながら、膜を突き破る事で現実の世界へ飛び出す技である。


「死ねぇクーガ! この俺のミラージュ・デストロイでな!!」

「ミラージュ・デストロイだと!?」

ミランが瞬時に姿を現し、この勢いで彼が激突を開始しようとする。だが、


「させるかぁっ!」

「何だ……ぐああああっ!!」

しかしクーガは九死に一生を得た。鏡次元空間から特攻を開始したミランには、真上が殆ど見えていなかった。その上空から急速な勢いでサイが飛ぶ。シンを抱えながら伊豆直利の要領で落ちていくサイとシンのダブルパンチが真上から雷を落とすように唸る。

不意打ちで打たれたミランだが、彼に周辺には幾多のエネルギーが地上で激しく抉られたように放射円状に地面の穴が広がっていた。

「……な、ななな! どうしてだ……ぐあっ!!」

「これで止めだ!!」

不意の事態から立ち上がろうとするミランの胸から背中にかけてブレイズバスターが撃ち抜かれてしまう。背中を抑えたままミランが再びうつ伏せに倒れてた。

「どうだ! これでお前も止めをさせる……」

「シン……お前」

「言っておくが俺よりサイのお陰だぜ……後で詫びろよ!」

「……分かっている」

ブレイズバスターを片手にシンがクーガをちらっと見る。クーガは彼なりに申し訳ない表情を見せてはいた。

だが、この一瞬の気の緩みが、絶好のチャンスを逃してしまうとは、彼はきづかなかっただろう。


「これでとどめを……おわっ!?」

「ミラン様乗るんだに!!」

「運はまだ俺を見捨てていねぇ……!!」

シンやクーガを上空から風圧で押しつけるようにブロッサムが激しく飛んだ。急降下して叩きつけるブロッサムはミランをワイヤーで回収して、彼を収納した途端に空中へブロッサムは逃れていく。この際激しい風に打たれてシンとクーガは動けないが、一人動く事が出来る人物がいた。


「させないよ……うわぁ!!」

一人勢いよく飛ぶブロッサムの追撃を試みたサムライドがいた。サイだ。彼は自分の翼でブロッサムとほぼ互角の速度で追撃をしようとするが、ブロッサムの後ろから激しい衝撃が襲い掛かり、サイが地面へとへなへなと墜落をしてしまう。

「大丈夫かサイ!!」

「だ、大丈夫……翼がやられただけで僕は無事だ」

「だが、逃げられたぞ……」

 

サイを気遣うシンには北部軍団の面々を追い払った事もあり自然と気分が勢い付いていた。だがクーガは2人へ指摘を忘れない。他の面々を片づけても、結局彼らは逃れてしまった事だ。

「ごめんシン、クーガさん。あのブロッサムを追撃する事が出来たはずなのに……」

「気にするな。俺達があのブロッサムの存在を知らなかっただけじゃないか!」

「シン、お前は相変わらず軽いな……」

「いや、クーガさん現状ではこれが最大限の勝利ではないでしょうか?」

「「ミツキ!!」」

最後のブロッサムの撤退を良しとするか否とするかで2人の意見が分かれようとした時、ミツキは負傷した右腹を抑えながらすたすたと現れた。


「ミツキ……お前大丈夫か」

「ええ。応急処理を済ませましたので、ソウルシュラウドで修復すれば特に問題はありません」

ミツキの腹には、白の包帯らしきカバーに巻きつけられており、彼女が度々腹を抑える所から傷は癒えていないようである。


「それより北部軍団の本拠地は、あくまで全てではありません」

「全てではない?」

「よくわからないけど、どういう意味だミツキ!」

「はい。北部軍団は北陸を拠点としていまして、石川県は他勢力と隣接していない事から、後方支援の役割。たとえ本拠を退けさせても、石川へ撤退して立て直しを図っただけにすぎません」

