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第15幕 戦友(とも)よ燃えろ! 屈した時が負けだ!!

「サクラ様、それは本気ですか!?」

トリィの驚きから作戦は始まる。北部軍団拠点へ帰還したサクラ達2人だが、ゲンからあっさりあしらわれた事をサクラは根に持っている。

サクラがアクシデントで気を失っていたにも関わらず、意識を取り戻せば、サイの離反に気付いた事もあり、何時もの勝気な姿勢で作戦に挑む。しかし、命令ばかりのお嬢様気質の彼女が今回直々に立ち上がった事がトリィを驚かせている。


「そうですわ! 私は出撃してシンとかの田舎サムライドを倒すことに決めましたのよ!!」

「サクラ様、その気持ちは私も分かりますし、今回の行動は私は言葉で言い表せる事が出来ないほど嬉しい事ですが、いくらなんでもシン達を一斉に叩く事は時が早すぎるのではないかと思います! シンはマローン殿を倒すほどの実力者でして、そのうえあのミツキがいます!!」

「大丈夫ですわ! 私には勝算がありましてよ!!」

「勝算……ですか?」


自信全開のサクラから告げられようとしている内容に対し、トリィはなるべく喜ぶ事を心がけた。彼女の口からは世間や常識を知らないようなトンチンカンな発言が遠慮なしに飛び出してくる。

多分今回の彼女の発言はトリィを呆れさせるはずだが、自分はトリィの従者として、彼女を立てなくてはならない宿命。だからトリィは敢えて自分に自分存在意義を心に言い聞かせて彼女へ耳を傾けた。


「まず理由その一、マローンを破ったシンですが……私からすればマローン、あの殿方には華がありませんわ。早々あの殿方が退場した理由は私のように、華やかで美しくなかったからと私は考えていましてよ」

「……」

「ふふふ、御尤もな事ですから声が出ないのかしら」

「……」

ここでトリィが無言を貫く理由は、まずサクラが自信全開で告げる訳のわからない理由に口を開かざるを得なくなったから。次の無言は首を横に何度も振りたい所を、必死に首を縦に一振り振る事が精一杯だったからだ。

だが、トリィ自分を想い自分を殺す態度が、サクラへ無意識に自分が素晴らしいサムライドである事を考えさせてしまい、次の言葉が口に出た。


「続きまして理由その二、シンとやらは私のように教養のない、野蛮なお方。あのような獣しか言えない方には、私は教養の差で圧倒的な差を付けていますわ」

「そ、そうですか……」

 外見から教養深い方はサクラへ軍配が挙がるだろう。しかし、肝心の中身は残念ながら外見についてくる事はできない。最もシンが凄い訳ではない。シンも教養を熟知したかと聞かれれば程遠い人物。彼女が彼をそのように認識している点だけサクラが有利か、いや、シン「も」ではなくシン「が」と誤認している所は気付かないと思うが。


「そうですわ! 私に釣り合う殿方はケイ様しかいませんわ!! ケイ様の高貴なお姿に、悲壮なまでに志を貫こうとする気高い心を持つ素敵な殿方♪ そのような殿方と私が手を取り合う事は運命でしてよ♪」

「は、はぁ。サクラ様、ケイ様を思う心は察しますが、シンはともかくミツキの存在を考えてください」

「ミツキ……それがどうしましたの?」

ミツキの名前を聞けば暫くサクラは思考を停止してから、赤の他人のように振舞うが、トリィが色々複雑な視線を突き刺しながら吐息をつく。


「サクラ様。ミツキ・アケチはミノ国からエチゼン国へ鞍替えしてサクラ様に仕えていたサムライドですよ……」

「……」

「突然サクラ様から離反して、この世界で私達の敵に寝返ったミツキを、私は評価したくありませんが、ミツキは頭脳、統率、戦術においてトップクラスのサムライド。私はよく知りませんが、シンは余り賢くないようなので、そんな彼を頭で支えている存在が、あのミツキではないかと私は思いますが……」

「あ、そ、そうでしたね……ですが大丈夫ですわ!」

「また、何かあるのですか……」

サクラが抱える三度目の勝算はやはり馬鹿なものだろうか。トリィは彼女のへっぽこな意見を肯定する事も表情から既に疲れているに違いない。


「理由その三! それはサクラ様の器量を見極められずに敵に就く愚かな真似をした女だからだ!!」

「その声は……」

トリィが振り向けば、彼女の隣に金髪をなびかせてミランが現れる。鏡次元を操る彼はその気になればあらゆる場所へ姿を見せるいわば神出鬼没が相応しい男だ。

「そうですわよね~私が分からない、まして私が知らないような女に私達が負ける訳がありませんわよ~」

「その通りですサクラ様! あの女などサクラ様に叶わない故に組織を抜けた、ただの女!!」

「ミラン……あの女は、ミツキはその……」

「トリィは元々戦闘用ではないからな!」

「そ、それとこれとは……」

「今こそ、サクラ様が動かねばならない時!! 私としてもサクラ様が起つ事は望ましい事です!!」

 トリィの反論を無視しては、サクラへ意見を相変わらず送るミランだが、その意見は何処かいつもの彼とは違う。何故なら、サクラの寵愛を受けるように、彼女自身を面倒な目に合わせないように進言して、自分が、または部下に命じて業務を行う。これによりサクラの要求が満たされ、ミランへの寵愛が深まる循環が成り立つ。

この関係により、一見サクラの忠臣のように見えるミランだが、トリィからすれば、サクラ自身が動く事が彼女の為になり、トリィ本人も願っている事。だから、彼女が動かないまま、自身の手足のような役割を果たすミランが危険な存在のように思えて仕方がなかった。


そして今回。ミランが、サクラ自ら動く事を肯定する姿は今まで彼女が一度も見ていない姿だ。

「サクラ様、今回の件でサイの奴がブロッサム・テンポーションから逃れてしまいました」

「ミラン……そ、それは……」

「いえ、完璧な存在もあれば、そうでない存在もあります。私が調べたデータによりますと、サクラ様のブロッサム・テンポーションはサクラ様が脳波で対象を操りますが、脳波を共有しますから、どちらかの脳波が乱れると自然と対象が制御におけなくなります」

「悔しい事ですけど、この弱点は認めないといけませんわね。あの時私の意識がもう何を考えているかわからなくて……」

「仕方がないです。サクラ様はサムライドを操る他のサムライドにはない優れた能力を持ちますが、この優れた能力は時に脆い所があります。ですが、その気になればサクラ様がサイを手駒にすることは可能です」

「ミラン……どういうことですか?」

「やれやれ、私は隣の者に説明する気はさらさらありませんが、サクラ様の為にも説明をしなくてはいけないでしょう」

トリィへ嫌味を言うようにしつつ、サクラに侮蔑の感情が気づかれないように猫を被るように丁寧な口調で作戦をミランが告げた。


「私達に対抗する敵はシン、ミツキ、クーガ、そしてサイの4機。サクラ様の力でこの中の1機でも操る事が出来れば戦局は俄然と有利になります」

「確かに……ミラン、何故サイを狙う必要がありますか?」

「戦いは時に心理戦に持ち込むもの。最初の時はサクラ様がサイを覚醒させて、意識がはっきりしない所で洗脳したことで、サイが状況を把握する前にサクラ様の手に落ちたからです」

「今回は状況が違いますミラン。だから……」

「同じ手は使えない。だから相手の性格を逆手に取った作戦でサイの心に隙を作るべきです。あの女は何を考えているかわからない、私には分かりませんがシンもクーガも性格からすれば心理戦で挑むには難しいタイプ。消去法でいけば人一倍繊細なあの男が一番落としやすいからです」

「なるほどね……確かにあの子は繊細な子だわ」

ミランが指すあの女はミツキの事。確かに彼女は機械のように冷静沈着、シンは単細胞、クーガは硬派、この3人に対しサイはナイーブ過ぎるサムライドと見なされている。


「サイを操るやり方はサクラ様に任せます。サクラ様ならサイごときを操る事は簡単そのものでしょう」

「ふふふ。分かってらっしゃるね。ミラン」

 ミランの発言はトリィの気を引いた。珍しく生まれたサクラの行動力を萎えさせるどころか伸ばそうとするような彼の発言を彼女は聞いた事がない。不思議だ。今回の彼が何を考えているか。いつも以上に彼の心を読む事が出来なかった。


「それより3人をどのように挑ませるかについてですが……シンへはスネークをぶつけさせる事を最善とします」

「……スネーク!? あの品がない野蛮な方を使うつもりですのミラン?」

ミランの口からは3人を攻め落とす作戦が口に出ようとしている。サクラはミランを信頼しているが、自分が嫌悪するスネークを引っ張り出してくるとは予想外だったのだろう。目を小さくして驚きのリアクションを取る。


「はい。野蛮には野蛮を。それにあの男はシンを倒す事を最優先と考えている故に、この組み合わせが絶好だと思います。最もしょうもないシンにサクラ様自らが手を汚す必要性もありません」

「ほぅ……そう考えれば確かに理想的ですわね」

「ええ。あの男は戦いに関してはなかなかでも、利用されやすい男です。野蛮に早版がお似合い。利用できる者は利用してしまえです」

「な、なるほど……」

ミランの狡猾なやり方だが、あのようなシンを倒すしか考えないサムライドは上手く利用した者勝ち。トリィでさえすんなりと納得してしまった。


「そして残りの二人を私とトリィで倒しましょう。トリィは……そうだな、ミツキと戦ってもらいましょう」

「私が……ですか!?」

「おっと、ミツキ。お前は戦闘用ではないから不安ですか……最もそれ以外に何かありそうに見えますが」

「いえ、それは……」

何を考えているかミランが突きつけるトリィへの作戦命令は、彼女を戸惑わせるものだ。ミランは既に知っていた。ミランはサクラからの寵愛を独占する為に、この戦いで自分を亡き者にするつもりか。

 だが、目の前にはサクラがいる。なんだかんだ自分を気にしてくれるサクラの前で彼女の機嫌を損ねる事は出来ない。だから仕方なく首を縦に振れば、彼はニヤリと笑った。


「そして私はクーガを叩きます。この状況でサクラ様とサイがどうするかは任せます。個人的にはシンやミツキを攻める事を私はお勧めします」

「ふふふ。考えておきますわ~」

「ならご自由に、どちらに加勢しましてもサクラ様なら大丈夫でしょう」

「その通りですわ! では早速出撃の準備をいたしますわよトリィ!!」

「は、はい!!」

「さすがサクラ様。一度決めたら早い決断力と行動力。私もスネークを上手く動かすことにしましょうか……」

「頼みますわよ。シンとミツキ。私はどちらを倒すことにしましょうね……この二人はお似合ですが、私からはるか下の存在ですけどね」


ミランはゆっくり一歩去って部屋を後にした。しかし、外に出た時に彼は顔をほくそ笑みながら今後を考えだした。


(さて、この戦いでトリィがくたばっちまう事が一番いいんだけどな。シンやミツキとはまともにやる前にやられる気がするからな、あの中では一番大したことないはずのクーガを仕留めるとするぜ。あの二人を前に勝てる訳ねぇよ……)


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「へーっくし!!」

サクラの笑みが通じたかは分からないが、滋賀の非常拠点においてシンはくしゃみ一つで目覚めた。

彼はサイとの死闘の中で腕四本のうち三本を破壊されてしまい、土壇場の勝利で意識を失ってしまったが、彼としては自分が眠りから何事にも襲われることなく目を覚ます事が出来た事が嬉しかった。やはり、前回の戦いで二つの無茶を成し遂げることに成功したからか 

そんな彼は自分のソウルシュラウドで修復された右腕1本を繋げて、くしゃみした後の鼻を軽く掻く。


「誰か悪い噂をしてるんかな~まぁ今の俺たち最高潮だから関係なしだがな!」

今のシンはご機嫌だ。自分が無事のままサイを救う事が出来た。サイ。自分と互角の実力を持つ彼が仲間になれば怖い物はない。共に切り込み役として同じ戦場で戦う事が楽しみで仕方がない。軽い足取りでミツキやクーガの元へシンは急いだが、


「そんな!? 僕がまた敵に寝返ってしまうと貴方達は言うの!!」

「なっ!?」

だが、シンの爽やかな朝は穏やかな少年の驚きによって相殺された。そんな声を間近で聞いた彼の頭脳からは、眠気が一瞬にして消えてお気楽ムードが消滅してしまう。


「サイさん、あなたがシンさんを殺そうとした事は貴方が操られたからで、貴方に責任があるとは言い難いものがあります」

「だが、お前が俺たちの味方になり、シンをここまで連れてきてもな、俺たちはお前を信頼できるかどうかはわからないな」

「そ、そんな……」

「お、おいどうした! こんな朝早くから……」

3人のもめ事に、1人状況を理解できないシンがやってきた。だが、向けられる2人の視線は、小動物のように最後の望みとしてシンを見つめるサイへの複雑な感情だ。


「シンさん。今は昼ですよ」

「ミツキ、それはどうでもいい。お前が連れてきたサイのことで今は問題がある」

「サイのこと? なーに、俺がせっかく仲間に引き入れた自慢の友人だぜサイは。それが何の問題があるって言うんだよ」

「そのサイが……本当に仲間になったかどうかだ。馬鹿」

「え……?」

サイの事を言われると自分のように照れるシンだが、クーガからの指摘が彼の心へ釘を突き刺し、表情が静かにさせる。この状況から多分瞬き一つもしない彼の表情は、彼の思考が止まってしまった事を意味するだろう。ミツキは彼へ謎を解くヒントを出すように、事情を察して口を開いた。


「シンさん、サイさんが本当に味方になった証拠はどこにありますか?」

「え? 何それは俺がライティング・サンダーでサイの洗脳を解いてだな……」

「それは、洗脳が解けた芝居をサイさんがしているのではないでしょうか?」

「ま、まさか? あのライティング・サンダーは俺の兵器において最強のだな……そのな」

「敵をだますにはまず味方から、ときには自分の身を犠牲にしてまで相手を欺く事も戦術です」

「……何が言いたいんだよミツキ!」

相手に答えをつかませるようなミツキの遠回しな発言だが、考える事は不得手なシンは怒りを買ってしまう。だが彼の扱いに慣れている彼女は、彼が考えるに考えて逆切れする展開を想定していたのか。一同息を吐いてから顔を上げた。