「なるほど……今の俺達では北部軍団をまだ片づけられないことか」

「はい。総兵力をあげれば私達は片づけられてしまいます。ですが、第三勢力と4軍団は隣接していますので、無暗に兵力を費やす事は自分の首を絞めることになります」

「そうか。あれが可能な限りの最大の力なのか」

「はい。今の私達にできる事は、この相手側の最大限の攻勢を何度も退ける力を持ちながら、相手を巻き返すだけの力を蓄える事です」

ミツキは淡々と3人に事実を告げる。この戦いで勝利しても、敵はまだそれ以上の兵力を抱えている。彼らと三光同盟の力の差はまだ大きい。


「そうか。俺がここまで勝利しても敵はまだまだということか」

「いーやクーガ! 俺は違うと思うけどね!!」

「何!?」

「サイ、お前のことだぜ!」

「え、ええ!?僕……?」

「お陰で俺達に心強い仲間が加わったし、今回の戦いで勝てたはずだ!!」

「ええ!?」

シンから突然話がサイへ振られて、振られたサイは正直戸惑ってしまう。だが、


「認めたくはないが、確かにお前を操る存在がなくなり、お前に命を助けられた事もある」

「そうですね。サイさんがその気なら、私達の強い味方になる事は言うまでもありません……」

「そ、それじゃあ……」

 シンの楽観的な表情にクーガは軽くあきれながらも、サイが活躍した事実を認めることにした。ミツキも淡々としながらも彼を迎え入れるような発言をした。2人が認めてくれた時サイは居場所を得る。次の瞬間が答えだ。


「あぁサイ! お前は俺達の仲間に変わりねぇ!!」

「シン……」

シンの相変わらずの言葉に、クーガとミツキが自分の居場所を認めてくれた事がサイは嬉しかった。だからサイは力が尽きたように安ど感に満ちた表情を見せて、シンの元へバッタリと前のめりに倒れかかる。これを抱えるシンは一瞬戸惑った者の、サイが寝息を立てている事が何よりうれしく、彼もまた後ろへぐったりと倒れることにした。


「俺も無茶しすぎたかなぁもうへとへとなんだけどなぁ……これでいいぜ!何もかも結果オーライだぜ!!」

「やれやれこいつは……」

「ですが、クーガさん。今のシンさんは何かやり遂げて輝いて見えると私は思いますが?」

「輝いて見える?」

一つの戦いが終わりを告げた時、ミツキは突然不思議な事を口にした。聞く側としてクーガは今一つ分からないが


「そうです。生死を賭けた戦いを乗り越えるたびに輝いていく。私達は戦輝連合なのです」

「戦輝連合? なんだそれは」

「私達の勢力に名前がなければ今一つピンときません。そこで戦う中で輝く連合と略して戦輝連合です」

「戦機連合……?」

「この世界では同盟に連合か勝つ事が宿命のようです。縁担ぎに連合でいこうと私は考えたのです」

「いや、俺が気にしている所はそれではないが」

戦輝連合。ミツキの口から奇妙な組織名が明かされた。多分自分達の集団の名称だと思うが、それでもピンとこないようだ。

「要はあれです。この手の集団に名前が付けば、それだけ周囲が注目するはずです。これを機に私達の存在をもっと目立たせる訳です」

「そういう事か。俺には名前は興味ないからいいとして……俺達の戦いはこれからという所か」

「はい。1軍団の総攻撃を退けた今こそ本当の戦いの始まりです」

ミツキとクーガは、疲れて地面に寝息を立てるシンとサイの顔を見る。特にシンに至っては満面の笑みを見せており、完全勝利を成し遂げたかのような気分だろう。サイを仲間に加え、北部軍団を退けたシンに悔いはなし。彼ら四人を始めとするサムライド達の反三光同盟勢力として戦輝連合が結成された時でもあった。


「ここまで第1段階達成と言ったところでしょうか。最も私もまだ役目を果たしていないのでもうしばらくお付き合いする必要がありますが」



続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