「やれやれ、相変わらず、いや今はいつも以上にシンさんは難しい事を考えられないようですね」

「だーかーら! 何が言いたいんだ!! さっきから俺へ水を差すようなことばかりいいやがってなぁ……」

「サクラのブロッサム・テンポーションをお前は把握しているのかシン」

「ブロッサム・テンポーション? そりゃあサクラが持つ相手のサムライドを操る能力で……」

「シンさん。あくまで先ほどの私の説明は効果についてだけで、シンさんはまだブロッサム・テンポーションを把握していないのです」

「シン、サクラと同じ国にいたミツキが考えるにはな、サクラの洗脳から逃れるにはサクラを倒すしかない」

「サクラを……倒す!?」

クーガからの発言にシンの表情が固まると、サイは顔を俯かせてどうしようもない状況だ。ますますどうしようもない関係に追いやられてを無言の3人にミツキが話を勧める。


「はい。ブロッサム・テンポーションを発動させる装置が、私にも彼女のどの部分に該当するかはわからないのです」

「……そうだ。さらにミツキの推測による話ではサイはまだ洗脳からの後遺症を逃れていない。下手したら脳波を同調させたサクラがまたサイを操る事もある」

「そんな……ウソだろサイ」

「……」

ミツキの話は、推測によって組み立てられたものとはいえ、過去にサクラと同じ国に所属していたサムライドのせいか説得力は何気に高い。この説明をシンは間違いであることを祈りながら、今度はシンが最後の希望としてサイのもとへ顔を向けるが、彼は全く晴れる気配がない表情で首を横に振った。


「どうしたサイ! お前の事が責められているんだぞ!! 何とか言った方がな……」

「ごめんシン。僕だって納得がいかないけれど……僕はあの時何も覚えていないから、僕自身では肯定も否定も出来ないんだ……」

サイは顔を横に向けて、自分では何もできないことの虚しさと、シンの気持ちに応えられない自分のふがいなさ、そして、厳しい現実を実感して耐えながらシンにとっては残酷な答えを出さないといけなかった。

彼の強く閉じられた両目はこの先のシンの表情を見たくはない。そんな悲壮な意思をシンが感じてしまった。


「サイ! お前は俺の仲間じゃないか!!俺は認めないぞ……お前が誰かに操られる現実をな!!」

「現実を見ろシン! お前がそいつを親友と言うだけの理由で、俺たちの仲間に簡単に加える程現実は甘くない!! まして再度敵になる恐れがあるならなおさらだ!!」

「その時は俺が何とかする! だから俺の顔に免じてな!!」

「ダメだ! お前の感情の一つ二つで危険人物を仲間に加えられてたまるか!!」

「感情一つ二つってな……お前は俺とサイとの関係が分からないからそう言えるんだよ! お前だって感情一つでサイを拒んでいるじゃねぇか!!」

「何を……!!」


「もうやめてよ!!」


 感情にますます勢い付くシンと、感情を抑えて冷静な判断を下すつもりが、熱くなりつつあるクーガの口論が激化していく。そんな険悪な二人を止めようとサイは叫び、顔を思いっきり左右に振って涙を振り切るようにして背中を向けた。


「クーガさんとか言ったね……クーガさんは僕がいなくなったらそれでいいんだよね」

「お、おいサイ! 何をお前は早まっているんだ!!」

「……シン! これは俺にサイが聞いている!!お前は口をはさむな」

サイは腹のうちで覚悟を決めた。自分の居場所がここにあるのかどうかを確かめる為に。シンの気持ちは彼にとって。心の底から嬉しかったが、自分をも知らない危険性でクーガやミツキはともかく、自分が大切に想うシンを傷つけ、壊してしまう事を考えるだけで胸が張り裂ける気持ちだった。


「お前が敵になる危険性があるならば……やむを得ない」

「……!!」

「クーガさんの答えは私も特に不満はありません」

クーガとミツキの答えにより、2対1の結果で今この場にサイが存在する事は否決された。

そして、今のサイは、自分をあえて多数決から外しているだろう。もしここでミツキが自分の味方にまわれば、両者の討論が始まり、まだサイには居場所は残されていたかもしれないが、2人の反対で既にサイに居場所は与えられなかった。


「そうだよね……だから僕はここから去るしかないんだよね。でもねシン……」

サイは現実を認めた。一度救われても、自分には帰る場所どころか、一時とはいえ居場所もない現実を認めた。だがしかし、彼は単に大人しくシンたちから姿を消す安易な逃げ方はしなかった。

「僕はせめてシンたちのために……サクラを倒す!」

「何!?」

「おいサイ! お前、サクラの居場所をわかるのか!!」

「僕はサクラに操られていたころの記憶はない。でも、僕には空を自由自在に飛ぶ力が与えられているんだ! その力でサクラの居場所を見つけ出すつもりだ!!」

サイの青い瞳は決意の表れ、繊細な少年が一度決めたときにはその瞳が揺らぐことはない。その決意を帯びた瞳はシンへ永遠の別れを告げるかのように悲しい瞳をしていた。


「シン。僕は決してサクラになんか屈しないよ。僕の身がどうなろうとサクラを倒して見せるし、負けを認めたら僕は潔く散る……」

「そ、そんな……待てサイ! お前がそんな事をやったらもう二度と……」

「いいんだシン。僕がもう少し早くこの世界でシンに出会っていたら……今頃何も悩まないで一緒に戦う事ができたはずなのにね……」

悲しげな微笑みを見せてから、サイは静かにそして素早く空へ昇る事を選ぶ。サクラを倒す事がせめてサイが出来る彼らへの手助けだと信じて、自分の命を顧みずに飛び立つ事を選んだ。


「サイ……! サイ……!!」

シンが天空へ飛び立ったサイの名前を何度も叫んでも、彼の姿は戻ってこない。サイが彼の事より、いつも他人の事を考えて行動する事が、永遠の別れを生み出してしまったのか。このやり切れない悲しみと虚しさは、怒りとやりきれなさとして一頭身分大きい男へ向けられた。


「クーガ……お前がな、お前がサイの居場所を否定しなければな! こんなことにならなかったんだ!!」

「冷静になれシン!!」

「これが冷静でいろっていうのか!? お前は知らないけどな、俺とサイは……うわっ!」

サイを手放してしまった感情に駆られてシンはクーガへ怒りをぶつけるように叫ぶ。だが、シンのマシンガンが火を噴くと、彼はシンの襟首を持ちあげて、そして……

「うぉ!!」

強烈な一撃をお見舞いさせて、シンの体が宙にねじりながら吹き飛ばされて地面へと叩きつけられた。


「お前がサイを親友だと想う事は既に何度も聞かされている! だがな、やむを得ない事情があるとはいえ、殺人鬼になってしまう男をお前は無罪放免で許すつもりなのか!!」

「サイは殺人未遂罪で済んだから問題はねぇ!!」

「そのような問題じゃない! 殺人未遂とはいえ、あいつが俺やミツキに牙をむいたときはどう責任をとるという!!」

「う……」

「俺は決してサイを嫌ってこのような事を言ったわけではない! 俺たち3人、いや俺達の勢力の事を考えたらサイを切り捨てることが妥当だと考えたからだ!!」

「シンさん、クーガさんにはクーガさんなりの考えがあるようでして、その上……」

「俺は嫌だね!!」

ミツキもまたクーガと同意見を持つようで彼の方を持とうとした時、シンはすくっとその場で立つ。冷酷に切り捨てるようなクーガ非情な選択肢を選ぶ事を許さなかった。

そのような手を選んだら自分は負けだ。危機に陥った友を見捨ててしまう事はリスクを追わない安易な手段だが、その時は自分が負けてしまった時だ。


「あいつは自分から俺たちを殺そうなんて真っ先に考えていないはずだ!」

「シン、それは何度言えばお前は気が……」

「なら、サイをそのようにさせるサクラを俺が倒せばいいだけの話だ!!」

「な、何だと!?」

シンの決意に対し、クーガは眼を見開いてしまう。追い詰められたサイの無謀な行動がシンが持つ無謀な性格に火をつけてしまったのか。今のシンは既に心で無謀と裏表である決意の炎を燃やし始める。


「おいシン! どのように考えてもそれは馬鹿のやることだ!!」

「そのとおりです。馬鹿も休み休みやれと言わざるを得ません」

「馬鹿は誉め言葉として受け取っておくぜ。全力で無茶をやらなきゃ道をこじ開ける事が出来ないからな!!」

「また全力で無茶か。お前、サクラの居場所がどこか解らない癖にその場所へ向かうつもりなのか?」

「あぁ! サイの行った所を追えば絶対突き止める事が出来るはずだ!!」

「おいシン……あのバカ相変わらず無茶をする!」

シンは思い立ったらクーガ、いや誰であろうとも待てと言われて止まる性格ではない。バタフライザーを足として、シンはまっさきにサイの後を追った。サイがこの先どこへ飛んだかも知らずに。


「やれやれクーガさん、ここはやはりクーガさんも追撃を選ぶつもりですか?」

「認めたくないがあのバカを見殺しにする事はどうもな……無鉄砲のニューフェイスに無鉄砲のトップが刺激されたと言うべきか!」

「確かにクーガさんの言うとおりですね。ですが、シンさんは私たちの中で最も敵に名前を知られている存在でして、私たちの権力の顔です。私たちの勢力の象徴を見捨てることは総合として不利でしょう。ですが……」

「ですが……?」

「はい。私たちは北部軍団の本拠地を知りません。ですから私たちまで動けばこの滋賀が手薄になるリスクとともに、骨折り損のくたびれ儲けになる可能性もあります」

「……」

クーガはシンとは違い冷静な思考力においては一枚も二枚も上手だ。心ではシンを思っても、あらゆる状況を把握して行動の是非を再度考慮する。見かけの大柄さとは反対に力任せで動く単細胞ではなかった。

シンを助けようとするクーガの考えも、シビアな情勢が彼に無茶をさせないでいる。ミツキの言うとおり、無理に動けば状況が悪化する可能性が裏表になっているのが現実だ。

 

「……!?」

その時、クーガの目の前で異変が発生した。目の前に何かの書状が納められているはずの筒がぽとりと落ちてきた。無から突如現れた筒に彼は我が目を疑いながら心のうちの戸惑いを必死に抑えた。

「どうしましたか、クーガさん?」

「俺の目の前で筒が落ちてきた。何もない場所から突然現れた……」

「何……?」

クーガの報告を受けて、ミツキは少し顔色を変える。もしかしたら……彼女のうっすらとした考えが浮かび、警戒心を保ちながら一歩一歩筒の元へ近づいて、その筒を手に取りキャップをスポッと外して書類を取りだす。


「これは俺の知らない大陸文字でいいのか……」

「はい。エチゼン国の大陸文字のようですね……なるほど」

「なるほど? 俺にはさっぱりだが」

「クーガさん、これは勝負に出た方がいいかもしれませんね」

筒の中の書類に目を通せば、ミツキは先程の態度から一転して攻めの姿勢を取るべきかと告げた。彼女のいきなりの心変わりにクーガは首をかしげるが、


「私のような冷静沈着なサムライドが、手のひらを返したような事を言っても困りますね。ですから説明しましょう」

「自分で言うのはどうかと思うぞ……。確かにお前は俺なんかより、まるで機械のように冷静沈着だがな……」

「さて、この書類には北部軍団の拠点と思われるブロッサムの所在地が記載されています。この書類はサクラと同国のサムライドが大陸文字を記載したと思われますが、敢えて私達を騙す為に偽の書類を送りこんだ可能性もあります」

「確率は半々か。だが、お前は何故乗る方を選ぶ」

ミツキに対してどうでもいいことに珍しく突っ込みをかましたクーガだが、当のミツキは敢えてスルーして説明を開始する。だがクーガは些細なことでこだわる性格ではない。スルーされたらスルーされたで彼女の話を勧める事を選んだ。


「私としては、このまま動かなければ、シンさんやサイさんが助からないと見ています。しかし動く事を選べば、2人と合流して北部軍団の総本部を叩く事が出来る可能性もあるかと考えています」

「しかしミツキ、もし裏目に出た場合はどうなる」

「その時はその時です。ですがどちらにしろ動かない場合は私達にとってマイナスは避けられません。ならば、せめてプラスの可能性がある方法を選ぶ事が利口でしょう」

「なるほど……思い切り賭けに出る訳か」

「はい。世の中には賭けに出ないといけないと勝てない事もありますから」

「確かにな。だが、こう考えれば俺達が殴りこむ理由は決まったものだな」

「そのとおりですね。プラスを掴み取るなら、この戦いを何としても勝たなければなりま せん。少々無茶をしてみる事も手でしょう」

「やれやれ……無鉄砲が3人」

「クーガさんこそ出撃する気は十分とみえますが」

「俺は無鉄砲よりも、あの馬鹿を無視できない性質だがな」

多分クーガも無鉄砲であるが、本人は自分がシンと近い性格であることを認めたくないのだろう。しかし、全員が殴り込みをかける結論から言えば今の4人は全員不確かな勝機にチャンスを賭けた全員無鉄砲である。


「やれやれ全員無鉄砲で負けず嫌いですね。案外私も深層心理では無鉄砲な負けず嫌いかもしれないですね」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「僕のカンネーガ・ザーチャーの反応では福井の非常拠点がブロッサムの際付近に位置する非常拠点……」

その頃サイは急いでいた。己の翼をフルに生かして飛んだ彼の方角は福井県。北北東の方角へ高く飛んだ。上空を監視していると思われるアロアードに気づかれないように、彼らの限界高度よりも高く飛んだ。彼の頭部に備わる金色のアクセサリーが量産型兵器やサムライドのエネルギーに反応して、本拠地を探る事が出来るのだ。


「問題はここからだ。福井の非常拠点は決して僕が戦いで巻き込むべき場所じゃない……だから一旦作戦を練らないとね……」

サイは非常拠点を囲む雑木林を捕らえた。しかし、ここで突入を図ろうとすればアロアードに見つかってしまい、この非常拠点が戦火に巻き込まれるだろう。しばらくサイが考えた結果が、砕拳フィストだ。

純白のグローブを両手にしたサイが取る行動は、身体を激しく横へ回転させて、ドリルのように、しかし肉眼で目視できないほどの速さで地面へ己の身体を叩きつけさせるかのように急降下を開始した。砕拳フィストで放たれる彼の必殺技の一つ、ストレート・コンドルである。

そして彼の勢いはアロアードの視界にも捉える事が出来なかったのだろう。地面へサイが姿を消した後も全く攻撃や追撃の反応はなかった。彼の目論みは成功したようである。


「よし、後はここから非常拠点へどうやって潜入するかだ。このまま直線に飛べばブロッサムに到着する事はできる……ん?」


サイが作戦を練ろうとすれば、他人からの声が聞こえた。しかも自分の方へ大人達の声がどよめく。

「おいやばいぞ! 女子供を隠せ!!」

「地下へ避難しろ! それがいい」

「な、何が起こっているんだ? まさか僕の存在が気付かれたのか……」

サイはその場から動けなかった。今非常拠点で起こっている事態から、非常拠点の人々がサムライドに恐れている事は分かるが、それにしても大人達が女性や子供を隠そうとしている所に尋常ではない何かを彼は感じた。


「早くしないと北部のサムライドが俺達に当たってくらぁ」

「女子供があいつ等の獲物だからな……まずいぞ」

「女子供が標的という事は……慰安婦のように北部軍団はこの世界の人々を、要求のはけ口にしか使っていないのか……」

これら人々の会話を聞くにつれ、サイは心の底から怒りを感じた。力なき弱者を踏みにじる彼らの悪行をサイは目にしたくはなく、またそのような下衆な心を持つ彼らを許せなかった。

また、全くその気のない自分が彼らからはそのような輩の一人としてみなされている事に、やりきれなさまで込みあがった。

「お兄ちゃんがそのサムライドなの~?」

「いや、僕は……ってええ!?」

何処からかの声に顔を振り向ければ、黒のロングヘアー、まだ10にも満たない少女が、いつの間にかサイの真後ろにちょこんとしゃがんでいる。非常拠点の人々に自分が見られた事にサイが驚きを隠せずに、思わず口を自分の手でふさいでしまった。


「ちょっと君! どうしてこんな所にいるんだ!!」

「君じゃないもん。私、伊智子って名前があるもん!!」

「そのような問題じゃないよ。君がそこに何でいるのかだよ!」

「えー、パパやママが“サムライドに近付いちゃダメ“、“隠れないさい“とかいうもん。折角だからここでサムライドがどんなのか見てみよっかなーってね」

「それで……ここまで?」

「うん!」

サイが半分呆れた顔をしていると、林の先でどよめきの声が上がる。もしかしたら、その伊智子と呼ばれた少女の両親や友人が彼女を心配しているのか。彼がもう少し状況を知ろうとした時、彼のサーチャーが2機のサムライドのエネルギー反応を捕らえた。


「ど、どうしたのお兄ちゃん?」

「……まずい事になった!!」

「まずい事?」

「そうだよ! サムライドが、サムライドがこの非常拠点に迫ってくる!!」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


サイが言うとおり、福井の非常拠点においては2機のサムライドが非常拠点の責任者と思える人物へ追求を開始していた。水色の装甲に身を包んだ背丈の高い男が高圧的に責任者へ踏みかかる。


「だからこの福井の非常拠点に正体不明のサムライドが接近している事をアロアードが捉えたのだ。自分の意見を信じる事が出来ないのか」

「さぁ、私は残念ながら知りませんからねぇ……」

「貴様カゲターカー様を馬鹿にする気か! カゲターカー様はアロアードに対象物補足能力を強化改造させているのだぞ!!」

「さぁ……」

非常拠点の責任者である中老の男性は、まるで何かを知ったかのように飄々とした対応を取る。正体不明のサムライドの接近は自分にとっては決して脅威に当たる存在ではなかったからだ。

(まさか、あのサムライドが北部軍団のサムライドでないなら……私達の方にも何か逆転の方法が遺されているはずだ)

カゲターカーの発言が責任者をしたたかにさせる一因だ。上手く相手の追及を逃れる事が出来たならば、非常拠点をブロッサム、北部軍団の支配から独立して反撃する事が可能だと思ったからだ。

「そうか。なら自分がこの付近の調査をすればいいはずだな」

「な、何……」

「どうせお前達が大丈夫というならこの先を自分が捜索しても大丈夫だろうな」

「なるほど、確かにカゲターカー様の言うとおりですな!」

「ふふ……自分は子供が一人潜入した事を知っているからな。そいつを人質にしてそのサムライドをおびき出しちまえばいいんだよな……へっへっへ」

部下の相槌に対し軽く笑うカゲターカー。人々が不安を抑えている中で責任者は何とか平然とした表情を保つ事で耐える。


「大変なことになった……」

「お兄ちゃん? 狙われているの?」

「残念だけどあのサムライド達に僕はお尋ね者にされているみたいだからね。伊智子ちゃん、ここから絶対に動かないでね」

「ええ!?」

「僕一人が犠牲になって大勢を救えるなら……それが一番じゃないか!」

サイは駆けた。その先は雑木林の抜け目。そこには水色のサムライドが移る。カゲターカーは彼の存在を確信していたかのようにニヤリと笑う。


「ふふふ。サイ・ナ・ガマーサ。お前はこういう心の弱みに付けた弱点があるから攻めやすいわ」

「……」

カゲターカーの知ったかのような笑いにサイは口を固く閉じざるを得ない。自分はカゲターカーの罠にはめられてしまった。だが、こうでもしなければサイは大勢の人々を助ける事が出来なかった。だから決して悔いはない。たとえ今は辛くとも、彼に連行される中でサイはこの先をどのように時間を稼ぐかを考えることを選んだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「どうした! 僕なら死ぬ覚悟はできている!! ひと思いに片づけてしまう事はもちろん、じわじわいたぶってもいいんだぞ!!」

束縛されたサイは堂々と振舞いながら叫んだ。もともと死ぬ覚悟はできていた。この形で最期を迎えようとしている事は若干不本意だが、彼には一般の人々を巻き添えにするようなまねはできない上、彼らを守るなら犠牲をもやむを得ない考えを持っている。


「野郎、開き直ったかは知らないが……それよりカゲターカー様、このサムライドをやらないのですか?」

「あぁ……自分としてはやらないつもりだ」

「な、なら俺が!!」

「馬鹿者! サクラ様の目的を忘れたか!!」

しかし部下の逸る気持ちを一喝して抑え、カゲターカーはなぜか彼に手を駆ける事も、痛めつける事もしなかった。


「サクラ様はサイを破壊する事ではない、サイをサクラ様の部下としてサクラ様に洗脳させることだ。ここでお望み通りにサイを倒すことは容易いが、倒すより、彼を引き渡した方が出世の望みがある!」

「なるほど……もしカゲターカー様が出世するならば、ワンランク上。豪将は固いですな」

「豪将か。自分がミラン殿やスネーク殿と同じ地位へ出世をするとは。これも自分が地道にサクラ様からの主命をこなしているからだな」


カゲターカーのひとりごとからすれば、彼はたたき上げで魂将の地位まで上り詰めた叩き上げのサムライドだ。恐らく本人は自覚しているはずだが、彼はとある点を除けば地味で平凡なサムライドだ。

ある点とは出世欲の高さ。しかし、サクラの寵愛を受けるミランのような目立つ形で表へ出る事ではない。実力を主命で発揮しつつ、本人はあえて慎ましく。地道に堅実に、いつの間にか階段をのぼりつめようとしていたタイプの幹部である。誰からも目をつけられることなく彼はいつの間にか北部軍団において、上から3番目のランクへ名を連ねていたのだ。

「しかし、自分がサイを屈服させる事が出来ればサクラ様からNO2のお墨付きがつくかもしれないな……」

その時、カゲターカーの脳裏にある事が思い浮かんだ。それはサイの心を抉るような作戦であり、その作戦を遂行する能力が自分に備わっているからだ。


「サイ!」

「何だ! 僕を殺すなら早く殺せ!!」

「いた、自分はお前を倒すような真似はしない。お前がサクラ様の配下になる事を選ぶなら自分は手荒な真似をしないつもりだ」

「僕がサクラの手下になれだって? 無理だよ、僕にはシンとの約束を裏切るわけにはいかないよ!」

「ほぉ。お前の親友との約束を守ろうとする心掛けはあっぱれだが、出世のことしか頭にない自分には全く関係ない話だ」

「そうか……自分のセックスアンドバイオレンスを満たすために、ランクへの欲望は見事なものだね!」

「セックスアンドバイオレンス……この非常拠点の誰かがほざいたのか。まぁいい」

サイは窮地に陥っているにもかかわらず、線の細い外見に反して強気な態度で、カゲターカーら北部軍団のサムライドの低いモラルを指摘するが、彼は全然こらえていないようだ。


「自分の性交はなぁ……只の性欲処理じゃねぇ。生きるためだ」

「生きるためだって!?」

「カゲターカー様! サクラ様が接近しています!!」

「もう到着されたか。ここから自分がサイを参らせようと思ったが、この状況でサクラ様の支配欲を満たすことこそ出世への最短距離」

カゲターカーは早速自分よりサクラを立てる事を選んだ。今彼女は箒型のライドマシーン・ショーツシューツにまたがりながら現場へ到着した。


「サクラ様!お待ちにしていました」

「御苦労。サイをとらえた事は本当ですの?」

「はい。御覧のとおりです」

カゲターカーの握る柄の先には、柄から先のワイヤーで捕縛されたサイがサクラを睨みつける。しかし、サクラはそんな彼を手玉に取るような余裕の視線を見せて、強気なサイを挑発する。

「御苦労さま。サイには私が対応しますわ。私のお手並みを見るだけでいいですわ」

「はっ……」

サクラの機嫌を損ねないようにカゲターカーは下がった。そして彼女は一歩一歩サイへゆっくり近づくと、彼へ穏やかに、しかしどこか見下すような眼を向ける。


「サイ? 貴方も本当に馬鹿な方ですわね。この世界でパンがなかったらケーキを食べればいい、貧乏人は麦とやらを食べろとの意味を知るかしら?」

「どうりで貴方の部下は欲望に忠実な獣ばかりだということだ!」

「まぁ……」

かつて、世界を支配した暴君の暴言と、その暴言を遂行する事がサクラには出来る性格だ。そんな彼女に対し皮肉で突っぱねるように返すサイにもなぜか余裕の態度でいられるようである。


「サイ、そのような偽善者ぶった言葉はいけませんわよ?焦っては貴方の顔が台無しですわよ」

「顔? それとこれとがどう関係が……」

「私の想い人はケイ様。ですがサイ、貴方は私から見ればどこか放っておけない弟。そのひたむきさで健気だったあなたの顔を見ると私の心はどこか愛おしくなってしまいますのよ?」

「あ、貴方は……正気かい!?」

サイは一瞬ぞっとした。サクラ・イチジョウ。確かにこの女には高貴な雰囲気が整った顔立ちを際立てさせる美人だ。しかし、その美しさは外面で取り繕っているだけにすぎない。

彼女の内面は無力な存在を踏みにじる醜悪な本性を秘めた女だ。このような女の手下にされていた自分が恨めしく、また本心かどうかはわからなくとも、惚れていると言われただけでも、彼の身体が震えてしまう。


「貴方のその一途さは私に注ぎなさい。弟は姉のために身を粉にして尽くすべきよ?」

「……」

「さぁサイ、立ちなさい。私が貴方を誘いこんであげるわ」

「……」

サイは立ち上がる。彼はサクラの誘いに乗り、シンを見捨てる事を選ぶのか。また彼女らの悪政に悩まされていた人々からは彼の行動はどよめきに包まれる。

しかし今の彼は両腕を縛られているのだ。まともに立つ事が出来ずそのままうつぶせに倒れてしまうだろう。

だがこの場からの逃亡を図る事を除けば、彼は飛ぶ事を許されたはずなのに、飛ぼうとしない。これがサイの真意だ。次の瞬間、サイは自分の意思を示して、サクラのプライドを砕いた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「な、なんですの!?」

サイは舐めた。しかしサクラの顔や身体ではない。彼女の脚を包む純白のブーツを己の舌で嘗める事を選んだのだ。一瞬サイがサクラに屈したかのように見える光景だが、


「貴方に屈して操られるくらいなら、傲慢な貴方を選んでしまったこのブーツに同情する方がましさ!」

「な、ななな……」

「僕は土を舐めて屈辱に耐える事は出来るけど、貴方の身体を舐める屈辱だけは味わいたくはないね!!」

この服従かに見えた行動はサイなりの宣戦布告だ。自分を差し置いてブーツを嘗める事を選ぶ彼に対してサクラの怒りは頂点に達したのだろう。なでるような声と表情から一転して、手に持った金華棒の先端が彼の頬を弾き飛ばすようにうちつけた。


「馬鹿にする事もいい加減にして!?」

「馬鹿にするぐらいしか貴方の存在価値はないじゃないか!!」

「そう……その強気な世間知らずの態度をズタズタに切り裂いて、貴方を奴隷として心を砕かせるわよ!!」


サクラが指を弾くように鳴らせば、ソルディアの部隊が前進していく。そのソルディアは車輪が止まり、全身がしわだらけで、どこか干からびたかのような男性が首を縛り付けられて全身を続ける。そんな人質はうめき声をあげながら地面へ表皮をすり減らしていく。

「あ、あれは……!!」

「俺たちやその他の非常拠点から拉致された奴らか!!」

「そうですわ~労働力としてそこそこ仕えていましたけど、サムライドと違い長期的な運用が出来ないもので……」

サクラはあえて人間とサムライドを同一の存在としてみなしている。最もサムライドと違い人間は食事や睡眠などを必要としなければ十分な活動が出来ない。彼女がそれ知っているかいないかは分からないが、あえて苛酷な仕打ちを受けてゴミのように扱っているのが現状だ。

「サイ? 今のうちに降伏をして私の手下になると言いますなら貴方を奴隷扱いにはしませんわよ」

「嫌だ! 貴方が何をするつもりかは分からないけど、シンを、僕の大切な友達を僕は裏切れない!!」

「そう……」


それでも屈指なサイを見てサクラの顔が冷めた。彼女は脚をサイからソルディアのもとに運び、眼隠しで視界を遮られた老人のもとへ近付き、彼女が履く厚底が、たんぱく質を真紅の液体とともに、風船が破裂したかのように弾き飛ばした。


「や、やりやがった……」

「マジだ! あいつ、本当にやりやがったぞ!!」

「う……」

女性や子供は地下へ避難をしていたためにこの惨劇を目にはしていない事がせめての救いだろう。

だが、大の大人でも脳天をけりつぶされて殺害される瞬間はあまりにもショックが強く、何人かが気を失って倒れてしまい、それ以外でも目をそむけようとする者たちが見える。

「カゲターカー。召し上がりなさい」

「ははっ」

そして、サクラの命でカゲターカーが遺体と化した肉塊へ近付き、吹き飛んだたんぱく質を右手に掴んでは、なんと彼の口の中に放り込んで噛み砕くように口を動かしてから飲み込んでしまった。

「サ、サムライドが人を食べた!?」

「どうだ。自分は捕食機能が備わった特殊なサムライドでな、敵国を侵攻した後の領土支配に自分の捕食機能が随分と役に立ったものよ。あー、たんぱく質がうまい」

「……!!」


カゲターカーの行いはサイにとってはモラルを踏みにじるかのように外道な方法だ。彼がカゲターカーを強く睨みつけるが、

「そんなに自分を睨むな。自分はたんぱく質を定期的に採集しないと調子が狂うからな」

「だけど! そればかりは……余りにも常軌を脱している!!」

「それならば、何故あの時サクラ様に服従を選ばなかった。お前が服従をしていれば少なくとも一人が余計な血を流す必要はなかったぞ」

「う……」

サイの口が止まった。反論しようとすればカゲターカーの言葉がよぎる。確かに無理にシンを裏切らない事を考えて行動していなければ、犠牲者は発生しなかった。自分はシンを守るべきか、何も罪のない人々を守るべきか分からない。彼の脳内では何とも言えない矛盾と思想が葛藤し合っているはずだ。


「その通りですわよ。早くしなければこのゴミが一個ずつ、貴方達にとっての大切なゴミが本当に生ゴミになってしまいましてよ?」

「ひ、卑怯だサクラ……そんな事をしてサムライドとして恥ずかしくはないのか!!」

「ケイ様はこの世界を蹂躙して、素晴らしい故郷を復活させる事を目的としていますの。私はケイ様のためになるならどのような手だって遣いましてよ。さぁ貴方のつまらないプライドが大勢の人々を、そして最終的には貴方の心を殺すことになりますわよ」

「う……ど、どうすれば。どうすればいいんだ!!」

今、大勢の人々を守ろうとするにはサイはシンとの約束を破らなければならないのだ。もちろんシンとの約束は守ることを決めれば、人質が次々と殺害されてしまう事がオチだ。サイの葛藤は徐々に頂点に達していく。


(シン、ごめん……もう僕はシンの敵にならないといけないなら……シン、その時は僕をひと思いにやってくれ!!)

悲壮な決意をサイは心中で叫んだ。自分にとっては背に腹を変えられないものを守るために、屈辱と卑劣にまみれた決意を表明しなければならない。

「わかった。わかったよ! 僕は……」

「そんなのダメだよ!!」

「何っ!?」

サイが折れようとした瞬間、突然場に割り込むような声が響いた。それは先ほどであった伊智子の姿。彼女はサイへ待ったをかけるかのように息を切らして駆けつけてきた。

「伊智子! お前どこへ行っていたんだ!!」

「パパ! 大変だよそのサムライドはサクラって人を倒すためにここまでやってきたんだよ!!」

「サクラを倒すため!?」

「ということは、あのサイは北部軍団に全然関係ないサムライドだったのか!!」

「お、おい……!?」

伊智子の叫びがサイの悩みを、葛藤から脱出する為の糸口を見つけ、そして彼女の父をはじめとする非常拠点の面々へ動くべき時は今だと自覚させていく。徐々に非常拠点の市民たちの心に火がつき、その火は急速に飛び火していく。この機会を察知した責任者は声をあげた。


「あのサムライドは我々の味方だ! ここで見殺しにしたら安らぎはないぞ!!」

「な、何ですの!? 貴方達ゴミが!!」

「……!!」

「そうだ! サイとかいうサムライド! 俺たちが付いているぞ!!」

「あんたはここで死んだらダメだ! ゴミとか言いやがったそこの厚化粧にぎゃふんといわせてやれ!!」

「み、みんな!!」

一斉に立ち上がる人々。予想外の展開にサイは目を丸くした。苦渋に満ちた自分の決断を留まらせて、今、サイをより良い方向へ非常拠点の人々は背中を押してくれている。

「がんばって! お兄ちゃん!!」

「俺たちは北部軍団とかのサムライドの集団に非常拠点を支配されたんだ!」

「それから俺たちに味方してくれるサムライドがいないから、俺たちはそのサムライドの傲慢さをなんとか押しのける事が精いっぱいだった!!」

「だけどサイとかいう貴方が俺たちの味方になるなら、俺たちは大したことないかもしれないけど、あんたの味方になるぞ!」

「……伊智子ちゃん。みんな……」

奇跡は起きた。サイは非常拠点の人々を味方にする事が出来た。それはサイが決して卑劣な存在に屈する事を選ばず、また彼らが人間である事と事への誇りを捨てなかったからだ。


「ど、どういうことですの! あのような分からず屋を選ぶなんて……」

「さすがサイだ。あんたに縛られるようなサムライドじゃねぇ!!」

「だ、誰ですの!? 私を馬鹿にするのは!!」

「俺だ!!」

その時、どこからともなく声が響き、男たちのどこに埋もれていたかは分からないが、真上から何かが飛ぶとともに一人がすたっと着地を決めた。その声は、姿は希望をもらって立ちあがっていくサイにとって、最も頼れ、最も驚かせるような人物だ。・


「あの時も今も、お前はみんなを引き付ける俺にはない力を持っている。さすがサイだ!!」

「シン……!?」

「だいぶ遅くなったなサ……」

純白のベストで紺の鎖帷子を覆い、背中まで伸びる赤髪は頭で結ばれ一本のポニーが背中に垂れる。その男へカゲターカーの腕から放たれた赤い光が彼を貫通……いや彼がすり抜けてしまい、8つのレーザーが部下の胸を抜いた。

「消えただと!?」

「出た! 十八番ミラージュ・シフト!!」

彼を知らないカゲターカーは戸惑い、友として彼を知るサイは思わず声を上げて歓喜した。そして、サクラの真後ろに位置していたソルディアの頭が一瞬にして吹き飛ばされ、低空を高速で飛ぶライドマシーンを足として疾走する彼が民衆に囲まれた位置で停止した。


「たとえ人からどう言われようともなぁ、俺はこの新しい世界を守ることが宿命だ! ましてサイを守ろうとする人々がいるなら、俺はなおさらこの世界を、この拠点を守らないといけねぇ!!」

「あ、あなたは……」

「俺は紅蓮の風雲児シンことシンキ・ヨースト! 天駆ける拳闘士サイ・ナ・ガマーサの戦友だ!!」

「死ねぇぇぇぇっ!!」


民衆に自分の素性を明かしてシンは拘束されたサイを解き放つ。だが、その背後にカゲターカーが青龍刀らしき刀で後ろから切りかかろうと迫る。

「ライティング・サンダー・リバース!!」

しかし、素早くシンは背中からの新兵器を引き抜いた。ライティング・サンダーは内蔵された強力なエネルギーで落雷を起こす力だけではない、落雷を奮って跳ね返すことも可能。一度エネルギーを放出され、それに誘導されるように雷が落とされ、親指でモードを変更する事で、先端から避雷針の役割は失われ、直接落下してきたエネルギーはひと振りを前に弾き飛ばされ、カゲターカーへ激しく強力なエネルギーがぶつかった。

「うおお……」

その雷を胸に直撃すると、カゲターカーは全身を発光させては煙を立てて前のめりへ倒れ込んだ。人質を狙おうとする存在がなくなった今、人質を担ぎ出して、地下へ彼らを開始する非常拠点の面々がその場に見られた。


「すげぇなサイ……ここの非常拠点の人達」

「僕の力じゃないよ。あの人たちは元から強い」

「謙遜しやがって……それよりサイ、傷だらけじゃないか!」

「大丈夫だよ。僕一人が犠牲になって大勢の人々を救う事が出来たなら、これくらい軽い事だよ。僕はこの人達を苦しめる北部軍団が、平気で人を殺したサクラが許せなかったんだ……!!」

「馬鹿野郎、無茶……いや、サイ。お前やっぱりすげえよ。自分を顧みないで何かをやろうとするやつはやっぱり強い」

「ありがとうシン……」


無事生き延びたサイを見ると、友人としてシンの表情は自然と緩む。だが、彼にはまだやらねばならない事があった。カゲターカーがあくまでおまけ。次の標的はすぐに決まった。サクラに対してシンは今まで見せた事がないほどの怒りが支配している。何故か、平気で人を物のように殺して、サイの心を、身体を、痛めつけた張本人だからだ。

「な、なんですの……」

「よくもサイを操って俺と戦わせたな……それに何の関係もない人を血祭りに上げるなんて……許さん!」

「許さんですって……私に何をするつもりなのかしら、はは、はは……」

「サクラ……俺はお前のブロッサム・テンポーションの弱点を知っているぜ……」

「なんですって……どこでそのような情報を」

「お前の両目こそサイを洗脳させる信号を放つ情報をな、俺は非常拠点に向かう途中に掴んだよ!」

「なんですって……!? あなたどこでそのような情報を手に入れ……」

思わずポロリと本心を漏らしてしまったサクラが我に帰り口を両手で覆うが、既に時は遅い。自分が掴んだ情報が間違いではなかった事がシンにとってこの展開は思いがけない幸運だ。


「さぁね……只一つ言うこととすれば、あんたのような化粧がきつい女に付き合う事がいやになった奴が教えたんじゃねーのかな!?」

「け、化粧がきついですって!? それじゃあ私の事を貴方もバカになさって!?」

「うるせぇ! 外ばっかりで中身がない女を馬鹿にして何が悪い!!」


その時、シンがトライマグナムの引き金を引く速度は何よりも早かった。トライマグナムを二発放った結果、先ほどまでサイの心を引き裂こうとしたサクラが逆に心を引き裂かれてしまう事態に陥ったのだ。


「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「ふふふふふ……はははははははは!!」

トライマグナムを手にしながらシンが笑いだした。その笑いにはかつてサクラがサイを嘲笑したかのように、シンは今、彼女の立場に立った。


「どうだ。自慢の顔が台無しの上に目をやられちゃあな、サイをお前の手駒に操ることはできないはずだ!」

「そ、そんなこと……それより、私は今何が何だか……」

「その盲がお前にはお似合いだな……いーや、俺の好みは無駄に化粧をしなくてもいい女だからあんまり関係ねぇけどな」

「ひぃっ!」

倒れ込んだサクラの元にシンが近付く。“まだ“だ。まだ彼の怒りは収まりを見せない。先ほどまで笑いをかましていたシンの表情が鳴りを潜めていくと、次に彼は憎悪の炎を激しく、熱く燃やしてはサクラへ威圧をかける。光が見えないはずの今の彼女を一歩一歩退かせる理由は、彼の眼光から放たれる威圧は視界を超えているからだろう。


「さーて、俺はやったら何倍にしてやり返す主義でね。まずサイの痛みは俺の痛みだから目を二発遣らせてもらった」

「な、なら……それでいいんじゃありませんの!!」

「だまれ! 俺に口答えしたらその場でぶっ殺してやらぁ!!」

例え怯えていても、強気な態度とプライドの高さをこの女は失わない。だがシンは容赦なく彼女のあらゆる箇所へトライマグナムを構える。


「それだけじゃねぇ。お前は散々こき使って何の関係のない人間を殺した! それにお前の戦わないで勝つやり方のせいでサイは昔も今も望まない戦いを強いられてきたんだ……今の俺にはサイの苦しみが、何の関係もない人々の怒りが、そして俺の怒りがサクラ、お前を殺せと言っているんだ!!」

「わ、私を殺せですって……」

「あぁ……だがなここでひと思いに殺しても俺の怒りは収まらねぇ。とことん苦痛を味あわせてお前がサイやここにいる皆にした事を百倍返しにしてやる! お前のあらゆる所を壊してお前を壊しきってから殺してやる!!」

「や、やめなさい! 私を殺すと貴方はろくな最期を……きゃぁぁぁぁぁっ!!」


銃声が何発も響いた。指、手、腕、肩、脚、腿、腰、胸。サクラの全てを撃ち砕こうと、五体不満足にさせようと燃え尽きる事を知らないシンの怒りでマグナムが吼える。


「お前のような屑に言われようが、本当に地獄に落ちようかそんな事知るか!!二万年前からサイの心を苦しめて、この世界で関係のない人達を虐げ、サイを操って俺と戦わせて、皆を守ろうとするサイを拷問して、目の前で人をゴミのように踏みつぶしたお前を俺は許せねぇ!!」

「そ、そん……なぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


「許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん許せん……っ!!」


続く

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